ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしましたぁぁぁ!!(精神的土下座)


※告知事項※

・何かあれば書きます。


ストレイ・イントゥ・ノクターン・アレイ その1

【第57話】

お姉ちゃんぶりたいお年頃

 

 

[007] 地図が間違ってるだけなんだから

 

 ――ダイアゴン横丁。イギリス・ロンドンに存在する魔法使い達の商店街である。ここに来るには小さなパブ『漏れ鍋』を経由する必要があり、マグル達が入る事はまず出来ない。

 多くの買い物客で賑わうダイアゴン横丁。その中に、それなりに目立つ少女の一団があった。姉らしき少女を先頭に、妹らしき三人の少女が続く。

 

「さあ、お姉ちゃんになんでも言って! ここの事なら誰よりも詳しいからね!」

「ココアさん、道間違ってます」

「あれ?」

 

 銀髪の少女――香風智乃は地図を見ながら言った。

 

 

[008] 以下、回想

 

 ――それは、数刻前の事である。

 

 突如フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー(以下、FFI)に現れた謎の三人の少女達――香風智乃、奈津恵、条河麻耶。彼女達はこのFFIで働く保登心愛、天々座理世、宇治松千夜、桐間紗路の知り合いだったのだ。

 

 『魔法』についての説明シーンは省略する。軽くワンセクションは使ってしまうので。

 

 色々紆余曲折あったが、この三人もまたFFIに住む事となった。ここは魔法使い、魔女達の横丁。本来マグルが迷い込んで良いような場所ではないのだが、しかし黒いフクロウが数羽FFIに飛来、状況が一変したのであった。

 

「あ、手紙だ」

 

 フクロウを見て心愛が呟く。

 

「手紙!!? フクロウが運んでくんの!?」

「な、生のフクロウなんて初めて見ましたよ」

「可愛い〜」

 

 衝撃を受ける三人。それを見る理世、千夜、紗路の目はどこか懐かしいものを見る目になっていた。……とは言え、彼女達もここに来て一年しか経っていないのだが。

 

 フクロウが運んで来たのは七つの手紙。エメラルドグリーン色の封筒に入っている。ホグワーツからの手紙である。

 心愛、理世、千夜、紗路は封筒を受け取ると、手紙を出して読んだ。

 

「新学期のお知らせね」

「相変わらず買う物多いわね……所得少ない人の事も考えて欲しいわ」

「あら? シャロちゃん、こっちでも貧乏なの?」

「ええそうよ貧乏よ!? 何!? 悪い!!?」

「何なら買ってあげるわよ」

「あんたに借りを作るとか後で何されるか分からないからやだ」

「シャロちゃん……私達、幼馴染みじゃなかったの?」

「どう足掻いても幼馴染みよ」

 

 千夜と紗路。

 

「同じ作者の教科書が多いな」

「『ギルデロイ・ロックハート』……教科担当の先生、この作者さん好きなのかな?」

「作者と言えば、青山さんってこっちに来てるのかね」

「どうだろうね〜。でも青山さんの事だから、なんかしれっと居そう!」

「神出鬼没だもんな」

「あ、でも魔女じゃないよね、青山さん」

「いや、分かんないぞ。私達だって魔女だったんだから、青山さんもということは普通にあり得る。素で魔女みたいな人だからな」

 

 理世と心愛。

 

「あはは、案外チノちゃん達も魔女だったりして〜」

 

 心愛は、残った三つの封筒を手に取った。同じく、エメラルドグリーン色の封筒。同じく、ホグワーツから。

 

「……魔女だったり、して〜……」

 

 宛名を見た心愛は、そのうちの一つを開け、中を見た。

 

「ヴェアアアアアアアア!!?!?」

 

 絶叫する心愛。六人の視線が心愛に注がれる。

 

「あ、あわわわ……」

「ど、どうしたココア! 何が書いてあったんだ!」

「こここ、ここ、こっこ、ここー!!」

「鶏?」

「違うよ!!」

 

「魔法界って、空飛ぶ鶏とか居るのかな!?」

「話を脱線させないでマヤちゃん!!」

 

「脱線も何も、何の話かまるで読めないんですが」

「チノちゃんにはまだ早いです!! お、お姉ちゃんは許さないからねーっ!!」

 

