謎の力に導かれ、魔法界へと遅れてやってきた香風智乃、条河麻耶、奈津恵――通称チマメ隊。ホグワーツ魔法魔術学校へ入学した彼女たちは好奇心に突き動かされるままに、ホグワーツの探検がてら地図を作ろうと思い至った。三人は、ホグワーツで知り合ったスリザリンの少女、アフルディーナ・グリースと共に、ホグワーツ城内の探検を開始するのであった。
一方、妹を渇望する保登心愛率いる集団・兎の会に、新たな入会希望者がやって来て……。
※告知事項※
・大変お待たせしました。言い訳は後書きでだらだら書いています。
【第68話】
進め、チマメ探検隊
[048] ホグワーツの噂
――ホグワーツ魔法魔術学校。
古くより続くこの学校にも、当然ながら『噂』というものがある。マグルの学校で言うところの七不思議――どころの量ではない噂が存在する。
それは例えば、願いが叶う部屋。
それは例えば、嘆き呻く幽霊。
それは例えば――禁忌が潜む秘密の部屋。
[049] 進め、チマメ探検隊
「よしっ! メグ、チノ、羊皮紙持ってるよね?」
「ちゃんと持ってるよ〜」
「さっき確認したじゃないですか」
週末。アフルディーナとホグワーツ探検をすると約束した日である。条河麻耶、奈津恵、香風智乃は羊皮紙、羽根ペンを持って待ち合わせ場所へ向かっていた。
「にしてもさ。この魔法の羽根ペンって、便利なんだか不便なんだかよく分かんないよね。インクに漬けなくても良いのもあるけど、試験とかでは使っちゃダメらしいじゃん? シャーペンでよくね?」
「あんまりここではメジャーではないんでしょう。ダイアゴン横丁でも全然見ませんでしたし」
「慣れないと大変だよね〜」
因みに、繰り出し式のシャープペンシルを発明したのは、どこであろうこのイギリスである。基本魔法界ではマグルの使ったものを軽視する傾向にあるために、使われていないというだけである。また、相性的にインクの方が合う、という理由もある。
「ていうか、インクに漬けなくていいならさ、そもそもインク壺要らないんじゃないの?」
「それは、多分作法というか、伝統を重んじているんじゃあないでしょうか? 使い易さとか、効率とか、そういう問題ではなく――例えば、インスタントコーヒーの方が作るのは早いですが、コーヒー豆から作ったコーヒーの方が良い、みたいな」
「わー、チノちゃん例え方がバリスタみたい〜」
「一応バリスタなのですが……」
「なるほど、伝統かー。ま、しょうがないか」
アフルディーナが指定した待ち合わせ場所は玄関ホール。三人が到着すると、アフルディーナは既にそこに居た。
「あ――やあやあ三人とも! よく来たね、いらっしゃい! いや待ってたよ、やっと来てくれたよ! 私ってば良い子ちゃんだから約束の二時間ほど前からここで待ってたんだあ!」
「それは……良い子と言わないのでは」
「ただのバカじゃね?」
「時間間違えちゃったの?」
「おっといきなりの全否定、アフルディーナちゃん泣いちゃうよう」
一から十まで大袈裟なアフルディーナ。泣いている振りをしたが、その表情は愉快そうに笑っている。
「二時間も何してたの? 暇じゃね?」
「まぁまぁ、私のことなんて気にする必要ナッシング! きゃはははっ! そんなことより君たち、この古城を探索する準備と心構え、ちゃんと出来てるかい?」
アフルディーナは三人を指差した。
「何が起こるか分からないのが探検ってやつだからね! 幾らこの私が居るから安心安全とは言え――時間単位で姿形が変わるのがこの古城。……迷子にならないようにしなきゃねぇ?」
「迷子になったらなったで、面白いじゃん! 寧ろ迷った方が、地図が充実すると思わない?」
「もしも迷ったら、元来た道を戻ってくるようにしましょう。歩いた道は地図に描いていく訳ですから、戻ってこれます」
「じゃあ、迷ったらまたここ集合ってことだね〜」
「きゃははっ!」
アフルディーナはにっこりと笑った。
「流石だねチマメ隊! 迷うことを恐れない、うんうん! 所詮マ……1年生にしては大した度胸だ! よろしい、私は君たちについて行くとしよう! いやぁ楽しみ楽しみ……」
にこにことするアフルディーナ――智乃はそんな彼女に何とも言えぬ奇妙さ、もっと言えば不気味さのようなものを感じたが……流石に失礼だと思い、考えを振り払った。
「それじゃ、チマメ隊、レーッツゴー!!」
「「「ゴー!!」」」
[050] リサ・ターピンとお姉ちゃん
保登心愛を中心として発足した謎の集団・兎の会。活動内容と言えるほどの中身は全く無く、強いて言うなら心愛に妹として愛でられる、というのが主な内容である。即ち、心愛による心愛のための集団である。
