ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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※告知事項※

・何かあれば書きます。


長いよるのおわり

【第54話】

 

 

長いよるのおわり

 

 

[181]

 

 ――私は、暗闇の中に居た。

 

 何も見えない真っ暗闇――どこまで続くのか分からない、漆黒の闇。

 ふと、死というのはこういうものなのだろうなと思った。永遠の暗闇。光の無い永遠。

 

 ――…………。

 

 ――…………?

 

 どこまでも続く黒い世界――遥か遠くに、小さな小さな光が見えた。それは、私か忍ちゃんでなければ見逃してしまいそうな、金色の光。

 

 私は光に向かって歩き出した。

 

 近付くにつれ、光は大きくなり、金色はより美しいものとなった。そしてその光の中に、一瞬、赤と黒の粒が見えたような気がした。

 

 ――カレンちゃん?

 

 不意に私は、彼女を連想した――あのカレンちゃんに似合わない、禍々しい粒子。一瞬の事だったけれど、今でも鮮明に私の記憶に焼きついている。

 

 ――カレンちゃん!

 

 私は、光に向かって手を伸ばした――。

 

 

[182]

 

「カレンちゃん!!」

「Wow !!? きゅ、急にどうしたデス!?」

「え?」

 

 ――手を伸ばした瞬間、急に世界から暗闇が取り払われた。代わりに周囲は清潔な純白が支配し、いくつかベッドが置かれている。私は部屋の中にいるようだ。

 

「……ここは?」

「医務室ですよ、穂乃花ちゃん」

 

 隣で答えたのは忍ちゃん。医務室……って、そうだ!

 

「忍ちゃん! 怪我は!? もう大丈夫なの!?」

「はい。心配をお掛けしました。もうこの通り、完全回復です! 傷一つ残っていません!」

「良かった〜! ……あれ、なんで私医務室に居るんだっけ」

「ダンブルドア先生が運んできてくれたんだよ」

 

 忍ちゃんの隣に居るアリスちゃんが答えてくれた。この様子を見ると、アリスちゃんの方も成功したみたい。

 

「そうなんだ……え? ダンブルドア先生?」

「うん。あの後カレンを起こして、シノを拾って、それで、職員室に行こうとしたの。でも、フラッフィーの部屋の前――あの突き当たりの扉の前ね――に、ダンブルドア先生が立ってたの」

「立ってた? ダンブルドア先生って出掛けてたんじゃないの?」

「うん……その筈なんだけど……」

「あの時のダンブルドア先生、ちょっとおかしかったデス。まるで何にも考えてないみたいにボーっと立ってて……棒立ちしてマシタ」

「棒立ち……?」

 

 棒立ちって……? なんでダンブルドア先生が居たの? よく分からないよ……棒立ちって事は、別に助けに来た訳でもないってこと? うーん……やっぱりあの人はよく分からない……。

 

「それで、ダンブルドア先生にこの事を伝えたら、ここで待ってなさいって言って、部屋の中に入って……暫くすると、ホノカを抱えたダンブルドア先生が出てきたの」

「その後は、ダンブルドア先生と一緒にここまで来て、シノを治してもらって――あ、そうデス! ダンブルドア先生の権限で、罰則も減点も無しにしてもらったデス!」

「罰則も減点も無し!? 意外……」

「私達はある意味ホグワーツを救ったのですから、これくらい当然の事でしょう! もっと欲を言えば金髪同盟に何か一つ権限をくれればよかったのですが……」

「くれなかったんだ……」

「あの時私が起きていれば交渉したのに……歯痒いです!」

「うん……」

 

 残念だよ……校長先生に認めてもらえれば、もっときんぱつきんぱつ出来るのに……。

 

「あっ」

「どうしたんデスか、ホノカ?」

「そういえば、賢者の石は? あれどうなったの?」

「ああ、あれデスか? なんか壊しちゃったみたいデスよ」

「へえ、そうなんだ〜、ってええっ!!?」

「Oh !!! ノリツッコミデス!!」

「違うそうじゃない!!」

 

 え? え? 壊しちゃった? はい!?

 ええええええ!!?

