ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 長らくお待たせ致しました!


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・約1万3千字。

・他、何かあれば書きます。


ブロッツ書店でのサイン会 その1

【第59話】

金髪でもノーセンキューです

 

 

[022] 書店での邂逅

 

「およよよよよよ……」

 

 (不本意ながら)猛虎率いる四人の漫画家軍団とチマメ隊合体軍に心愛を加え、九人となった少女達+虎。彼女達の買い物はまだ終わっていないのだ。次なる目的地はフローリッシュ&ブロッツ書店。新しい教科書を購入するため、九人の進軍は続く。

 その道中、心愛は泣き続けた。

 

「ごめんねチノちゃん、マヤちゃん、メグちゃん」

 

 心愛が目を擦りながらチマメに謝る。

 

「私がもうちょっとしっかりしていれば、三人とも寂しい思いをする事はなかったのに……頼りないお姉ちゃんを許して〜!!」

「何回目ですかそれ……」

 

 チマメは呆れたように心愛を見つめた。ここにくるまでの道中、約5分間隔で同じ台詞を言い続けていたのだ。

 

「だからもういいですって……調子に乗りすぎた私達も悪かったんですし、お互い様という事で」

「それじゃあ私が満足出来ない! お姉ちゃん失格だよ〜!」

「元から失格してますから安心して下さい」

「うぅ……わ、私、ちゃんとお姉ちゃん出来てたつもりなのに」

「なんで出来てたと思ってたんだ」

「ごめんなさい〜っ!!」

「「「…………」」」

 

 八人は心愛の嘆きを右から左へと聞き流しながら歩き続けた。

 

「あら? 心愛ちゃんじゃないですか!」

「あ、ココアー!」

 

 いい加減心愛を面倒臭く思い始めた八人。謝罪も過ぎれば安っぽく聞こえるものなのだ。例えそれが全てを心の底からの謝罪だとしても――。

 

 まるで夜の闇に囚われたかのように、微妙な雰囲気が流れ始めた頃。書店に到着した九人は、その空気をリセットしてくれるであろう二人の救世主と出会ったのであった。

 コケシめいたおかっぱ少女――大宮忍と、ふわふわツインテ金髪少女――アリス・カータレットである。

 

「あ! さっきフクロウ買ってた人だ!」

 

 麻耶が心愛を指差し叫んだ。

 

「あら? 私たち、お会いしましたっけ……」

「ほら、入り口んとこの椅子に座ってたじゃん!」

「そ、そうでしたっけー」

 

 目を反らす忍。覚えていない様である――だが、忍を責めてはいけない。そんな端っこに座っていただけの見知らぬ人を、どうして覚えられようか。

 

「貴女たちもココアさんのお知り合いだったんですね……!」

 

 智乃が驚いたように言う。実際驚きもしよう。少し見ない間に、自分の知らない心愛の交友関係が凄まじく広がっていたのだから。

 

「うん! そうだよー。……ココア、えっと、この子達とどういう関係なの?」

 

 アリスが心愛に聞いた。逆も然り。アリス達もチマメ隊のことを知らない。

 

「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれたね! この子達こそ私の自慢の妹達だよ!」

 

 先程までの謝罪モードは一瞬にして鳴りを潜め、自慢モードにシフトチェンジ。心愛は三人を手で示す。

 

「この子はメグちゃん! バレエが上手なんだよ!」

「よ、よろしくお願いします〜!」

「うん、よろしくメグ!」

「よろしくです!」

 

 おさげで顔を隠しながら恵が言う。

 余計に付け足されたバレエが得意という情報に食いついたのは、琉姫と翼。

 

「そうなの!? それならそうと早く言ってよ!」

「取材させてくれないかな」

「ええっ!!?」

 

 羊皮紙と羽ペン(琉姫の羽ペンは白鳥の羽で作られたもの。翼の羽ペンは鷹の羽ペン)を持ち、恵に迫る。

 

「この子はマヤちゃん! やんちゃで可愛い妹なんだー!」

「いや妹じゃないけどね」

「よろしくね、マヤ!」

「よろしくです!」

 

 麻耶はアリスに近付いた。

 

「ふーん」

「んー? どうしたの?」

「ふふーん」

 

 麻耶は勝ち誇った顔をしつつ、アリスの頭に手を乗せた。

 

「勝った!!」

「わざわざそんなこと言わなくていいでしょ!?」

 

 そう、アリスと麻耶の身長を比べれば、実は麻耶の方が背が高いのだ。チマメ隊最小の麻耶であるが、その彼女にさえ負けるとは……。

 

