ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせいたしました。見苦しい言い訳は後書きにて。

※告知事項※
・一部文章矛盾修正。
・他、何かあればここに書きます。


特急列車の騒がしい旅 前編

【第61話】

特急電車の騒がしい旅 前編

 

 

[030] 情けない姉の姿を見ないで

 

「ははは! 訳わかんなすぎだよー!」

 

 9と3/4番線へやって来た、ホグワーツ新入生――条河麻耶の第一声はそれであった。

 ダイアゴン横丁、ノクターン横丁での一幕を終え、それから暫く経ってから。ついに、ホグワーツへ向かう日がやって来た。

 ホグワーツ特急に乗車することの出来る9と3/4番線へ向かうには、少々奇妙な方法を取らねばならない。ロンドンにあるキングズ・クロス駅、9番線と10番線にある間にある柵に向かって突進するという方法である。奇妙というか、マグルの目線から見れば狂っているもいいところだが、しかしよく考えてみてほしい。魔法界関連のあれこれはマグルにバレてはいけない。ならば、マグルが愚かにも狂気の一言で切って捨てるこの方法こそ、最適解と言えまいか?

 とは言え、初めてその方法を体験する者はほぼ例外なく、麻耶のような感想を抱くことだろう。マグル出身であれば、尚更である。

 

「まあ、誰だってそう思うよな」

「逆に思わなかったら精神性を疑うところですよね」

「そこまで言うか!?」

 

 そう言うのは理世と紗路。先行して9と3/4番線へ向かったのだ。幾ら好奇心旺盛怖いもの知らずの麻耶と言えど、いきなりこんな方法を告げられて二つ返事で従う訳もない。なので、二人は先に向かうことによって手本を見せた訳である。そしてその甲斐あって、麻耶に続いて残りの新入生もやって来たのである。

 

「ぶ、ぶつか――――ら、ない? あ、あれ〜?」

「…………っ! こ、ここは!?」

 

 奈津恵、香風智乃だ。そしてその後ろから同じくやって来たのは、心愛と千夜。FFIメンバー、集結。

 

「ね? お姉ちゃんの言った通りでしょ! 私が可愛い妹に嘘なんて吐く訳ないんだからー」

 

 得意げに心愛が言う。何が得意げなのだろうか。

 

「ココアさんの場合、嘘を吐かないんじゃなくて、嘘を吐いてもすぐにバレる、が正解なんじゃないですか」

「えっ!? ……そ、そうなの、千夜ちゃん!?」

 

 心愛は慌てて千夜に確認を取った。確認された千夜も急だったので慌てた。

 

「えっ!? うーん……確かに、心愛ちゃんの嘘は、すぐにバレる……? でも、ココアちゃんが嘘吐いたこと、本当にあったかしら?」

「な、ないよっ! ……多分!」

「流石ココアちゃん〜! 正直者なんだね!」

「メグちゃん……っ! そう! 私は正直者なんだよ! 閻魔大王の前でだって、私は嘘吐かないからね!」

「閻魔大王の前で嘘吐かないのは誰でもそうですよ……舌を抜かれますし」

「あれ、そうだっけ」

「やれやれ」

 

 智乃は肩を竦めた。

 

 ……因みにどうでもいい話だが、閻魔大王が死者の言葉の真偽を見抜くために使用するのは浄玻璃の鏡だが、ホグワーツにも似たような代物があったりなかったりするらしい。それこそ真偽の程は不明だが。

 

 閑話休題。

 

「あら、ルキちゃんたちだわ」

 

 揃ったところで、しかしゆっくりともしていられず、人混みの中カートを押しながら進む7人。その人混みの中から千夜が見つけたのは、ロングボトム家の面々であった。

 

「あ、千夜ちゃん! みんな! 久し振りね」

 

 色川琉姫が言う。

 

「うふふ、久し振りねー。元気だった?」

「まあ、それなりにね。夏休み中にやっておきたいこととか色々あったから、寝不足気味ではあるけれど……ふあぁ……」

 

 欠伸する琉姫。目元は涙で潤み、目の下には隈が出来ていた。一瞬ボーッとしたような表情になる――その瞬間だけ切り取るとまるで発情し「久し振りの登場なのに、やめてよ!!」

 

「小夢ちゃん久し振りー!」

「心愛ちゃんも久し振りー!」

「「がしっ」」

 

