ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 Part.2 第1話です。短いので気軽にどうぞ。


※告知事項※

・後書きを変更。

・何かあればここに書きます。


魔法界へようこそ その6

【第56話】

妹が増えた日

 

 

[001] 暗黒門 〜最後の標的〜

 

 太陽が爛々と光り、灼熱の日光が影を焼く。人々は半袖夏服、まだ序の口な夏の暑さは、それでも人々を焼き尽くす。

 

 我関せず、とでも言うかのように石畳を跳ねるのは、光を纏う、闇の使者。黄金の輝きは陽の光を浴びて更に眩いものとなる。

 

 兎は駆ける。新たなる3人を迎えに行くために。金色兎の少女達を全員、表舞台に引っ張り出すために。

 

 

[002] 血豆食らう昏き闇

 

 木組みの家と石畳の街、人々はそこをそう呼ぶ。実際、その名に違わぬ美しい街である。

 

 姉(自称)と別れた銀髪の少女――香風智乃は、汗を拭いながら待ち合わせ場所へと向かった。

 

「あ、チノちゃん来たよ〜」

「遅いぞー、チノー!」

 

 2人の少女が智乃に手を振った。茶髪の少女と黒髪の少女。奈津恵と条河麻耶である。

 

「すみません。ココアさんが色々遅くて」

「色々って何だよ!」

「ココアさんなら仕方ないね〜」

「はい、全くあの人は……」

 

 喋りながら、3人は学校へ向かう。彼女たちは中学生であり、心愛たちとは学校が違う。

 

 以下、会話パート。穏やかな喋り方が恵、男勝りな喋り方が麻耶、敬語がチノ。

 

「そう言えば、最近この辺で変な兎が目撃されてるらしいぜ!」

「変な兎ですか?」

「うん。変な兎」

「どんな兎なの?」

「えっと……確か、金色の毛並みの兎、とかなんとかそんな感じだったな」

「とかなんとかそんな感じ……」

「お、覚えてないんだからしょうがないじゃん!」

「肝心なとこ忘れてどうするんですか……」

 

 呆れる智乃。

 

 ――彼女たちの背後に連なるは黄金の兎。

 

「……ココアさん、ちゃんと学校に着いたんでしょうか?」

「どういうこと?」

「だってココアさん、いっつも時間ギリギリで……毎日焦りたくもないのに焦らされます」

「チノって何だかんだ言って、ココアのこと好きだよなー」

「そんなんじゃないです」

「そりゃそうだよ〜。あんな良いお姉ちゃん他に居ないもんね」

「それココアさんの前で言ってみてください。ココアさんを倒せますよ」

 

 倒せると言っても、物理的な意味である。

 

 ――何匹もの黄金が迫っている。

 

「でも金ぴかの兎さんか〜。会ってみたいなあ」

「メグさん、飽くまでも噂ですよ」

「そうだけど……でも、もし居たら会ってみたいな〜って、チノちゃんもマヤちゃんも、思わない?」

「思う! 金色の兎なんて、倒したら超大量の経験値くれそうじゃん!」

「倒しちゃうの!?」

「とろとろに溶けたのもいいな……いや、やっぱりデカいのの方が!」

「溶けた兎さんなんて嫌だよ〜!」

「っていうか、それは金色じゃなくて寧ろ銀色でメタルな奴なんじゃ……」

 

 ――素早いその姿はまるで地上を通過する黄金の流星のよう。

 

「でもさ、もしも本当にそんな世界があったら、面白そうとは思わない!?」

「そんな世界って?」

「ゲームみたいな世界だよ! ド◯◯◯とか◯Fとかそんな感じの!」

「そういうものかなぁ……?」

「メタ◯◯アとかも良いなあ!」

「さっきから色んな意味で危険ですよマヤさん!」

「魔物がうじゃうじゃいてさ、それで倒しまくって最終的には勇者になって魔王を倒すんだ! で、その後魔王に成り代わってその世界を支配する!」

「勇者の発想じゃないですねそれ」

「マヤ王国の誕生だ!」

「マヤちゃん文明とか出来るかもね〜」

「そこは寧ろマヤ文……いやいいです」

 

 このまま順調にいけば、そろそろ学校に着く頃だ。

 

 ――兎は黄金の衣を脱ぎ捨て、黒い外套を纏って道を駆ける。

 

