ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 短編集Part.2です。時系列に沿って更新。


※告知事項※

・2/3 【指輪贈呈の儀】追加


★秘密のサブストーリー★

【小豚と胡桃】

 

 時系列は胡桃たちがフィッグ家に居候を始めて暫く経った頃。

 

「ふふふふふふーんふーんふーんふふふーん♫……ん?」

 

 恵飛須沢胡桃はプリベット通りから少し離れた公園沿いの道を歩いていた。夕日が歩く彼女を照らす。そんな時、そこで彼女が見たのは。

 

「ふん!!」

「ぎゃあっ!!」

「「「「へっへっへ」」」」

 

 5人の少年が一人の子供によってたかって虐めている光景であった。一人は子供を後ろから羽交い締めにし、一人はその子供を殴っている。残りの3人は笑っている。

 

「…………」

 

 胡桃は顔をしかめた。

 

「へっへっへ」

「へへへ」

「へっへへ」

 

 意地悪く、特に何もせず笑う笑い袋三人は《デニス》《マルコム》《ゴードン》。わざわざフルネームを記す必要もあるまい。

 

「へへ、ダドリーのパンチはどうだ? へへへ」

 

 羽交い締めにしながら笑うネズミめいた取り巻きは《ピアーズ》。こちらも別にフルネームを記す必要は無いだろう。

 

「これに懲りたら偉そうなことするんじゃないぞ、へへへ!」

 

 勝ち誇った顔で仁王立ちしているのは《ダドリー・ダーズリー》。豚めいて肥えた如何にも馬鹿そうな餓鬼大将。意地悪く嫌らしくニタニタと笑うその姿はまさに人間の屑。

 

「ご、ごめんなさいぃっ!!」

 

 解放された子供は泣きながら走り去った。胡桃とすれ違う。

 

「……ん?」

 

 ダドリー軍団が胡桃の姿を捉えた。胡桃を睨み、ニヤニヤと笑う。

 

「おい、お前さっきの見てたのか?」

「……はぁ……別に。終わりのとこをちょろっとしか見てねーよ」

 

「ダドリー、あいつ今溜息吐きやがったぜ」

「許せねえな」

「処す? 処す?」

「痛い目見せてやろうぜ」

「……へっへへへ」

 

 ダドリー軍団が胡桃を取り囲んだ。

 

「知ってるぞ、お前最近引っ越してきた奴らしいな。ここでは誰が一番偉いのか、たっぷり教えてやるよ」

「…………」

「へへへ!!」

 

 ピアーズが胡桃を羽交い締めにしようと近付いた。胡桃は、ダドリーを睨んだ。

 

「……調子に乗るなよ」

 

 そう呟くと、胡桃は背後のピアーズの両手首を掴んだ。手から離れたショベルが音を立てて倒れる。

 

「!!? ぎっ、ぎゃあああぁぁぁ!!?!?」

 

 胡桃は両手に力を込め、強く捻った。すると、ピアーズの掌はボキッと音を立て、まるで粘土が捻られるかのように、いとも容易く上下が逆転した。

 

「ひっひぃぃぃぃいっ!!?」

「な、何だこいつぅぅ!!?」

「モッ、モンスターだぁぁぁ!!!」

 

 笑い袋三人衆は、その異様な光景を見、すぐさまその場から走り去った。ダドリーは、蛇に睨まれた蛙の如く動かない。動けない。

 

「いっ痛い痛い痛い痛い痛い痛いよぉぉぉぉっ!!!」

「……ふん」

 

 泣き叫ぶピアーズ。胡桃はピアーズの両手を解放した。程なく逃げ去るピアーズ。

 残されたのは、ダドリーただ一人。

 

「――あ――あ――」

「見捨てられたな、お前」

 

 胡桃はショベルを拾った。

 

「ここで一番偉いとか言われてたけど、随分簡単に崩れる玉座に座ってたんだな。砂上の楼閣ってやつ? いや、楼閣じゃねーか」

 

 胡桃はショベルを肩に乗せた。

 

「まあ、何だ。これからはもうあんなことするなよな。事情は知らねーし介入する気もないけど、ああいうのは見てて気分悪くなるし――」

「うああああああああ!!!」

 