「この子はチノちゃん! 恥ずかしがり屋さんでね、いつも私にツンツンなんだよ!」

「私のアピールポイントそんなとこしかないんですか」

「よ、よろしくね、チノ!」

「よろしくです!」

 

 忍は智乃に近付いた。思わず智乃は後ずさる。

 

「な、なんですか」

「ふむ……」

 

 忍は智乃の髪に触れた。智乃はさらに後ずさる。

 

「ほ、本当に何なんですか!?」

「ふむふむ……」

 

 忍は改めて智乃の髪を見た。金髪ではないが、なんと美しい銀髪だろう――。

 

「……銀髪少女もありかもしれません」

「シノ!?」

「智乃ちゃん。これから私と楽しいことしませ」

 

「シーノちゃん」

 

 謎の勧誘をしようとした忍――その肩に、心愛の手が置かれる。

 

「……こ、心愛ちゃん、どうしたのでしょう」

 

 心愛は耳元で囁く。

 

「あのね、いくらシノちゃんって言ってもねー」

 

 心愛は笑顔で手に力を込めた。忍は肩が折れたような錯覚を覚えたという。

 

 

「チノちゃんに手を出すのは、お姉ちゃんがちょーっと許さないかなー」

 

 

 心愛は満面の笑みで忍を見詰めた。

 

「……は、はい」

 

 思わず引きつった笑いが溢れる忍。

 人間というのは、恐怖を感じた時には意外と笑ってしまうものなのだ。

 

「忍さん、どうしたんですか?」

「い、いえ! 何もないですよ〜」

「?」

 

 首を傾げる智乃。忍の肩から手が離れた瞬間、冷や汗がどっと吹き出した。

 

「ア、アリス……アリス……」

「シノどうしたの!?」

「き、きんぱつ、きんぱつ、きん……」

「シノー!?」

 

 ふらふらとアリスの髪に埋もれた忍。困惑の声を上げるアリス。

 

「今日はカレンちゃんとかは居ないの?」

 

 心愛がアリスに尋ねた。

 

「あ、ううん。カレンも来てるし、みんな来てるよ。ちょっと今は解散してて……そろそろ来てると思うんだけど」

 

 アリスは周囲を見回した。

 

 書店には人集りが出来ていた。彼女たちはその人混みを掻き分けて合流した訳だが(掻き分けたのは忍とアリスだけで、心愛サイドは通行人が勝手に道を開けた。猛虎の所為か?)――ブロッツ書店は決してマイナーな場所ではない。十分な売り上げを記録している大人気の書店ではあるのだが、しかし、これ程の人集りは異様であった。

 

 不思議に思いながらもアリス、忍、心愛は他のメンバーを探した(智乃、麻耶、恵は翼たちにインタビューされている)。

 すると――その人混みの中に、居た。

 

「楽しみね! 陽子!」

「んー……そうだな」

 

 黒髪のツインテール、茶髪の短髪少女――小路綾と猪熊陽子である。

 

「何よ、乗り気じゃなさそうね」

「いや、こういうのはあんまり興味ないかなー、なんて」

「もう、陽子ってば! 本物の『彼』に会えるのよ!」

 

 興奮気味に綾が言う。

 

「教科書の殆どを書いてる人なのよ! どんな人なのかしら……」

「そりゃあ、賢い人なんだろうな」

「ふふ、カッコいい人がいいわね〜」

「何で?」

「何で、って……そりゃあ……カッコいいに越したことないでしょう」

「そーかなー……人は見た目じゃないよ? 綾」

「わ、分かってるわよ! もうっ」

 

 綾はツンとそっぽを向いた。苦笑いする陽子。

 

「全く陽子ってば……少しは乙女心を勉強すれば?」

「私も一応乙女なんだけど……」

「そうかしら? 陽子は乙女ってタイプには見えないわね〜。ガサツだからかしら? ふふ」

「ガサツ!? なんだよそれー!」

「そのままの意味よ、陽子!」

「ムキー!!」

 

 ニヤニヤしながら煽る綾とボディーランゲージの激しい陽子。人混みの中でも一際目立つ騒ぎようであった。アリス達は敢えてスルー。

 ふと視線を移動させた――すると、もう一組、見知った人達が同じく人混みの中に居るではないか。綾、陽子の後ろ――。

 

「ああ、もうすぐ『彼』に会えるわ……!」

「ウィーズリーおばさん、すっかりあの人にお熱だな」

「全く、自分の母親が色気付いてるの見るなんて、罰ゲームか何かかよ」

「全くだ、僕たちが何したってんだよ」

「今回ばかりはお前達に賛成だぞ、息子達よ」

「若いって良いね〜」

「いやモエちゃんも十分若いっすよ……」

「人類皆ギャルなのですわ!」

「頭大丈夫? どっかで打った?」

 

