※告知事項※
・1万字程度です。
・前編を見ても見なくてもあんまり問題ありません。
・他、何かあれば書きます。
【第62話】
特急列車の騒がしい旅 後編
[033] 月光少女のふわふわ座談会
(語り部:小路綾)
しの達はちゃんとコンパートメント、見つけられたかしら? 私は思った。
ホグワーツ特急に乗車して、最初は一緒にコンパートメントを探していたのだけれど、途中でカレンが、
「折角なので、二手に分かれて別々のところに入りまセンか!?」
なんて言うもので。私は、出来る限り離れない方がいいとおもったのだけれど、どういう訳か、私以外の全員がカレンに賛成だった。あの香奈でさえも。
みんな、危機感無さすぎよ! いくら二度乗った電車と言っても、ここは日本じゃないのよ! 離れないようにしないと!
と言おうとしたのだけれど、とてもそんなことを言えるような空気でもなく。私たちは二手に分かれることになり、しの、アリス、カレン、穂乃花と別れたのだった。
残された私たち――つまり、陽子、香奈、ルーナ、そして私は、そのまま廊下に立っている訳にもいかず、何とかこのコンパートメントを探し当てたのである。
コンパートメントの中には、緑色の長椅子が両側に一脚ずつ、大きな網棚が一つ、設けられていた。前回乗車した時はフレッドさんたちのコンパートメントに乗ったから、今回のこのコンパートメントが、通常の大きさのようだ。
それぞれ二人ずつ――香奈とルーナ、私と陽子で座った。場所に深い意味はなく、普通にじゃんけんで決まった。
一応言っておくけれど、陽子が隣の席になったからって、別に嬉しくはない。寧ろ迷惑なくらいだ。何せ陽子ときたら場所を勝手に決めちゃったり(私が窓側、陽子が通路側)、私の荷物を勝手に奪おうとしたり(網棚に乗せてくれるためだったらしいけど)、好き勝手し放題。もう、陽子ったら! まあ確かに窓側は嫌いじゃないわよ、特急から見る景色、私は好きよ。窓側は寒いと言うけれど、車内は暖房が効いているから別に気にならないし、揺れも、魔法か何かで無くしているのか全然感じないから、まあ別ににいいけど。網棚に乗せてくれたのも、陽子が良かれと思ってやってくれたことだから別にいいけど。でも、でも……!
「ああもう、陽子のバカ!」
「何が!?」
驚いた顔をする陽子――何よその顔、何で驚いた顔までちょっと様になってるのよ、なんなのよもう!
…………。
「あっ、声に出てた?」
「出てたよ! 思いっきり大声だったよ!」
「ごめんなさい、ついうっかり……」
「うっかり!? うっかりであんな大声でんの!? つーか、え、綾いつも、さっきみたいなこと思ってんの……!?」
「ま、待って! 誤解よ! 誤解なのよ陽子! わ、私が言いたかったのは、つまり、つまり、つまり……つまり何よ!!」
「いや知らねーよ!?」
うわああぁぁぁぁぁっ!!! もうなんか頭の中がごちゃごちゃしててよく分かんない何がどうしてどうなってうわああぁぁぁぁぁっ!!! 陽子陽子陽子陽
(語り部:日暮香奈)
あらら、またやって……。
…………えっ、あれ、私?
