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【第63話】
見えざる馬車馬と霞に霞む木船
[035] 特急からホグワーツへ
――長い旅路を終えた生徒達は、当然その後ホグワーツ城へと向かう訳だが、しかしホグワーツは歩いて登校することが出来るような場所には存在しない。いや、やろうと思えば登校出来るのだろうけれど、しかしわざわざそんな苦労を犯そうとする者は居ないだろう。仮に見事苦難の末到着したとしても、待っているのは労いの言葉ではなく、教師陣からのお叱りの言葉だけなのだから。
ではどうするかと言えば、ホグワーツ生は二種類の方法で登校することとなる。
第一の方法――第一学年のみが用いる方法で、こちらはホグワーツ城の裏口より入城する。使用するのは木船で、鏡面のような湖の上を渡り、裏口へと向かう。新入生は在校生とは大広間入場のタイミングが異なるため、待機場所も違うのだ。
第二の方法――第二学年以降が用いる方法で、こちらはホグワーツ城の正面玄関より入城する。使用するのは馬車――なのだが、肝心の馬は居ない。一人でに勝手に動く、魔法の馬車なのだ。
[036] 特急列車の騒がしい旅 終
(語り部:香風智乃)
なんて大きなお城なのでしょう。と、私は思いました。
ホグワーツ特急が停車する前に、もう私たちは着替えを終えていました。お伽話の魔女が着ているような、ローブ姿です。
「なんか、本当に魔女になったみたいだよ!」
と、マヤさん。みたい、ではなく、本当に魔女なのですけれども……まだ信じられないことに。
「なんだか緊張するね〜!」
と、メグさん。緊張すると言っている割にはいつも通りマイペースなメグさんです。
「動きにくい服ですね……」
と、私。もう少し気の利いたことを言えないのかと、自分で思いました。
ホグワーツ特急が停車し、私たちは、隣のコンパートメントに居たココアさんたちと一緒に特急を降りました。ココアさんたちもローブを着ていて、ココアさんたちだけでなく、周りのみんながローブを着ていて。不思議な気分でした。
まるで、仮装大会で仮装した人たちの中にいるような気分――可笑しいのやら、或いは、恐ろしいのやら、よく分からない、そんな気分です。
「チノちゃん達のローブ姿、すんごく似合ってるねー!! 一際輝いて見えるよ!!」
「えへへ、でしょー!?」
「ココアちゃん達も凄く似合ってるよ〜!」
「は、はあ……それは、どうも」
別に初めて見た訳でもないでしょうに、このはしゃぎよう。マヤさんやメグさんもそうですけれど、どうすればこんなに感情を表に出すことが出来るのでしょうか。(ほんの少しだけ)羨ましいです。
「そしてその指輪……私がチョイスした指輪も、いい味出してるよ!」
「選んだのはあんたじゃなくて、真魚だけどね」
シャロさんが言いました。
「ま、まあそうだけど――でもでも、真魚ちゃんが選んだやつをさらに選んだのは私だから!」
「選んだっていうか、適当に摘んだ、ってかんじよね」
「て、適当じゃない……もん!」
「その間は何よ……?」
シャロさんは呆れたような溜息混じりです。
「まあ私が選んだとか選んでないとか、そういうのはどうでもよくて」
「どうでもいいの!?」
「重要なのは、チノちゃん達に似合うかどうかだよ! ね、似合ってると思わない筈がないよね!?」
「強制的ねぇ!? ええ、確かに似合っているわ。それは、ココアに賛成ね。ローブも合わさって、魔女らしさがよく出てるわ」
「は、はぁ。ありがとうございます」
私は帽子の縁を顔の前まで引っ張るようにして顔を隠しながら言いました。いえ、別に照れている訳ではありません。断じて照れていません。
「照れてる?」
「照れてません」
「指先が赤いよ?」
「て、手が悴んでいるからです」
「大変! 誰か! 誰か手袋を!!」