 漫談する一団がいた。ウィーズリー一家である。顔を赤らめているモリーを先頭に、真魚、若葉、萌子、ジニー、直、フレッド(ジョージ)、ジョージ(フレッド)、アーサーが並ぶ。

 

「楽しみですね、モリーさん!」

 

 陽子をポカポカと叩きながら綾が言う。

 

「教えてくれてありがとうございます!」

「お礼なんてそんな! 私もこの話題で話せる知り合いが増えて嬉しいわ!」

 

 嬉しそうにモリーが笑う。

 やれやれと言うかのように首を振るウィーズリー兄弟、真魚、ジニー、アーサー、直、陽子。若葉と萌子は微笑ましいものを見るかのように微笑んでいる。

 

「おーい!」

 

 心愛が手を振った。ウィーズリー達はそれに気付いたようで、手を振り返す。

 

「久し振りだねみんな! また会えてお姉ちゃんは嬉しいよ!」

「いやいや、あんた私達の姉貴じゃないでしょうに」

 

 ジニーは鼻で笑った。しかし心愛にはあまりダメージはない。心愛はジニーに飛び付いた。

 

「きゃっ!?」

「ジニーちゃんもふもふ〜♪」

 

 恍惚気味に心愛が笑う。それを見てウィーズリー兄弟も笑う。

 

「おい、聞いたかフレッド? あのジニーが『きゃっ!?』だってよ」

「ああ、聞いたぜジョージ。あのジニーが『きゃっ!?』とはな」

 

 ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべ、もふもふされているジニーを見た。みるみるうちに、ジニーの顔が赤毛の髪と同じくらいに赤くなっていく。

 

「あ、あぁぁぁぁああぁぁ!!!」

 

 錯乱したジニーは暴れるが、心愛はそれを意に介さぬ。ジニーを力任せに強く抱き締め、離さない。

 

「うへへ、もふもふ〜」

「離せ離せ離せ離せー!!」

 

 ジニーは心愛を蹴るが、心愛はそれを意に介さぬ。ジニーを力任せに強く抱きしめ、離さない。

 

「おいジニー、良かったじゃねえか。欲しかった姉貴だぞ」

「いっそココアの妹に籍変えろよ」

「私は許しませんからねッ!!」

「「はい」」

 

 モリーの怒鳴り声に萎縮する二人。心愛はそれを意に介さぬ。ジニーを力任せに強く抱き締め、離さない。

 

「あぁぁぁ、ぁぁ、あ、あわわぁああ、ああああああ!!!」

 

 ジニーは思わず杖を取り出した。先程買ってもらったばかりの新品の杖だ。色は黒く、持ち手の部分はまるで螺旋を描くかのような模様となっている。

 

「レ、レ、レダ、レ――!!」

 

 心愛はそれを意に介さない。だが、それは余りにも愚かな行動であった。心愛は彼女の杖が淡く光ったのを見逃してしまった。

 それは始まりの呪文『粉砕呪文』。覚醒しかかった彼女に気付かない辺り、姉としても二流なのだろう。

 もしもこの後ジニーの注意が他に逸れなかったのなら、心愛は間違いなく死んでいただろう。

 

「そろそろ私達の番だわ!!」

 

 モリーの黄色い声がジニーの気を逸らした。結果、その呪文は遂行されず、心愛は九死に一生を得たのであった――双方ともそのことを知らないが。

 

「ねえ、アヤ。これ何の列なの?」

 

 アリスが聞いた。

 

「ほら、これ!」

 

 綾は壁に張り付いている一枚のポスターを指差した。

 

 

――――――――――――――――――――

サイン会

ギルデロイ・ロックハート

自伝『私はマジックだ』

本日午後十二時三十分〜十六時三十分

――――――――――――――――――――

 

 

 描かれていたのは上記の文字と、輝く真っ白い歯を見せて笑うハンサムな金髪男の姿であった。

 

「へえ、そうなんですか」

 

 にこにこと笑う忍。

 

「あら? しのはもうちょっと反応すると思ったのに」

 

 綾は首を傾げた。

 

「なんでですか?」

「ほら、しのって金髪好きでしょ? だから……」

「おやおや綾ちゃん、私を見くびっていますか? 私が金髪ならなんでもかんでも食いつくと思ったら大間違いですよ」

 

 ちっちっち、と指を振る忍。忍を知るメンバーが一斉に振り向く。

 

「そうなの!?」

「そうなのシノ!?」

「マジで!?」

「「マジかよ」」

「わーお」

「意外っすね」

「意外ですわ」

「そうなんだ〜」

「確かに意外だ」

「そ、そうなんですか」

「意外〜!!」

「そうなの」

「へえ」

 

