ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 所謂短編集です。番外編。


※告知事項※

・何かあれば書きます。


★賢者のサブストーリー★

【友情の指輪】

 

「あ、そうっす!」

 

 時系列は、ダイアゴン横丁での買い物終了後。唐突に真魚が切り出した。

 

「どうしたんだ、真魚?」

 

 直が言う。

 

「ふっふっふー、チーム1のみんなに渡したいものがあったんすよー」

「渡したいもの?」

 

 アリスが不思議そうに聞き返す。

 

「じゃんじゃじゃーん!」

 

 真魚が買い物袋の中から取り出したのは沢山の指輪。金色のアームに銀色のプロング、センターストーンは丸く、内側は絶え間なく神秘的な光を湛えており、まるで小さな宇宙がストーンの中に入っているかのよう。

 

「どうっすか? 綺麗でしょ!」

「凄い! まるで星空みたいだわ……」

 

 綾が目を輝かせる。

 

「また変なのにお金使ったなあ」

 

 直が苦笑する。

 

「さあさあ、今ならタダであげちゃうっすよ! まだ指輪持ってない人は持ってっちゃってー!」

 

 真魚が言った。

 

 指輪を受け取る綾、紗路、千夜、直、忍、アリス、理世。

 

「あれ? 若葉ちゃんとモエちゃんは? いらないんすか」

「あはは……実は、同じもの買ってて」

「マジっすかー!? 無駄にお金使っちゃったっす……」

「じゃあそれも私が引き取るよー! 私の妹はあと二人いるからね!」

 

 そう言うと、心愛は残った指輪を受け取った。

 

「あっ、そうだ」

 

 穂乃花は呟くと、ポケットから同じく指輪を取り出した。

 

「これ、日本に帰ってから香奈ちゃんにあげるつもりだったんだけど、香奈ちゃんもこっち来ちゃったからね。はい」

「え? 私も貰っちゃっていいの?」

「勿論だよ〜!」

「あ、あ、そう? ……じゃあ、貰うわね。ありがとう」

 

 香奈は呆気に取られながらも、指輪を受け取った。

 

「じゃあ! みんな受け取ったところで、嵌めるっすー!!」

「えー面倒くさい」

「ここでそう言うこと言うの止めてくれないっすかね!?」

「へへ、冗談だよ冗談ー」

 

 ジニーが茶々を入れた。

 

 全員が指輪を嵌める。大宮忍は烏羽色の指輪を。アリス・カータレットは金色の指輪を。小路綾は瑠璃色の指輪を。猪熊陽子は金赤色の指輪を。九条カレンは銀色の指輪を。松原穂乃花は褐色の指輪を。日暮香奈は黒茶色の指輪を。保登心愛は蜜柑色の指輪を。天々座理世は茄子紺色の指輪を。宇治松千夜は松葉色の指輪を。桐間紗路は金糸雀色の指輪を。小橋若葉は若葉色の指輪を。時田萌子は花葉色の指輪を。黒川真魚は桃花色の指輪を。真柴直は熨斗目花色の指輪を。ジニー・ウィーズリーは紅色の指輪を。ルーナ・ラブグッドは白色の指輪を。

 

「これは私達が友達である証っす! 一時も肌身外さず持っていて欲し」

 

「いや、これをずっと着けてるのは流石に無理だ」

「外すねー」

「ですわー」

「グダグダ過ぎるんすけど!!?」

 

 

【飴の取引】

 

「ハーイ、モエコ。キャンディの約束忘れてないよね」

 

 時系列は最初の呪文学の授業後。萌子はレイブンクローの生徒である飴好きのマンディと、ちょっとした取引をしていた。

 

「あ、マンディちゃん。勿論、覚えてるよ〜」

「わざわざあんな大言壮語したんだから、さぞ美味しいキャンディをくれるんだろうね?」

「え? 大言壮語? そんな事言ったっけ」

「言ったよ!!」

 

 マンディは机を叩いた。

 

「『甘いお菓子を作ってあげるから、この魔法のやり方教えて』――これを大言壮語と言わずしてなんと言おうか!?」

「それのどこが大言壮語なの!? ……まあ、それはそれとして」

「置いとくなー!!」

「はい、これあげる〜」

 