「やめて下さい恥ずかしいですっ!!」
ココアさんじゃなくて、私が赤くなってしまいます――ココアさんは無神経すぎます。どうしてこんなことを平気でやってのけるのでしょうか? 不思議でなりません。
「そりゃあ、私はチノちゃんのお姉ちゃんだからね! 妹に風邪を引かれちゃうと、一日中寝込んじゃうもの、悲しみで」
「寝込むのは風邪を引いた方と思うのですが……」
メンタルの弱い姉もあったものです――いえ、先程からの行動、今までの行動を見れば、とてもそんなことは言えないのですけれども。
やれやれ、と、笑うココアさんを見ながら私は思いました。
その時、
「イッチ年生! イッチ年生はこっちだぞ!」
「「「!?」」」
な、何です? 突然大きな声が聞こえました。それは駅のプラットホーム中に響き――いえ、轟きました。まるで雷が何かのようです――私がただ単に気が小さいのでそう感じただけかもしれませんけれども。
だとすれば、それこそ私の方がメンタルが弱いです。……今更自覚するような事でもないですけれど。
声の聞こえた方を、私たちは向きました。
「うわデカっ!?」
マヤさんが叫びました――いや全くその通りです。声の主は、この人混みの中でも一際目立つ程の、上半身の半分がぴょこんと飛び出る程の大男でした。
「あれがハグリッドよ」
「わ、居たんですか」
「何気に酷いわね」
いつの間にか、隣にルキさんが居ました。それに、翼さんや薫子さん、小夢さんも。
「知ってるの? ルキ」
マヤさんが聞きました。
「ええ! 去年はお世話になったわ」
「そして今年もだよねー」
えっと、つまり、ホグワーツの先生ということなのでしょうか?
「んー。先生、なのかしら?」
「事務員?」
「そ、それも何だか違うような気がします……」
「えっと……どういうことなの……?」
マヤさんとメグさんが首を傾げます。私も傾げていたかもしれません。
「ふっふっふ、そこは頼れるお姉ちゃんの出番だよ!」
「「「…………」」」
「えっ、何その反応……!?」
ココアさんがしゃしゃり出てきました。大丈夫でしょうか? いろんな意味で。
「ハグリッドはね、ホグワーツの鍵と領地の番人なんだよ!」
「鍵と領地……?」
どういうことですか?
???
「おお、なんか格好いい響きだ!」
「番人って……えっと、門番さんってこと、なのかな?」
マヤさんとメグさん。マヤさんは多分もう解釈することを諦めています。というかもう興味が無くなっているのでは……。
「……そ、そんなところ、だよね! ね! ルキちゃん! シャロちゃん!」
「結局私に振るんじゃない!」
「ひゃっ!? な、何で私ぃ!?」
「だって分かんないー! どう例えたらいいのか分かんないんだもん!」
やっぱりこうなりました。どうしようもないココアさんです。
「って言っても、私あんまりあの人と接点ないし……ル、ルキ! あんたに任せた!」
「えぇ……んー……こ、校務員、よね。そう! それよ! 校務員! やったあ! しっくりきたわ!」
「そうなんですか!?」
何だか一人で納得しているので思わずツッコミをいれてしまいました……校務員さんでしたか。成る程、確かに先生でも事務員さんでもないですね。
……この答えが出るまで、どうしてこんなに時間が掛かったのでしょう。
「イッチ年生! こっちだ! もうおらんのか!!」
「っ!」
ま、まずいです! 何だか分かりませんけれど、締め切られそうな気がします!
「マヤさん、メグさん、急ぎましょう!」
「おー!」
「え、え、えっと、ま、また学校で会いましょう〜!」
私たちはココアさん達に手を振りながら、人混みの中へと突撃しました。ココアさん達の姿は、すぐに見えなくなりました。
……姿が見えなくなったにも関わらず背後から嘆きの声のようなものが聞こえるのですが、幻聴だと思いたいものです。いや幻聴なんて聞こえたら大変なんですけどね?