え、何、それは? 途中で語り部変わるとか、そういうのもアリなの? えぇ……。
ま、まあ、頑張ってみよう。
こほん。
何故だか綾ちゃんが暴走している。そして陽子ちゃんのツッコミも止まらない。私とルーナちゃんはその痴話喧嘩に似た光景をただ見守ることしか出来ず、そして混ざりたいとも思わない。少なくとも私は混ざりたくない。
というか、出来るならこの場から去りたい。無駄に意地を張らず、穂乃花と一緒に行けば良かった。
だって綾ちゃんと陽子ちゃんだけならまだ、し、も……。
「アヤ、きっと熱暴走してるんだね。あの症状はどう見ても熱暴走だもン」
隣の子がこれだもん……。
「……熱暴走って?」
「知らないの? パパが言ってたことなんだけれど」
「ゼノフィリウスさんが」
「うん。パパが言うには、魔法族が混乱するとき、それは大抵熱暴走菌が魔力を食べているときなんだって」
「魔力食べるって、それ、魔法族にとっては結構致命傷なんじゃない?」
「ううん、ちょっと食べるだけ。でも、食べられるとこんな風に、暴走しちゃうんだって。それが熱暴走」
「ああ、そう……なんだ」
……どう反応すればよいのやら。
魔法界、だっけ? に来てまだ一年ちょっとしか経っていない私が知らないだけのことかもしれないから、あんまり何も言えないんだけど……空想というか、妄想染みているというか――うーん、何とも言えない。
出来れば綾ちゃんに意見を仰ぎたいところだけれども、二人はと言うと、
「だいたい陽子はいっつもそうやって勝手にずけずけと色々やってくれちゃうんだから!」
「何だよー! 別に悪いことしてないだろー!?」
「いつもいつも勝手にずけずけとハートを盗んじゃって陽子のバカー!」
「ハートって何だよ! トランプか!? ババ抜きのこと言ってんの!?」
「陽子のバカバカバカバカー!!」
「何でぇ!?」
痴話喧嘩の真っ最中。もう結婚してしまえ。末長く結ばれて爆発してしまえ。
何というか、綾ちゃんも綾ちゃんだけれども、陽子ちゃんも陽子ちゃんだよね……ハートをトランプのハートと勘違いするか普通。鈍感通り越して、それこそ本当に馬鹿なんじゃ……あっ、そういえば期末試験の結果散々だったって言ってた……。
…………。
まあ。
まあまあ置いておこう。今それはどうでもいい。いや、長期的な目で見れば全くどうでもいいことではなく、どうでもあるのだけれど、取り敢えず今は置いておいて。
「……前からちょっと気になってたんだけどさ」
「何?」
「ゼノフィリウスさんの言うこと、貴女、どれくらい信じてるの?」
「全部だよ?」
「……全部って」
「全部は全部だよ――だってパパが嘘吐く訳ないもン。嘘を吐いたら魔力が暴走して、死んじゃうんだってさ」
「……それも、ゼノフィリウスさんから?」
「うん――まあ、正直者でも、死んじゃう時は死んじゃうんだけどね」
「あぁ、えっと……お母さんのこと?」
「うん。ママは嘘なんて一回も吐いたことなかったなあ」
「…………」
ルーナちゃんはふわふわとした、どこか浮ついたような目をしながら、懐かしむように――そして年甲斐もなく達観しているかのように、そう言った。
私は断片的にしか聞いていないのでよく知らないのだけれど、ルーナちゃんのお母さん――『パンドラ・ラブグッド』というらしいのだが――は、ルーナちゃんが幼い頃に亡くなったらしい。
死因は、魔法実験中に起きた、不慮の事故――魔法実験と聞くと、まだいまいちこの世界観に慣れていない私からすれば、あまりピンとくるものではないのだけれど――らしい。
実験が好きな女性で、その時の実験は魔法薬関連の研究――そしてそれは、彼女にとって一大研究だったらしい。
研究内容は不明――だが、どうやらそれは、成功すれば『魔法薬研究学会』から勲章を授与され兼ねないほどの研究だったという。凄い。
が、先程述べた通り、それは失敗――彼女は帰らぬ人となり、彼女が貰うかもしれなかった勲章は、別の誰か――現魔法薬研究学会副会長が所有しているらしい。それについて、私は多少思うところが無くはなかったが、しかし当のルーナちゃんは、
「しょうがない」
の一言で、片付けてしまうのであった。
閑話休題。
「周りの人は、みんな、パパとママを嘘吐きっていうの。でもおかしいわよね、嘘吐きなら、今頃パパは死んじゃってる筈なのに」
「……よく平然と、そんなこと言えるね」
人の死について、しかも自分の親について、そんな淡々と、死んじゃってる筈、なんて、普通言える訳がないと思う。私は言えない。だから普通なんだろうけれど。
……この子は、ちゃんと現実を見ているのだろうか?
もしかしたら、もう――。
「そんな事ないよ」
「え」
「私は正気よ? だって、そうじゃなければおかしいじゃない。じゃあ、何で私には『セストラル』が見えるの? 狂気の中に居て、死を受け入れまいと逃げている人には見えないあの子たちを、私が見る事が出来るのは何故なの?」
「……さあ」
セストラル?