 萌子が取り出したのは小さな包み。中には色採りどりのカップケーキが入っていた。

 

「それ私の手作りなんだ〜! 食べて食べて〜」

「えっ……? あ、飴じゃないんですけど……?」

 

 満面の笑みの萌子。対照的に、困惑顔のマンディ。

 

「あっ……も、もしかしてカップケーキなんていらなかった? ごめんね……私飴は作れないの」

「えっ……い、いやそういうわけじゃ」

「飴が好きなんだったら、お菓子全般が好きなのかな、って思ったんだけど……飴ピンポイントだったんだね」

「やめて! なんか罪悪感湧くから謝らないで!!」

「分かった! じゃあなんか魔法かけて飴味にしてみるよ!」

 

 萌子は杖を取り出した。杖が、クリーム色の光を放つ。

 

「ちょっ、やめて!! 変に魔法使って変な味にするのやめてぇ!!」

「今思いついた魔法、やってみる!」

「オリジナル!!?」

 

 萌子は綿飴をかき混ぜるように杖をくるくると回し、呪文を唱えた。

 

「『フーミィ・ドルチェ! 甘くせよ!!』」

 

 すると、萌子の杖先からクリーム色の煙が噴き出した。煙は杖の動きに従って螺旋状に回転、袋の中に入り込んだ。

 

「ちょっと貸してね〜」

「ちょっ、あんまり余計なことしないで!?」

 

 萌子は包みを受け取ると、袋の口を閉め、しゃかしゃかと軽く振った。袋の中の煙が内部を隙間なく埋め尽くす。

 暫く振ったあと、萌子はマンディに袋を渡した。

 

「はい! これで飴みたいな味になったと思うよ!」

「えぇ……」

 

 マンディは袋を開けた。中に入っていた煙が飛び出す。

 

「うーん、見た目は変わってない……でも匂いが違う? 甘いというか」

「さあ、食べて食べて!」

「しょうがないなあ」

 

 マンディはカップケーキを一つ取り出すと、口の中に放り込んだ。

 

「ど、どうかな?」

「……飴ではないよね」

「あれ?」

 

 マンディの反応に、萌子は首を傾げる。

 

「飴ではない」

「うん。……まあ飴みたいに甘くはなってるんだけど。でも私ほどのキャンディマニアからすればこれは程遠いなー」

「えー……」

 

 マンディはもう一つカップケーキを口に入れた。

 

「まあ、美味しいからこれでいいや。今回はこれで勘弁してあげる」

「本当!?」

「でも次は本物の飴ちょうだいねー」

「うん!」

 

 

【厨房の真実】

 

 時系列はハロウィーンが近いある日。

 

「……この食べ物、どこから出てくるんだろう」

 

 そう思った萌子は、こっそりと厨房に向かった。こっそりととは言うものの、途中で陽子にバレた。

 

「確かに気になるなー。私も一緒に行くー!」

 

 萌子と陽子は厨房に向かった。幸い、ハッフルパフ寮は厨房の近くにあるため、二人は厨房の場所を把握していた。

 

「ちらり」

「擬音言う必要あるか?」

 

 厨房へ続くドアの隙間から二人は中を覗いた。

 

「「!!!」」

 

 二人が見たのは衝撃的な光景であった。

 

 中に居たのはなんとも奇妙な生物。禿げ頭でコウモリのような長い耳を持ち、テニスボール大の目を持った人型をしていた。大勢いるそれらは皆例外なくボロボロの服とは言えない代物を身に付けている。

 

「なんだあれ……」

「入ってみよう!」

「え!?」

 

 萌子はこっそりと扉を開けて厨房の中に入った。こっそりととは言うものの、扉を開ける際にギィという音が響いたため、その奇妙な生物達が一斉にこちらを見た。

 

「あれっ、バレた?」

「何であれでバレないと思ってたんだ!」

 

 一瞬だけその場が沈黙する――が、その生物達は何事もなかったようにそっぽを向き、先程までやっていた作業を続行した。

 

「ほっ……バレてない」

「いや無視されただけだろ」

 