 暴走して支離滅裂なことを言う心愛。見兼ねて理世が手紙を取った。

 

「なになに……あー、成る程なー……こりゃココアが混乱するわけだ」

 

 一瞬驚いた顔をした後、納得したように頷く理世。彼女は三つの手紙を智乃、麻耶、恵にそれぞれ渡した。

 

「ホグワーツからの手紙だ――入学許可証が入ってる」

 

「「「!!?」」」

 

 三人が慌ててその手紙を確認する。何度見ても、そこには入学を許可する旨が書かれていた。

 

「……送り間違いということは」

 

 智乃が言う。

 

「私達も最初は戸惑ったもんよね……全く同じ感想を抱いたわ」

 

 と、紗路。

 

「きっと何かの間違いだよ〜。私達、魔法なんて使ったことないもん」

 

 恵が言う。

 

「私達も最初は戸惑ったわ……全く同じ感想を抱いちゃった」

 

 と、千夜。

 

「いやいや、おかしいって!! 仮に私達が魔法使えるなら、今までまともな生活なんて送れなかった筈だよね!?」

 

 麻耶が言う。

 

「私達も最初は戸惑った……全く同じ感想を抱いたものだ」

 

 と、理世。

 

「いや真面目に答えろよ!? さっきから同じ内容しか言ってないじゃん!!」

「だって私達に聞かれたってよく分からないもの」

「正直私たちも送り間違いを疑ってるから」

「唐突すぎるもんな、色々と」

「お、お姉ちゃんは認めないんだからー!!」

 

 手紙を破り捨てようとするココア。慌ててリゼがサルベージ。

 

「どうしたんだココア? 何でそんなに荒れてるんだよ」

「だ、だって……! これ、ホグワーツからの手紙なんでしょ? 私の可愛い妹達を、あんな危険な所へ送り出すなんてとても出来ないよー!!」

「危険なところなんですか!?」

 

 去年度起きたハロウィーンの一件。かの謎の事件の真相は闇に包まれたままであるが、ココアに心配の種を植え付けるのには十分なものであった。尤も、彼女はトロールを目撃していないので、カレン達程のトラウマ具合ではないが……それでもである。

 

「あれは去年度だけでしょ? 流石に今年度まで起きないわよ。っていうか、起きたら起きたで、あそこのセキュリティはどうなってるの、って話だし」

 

 シャロが諭すように言う。

 

「でも〜っ!! もしも!! もしも危険な目に遭ったら、私、後追いしちゃうよー!!」

「重過ぎるわよ!!」

「私には十字架を背負って生きていくことは出来ないの……私にとってチノちゃん達の命は、鉄アレイよりも重いんだよー!!」

「私達そんなに重くねーよ!?」

「いや体重の話じゃなくてね!?」

「そんなに気負わなくてもいいんじゃない?」

 

 千夜が言う。

 

「確かに心配だけれど……でも、心配し過ぎるのも良くないわ。頑なに禁止し続ければ、子どもはのびのびと育ってくれないわ」

「子供じゃないです」

「ふふ、そうね。……ん?」

 

 不満そうに反応する智乃。その時、千夜が何かに気付いた。

 

「……待って、おかしくない?」

「どうしたの?」

 

 恵が聞いた。

 

「……私達、歳いくつ離れていたかしら」

「あっ……そう言えば」

「これ、おかしくない? ……そういえば今まで疑問に思っていなかったけれど、リゼちゃんと私達が同じ学年? ……おかしい、絶対におかしいわよ、これ!」

 

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心愛「え? おかしいかな?」

「えっ?」

 

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紗路「どこがおかしいの?」

「え、だって……!」

 

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麻耶「私達、歳一つしか離れてないじゃん」

「な、何言ってるの?」

 

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恵「千夜さん、急にどうしちゃったの?」

「どっ、どうしたのって、み

 

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千夜「ごめんなさい、私の勘違いだったわ」

理世「だと思ったよ。千夜と私は同じ歳じゃないか」

智乃「千夜さんでもそういう時ってあるんですね」

 

 この話は終わった。

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「……でもやっぱりチノちゃん達が魔女だなんて……信じられないよ」