[037] 見えざる馬車馬
(語り部 : 直樹美紀)
「チノちゃん居ない……何で……?」
「学年が違うからだよ」
理世が心愛にツッコんだ。的確だ。
新入生の一団と別れた私たちは、高学年の生徒を追いかけるうちに、心愛たちと合流した。
どうやら一年生の時とはホグワーツへ向かう方法が違うらしく、馬車を使って移動するとの事であった。特急を出た時に、そうアナウンスされた。
とは言え、どこへ向かえばいいのか全く分からず、私たち――つまり、ゆき先輩、くるみ先輩、ゆうり先輩、私――は上級生であろう人たちの波に呑まれ、そのまま馬車乗り場へと行き着いたのだ。
そこで再開したのが、心愛たち。心愛、理世、千夜、紗路、かおす、小夢、琉姫、翼である。彼女たちは私たちの同級生だ。
馬車は六人乗りだった。私、ゆき先輩、理世、心愛、翼、小夢で一台。くるみ先輩、ゆうり先輩、千夜、紗路、かおす、琉姫で一台。
で、乗り込むなり心愛が口にしたのが先程の台詞である。チノ……とは、誰だろう?
「ねえねえ、チノって誰ー?」
ゆき先輩が聞きました。
「チノちゃんは私の可愛い可愛い妹だよ! 今年ホグワーツ入学なんだ!」
心愛は涙を拭きながら胸を張る。何故胸を張る?
「あ、去年言ってた子だね! あれ? その子もこっち来てたんだ」
「そうなんだよ! そしたらびっくり、チノちゃん達も魔女だったんだー!」
「凄い偶然だねー!」
「でしょ!? お姉ちゃんもうびっくりでびっくりで――思わず気を失っちゃうくらいだったよ!」
「あはは! 大袈裟だな〜。……だよね?」
能天気なゆき先輩をも一瞬躊躇させるとは。やるね心愛。
「いやいや、心愛ちゃんなら十分あり得るよ! なんたって妹思いの心愛ちゃんだもの!」
小夢が言った。
……この三人、似たような喋り方するから活字にすると分かり辛いな。
「妹思いじゃない姉なんていないよ? 姉は妹を愛でるのが仕事なんだからね! 勿論私の可愛い妹であるユキちゃんやコユメちゃんの事も、お姉ちゃんは分け隔てなく愛を注ぐよーっ!」
「ここあお姉ちゃーん!」
「ココアお姉ちゃーん!」
「ふぉおおおおおお!! もう一回! もう一回! 一回と言わず永遠にっ! 特にユキちゃんはもうちょっと声のトーンを低めにしてローテンションにしてはいどうぞ!」
「ここあお姉ちゃん」
「ココアお姉ちゃん」
「イッエエエエエエス!!! アイアムシスター!!」
「ええいテンション上がりすぎだココア!!」
「五月蝿いですゆき先輩!」
「小夢、クールダウン」
三方向から同時にツッコミを入れられるゆき先輩、心愛、小夢。しゅんとしたように静かになった。
どうしてこんなに騒がしくなれるのか……困惑と羨望で訳が分からない。
馬車は木々の中を走り抜ける。辺りは真っ黒な暗闇で、光はどこにもない。ランプはどうやらどこにも設置されていないらしい。自然の状態を尊重しているということなのだろうか。
「…………」
……静かになったら静かになったで、妙に落ち着かない。我儘もいいところだが、案外適度に五月蝿い方が落ち着くのかもしれない。
だから、音楽を聴いていると落ち着くのか?