 萌子は抜き足差し足で厨房の中を進む。

 

「いやだからなんでバレてないと思ってるんだよ!」

「しーっ、大声出しちゃダメ! バレちゃう」

「だからもうバレてるって!」

 

 陽子も扉を開けて中に入った。萌子は謎の生物の背後に近付くと、その手元を覗いた。

 

「わあ」

 

 それはまさに神業と言うしかないものであった。手元にあったのは高級そうなまな板。謎の生物は包丁を素早く動かし、まな板の上の魚(種類不明)を5秒足らずで捌き切ったのだ。おもわず声が出る。

 

「へえ、上手いもんだな」

「わあっ!? よ、陽子ちゃん! いたんだ」

「最初から居たよ!!」

 

「……お嬢様がた」

「「!!?」」

 

 謎の生物は突如声を発した。甲高いキーキー声。

 

「あ、あなた喋れるの!?」

「非常に申し訳ございませんが、私どもは少々手が離せない状況でして。お引き取り願えますでしょうか」

「あっ、はい!」

「す、すいませんでしたー!」

 

 二人は急いで厨房から出て行った。その後ろ姿を、その生物は不思議そうな目で見た。彼女達が入って来たとき以上に、不思議そうに。

 

「……話を聞いてくれた……?」「しかも敬語……?」「……?」「?」「?」「……?」「??」「……??」

 

 ――屋敷しもべ妖精。

 

 魔法界の大きな館や城に住みこみ、一生その家族のために奉仕する妖精。その様は宛ら奴隷であり、また、主人からの扱いもまた、奴隷めいた扱いをされることが多い。そして彼等もまた、それを当然のことと思っている。

 だからこそ彼等には、彼女達の行動が理解出来なかったのだ。

 言った本人からすれば、さっきのはあまりにも出過ぎた真似であり、罰どころか解雇されることさえ頭に入れていたのだが――返ってきた反応は、それとは真逆のものであった。

 

 ――これが、時田萌子と屋敷しもべ妖精『ブラウニー』との最初の邂逅である。

 

 

【永炎呪文】

 

 時系列は穂乃花が華麗なる初陣を飾った三日後。呪文学の授業。

 

「今日は『永炎呪文』を練習しましょう! 杖の振り方はこの間教えた通り! 杖をこう軽く振る――出来るだけ小さな動きにしなければなりませんよ――で、呪文を唱える。『ラカーナム・インフラマーレイ! 燃えろ!!』」

 

 小さな呪文学教授、フィリウス・フリットウィックが前回の授業内容を復習しつつ呪文を唱えると、杖先からリンドウ色の炎が噴き出した。噴き出した炎は教卓の上にある灰皿ならぬ『炎受け皿』に着弾、炎上した。

 

「それでは、その炎受け皿の上に魔法をかけて下さい! 上 に ですよ!! それでは、始め!!」

 

『ラカーナム・インフラマーレイ!!』

 

 全員が一斉に呪文を唱える。しかしやはり出来ない者は大勢いるのが魔法というもの。出来たのはアリス、穂乃花、理世、美紀、セオドール、ザビニ、ダフネ、スーだけであった。ゴイルやクラッブは唱えても何も出ず(振り方が大雑把すぎる)、シェーマスは炎受け皿を爆発させ、ネビルに至っては杖が燃えた。

 

「……イメージなら私も出来たんだけどな」

 

 翼が呟く。

 

「結局出来てないんだから意味ないじゃん」

 

 パーバティが突っ込む。

 

「いや……意味無いことはない。イメージトレーニングは常にやっておくべきもの……漫画家としてはね」

「ふーん。……いやだから何」

「だから何って言われても困るんだけど」

「いや困ってるのこっちだから……どう突っ込めばいいのか分かんないから……」

 

「ラカーナム・インフラマーレイ!」

「無視!?」

 

 翼が呪文を唱えた。すると、炎は出たものの炎受け皿の真横、即ち机に着火した。リンドウ色の炎をあげて着火地点が燃える。

 

「…………」

「ちょっ!? ヤバっ」

「いや、これでいい!」

「良くないよ!」

「炎は檻なんかに捕らえられていいようなものじゃないんだ……もっと自由でなくちゃならないんだよ!! あっ、これネタに使えるかも」

「どうでもいいわ!! 早く消火しないと!」

 

