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【第60話】
人類皆妹宣言発令
[027] にびいろラブハート
(語り部:アリス・カータレット)
「さあ、そういう訳だから結婚しよう!!」
「まだ続いてたー!?」
話数が変わったからもう終わった後の時系列と思ってたのにまだ続くの!? もういいでしょこの話!?
「いいや、そうはいかない! 私は君にYESと言ってもらえるまでずっと言い続けるぞ! HAHAHAHAHA!!」
「Help help help help help help !!!!!」
も、もうやだよ〜!
ああほら、歓声をあげていた人達がみんな私を睨んでるよ……私みんなの悪者だよ……なんでこんなことに……!
っていうか私は嫌がってるんだから、どう見ても色目使ってるようには見えないでしょ!? なんで私を責めるの!? 本当私何もしてないんだけど!?
「アリスは絶対に渡しません! アリスは私のアリスなんですから!」
「シノ……!」
いや、別にシノのものって訳じゃないんだけど……まあ似たようなものだからいいか。
「そ、そうだよ! 私はシノのものなんだから! あ、貴方に構っている暇なんてないんだよ!」
勢い付いて私も言う。二度も振っちゃったけどまあいいか。
あーもうこれで諦めてくれないかなー、さっさと去ってくれないかなー、なんて思ったけれど現実はそう簡単にはいかないもので。
「HAHAHAHAHA!! まあね、今は確かにそうかもしれない……けれど、この私がホグワーツに赴任したからには、君が卒業する頃には君は私の虜になってしまうのSA! HAHAHAHAHA!!」
「――」
そうなんだよね……この人学校に来るんだよね……。
っていうかなんでダンブルドア先生この人起用したの? 去年度末のあれといい、もしかして私嫌われてるの?
……いや、いやいや、私何もやってないから!! 何回だって言うけど、私何もやってないから!!
「HAHAHAHAHA!! まあ、今日はこの辺で退散しようか。一応今は握手会の途中でね! まだまだ私との握手を心待ちにしている子猫ちゃんが山ほど居るのSA! ではね、アリス! ホグワーツで会おう!! HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
「――」
ロックハートさんは笑いながら、人混みの奥へと戻って行った。
なんかもう……嵐みたいに色々過ぎ去って行ったけど、訳分からないよね……。
「アリス、大丈夫ですか? 病原菌がうつっていませんか? 変なところ触られてませんか? 金髪は大丈夫ですか? 怪我してませんか?」
「シノ……!」
ああ、シノ……シノ……! シノはこんなにも私を心配してくれてる……こんなにも私のことを思ってくれている……うん、私シノのものでいいや!
「うん、大丈夫だよシノ! 心配してくれてありがとう!」
「それは何よりです! アリス!」
「シノ!」
「アリス!!」
「シノ!!」
「アリス!!!」
「シノ!!!」
がばっ、と私はシノに抱き付いた。
ああ……やっぱりシノの側が一番心地いいよ……天にも昇る心地だよ……。
「あぁアリス、アリス、アリス、きん、きんぱつ、きんぱつ〜」
シノは私の髪に顔を埋めた。シノと一体化してるみたいで、凄く落ち着く……。
落ち着いたといえばまあ状況は落ち着いたので、みんなが私の所に集まってきた。
「アリスちゃーん、大丈夫だったっすか〜?」
「マオ……」
どの口が……明らかに楽しんでたでしょ貴女……。
「いやいやそんな事ないっすよ? フレッジョにノリ合わせてただけっすし。まおは悪くないもーん」
「…………」
そんなんだからスリザリンなんだよ。
思わざるを得ない。
「おいおい、俺たちの所為にするのはやめろよなマオ」
「そうだぜ、俺たちの所為にするのは責任転嫁だマオ」
「いやいや、フレッジョだって絶対楽しんでたっしょ」
「「まあな」」
「ほら」
「ほらじゃないよ……」
この三人は本当に……。
「素敵な殿方とは言い難い……のでしょうか? 私その辺には疎いのですが」
ワカバが言う。……疎いんだ。悪い男の人に騙されなければいいけど……。
まあ、人の心配してる場合じゃないんだけども。
「いいや、意外とあれは優良物件だと私は見たね!」
「ナオ!? 大丈夫!? 眼鏡曇ってない!?」
「え? いや、眼鏡はちゃんと毎日拭いてるんだけどなあ」
「そうじゃなくて!!」
「ふふ、冗談だ……」
唐突にナオは壁にもたれ、足を組み、右手を額に当てて顔をちょっと斜め下に向けるポーズをとった。ナルシストっぽい。
「ああいうタイプはな……初めはなんか微妙そうに見えて、接していくうちに成長し、最終的には中々カッコよくなるタイプのやつなのさ」
「へ、へえ」
なんでだろう、あまり参考になる気がしない。
…………。
「ナオ、それって経験談?」
「経験談と言えば経験談だな」
「リアル?」
「いや? 二次元だけど」
「だろうね!!」
そうだろうね!! そうだろうと思ったよ!! だからあまり参考になる気がしなかったんだね!!