何だそれは――と思ったけれど、深くは追求しない。呑まれたくない。
「それは、私が正気である何よりの証拠だもン。違う?」
「知らない」
「じゃあ知らなくていいや――それに、ママが言ってたんだ」
「……ゴーストの?」
どうやらこの魔法界では、亡くなった人間はゴーストとなって現世の、限られた場所を闊歩する事が出来るようだ。信じ難いことだけれども、しかし真実である。私も何度か、いや、たった一年だけで幾度となく、見たことがある。
随分と便利だけれど、しかしそれは、未練がましく死を受け入れない臆病者であることの証明だとか何とか――。よく分からないけれど。
「ううん。ママのゴーストには、一回も遭ったことないなあ」
「じゃあ、生前?」
「そう――死んじゃった人は、みんな、すぐそこに居るんだって。姿が見えないだけで、いつも私たちの側で見守ってくれてるんだって」
「……へえ」
適当に相槌を打った。実際、これくらいが適当だろう。いや洒落ではなく。
何だろう、結局胡散臭いことをルーナちゃんに吹き込んでいるのは、パンドラさんもゼノフィリウスさんも変わらなさそうなのだけれど、パンドラさんの方は、何というか。
優しい。
そう思った。私がそう思うだけかもしれないけれど。
「だから私は、ママが死んじゃった事は、今は全然平気だもン。今だって、ママはすぐ側で私の事を見守ってくれてる」
「……そう」
ルーナは、相変わらず浮ついた――夢見心地のような目をして言った。
「多分、コンパートメントの外で」
「あ、入っては来てないんだ。一杯だものね」
「もしくは、特急の外で」
「いや流石に特急の中へは入れてあげて!?」
「ママ、きっと走ってるね」
「うわ辛そう! 辛そうっていうかパンドラさん足速いなあ!!」
「あ、窓に! 窓にお母さんが!」
「怖いわ!! 見守るどころか、寧ろ危害を与えてるでしょうが!!」
「わあ、本当にツッコんでくれた。あんまりあんたと話した事なかったから、一度ツッコまれてみたかったんだ」
「私をツッコミしか喋らないみたいに言わないで!? というか、さっきまでの話全部これのための振り!?」
「うん」
「振りにしては手が込みすぎよ!? あのシリアスな空気は何!?」
「シリアス?」
「分からないならいいやもう!!」
ああそうだ、この子、シリアスとかそういう話ではなく、普通に平常心で、あの話してたんだった……淡々と話してたのだった。
やれやれ――私、この子のこと、苦手かもね。
「そもそも陽子は――」
「何だよ、綾だって――」
「…………」
そして、この二人も――というか、え? まだ喧嘩してたの?
[034] ウィーズリーの悪戯披露会
(語り部:黒川真魚)
みんなもこっちに来ればよかったのにー。と、まおはそう思ったっす。
ホグワーツ特急に乗車して、最初からずっと一緒にウィーズリー家一丸となって分かれることもせず別れることもせずコンパートメントを探していたのだが、途中でフレッジョのどっちかが、
「お、ここ空いてるな」
「ああ、ここ空いてるな」
なんて言った(どっちか、じゃなくて、どっちも、だったっすね)ので、まおたちは全員万乗一致一人たりとも意を唱える事もなく、フレッジョが発見したコンパートメントに入ったのだった。
みんな、危機感無さすぎっすよ! いくら見知った関係と言っても、相手はフレッジョっすよ! 何仕掛けてるか分かんないっす!