圭が昔言っていた。
「音楽を聴きながら作業するのって、実は完全に静かな空間で作業するよりよっぽど効率よく、集中出来るんだよ」
一理ある。
かと言ってここで、また五月蝿くしてもいい、なんて言い辛い。叱ってしまった手前、そんなことも言い辛い。
……では、どうしたものか。
「……なあ」
「え?」
といったことを考えていたら、声が掛かった。暗くてよく見えないが、声から察するに理世だ。
「どうしたの?」
「美紀ってさ、胡桃の奴と知り合いなんだよな」
「……まあ」
……くるみ先輩の話か。
くるみ先輩と理世は、色々あって不仲だ。互いに互いを嫌っている。
理世は軍人の娘だという。だが、くるみ先輩は、それが気に食わないのだ――無理もない。
「……あいつは、なんで、その……軍というか、そういうのを嫌ってるんだ?」
「……それは」
私は返答に窮した。
これは、本当に隠しておきたいことなのだ。嘗て私たちに何があったのか――あの災厄のことを話すのは、私の一存では決められない。
特に今は……ゆき先輩が居る。
今のゆき先輩は、多分災厄の渦中にあった時以上に不安定な状態だ。ちゃんと現実を見れてはいるけれど、しかし、それでもまだ完全に戻ってこれたとは言い難い。そんな状態の先輩を刺激するのは……避けたい。
「……そういうのは、くるみ先輩から直接聞いたらどう? 話すきっかけにもなるし……私からは、言えないな」
「……そうなのか」
「うん。まあ……くるみ先輩も、心の底から貴女を嫌ってるって訳じゃあないし……きっと」
「きっと、って」
理世が苦笑した。実際、苦笑するしかないだろう。理世からすれば、本当に訳も分からず嫌われているという状況なのだから。
だけど――。
「別に、隠し事を咎める気はないけれど」
「!」
今まで黙って聴いていたであろう、翼の声が聞こえた。
「隠し過ぎっていうのは、良くないよ――お前にとってもさ。人は本質的に隠し事の出来ない生き物だから、隠せば隠すほど、それはストレスになってしまう」
「…………」
「……まあ、まだ一年ちょっと付き合いだしね――そこまで信用が置けないのは、無理ないさ」
「……別に、信用していない訳では」
「いいよ、別に――でも、いつかは話してほしい。それは一年先でもいいし、或いはもっと先でもいい――信じれると思ったなら、いつか私たちに話してほしい」
「…………うん」
――信じれると思ったなら、か。
……でも、信じた所で、どうにかなるような話でもない。寧ろ、この話を信じる奴が居るのかどうかという話だ。
……ああ、こう思うことがつまり、信じてないってことか――信用出来ていないってことか。
「まあぶっちゃけ、その話が漫画の参考になるかもしれないと思ったからこんなこと言ってるだけなんだけどね」
「ははっ……まあ、確かに、ね」
実際、あの騒動だけで独立した漫画が描けるレベルだろう――スクールライブ、みたいなタイトルで。
……それにしても、雰囲気が少し暗くなってしまったか? 何てこった、静寂なんて生易しいレベルじゃないか。ただでさえ周りが暗いのに、私まで暗くなってどうする。
空気を、明るくしないと――と思ったけれど、全く明るい話題が思い浮かばない。肉球の触り心地について喋ろうと思ったけれど、流石にそれは脈絡がなさすぎる。
「ねえねえみーくん」
「ゆき先輩?」
と困っていたらゆき先輩が話し掛けてきてくれた。
「あのお馬さん、凄く変な姿してるよねー。なんだかガイコツみたい」
「ガイコツ……っぽいですね。そう言われてみれば」
私は馬車を引っ張る馬を見た。
それは黒い毛を持つ馬で、ところどころ骨ばっていた。わざわざ馬車馬を任されているだけあってただの馬ではないようで、背中に翼が生えていた。翼もまた骨ばっていて、蝙蝠を連想した。
「怖いんですか?」
「そんな訳あるまい! この私を誰だと心得ておる! 百戦錬磨の丈槍由紀であるぞー!」
「何キャラですかそれ」
「寧ろ格好いいと思うくらいだよ! ねえ、みんなもそう思うよね!!」
ゆき先輩は呼び掛けた。まさかゆき先輩、この空気を変えるために道化を演じて……!?
と、少し見直しかけたのだが……が、みんなの反応は薄いもので。
「何が?」
「んー? どうしたのゆっきーちゃん」
「格好いい? どれが?」
「何の話?」
「えっ……」
あれ?
と思ったが、そうだ、そもそも何の事について話していたのか聞こえてなかったのかもしれない。そりゃあそうだ、人の話している内容を聞き耳立てて聞くとか、中々に失礼なことなのだから。
「えっと……ほら、この馬のことですよ」
「馬?」
「荷車を引いてる馬――黒くて見えにくいですけれど……」
「何言ってるんだ美紀?」
「え?」
理世は言った。
「馬なんて、どこにも居ないじゃないか」
「っ――――!!?」
私は思わずゆき先輩を見た。笑顔を凍りつかせたまま、首を傾げている。
他の人たちを見回した。顔はちゃんと見えないけれど、リアクションから察するに――不思議そうな顔をしているの、かも……。
……え?
私は馬車の先頭を見た。そこには確かに、見え辛いけれど、馬がちゃんと居た。
――からかうような雰囲気じゃなかった。
――え?
いやでも、ゆき先輩は見えて……っ!