 

「わ……私達、なんの為に……」

「うーん……今回の件で危機感を感じたミスター・フラメルとミセス・フラメルが、もうこの石は無い方が良い、って思ったらしくてね。ダンブルドア先生とも相談して……うん、それで壊しちゃったんだって」

「えぇ……でも、それじゃあニコラスさんと……えっと」

「ペベレネ・フラメルさんだってさ」

 

 ペベレネさん……言い難いな……。え列ばっかりだよ……。

 

「ペベレネさんも、死んじゃうんじゃないの? 本当にそれで良かったのかな」

「ニコラスさんもペベレネさんも、この結果には異論ないようです。前向きな姿勢のようですよ」

「前向きな姿勢……」

「身辺を整理するのに十分な"命の水"を蓄えていらっしゃるようです。悔いを残さずに逝くのでしょうね」

「へえ…………っていうかさ」

「はい?」

「忍ちゃんもアリスちゃんもカレンちゃんもさ、何でそんなこと知ってるの?」

「ニコラスさんとペベレネさんに教えてもらいました」

「あっ、そうなんだ。成る程それなら納得だよ〜! ってええっ!?」

 

 またさっきと似たような反応しちゃったよ……っていうか!

 

「会ったの!? いつ!? どこで!?」

「今日だよ。ホノカが起きるちょっと前――いつも通りここに来たら、ダンブルドア先生とフラメル夫妻がいてね。その時に聞いたの」

「へぇ……ん? でも何でフラメル夫妻が来たの?」

 

 まさかお見舞いに来てくれた、なんて事はないだろう。もっと何か理由がある筈。

 

「普通にお見舞いに来たらしいよ」

「うわお」

 

 外れちゃったよ!!

 

「え? 本当にお見舞いに来ただけなの?」

「まあ……あの人たちがそう言ってただけだし、本当のところはどうなのかは分からないけれど――少なくとも、表向きはそうだよ」

「へぇ……そうなんだ」

 

 一応気は遣ってくれているらしい。少し意外。なんというか、予想のつく行動をとってくれた事が、ある意味予想外。

 

「あ、そうデス」

「ん?」

 

 その時である。私がフラメル夫妻を、"普通の行動をとる人"と認識したその時――カレンちゃんが言った。

 

「どうしたの、カレンちゃん」

「あの人たち、ホノカに渡したいものがあったらしいデスよ。そこの包みデス」

「渡したいもの?」

 

 なんだろう?

 

 カレンちゃんが指差す先には、色々なお菓子やら花やらが置かれてある。お見舞いにくれたものなのかな? 今気付いたよ……。

 それらの傍らに、明らかに異彩を放つ小さな包みが置かれていた。みすぼらしい、その辺の紙が何かで適当に包んだような何か。私はそれを手に取った。

 

「これかな?」

「それデショウ」

「ふむ……」

 

 私は包みを開けた。そして思い知る、フラメル夫妻もまた、ダンブルドア先生のように、考えている事を察ろうとしても、それらが全て無駄に終わるタイプの人たちなのだと――。

 

「……はい?」

 

 包みの中に入っていたのは、どこかで見た事のある、まるで血のように赤い小さな欠片。欠片の中心では小さな炎のようなものが揺らめいていた。

 

 ――賢者の石の、欠片であった。

 

 

[183]

 

 …………。

 いや章転換しても全然分かんない、何もかもが分からない。

 

 え? 何? これを私に渡してどうしたい訳? 賢者の石を守ってくれたお礼、とかそういうの? いや、だったらカレンちゃん達も貰ってなきゃおかしい筈……何か? 自分たちはもうすぐ死んじゃうけど、代わりに私に長生きしてほしいとか、そういうかんじなの?

 

 えっ、分かんない。本当分かんない。っていうか、いらない。

 どう使えと……? どうしろと……?

 

「……これ捨てていいかな」

「流石にダメでしょう」

「どうしよう、多分これ貰った贈り物の中で一番使い道が無いような気がするんだけど」

「まあ、念の為にとっておいたら如何です? 記念品というか」

「壊すんなら完全に壊そうよ……なんでちょっと可能性残してるの」

「さあ? 賢者の考えなんて、私達には到底理解し難いものですよ。理解しようとするだけ無駄と思いますよ、私は」

「訳分かんない事やって周りを混乱させるような人が賢者なら、私そんなのに絶対なりたくないよ」

 

 将来の選択肢から間違いなく一個消えた。いや、そもそも錬金術師なんて最初から選択肢に入ってなかったし、賢者を名乗れるほど賢くないけれど……。

 

「何これ何これ何これ何これ……一難去ってまた一難過ぎるよ……今回の事件って賢者の石が狙われたことから起きたんだから、これ今後私が狙われるんじゃないの? 嫌なんだけど……嫌過ぎてもう一回寝込みそう」