と言おうとは別に思わず(だって言ったところであんまり関係ないし。何かあってもまおだけで脱出するだけだし。多分他のみんなもそうするだろうし)、普通にわいわいとコンパートメントの入室したのでした。
え? ここまでの流れがさっきのセクションと似てる? はっはっは何言ってるんすか、そんなメタ的なことまおがする訳ないじゃないっすかー。はっはっは、偶然偶然意図せぬ偶然。奇跡とも呼べるような偶然っすね。
まあ、それは置いておいて(これ以上の追求は禁止)。
まおたちが入ったコンパートメントは、前回と同じ広さのもの。と言うのも、当然、前回と同じくフレッジョが魔法を掛けてコンパートメントを広げてくれたからだ。いやぁ、ありがたやありがたやっす。
とまあ棒読みめいた感謝もそこそこに(まさか棒読みじゃないと思った人は居ないっすよね?)、まおは席に座った。
席順は、窓側から、まお、柴さん、フレッジョの片方。もう片方の椅子には、若葉ちゃん、モエちゃん、ジニー、フレッジョの片方(え? フレッジョの扱いがおかしい? そんなこと言われても知らないっすよ。どっちがどっちか見分けつかないんだから)。
荷物を置き、まあひと段落ついてからまおたちがやった事は――描写せず、カットさせて頂くっす。
え? カットするなって? えー? いいんすか? 本当にカットしなくていいんすか? ここカットしないと、途方もなく文字数が多くなるんすけどー。ここまで読んでくれてる読者なら、百味ビーンズロシアンルーレットの無駄な長さはよくご存知っすよね?
ええ、そうっすよ。またっすよ。フレッジョめ、あの悪夢の食べ物をまた持って来やがった。お陰で口の中がゴム一色っすよ(一食だけに。一週目でハズレ引いた)。
いやあ、中々今回はハードだった……。
と言う訳で描写はなし! 取り敢えず勝者だけ述べておくと、柴さんだったっす畜生。
「なんでよりによって柴さんなんすかねー。個人的にはジニーちゃんかモエちゃんを予想してたんすけどー」
「何でボ、私が勝っちゃダメなんだよ」
「だって柴さん地味じゃないっすかー! コメントし辛いしー! 意外と意外性も無いしー! 誰が得するんすかこの結果ー!!」
「お前喧嘩売ってるんだな!? そうなんだな!?」
「お、喧嘩か? いいぞ、潰し合え」
「最後に残った方に新商品をくれてやるよ」
相変わらず面倒臭い柴さん。そしてそれ以上に面倒臭いフレッジョ。何すか新商品って。絶対ロクなもんじゃないでしょ。
「新商品って何ですか!? 私、とても気になりますわ!!」
おおう、流石お嬢様。好奇心旺盛である(好奇心旺盛……お嬢様……気になります……)。
「へへ、驚くんじゃねえぜ」
「わぁびっくりー」
「おい、茶化すなよジニー」
限りない棒読みで驚いた振りをするジニーちゃん。うーん、そういう役はまおの役の筈なんすけどねえ。まあいいけど。
「まあ、勝者が決まれば教えてやる。それまでは秘密だ」
「だから早く潰し合えよ」
「お前ら屑だなあ!!」
おっと、柴さんがキレている。面白いなあ(他人事みたいに)。
「僕はマオに賭けた。お前は?」
「僕はナオに賭ける。ジニーは?」
「賭けること前提なの? じゃあナオ」
「わ、私は真魚ちゃんに賭けますわ!」
「いや若葉ちゃん、賭けの意味分かってる!?」
ふむ、五分五分っすか。やれやれ、まおと戦って柴さんが勝つと思っている愚か者が半数もいることに驚きっすよ!
「さあ、柴さん! 勝負っす!」
「何でそうなるんだよ!?」
「覚悟っすー!!」
「ちっ、ああもう!!」
――そんな訳で、まおと柴さんは三日三晩、血で血を洗うような戦いを繰り広げた――訳もなく勝負は一瞬でついた。
ひょいっと。
「おい!? ちょっ、眼鏡返せ!!」
「嫌っすよーだ!」
眼鏡をまおに速攻で奪われた柴さん。眼鏡がないと色んなものが半減する柴さんにとって、これは痛手。勝負もままならないだろう。ということでまおの勝ち。わあ早い。
これを卑怯とか言う人は……まさか、居ないっすよね? これも立派な戦略っすよ。何せ無血で戦いを終わらせたんすから。
痛い思いはしたくないし、させたくないっすから。
「ちっ、マオの勝ちか」
「ナオ、もっと頑張ってよ。眼鏡くらい何よ」
「流石真魚ちゃん! 私は信じていましたわ!」
「ほら、勝ったぜ。金貨を寄越せ」
口々に喋る4人。モエちゃんはオロオロとしていて居心地が凄まじく悪そう。可哀想に(他人事みたいに)。
「ええい、可哀想は可哀想でいいけど、ボクのことは可哀想と思わないのか! 眼鏡! 早く返せ!」
「えー? どうしよっかなー?」
「か、え、せぇぇぇえええ!!!」
「あーもう五月蝿いっすねえ。あんまりまおの機嫌を損ねると、ついついうっかりして眼鏡を全力で床に叩きつけるっすよ」
「それ絶対うっかりじゃないだろうが! どう考えても故意だろうがっ!!」
「はいはい。じゃあ投げるっすよー、そら取ってこーい」
「通路ォォォオオオ!!?」
まおはコンパートメントのドアを開け、眼鏡を放り投げようとした――柴さんは慌ててドアの外へ――出たところでまおはドアを閉めた。
「おいぃぃ!!? ちょっ、真魚ー!!」
ガンガンガンガンドアを叩く柴さん。騒音被害で訴えられるっすかね?