 諭すように語りかける胡桃。だが、まるで理解の追いつかない出来事に混乱し、半狂乱となった低脳の子豚は聞く耳を持たず、逆に胡桃に殴りかかった。

 顔面を狙った右フック――女子の顔を男子が殴ろうとするという言語道断の非道行為である。だがしかし。

 

「…………」

 

 胡桃は、一切動じず、それを左手で受け止めた。夕日の逆光が胡桃を照らす。受け止めた手はまるでゾンビのように冷たく、養豚場の豚を見るような目でダドリーを見る。彼の目には、それがまるで化物のように、人ならざる存在のように映った。

 

「…………」

 

 胡桃は静かに、ショベルを肩から浮かせた。その目には、人の温もりなどありはしない。嘗て彼女がしていた目。相手を人と思わず、ただ淡々と、潰す、殺す為の目――。

 

「――ひっ――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!! ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 ダドリーはその冷酷な目を見て失禁、涙と鼻水を垂らしながら、その場から走り去った。

 

「…………」

 

 胡桃は浮かせたショベルを、思い直したようにまた肩に乗せた。

 

「……帰るか」

 

 血のように赤い夕日が胡桃を照らす。ダドリー達が見せたのは、まるで化物を見るかのような目。その目は胡桃の脳裏に深く焼きついて、消え失せない。

 

 

 

【翼と虎】

 

 時系列は智乃、麻耶、恵が現れる少し前。

 

「んっ……」

 

 ロングボトム家の庭――勝木翼はその日、いつものように朝のストレッチをしていた。

 漫画家は体が資本。まさにその格言を体現していると言えよう。

 

 しかし、いつもと違う点があった。一つは、庭でストレッチしていること。基本的にはロングボトム家から少し離れた場所で運動しているのだが、今日は少し気分を変えてみるため、庭で行っていた。

 

 そこで。

 

「……んー?」

 

 いつもと違う点、二つ目――翼が見たのは、謎の人物がロングボトム家に侵入しようとしていた光景であった。翼は立ち上がる。

 それは男だった。露出した腕は筋骨隆々で、まるで王冠のように見えるもじゃもじゃの白髪が特徴的。

 

《side Tsubasa》

 

 何てことだ。

 こんなのが侵入してくるなんて――いや、侵入というより襲来と言った方がしっくりくる。

 

 どうする?

 どうする私――今家の中ではみんなが眠っている――ネビルとお婆さんは分からないけれど――その中にこんなのを入れたら――!!

 

「…………」

 

 男はキョロキョロと辺りを見回している。警戒しているのだろうか? 用心深そうな奴だ――それに、強そうな奴だ。

 あの腕――見えているのは腕橈骨筋だけだけれど、凄い。どんな鍛え方したらああなるんだ。教えて欲しい。取材したい。いやそうじゃなくて!

 堂々と正面から入ってくるとは、腕っ節に余程自身があるようだ――中にいるのは華奢な少女と気弱な少年、それにご老体――いや無理だ。

 駄目だ。これは侵入させる訳にはいかない。

 

 こうなれば、私がやってやる――勝てるか? 勝てないかもしれないけれど、しかしこの家に住む者の中で一番鍛えているのは間違いなく私だろう。自信を持って言う。

 言うなれば、これは試練だ――防衛戦。漫画とかでの防衛戦となると、多数対多数となることが多いけれど、今回は一対一の戦いだった。決闘と言ってもいいのかもしれない。

 

「…………」

 

 私はクラウチングスタートのポーズをとった。ストレッチしておいて本当に良かった――。

 

「…………!!!」

 

 考えてる暇も、迷っている暇もない。決心はついた。一瞬でカタをつけてやる。一瞬でやらなければ、間違いなく負ける――先手必勝しか勝ち目がない。

 

 私は走り出した。それに気付いたのか、男がこちらを向いた。まるで虎のような目をしている――怯むか。

 

 ジャンプし、延髄斬りをきめる――ダッシュしていた分のスピードを全て乗せた蹴り。ヒットした手応えはあった。

 

 あったのだが――。

 