いや待て、ゆき先輩に見えているんだぞ?
あのゆき先輩なんだぞ?
見えないものをずっと見ていた、ゆき先輩に見えている――。
「っ!! っ――――!!」
嘘だろう?
まさか。
環境が急激に変わった所為で、私も知らない間に、狂っていたのか?
「ゆ、ゆき、ゆきせんぱ」
「もー、冗談キツイなあ! ほら、そこに居るじゃない! 格好いいお馬さんが!」
「〜〜〜〜っ!!!」
駄目だ、消えない、視界から馬が消えない!!
誰にも見えてない、私とゆき先輩には見えている、そんな、そんな――!!
もう私は――正常じゃあ、ないのか。
石を轢いたのか、馬車がガタンと揺れた。
ただでさえ心が揺さぶられているのも手伝って、その揺れは地震に匹敵するほどのものであるように感じた。
馬車は森の中を通り抜け、灯りが点々と見えてきた――ホグワーツは近い。
[038] 霞に霞む木船、及び蛇の川流れ
(語り部 : 奈津恵)
な、なんとか間に合ったよ〜。
私たちが乗ったお船は一番最後のもので、本当なら四人乗りだったのだけど、三人で乗ることになりました。
このお船には魔法が掛かっているらしく、漕がなくても勝手にホグワーツに向かっています。良かった〜。私たち、あんまりお船を漕いだ経験はないから、もしも自分で漕ぐんだったらどうしようと思っていたところだったよ〜!
「チノは、ボート漕いだことあったよね? 確か」
「はい。モカさんのサポートありきでしたが」
「私たち、モカさんとあんまり遊べなかったからね〜」
モカさんはココアちゃんのお姉さん。ココアちゃんとは比べも……えっと……凄くお姉ちゃんオーラを出している人です。この説明で分かりますか……?
「それにしてもさ、魔法使いってボートにも乗るんだね。私、てっきり魔法の絨毯か箒にしか乗らないと思ってたよ!」
「魔法使いって、そういうイメージが強いからね〜」
おとぎ話とかでは、杖と箒はセットで登場するので、すっかりそういうイメージがついちゃっています。
「でも、こういう神秘的っていうの? そんな感じの場所にあるっているのは、やっぱりイメージ通りなんだね」
「そうだね〜」
辺りは深い霧に包まれていて、真っ白。すぐ近くの水面くらいしか見えません。神秘的だよね〜。
でも、なんで霧とか霞みがかったものとかって、神秘的に見えるんだろう? うーん。
「そりゃあれだろ。神秘っていう字には"秘"って字が入ってるじゃん? ってことはつまり、神様が秘したもの、隠したものってことで――えっとつまり、こういう秘密めいたものに、私たち人間は魅力を感じるのだ、みたいな!? うわ、すっげー今私良いこと言ったんじゃね!?」
「自分で言ってどうするんですか」
成る程〜。秘密だから、魅力的なんだね!
確かに、秘密っていう言葉を最初につけたら凄く興味出てくるよね! 秘密の町、秘密の扉、秘密の部屋なんて!
「秘密の部屋か……ホグワーツにもそういうの、あるのかな?」
「どうだろうね? でも、魔法使いの学校っていうくらいだし、もしかしたらあるんじゃないかな?」
「マジかよ! じゃあ何としても、それを探し出さないとね!」
「そうだね!」
「チマメ隊、第一任務けってーい! 隠し部屋を探そー!」
「おー!」
「お、おー……でも、第一任務は勉強ですからね」
「分かってるって! な、メグ!」
「魔法のお勉強も、楽しみだもんね〜」
魔法使いの授業って、どんなことをするのかな〜? 呪文の勉強をしたり、空を飛ぶ訓練をしたり……そんな感じかな?
でも、きっと楽しいんだろうな〜!
霧が少しずつ晴れてきました。点々と灯りが見えてきます。ホグワーツが近いのかな?