いやあ、まさか本当に引っ掛かってくれるとは――フレッジョとジニーちゃんが大笑いしてるっす。ふふ、楽しませられたようで何よりっす。
「へいへい柴さーん! そのままそのまま! いつかはドアは開くんだから、その時まで待ってろっすー!」
「待てるかぁぁああ!! っ、あれは――あ、開けろ! 開けろ! 開けい!!」
「はい開けた」
「うわっとお!?」
あんまりにも五月蝿いので有難くもこのまおがドアを開けてやった(感謝しろ)のだが、柴さんはドアを叩いていたので勢い余ってコンパートメントに滑り込んだかのような姿で倒れこんだっす。どっ(いつもの4人(まお含む)が笑う)。
「お前らなあ!!」
「ははは! いやあ、まさか引っ掛かるとは思わなくて――ははは!」
「真魚……お前、これから暫く夜道に気をつけろよ」
「何すかもう、酷いっすねえ。まおたち友達でしょ?」
「友達を部屋から追い出す自分は酷くないとおっしゃるか」
「まおは悪くないもーん」
「いや悪いのは全面的にお前だよ!」
全く折れずにまおを有罪に仕立て上げようとしてくる柴さん。やれやれ。諦めの悪い奴っす。
「いつまでもそんなこと言ってると、また放り出すっすよ」
「やめろ、もう、マジでやめろ」
「いいじゃないっすか。別に何も減らないだろうし」
「減るんだよ! 胃の耐久値が減るんだよ!」
「胃ぃ?」
耐久値とかいうゲーム的用語が普通に出てくる辺り柴さんだなあと思いつつ(流石はフラグ回収の直。いやあ、あの様子は友達であることを差し引いても結構引いたっすねえ)、胃?
というか、よく考えてみればさっきからえらく外に出たがっていないような(自然的な反応のように思えないこともないっすけど、でもまおは悪くない)。どうした?
「ねえ柴さん、外に出たあの一瞬に、何かあった?」
「ロックハ」
「オッケー、分かったもういい」
「早えなおい!」
柴さんを遮った。
オッケーオッケー、そこまで聞けばもういい。どうしてこのタイミングでロックハートさんの名前が出て来るのかは皆目意味不明もいいところなのだけれど(つーか理解したくない)、どうせ面倒臭いことであろうことは想像に難くない(アリスちゃんも大変っすね――え? いや、アリスちゃん絡みでしょ? ロックハートと言えば)ので、関わりたくない。
「まおは関わりたくないから、柴さん絡んできてよ」
「やだよ! つーか、自分が嫌いなことを人にやらせるな! どういう神経してるんだお前!」
「いよっ、流石我が家が誇るスリザリン!」
「そんなんだからスリザリンなんだー!」
フレッジョから野次が飛ぶ。いや、別にそれ基本的には誰に言われても構わないんすけど、でもあんたらにだけは言われたくないっすよ。寧ろあんたらのどこがグリフィンドールなんすか。
「まあ柴さんは後で放り出すとして」
「おい」
「で? ほら、フレッジョ。野次ってる暇があるんだったらさっさと新商品を寄越せ。勝ったのはまおっすからね?」
まおは柴さんを左手でひらひらとあしらいながら(柴犬を追い払うが如く。しっしっ)、右手をフレッジョの方に向けて新商品の催促をした。
