ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 題名から分かるように、ロックハートのあの回です。

※告知事項※
・何かあれば書きます。


ロックハート・アタック

【第66話】

 

ロックハート・アタック

 

 

[042]傲慢な気障師

 

 ――ギルデロイ・ロックハート。

 

 勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして、『週刊魔女』五回連続『チャーミングスマイル賞』受賞。最新著書は、『私はマジックだ』。

 

 

[043]ロックハート・アタック

 

「アリス。嫌なことがあったらすぐに私に言うんですよ。如何なる手段を用いてでもロックハート……先生を、社会的に再起不能にしますから」

「うん……っ! ありがとうシノ!」

「相変わらず危険なこと言ってるね、しのぶ……」

 

 歓迎会の次の日の午後。闇の魔術に対する防衛術(以下、DADA)のクラスへと向かう道中での忍とアリスの会話、そして美紀のツッコミである。

 不安げなアリスを慰めるように金髪をわしゃわしゃと撫でる忍。それを微妙な目で眺める美紀。

 

 DADAといえば想起されるのは、前年度の色々雑な崩壊気味の授業。しかし、前年度この科目を担当していた男、クィリナス・クィレルは、年度末に起こった賢者の石事件で失踪(物理)を遂げた。

 ならば今年度は教授も変わり、今年こそはまともな授業を受けられるのでは――と思うホグワーツ生は多いだろう。何せ今年度この科目を担当するのは、何を隠そう、あの闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、かつ勲三等マーリン勲章保有、尚且つハンサムな男、ギルデロイ・ロックハートなのだから。

 

「ロックハート様から授業を受けられるだなんて!」

「私サイン貰っちゃお!」

「ロックハート様!」

「きゃー!」

 

 お陰でホグワーツ生――九割九分九厘女子――はこの通り、大盛り上がりなのである。まあ無理もない、彼はイギリス魔法界、否、最早全世界に名を轟かせていると言ってもそのうち過言ではなくなるであろう大スターなのだから。

 

 とはいえ全女子が浮かれている訳ではないようで、彼の事を大して知らないマグル生まれ、教授が誰だろうと勉強出来ればそれでいいレイブンクローなどは例外である。

 また、あろうことか、ロックハートのことを毛嫌いしている者も居るのである――ファンからすればそれは狂気の沙汰としか思えない訳だが――それこそ、大宮忍とアリス・カータレットなのである。

 

「うふふ、私、先生の心象は最高ですから! マクゴナガル先生限定ですが――でもあの方は副校長先生ですし、私の一声できっとロックハートはイチコロでしょう!」

「流石シノ!」

「自分の心象を教師の排除のために利用する奴なんて始めて聞いたぞ」

「同感です」

 

 呆れる胡桃と美紀。

 しかし、実際忍がマクゴナガルに好かれているのは恐らく事実。優秀な生徒のことを気にいるのは、例えどれ程堅物の教師でも変わらないだろうから。

 

「忍ちゃんは変身術得意だもんね! 今日の授業でちゃんとコガネムシをボタンに変身させられたの、忍ちゃんと、美紀ちゃんと、翼ちゃんと、アリスちゃんに、ラベンダーちゃんに……あれ、結構いる……けど、忍ちゃんのボタン、金色に光ってて綺麗だったよ〜!」

 

 穂乃花が言った。

 

「ちょっと、何よそれ! くっ、私もシノブの勇姿を見たかった……なんで変身術、同じクラスじゃないのかしら!?」

 

 悔しそうに言うモラグ。その後ろから妬ましげな視線を送るリサ。

 

「二人とも、おだて過ぎですよ。照れちゃいます……でも、目標までの道のりはまだまだ長いです――全人類金髪化計画を遂行するためには、もっともっと努力しなければなりません!」

「流石シノ!」

「流石シノブ様!」

「いいぞ忍ちゃん!」

「何なんだこのファンクラブは」

「理解するだけ無駄デスよ、クルミ」

 

 マクゴナガルが聞いたら卒倒しそうな目標である。しかしながらそれをこうして支持する者も居るのだから、世の中とは本当に広いものである。

 金髪同盟恐るべし。

 

 さて、そんなことを話しながら、教室に到着。教室の扉には、いつ施されたのか派手な装飾がそこら中に仕掛けられてあった。

 

「…………」

「……私物化してますね」

 

 一瞬でテンションが最下層までガタ落ちした忍とアリス。たったこれだけだが、ロックハートから滲み出るあのナルシストオーラと似たようなオーラを感じた。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は嫌々ながら教室に入った。ロックハートはまだ来ていない。安堵の息を吐く。