「皆さん私をなんだと思っているのですか!!?」

 

 日頃の行いの所為である。

 

「……あっ、もうすぐ私の番だわ!」

 

 綾が逃げるかのようにそう言った。

 

「やっと来たわ……もうかれこれ一時間程並んでいるのだもの」

「一時間も!?」

 

 アリスが驚く。

 

「付き合わされる身にもなってほしいよなー」

 

 疲れたように陽子が言う。一時間もの間特に何もすることがなかったので、綾とモリーにロックハートの素晴らしさを延々と聞かされたのだ。その苦行は察して然るべし。

 忍達も人混みを押し分けて、ロックハートを見る――別に並んでいる訳ではないので、見るだけなら自由である。

 

 そして、ついにその姿が現れた。

 

 

[023] 煌めきの大スター

 

 ――ギルデロイ・ロックハート。

 

 先ほども述べた通り、ハンサムな金髪男。勿忘草色の瞳を持ち、同じく勿忘草色のローブに身を包んでいた。波打つ髪には魔法使いの三角帽を小粋な角度に載せている。

 

 数多くの冒険譚を持ち、その全てが書籍化されている。何れも大ヒットを記録し、大スターと言っても過言ではない。嫉妬に狂う愚か者が、その全ての冒険譚は他人の活躍を盗んだ偽りの記録である、と意味もなく弾劾する程。アンチが出来て一人前というが、ならば彼は一人前のスターと言って間違いあるまい。

 

 さて、輝かしきロックハートの著書の幾つかを以下に紹介しよう。

 

 

・『泣き妖怪バンシーとのナウな休日』

 

・『グールお化けとのクールな散策』

 

・『鬼婆とのオツな休暇』

 

・『トロールとのとろい旅』

 

・『バンパイアとバッチリ船旅』

 

・『狼男との大いなる山歩き』

 

・『雪男とゆっくり一年』

 

・『ギルデロイ・ロックハートのガイドブック-一般家庭の害虫』

 

・『私はマジックだ』(自伝)

 

 

 お値段は 5 G と少々高めだが、売り切れ続出のベストセラーである。さあ、流行に付いて行きたい貴方! 今すぐお近くの書店へ!

 

※尚、マグルの皆様にはお買い上げ頂くことはできません。誠に申し訳ございませんが、ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

 

 

[024] うつろいろゴールド

(語り部:猪熊陽子)

 

「HAHAHAHAHA!! さあ、次に私と握手したい子猫ちゃんは誰かな? 闇の力に対する防衛術連盟名誉会員にして、勲三等マーリン勲章、及び『週刊魔女』チャーミングスマイル賞五回連続受賞の私、このギルデロイ・ロックハートに触れることが出来るのは誰かなー!? HAーHAーHAー!!」

 

 うぜえ。

 

 いや、いきなりこんなことを言うのはいくらなんでも酷いと自分でも思うけれど、さっきの台詞を聞いて、こいつの姿を見て私が抱いた第一印象がそれなのは揺るがない。

 如何にも芸能人! っていうか、自分は凄いんだぞー! ってなかんじのオーラを体中から出しているように感じる……あれか。これがナルシストって奴か。

 

 やれやれと思う――こんなのに会うために一時間も並ばされたのかと思うと、流石の私も嫌気がさす。やさしさとツッコミで構成されていると言われたことのある私だけれど、私のやさしさってやつで許容できるのも範囲がある。

 

 範囲外。

 

 例外。

 

 正直冷めた――二人から散々聞かされて、ちょっとは興味を持ったけれど、こんな胡散臭い奴だったとは……徒労も良いとこだ。

 

 まあ、これで熱が冷めたろう――モリーおばさんは兎も角として、綾は流石に――。

 

「ねえ聞いた!? 沢山の賞を受賞しているのね! 素敵! 陽子もそう思わない!?」

「思わねーよ!!」

 

 冷めてなかった。寧ろ悪化しているようにさえ見える。

 マジかよ……綾はまだこういうことに関してはまともだと思ってたのに……。

 孤立した気分だ――いや、別に自分がまともであると言う訳ではないのだけれど。そこまでナルシストじゃない。

 

「陽子ってばまだ良さが分からないのね。可哀想に」

「いや、私から見れば可哀想なのはお前の方なんだが……」

「?」

「…………」

 

 首を傾げる綾。いやいや。

 なんだよそのキョトンとした顔――まあ、人の好みはそれぞれだし……でもなあ。なんか引っかかるんだよなー……。

 

 ふと、しのを見た。

 

「いらいらいらいらいらいら」

「ひっ!?」

 

 全く瞬きせずにロックハートを凝視していた。その言葉が示すように、如何にもイライラしているかの如く爪先を何度も床に打ち付けている。

 ……いやまて、よく見たらこいつ、金髪しか見てねえ! ロックハートの本体の部分を上手く見ないようにして視界の端っこで金髪だけ見てる!