「それは私達も同じですよ。魔女なんてものが本当に居るなんて、思ってもみませんでしたし……正直、今でもココアさん達の悪戯を疑ってますよ」

「悪戯じゃないもん!」

「じゃあ、こうしたらどうだ?」

 

 理世が言った。

 

「どうせ私達も横丁には用があるし――ついでに、三人の杖を買いに行くのはどうだろうか」

「杖!? 杖って、あの仙人が持ってるような、先っちょがくるっとした杖!? 魔法の杖!?」

 

 麻耶が興奮しながら言う。

 

「どんな杖を想像してるのかは想像つくけど、そういうのじゃないわ。こういうの」

 

 紗路は、ポケットから自分の杖を取り出した。茶褐色の杖で、柄は花の蕾を模している。

 

「素敵〜! まるでファンタジーに出てくる妖精さんのステッキみたい〜!」

「ある意味この世界観がもうファンタジーなんだけどね」

「すげー! 触らせて触らせてー!!」

「わ、私にも……!」

 

 近寄ってくる三人。慌てて杖を逃がすように頭上に掲げる。

 

「え、ええ!? い、いや、それはちょっと……んー、どうなんだろう? 大丈夫なのかな、千夜?」

「えっ、私に振るの? ……まあ、触るだけなら、他の人が触っても問題無いんじゃないかしら? 多分」

「多分って……」

「私は責任を負わないわ」

「えー……じゃあダメ! もしもの事があったら、良くないでしょ?」

「えー! ケチー!」

「ケチとかじゃなくて……」

 

 紗路は心愛を横目で見た。心愛は首を傾げる。

 

「……貴女達に何かあったら、私何されるか分かったもんじゃないし」

「?」

「……まあともかく」

 

 紗路は杖を仕舞った。

 

「私もリゼ先輩に賛成ね。こういうのはいつまでもモヤモヤしてるより、早めに解決した方がいいわ」

「でも、今日はバイトなんじゃないんですか? ……っていうかこっちでもバイトしてるんですね」

「何か働いてないと落ち着かないというか……」

「だよね〜!」

「寝坊ばっかしてるあんたが言う?」

「あー! ちょっと、チノちゃん達の前でそういうこと言わないで〜!! お姉ちゃんの威厳が〜!!」

「安心して下さい、ココアさんに威厳なんて元々ありませんから」

「チノちゃん酷いっ!?」

 

 智乃の言葉によろめく心愛。

 

「ココアが姉には向いてないってのは、みんな知ってるよ!」

「マヤちゃんも酷いっ!?」

 

 麻耶の言葉でへたり込む心愛。

 

「わ、わ、私はココアさんの事、威厳はなくても尊敬してるから〜!」

「ありがとうメグちゃん!! その言葉だけでお姉ちゃん、毎日24時間徹夜で働けるよ〜!!」

 

 恵の言葉で起き上がった心愛。

 

「じゃあ、私がチノちゃんたちを案内するよ! チノちゃんもマヤちゃんもメグちゃんも、ここの事まだよく分からないだろうし……いいよね?」

「お前が案内するのか? ……なんか心配だ」

「えー、リゼちゃん酷ーい!」

「あんた方向音痴でしょ? まともに案内出来るの?」

「ふっふっふー、皆の衆これを見るがいいー!」

 

 ココアが掲げたのはダイアゴン横丁の地図。方向音痴必須アイテム。

 

「これでバッチリだよ!」

「地図に頼る時点でバッチリも何も……」

「迷子になりそう」

「むー、私の事信用してないなー? 大丈夫だって! 一瞬たりとも可愛い妹たちからは目を離しません! ほら、瞬きだってしないよ!」

 

 目を大きく見開いて言うが、数秒後に瞬きした。

 

「言ってるそばから瞬きしてんじゃないわよ」

「みんな信用しなさすぎ〜! お姉ちゃんはチノちゃんたちと遊びに行きたいの〜っ!!」

「本音が出たわねココアちゃん」

 

「とーにーかーくー! これ以上の異論は認めないよ! 私は絶対絶対ぜーったいに遊びに行くんだから!!」

「遊びに行くはいいけどさ……でもココア」

「異論は認めないよ!!」

「仕事終わってからにしろ」

「…………」

 

 FFI、開店間近であった。

 

