ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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※告知事項※

・挿絵あり。

・何かあれば書きます。


Through the Trapdoor area.6

【第52話】

 

 

Through the Trapdoor Area.6

  -7つの小瓶-

 

 

[172]

 

 Danger lies before you, while lies safety behind,

 Two of us will help you, whichever you would find,

 One among us seven will let you move ahead,

 Another will transport the drinker back instead,

 

 Two among our number hold only nettle wine,

 Three of us are killers, waiting hidden in line,

 Chose, unless you wish to stay here for everymore,

 To help you in choice, we give you these clues four,

 

 First, forever slyly the poison trie to hide

 You will always find some on nettle wine's left side;

 Second, different are those who stand at either end,

 But you would move onwards, neither is our friend;

 Third, as you see clearly, all are different size,

 Neither dwalf nor giant holds death in there insides;

 Fourth, the second left and the second on the right

 Are twins once you taste them, though different at first sight.

 

 

[173]

 

「ほ、炎が――!?」

「っ……!!」

 

 穂乃花とアリスを取り囲む黒と紫の炎。後退も前進も許さぬが如く、ごうごうと燃え盛る。

 

「どうしよう、ホノカ!? 進めないよ!!」

「落ち着いてアリスちゃん!」

「落ち着いてらんないよ!! シノもカレンも倒れちゃって、結局ここまで来たのは私とホノカ二人だけ――なのに、こんなのないよ!! 何のためにあの二人は――!!」

「それは私も同じ気持ちだよ――でも今は落ち着いてアリスちゃん!! 必ずどこかに突破するヒントがある筈――」

「どこにあるのそんなの!! どうせ一人が炎に飛び込めば通過出来るとかそういうのでしょ!!?」

「っ〜〜〜〜!!」

 

 自暴自棄になるアリス。度重なる仲間のリタイアに、彼女の精神は極限まで磨耗していた。

 ……というか、普通誰でもそうなる。ここまで来てまだ正気を保ってる穂乃花のメンタルが強過ぎるだけなのだ。金髪同盟の共通点として、無駄にメンタルが強いという点があるが、やはりそういう意味でも彼女はその一員なのだと思わせられる。

 

 ――どうすれば。

 

 穂乃花は考える――そして、前方にある小さなテーブルを見る。

 その上にあるのは7つの小瓶――これだ。多分、これがこの関門の内容。

 穂乃花はテーブルに近付いた。覚束ない足取りで後ろからアリスが付いてくる。

 

「これは……」

 

 色も大きさも違う7つの小瓶。その一つ一つに謎の液体が入っていた。これを飲めば良いのだろうか?

 

 近くにメモのようなものが置かれてあるのに穂乃花は気付いた。手に取り、読む。

 

______________________________________

 

 前には危険 後ろは安全

 君が見つけさえすれば 二つが君を救うだろう

 七つのうちの一つだけ 君を全身させるだろう

 別の一つで退却の 道が開ける その人に

 

 二つの瓶は イラクサ酒

 残る三つは殺人者 列に紛れて隠れてる

 長々居たくないならば どれか選んでみるがいい

 君が選ぶのに役に立つ 四つのヒントを与えよう

 

 まず第一のヒントだが どんなに狡く隠れても

 酒の左は いつも毒

 第二のヒントは両端の 二つの瓶は種類が違う

 君が前進したいなら 二つのどちらも友でない

 第三ヒントは見た通り 七つの瓶はサイズが違う

 小人も巨人もどちらにも 死の毒薬は入ってない

 最後のヒントは双子の薬 少し見た目は違えども

 各両端から二番目の 瓶の中身は同じ味

____________________

 

【挿絵表示】

 

「えっと、つまり……この中から正しい瓶を選んで、その中に入ってる薬品を飲めってこと?」

 

 読みおえた穂乃花は小瓶を見た。

 

「……うーん」

 

 羊皮紙を見る。

 

「……巨人と小人ってことは、一番大きい瓶と小さい瓶のことだよね……それで……」

 

 穂乃花は小瓶を見た。

 

「これとこれは同じ味なんだね」

 

 穂乃花は右から二番目の瓶と左から二番目の瓶を手に取った。右から二番目の瓶は一番大きい瓶である。

 

「死の毒薬は入ってない……一番大きい瓶に毒薬は入ってないから、これとこれは飲んでも安全……」

 

 穂乃花は二つの瓶を置いた。

 

「君が前進したいなら、両端の瓶は友ではない……ってことは、両方とも毒薬? じゃあ三つのうち二つは確定だね! ということはつまり、隣の二つはお酒だ。じゃあ、その間の三つってことだよね! なんだ、簡単じゃ――」