っていうか何でそんな"当たり前"みたいな顔してるの? 何で"やれやれ"みたいな顔で私を見てるの?
「それは違うよ!!」
「何だと?」
ここでコユメがナオに反論! 意外なところから来たなあ。
「嫌がってる人と無理矢理一緒になろうとするなんて、絶対良くない! そんな人がカッコよくなる訳ないよ! 本当にカッコいい人っていうのは、最初から内面もカッコいいの! 翼ちゃんみたいにっ!!」
「えっ、私?」
「あっ」
……コユメ、言ってる事は凄く共感できるんだけど、そこで出てくる例が女の子っていうのは……。
いやまあ私も人の事言えないんだけど……実際シノカッコいいと思ってるし。シノカッコいいシノカッコいい本当シノYes!
「は、はわわ!? ち、違いますよ翼さん! い、今のはそういう、そっちなかんじの意味じゃなくて〜っ!! た、たぶん」
「そっち? そっちって何」
「はわわわ〜!」
「?」
見てる方がはわわわだよ。そっち方面の思考が出てくる時点でもうそっちなかんじな意味なんだよ。気付きなよ。コユメもツバサも。
……なんか段々私の話から乖離してない?
まあ良いけどね! 私としてはさっきの事は忘れたいし(ホグワーツに行けば否応無く思い出させられるのだろうけれど)。
「それにしても、まだ失望せずに握手したい、って奴があんなに居るとはねー」
ヨーコが言う。
確かに握手会の行列はまるで短くなっていないように見える――いや、それどころか寧ろ増えているようにさえ。
熱狂的なファン、ね。
「私なんかは何処に夢中になるのか分かんないけどなー。ま、私ならそもそも最初から握手会なんかには参加しないかな!」
マヤが言う。
うん、だよね。私まだマヤのことよく知らないけど、多分ヨーコタイプだもんね、あなた。
「うん、マヤちゃんはお姉ちゃんとの握手会にしか参加しないもんね!」
「は?」
「端的な否定の言葉ー!? 凄く傷付くっ!」
「…………」
お姉ちゃんとは一体……。
っていうか話してもらってた内容と全然違うような気がするんだよね……ココア、妹達には凄く頼られてる立派なお姉ちゃんって印象だったのに。
ガラガラと音を立ててココアの姉像が崩れていく……メッキが剥がれていくようだよ。
「やれやれ、大スター様も堕ちたもんだねえ――お前みたいな穢れた血を好むとはな」
…………。
あ、綾が帰ってきた。
「綾、どうだった?」
ヨーコが聞いた。
「そりゃあもう凄かったわ! とってもハンサムでイケメンで――間近で見るロックハートさんはやっぱり違うわね〜! アリスも、何で断ったの? 人生薔薇色じゃないの!」
物凄く興奮してるみたい。顔が赤くなってる。
「いや……私にはシノがいるからね」
あんなの眼中にないからね、うん。
「勿体無いわ! 今からでも考え直した方が良いわよアリス! しのも!」
「おい聞けよ穢れた血ども!!」
…………。
綾はシノの方を振り返った。
「そんなにアリスを縛りつけてばっかりだと、アリスがしの離れ出来ないわ! これは新しい一歩で――」
「言いたいことはそれだけですね綾ちゃん」
「ひっ!?」
シ、シノが物凄い笑顔! 満面の笑みだよ! 逆に怖いっ!!