 

[009] あの街でも最初は迷ってましたよね

 

 ――そして、今に至る。

 

「あれ? なんか今の回想おかしいとこ無かった?」

「おかしいところ? 何を言っているんですかココアさんは」

「あれー? ……まあいいや」

「変なココアだなー」

「ココアちゃんらしいよね〜」

「おや? なんだかお姉ちゃんの威厳が損なわれているような気がするぞ」

「そんなもの最初からありません」

 

 地図を見ながら右往左往する四人。地図を見ながらなのに右往左往するとは訳が分からないが、そもそも方向音痴な心愛、マイペースに脱線する恵、すぐ寄り道しようとする麻耶、休みたがりの智乃というパーティでロクに動けるはずもなく。

 

「こうして四人で歩いていると、シストを思い出すね〜」

「そういえばそんなのもやりましたね」

「またやりたいね〜」

「今度は大人数でやろうぜー!」

 

 シストとは、彼女たちが元居た街――木組みの家と石畳の街――で流行っていたゲームで、街のどこかにある宝箱を見つけ、その中身を一つ自分の持ってきた宝と交換する――簡単に言えば宝探しゲームである。

 

「大人数といえば、私友達いっぱい増えたんだよ! みんな面白い子たちでね〜。今度紹介してあげるー!」

「流石ココアさん、無駄にフレンドリーですね」

「無駄に!? あ、でも微妙に褒められた? デレた!?」

「デレてません。頭の中がお花畑なのは変わりませんねココアさん」

「わーいチノちゃんツンツンだー」

 

 ダイアゴン横丁を歩く四人。

 

「……あ」

「ん? どーしたチノ?」

 

 智乃が何かに気付いた。

 

「オリバンダー杖店って看板がありますが……もしかしてここですか?」

「あ、ほんとだ」

「書いてある〜」

「うぇ!?」

 

 智乃が指差す先にあったのは、まごう事なきオリバンダー杖店。そう、視界には幾度となく入っているものの、彼女たちは発見できなかったのだ。4人は、ぐるぐると同じ場所を歩いていただけだったのだ。心愛が先導していたが故に起きた怪現象である。

 

「さ、さすがチノちゃん〜! わ、私の自慢の妹だねー!」

「本当ならココアさんが案内してくれるはずだったのですがね」

「うっ……」

「ま、こうなるとは思ってたけどねー」

「ゔっ……」

「コ、ココアちゃんだって本当は出来ないのに頑張ってくれたんだから、これ以上虐めないであげて〜!」

「ヴッ……」

 

 心愛撃沈。項垂れる心愛を放置し、三人はオリバンダー杖店へ入店した。

 

 

[010] オリバンダー杖店

 

「おじゃまします」

「おじゃましまーす!」

「おじゃましま〜す」

 

 オリバンダー杖店は、ダイアゴン横丁が誇る杖の老舗メーカー。その起源は紀元前382年という遥か昔にまで遡る事が出来る。初代から脈々と受け継がれる造杖技術は決して劣らず、今も尚、進化し続けている。

 

 閑話休題。

 

 オリバンダー杖店内は仄かに薄暗く、少しばかり埃っぽかった。端の方にある幾つかの椅子と、飾られている一本の杖、そしてカウンターというシンプルな部屋だった。

 

「もっとハジけろよー!」

 

 麻耶が言う。

 

「地味だよこの店! 魔法の店っていうから、もっとこう、色んなものが飛び交って、変なものがいっぱいあって、っていうのを期待したのに!」

「でも、こういう風に何もないっていうのも、なんだか不思議な雰囲気があるよね〜」

 

 恵が言う。

 

「そうですね。普通ならマヤさんの言う通り、色んなものを置いていたりするものなのでしょうけど――これはこれで趣があると思います」

 

 智乃が言う。

 

「ほっほっほ、気に入って頂けて何よりです」

 

 オリバンダーが言う。

 

「いえ……」

 

 智乃はそのまま会話を続けようとして――声のした方を二度見してから――小さく悲鳴を上げた。

 

「あ、あ、あなた誰ですか!?」

「いつからそこに居た!?」

「きゅっ、急に話しかけてきたから心臓飛び出るかと思ったよ〜!?」

「ほっほっほ」

 