 

「それは違うよ」

 

「!?」

 

 アリスが言った。

 

「両端の液体を飲んでも"前進"出来ない――確かに毒薬の可能性もあるけど、でも前進出来ないってだけなら、お酒、後退の薬の可能性も含まれるよね」

「あっ、そうか……」

 

「……ホノカ、その紙貸して」

「え?」

「私にやらせて」

「う、うん」

 

 穂乃花はテーブルの前から身を引き、アリスに場所を譲った。

 

「…………」

 

 羊皮紙を見、瓶を見、熟考するアリス。

 

 熟考すること、なんと約1分後。

 

「OK、分かった」

「早過ぎない!?」

 

 驚く穂乃花にアリスは解説を始めた。

 

 

《Turn Alice》

 

 

「この四つのヒントのうち、一番使いやすいのはホノカが使った三番目のヒント。一番大きい右から二番目の瓶と、一番小さい左から三番目の瓶には毒薬が入っていない――つまり、薬か、お酒」

 

「うん」

 

「次に分かりやすいのは第四のヒント。これもホノカが次に使ったよね。各両端から二番目の瓶は味が同じ――つまり、この一番大きな瓶と左から二番目の瓶は同じってこと」

 

「うん、そこまでは分かる」

 

「で、ここでこの二つは除外出来る」

 

「え?」

 

「薬が入ってる瓶は、前進後退、それぞれ一つしかないよね。この二つは同じものが入ってる――つまり、絶対に薬じゃない」

 

「ああ、成る程」

 

「となると、一番大きな瓶はお酒で確定。同じものが入ってる左から二番目の瓶も、お酒で確定だね」

 

「ふむ……あ、じゃあここで第一のヒントを使うんだね」

 

「そう。このヒントはお酒の左隣は必ず毒だってことを言ってるよね。ということは、左端の瓶と右から三番目の瓶は毒で確定するから、飲んじゃダメ」

 

「これで三つのうち二つの毒は分かったんだね」

 

「あと、後退の薬も明らかになったね」

 

「え? そうなの?」

 

「第二のヒントには、両端の瓶の中には違う種類の液体が入っていて、両方とも前進の薬じゃないってことを言ってる――お酒は二つとも分かったし、種類が違う必要があるから毒でもない。となると、残されているのは……」

 

「……後退の薬だけって訳だね」

 

「Yes」

 

 

 アリスは、右端の瓶を列から少し離れた場所に置いた。

 

 

「これで中身がまだ分かってないのは二つだけ。真ん中の瓶と左から三番目の瓶――つまり、一番小さい瓶」

 

「……あっ!」

 

「分かった?」

 

「確か、一番小さい瓶には毒薬は入ってないんだよね。じゃあまだ中身の分かってない真ん中の瓶は自動的に毒で確定する……ってことは、一番小さいこの瓶が――」

 

「そう、前進の薬――炎を通り抜ける薬だね」

 

 

 アリスは一番小さな瓶も列から少し離れた場所に置いた。

 

 

「QED、This mystery has been solved――これで、この関門はクリアだよ」

 

 

 アリスが宣言した。

 

 

《Turn END》

 

「凄いよアリスちゃん!! たった1分で解いちゃうなんて!!」

 

 興奮して叫ぶ穂乃花。

 

「あはは……最後くらい、何かの役に経ちたかったし、一安心だよ」

 

 だが、アリスは力無く微笑むだけで、その目にはやはり生気は感じられない。

 

「最後くらいって……アリスちゃんが居なかったら、そもそもフラッフィーも悪魔の罠も、空飛ぶ鍵だってクリア出来なかったんだよ? アリスちゃん働きすぎだよ〜!」

「……フラッフィーの時は、結局ホノカに助けられたし、悪魔の罠はクリア出来たけど、次の植物には対応出来なかった。鍵の時も、ただ鍵だって事を見つけただけだし、チェスでは何もやってない。トロールに至っては、足手纏いなだけだったからさ」

「アリスちゃん自分を責めすぎじゃ……」

 

 自虐するような事を言うアリスを嗜める穂乃花。

 

「……これ、どっちがどっちを飲む?」

 

 アリスは二つの瓶を指差した。水色の小瓶と、紫色の瓶。水色には前進の薬が入っており、紫色には後退の薬が入っている。水色の瓶は小さい故、その薬も一人分。

 