「いくら綾ちゃんといえど、これだけは譲れません――これ以上何か言うなら、さっきからそこに居る金髪少年の髪を引っこ抜きますよ!!」
…………。
出来る限り触れないようにしてたのに。
「貴様、気付いてたんならさっさと反応しろ! 穢れた血! 金髪厨!」
シノに暴言を吐く金髪少年――っていうか、ドラコ。シノはそれを見て目を丸くした。
「ド、ドラコ!? なんでこんなところに!? いつの間に!?」
「お前僕以外もターゲットなのか!?」
…………。
面倒臭いのが次から次へと出て来て困るなあ。でも、ロックハートよりはマシか。
[028] 飛んで火に入る金髪少年
(語り部:大宮忍)
「ひゃははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎ひゃああああ⤴︎!!! ドラコ! ドラコじゃないですか!! こんなところで会えるとは思っていませんでした! ああもう相変わらずお美しい金髪ですね本当にもう! どこまで私の目を釘付けにするつもりですか!? ねえ聞いて下さいよドラコ、私さっきとても嫌なもの見ちゃいましてね? いやあもう目が汚れて汚れてそれこそ穢れた目状態ですよ! あれ? 穢れた血でしたっけ? いやどっちでもいいですけども! ひゃははぁ⤴︎⤴︎!! 目の保養になって下さいよドラコ!! 金髪を! 金髪を下さい!!」
「うるっせぇ狂人!!」
まあ、狂人とは。なんということを言うのでしょうか。私はただ欲望に基づいた行動をしているだけなのですが。
いやはやドラコにも困ったものです。ほんの少し金髪を供給してくれるだけで私は取り敢えず満足するというのに、何故くれないのでしょう?
「何故も何もねえよ!! 誰がお前なんかに僕の高貴なる髪をやるか! 僕という存在が穢れるわ!!」
「大丈夫です。たかが金髪一本くらいで穢れませんよ――たかが金髪一本!? なんて金髪を軽んじたことを言うのでしょうか!?」
「自分で言って自分でキレるとかいよいよ狂ってるなお前」
「あら? そうでしょうか」
気付きませんでした。
「やれやれ、金髪のこととなるとつい我を忘れてしまいます……これもドラコとアリスの所為ですよ全く……」
「ナチュラルに私巻き込まれた!?」
「おい、僕とお前でこいつ訴えようぜ」
「ドラコぉ!?」
そ、そんな! わ、私訴えられるようなことまだやってません!
私は助けを目差しに込めてアリスを見ました。アリスは、そんなことしませんよね……?
「…………」
無言のアリス。
し、しませんよね! な、なんで考え込んでるんです?
「……ごめん、ドラコ。私にはシノを訴えるなんてできない」
アリス……っ!!
「何故だ!? そうか、お前オオミヤに脅されてるのか?」
「ううん……だってね、ドラコ。よく考えてみて――シノに金髪を採取されることの、何が駄目なの?」
「うわ、こいつもか」
「いや本当に! よく考えてみてよ! シノに金髪を採られるんだよ!? 喜びこそすれ、訴えるなんてとんでもない!!」
「分かったよ、お前を同志だと一瞬でも思った僕がバカだった」
「アリス……!」
「シノ……!」
「アリス……!!」
「シノ……!!」
「アリスー!!!」
「シノー!!!」
私は信じてました! 信じてましたよアリスぅ!!