 態々効果音を口で言いながら抱き合う二人。百合百合しい。

 

「百合……はぁはぁ……さ、最高です……はぁはぁ」

 

 そして、瞬きせずにその光景を目に焼き付けようとする薫子。変質者か何かのように見えるが気の所為だろう。

 

「おっと、かおすちゃんが混じりたそうな目をしているよ」

「ようし! じゃあ私たち二人でもふもふして差し上げよー!」

「はぁはぁ、ふふふ……え、えっ!?」

「「もふもふー!!」」

「と、飛び火するなんて――もがががががが!!」

 

 獣めいた目で薫子に躙り寄り、そして左右から薫子に飛び掛かった小夢と心愛。左右からもみくちゃにされ、というかモフられ、軽く混乱しているものの、割とまんざらでもなさそうであった。

 

「……他の人に迷惑です」

 

 頬を少し膨らませて智乃が言う。

 

「妬いてる?」

「妬いてません」

 

「じゃあ焼いてるの〜?」

「何をですか」

 

「己の心の内に燻る邪悪なる暗黒の焔を」

「燻ってませんし邪悪でもありませんし暗黒でもないです」

 

 麻耶、恵、そして悪ノリして来た翼にツッコむ智乃。数少ない常識人側のキャラなのだ、彼女は。

 

「お久しぶりです、翼さん」

「うん、久し振りだね。元気そうで何よりだ」

「翼も全然変わってねーなー! 何言ってるか相変わらず分かんねーもん!」

「……ふっ、君にもいつか分かるさ。いずれこの扉を叩く日が来る」

「どうしよう、すっげえ成長したくなくなってきた」

 

 中々に悪影響を及ぼす翼。智乃と麻耶は呆れたような冷たい目。

 

「もう、つーちゃん! この子たちはまだその領域まで拗らせてないんだから、もうちょっと手加減してあげて!」

 

 琉姫が翼を諌める。翼の言語回路を理解出来る数少ない人物のうちの一人である。後は小夢、カレン、若葉くらいしか居ない。

 

「あ、ロリコンのるっきーじゃん」

「つーちゃん!? ちょっ、もう! あらぬ事を吹き込まないでよ!」

「でも若い子は好きでしょ?」

「私だって若いわよ!」

「否定しないんだ……」

「ひ、否定するわよ! もう!」

 

「わ、私たちのこと嫌いですか〜!?」

「いきなりショッキングなカミングアウトだよ!」

「ど、どこがいけなかったのでしょう……!?」

「ち、違う! 違うわ! うわぁぁぁああああん!!」

 

 琉姫は半狂乱になりながらホグワーツ特急に乗り込んだ。が、荷物を持っていないことに気付き、戻ってきた。

 

「なんで戻ってきちゃったの。コンパートメント取っといてくれれば良かったのに」

「あっ……そう言われてみればそうね」

「……モカさんじゃないですね」

「「うん」」

「?」

 

 琉姫の評価が何段階か下がったようである。それは果たして喜ぶべきことなのか、それとも。

 

「ほらほら、はしゃぐのも良いけど、まずは場所取りだ。今の内にさっさと乗り込もう」

 

 理世が言う。流石は軍人の娘、冷静な判断力を持っている。

 

「そうね。……そういえば、ネビル君は?」

「ああ、ネビルはもう友達と一緒に乗ったわ。ふふ、ちゃんと友達が出来るかどうか心配だったけれど、大丈夫だったみたいね」

 

 琉姫の言う通り、少し前にネビルはディーン、シェーマスと共に乗り込んだ。他のメンバーより比較的早い段階からネビルを知っていた琉姫たち――特に琉姫は、気が気でなかったのだろう。

 

「そ、それくらいのことでお姉ちゃんぶってんじゃないよー!」

「何の話!?」

 

 唐突に心愛。姉であることを自身のアイデンティティとしている彼女にとっては、姉オーラめいたものを出している琉姫は看過できないのかもしれない。

 

「こうなったら、私が一番早く場所取りするんだからー! お姉ちゃんを舐めないでよねー! 行くよ、小夢ちゃん、かおすちゃん!」

「おー!」

「あっ、そ、それじゃあお先に――はわわわわ!?」

 

 心愛と小夢は薫子を引っ張りながら特急に乗り込んだ。が、やはり荷物を持っていないことに気付き、戻って来た。

 

