ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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Through the Trapdoor area.5

【第51話】

 

 

Through the Trapdoor Area.5

  -激昂のトロール-

 

 

[169]

 

「っ…………!!」

 

 カレンは戦慄した。

 想起するのはハロウィーンの悪夢。すぐ真横に振り下ろされた棍棒、叩きつけられた痛み――!

 

 第五の部屋で待ち構えていたのはトロール。それも、あのハロウィーンの夜と同じ個体である。

 

「ブルルルルルルルァァァァァァァ!!!」

「「「っ!!!」」」

 

 トロールが雄叫びを上げる。その余りの大声に吹き飛ばされそうになる錯覚を覚える三人。第一関門・フラッフィーの比ではない。あれはまだ鎖に繋がれていたし、脅威を知るのは穂乃花だけであった。だが、こいつは違う。

 

 

「ぶるるるるぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「ひっ!?」

 

 

 大木のような棍棒が振り下ろされた。間一髪で避けるアリス。

 トロールの脅威は三人とも知っている。なまじ知っているが故に、その恐怖は増大する。

 

 

「ぶるるるるぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 大木のような棍棒が振り下ろされた。間一髪で避ける穂乃花。

 

 振り下ろされる巨槌は前回使用していたものとは大きく違う。大きさも違うし、何より凶悪さが増していた。

 

 

「ぶるるるるぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 大木のような棍棒が振り下ろされた。間一髪で避けるカレン。

 

 棍棒には魔法による強化が施されており、棍のあちこちから大きさの違う棘が生えていた。不揃いだが、それは宛ら鬼の金棒のようであった。

 

 

「ぶるるるるぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 

 再び金棒が振り下ろされた。間一髪で三人は避ける。

 

 三人は焦る。ただ避けているだけでは防戦一方だ。これでは先に進むことが出来ない!

 

 

「ルーマス・ソレーム! 太陽の如き光よ!!」

 

「ぶるるるrrrrraaaaaaaatttt!!!?」

 

 アリスが太陽光の魔法を放つ。その光はトロールの目に突き刺さり、思わずトロールは怯み、目を手で覆った。金棒が手を離れた! そしてそれと同時にカレンと穂乃花が呪文を放つ! 何という連携か! 最早彼女達の間に言葉など要らなかった。これこそ金髪同盟特有の以心伝心! 攻撃のチャンスを逃さまいとする三人の心の一致が生んだ、必然の奇跡!!

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」

「ラカーナム・インフラマーレイ!!」

 

 

 カレンが浮上させた金棒に穂乃花がリンドウ色の炎を放つ! 幾ら金棒めいていた所で初戦は木から作られた棍棒、リンドウの炎は容易く燃え移った!

 

「カレンちゃんやっちゃえー!!」

「Yes !!! Let's goooooo !!!!!」

 

 カレンの腕がしなる。そして、砲丸を投げるかの如きモーションで杖を振るう!

 

「brrrrrrr……ッッッ!!?」

 

 トロール目掛け、炎の槌が飛んで行く! だが、間一髪でトロールは怯みから解放され、驚く事に避けたのだ!!

 

「What !!!?」

「嘘でしょ!?」

「トロールにあんな動きが出来るなんて……っ!!」

 

「BBBBBBBBBBBRRRRRRRR……」

 

 何たる事であろうか!? 三人はある程度予測が付いているが、このトロールはクィリナス・クィレルが用意した物。スネイプがこんな野蛮な手段を使うとは思えないし、消去法で考えれば自然そうなる。

 決して油断していた訳ではない。だが、心の何処かで見くびっていたのだ。トロールの知性の低さを侮っていたのだ。魔法で強化されているというパターンを想定さえしなかった程度には――!