私達は強く抱き合いました――ああ、アリスの温もりが感じられます……ふふふ、きんぱつきんぱつ〜。
おや? 皆さんどうしたのでしょうか? 妙に私から離れていっているように見えるのですけれども。
「私達の愛に付いてこれなくなったんだね」
「そうでしょうね」
「引いてんだよ分かれよ」
引いてるとは……ふふ、今更この程度の事で引くような方達ではありません。私の友達は、金髪同盟は、そんなヤワな集団ではありません!
よね!
と、私は後ろを振り向きました。
「いや、私達金髪同盟に入った覚えないし……」
陽子ちゃんがそう言うと、それを聞いた周りの方々も頷きました。
……ええ……。
私の味方はアリスしか居ないのでしょうか……。
そう思ったその時、唐突に心愛ちゃんが抱きついてきました。はい?
「わ、私はシノちゃんの味方だから! お姉ちゃんだからね、妹の味方をするのは当然なんだから!」
「心愛ちゃん……!」
別に妹になった覚えはありませんし、そもそも同い年ですし、先程威圧してきた方が何を仰るのやらとも思いますけれども、嬉しいものは嬉しいで、しっかりと受け止めさせていただきます。
……いや本当、心愛ちゃんは何を考えているのでしょう? この子の考えは本当に読めません。ころころ行動が変わるというか……その場のノリで生きているのでしょうか?
「……ふん」
おや、ドラコが何やらニヤニヤしています。どうしたのでしょうか? 私に金髪を寄越す気になったのでしょうか?
「いやなに――今年度我慢すれば、来年度にはお前を退けることが出来るのだと思うとワクワクしてねえ」
「はい?」
今年ではなく来年? なんでしょう……来年に何かありましたっけ?
「そんな風にいい気になれるのも今年度だけだぞオオミヤ。来年度になる頃には、お前は僕に近付くことすら出来なくなる」
「…………?」
またなんだかよく分からないことを仰るドラコ。どういう事でしょう? まあ、今年は去年度通りに金髪を狙うことが出来るようなので、あまり深くは考えませんけれども。
「じゃあ今のうちに金髪成分の採集しなきゃですね!」
「おい待てなんでそうなるんだ!?」
「ドラコ……今のはミスったね」
「お前ら僕を哀れむような目で見るなよ!?」
「ドーラーコーっ!」
「ぎゃー!?」
金髪下さいな!!
私はドラコの手を握ろうと手を差し出しました――掴んでしまえばこちらのものです。来年度に手が出せなくなるなら、今年度を突っ切るのみです――。
――けれども。
だけども。
「これはこれは――君がオオミヤかね?」
ドラコに届くまであと少しの手が、誰かの手に掴まれました。
「――はい?」
誰でしょう? 私とドラコの邪魔をするとは、なんで酷い人なのでしょう! 誰かは知りませんが、たまには私でもびしっと言ってやることがあるのだ、ということを見せつけて差し上げましょう!
「あの、この手は何ですか? 私の行動を遮るものは、何人たりとも――――っ!!」
勢い勇んで抵抗しようと試みました。
試みましたけれど。
それは結果的に叶わぬ行動でした。いえ、別に手を捻られたとか、その方に何かをされた所為で行動出来なかった、なんてことではありません。そういう意味では、寧ろその方は何もやってきませんでした。私が、自発的に怯んだだけなのです。
――目。
金色の――目。
その方の髪は、ドラコより薄いブロンド色でした。見ようによっては銀髪にも見えるでしょう。ですが、美しい髪です――いえ、髪の毛に目を奪われたのではないのです。
髪の毛と同じ色をした目――その目を見て、私は怯んでしまったのです。
それはあまりにも冷たくて。
それはあまりにも昏くて。
それがあまりにも――怖くて。
「あ――あの」
「やあ、初めまして――オオミヤ」
「っ――――!?」
な、何で私の名前を!?
私の手を離してくれました――こ、この人は一体!?
ふとドラコを見ると、またにやにやと笑っています。何が可笑しいのでしょう?
「父上、助かりました。こいつですよ。いつも僕にちょっかいを出しに来るのは」
「ち、ちちうえ?」
父上、と言うと、お父さん?
え、じゃあ、この人――!?