そんな兎の会に、先日新たな犠牲者が入会した。その名はリサ・ターピン。大きな特徴としては、その背丈の低さが挙げられる。アリス・カータレットに匹敵する低身長っぷりだが、リサ自身は特にこのことについてコンプレックスを抱いていない。それどころか、リサはこのことを神から与えられた自分の最大の才能として認識していた。
「魔法の使い方とか、歴史とか、星の占いとか。そんなのは勉強すれば誰にだって出来るわ。才能がなくても凡程度には出来て当然のこと――でも、身体のことはちょっと違うでしょ? 努力なんかじゃどうにも出来ないのよ。そりゃあ魔法を使えば身長の伸び縮みくらいちょちょいのちょいでしょうよ、でもそれは
リサはそう語る。努力は当然のものとし、才能を重視する彼女は実にレイブンクローらしい人間と言えた。
……勉強は誰だって凡程度には出来るもの、と思っている辺りにもレイブンクロー感がある。
「だからココアお姉ちゃんがお姉ちゃんしてるのは、凄い才能だと思うんだ! 私、ココアお姉ちゃんのお姉ちゃんオーラにやられちゃいまして……」
「うんうん……やっぱり分かる子には分かっちゃうかなー、私のシスター・ポウェアーが!」
そんなリサが何をしているかと言えば、心愛に対する全力のPR活動であった。と言っても基本的には心愛をおだて倒しているだけで、大したことは何もやっていないのだが。
「そんなに私をお姉ちゃんとして見てくれていたなんて……お姉ちゃんは嬉し涙が止まらないよーっ! これから末長くよろしくね、リサちゃんっ!!」
「うん! こちらこそ!! 末長くね」
談笑する心愛とリサ。
そんな二人を遠巻きに見つめているのは萌田薫子、小橋若葉、丈槍由紀の三人である。
「ここねえちゃん、嬉しそうですわね。うぅ、釣られて涙が出ちゃいそうですわ……!」
「お、女の子同士が仲睦まじくきゃっきゃうふふ……! し、しんどい……尊すぎてしんどみが深い……っ!」
「こ、ここあちゃん嬉しそうで良かったねっ」
心愛とリサを見て気持ちが昂ぶっている若葉と萌子。そのリアクションに若干の戸惑いを感じている由紀。相対的に常識人気味になってしまっている。
「わ、私もまぜてぐだざい〜っ!!」
「あばばばばばば三人にっ……!! あぁ心が……!!」
「…………」
由紀は妙な違和感を感じていた。だからこそ二人のように、手放しで喜べないのだ。理由は由紀自身にも分からないが……どうしてだか、あのリサ・ターピンという女子は信用出来ないように思えた。
普段のお花畑染みた言動で誤解されがちだが、由紀は元々勘が鋭い方である。理路整然とした考えは苦手だが、ふとした気付き、言語化出来ない感覚的な話であれば、少なくともここに居る面子の中では一番優秀なものを持っている。彼女が学園生活部活動において庇護されるだけの存在ではなかったことが、その才能を証明している。
とは言え、そんなことを言い出せるような空気ではない。由紀はその不安を胸中に仕舞っておくことにして、他のことを考えるようにするのであった。
「……チマメちゃんたち、今頃どこに居るのかなぁ」
[051] バラバラの行方
「ど、どうしよう〜……!」
「あれー? チノー? メグー?」
「ここは……どこなのでしょうか!?」
「きゃっはははー! 迷子になっちゃったねぇ!」
一方その頃。
チマメ隊たちは危機に直面していた――どういう訳か、恵、麻耶、智乃とアフルディーナは気付いた時には離れ離れになってしまっていたのである。
三者三様、三つの場所に迷い込んだチマメたち。地図頼りに動こうにも、そもそも歩きながら地図を描くことなんて出来ている筈もなく、道の手掛かりは断片程度にしか残されていなかった。
奈津恵は人一人が生活できる程度の広さがあるの謎の部屋に。
条河麻耶は不思議な物品ばかり置かれた棚だらけの部屋に。
香風智乃とアフルディーナは汚れた女子トイレに、それぞれ辿り着いていたのだった。
それはホグワーツの秘密が隠された場所であり、地図の力だけでは決して辿り着けない領域。このホグワーツに潜む"何か"が――そこに居るのだ。それをチマメたちは、まだ知らない。
導かれるままに動いた、彼女だけは例外として。
二年ぶりの投稿です。最早誰も覚えていないのではないでしょうか。
もしも今まで読んでいた方が居らっしゃるのであれば、本当に申し訳ありませんでした。正直、日本編を始めようとした辺りで話を考えるのが面倒になったため、モチベーションも四散していました。
幸いにも日本編は本当に始まったばかりであったため、無かったことにすることがまだ可能なタイミングでした。なので日本編絡みのストーリーは一切をカットし、開始時当初の構想通り本筋一本で進めていくことにしました。
前回までのような更新頻度は不可能ですが、もし未だ愛想を尽かしていない菩薩のような方がいらっしゃるのなら、今暫くお付き合いください。