「なんといっても魔法! いいよな魔法!」

「ロマンチックだよね〜」

「魔法が好きなんですか?」

「◯ギ! バ◯マ! バギ×××!!」

「もう隠す気微塵もないですね」

「いいんだよ、ちゃんと伏字にしてるから!」

「最後のとかモロじゃないですか……まあいいですけど」

「良いんかい!!」

 

 ――闇がすぐそこまで迫る。彼女たちは、気付いていない。

 

「魔法好きなんだったらなんでメ◯◯ギアを例に……」

「あれは純粋にかっこいいから」

「バイオ◯◯◯◯は駄目なんですか?」

「かっこいいけどさ、現実でああなったら詰んでるじゃん。流石にあれは嫌だ」

「じゃあもし、今急に周りがゾンビだらけになったらどうするの?」

「え? それ掘り下げんの?……その場合は、学校で籠城する!」

「食糧とかどうするんですか」

「あんまそういう細かいこと聞くなよー!」

 

 ――すぐそこに、闇が来た。

 

「現実問題、そうなったら本当終わりだよな。なんか特殊な設備でもないと……」

「それに、武器もないですしね」

「へへーん、そんな時は、リゼから盗んだモデルガンで!」

「盗んじゃったの!?」

「リゼさん余計なことを……っていうかあのリゼさんからどうやって盗んだんですか」

「嘘だよ、盗めるわけないじゃん。あのリゼだぜ? ガード固いんだよー。こないだだって、隙を突いてこっそり盗もうとしたら、急に後ろからCQC掛けられて」

「自業自得です」

「因果応報だね〜」

「酷いっ!?」

 

 ――大量の闇が――3人に向かって、次々と突撃する――!

 

「あーあ、突然転生したりしないかなー!」

「転生するなら死んじゃわないといけないんだよ!?」

「まさか……マヤさん!」

「いやしねーよ!? する訳ないだろ!? もしもだよ、もしも! 例えば――すぐ後ろを振り向けば、異世界へ誘う使者が居ると――」

 

 麻耶の姿が、掻き消えた。

 

 麻耶の居た場所を、大量の闇が通過していく。

 

「「……え?」」

 

 突然すぎることに固まる2人。

 

 前方の闇がUターンしてきた。まだ何が起こっているのか分からない。この現実は受け入れるには、あまりにも荒唐無稽で、意味不明すぎる。

 

「チ――チノちゃ――」

 

 恵の姿が掻き消えた。

 

 恵の居た場所を、大量の闇が通過していく。

 

「メ、メグさん」

 

 足が縺れ、尻餅をつくチノ。闇がUターンしてきた。

 

 ――どうして。

 ――なんで。

 ――何が。

 ――何。

 

 闇がすぐそこまで迫り来る。必死に考える。考えても、何が何だかまるで分からない。

 

 ――たすけて――ココアさん――

 

 闇が智乃を呑み込んだ。

 

 

[003] 兎は飛び跳ねた

 

 仕事を終えた兎は天へと翔び跳ね、黄金の星となる。昼空から見える星――人々は、それを不思議にも思わない。

 

 

[004] 妹が増えた日

 

 ――ダイアゴン横丁。数々の店が所狭しとと並ぶ場所。イギリス在住の魔女、魔法使いにはお決まりの場所であり、そこを知らない人は居ない。

 そこに建ち並ぶ店の一つ、FFI(フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー)では、絶賛仕込み中であった。

 

「取り敢えず、予約分のフレーバーは全部あるみたいだね」

 

 店主フォーテスキューが言った。

 

「あと何か足りないのはあるかい?」

「こっちは別にありません」

 

 千夜が言う。

 

「ココアちゃん、そっちはどう?」

「えーっとね……あ、そうそう、ブルーハワイ味がちょっと少なくなってたよ!」

 

 心愛が言う。

 

 FFIのフレーバーは豊富である。定番からヘンテコなところまで、色々取り揃えてあるのだ。驚くなかれ、その数凡そ100種以上! ココアたちが来る前まではこれを1人で切り盛りしていたというのだから、その苦労は察するに余りある。

 

「ブルーハワイ味……っと」

 

 メモを取るフォーテスキュー。少なくなったフレーバーを纏めているのだ。まあ、彼の記憶力を持ってすればこの程度のことを覚えるのは容易いのだが――しかし、確実性を重視するならば、なんだかんだでメモが一番信用出来るのだ。

 

「うーん、もうそれくらいかな」

「分かった、ありがとう」

 