 ――永炎呪文。

 

 その名の通り、水をかけて消さない限りは永遠に燃え続ける炎を放つ呪文。便利そうに見えるが、消すには必ず水をかけなければならないため、少なからず濡れる。なのでそこまで使い勝手は良くないのであった。

 

「先生ー!! 炎が机に!!」

「止めろぉ!!」

「止めろじゃないわよ!?」

 

 パーバティがフリットウィックを呼んだ。それを制止しようとする翼。

 

「上にと言ったでしょう上にと!! 全く! 『アグアメンティ!』」

 

 フリットウィックが呪文を唱えると、杖先から噴水のように水が噴射、炎は瞬く間に消えた。

 

「あああああ!! 炎がっ!!」

「む!? もしや故意にやったのかね!」

「違います」

「あっ違うんだ」

「全く! グリフィンドール2点減点!」

「えー……」

 

 フリットウィックは去って行った。

 

「もう、減点されちゃったじゃない! 気をつけてよ?」

「……今度はちゃんと皿に近い場所を燃やす」

「あっそう――って、止めなさいよ!!」

 

 

【クリスマスの四人】

 

 時系列は冬季休暇中。

 

「むにゃむにゃ……もうチノちゃんってば甘えん坊さんだなぁ……」

「どんな夢を見てるのかしらね〜」

「現実とは懸け離れた夢を見てるのは間違いないでしょうよ」

 

 ここはFFI。心愛、理世、千夜、紗路は冬季休暇中、手伝いをするためFFIに居た。

 

「ふふふ……マヤちゃんってば大胆だなあ……」

「マヤちゃんも居るみたいね」

「節操ないことこの上ないな」

 

 今日はクリスマス。外には雪が積もっており、フォーテスキューが雪掻きをしていた。

 

「メグちゃん……この衣装着てバレエしてよ……ふふふ……」

「メグちゃんに何やってるのよこいつ」

「もう起こすか」

 

 理世は心愛の布団を思いっきり捲った。

 

「おい、起きろココア。もう朝だぞ」

「うぅ〜……あれぇ、マヤちゃん? 大っきくなったね〜」

「寝ぼけてるわね」

 

「うぅー、寒いー、起きたくない〜」

「起きろココア。今日はクリスマスだぞ」

「そうだ今日はクーリスーマスー!!」

「うわっ」

 

 心愛は飛び起き、ベッドから即座に降りると扉を開けて部屋から出た。

 

「お、おいココア! 急にどうした!?」

「だって今日はクリスマスだよ!? 確か下にクリスマスツリーあったから、もしかしたらそこにプレゼントがあるかも〜!」

「はっ、子供ね……サンタなんて、本当は居ないのよ……ふふ……貧乏なおうちには、否応なく現実を突きつけてきやがるのよあの白髭……ふふ」

「落ち着いてシャロちゃん、サンタさんは居るのよ」

「いやその反応もどうかと思うが……おいココアー!」

 

 リゼも部屋を出て階段を降りた。一応二人もそれに続く。

 ココアはクリスマスツリーの側でしゃがんでいる。

 

「どうだ? あったか?」

「あったよ!」

「そうか、だろうな、え?」

 

 素で驚いた理世。心愛は立ち上がり、綺麗にラッピングされた包みを見せた。

 

「ま、マジで!?」

「大マジだよ! みんなの分もあるよ〜」

「わ、わわ、私の分もあるの!!?」

「多分これシャロちゃんにじゃないかな」

「ク、クリスマスプレゼント……!!」

 

 シャロは震えながらプレゼントを受け取った。クリーム色の包み。

 

「良かったわねシャロちゃん!」

「あ、あわわわわ……」

「本当に全員分あるな……はい、千夜」

「ありがとう〜」

 

 千夜はプレゼントを受け取った。エメラルドグリーン色の包み。理世もプレゼントを手に取る。濃紺色の包み。

 

「ようし! みんなプレゼントは手に取ったかい!? 一、ニの、三で開けるよー!」

 