 

 

「ブブルルルルルルァぁぁぁぁぁaabaaaa !! !! !!」

 

「っ……!! アリスちゃん避けて!!」

「っ――!!」

 

 穂乃花の叫びを聞き我に返ったアリス。間一髪、振り下ろされた炎の槌から逃れた――だが、おお何ということであろうか!! そう、"炎の槌"!! まだリンドウ色の炎は金棒を包み込み燃えている! なんたることか!! これでは敵に塩を送ったも同然である!!

 

「あ、あぶな――」

「ア、アリス!! 髪が――!!」

「え? なっ――う、わあああああ!!?」

 

 アリスのツインテールの片方に炎が燃え移っていたのだ! 慌ててアリスは髪を払い、何とか命に関わることはなかった――だが、燃え移った側の髪は焦げてしまっており、美しい金色など見る影もない。

 

「ど、どうしよう――シ、シノに怒られる――」

「Alice !!!! Run !!!!! Run awaaay !!!!!」

「っ――!!!」

「rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr !!!!!」

 

 再び金棒が振り下ろされた! 間一髪再び避ける。今度は髪に燃え移ることは無かったが――。

 

「っ〜〜〜〜!!!」

 

 振り下ろされた場所は、まさしくさっきまでアリスが居た場所そのもの。もし一瞬でも回避が遅れておれば、今頃アリスは――。

 

 打ち上げられた床の破片と煙がアリスの恐怖心を煽る。狙いは正確。あの時のトロールとは決定的に違うのが、確実に獲物を殺すという狂気! トロールを強化した魔法とは如何なるものなのか!?

 

 

「br――ブルルルルルルルルァァァッッッ!!!」

「っ――!!?」

 

 なんと、トロールは金棒を床から引き抜くと同時に、横薙ぎでカレンと穂乃花を始末しにかかった! 普通のトロールでは間違いなくしないであろう知性ある行動(トロール比)!! 穂乃花とカレンはギリギリで交わしたが、やはり炎が邪魔をする!!

 

「あ、熱っ!!!」

「Damn ittt !!!?」

 

 慌てて炎を払う二人――だがそこへ、再び追撃の巨槌!!

 

「っ――ウィ、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」

 

 アリスが浮遊呪文を放つ! トロールは棍に違和感を感じたのだろうか? 棍を振るスピードを緩めた。その隙を突き、穂乃花とカレンは急いで離脱!

 

「brrrrrrr? br?? bbbbbbbb……brrrrrrrrrrrルルルルルル!!!!」

 

 なんと、トロールは棍をより強く握り締めることによって違和感を無理矢理消し去った! トロールらしい作戦も何もあったものではない行動だが、アリスや穂乃花、カレンレベルの魔法では、トロールのロックを振り払う程協力な浮遊呪文を使えない。依然、否、よりトロールに有利な状況となったのだ!!

 

「ど、どうしようカレン……!」

「や、ヤバイデス、こ、こ、これぇ……!」

「っ――っ――っ――」

 

 怯えるアリスとカレン、穂乃花。三人とも、最初の方にあった少しの余裕さえ失っていた。

 

「ブルルルルルァぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 トロールは吠えた。余りにも強大な雄叫び。思わず穂乃花が膝から崩れ落ちた。

 

「――え?」

 

 唖然とする穂乃花。想像以上の叫びに、穂乃花の身体が無意識に負けを認めてしまったのか!?

 

 

「ぶぶぶぶぶるるるるるるるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるるるるるるるrrrrrrrgrrgggg!!!!!!!」

 

「あ――――」

 

 断罪の斧めいて、トロールの炎の槌が振り下ろされた。穂乃花の目にはその動きはスローモーションに映っていた。まるで現実のものではないかのような、夢のように霞みがかった動き――。

 

「ホ――ホノ」

 

 

「ホノカァァぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 その時、カレンの身体は無意識に動いていた。頭の中を支配する恐怖から、ほんの一瞬だけ、完全に解放されたのだ。今にも殺されようとしている親友を助けんがために――カレンは、穂乃花を突き飛ばした。

 

「がっ――――カ、カレ――」

「brrrrッッッ!? ――brrrrrrッッッ!!!」

「っ――ぐおっ……っっ!!?!?」

 

 おお、幸か不幸か!? 突然突き飛ばされ視界から消えた標的。なまじ知性を強化されているが故に、本来なら怯まないはずのその行動にトロールは一瞬怯み、金棒の動きを止めた――だが、すぐに思い直したように、勢いの死んだ金棒は使わず、その丸太のような足でカレンを蹴り飛ばした!!