「うーん……まあ、その辺のリスクは捨て切れませんよね……いつどこでバレるか分かりませんし」

「何でこんなことするの〜!! 変なの背負わせないでよ〜!! ある意味私だけ罰則あるじゃん〜!! っていうか罰則の方が数倍よかったよこんなのよりも!!」

 

 もう泣きそう……何この仕打ち? 今初めて今回やった事について心から後悔したんだけど……何が"全ては克服の為"だよ、新しい困難増えてるんだけど……。

 

「うわあ、衝撃的すぎる……生命の石の癖に、私の人生に枷を掛けてどうするの……。……フラメル夫妻って今どこにいるの」

「ちょっと前に帰ったよ」

「まるでホノカが起きるのと入れ替わるみたいデシタ」

「逃げたよね、それ絶対逃げたよね」

「後、こんな事言ってましたね。『後の事はよろしく』って」

「わあ、あの二人を同情する気持ちがどんどん無くなっていくよ。同情どころかどんどん腹立ってきたよ、あーもう燃やしてやろうかあの二人」

 

 燃やすのは行き過ぎでも、あのよく分からない魔法でベタ塗りにしたい。カラフルに彩色してやりたい。

 

「……燃やすで思い出したけど、それについては何か言ってたの?」

「それ?」

「私、クィレルを倒すとき、なんか右手に炎が宿ったんだよね。それのお陰で助かったんだけど――多分この石絡みだろうから、あの二人知ってると思うんだけど、何か言ってた?」

「何も言ってマセンデシタね」

「わあ酷い」

「私達も初耳だよ」

「わあ酷い」

 

 ……もう本当……もう……。

 

「……ダンブルドア先生呼んできて。多分あの人知ってるでしょ」

「あの人、フラメル夫妻に付き添ってどこかへ行ってしまいました」

「成る程、説明する気はこれっぽっちも無いと」

 

 ……もう……なんかもう……。

 

「あーもう何かどうでもいいよもう……何? この行き場のない感情は何にぶつければいいの? この石? サンドバッグ代わりにすればいいの?」

「ごつごつしてるから、殴ったりすると痛そうだよね」

「角も鋭利ですし、逆に傷付きそうです」

「わあ役に立たない」

「カッターナイフの代わりになら使えるんじゃないデスか? 切れ味良さそうデス」

「火打ち石に使ってみたら?」

「投合武器としても使えそうですね」

「石器か!!」

 

 投合とか以ての外だし、カッターナイフの代わりにしてもなんか焦げ目吐きそう……火打ち石にしたらしたで必要以上に燃えそうだよ……。中途半端に価値があるから軽く使えないし……どうしよう。

 

「取り敢えず保管しておけば? また今回みたいな事があったら、その時に使えるかもしれないし」

「願わくばもうそんな事起こらないで欲しいんだけどね……っていうかもう関わりたくない、こんな厄介ごと押し付けられたら、もう関わりたくない」

 

 私はもう関係ないよ、って、窓からこれをポイ捨てしたい。

 

「……まあ、一応持っとくけど……テニスボールが役に立った位だし、どこで何がどう役に立つか分からないもんね」

「うん。少なくとも私の石よりは役に立つと思うよ」

「確かにそうだね……そう考えると不思議とマシなものに見えてきたよ」

「酷いですっ! あれは私の思い出の品なんですよ!」

「あぁあ、ごめんシノ! ちょっと今のは酷かったよね、ちょっと言い過ぎたよね!」

「アリスのはアリスので、変に価値があるから扱いずらそうデス!」

「変に、とは何ですか、変に、とは! 全く」

「ははは」

 

 ……なんか、この三人見てたらどうでもよくなってきちゃった。

 

 そうだよね……ごちゃごちゃと悩んでても仕方ないよね。どうせなるようにしかならないし……考え過ぎても良い事なんて何も無いし。カレンちゃんとの距離感みたいに……。

 

 ……あっ、そうだ。

 

 訳のわからない石に気を取られて忘れてた……まだ三人に言ってないことがあったんだ。

 

 私は、その小さな欠片をもう一度包み、贈り物の横に置いて、三人に言った。

 

「忍ちゃん、アリスちゃん、カレンちゃん」

「何ですか?」

「何?」

「What ?」

 

 

「お疲れ様でした」

 

「ええ。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様!」

 

「Good job デス!」

 

 

 

[184]

 

 こうして、一年目の冒険は幕を閉じた。ここで一先ず、賢者の石は包みの中で眠りにつく。再び目覚め、その業火を燃やすその日まで――。

 




 くぅ疲(まだ終わってないけど)!

 次回、いよいよPart1最終回です。

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