「まさかここに来て出し渋るなんてことはないっすよねー? あ、もしかして出任せだったんすか? まさかあんたらに限ってそんなことないっすよねえ?」
「せっかち過ぎだろお前」
「ちょっと位待てよお前」
文字数を揃えての返し、お見事(ぱちぱちぱちぱち)。まおはフレッジョの片方の横に座った。つまり、柴さんの場所を奪った(そして即座に奪い返された)。
荷物を漁るフレッジョの片方(多分ジョージ。いや待てよ、フレッドかも……)。奇々怪々なアイテムがそこら中に散乱した(ので幾つか奪取した(かったけど気付かれた))。
がさごそがさごそ。
がさごそがそごそ。
がさごそがそごそ――いや整理しろよ。
「ま、まだですか!? 私、待ち切れませんわ!」
おっと、ここに来て沈黙と好奇心をなんとか保っていたお嬢様が痺れを切らしたぞ。いいぞいいぞ、もっと言えっす。
「そうだそうだー! 早くしろ早くしろっすー! 若葉ちゃんが待ってるんすよ早くしろっすー!」
「なに全責任をワカバに押し付けようとしてんのよスリザリン」
おっと、ここに来て(沈黙を保っていた)影の薄かったジニーちゃんが現れたっす。失敬な。
「失敬なはこっちの台詞なんだけど……誰が影薄いって?」
「ちょっと、地の文読むのやめてもらっていいっすか? メタが過ぎるっすよ」
「あんたに言われたかないわ!!」
おやおや、まおが一体いつそのような横紙破りというか禁忌めいた行為をしたというのやら。知らない。知らない。
「知らばっくれやがって……」
まおを睨むジニーちゃん。結構凶暴な奴っすね、この子。
まるでモエちゃんの真の姿のようだ(嘘)。
「お、あったぞ」
「お、あったか」
と、そこでフレッジョの声。ああそうだ、そもそもまおたちはフレッジョが遅いから暇してたんだった。いやあ、完全に忘れてたっすよ。手段が目的になるってやつっすかね?
「何ですか!? どんなものですか!? ギャルっぽいものですか!?」
「落ち着いて若葉ちゃん!」
興奮気味のお嬢様である――モエちゃん、なんか『落ち着いて』みたいなことしか喋ってないような気がするっすよ? 流石我らが重鎮、モエちゃん。最高に落ち着いてるっす(これでも褒めてるんすよ?)。
「はっ、見て驚け」
「ふん、聞いて驚け」
「「これだ!!」」
と、微妙に勿体ぶってから息ぴったりのコンビネーションを見せつつ見せ付けてきたのは――耳に紐みたいな何かがついた何かだった。
…………。
……ああん?
「な、何ですかそれは!? 凄いです! 何だかよく分からないけれど凄そうですわ! ギャルっぽくはなさそうですけども!」
当たり前だ。流石にこれまでギャルっぽいとか言ってたら、そろそろ頭の方を疑っていたところだったっすよ(若葉ちゃん、自他共に認めるお馬鹿さんっすからね)。
ふむう? さっきは呆気にとられて半ば喧嘩を売っているかの如き反応をしてしまったのだけれど、ユニークなアイテムっすね。フレッジョらしい、というか。
耳のような形をしたオブジェクトに、橙色の紐が垂れている。その形状から察するに、耳に装着して使うんすかね?