 

「し、しの? どうした?」

「陽子ちゃん、私は無性に苛立っています」

「うん。見てたら分かるよ、っていうか聞いてたら分かる……」

 

 口に出してたもんな、いらいらって。

 

「何故この方がこんなに素晴らしい金髪を持っているのでしょうか」

「いや知らねーよ……つーかやっぱり金髪には見境いねえじゃん」

「どうしましょう、あの本体要りません」

「その発言怖いんだけど……」

「カツラにして渡してくれないでしょうか」

「怖えよ……」

「いっそカツラにしてしまいましょうか」

「怖えよ!!」

 

 なんだよこの幼馴染み! 滅茶怖え!!

 うわっ、マジで杖構えてる……いや止めろよ? マジで止めろよ!?

 

「止めろというのはあれですか、『押すなよ! 絶対押すなよ!』的なノリでしょうか」

「んな訳ねーだろー!!」

「ちょっとそこの子達、静かにしてくれるかな」

 

 あ、なんか警備員みたいな人が来た……まあそりゃこんな近くで騒いでたら怒られるよなあ。仕方ない。

 

「もう、陽子もしのも! ロックハートさんに迷惑がかかるでしょ」

「う、うん。ごめんごめん……」

 

 綾、すっかり虜だなあ……。

 騒ぎに一瞬気を取られたのか、ロックハートがこっちを横目でちらりと見た。そして目線を元に戻し――再び見た。

 

 二度見?

 

 なんで?

 

「……美しい」

 

 ロックハートが呟いた――美しい。周りの人たちがどよめいた。

 んん?

 なにが?

 

 すると、ロックハートはその場から動いた。こっちに向かってくる――はあ!?

 な、なんでだよ!? なんでこっちくんの!? 大人しく向こうで握手しとけよ!

 

「どうしたのでしょうー、金髪が一人でに動いていますー」

「おいしのどこ見てるんだ」

 

 忍は兎も角、アリスや心愛も不思議そうな顔をしている――並んでる方は。

 

「な、ななな、なななによ!!? ちょっ、わ、私まだ心の準備があ!」

「ロックハート様がこっち来たわ!! ロックハート様ァーッ!!」

 

 お前らどんだけロックハート好きなんだ!

 つーか様付けって……友達の母親のこんな姿見たくなかったわ! 誰が見たがるんだこんなもん!!

 

「「「「…………」」」」

 

 あーほらフレッドとかジョージたち目逸らしてるー! 現実見てねぇ!! 自分たちは関係ありませんよ、ってかんじで!!

 

 ロックハートが来た――綾をスルーし、モリーおばさんをスルーし、そして――。

 

「……えっ」

 

「えっ」

 

 えっ?

 

 アリスの前に立った。

 

「何と美しい金髪なんだ――素晴らしい! この私に相応しいじゃあないですか! HAHAHAHAHA!!」

「……はい?」

 

 な、なんだ? この私に相応しい? アリスに何言ってんだ? っていうかなんでアリス――金髪が美しい?

 

 ……いやいやまさかそんな。

 いやいやいやいや無いだろう、それは無いだろう!

 こいつ、いや、ま、ちょ、おい!?

 

「……私の妻になりたまえ、君」

 

「……What ?」

 

 言いやがった。

 妻になりたまえ――告白。

 なんつー上から目線の告白だ――慌ててしのを見た。

 

 

「…………」

 

 

 ……ああ……。

 

 こいつ(ロックハート)、死んだな。

 

 

[025] 一方その頃

 

 ロックハートがアリスを見初める数刻前。

 

 ――高級箒用具店。

 

 高級クィディッチ用品店とはまた趣を異とする飛行用箒店。ダイアゴン横丁において一番最初に作られた箒用具店であり、高級と銘打ってはいるものの、最高のものはニンバスシリーズで、他はクリーンスイープシリーズやコメットシリーズなど、比較的安価なものも多い。安価なものが多いということは庶民にとっては親しみやすいということであり、安易に高級品に頼らない戦略が功を奏し、ここまで生き残っている老舗店である。

 