「そうかそうか、ドラコ――ふむ、正直信じたくはなかったが、しかしこの両目で確かに見させて頂いたぞ――収めさせて頂いたぞ、オオミヤ」
こ――これは。
もしかして、ピンチなのでは……?
「自己紹介がまだだったな――息子を虐める穢れた血に名乗るには勿体無い――私はルシウス。ルシウス・マルフォイだ」
[029] 人類皆妹宣言発令
「っ――――!!」
忍はルシウスから目を逸らし、後ずさった。あらゆるものを凍てつかせる程の冷たい目――本能的な恐怖を感じ取ったのだ。
「す、す、すみません」
「ほう? 謝れば許してもらえると思っていると見える」
ルシウスはステッキの持ち手を撫でた。持ち手には銀色の蛇を模した装飾がなされており、蛇の蒼い宝石の目が忍を睨む。
「ドラコは私の一人息子だ――息子が虐められていると知って、その現場を見て、尚且つ目の前に加害者がいる――何の咎めも無しに、穏便に終われるとは――まさか、思ってはいないでしょうな?」
「っ…………」
忍はさらに後ずさる。真後ろにいた心愛に当たった。
「親の気持ちを少しでも考える事のできる脳があるのであれば、あのような行動には出なかっただろう――調子に乗りすぎたな。穢れた血の東洋人――ふん、役満もいいところだが」
ルシウスはステッキで床を叩いた。カツンという音がしたが、音はロックハートのファンによる喧騒に飲み込まれる。列の中にいる者は、この騒ぎに気付かない。
「少しお灸を据えてやらねばな――うちの息子をいたぶってくれた罪を――罰を――その身をもって、知るがいい」
ルシウスは蛇の頭を掴んだ。そして、まるで鞘から剣を抜くように、蛇を引っ張り上げる――。
ステッキの中に仕舞われていたのは杖であった。杖自体は特に変わった装飾のない黄土色の王道な杖だが、持ち手の蛇は引き抜かれてなお、その生命を失ってはいない。
「っ――――!!」
忍も慌てて杖を取り出そうとする――忍が着ているのは黒色のドレス。ポケット自体は存在しないが、しかしここは魔法界。見えない四次元ポケット的なものがスカート周囲に存在しており、装着者の任意で中にものを収納したり、取り出したりすることが出来るのだ。
マグルの諸君は、このギミックを一見便利なものであると思っているかもしれないがそうではない。このエアポケットは任意で生じるものであり、それは即ち、思考こそがこの魔法の鍵を握っているということである。
思考――それは余計な不純物が混じりやすい、最も不純なるもの。
このエアポケットの操作に必要なのは、雑念なき純粋な思考。この純粋な思考というものが中々難しく、自由自在にポケットを操ることが出来るようになるのには、並みの人間なら半年はかかる。
さて、そこでこの忍である。忍がこのポケットの存在を知ったのは今月の初め。まだ一月も経っていないというこの段階で、果たして彼女がポケットを自在に操ることが出来るだろうか?