「やっぱさ、魔法使いって言ったら呪文だよ呪文! 物を飛ばすやつとか、ココアがよくやってたじゃん? あれやりたいな、あれ!」
「呪文ですか……でも、正直怖そうじゃありませんか?」
「怖い?」
「はい。もしかしたら、呪いを掛ける授業とか、そういうのがあったりして……」
「それはそれで面白そうじゃん! 呪いってあれだろ? ザキみたいなやつだろ?」
「それは呪いとかそういう次元じゃない奴ですよ。一撃必殺すぎます」
「ザラキ! ザラキーマ!」
「なんで即死系に拘るんですか!? どこの神官ですか!」
チノちゃんがツッコミを入れます。やっぱりチノちゃん居てのマヤちゃんのボケだよね〜。
因みに、これはドラゴンクエスト4のネタで……あれ? 知ってるの?
「大体、そんな簡単に命を奪う魔法なんて、ある筈ないでしょう。そんなのあったら、この世界が滅んでいます」
「あるかもしれないぞー? アブラカダブラ、みたいな適当な呪文かもしれないぞー?」
「それだと相当な人が犠牲になってそうなんですが……」
……な、なんだか怖い話になってきたよ〜。
う……本当にちょっと怖くなってきた。水面でも見て落ち着こう。
水面はお空の星々の光が反射して、キラキラとしていました。綺麗だな〜。
あはは、こんな綺麗な場所で、そんな怖い呪いのお話しするなんて、何が何だかだよ〜。
あ、向こうから人が流れてきたよ。わあ、この湖って人なんかも流れてくるんだね〜。魔法界って不思議なところだな〜って!?
ひ、人ぉ!?
「マママヤちゃん!! チチチノちゃん!!」
「え? 私がママ?」
「メグさん? 私、メグさんの父親になった覚えは……」
「ち、違う違う! す、水面! 向こう! み、見て!」
「「?」」
うぅ、チノちゃん程上手にツッコめないよ〜! じゃなくって! チノちゃんとマヤちゃんは、私が指差す方向を見ました!
「なっ……ひ、人が流れてますよ!?」
「まさか、死体!?」
「怖いこと言わないでよマヤちゃん〜っ!!」
あ、あわわわわ! どど、どうすれば!? こ、このまま素通りする!? ででで、でも、生きてたらどうしよう〜!?
人が近付いてきました――あ、何か叫んでる!
「助けてー! 助けてー! ここまで全力で泳いできたら途中で力尽きて溺れてしまったー! 助けてー!」
す、凄く説明的な救援要請だけど、でも、助けを求めてる、んだよね!?
「た、助けないと! でも、どうやって――」
「マヤさん! 恐らく緊急時のために乗せられていたであろうオールが八本ありました!」
「多いな!? でもチノでかした!」
きっと四人乗りだから八本あるんだね。わあ、やっと解説っぽいこと出来た〜! いや、じゃなくって!
私たちはオールを一本ずつ掴んで、水面に浸けました!
「これに掴まれ!」
「これに掴まって〜!」
「いいえこれに掴まって下さい!」
「いやどれに掴まればいいのかな!?」
あっ、ツッコミを入れてくれた〜! きっとこの人良い人なんだろうな〜! いやいや、そうじゃなくって!
確かに、三つも掴まる先があったらどこに掴まればいいのか分からないよね……えっと、えっと――
「ここだーっ!!」
「いいえこっちですっ!!」
「こ、こっちだよ〜っ!!」
「だからどれだい!!?」
凄〜い、三人とも同じタイミングだったよ〜。流石チマメ隊だね! じゃなくって!
「――じゃあ真ん中!!」
と言うと、流れてきた人はオールに掴まりました! 真ん中は――マヤちゃんです!
「っしゃあ!!」
「マヤさん、手伝います!」
「お手伝いするよ!」
三人で一本のオールを持ちました。共同作業だ〜!
「って、軽っ!?」
「うわっ!?」
「えっ!?」
力一杯オールごと引揚げようと、力を入れた――のだけど、私たちが思った以上に軽くって、勢い余って私たちは後ろにコテンと倒れてしました! 三人一緒にやっちゃったから、そんなに重く感じなかったのかな〜。
いたた……背中打った……はっ、そうだ! さっきの人は!?
居た! オールに掴まったまま、咳をしていました! 良かった、無事だったんだね〜!