 心愛は朱色の包みを掲げながら言う。

 

「いーち、にのー、さーん!!」

 

 四人は包みを開けた。が、ラッピングがあったため、一斉とはいかなかった。

 

「わあ! 耳当てだ〜!」

「FFIの無料券も付いてあるぞ、って滅茶苦茶多いな!?」

「みんなに分けろ、って事なのかしらね〜」

「四人おそろいの耳当て……リゼ先輩とおそろい……ふふ」

 

 四人は暫くそれを眺めたり着けたりした後、包みの中に戻した。

 

「ようし! 今日はいつも以上に動けるお姉ちゃんっぷりを見せちゃうよ!! 左分けにしちゃうよー!!」

「ふん、プレゼント貰ったからって現金な奴ね! そんな奴に負けてはいられないから本気出す!!」

「あら、やる気ねシャロちゃん! じゃあ私も普段の千倍のスピードでメニュー名改訂するわ!!」

「おいそれは止めろ!!」

 

 ――その日のFFIの回転率は、普段の約三倍であったという。

 

 

【鷲の戦い:Part1】

 

 時系列は期末試験期間開始直後。レイブンクロー談話室での話。

 

「おいそこの!!」

 

 挑発的な声で何者かを呼び止める少女。眼鏡を掛け、白髪に限りなく近い銀髪を三つ編みにしている。

 彼女の名は『ミーガン・ジョーンズ』。レイブンクロー一学年女子トップの成績を誇る少女である。

 

「……何かな?」

 

 ミーガンに呼ばれ、振り向いたのはコンタクトを着けた青い眼の少年。ゴールデン・ブラウニッシュ・ブロンドの髪はオールバックで、耳にはピアスを着けている。

 彼の名は『アンソニー・ゴールドスタイン』。レイブンクロー一学年トップの成績を誇る少年である。

 

「悪いが今回のテスト、学年トップとなるのはこの私だ、アンソニー!」

「そうかい。頑張れよ」

 

 アンソニーはソファから腰を上げた。

 

「おい逃げるのか!? もっとなんか反応しろよ!!」

「僕に絡んでる暇があるなら勉強しろよミーガン。僕に勝ちたいなら尚更勉強しないとだろ?」

「ぐぬぬぬぬ……!!」

「それじゃ」

「待てコラァ!!」

 

 アンソニーの道を遮るミーガン。アンソニーは右へと左へと動くが、ミーガンも同じように動く。

 

「……何かな」

 

 鬱陶しそうに溜息混じりでアンソニーが言う。

 

「もう少しなんか無いのか!? 僕はお前なんかに負けないぞ、とか!! なんだ!? 私はおまえにとってそんなに取るに足らない奴ってことか!? ああん!?」

「五月蝿いな……他の奴に迷惑掛かってるよ」

「それは後で謝罪する!!」

「今しろよ」

「お前らすいません!!」

「じゃあな」

「待てや!!」

 

 再び立ちはだかるミーガン。

 

「……ぼくはおまえなんかにまけないぞー」

「感情がこれっぽっちも篭ってねえんだよ!!」

「どうしろって言うんだ」

「それくらい自分で考えろ一位様!!」

「じゃあ勉強する。じゃあな」

「待てや!!」

 

 再び立ちはだかるミーガン。これを何度も繰り返すのが、テストが近くなってきた時のお約束と化していた。

 

「もうあいつら結婚すればいいのに」

「お似合いよねー」

 

 リサ・ターピンとモラグ・マクドゥガルが言う。

 

「誰と誰がお似合いってぇ!!? もう一回言ってみなさいそこのぉ!!」

「じゃあな」

「あっ、待て!!」

 

「何回ループすんのよ、いい加減もううんざりうんざり」

「いちいち『じゃあな』って言わなきゃいいのに」

 

 ――以上、レイブンクローの近況である。

 

 

【蛇らしからぬ魚】

 

 時系列は期末試験開始前日の夜。

 

「モエちゃんモエちゃん」

 

 大広間での夕食中。真魚が萌子を呼び出した。

 

「真魚ちゃんどうしたの〜?」

「いや実はさ、かくかくしかじかで」

「え〜!? ドラコ君そんな事になってたの!?」

「そうなんすよ!」

 