 

「カッ、カレェェェェン!!!」

「カ――え――え?」

 

 蹴り飛ばされたカレンは壁の向こうまで吹っ飛び、叩きつけられた。

 

「ごがぁっ――っぅ――がぁ――」

 

 壁に叩きつけられたカレン。血の跡を残し、ゆっくりと落下する。口からは大量の血が流れ出ている。

 

 

「ブルルルル――ブァァァァァァァァォぁぁぁぁぁぉァァァッッッッ!!!!」

 

 

 トロールが今まで以上の咆哮を上げた――獲物を逃された怒りからか? トロールが、激昂してしまったのだ。

 

 

[170]

 

《side Karen》

 

 

 ――苦しい――。

 

 ――息がし辛い――痛い――。

 

 背中の痛みが止まらない――喉も――。

 

 

「ごほっ――っ――」

 

 

 咳をすると、口から大量の血が吐き出された。気持ち悪い。

 

 

「ごほっ――ごぼっ――」

 

 

 咳が止まらない。流れ出る血も止まらない。

 

 私はそれをぼんやりとしながらみていた。

 

 目の前が霧がかったように白く染まる。本当は、赤く染まってるはずなのに――。

 

 

「がはっ――ごっ――」

 

 

 咳が止まらない。体中の血を吐き出すかのような勢いだった。

 

 身体を動かそうとしても、その度に体中に痛みが走る。

 

 

「……ごほっ……」

 

 

 痛い。――苦しい。

 

 くるしい。

 

 こんなのいやだ。

 

 

「ごぼっ……」

 

 

 ……ホノカは――ホノカはだいじょうぶなのだろうか?

 

 目の前が見えない――いきてるのかな? それとも――。

 

 

「…………かはっ」

 

「………brrrr……rrrrrrr……rrrr!!!」

 

「……っ……」

 

 

 とおくでなにかのこえがきこえた。

 

 トロールだ。 にげないと。

 

 ――どうやって?

 

 どうやって? にげる?

 

 ――――。

 

 

「……レン……ゃ……!!」

 

「ごぼっ…………ホ……ノ……」

 

 

 ホノカのような こえが きこえた。よかった。いきてた……。

 

 でも――もう――わたし――

 

 

「brrrr……rrrrr……brrrr……ッ…!」

 

 

 みえないけど――ああ、トロールが、ちかくに いるの?

 

 すごく とおくから きこえる ような

 

 き が する

 

 …………

 

 ……?

 

 ……なに?

 

 みぎてが、あつい――なに?

 

 え? なに?

 

 へんな ことば が あたま に はいってきた。

 

 ――なぜ?

 

 なぜかわからないけれど――それを いわなきゃ いけない き が した

 

 

「rrrrrrrrrrrrrr――――――!!!!」

 

 

 ――にーぐらむ――

 

 

「……Nigrum ―― Exesa……」

 

 

 

《side END》

 

「カレンちゃんっ!!!」

 

 穂乃花は堪らずカレンに駆け寄った。激昂したトロールは、カレンの息の根を完全に止めようとカレンに向かって、炎の槌を振り下ろす!!

 

「brrrrrrrrrrrrrrrrrrアァァァァ ァァァァァ!!!!!ッ ッ ッ ! ! !」

 

 ――ダメだ、間に合わない!!