答えは否である。
忍は杖を取り出すのに大いに手間取った――ルシウスの早抜きとは比較することさえ、比較される土俵にさえ立てないほどに。
忍の行動は間に合わない――ルシウスは杖を取り出すのも待たず、忍に杖を向けた。
「クル――」
「こらーっ!」
その時である。突然心愛がお叱りの声をあげ、ルシウスと忍の間に立ちはだかった。
「心愛ちゃん!?」
「ココアさん!?」
忍と智乃が驚きの声を上げる。不意を突かれたのか、ルシウスは思わず呪文詠唱を止めた。
「私の大事な妹に杖を向けるとは、なんという不届き者であろー! っていうか、こんな人の多いところで何しようとしてるんですか!」
「…………」
「……あの、助けてくれたのは感謝しますけれど、私は妹じゃありません」
「何を言うんだい!」
心愛は忍の手を握った。
「人類皆私の妹だよ! 出会って三秒で友達、出会って一日で妹! それが私のポリシーだからね!」
「…………」
おかしなものを見るような目つきで心愛を見る忍――側から見れば、どちらも大差ない狂いっぷりなのだが。
「ルシウスさん! 姉の私から妹の粗相を謝罪します! すみませんでした!」
「…………」
ルシウスもまた奇異なものを見る目つきで心愛を見る――そりゃあそうだ。こんなものを見せられて、どんな反応を返せばよいのか。誰も分からない。
「ほら、シノちゃんも謝って!」
「さ、さっき謝ったんですけど……すみませんでした」
忍も訳が分からぬままに頭を下げる。
無表情のルシウスからはその胸中は読み取れない。
「……君は?」
「保登心愛です! ここらではしっかり者の姉として通ってるんですよ」
「……ふむ」
ルシウスは品定めするかのような目で心愛を見た。見たところこの少女も同じく、穢れた血のようであるが――。
「……まあよかろう」
ルシウスは蛇を胴に収めた。
「行くぞ、ドラコ」
「へ?」
素っ頓狂な声をあげるドラコ。
「あ、あの、オオミヤとあいつは……?」
「今日のところは見逃して差し上げることにした――その少女に免じてね。いい姉を持ったことに感謝するのだな――だが、次はないぞ。オオミヤ」
「は、はい」
「ちょっ、待って下さいよ父上!」
「行くぞ、と言ったんだドラコ――案ずるな」
「…………」
ルシウスは人混みの中へと消えていった。それを追ってドラコも走り出す――が、一度振り返る。
「おいオオミヤ!」
「え? ああ、はい。なんでしょう」
「分かったな! もうお前は僕に手出し出来ないぞ! 来年まで待つ必要も無かったな! ハハハハハ!!」
「…………」
「何か言えよ!!」
「金髪ください」
「やっぱ何も言うな!!」
くそっ、と、ドラコは悪態をつきながらルシウスの後を追って消えた。
その場を支配していた緊張感はルシウスの退場とともに消え去った。忍は思わず片膝をついた。
「シ、シノ! 大丈夫?」
「ア、アリス……はい、大丈夫です」
忍にアリスが駆け寄る。
「す、凄いプレッシャーでした……今まで感じたことがない程……でもないですね、はい」
忍が想起するのはチェスの記憶。あの西洋将棋において忍が味わったプレッシャーは、並大抵のものではなかったのだ。ルシウスの目よりも、ずっと。
「でも怯んでしまいましたね……何でしょう、プレッシャーとはまた違う何かが、あの方にはありました」
「違う何かって?」
「それは分かりません」
ルシウスが見せた冷徹な目。その奥で燻る暗黒は、一体何だったのだろうか? 今の忍たちには分かるまい。しかしそれは、彼女たちが平和な状態の世界にいるということの証なのだ。澱んだ暗闇のような世界では、そのような目は希少でもなんでもないのだから。
「もう、シノちゃんってば見境無さすぎだよ! うちの妹には飛びつこうとするし……綺麗な髪の子にはすぐ誘惑されちゃうんだから」
「すみません、他の誰に言われても良いのですけれど、貴女にだけは言われたくないです」
「え? なんで?」
きょとんとした顔で首を傾げる心愛。自覚がないこと程厄介かつタチの悪いこともあるまい。
「見境ないって言っても、私が愛でるのは妹だからね! シノちゃんみたいに、なんでもじゃないんだから!」
「私も金髪一筋なんですけれども」
「みんな私の妹だよ! だから私はみんなのお姉ちゃんなんだから!」