 二人が喋っている内容を正確に記述しております。

 

「もうなんか、見てて居た堪れなくなってくるんすよ……いや何から何まで最初から最後まであいつの自業自得なのは不動の事実なんすけど、まあ、ちょっと」

「真魚ちゃんなんでスリザリンに入ったの?」

「なんでっすかねぇ……正直理由あんまり覚えてないっす……」

「真魚ちゃん絶対ハッフルパフと思うんだけどな〜」

「あっ、そこはグリフィンドールじゃないんすね」

「真魚ちゃんがグリフィンドール? ははは」

「その笑いはなんすか」

 

 閑話休題。

 

「成る程、隠れて食べ物を渡してあげたいと」

「流石にバレる訳にはいかないっすからね……今持っていくと確実にバレるでしょ? だから深夜に持って行こうと思うんすよ」

「校則……まあいいや、でも、なんで私に?」

「ハッフルパフ寮って、確か厨房に近いんすよね?」

「うん。というか目と鼻の先」

「でしょ? だから、モエちゃんに取ってきて欲しいんすよ」

「うーん……」

 

 腕を組んで暫く考える萌子。

 

「いや、まおも勿論行くっすよ? 行くっすけど、あそこに居る人達とモエちゃんって友達らしいし、入るなら、モエちゃんの方がいいかなー、って」

「うーん……まあ確かに知ってはいるけど、友達とまではまだいかないかな……」

「そうなんすか? 興味持たれてるって聞いたんすけど――っていうか、厨房で働いてる人ってどんな人なんすか? イケメンな人とか居た!?」

「いや……うん、居ないよ……そうなの? 興味持たれてるの? 誰から聞いたの?」

「フレッドっす。あれ、ジョージだっけ? まあいいや。とにかく、あの双子から」

「情報の出所が出所だね……」

「あいつら曰く、『あの連中が興味持つってのはかなり珍しい事だぜ』らしいっすよ?」

「えっ、そうなんだ……」

 

 いつの間にか自分が珍しい存在になっていた事に困惑する萌子。となると、陽子ちゃんも興味持たれてるのかな? 萌子は考える。

 

「頼むっす! 一生のお願い!」

「何回一生のお願いなんてあるの……」

「数えられないっすね」

「一生何回あるの、転生しすぎだよ……その辺がスリザリンなんじゃないの?」

 

 呆れたように言う萌子。

 

「うん、分かった! 真魚ちゃんの頼みだからね!」

「本当っすか! 恩に着るっす! 後でドラコにも恩を強制させとくっす!」

「そんな恩いらないよ!?」

 

 

 

 

【Through the Trapdoor area.7】

 

  -生命の業火:BAD END ver.-

 

 

「がっ……!!?」

 

 クィレルの姿をした何か――ヴォルデモートは名乗るや否や、素早い動きで穂乃花に近寄り、軽々と首を摑み、持ち上げた。

 

「かっ――は――!!?」

「全くクィレルは甘かった。たかが小娘一人なぞに、情を抱きおって」

「はっ――っ――!!」

「その所為で、俺様がこうして動かなくてはならなくなった――だが、この方がお前の顔がよく見える――苦しみ、絶望している顔がな」

「っっ――が――!!」

 

 穂乃花は足をバタつかせ、ヴォルデモートの腕を摑み、引き離そうと抵抗する――だが、まるでビクともしない。ヴォルデモートは嗤う。

 

「ははははははは!! いいぞ!! もっと苦しめ!! もっと喚け!! もっと啼け!! 俺様を愉しませろ!!!」

「がっ――ぁ――!」

 

 穂乃花の意識が再び朦朧とする。白く混濁した意識――次々と記憶がフラッシュバックしてくる。走馬灯だ。

 

「ぁ――ぁ――」

「はははははは!!! どうした!!? もう終わりか!!? はははは!!! その程度か小娘!!! 穢れた血!!! 魔法族の穢れ!!! 恥晒しめ!!!」

「ぁ――――」

 