「なっ――!!?」

「……ふん」

 

 私が蹴り飛ばしたのは――頭をガードした、男の掌であった。

 

「しまっ――」

「おっと」

 

 男は私の足を握る――何て握力だ!? まるで潰されそうなほど――私はそのまま宙吊りになった。

 

「は、離せ! おのれ、私にこんなことしてタダで済むと思うなよ! 我が体に宿る闇の半身(ダークネスソウル)が貴様を焼き尽くす前に、その手を離せ――!!」

「ふん、この俺を倒そうとするたァ、元気のいいガキだ。面白い。だが邪魔だ」

「がっ!」

 

 男は手を離した――のだけれど、それは投げながらであった。まるでゴミ袋を投げ捨てるかのように容易く――私は投げ飛ばされ、茂みに突っ込んだ。棘が痛い。

 

「くっ――な、何が目的だ貴様――」

「ああん? 何が目的って――聞いてねえのか?」

「は?」

「俺はここに雇われた家庭教師だぜ」

「はい?」

 

 か、家庭教師?

 なんの?

 っていうか、え?

 

「嘘を吐くなぁ!! そんなの聞いてないぞ、怪しい奴め!!」

「面倒臭えなあ、そんなもんお前が聞いてないだけだろ? いいから邪魔すんな」

「は、入らせるものか!!」

 

 また立ち上がり、駆け出そうとする私――その時である!

 

「全く騒々しいね、一体何が――」

 

 扉が開き、中からロングボトム婆さんが出て来た。寝間着じゃない、ということは、起きていたのか。

 ……って、そうじゃない!

 

「お婆さん! 早く扉を閉めて! そいつは――」

「おや、来てくれたのかえ『猛虎』」

「はい。おはようございます、マダム」

「あれー?」

 

 あれえ?

 

 男と平然と話すお婆さん――猛虎?

 

「俺の名前だよ――ったく、だから言ったろ? 家庭教師だって」

 

 呆れたように言う男――猛虎。

 

「……あの、お婆さん。私、そんなこと聞いてない」

「ああ、あんたはいつもこの時間はどこかに出掛けてるからね。別段教えることも無いかと思っておった。すまないねえ」

「…………」

 

 本当?

 え、だとしたら――え。じゃあるっきーとかも知ってるの?

 

 ええ?

 

 仲間外れにされた気分だ……いやもう本当、心配をかけさせないために誰にも何も告げずに世界を救う旅に出る主人公の幼馴染みみたいな気持ち――こんななのか。これでもっとリアルな漫画が描けるぞ。

 

 じゃなくて。

 

「……家庭教師って、何の?」

「ああん?」

 

 猛虎は私を横目で見てにやりと笑った――その八重歯が異様に大きかったような気がするが、気の所為だろう。

 

「武術のだよ――軟弱なガキを鍛え上げるバイトさ」

 

 軟弱なガキ。

 それは、ネビルのことを言っているのだろうか?

 

「ネビルにはもうちょっとしっかりしてもらいたいからねえ」

 

 相変わらず無茶苦茶するな……。ネビルの気持ちをもう少し考えて欲しいんだが……。

 あー。だからあいついつも朝疲れてるのか……色々タイミングが違うから全然知らなかった。

 

 にしても、武術。

 

 武術だと?

 

 武術だって!?

 

 そんなの聞かされて――居ても立っても居られると思っているのか!?

 

 私は縮地法を使い(やってみたら出来た)、猛虎さんの足下に跪いた。

 我ながら単純だと思う――けれど、どうしても我慢できなかった。

 

「ああん?」

「猛虎さん――いや、師匠!! 私にも、稽古つけてください!!」

「やだよ面倒臭ェ」

 

 ――一瞬で断られた。

 

《side END》

 

 これが、翼と猛虎の初邂逅である。その後、翼はずっと猛虎に付き纏い続け、半強制的に弟子入りしたのであった。というか、翼が一方的に名乗っているだけであり、猛虎は別に、翼を認めているわけではない。

 

 しかし――。

 

「足運びのスピードが遅い。もっと速くしろ」

「はい! 師匠!!」

「具体的には今の五倍な」

「は、はい!!」

 