「……おっちょこちょいですね、本当」

「こ、こんな情けない姉の姿を見ないでぇー!」

 

 智乃に嘲笑され、顔を真っ赤にしながら荷物を引っ掴んだ心愛であった。

 

 

[031] 迫り来る似非金髪

(語り部 : アリス・カータレット)

 

 特急に乗り込んだ私たちは、まず座席を確保しなければなりません。一年目ではフレッドさん、ジョージさん、リーさんの力を借りたけれど、流石に何度も力を借りる訳にはいかなくて、廊下を彷徨い歩いていました。

 けれども、そう都合よく見つかるものではなくて、私とシノ、カレン、ホノカはやっぱり彷徨い続けていました。

 

「もー! やっぱりフレッジョのとこに行けば良かったんデスよー!」

「ダメだよカレン、ちゃんと私たちで探さないと」

「カレンちゃん、場所探し飽きてきたんだね」

「疲れマシター!」

 

 カレンってばまた我儘言って……コンパートメントを探し始めた時はあんなに楽しそうだったのに。というか、そもそも最初に提案したのはカレンでしょ……。

 でも、いい加減見つかってもいい頃なんだけどなあ。シノはどう思ってるのだろう? 私はシノを見ました。

 

「ねえシノ、全然見つからないね」

「そうですね……。あ、でも、私はまだまだ歩いていられますよ! 金髪が私に力をくれますから!」

「本当?」

「本当です! ああ、それにしても、アリスの金髪は本当に綺麗ですねえ……」

「も、もう、シノったら〜!」

 

「アリス〜」

「シノ〜」

「アリス〜!」

「シノ〜!」

「アリス〜!!」

「シノ〜!!」

 

「……カ、カレンちゃん……わ、私たちも」

「やりマセンよ」

「だよねー!」

 

 ホノカがカレンに共鳴を申し込んでいる横で、私たちはがっぷりと抱き合いました。

 ああ……凄く落ち着くよ……これがシノ、和の香りが常に漂っていて……いい……。

 ずっとこうしていたい……ずーっと、ずーっと、ずーっとこのままいつまでも――。

 

「HAHAHAHAHA!! 特急内でお熱いね、アリス! しかしこのロックハート先生の目の黒いうちは、不純同性交際は認めませんよ! 異性交際ならまだしもね!! HAHAHAHAHA!!!」

 

 …………。

 …………。

 

 ……ちっ。

 

 嫌になるなあ……なんでよりにもよってこのタイミングで出てくるかなあ。なんでいるの、この特急の中に。

 

「……どうも、ロックハート先生」

「HAHAHAHAHA!! やあやあアリス! 気は変わったかい? 今なら私のコンパートメントが空いているから、お友達も一緒にいれてあげよう! どうかな?」

「…………」

 

 うわ卑怯!

 なんて卑怯な――というか、こんなことをニコニコ笑いながら言う? 普通言う? 何この人ー……。完全にタイミング見計らって出て来たよね。

 

 ホノカとカレンはいつの間にか遠くに離れて観察してるし……いや助けてよ。なんでこういう時は同じ行動をするの。気があってるよね、二人とも。

 

 こうなったら最後の頼みの綱にして最大の頼みの綱、鋼のような綱に頼ろう! いやまあ自分でなんとかしろっていう話ではあるのだけれど、これはどうにもならない……こういう人本当苦手なんだよね……。

 

「……シ、シノ」

「ふふふ、いい話を聞きましたね、アリス! ロックハートさんのコンパートメントは空いているらしいですよ! お邪魔させて頂きましょう!」

「えーっ!?」

 

 えーっ!?

 ちょ、えっ、えーっ!? 気でも狂ったのシノ!? そんな! シノならなんとかしてくれると思ったのに、まさか、そんな!

 

「HAHAHAHAHA!! 意外と話の分かるお嬢さんじゃあないか! ミス・コケシ!」

「ははははは。私の名前は大宮忍ですよ。覚えて頂きたくもありませんけれども間違えて頂きたくもありませんので覚えて下さい似非金髪」

 

 ……あっ、これ絶対シノ怒ってるね。うん、私の早とちりみたいだね。きっとシノには何か考えがあるんだよ! だ、だよね!