 口の端からは涎が垂れ、白目を向いている。足は力なくだらりと下がり、ヴォルデモートの手を掴んでいた右腕も、遂に垂れ下がった。杖が手から零れ落ちる。左腕も、今にも垂れ下がりそうになる――。

 

「――――」

 

「死ね!!! ホノカ・マツバラ!!! 苦しみ抜いて死ね!!! 後悔して死に屈伏せよ!!! 死ね!!! 死ね!!! 死 ね っ ! ! ! 」

 

「――」

 

 

《side Honoka》

 

 ――もう、今度こそ――駄目、かも――

 

 ――動けても――あと一回――

 

 ――嫌だ――こんな死に方――首絞めなんかで死ぬなら、カレンちゃんにやってほしかった――

 

 ――結局――私たちのやったことは――何だったの――?

 

 ――ただ――こいつを復活させただけ――?

 

 ――なんて――意味のない――

 

 ――カレン――ちゃん――

 

 ――ああ――

 

 ――もう――

 

 だ

 め

 

 

 

 

 

 

 ――本当に、それでいいの?

 

 ――…………。

 

 …………。

 

 

 

 

 

 ――もう

 

 もう――いいや

 

 

 苦しいのは――もういいや

 

 いっそもう――――

 

 

《side END》

 

「はははははははははは!!!」

 

「――――かっ――――」

 

「はははははははははは!!!」

 

「――――――――」

 

「ははははははははははははは!!!」

 

「――――――」

 

「ははははははははははははは!!!」

 

「――――」

 

「ははははははははははははははは!!!」

 

「――」

 

「ははは――む?」

 

 高らかに嗤うヴォルデモート。微かな変化に気付き、嗤い声を止めた。

 

 

「――ふん、死んだか」

 

 

 ヴォルデモートは満足気に呟くと、首を絞める指に力を込めた。

 

 ――ボキッ。

 

 首の折れる音がした。

 

 ヴォルデモートは、死体と化した穂乃花を、まるでゴミ袋を投げ捨てるかのように放り投げた。穂乃花は壁にぶつかったが、ぴくりとも動かない。涙で顔はぐちゃぐちゃになり、だらりと開いた口からは涎が滴る。ぶつかった衝撃で手足が奇妙な方向に捻じ曲がっている。

 

「この俺様に逆らうからこうなるのだ――俺様の手に掛かって死ねた事を、あの世で誇るがいい。死に屈服した、脆弱なるマグルよ」

 

 ヴォルデモートは死体の着ているローブのポケットから、紅色に光る石を取り出した。血のように真っ赤で、内部では生命の業火が渦巻いている。

 

「ははははははははははははは!!! ついに手に入れたぞ、賢者の石!! これで俺様は、完全なる不死を、手に入れたのだ!!」

 

 ヴォルデモートは石を掲げた。その顔は歓喜に満ち、狂気に満ちる。

 

「ははははははははははははは!!!」

 

 ヴォルデモートは嗤い続ける。が、その時、何者かの足音が聞こえた。

 

「ははははははははは――ふん」

 

 ヴォルデモートは周囲を見回し、そして――。

 

「『エクスパルソ・マキシマ・デュオ!!』」

 

 ヴォルデモートが呪文を唱えるとともに、杖先からは幾重もの灰色をした閃光が迸り、床や壁、天井に着弾。大爆発を引き起こした。

 

 

「ははははははははははははは!!! さらばだ――アルバス・ダンブルドア!!! ははははははははは!!!」

 

 

 大爆発により崩壊する部屋。向かってきた何者かは踵を返し、その場から急いで去った。崩壊に巻き込まれたみぞの鏡と穂乃花の死体は、瓦礫に潰され――。

 

 

 クィリナス・クィレル――死亡

 松原穂乃花――死亡

 

BAD END

 

 

 

 

「――なんて事にならなくて良かったよ〜! あはは!」

「いやそれ笑い事じゃないデスよね」

 

 




 以上、ちょっとした短編集でした。え? 天文学回とクィディッチ回は、って? あれを短編と言い張るのは流石にきついので……。

 短編集という名の伏線回収回です。とはいえ、回収している話が二つくらいしかありませんが。

 因みに、10月中にPart2へと突入する予定です。暫しお待ちを。

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