「何すか、それ」
「こいつは『伸び耳』という」
「『伸び耳』?」
「そうだ。見て分かるように、こいつは耳に装着して使う」
だろうね。やっぱりね。耳の形してるんだから、そりゃそうっすよね。これでそうじゃなかったら、逆の意味で驚きっすよ。
「そ、そうなのですか!? 私の想像と全く違いましたわ!」
「逆にどんな想像してたんだよ……?」
ツッコむ柴さん。心の中でまおもツッコんでおこう(どんな想像してたんすか!?)。
「装着したら、ドアに近付くんだ。もしもそのドアの向こうで誰かが話していたのなら――その耳から垂れてある紐がそいつを察知し、ドアの隙間に忍び込む」
「紐を伝って、ドアの向こうの会話が耳に入ってくる――まあつまり、盗み聞き出来るって訳だな」
はあん。
って思った。
何というか、思ったより普通というか――いやまあ比較的手軽に盗み聞き出来るっていうのは確かに面白そうではあるっすけれど、如何せんマグル出身であるところのまお達にとっては、盗み聞きする為のアイテムってのは結構そこかしこに溢れていて――特に新鮮さは、いまいち味わえなかったというのが本音っす。
で、それが新商品。
ふーん。
まあ、魔法界には機械ってやつがどうやら浸透してないみたいっすし、盗聴器なんて当然ある訳ないだろうし、そういう意味では、まあ魔法界ではヒットするかもしれない商品っすね。
何のヒットか知らないけれども(店でも出すつもりっすかね?)。
「凄いですわ!! 私感激しました! 魔法って、素晴らしいですわ!」
「若葉ちゃんが言うっすか」
一番盗聴器に囲まれてそうなあんたが言うっすか。要塞級(比喩に非ず)の警備システムに囲まれたあんたが言うっすか。
「だが、残念ながらこいつはまだ試作品でな。完成には至ってないのだ」
「そこで現れたるは争いをおっぱじめようとしていたマオとナオよ」
「僕達は思いついた」
「お前らのどちらかに、試運転させようってな」
「利用しやがったなフレッジョおい」
思わずキャラの崩れた喋り方をしてしまったけれども――ああ成る程そういうことか。だから焚きつけたんすか。
まあ何かおかしいとは思ってたっすよ、たかが喧嘩に勝った程度のことで、新作の発明品をくれる訳がない――実験台になれってか。
新作じゃなくて、試作じゃないっすか。ふざけんな。
「まあ貰えるもんは貰うっすー」
とは言え景品は景品。まおはフレッジョの片方(多分フレッド。いや、ジョージっすか……?)から『伸び耳』を引っ手繰る用にして頂いた。
「感想頼むぜ」
「誤作動頼むぜ」
感想はともかく誤作動なんて望むな。
誤作動なんて起きられたら困るっす。困るったら困る。なまじ頭に近付けて使うものだから、もしも爆発とかされたらまお、死ぬっすよ。良くて意識不明の重体レベルっすよ。
痛いのは本当嫌っすからね――自傷行為から最も遠いところにいる存在、それが黒川真魚っす。よろしく。
さて、『伸び耳』を貰ったところで。
貰ったところで。
ぐへへ。
「グッバイ柴さん!!」
「うおおおおっ!!?」
まおはすぐさま立ち上がり、柴さんの胸元を掴んで引っ張り上げようとしたっす――が、そこはか弱い女の子の細腕(何か文句でもあるっすか?)。柴さんを持ち上げることなんて到底叶わず、すぐに払われた。ちえっ。
「な、なんのつもりだお前ぇぇっ!?」
「いやあ、早速これを試してみようと思って――これを使えば、柴さんの狼狽っぷりを更に高音質で楽しめるっしょ?」
「なんで私を実験台に使うんだよ!? 別に私じゃなくていいだろうが! つーか、誰でもなくていいだろう! 動作確認したいんなら、どうせ外にロックハート先生居るんだし、その声を聞けばいいだろう!」
「嫌っす。万が一気付かれたら面倒過ぎる」
「じゃあ使うなよ!? つーか、何でボクなんだよ!?」
「柴さんだからっすよ!!」
「逆ギレすんなや!! そんなんだからスリザリンなんだよ!!」
むう。
何故だろう、スリザリンという単語が一種の悪口と化している――そんなに嫌っすか。そんなに蛇が嫌っすか。穴熊め。
まさしく、(端から見れば)一触即発――そしてその様子を心から面白そうに見ているフレッジョは、どう見てもグリフィンドールというか、獅子ではなかったと思う。こんな道化めいた獅子が居てたまるかっすよ。
そんなんで、何でスリザリンじゃないんすか。
まおは――何でこんな程度で、スリザリンなんすか。
1月中に投稿したかったー! 前回の後書きでフラグめいたこと書いてたのに……不甲斐ない。
それはさておき、いよいよ次回、入学式――ではなく、もう1話挟みます。ホグワーツへの道中が無駄に長いですが、どうかお付き合いくださいませ。
2月中には組み分けしたいと思っています。