 

「さあ、行こうか、アリス!! 私達の愛の巣(コンパートメント)はこっちだよ!! HAHAHAHAHA!!!」

 

 素直に気持ち悪いです。

 

 ロックハート先……先生は高笑いしながら歩き出しました。私たちも嫌々ながら渋々と彼に続きます。そして平然と付いてくるカレンとホノカ……。

 ええと……そ、そんな訳で、コンパートメントを手に入れることが出来たのですが。これからどうなるのでしょうか?

 隣のシノはにこにこ笑ってるし……ああ、胃が痛いよ。

 

「……安心してください、アリス。あの人にアリスは触れさせませんから」

「し、信じていいんだよね?」

「勿論ですとも――金髪少女の為ならば普段の100倍の速さで回転する私の頭をお見せ致しましょう」

「シノ……」

 

 やっぱりシノは凄いなあ。その自信がどこから来るのかは知らないけれど、シノが言うことには大抵間違いはないし、頼りになるよ!

 

「さあ、ここだよ! HAHAHAHAHA!! さあ、入りたまえよ! 何せこのギルデロイ・ロックハートのコンパートメント――ここに入ることが出来る名誉は、マーリン勲一等にも値し――」

 

「はい無駄口ありがとうございます! アリス、カレン、穂乃花ちゃん! 入りましょう!」

「えっ!?」

「Yes !!」

「分かったよ!」

 

 え!? え!?

 シノはロックハートせ、先生が喋っている隙をついて、即座にコンパートメントの扉を開けると、私の腕を引っ張って中に連れ込みました。それに次いで、ホノカとカレンも急いで乗り込みます。

 

「あっ!? ちょ、君、ミス・コケシ――」

「私は忍です! さようなら! ずっと列車内を彷徨ってください!! がちゃり!」

 

 ロックハートせん、先生が慌てて扉に手を掛ける前に、シノはすぐに扉を閉め、何故か効果音を口で言いながら扉の鍵を閉めました。

 

 ――開けなさい! そこは私とアリスのコンパートメントだ!

 

 ロックハート先生の声がうっすらと聞こえます。ですが、このコンパートメントの防音設備はほぼ完璧。本当に薄っすらとで、まるで気になりません。

 流石シノ……やっぱり、シノは凄いなあ! ロックハートせ……ロックハートさんから逃げるのと同時に、コンパートメントも手に入れるなんて、まさに一石二鳥だよ!

 

「ありがとうシノ! 流石シノ! シノ天才!」

「ありがとうございますアリス! 照れますよアリス! アリス素敵です!」

 

 私はシノの手を握りました。シノも私の手を握り返してくれました。

 そしてそれと同時に、部屋がガタン、と揺れました。ホグワーツ特急が、発車したのです。

 

 

[032] これは魔法界の洗礼だ

(語り部 : 香風智乃)

 

 特急列車に乗るなんて経験は、生まれてこのかた一度もありませんでした。私は木組みの街で生まれて以来、一度しか街を出たことがないからです。その一度も、特急を使ったのではありませんし。

 なので、この特急列車の旅は私にとって、とても新鮮なものでした。列車の中って、こんな風になっていたのですね。

 びっくりです。

 幾ら本である程度の知識はあったとは言えども、実際にこうして体験してみると、また違う感覚です。この魔法界に来てから、ずっと驚きの連続です。

 

 それはそれとして。

 

 私、マヤさん、メグさんは、ココアさん、リゼさん、千夜さん、シャロさんのいるコンパートメントのすぐ真横のコンパートメントに入りました。

 中には赤い長椅子が左右にあり、一つの椅子には二人が座れるようになっているようです。四人部屋という訳ですね。

 

 私たちは向かいの椅子に荷物を幾つか置き、置き切れなかった荷物は(殆どがマヤさんのものですが)網棚の上に置きました。落ちてこないか、少し心配ですけれど。

 ……それにしても。

 

「……あの、狭いのですが」

 

 私は言いました。

 

「いいじゃん! 一人だけ向こうっていうのも、なんかアレだろー?」

 

 窓側に座るマヤさんが言いました。

 

「なんだかこの、コンパートメント? の中まで狭いように感じるね〜」

 

 扉側に座るメグさんが言いました。

 そうです、今私たちは、本来であれば二人しか座れないはずの椅子に三人で座っているのです。その狭さたるや。挟まれている私の辛さたるや。

 