「すみません、誰かタライ持ってきてください。目を覚まさせて差し上げないと」
忍でさえツッコミに回らざるを得ない状況を作り出す心愛。恐ろしきかな。
「人類皆妹なんだよ! そう考えれば皆が幸せな気持ちになれるし、わたしも満たされる……ウィンウィン!」
「ウィンウィンの意味辞書で調べてきてください」
「シノは知ってるの?」
「知りません」
「えぇ……」
「そう! 人類皆兄弟ですわ!」
心愛の手をがっしと掴むツインテールお嬢様若葉。ここに来て乱入。
「私、感銘を受けましたわ! 人類皆妹――なんと素晴らしい響きなのでしょう!」
「若葉ちゃん!? ちょっと、金髪同盟を裏切るんですか!?」
そう、忘れがちだが、彼女もまた金髪同盟の一員。こちらにもまた感銘を受け、去年入盟したのだ。
「いいえ、裏切るのではありません! 掛け持ちですわ!」
「掛け持ちってそんな……クラブじゃあるまいし」
アリスが溜息を吐く――他のキャラは何処へ行ったのか? 当然退避済みである。心愛と忍が揃った結果発生したクレイジーフィールドから、殆どが逃げ去った。その場に居るのは元凶の忍、心愛、そしてアリス、若葉、智乃(逃げるタイミングを失った)。
「掛け持ち……ああ、なんてギャルっぽい響き……!」
「いや何でもかんでもギャルっぽいって言えばいいって訳じゃないからね!?」
「金髪同盟と兎の会を掛け持ちするとは……良い度胸ですね若葉ちゃん!」
「兎の会って何!?」
「ふふん、そんな度量の狭いことじゃ駄目だぞシノちゃん〜。兎の会はいつでもどこでも誰でも入会可能なんだから!」
「それ公式名称だったの!?」
「くっ、まさかこんな身近に敵対戦力が居たなんて……これは今年、忙しくなりますね」
「何の争い!? やめてよ! どっちが勝ってもロクなことになりそうにないよ! 個人的にはシノに勝って欲しいけども!」
「妹だからって容赦しないよー! 姉に勝る妹は居ないということを、その身に刻み込んであげるよ!」
「だから妹じゃないから! シノは貴女のものじゃないから!」
「まあ、シュラバってやつですわね!? 面白そうですわ!」
「もうなんかワカバも大概アレだよね!!」
「今年のホグワーツには嵐が吹き荒れそうですね……金髪の嵐が!」
「嵐っていうかそれただの荒らし! 迷惑!」
「いいや! 妹旋風を巻き起こすのは私だよシノちゃん!」
「妹旋風とか無茶苦茶な単語すぎて聞いてて頭痛くなるよ!」
「どっちも頑張って下さいー!」
「止めてぇぇぇ!!」
ゼェゼェと息を荒くするアリス。確かに彼女はツッコミ側の人間ではあるけれど、しかしここまでのツッコミに耐え得るだけの体力はない。陽子や香奈のようにはいかないのである。
「凄いです……あんなにツッコむなんて」
智乃が言う。
「私、アリスさんを尊敬します!」
「こんなことで尊敬されるって凄く複雑なんだけど!?」
「どうすればそんな風にツッコミが……」
「いやそれはヨーコとかカナとかに聞いて……私には無理だよ、うん」
二人は手を取り合い。狂気の領域から脱出した――と言いたいところだが。
「アリス! どこ行くんですか?」
「チノちゃん! お姉ちゃんを応援してね!」
「「…………」」
未だ脱出叶わず。クレイジーフィールドから逃げ果せた仲間たちは、ただその様子を見守るだけであった。内約3名程は面白がって笑い死にしそうになっていたが。
二転三転する空気、その渦中にいる心愛と忍――兎の会と金髪同盟の初戦は、モリー・ウィーズリーが復帰するまで続いたという。
過去最高に雑な回と言っても過言ではないかもしれませんすいませんでした!!!
いや、言い訳をさせてもらうと、リアルの方が忙しかったんですよ。本当です。っていうのもありますし、プロットが全く思い浮かばないんですよねえ。スランプですよ、はい。
もう一つお詫び申し上げさせて頂きますと、12/31まで、恐らく今作の更新はございません。散々ノルマを破った癖に更に休載宣言とかどんなだよ、と思われるかもしれませんが、思って下さって結構です全く以ってその通り!!
この埋め合わせは必ず致します。作者如きの勝手な都合で作品を遅延させるとはなんと愚かなことか! 申し訳ございませんでした。