 座席はやはり四人用だった。アリス、忍、カレン、穂乃花と、その後ろに美紀、胡桃、モラグ、リサ。

 

「アリス、絶対に私から離れてはいけませんよ。拉致されますから」

「わ、分かったよ」

「お前らあの先生に何の恨みがあるんだ……?」

 

 些か大袈裟とも思える二人の警戒具合を訝しむ胡桃。

 

「私、あの先生のこと知らないんだけどさ。なんか皆ざわめいてるし……人気ある先生じゃねーのか?」

「人気なんて、とんでもないですよ!!」

 

 食い気味に言う忍。

 

「いいですか、胡桃ちゃん、美紀ちゃん、それにモラグ! 騙されてはいけませんよ。あの金髪男は、私たち金髪同盟最大の敵です!」

「待て、私は金髪同盟に入った覚えはない」

「先輩に同じく」

「人類皆金髪同盟なんですよ?」

「全人類金髪化計画と並ぶレベルで意味不明なことを言うな」

「いいですか。あの男はですね!」

「凄え、このまま話を進めやがった」

 

 忍は身を乗り出した。

 

「こともあろうにっ! アリスに告白してきたんですよっ!!」

 

 が。

 

「おっと、あまり大声で言うものではありませんよ、ミス・オオミヤ!」

「っっ!!!」

 

 忍は驚いて振り向いた。

 いったいいつから居たのか、目線の先にはキラキラと輝く波打つ金髪。勿忘草色の瞳。白く輝く歯を見せてにっこりと笑う顔。

 

 ギルデロイ・ロックハートがそこに居た。

 

「HAHAHAHA!!! やあアリス! ご機嫌麗しゅう! うむ、今日も変わらず綺麗な金髪だ――まあ私には劣りますがね!! HAHAHAHA!!!」

「っ――ど、どうも、ロ、ロックハート先生……」

 

 引きながらアリスが言った。

 

「……アリスの金髪は世界一です。それをお分かりしないのならば、貴方にアリスを好く資格なんてありません」

「んん〜? まあまあ、そう嫉妬するものではありませんよ、ミス・オオミヤ! 人を好くのに資格なんて関係ありませんよ? 君が勝手に定めたルールに沿われてもね! HAHA!」

「ぐっ……ぎぎぎぎぃ……っっ」

 

 割と正論を返され、本気で悔しそうな表情を浮かべながら言葉に詰まった忍。それを見てロックハートは至極満足そうな笑みを浮かべ、

 

「うむ、よろしい!! では、そろそろ授業の時間ですからね! 私は君に構っている時間なんてないんですよ――それじゃあアリス! 私の授業を是非楽しんでくださいね!! HAHA!! HAHAHAHAHA!!!」

 

 と、勝利の笑いを上げながら教室の前へと大股で歩いて行った。

 

「…………ッッッ」

 

 忍は恨みがましい目でロックハートのマントを追った。恨んだところで、しかしどうにもならないとは分かっていても。

 

 

[044]ロックハート・テスト

 

 授業の始まりを告げる鐘が鳴った。生徒全員が着席すると、ロックハートは大きな咳払いをした――教室中が静まると、ロックハートは近くに座っていたミーガンの『トロールとのとろい旅』を取り上げて自分の顔写真のついた表紙を高々と掲げた。

 

「私だ」

 

 ロックハートはウィンクした。本を返す際にもミーガンに向かってウィンク。しかしながら当然彼女は無反応。

 

「皆さん。闇の魔術に対する防衛術の新しい教授を紹介しましょう――そう、私! 私なのです! この私、ギルデロイ・ロックハート!!」

 

 ロックハートが言った。

 

「勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして、『週刊魔女』五回連続『チャーミングスマイル賞』受賞――尤も、私はそんな話をするつもりはありませんよ! バンドンの《泣き妖怪バンシー》をスマイルで追い払った訳じゃあありませんしね! HAHAHA!!」

 

 ロックハートは皆が笑うのを待ったが、ごく少数(由紀や心愛。レイブンクローは誰も笑わない)が曖昧に笑っただけだった。

 

「全員、私の本を全巻揃えたようだね! 大変よろしい! 今日は最初に、ちょいとしたミニテストを行おうと思います――おおっと、心配ご無用!! 君たちが日頃どのくらい私の本を読んでいるのか、どのくらい覚えているのかをチェックするだけですからね!!」

 

 そう言うと、ロックハートは上機嫌な顔でテスト用紙を配り始めた。

 

「どうしよう、シノ! 私読んでないよ……これ絶対面倒臭くなるパターンだよ……」

「安心して下さい。みんな読んでませんよ」

 

 テスト用紙を配り終え、ロックハートは教室の前の席に戻って合図した。

 

「三十分です。よーい、はじめ!」

 

 アリスはテスト用紙を見下ろし、質問を読んだ。

 

――――――――――――――――――――――

 

1.ギルデロイ・ロックハートの好きな色はなに?