「狭いように感じるのなら、誰か向かいに座りましょうよ……何なら私が座りますけれど」

「え!? わ、私たちと一緒に座るの、嫌なのか!? チノ!」

「いやそういう訳ではなく」

「一人だけになるなんて、そんな寂しいこと言わないでよチノちゃん〜!」

「同じコンパートメント内じゃないですか! 全然一人じゃありませんよ!」

「チマメ隊はいつでもどこでも一緒だろ!?」

「いつでもどこでもという訳ではありませんけれど、少なくともこのコンパートメント内にいる限りはどこに座ろうと一緒ですけれど!」

「わ、私たちには飽きちゃったの〜!?」

「ココアさんを慕うのは良いですけど、言動までココアさんに汚染されないでください!」

 

「「はい、ナイスツッコミ!!」」

「影響され過ぎです二人とも!!」

 

 私は立ち上がり、向かいの椅子に座りました。ツッコミってこんなにしんどいものだったんですね……リゼさんの苦労が身に染みて分かります。

 マヤさんもメグさんも、少し不満そうな顔をしていますけれど……いやいや、そんな顔をされても、私の意志は揺らぎませんよ。何でわざわざ自分から苦行を積まなければならないんですか。私は悟りを開く気なんてありません。

 

「全く……」

 

 私は頭の上に手を伸ばしました。

 

 ……おや? あ。

 

 そ、そうだ。ここにはティッピーが居ないのでした。うっかりしてました。またやってしまいました。すっかり癖になってしまっています。

 ……ティッピーを、というか、頭に何か乗せていないと落ち着きません。ココアさんではないですけれども、ティッピーのもふもふを長い間触っていないのは、ティッピーを頭に乗せ始めてから初めての経験ですし。

 

「あはは、そんなに落ち着かないなら、ティッピーの代わりになるペットでも飼ったら良いじゃん」

「飼ったら、って……簡単に言いますけどね」

「まあそりゃあ、動物とかイマイチ飼ったことのない私ならまだしもさ、チノはティッピー飼ってたじゃん。世話とか出来るでしょ?」

「いやまあ……」

 

 ……厳密に言えば、世話をしていたというか、世話が掛からなかったというか……寧ろ世話されてたというか……。

 

 まあ詳しくは言いませんけれども。

 秘密の一つや二つ、あるものです。

 

 というか、別に私は絶対に兎を頭に乗せて置かないと駄目って訳ではないのですけれども。落ち着くのは確かですが。

 マヤさんなりに、心配してくれているのはよく分かっているのですが、かと言ってこれはそんな簡単に決めていいようなことではありませんしね。

 シノさんは――まあ。

 

「じゃあ、ペットを飼うまでチノちゃんの頭に乗せるものを考えないとね〜」

「いや別に……」

「よし! じゃあシノのプチアリスを乗せよう!」

「やめて下さい。私の身が色々と危なくなりそうなので」

 

 どうもあの人の私を見る目は、なんというか、こう……ココアさんに似た何かを感じるというか。

 

「じゃあ何乗せる〜?」

「そもそも乗せることを前提としないでください……何も乗せなくて結構です」

「マジかよ!?」

「の、乗せなくても、チノちゃん生きてられるの〜!?」

 

 私をなんだと思ってるんですか。

 

「だって、チノって頭に何か乗せてないと、ステータスが最低値になるじゃん」

「確かにティッピーやあんこを乗せるとステータスは多少上昇しますが、最低値にまでは下がりません」

「チノちゃんの本体って、ティッピーと思ってたよ〜!」

「ティ、ティッピーは兎ですよ。人間の本体になれる訳ないじゃないですか」

 

 まあ。

 似たような状況になっていないとは言い難いものがあるのですが……。

 

 ……はあ。本当に緊張感の欠片もない二人ですね。これから魔法学校なんて場所に向かうというのに。お陰で私の緊張が吹き飛びましたよ、どうしてくれるんですか。

 

 と、その時ドアがノックされました。

 

「「「!」」」

 

 ドアが開きました。

 ドアをノックし、開けたのは、カートを押した年配の女性でした。この方は? 魔女なのでしょうか。

 

「車内販売ですよ。お嬢さん方、何か買うかい?」

「車内販売?」

 

 車内販売! そんなものもあるのですか……そう言えば聞いたことがあるような無いような。カルチャーショックです。

 

「マジ!? お菓子とかある!?」

「ちょっ、マヤちゃんったら〜」

 

 一切遠慮しないマヤさん。どこからそんな度胸が出てくるのでしょうか。尊敬しそうになるのでやめてほしいです。

 