 対するは、先程述べた『高級クィディッチ用品店』。こちらは高級箒用具店と比べれば歴史は浅いが、しかしそれでもかなり初期から存在する老舗であることは間違いないだろう。その名の通り高価な箒を取り扱っており、プロのクィディッチ選手が使用するような箒が売られている。中でも人気なのは『ファイアボルト』と呼ばれる箒で、その値段はなんと500ガリオン。ウィーズリー家の方々にとっては、まさに雲の上の存在であろう。

 

 さて、二箇所を紹介したが、舞台となるのは高級箒用具店。ショーケースの中の箒を眺める三人の少女がいた。日暮香奈、松原穂乃花、九条カレンである。

 

「どう? よさそうな箒あった?」

「んー……」

 

 しげしげと、値踏みするように箒を眺める香奈に穂乃花が聞いた。

 

「ニンバス2001ってのも考えたんだけどね……あんたと同じモデルだと、やっぱりパクったみたいでちょっと……」

「そんなの気にしないのに〜」

「私が気にするの! んー……だから、コメット260、かな、って」

「カナだけに?」

「まさかそんなとこで反応されるとは思ってなかったわ!」

 

 脈絡なくボケを挟んでくるカレンにツッコむ香奈。この場にはツッコミ役が彼女しかいないのだ。

 カレンに対応しつつ、コメット260を手に取った。当然ではあるが、良く研磨されている。コメットシリーズの特徴として、追い風に乗れば普段以上の加速力を発揮するというものがあり、追い風に乗れば約15秒で時速100kmまで加速することができる。

 

 香奈は並べられているコメット260を一つ一つ手に取った。箒にも勿論出来不出来があり、それは微妙な差異ではあるが、その微妙な差異が戦局を左右することも少なくない。故に、出来るだけ枝が真っ直ぐで、折れ曲がっておらず、少しの傷もないものを選ばなくてはならないのだ。

 

 香奈は真剣に観察する。

 しげしげと。

 じろじろと。

 値踏みする――鑑定する。

 日暮香奈は、別に箒を見分ける特別優れた観察眼を所有している訳ではない。だが、自分の出来る限りで最善を尽くそうとするのが、日暮香奈という少女なのであった。

 

「……うん」

 

 香奈は一本の箒を手に取った。彼女の眼鏡に適った一品である。

 

「よし、これにしよう! これに決めた!」

 

 香奈はコメット260を購入した。

 

 ご来店ありがとうございました。

 

 三人は店から出る。

 

「さて、穂乃花!」

 

 香奈は穂乃花に箒を突きつけた。

 

「ん〜?」

「去年みたいにはいかないと思うことね! 私がクィディッチ選手に選ばれた暁には、あんたなんてこてんぱんにしてやる!」

「Oh !!! 何デス何デス!? 熱い展開になってきたデスよー! Yeah !!!」

「テンション高いねカレンちゃん!?」

 

 取り敢えずツッコむ香奈。

 

「ふふん、その首洗って待っていなさい! 今年のクィディッチ優勝杯は、私達ハッフルパフが頂くわ!」

「うん、お互い頑張ろうね〜」

「何このテンションの差!?」

 

 のほほんとした笑顔を浮かべる穂乃花。これが選ばれし者の余裕か。

 

「でも香奈ちゃん。一応選抜試験に合格しないと駄目なんだからね?」

「ま、まあそうだけど……大丈夫大丈夫、なんとかなるって!」

「そう? じゃあ心配ないね! うん、私も香奈ちゃんと戦えるのを楽しみにしてるよ〜!」

「ふふん、いくらでも楽しみにしていなさい、穂乃花!」

「Oh〜 !!!」

 

 二人の間に火花が散る。まあ香奈からの一方的な火花のような気がしないでもないが、気づいていないならそれで良いだろう。

 その時である。

 

「あ、ほのかちゃんにカレンちゃんだー!」

「「「!」」」

 

 三人を呼ぶ声がした。穂乃花、香奈、カレンは声の聞こえた方を向く。

 駆けてきたのは丈槍由紀。後ろから恵飛須沢胡桃、直樹美紀、若狭悠里が続く。三人は手を振った。

 

「わあ、何その箒! かっこいい! 見せて見せて触らせてー!」

 

 三人のもとに到着するなり由紀が言う。無邪気さ故の図々しさ。

 

「だ、駄目! 変に扱われたら困る」

 

 慌てて箒を抱く香奈。「ちぇー」由紀は口を尖らせた。

 

「由紀先輩、少しは落ち着きを知ってください」

 

 美紀が嗜めるように言う。

 

「えー? もう、みーくんってばつれないなあ。人生なんだかんだで短いんだから、落ち着いてなんてられないよ」

「人生……短い……」

 

 悠里の顔に影がさす。

 

「あ、あーあーあー!! ほ、ほらゆきー! 早く店に入ろうぜ! 早く箒を見たいなー!」

 