 

2.ギルデロイ・ロックハートの密かな大望はなに?

 

3.現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたはなにが一番偉大だと思うか?

 

4.ギルデロイ・ロックハートの――

 

――――――――――――――――――――――

 

(知らないよ!!!)

 

 こんなかんじの質問が全54問、延々と三ページの裏表に渡って続いた。因みに最後の質問はこんなもの。

 

――――――――――――――――――――――

 

54.ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈り物はなに?

 

――――――――――――――――――――――

 

(だから知らないよ!!!)

 

 アリスを始めとする殆どが心の中でツッコんだ。

 アリスは顔を上げて、ロックハートの顔を見た。ロックハートはにこにことしていて、アリスに気付くとウィンクした。

 

(……なんのウィンクなの!!!)

 

 アリスはテスト用紙をもう一度見た。

 

「…………」

 

 アリスは小さく溜息をついてから、取り敢えず埋めるため、羽ペンをのろのろと動かした。

 

 三十分経過。

 

 ロックハートは答案を回収し、クラス全員の前でパラパラとめくった。

 

「んん〜チッチッチ――私の好きな色はライラック色だということを、殆ど誰も覚えていないようだね。『雪男とゆっくり一年』の中でそう言っているというのに!」

 

 ロックハートは失望したような声色を出して言った

 

「おやおや、『狼男との大いなる山歩き』をもう少ししっかり読まなければならない子も何人か居るようだ――第12章ではっきり書いているように、私の誕生日の理想的な贈り物は、魔法界と非魔法界のハーモニーですね――尤も、オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーの大瓶でも、お断りはいたしませんよ! HAHAHA!!」

 

 笑いは起こらない。つられて笑ったのがちらほら居ただけ(さっきの面子)。

 

 ロックハートはもう一度クラス全員にいたずらっぽくウィンクした。しかしながらレイブンクローは誰一人興味を持たず、グリフィンドールもまた呆れ顔。最後尾の席に座る翼に至っては漫画のネタ出しをしていた――が、ロックハートが突然彼女の名前を口にしたのでびくっとした。

 

「ところが! ミス・ツバサ・カツキは、私の密かな大望を知っていましたね! この世から暗黒を消し去り、己の銘が刻まれた整髪剤を売り出すことだと――私が想定していた回答とはかなり乖離が見られますが、しかしニュアンス的には正解です! よくできました! それに――」

 

 ロックハートは答案用紙を裏返した。

 

「満点です! ミス・ツバサ・カツキはどこにいますか!?」

 

 ツバサは慌てて挙手した。何の話かちゃんと聞いていなかったのである。

 

「素晴らしい!!」

 

 ロックハートがにっこりした。

 

「全く素晴らしい!! グリフィンドールに10点あげましょう!! HAHAHAHA!!!」

 

 ロックハートは上機嫌に手を叩いた。

 翼の隣に座る薫子が言った。

 

「す、凄いです、翼さん! あの本、読んだんですね!」

「いや……まあ。一応教科書だし、読んどかないとと思ったし……教科書としてどうかとは思うけれど、冒険譚としては楽しめたよ――漫画の参考にはなりそうだ」

 

 翼はそう言うと再びノートに向かい、キャラクターの設定画を起こし始めた。

 

 ロックハートは拍手を止めて、

 

「では、授業ですが……」

 

 先程とは打って変わって低い声色でそう言うと、机の後ろにかがみ込み、覆いのかかった大きな籠を持ち上げ、机の上に置いた。

 

「さぁ、気をつけて! 魔法界の中で最も穢れた生き物と戦う術を授けるのが、私の役目なのです! この教室で君たちは、これまでにない恐ろしい目に遭うことになるでしょう……」

 

 薫子とネビルが身震いした。

 

「ただし! 私がここにいる限り、何物も君たちに危害を加えることはないと思いたまえ。よって、どうか叫ばないようにお願いしたい――落ち着いて――」

 

 翼はつい釣り込まれて、ノートから目を上げて籠をよく見ようとした。

 ロックハートは覆いに手を掛けた。

 

「――こいつらが、暴れないように!!」

 

 ロックハートは、パッと覆いを取り払った。

 籠の中に居たのは、小さい人型の生物だった。身の丈二十センチくらいのそれは群青色で、尖った頭、尖った耳、背中には昆虫のような薄い羽が一対生えているのがうじゃうじゃと。