「勿論ありますよ。蛙チョコレートや百味ビーンズなんてポピュラーなものから――」

「蛙チョコレート!? じゃあそれ欲しい! それと、その、百味ビーンズ!! 3箱ずつ!!」

「毎度」

 

 ……わお、です。

 マヤさんはそう言うと、販売員の方から蛙チョコレートと百味ビーンズを3箱ずつ受け取ると、財布(ココアさんから貰ったドラゴン革のものです。ドラゴン?)から銀貨を幾つか取り出して、販売員の方に渡しました。すっかり順応してますね。

 

「他に欲しいものは?」

 

 と聞かれたマヤさんがまだなにか買おうとしましたが、あまり無駄使いをする訳にもいきませんしメグさんと二人で止めました。

 販売員の方は、扉を閉めて行きました。次のコンパートメントに行くのでしょう。

 

「えへへ、蛙チョコレート、これ見た時から食べてみたかったんだよなー」

 

 と、言いながらマヤさんは蛙チョコレートの風を破り、箱を開けました。メグさんも箱を開け開けます。私も興味が無い訳ではなかったので、開けてみました。

 

 ――ゲコ、と。

 開けた瞬間、"それ"は鳴きました。まあ確かに、それは当然と言えば当然のことでしょう。なにせ蛙ですし。蛙の声で鳴くのは、当然のことでしょう。

 

 でしょうけども。

 

「ほ、本当に動いてます……」

 

 そう、このチョコレート、動くのです。蛙チョコレートの名に恥じず、蛙宛らに、動くのです。

 ダイアゴン横丁を探検した時、この蛙チョコレートが飾られたショーケース自体は目にしたのですが……まさか実物もこうだとは。

 

「すげー! 本当に動いてるー! ははは! よーし、倒して経験値にしてやるー!」

 

 と、マヤさんは蛙チョコレートを掴もうとしました――が、このチョコレート、再現度が明らかにおかしくて。お菓子なのに、限りなく生き物に近い動きをするのです。軽く食欲が失せる程に。

 マヤさんが掴もうとした蛙チョコレートは、即座に飛び跳ね、窓に飛び付き、そのままよじ登ると――窓の隙間から、外へと逃げてしまいました。

 

「わぁ〜、凄いね、このお菓子〜!」

 

 メグさんは蛙チョコレートをもぐもぐ食べながら言いました。……何気に何やってるんですか、メグさん。凄いですね。よく掴めましたね……というかよく食べれますね。

 

「そ、そんな馬鹿な……逃げるなんて」

 

 マヤさんは頭を抱えました。

 

「……残念でしたね。私のチョコレート、あげましょうか」

 

 私は言いました。

 

「マジ!? サンキューチノ!」

 

 と言いながらマヤさんは掴もうとしましたが、またもやチョコレートは飛び跳ね、さっきと全く同じルートを辿って逃亡しました。

 

「「…………」」

「マヤちゃん、チョコレートから嫌われてるの〜?」

「チョコレートが嫌うってなんだよ……」

 

 マヤさんがツッコんでくれました。有難いです。少し楽出来ました。得した気分です。

 マヤさんはまたもや頭を抱えました。

 

「こ、これは魔法界の洗礼だ……魔法界、恐るべし……っ!!」

 

 マヤさんはそう言いながら、百味ビーンズの箱を開けました。

 ……百味ビーンズ、その名の通り百の味があるのでしょうか? 魔法界って、本当に不思議なところですね。 

 カルチャーショックしかありません。

 

「ま、これは大丈夫だよねー! 頂きまーす!」

 

 マヤさんはそう言うと、ビーンズを幾つか手に取り、一気に口の中に放り込みました。

 百味と言うくらいなのだから、一粒ずつ味わってたべれば良いのに――と思った私は、この直後起こったことを考えると、どうやら、間違ってはいないようでした。




 Q.今まで何やってたんだおい A.忙しかったんです
 Q.何が? A.もう片方の連載作品に注力していたので……
 Q.本当のところは? A.モンハンやってました

 はい、言い訳は以上です。遅れに遅れて誠に申し訳ありませんでした。幾度となく予告を無視して、本当に、上がる頭がありません。
 もうこれからは確定するまで予告しません。なんとなくの予告をすると確実に遅れるということを再認識致しましたので。すみません。次回は1月中に投稿出来れば投稿したいです。

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