 そう言うとフォーテスキューは店の奥へと向かう――その先は厨房なのだが、その辺は企業秘密ということで描写を控えたい。まあ、外見上は変わった所のない普通の厨房であるとだけ言っておこう。

 

「店の掃除終わったぞ」

「あ、リゼちゃん! お疲れ様ー」

 

 理世と紗路がカウンターの裏側に帰って来た。

 

「お疲れシャロちゃん。アイス食べる?」

「無断では止めなさいよ」

「大丈夫よ、フォーテスキューさんも許してくれるわ」

「どこからそんな自信が……」

「で、どれ食べる?『天を仰ぐ流線』? それとも『翠の牢獄』?」

「勝手にメニュー名改造するな!」

 

 因みに、それぞれスターゲイザーパイ味とマスクメロン味。スターゲイザーパイ味なんてどこに需要があるんだと言いたくなるが、なんと実際に需要があるんだから世の中不思議なものである。

 

「でも、これ位やらないと他の店に負けちゃうわ!」

「寧ろ客減るわよアンポンタン!」

 

 千夜に電流走る。

 

「そんな……今まで私がして来たことは……じゃあ、一体……!」

「シャロちゃん! 千夜ちゃんを虐めないで!」

 

 心愛乱入。

 

「いや虐めてるつもりは……っていうかいっつも虐められてるの私の方なんだけど」

「そういうこと言われると千夜ちゃん傷ついちゃうんだよ! 千夜ちゃんのアイデンティティーがピンチなんだよ!」

「こんなん否定された程度でアイデンティティー失うような奴じゃないからねそいつ!」

「いいのよココアちゃん……」

 

 最後の力を振り絞るようにして千夜が起き上がる。

 

「千夜ちゃん!」

「きっと、シャロちゃんもいつか分かってくれるわ……それまで私は……この店のメニューを……全部……書き換え……ぐふっ」

「千夜ちゃーーーん!!」

 

 千夜は力尽きた。

 

「これで良かったのよ……このままこいつが生きていたら、この店が崩壊するところだったのだから……」

「な、なんて酷いことを! シャロちゃん! こうなったら、成敗してやるー!」

「ふん! やれるもんならやってみなさい! 取り敢えず1つ言っておくわ、私ここまで何か間違ったこと言ったかしら!?」

「魔法と見せかけてのココアブロー!」

「肉弾戦!?」

 

「お前ら遊んでないで仕事しろ」

「「「イエッサー」」」

 

 お遊び終了。演技力の高い3人であった。

 

「仕事っていっても……あと何か残ってる? 開店まではまだ時間あるし」

「フォーテスキューさんの手伝いがあるだろ……食器洗いとか、まだやることは沢山あるぞ」

「そんな! 私のように居候の身で食器洗いなんて、そんな出過ぎた真似は」

「居候なら仕事しなさい」

「じゃあ仕事するから、その代わりメニュー名書き換えさせて」

「子供かあんたは!!」

「うふふ」

「何の笑い!?」

 

 そんなこんなで開店準備を進める5人。遊んでるときもあるとは言え、1人より圧倒的に作業効率が良くなっているのは言うまでもな――。

 

 ドン!

 

「!?」

 

 ドン!

 

「なんだ!?」

 

 ドン!

 

「何よ!?」

 

 突然のことである。上の階から3連続で何かが落下したような音が聞こえた。

 

「何かしら今の?」

「行ってみよう! リゼちゃんとシャロちゃんは、ここで待っててね!」

「気を付けろよ。……護身用に銃か何かを」

「今持ってるんですか!?」

「ああ、ほら」

「なんという」

 

 銃は受け取らなかった。

 

 心愛、千夜が階段を上る。

 上の階には心愛たちの部屋がある。下から聞いたあの音は、位置的にはここから発せられたものだろう。

 

 心愛は慎重に部屋のドアを開けた――そして、隙間から中を覗き見る。

 

 ――瞬間、心愛の顔色が変わった。

 

 

[005] 姉が哭いた日

 

「な――ち、千夜ちゃん大変!!」

「ど、どうしたの!?」

 

 千夜も中を見れるよう、心愛はドアを全開にした。中を見た千夜――驚いたように口を抑える。

 

「こ、これは――」

「――チ、チノちゃん!! メグちゃん!! マヤちゃん!! 大丈夫!!?」

 

 心愛が部屋に入り、その落下物を揺さぶる。千夜もそれに続く。

 

 落下したのは3人の少女だった。それも、心愛がよく知っている人物――香風智乃、奈津恵、条河麻耶である。

 