「……えっと……その、ここまでやってもらってこう言うのは何だけど」

「分かってるよ、ホノカ――うん、私もそう思う」

「っ…………」

 

 アリスの精神は限界であった。今にも倒れてしまいそうなほど、疲弊しきっている。

 次に待ち受けるのは、恐らくは賢者の石を狙う者との戦い。即ち――クィリナス・クィレルとの戦闘である。

 ああ見えてもクィレルは大人。恐ろしい魔法を使って攻撃してくるだろう。そんな相手と精神が危うい状態で戦うというのは、流石に無理がある。

 

 ……つまりは、そういうことである。

 

「……私は後退の薬を飲むよ。それで、カレンとシノをサルベージする。後、この事を誰か先生に伝えてくる」

「アリスちゃん……」

「ここまで来たんだから、私の出来ることは出来る限りやるよ。それで私が退学になろうが何だろうが、命あっての物種だからね」

「……ごめんね、アリスちゃん。私なんかよりずっと頑張ってるのに――」

「……ホノカには、最後の大仕事が待ってるでしょ? それと比べたらこんなの、大したことないよ」

「…………」

 

 アリスは紫色の瓶を手に取った。

 穂乃花も水色の瓶を手に取った。

 

「必ず生きて、四人で会おうね。こんなところで、絶対に死んじゃダメだからね――ちょっと矛盾すること言うけど、無茶しちゃダメだよホノカ」

「勿論だよ、アリスちゃん。死ぬ気なんてこれっぽっちも無い――カレンちゃんが居る限り、私は絶対に死んじゃったりしないよ」

「……そんなことを言って、シノは無茶してやられちゃったんだけどね」

「……忍ちゃんを責めないであげて。あそこはああするしか無かったんだよ――忍ちゃんは忍ちゃんの思いつく限り、最良の手を取ったんだよ」

「それは分かってるよ! ……分かってるけどさ……」

「アリスちゃん……」

 

「…………じゃあ、私は行くよ。ホノカ」

「……私も、行ってくるね」

 

 二人は、瓶の中身を飲み干した。そして、穂乃花は黒色の炎へ、アリスは紫色の炎へ、それぞれ向き直った。

 

 

「――頑張ってね、ホノカ」

 

「――グッドラック、アリスちゃん」

 

 

 二人は、炎の中へと飛び込んだ。薬のお陰で熱さを感じない。衣服が燃える気配もない。

 

 炎を抜けた二人は、扉を開けた。アリスはトロールの部屋へと続く扉を。そして穂乃花は――次なる部屋へと続く扉を。

 




Through the Trapdoor area.C
  -無限回廊-


[174]

「……私だけに、なっちゃった」

 歩きながら、穂乃花は呟いた。

 扉を開けた先にあったのは長い廊下と、幾多もの扉。穂乃花は扉を開け続け、進み続ける。

「…………」

 穂乃花は扉を開けた。また廊下。その先にはまた扉。

「…………」

 穂乃花は扉を開けた。また廊下。その先にはまた扉。

「…………」

 穂乃花は扉を開けた。また廊下。その先にはまた扉。

「…………」

 穂乃花は扉を開けた。また廊下。その先にはまた扉。

「……長いよ!! 廊下長すぎるよ!! どれだけあるの!? もう!!」


 ――これこそ真の最終関門、無限の回廊。

 ……関門というか、ホグワーツ地下に作られていたこの広大なスペースに部屋を作る過程で、最後の部屋と第六の部屋の間がデッドスペースと化しただけの話なのだが。
 故に、別に何か惑わす魔法が掛かっているとかそういう訳ではない。ただ純粋に、長い長い道。

 だが、単純な仕掛けほど意外に恐ろしいもの。同じ風景が幾度となく繰り返される状況というのは、穂乃花の精神に多大なるストレスダメージを与えた。

「……あーもうなんか疲れた……早くー……」

 穂乃花は扉を開けた。また廊下。その先には――。

「……ん」

 穂乃花の顔色が変わった。

 その先にあったのはまた扉――だが、今までの扉とは何かが違う。より細かな装飾が施されており、大きい。そして何より、言い様のない、得体の知れないプレッシャーを放っている。

「…………」

 穂乃花は、扉の前まで歩いた。圧倒的な威圧感が穂乃花を襲う。

「…………」

 だが、穂乃花は臆しない。扉に手を掛けた。

 彼女が想起するのは仲間のこと。大宮忍、アリス・カータレット、そして、九条カレン。


「……みんなの頑張り、無駄にはしないよ」


 穂乃花は呟き、深呼吸する。


 そして――その扉を開けた。

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