 

「さあ、どうだ」

 

 ロックハートは芝居染みた声を出した。

 

「捕らえたばかりの、コーンウォール地方の《ピクシー小妖精》ですぞ!」

 

 シェーマスは堪えきれずにプッと噴き出した。ディーンやラベンダー、それにレイブンクローのマンディやスティーブン・コーンフットも同じように失笑した。

 

「どうかしたかね?」

「あの、こいつらが――ははっ、そんなに危険、なんですか?」

 

 シェーマスが笑いを押し殺しながら言った。

 

「笑っていられるのは今の内だけですぞ、ミスター・フィネガン!」

 

 ロックハートはシェーマスに向かって窘めるように指を振った。

 

「連中は厄介で危険な小悪魔ですぞ?」

 

 そう言うと、ロックハートは籠の戸に手を掛けた。

 

「ははっ――えっ」

 

 シェーマスの笑いが凍った。

 

「さて、君たちがピクシーがどう扱うか――お手並み、拝見!!」

 

 ロックハートは声を張り上げ、籠の戸を開けた。

 

 

[045]ピクシーフライング

 

「「「「「KKKKKKKKKKKKKKーーーーッ!!!!」」」」」

 

 解き放たれたピクシーはロケットめいて四方八方に飛散! あっという間に教室内はピクシーで溢れかえった。生徒の悲鳴とピクシーの甲高い叫び声が響き渡る大混乱状態である。

 ピクシーどもは飛び回り、悪戯の限りを尽くす。インク瓶を引っ掴み、教室中にインクを振りまくわ、本やノートを放り投げたり引き裂くわ、壁から写真を引っぺがすわ(ロックハートの写真)、ゴミ箱はひっくり返すわ――挙げ句の果てにいつの間にかネビルが天井のシャンデリアに引っ掛けられている。ピクシーどもが持ち上げたのだろうが、この小さい体のどこにそんな力が秘められていたのだろうか!

 

「さあ、さあ! 捕まえなさい! たかが(・・・)ピクシーでしょう!」

 

 ロックハートが叫んだ。

 しかし、誰もピクシーをコントロール出来ない。レイブンクローのアンソニーやミーガンが抗うものの、如何せん数が多すぎる。数体拘束させたところで何の意味もないのである。しかも厄介なことに無駄に素早い! 連中は落ち着きを取り戻すどころか、時間が経つにつれどんどん行為がエスカレート。遂には窓ガラスを片っ端から破壊し始めた!

 

「ひぃぃーっ!!」

 

 シェーマスを始めとして、先ほど笑っていた者は誰一人として笑っていない。最早上がるのは滑稽故の笑いではなく恐怖故の叫び!

 

「HAHAHAHAHAHAHA!!! おやおや皆さんどうしました!? ふふ、やはりここはこの私、ギルデロイ・ロックハートがお手本を見せるべきでしょうね! さあ、生徒諸君! 刮目せよ!!」

 

 ロックハートはそんな芝居掛かった前説ののち、腕まくりして杖を振り上げた!

 

ペスキピクシペステルノミ(ピクシー虫よ去れ)!!!」

「KKKKKKKKKKKKKKーーーーッ!!!!」

「何ぃぃーーーーっ!!?!?」

 

 何の効果もない! ただピクシー共の悪戯心に火を点けただけだった!!

 ピクシーは素早い動きであっさりとロックハートの手から杖を奪い取り、割れた窓から投げ捨てた。ロックハートは慌てて机の下に退散! 天井からはネビルごとシャンデリアが落下! 吊り下げられていた巨大な古生物の骨格模型も落下! 教室は半壊!!

 

「あの先生、やはりただの役立たずでした! アリスに近付こうなどと、千年以上早いです!」

「そんなことどうでもいいよ! な、なんとかしないと――って、先生!?」

 

 変なベクトルで喜ぶ忍。そんな忍とともにピクシーを払っていたアリスだが、その時、あることに気がついてしまった!

 なんと、ロックハートが教室内の階段を駆け上がっているではないか! DADA教師の職員室は、"6番教室"――即ちこの教室の二階にある。どういうことか? つまり、逃げるつもりなのである!

 

「ハ、ハハ、ハハハ! き、君たち! そ、そのピクシーを籠に戻しておきなさい! いいね!?」

「ちょっ、先生!?」

「これは体験学習だ!! いいね!!?」

「ちょ――!?」

 

 そう言い残すとロックハートはすぐに自室のドアを開けてすぐに入るとピクシーが侵入する前にすぐさまドアをバタンと閉めた!