「な、なんでチノちゃんたちがここに!? っていうか、何で落ちてきたの!!?」

「分からないわ――もしかして、あの兎の仕業――?」

「そ、そんなことはどうでもいいよ!」

「あ、どうでもいいのね」

「み、みんなしっかりして!! ああ、もしかしたら高いところから落ちた所為で、障害が残ってたりしたら……!! 私、ショックで死んじゃう……!! 耐えられないよ!!」

「いや、流石にそんなことはない……と思う。信じたいわね」

「そうなったら、私一生面倒見るからー!! だから起きてよー!!」

 

 泣き叫びながら必死に揺さぶる心愛。妹思いの姉である(3人とも妹じゃないが)。

 

「…………ん」

「!!!!」

「……あれ? ココアさん……? なんでここに」

「チノちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「むぎゅう!!?」

 

「ああもう死んじゃったかと思ってお姉ちゃん心配したんだからねお姉ちゃんを心配させるなんて悪い妹だよ全く罰としてもふもふ1億回の刑だよでも生きてて良かった会いたかったよおおおおお!!!!」

 

「ぐっ、ココア、さん、ぐっ、くるっ、く」

 

「ああもう絶対離さないからね絶対もう一生何があってもこうしてくっついていつまでももふもふし続けるからねだってチノちゃん私の大切な大切な大切な大切な妹なんだもん絶対離さないからぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「コ、ココ、ぐっ、うっ、くるっ――」

「コ、ココアちゃんチノちゃんを離してあげて!! チノちゃんから魂が離れちゃうわ!!」

「はっ!!?」

 

 我に帰ったココアは慌ててチノを離す。チノはふらふらと揺れると、再び倒れ込んだ。気絶したのだ。

 

「チノちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 慟哭する心愛。

 

「何で……何で!! 誰の所為で……っ!!」

「また気絶しちゃったことについてなら100%ココアちゃんの所為だけどね」

「うわああああああああ!!!!」

 

 土下座しながら頭を床に打ち付ける。

 

 ドンドンと音が下の階に響いた。

 

「何の音!?」

「私たちも行った方がいいんじゃないかこれ!?」

「で、でも、ここで待ってろって」

「知らん! 状況判断だ! 行くぞ!!」

「イ、イエッサー!!」

 

 理世と紗路も上の階へ向かう。

 

 一方上の階。

 

「…………ん……あれ? こ、ここどこ?」

「…………ん……あれ? 何だここ」

 

 恵と麻耶がほぼ同時に目覚めた。

 

「メグちゃん、マヤちゃん! 目が覚めたのね」

「ち、千夜さん!? ……こ、ここは――わ、私たち学校に行ってた筈じゃ――」

「話すとすごく長くなるわ」

「も、もしかしてここ……死後の世界か何かなのか!?」

「マヤちゃん落ち着いて! それだと私たち死んでるわ」

 

「大丈夫か!?」

「何があったの!?」

 

 理世、紗路が到着。

 

「って、チ、チマメ? 何でお前らがここにいるんだ!?」

「その呼び方止めろよ!」

「さ、さっきの音はあなた達だったのね――で、今音が鳴ってるのは」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「あいつの所為、と」

 

 頭を打ち付けながらノンストップで謝罪し続けている心愛を横目で見た。

 

「あ、あの……これは一体……!?」

「安心して、私たちもよく分かってないから」

「安心できないよ〜!?」

 

 恵と紗路。

 

「っていうか、死後の世界じゃないならここどこだよ!?」

「まあ……魔法の国?」

「魔法の国!?」

 

 麻耶と千夜。

 

「魔法の国ってなんだよ!?」

「魔法の国は魔法の国よ。それ以外に言い表しようがないわ」

「本当に意味わからないよ〜!!」

「またこうやって犠牲者を増やす……何考えてんのよあの闇」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「…………」

 

 ――また騒がしくなりそうだな……。

 

 今後を憂いながら、そう思う理世であった。あと、どうやってフォーテスキューさんに説明しようか、とも。

 

 

 




 何故だか、暗黒門回は短くなる傾向がありますね……。

 それはそれとして、はい、Part.2の解禁です。チマメ隊が登場人物紹介に追加された時点である程度予測出来た方もおられるでしょう。8/8、麻耶の誕生日に合わせての投稿です。
 この回を以て、メイン26名が全員揃いました。そして、暗黒門さんは暫くお休み。お疲れ様でした。

 そんな訳で、第56話でした。

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