 怯える智乃、麻耶、恵。オリバンダーはカウンターの奥で微笑んでいる。

 

「チノちゃんマヤちゃんメグちゃんどうしたの!? 生きてる!?」

 

 悲鳴を聞きつけ、復活した心愛がやって来た。勢いよくドアは壁にぶつかり、反射して心愛にぶつかった。

 

「あうっ!?」

 

 ドアが閉まった。

 

「「「…………」」」

 

「……い、痛かったよ……」

 

 心愛が再びやって来た。今度はゆっくりとドアを開け、入店。

 

「本当にココアはドジだなー」

「ココアさんはいつもおっちょこちょいです」

「え、えっと、えっと……」

「ううっ……!」

 

 集中攻撃を受け半泣きになる心愛。項垂れながら椅子に座った。

 ボロボロの心愛は置いておいて、オリバンダーが説明を始めた。

 

「ようこそオリバンダー杖店へ、小さなレディ達よ。儂がオリバンダーじゃ。杖が君たちを選ぶ手伝いをしておる」

 

 小さく礼をした。智乃、麻耶、恵も礼を返す。

 

「杖が選ぶ手伝い……とは」

 

 智乃が聞いた。

 

「杖を選びに来たのは、私たちだと思うのですが」

「お嬢ちゃん、それは君の認識が間違っているのだよ」

 

 オリバンダーは、懐から自分の杖を取り出し、三人をまっすぐ見て、言う。

 

「使い手が杖を選ぶのではない――杖が「杖が使い手を選ぶのだ! だよね!」

「…………」

 

 オリバンダー翁の台詞を奪う心愛。最早決め台詞、代名詞と言っても差支えない台詞を邪魔され、少々気分を害したようだ。

 

「……まあ、そうですな。ええそうですとも、そうですとも……」

「ココア空気読めよー!」

「うぇっ!?」

 

 無自覚の心愛。無自覚な悪意ほど厄介なものは無い。

 

「……では、誰が最初に選ばれるのですかな」

 

 しかしそこは大人。オリバンダーは即座に気分を切り替え、語りかける。

 

「杖たちが選びたくてウズウズしている――必ず皆さんと運命の糸で結ばれた杖を探し当てて見せましょうぞ」

 

 

[011] 杖の選定 条河麻耶の場合

 

「やったー! 勝ったー! いっちばーん!」

「私二番目だね〜」

「では、私が最後ですか」

 

 公正なるジャンケンの結果、杖を購入するのは麻耶、恵、智乃の順になった。

 

「それじゃ、おっ願いしまーす!」

「ほっほっほ、元気のいいお嬢さんですな――では、杖腕を出してくれますかな」

「杖腕?」

「利き腕とも言う」

「あー成る程、利き腕ねー……すげー、なんか本格的に違う世界に来たってかんじ! "杖腕"だって!」

 

 はしゃぎながら麻耶は右腕を差し出した。それを見ると、オリバンダーは片手に持った巻尺を使い、腕の長さを測る。そしてそれと同時に他の巻尺が勝手に動き出し、身長やらなにやらを同時進行で測定する。

 

「わ、わわ、わわわわ……」

「……よ、よ、よく出来た手品ですね」

「もう、だから冗談じゃないんだってー」

 

 測定し終えると、巻尺は自動的にオリバンダーの元へと戻っていく。全ての巻尺を回収し終えたオリバンダーは、埃っぽい店の奥へと消えた。

 

「み、見た!? メジャーが動いてたよ!? 魔法の力ってすげー!!」

「びっくりしちゃったよ〜! おとぎ話の中に入っちゃったみたいで〜!」

「ふっふっふー、これくらいで驚いちゃいけないよ! まだまだサプライズポイントはあちこちにあるんだから!」

「なんでココアさんが自慢気なんですか?」

 

 胸を張る心愛。張る程の胸はないが。

 

「悪戯専門店でしょ、薬問屋でしょ、ブロッツ書店でしょ――兎に角まだまだいっぱいあるんだから!」

「悪戯専門店? おおう、興味をそそられる名前だね!」

「まあまあそう焦りなさるなお嬢さん。今は杖に興味を持って欲しいものですな」

「うわっ!? いつから居たんだ!?」

「ついさっきからですな」

 