 こんな具合に、師弟関係ではないものの、猛虎は翼の教師も兼ねることになったのであった。

 

 

 

【指輪贈呈の儀】

 

 ホグワーツ特急に乗り、ホグワーツ城へ向かっている時のこと。

 

「こんこーん、こんこーん!」

「「「!」」」

 

 突如、コンパートメントの扉が大音量の効果音付きでノックされた――コンパートメント内にいる三人、即ち、香風智乃、奈津恵、条河麻耶は、びくりとし、ドアの方を向いた。

 

「入ってもいいー? いいよねー、お姉ちゃんだからいいよねー!」

「お姉ちゃんじゃないので入らないでください。お引き取り願います」

「そう言わずに〜っ!!」

 

 結局許可も何もないままに扉は開かれた。扉を開けたのは、もうお分かりの通り、この少女。

 

「どうか、どうかお姉ちゃんをお姉ちゃんとして認めて下さいお願いします〜っ!!」

「お断りします」

「姉オーラが出てねーよ!」

「え、えっと、えっと」

「ゔぇあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 言うまでもなく、保登心愛である。

 咽び泣く心愛。他所の迷惑にしかならないので、智乃は慌てて扉を閉めた。

 

 心愛が落ち着くまで、少々お待ち下さい。

 

 …………

 …………

 …………

 

「えへへ……ちょっと恥ずかしいところを見せちゃったね。ごめんね」

 

 漸く正気に戻った心愛は、恥ずかしそうにはにかみながら言った。

 

「ココアが恥ずかしいのはいつもの事だから特に何とも思ってないよ」

「辛辣っ!?」

 

 そして傷口を抉られた。

 

「コ、ココアちゃんは恥ずかしくなんてないよ! どこに出してもあんまり恥ずかしくない、り……立派なお姉ちゃんだよ!」

「ぐっ……優しさがっ、辛い……っ!」

 

 そして傷口に消毒液を垂らされた。

「……で、何しに来たんですか。ココアさん」

 

 見下すような、或いは憐れんでいるかのような目で、智乃は見る。自称姉に対して容赦も慈悲も欠片もない三人(一人は無意識にだが)であった。

 

「ぐっ、うぅ……」

 

 心愛は心が折れる音を聞きながらも尚立ち上がった。心が折れる程度では屈しない。

 

「じ、実はね。智乃ちゃん達に、渡し忘れていたものがあるんだ」

「渡し忘れていたもの?」

「うん」

 

 そう言うと心愛は、ポシェットから三つの指輪を取り出し、掌に乗せた。金色のアームに銀色のプロング、センターストーンは丸く、その内側には、小宇宙を連想させる幻想的な光が絶え間なく充たされている。

 

「わぁ〜〜! 綺麗〜〜!!」

 

 恵は目を輝かせた。

 

「凄いです……ほ、本当に綺麗ですね」

 

 智乃も目を輝かせた。

 

「すげー! 何かこれ装備したら、呪文の効力が上がりそう!」

 

 麻耶も目を輝かせた。一人だけ理由が違うような気がしないでもないが。

 

「これはお姉ちゃんからの入学祝いだよ! さあ、三人とも、好きなのを選んでね!」

「マジで!? じゃあ私、これー!」

「私これにする〜」

「では、私は残ったもので」

 

 三人は心愛の掌から指輪を取った。

 

「ありがとうございます」

「サンキューココアー!」

「ありがとうココアちゃん〜!」

 

「さあさあ三人とも! 指輪を嵌めた姿を見せて! きっと似合ってるよー!」

「え……今ですか」

「今だよー!」

「は、はあ」

 

 心愛に急かされ、三人は指輪を嵌めた――香風智乃は白藍色の指輪を。奈津恵は退紅色の指輪を。条河麻耶は紺碧色の指輪を。

 

「それは私たちの姉妹の絆を象徴する証! 肌身離さず持っている限り、お姉ちゃんはいつでもどこでもどんな時でも、可愛い妹たちを見守」

 

「これをずっと付けておくのは、ちょっと辛いですね」

「外すね〜」

「装備解除ー」

「何でー!?」

 


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