 

「〜〜〜〜っ!!!」

 

 アリスは声にならない叫びを上げた。

 

「くっそ、今年もこんな奴なのか!」

「まともな教師は居ないのかよ!」

 

 理世と胡桃が叫んだ。もっともである。

 

 ピクシーは狂ったように笑いながら教室中で暴れ回る。もうこれ以上何を破壊するのかと思うが、案外そう簡単には崩壊しきれないのである――至極残念なことに。

 

イモービラス(動くな)!! ――ダメだ、キリがないぞ! おいアンソニー! もっとなんか、いい呪文はないのか天才!!」

「こんな時だけ頼るな秀才! イモービラス(動くな)――どうせ口を開くなら呪文を唱えろ! イモービラス(動くな)!」

「ちっ!!」

 

 レイブンクローが誇るアンソニーとミーガンのコンビによって、次々と狩られていくピクシー。停止したピクシーは、他の生徒によってすぐさま籠の中に戻された。幾ら数が多いとはいえ、確実に減っている。平静を取り戻した何人かも加勢し、遂にピクシーは残り三体に!

 

「KKKKKKKKKKKKKKーーーーッ!!!!」

 

 だが、残り三体というのが大問題である。今までは数撃ちゃ当たるの精神で、特に狙わずとも呪詛を撃つだけでピクシー共は、蚊取り線香の煙を吸った蚊の如くポトポトと落ちていった。だがしかし、ラスト三体程にまで少なくなると、狙いを定めなければ命中させるのは至難の技となる。こいつらは素早い為、狙いがまともに定まらないのである!

 

「リ、リゼちゃーん! ここは、スナイパーとしての力を見せるチャンスだよ!」

「む、無茶言うな! 動いてる的なんて、まともに狙ったことないんだぞ!」

「もう、ダメ軍人なんだから!」

「誰が軍人だ!」

 

 心愛と理世。

 

 するとその時!

 

「!! こいつ、籠の戸を!」

 

 ウェイン・ホプキンズが指差して叫んだ! 全員が籠を見た――すると、おお、何ということだろうか!? ピクシーの一匹が籠の戸に手を掛け、今にも開けようとしているではないか!!

 全員が戦慄した――ここまでの努力が完全に水の泡となってしまう、それだけは、それだけは避けたい!!

 

「――――そうだ!!」

 

 その時である! 穂乃花は叫び、籠に杖を向けた!

 

「待て! 今呪詛を撃てば、籠が――!」

「問題ないよ!!」

 

 穂乃花の杖が茶色の光を放つ!

 

インプル・ハイポスタ(魂に色をつけよ)!!」

 

 杖先から放たれたのは小さな火花! それは目まぐるしく色を変えながら飛び散り、壁を、机を、火花の当たった場所を鮮やかに塗り替えていく!

 

 火花は籠、そして決まった軌道を持たぬランダム性ゆえか三体のピクシーの顔面にも直撃! 火花は衝撃を持たず、ただ当たった場所を塗り替えるだけである。籠は赤色に塗り替えられたが、倒れはしない。

 逆に倒れたのは、否、落ちたのはピクシー共だった! 目の前が絵の具めいて塗り潰され錯乱したピクシーは、それを取り払おうと動きを止め、落下したのである! アンソニーたちはそれに素早く不動呪文を掛け、手早く籠の中に放り込んだ。そして再び覆いを被せた。

 

 籠は暫くガタガタと動いていたが――やがて、その動きを止めた。

 

「………………ふう」

 

 漸く訪れた静寂。全員、力が抜けたように溜息を吐き、へたり込んだ。先程までの喧騒がまるで嘘の様な静けさ(一応、他のクラスは授業中なのである)が教室を心地よく包み込んだ――が、しかし、飛散したガラス、飛び散ったインク、ズタボロの壁、粉砕したシャンデリア――そして、変色したそこら中のオブジェクト。とても安らぎとは程遠い状況であった。

 

 波乱に満ちたロックハート最初の授業。だが、この程度の事件はまだまだ序の口なのである。今、水面下で蠢いている、ホグワーツそのものを揺るがすような重大事件に比べれば――この程度、マグルの想像するピクシー(妖精)の悪戯程度の規模でしかないことを、彼等彼女等は、知る由もなかった。

 




 久々に筆が乗りました。こんなに早く投稿できるとは私としても予想外です。

 ロックハートは書いていて実に楽しいキャラですね。威張らせるもよし、虐められるもよし。何でも出来ますよこの大スター。
 次回は原作通りクィディッチ回……になるかどうかはまだ未定です。もしかするとこっちより先に、日本勢の方が出来上がるかも。気長にお待ち下さいませ。

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