 いつの間にやら会話に参加するオリバンダー老人。その無駄な技術は未だ健在である、しかし今回は相手が悪かった。

 

「あはは、お爺さん影薄いなー!」

「影薄っ……!?」

 

 無邪気な言葉は、時に人を傷付ける。無邪気と書く通り、邪気の無い言葉――無意識に放たれる刃ほど、心を抉るものはない。オリバンダーに大打撃。

 

「……これが貴女の杖ですぞ、ミス・ジョウガ。カエデの杖、芯はドラゴンの心臓の琴線。25cmで、弾力がある」

「おおっ……」

 

 目を輝かせながら麻耶は杖を受け取った。黒いシンプルな杖身に灰色の斑点が散りばめられている。麻耶は杖を振った。

 

 杖を振った瞬間、麻耶の杖に真紅の火が灯された。麻耶はそれを唖然として見ていたが、すぐにそれは消えた。

 

「……ショボっ!!」

「ほっほっほ、最初は誰でもこんなものですぞ、ミス・ジョウガ。焦らずにじっくりと、杖の忠誠心を勝ち取るが良かろう」

「えー……マジでー……」

 

 期待外れの魔法に失望する麻耶。よせばいいのにここでココアが、

 

「でも陽子ちゃんの魔法はもっと派手な炎だったけどね」

 

 と呟いた所為で麻耶の顔に刻まれた失望がさらに深くなった。失望しながらも麻耶は代金の7Gを払うと席に着いた。

 

 

[012] 杖の選定 奈津恵の場合

 

「次は私です〜」

 

 奈津恵がカウンターに向かった。オリバンダーは先程と同じく、杖腕の長さやその他諸々を測定し、カウンターの奥へと消えた。

 

「マ、マヤさん元気だしてください。オリバンダーさんも言ってました、誰でも最初はそんなものって」

「そうだよ〜! マヤちゃん火の魔法を使うなんて、凄くカッコいいよ〜」

「そんなこと言われたってー! だってココアがもっと派手な炎を使う人が居たとか言うからー!!」

「ココアさん!」

「うぇぇぇ!? 私!?」

「ココアさんは本当もう……もう少し空気を読んでください」

「えっ、そ、その……ご、ごめんねマヤちゃん! まさかそんなに傷つくとは思ってなくて……」

「いいよ別にー!!」

 

 麻耶はそっぽを向いた。心愛が凍りつく。

 

「マ、マヤちゃんに嫌われた……やめてぇぇぇ!! お姉ちゃんなんでもしてあげるからお姉ちゃんを嫌いにならないでー!!」

「ん?」

 

 麻耶はそっぽを向きながら心愛の言葉に反応した。

 

「今なんでもって言ったよね?」

「言いました言いましたー! なんでもしてあげるから許してーっ!!」

「ほう……くくく、じゃあ後で要求する! それ呑んでくれたら許してさしあげよー」

「ありがたき幸せー!!」

「ほっほっほ、どちらが姉か分かったものではないのう」

「ええ、全くですね」

「ひゃあぁ〜!? いつから居たんですか!?」

「ついさっきからじゃ」

 

 オリバンダーは手元の桐箱の中から、杖を一本取り出した。

 

「これが貴女の杖ですぞ、ミス・ナツ――ナシと一角獣のたてがみの杖――25.5cm――しなやか――」

 

 恵は杖を受け取った。焦げ茶色の杖で、白い線が螺旋のように付けられている。恵は杖を振った。

 

 すると、杖先からキラキラと光る紫色の光が放たれた。紫色の光がカウンターに当たると、なんとカウンターがひとりでに回転しだしたではないか! 「ひゃあっ!?」恵は驚いて杖を取り落とした。すると紫の光は晴れ、カウンターの回転も停止した。

 

「きゅ、急に回りだすからびっくりしちゃったよ〜」

 

 恵は落とした杖を慌てて拾い上げた。

 

「ほっほっほ、儂もびっくりじゃわい――カウンターがまた犠牲にならなくてよかった」

「また?」

「おっと、お気になさるな」

 

 恵は首を傾げ、それから、杖の代金を支払った。

 

 

[013] 杖の選定 香風智乃の場合

 