 慌てて胡桃が叫ぶ。通行人がくすくすと笑い、胡桃の顔が赤くなる。

 

「もー、くるみちゃんってばせっかちさんだな! 分かった分かった、入ろう! 私も一緒に入ってあげよう、くるしゅうないぞ」

「なんで偉そうなのよあんた」

 

 思わずツッコむ香奈。

 

「はいはい、くるみちゃんみーくん今の見ましたかー! 今のがツッコミのお手本! ツッコミ担当ならこれくらいのボケには今くらいの速度で反応してもらわないとね! ぷぷぷ」

 

「「…………」」

 

 胡桃はショベルを振り上げた。

 

「あ、あれー? ぷぷぷ、冗談だよ冗談〜。もーくるみちゃんってば冗談通じな、いや本当ごめんなさいその目を止めてショベル降ろして本当本当本当ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!?」

 

 由紀の悲鳴が木霊する。そのショベルは振り下ろされたのか、はたまた振り下ろされなかったのか、それはまた別のお話。

 

 

[026] 金髪でもノーセンキューです

(語り部:アリス・カータレット)

 

「……What ?」

 

 思わず素で返してしまった。

 

 え? 今なんて?

 

 妻になりたまえ――って、そ、それって――!!

 

「皆さん! ここで私から重大発表があります!!」

「waitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwaitwait !!!!!」

 

 いやいやいやいやいやいや!!?

 ちょっ――!!

 

「私、ギルデロイ・ロックハートは――この美しき金髪の少女を、我が妻として迎え入れることを、決定致しました!!」

「えええええええええ!!?!?」

 

 ふ、ふざけ、ちょっ、!?

 周りの人たちから叫び声が上がる――なんかその中に私への怒号も混ざってるんだけど……いや知らないって! そんな怒られても、私困るんだけど!?

 じゃ、じゃなくってえ!

 

「あ、あの、何かのショーですか? ま、まさか本気でそんなこと言っている訳じゃあ――」

「私は本気ですよ、ミス、あー」

「…………」

 

 教えない。

 

「……まあよいでしょう! 貴女だって嬉しいでしょう? 何たってこの私の妻となる事が出来るのだからね!!」

「…………」

 

 嬉しくない。何にも嬉しくない。

 

「シ、シノ――」

 

 私はシノに助けを求めた――求めようとした。

 けれど――既にシノは、助けを求められる前にロックハートの真後ろに立っていた。流石シノ。以心伝心。

 

「……うちのアリスにセクハラは止めて頂けるでしょうか」

「んん?」

 

 ロックハートさんは振り向いた――その瞬間――見ただけで分かったんだけど――体中から汗が噴き出していた。

 そりゃあもう凄い量――ローブが一瞬にしてびしょ濡れになる程。

 ロックハートさんを挟んでシノを見た――うん、これはびしょ濡れになる。

 冷や汗が噴き出すよ。

 

 シノが――あのシノが、まるで悪鬼羅刹のような表情をして、ロックハートさんを睨んでいた。その手には、杖。

 

「な、なな、な、なんだね? き、君は――」

「どいて下さいと言っているのですよ。何です? 分かりやすく言わないと伝わりませんか? うふふ、それはそれはそれはそれは失礼失礼失礼失礼失礼失礼失礼失礼失礼失礼」

 

 こ、怖いよシノ……!

 うふふとか言ってるけど目が全然笑ってないよ……! シノがあんなに眉根に皺寄せてるの見たことないよ……!!

 

「ロックハートさん?」

「は、ハイ? !!? な、何するんだね!?」

「シノ!?」

 

 シノはロックハートさんの髪の毛を鷲掴みにして引っ張った――警備員みたいな人たちが止めようと向かって来てるけれど、人混みの所為で近付けないようだ。

 

「まあ言うだけなら好きに仰って下さっていいんですけど――ただ、一つだけ御忠告しておきます」

「いでっ、いででででででで!!!」

 

 シノはロックハートさんの髪ごと顔を持ち上げて、顔を近付けた。

 

「アリスに手を出す事は、例え金髪の神様が許しても――この大宮忍が許しません」

「あいでぇっ!!」

 

 そのままシノは髪の毛を何本か毟り取った――頭を抱えてしゃがみこむロックハートさん。

 ……ちょっと可哀想とか思っちゃった自分がいる。

 

「……金髪でもノーセンキューです」

 

 シノは金髪を捨てた――シノが金髪を捨てるなんて。

 

「……えっと、そ、そういうことなんで……」

 

 私はシノに抱き付いた。

 

「ご、ごめんなさい」

「っ――――!!」

 