「だ、大丈夫ですか? 一体なんで……」
チノちゃんが対話を試みました。
「けほけほけほっ……いやあ、ちょっと色々あっちゃってねえ――ったく駅への入り口を封印するとか、何しやがるんだか……」
「入り口を封印?」
「ああ、こっちの話だよ。気にしなくて全然構わないさ――どうせ犯人のアテはついてるからね」
「犯人? えっと、誰かから追われてんの?」
マヤちゃんが聞きました。
「んー。まあまあ、そうかな? まあ追っ手というか、邪魔しいと言うかね――いずれにせよ、こっからはそこまで手出しは出来ないだろう。私の勝利だ。今はね」
「「「?」」」
?
えっと……どういうことなんだろう? マヤちゃんを見てもチノちゃんを見ても、頭の上にハテナマークを浮かべてるように見えます。
と、取り敢えずもう安心……ってこと、なのかな〜?
「おっとこれは失礼。初対面の相手に名乗るのを失念してしまったよ。私ったらドジっ子なんだ!」
その子は立ち上がりました――髪の毛からは水が滴っているけれど、乾かしたら凄くふわふわしてそ〜……もふもふしてそう! 銀色の髪の毛で、凄く綺麗。チノちゃんみたいな色だなあ。
「私の名は《アフルディーナ・グリース》と言うんだよ。よろしくね! きゃははっ!」
アフルディーナ・グリース……外国の子なんだ! って、ここイギリスだし、当たり前か〜。
「よければ君たちの名前を教えてくれるかな? 呼ぶ時に困るのよ」
「はいはーい! 私、マヤだよ! 条河麻耶!」
「メグです! 奈津恵〜!」
「私はチノです。香風智乃」
「へえ、日本人か! よろしく、マヤ、メグ、チノ!」
凄く人当たりが良さそう。マヤちゃんみたいだね〜。あ、でもドジっ子って言ってたから、私に似てるのかな? いやでも髪の毛チノちゃんみたいだし……あれ〜?
「で、君たちさえ良ければなんだけど、このままこの船に乗せてもらっていいかな? ほら私ってホグワーツ新入生なのよ。恐らく君たちと同学年ということだね!」
「そうなの!? いいよ! これ本当は四人乗りだったし、丁度いいよ! いいよな、メグ、チノ!」
「私は構いません」
「おっけだよ〜」
「おお、優しいね! じゃあお言葉に甘えて乗船させて頂くよ! ホグワーツはすぐそこと言えども、流石にもう泳ぐのは体力の過剰消費だからね! いやはや、河童の川流れならぬ蛇の川流れって奴かな? きゃははっ!」
アフルディーナちゃんはそう言うと、船の端っこに三角座りで座りました。そんなに端っこにいかなくてもいいのに〜。
「いやいや、私は姉と違って良い子だからね。その辺の分別は弁えてるんだ。姉と違って良い子だからね!」
「お姉さんがいるんですか?」
「そうそう! でもこれが困った姉でねえ。反抗的な姉なのさ。私なんか素直で良い子なのに、どうして姉はああなっちゃったんだろうね? いやあ困るなあ! 私は良い子なのに!」
良い子を強調するな〜。
でも、自分でそこまで言うってことは、きっと本当に良い子なんだろうな〜。この子のお姉さん……どんな人なんだろう?
「おっと! 見えて来たよ! あれを見て!」
「え?」
と、アフルディーナちゃんが言いました。私たちは振り向きました。
霧はもうすっかり晴れて、周りの様子がよく分かります。私たちの目の前に建っていたのは、とっても大きなお城だったのです!
「これが――ホグワーツか!」
「大きいです……!」
「わぁ〜〜〜!」
「きゃっははは! ホグワーツホグワーツ! 楽しい愉しい学校生活の始まりだー!!」
アフルディーナちゃんはケラケラと笑いました。凄く色んなことを楽しんでそうな子だなあ、と思いました。
とうとうホグワーツへ入るんだ……でも、さっきのお話を思い出すと、ちょっと怖くなってきたな。
……危険なことが、なければいいな。
予定より遅れてしまいました。申し訳ありません。個人的には中旬辺りに投稿したかったのですが……。
それはそれとして、漸く次回、組み分けです。果たして智乃、麻耶、恵はどの寮に入るのか? お楽しみに。
次回は2月下旬辺りに……投稿出来るように努力します。