「最後は私ですか」

「チノちゃん頑張れー!」

「何をですか全く……」

 

 呆れた顔をしつつ、智乃はカウンターへ向かった。

 

「個性的なご令姉様をお持ちじゃの」

「個性的過ぎますが……あと別に私は妹じゃないです」

「ヴェァァアアアアア!?」

 

 心愛の悲鳴を聞き流しながら、智乃とオリバンダーはいつも通りの計測を終えた。そして、オリバンダーは店の奥へと去って行く。

 

「チノちゃん酷いよ! 私のことそんな風に思ってたの!?」

「いやだって、本当の姉妹じゃないじゃないですか」

「本当じゃなくても姉妹は姉妹でしょー! もう、チノちゃんってば恥ずかしがり屋さんなんだからー」

「姉妹は姉妹って……恥ずかしいとか、そんなんじゃありません。全くココアさんは……いつまで経っても姉らしくなりませんね」

「ヴェアアァァァァァ!!?」

 

 再び奇声をあげ、智乃に縋り付こうとする心愛。智乃は一歩下がり、それを避ける。

 

「チノちゃん〜……」

「なんかココアが可哀想に思えてきた」

「私も……」

 

 哀れみの目で心愛を見る麻耶と恵。

 

「いいえ、甘やかしてはいけません。私たちは子供を崖から突き落とすライオンです。再び這い上がって来た時にだけ、ほんの少しのデレをあげるんです。多分」

「そんなこと言ってー、照れてるだけだろ?」

「照れてません」

「嘘つけ! 顔に出てるよ」

「出てません」

「頑なに否定するあたりが、なんかガチっぽいよね!」

「頑なでもありません! 否定もしてません! ……あれ?」

「ほら、やっぱ照れてるだけじゃん!」

「誘導尋問だ〜」

「マーヤーさーんーっ!!」

「わー、チノが怒ったー!」

「もう宿題見せてあげませんからね!!」

「ごめんなさい!!」

 

「自分でやってこようとは思わないんだね〜」

「ほっほっほ、愉快愉快」

 

 子供のようにはしゃぐ三人を笑顔を浮かべて眺めるオリバンダー。その目はまるで孫を見る老人のよう。

 

「愉快愉快って……まあいいですけど」

 

 頬を膨らませながら、智乃はカウンターへ向かう。

 

「これが貴女の杖じゃ、ミス・カフウ――リンゴと不死鳥の尾羽根、23cm。頑固」

「あははは! 頑固だって! チノにぴったりー!」

「もう絶対宿題見せません」

「ごめん!!」

 

 智乃は、控えめに杖を振った。すると杖先から小さなシャボン玉が飛び出した。暫く空中をフワフワと漂うと、心愛の頭上でパチンと割れた。シャボンの中からは少量の水が漏れ、心愛の髪を濡らす。

 

「あっ……す、すみませんココアさん!」

 

 慌てて謝る智乃。

 

「……ふふっ」

「えっ」

「ははははは! チノちゃんの魔法初めて受けちゃったー! お姉ちゃんがついにやったよー!! あははははは!!」

 

 両手を広げてくるくると回る心愛。満面の笑みを浮かべている。

 

「た、大変です! ココアさんがおかしくなってしまいました! さっきの魔法の所為でしょうか!?」

「いやもともとあんなんじゃね?」

 

 ドン引きしながらも、智乃はお代の7Gを払った。

 

「では、そろそろ行きましょうか。オリバンダーさん、ありがとうございました」

 

 智乃が深々と頭を下げる。

 

「それじゃ、また来るぜー!」

 

 麻耶が手を振った。

 

「お邪魔しました〜」

 

 恵が微笑みながら頭を下げる。

 

「ほっほっほ……いやいや、こちらこそ面白いものを見せてもらったよ。ありがとう――姉妹仲良くの」

「だから姉妹じゃありませんってば! ……ココアさんいつまで回ってるんですか! 行きますよ!」

「あっ! 待ってよチノちゃん〜っ! あ、ありがとうございましたー!」

「ご来店、ありがとうございました――姉妹ではなくとも、姉妹杖と言っても差支えないものなんじゃがの――あの杖は」

 

 

[014] 姉離れしたいお年頃

 