 ロックハートさんが雷に撃たれたかのような顔で私を見た。今にも泣きそうだ。

 

「ねえ、あの子……」「ロックハート様になんてことを――」「許さないわ」「何よ、ちょっと金髪が綺麗なだけで」「私の方が綺麗よ」「私の方が可愛いわ」「私の方が美しいんだから!」「私の方が」「私の方が」「私の方が」「私の方が」「許さない」「許せない」「許さないわ!」「嬲りましょう!」「許せないっ!!」「ロックハート様に恥をかかせるなんて!」「私の方が」「このアバズレ!」「レズビアン!」「死ね!」「許さない!!」「許せない!!」「死ねっ!!」「死ねっ!!」「死ねっ!!!」

「っ――――」

 

 そ、そんなこと、わ、私に言われたって――わ、私だよね? ま、まさかシノじゃないよね? シノに言ってるんだったら怒るよ?

 

「……ふっ」

「ひっ」

 

 ロックハートさんがゆらりと立ち上がった――シノが私を強く抱き締める。

 

 こ、怖いよ……みんな怖い……。

 

 そ、そうだ! 他のみんなは――。

 

「あ、あわわわわわ」

「修羅場っすねえ」

「修羅場だな」

「おいおい」

「やったぜ」

「ざまあみろ」

「あの動き参考になりそう」

「ねえメグ、シュラバって何?」

「え、ええっ!?」

 

 何人か楽しんでそうな人がいるよ!? 主にスリザリンの子とか!!

 

「はっはは……はは……HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」

 

 ロックハートさんは高笑いした――えー、もしかしてまだ続くの?

 

「……なんということでしょう、このロックハートを、振る!! HAHAHAHAHA!!」

 

 ロックハートさんは笑いながら走り去り、また戻ってきた――そのまま帰ってよ――その手には、何冊かの本が積み上げられていた。

 

「アリス……そう、アリスと言うのですね君は!!」

「チッ」

 

 シノがシノにあるまじき舌打ちを!?

 

「HAHAHAHAHA! いやいや申し訳ないアリス! 確かに私のような大スターにいきなり告白されれば誰だってビックリするはずだ――私自身が超超超有名人だということを失念してしまっていたよ!! HAHAHAHAHA!!」

「黙ってくれませんかねこの野郎」

 

 この野郎!? シノがシノにあるまじき言動を!?

 

「アリス――君はこの私の自伝を買うために、この書店に来たのだね? おおっと聞くまでもない! HAHAHAHAHA!! さてさて、告白しておきながらプレゼントの一つもしていないというのは確かに失態だ大失態!! というわけで!!」

 

 ロックハートさんは私に本の山を手渡した――って重っ! 私の腕力考慮してくれてないよ!?

 見ると、それらは全てロックハートさんの著者だった――つまり、新しい教科書。

 

「皆さん静粛に!!」

 

 ロックハートさんが腕を広げて宣言した――すると、騒いでいた人たちがまるで水を打ったように静かになった。ウィーズリーブラザーズとマオの囃し立てる声だけが聞こえる。マオ……。

 

「これはある意味では記念すべき瞬間であります――私の人生にとってもね――私がここ暫く伏せていたことを発表するのに、これほど相応しい瞬間はまたとありますまい!」

 

 ロックハートさんが叫んだ。

 

「さあ、紳士淑女の皆さん、お聞き逃しのないよう――もう一つ、重大発表があります!!」

 

 ……なんだろう、胸騒ぎがする。嫌な予感というか――シノを見る。

 

「…………」

 

 うわあ……シノが描写不可能な程バイオレンスかつクレイジーな顔してる。

 

 

「ここに、大いなる喜びと誇りを持って発表致します! この9月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職をお引き受けすることになりました!!」

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?!?」

 

 

 思わず叫んでしまった。

 

 嫌、本当――嘘だよね。

 

 嘘だと言って欲しい――今日が四月一日だと言って欲しい。

 並んでいた人達が声援を上げた――ロックハートさんはそれに応えるように白い歯を見せて笑い、手を振った。

 

「……いらいら」

 

 シノか呟いた――けれど、上を見ない――シノの顔を見ない。

 

 だって、多分。

 

 いらいらなんて生温い言葉が似合わない程――壮絶な顔をしているのだろうから。

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」

 

 ロックハートさんは私に笑いかけた。

 

 ……これからどうなるの、私?




 本当にすみません!! でも、ノルマは達成したので……(言い訳)

 今回の話と同時に、サブストーリーの方も更新しました。内容は翼と猛虎の出会い。短いので適当にお読み下さい。

 取り敢えずノルマは守りますので、ご安心下さい。失踪は絶対しませんから。

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