「さてココア、なんでもしてくれるって、確かに言ったよね?」

 

 オリバンダー杖店を後にした智乃、麻耶、恵、心愛。麻耶が先程言っていたことを蒸し返す。

 

「んー……言ったような、言わなかったような」

「惚けるなよ!?」

「お姉ちゃんに何して欲しいの? 出来る範囲でなら、何でもするよ!」

「何を企んでいるんですかマヤさん」

「何をお願いするんだろうね」

「ふふーん」

 

 麻耶は悪戯っぽく笑い、後ろで手を組みながら振り向き、心愛をじっと見た。

 

「な、何?」

「私は今、何を考えているでしょーか?」

「えっ?」

 

 麻耶は心愛の眼を見続ける。じっと動かず見続ける。心愛はじわりと冷や汗が額から滴り落ちるのを感じた。ここで当てなければ、ただでさえ消滅しかかっている姉の威厳が本格的に消えかねない。プレッシャーが心愛を襲う。

 謎の緊迫感が場を包む(心愛主観)。麻耶の眼はまるで見た者を石にする怪物のように、怪しく、そして激しく、心愛の心を穿つ(心愛主観)。重苦しい空気の中(心愛主観)、心愛は口を開いた。

 

「……お姉ちゃんとお風呂に入りたいな?」

「ぶっぶー! 全然違う!!」

「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

 

 崩れ落ちるようにしゃがみ込む心愛。通行人の邪魔である。

 

「はいはい!」

「はいメグ!」

「三人だけで行動したいな〜って思ってる!」

「正解!!」

「ヴェァァアアアアアア!!?!?」

 

 叫ぶ心愛。まるで世界の終わりを見てしまったかのような顔をしている。

 

「流石マヤさんとメグさん……以心伝心ですね」

「へへーん!」

「そ、それはそうだけど……さ、三人だけで〜?」

 

 困ったような顔をする恵。

 

「三人だけっていうのは〜……私たちここの事何も知らないし……」

「……まあ確かに、メグさんの言う通りです。ですが……」

 

 智乃は手をわなわなとさせる心愛を見て、嘲笑する。

 

「ふっ……居ても居なくても、あまり変わりないのではないでしょうか」

「!!!!」

 

 心愛が雷に撃たれたように痙攣する。

 

「どーせココアが居ても迷うしさー! ね? 良いじゃん!」

「――――」

「だ、だけど〜……」

 

 オロオロする恵。

 

「……お、お姉ちゃんは……そ、そんな危険な……ゆ、許さ――」

 

 約束と警戒の狭間で震える心愛――だが、それに三人は、追い打ちをかける。

 

「アネキー! お願いっ!」

「良いでしょう? ココアお姉ちゃん」

「え、えぇぇぇっ……お、お姉ちゃん」

 

「♡❤︎♡♡❤︎❤︎❤︎♡♡♡♡!!!!」

 

 声にならない何か叫び声のような奇声を叫ぶ心愛。通行人が避けて通る。

 

「お――」

「お?」

「お姉ちゃんに――」

「お姉ちゃんに?」

「お姉ちゃんに――お姉ちゃんに――」

「コ、ココアちゃん」

 

「お姉ちゃんに、まっかせなさーい!!」

 

 心愛は胸を張り、ドンと力強く叩いた。

 

「ぐふっ……」

 

 強く叩き過ぎたせいで予想外の衝撃が心愛にかかる。心愛は蹲った。

 

「お、お姉ちゃんに任せて……チ、チノちゃん達の他の買い物は私がやるよっ……だ、だから自由に歩き回ってきて……」

「イエーーーイ! ありがとうアネキー! やっぱり持つべきものは理解ある姉だぁ!!」

「褒めてあげましょう」

「あ、あわわわわ……」

 

 智乃、麻耶、恵の三人――即ち『チマメ隊』は、その場から即座に駆け出した。心愛はその後ろ姿を、泣きながら見守っていた。

 

 ――尚、この選択が間違ったものであったのは、最早言うまでもないだろう。

 




 本当にすみませんでした!! 色々スランプってたんです!!

 それはそれとして、ダイアゴン横丁篇です。また何話かこれで消費するので、ホグワーツは少しお待ちを。

 近々、サブエピソード更新します。

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