 

「カレンちゃぁぁーーーんっ!!!」

 

 穂乃花は声が枯れる程の叫びを上げた――その時である。カレンが、小さな、うめき声に似た声を上げた。

 

 

「……二ーグラム――イクシーザ……」

 

 

 その直後、カレンが辛うじて掴んでいた杖から、大量の粒子が流れ出た!

 

「!!?」

「ぶぶぶぁぁあ!!?」

 

 粒子は血のような赤い色、禍々しい漆黒、二種類の大小入り混じったものがあった。流れ出た粒子はカレンを守護するように赤と黒の竜巻を作り上げた。そして――!

 

「ぶっ、ぶぶ――!!!?!?」

 

 粒子がカレンの頭上へと集結、巨大な剣のような形状を形作った。禍々しい赤と黒の剣は、そのままトロールの頭のてっぺんから股の真下まで、一気に振り下ろされた!!

 

「ぶ――ぶbbッ」

 

 

 ――衝撃的な画であった。山のような巨体が赤と黒の剣によって綺麗に裁断され、左右二つに分かれると大きな地響きと共に、倒れ込んだのだ。埃と塵が舞う。

 

 

「っ――!!」

「…………っ!!」

 

 それは余りにも理解の及ばぬ出来事であった。戦慄した二人――暫くその場から動けぬ程度には、恐怖した。その禍々しい粒子に、言いようのない畏怖を覚えたのだ。

 

 粒子はいつの間にか消滅していた。杖がカレンの手から零れ落ちたのだ。

 

「…………っ!! カ、カレンちゃん!!」

「っ……か、カレン……っ!!」

 

 我に帰り、穂乃花の元へ走る穂乃花。アリスも立ち上がり、走ろうとするが――膝から崩れ落ちてしまった。忍に続き、カレンまでもがやられてしまった。アリスの肉体も精神も、限界が近付いていたのだ。

 

「カレンちゃん!! カレン、ちゃ――えっ?」

 

 カレンに近付いた穂乃花。ある二点に驚愕を隠せず、足を止めた。

 

 一つ、トロールの断面。別に彼女は見たくて見たわけではないが、自然に目に入ってきてしまったのだ。

 トロールの断面――血が噴き出すどころか、血さえ滲んでいない。その綺麗すぎる断面も合わせて、異常で異質すぎるものであった。

 

 そしてもう一つは、カレンの傷。

 棍棒での一撃からは運良く逃れたものの、蹴り飛ばした衝撃は少女の脆い身体を壊すには十分なもの――その筈だった。

 驚愕したのはこの点――九条カレンの身体には、一切の傷跡が残されていなかったのだ。気は失っているものの血色は良く、吐き出されていた大量の血も、何事もなかったかのように消滅していた。

 

「えっ……え……っ……カ、カレンちゃん……?」

「……すぅ……すぅ……」

「っ…………はぁ〜〜……」

 

 カレンの吐息が聞こえた。気絶しているが、しかし命に別状はないようである。安心して緊張の糸が切れたのか、穂乃花は床にへたり込んだ。

 

「良かったっ……あぁ……!!」

 

 穂乃花は、絞り出すような安堵の声を上げた。

 

 ――だが、まだである。

 

 ――戦いの余韻に浸っている暇など、彼女たちに遺されていない。自体は一刻一秒を争うのだ。

 

「…………」

 

 穂乃花は立ち上がった。

 

「……カレンちゃん。……カレンちゃんの頑張り、絶対に無駄にしないよ」

「…………」

「……行こう、アリスちゃん」

「……うん」

 

 二人は扉に近付いた――すると、一人でに扉が開いた。トロールを討伐すると自動的に開く扉のようだった。

 穂乃花とアリス――二人は部屋を後にした。

 

 

 九条カレン――気絶。

 




[171]

「……カレン、大丈夫かな。……シノも……」
「大丈夫だよ。二人ともあんなことで死んじゃうほどヤワじゃないもの――そう信じるしかない」
「……ホノカ……」

 次の部屋は、大きな円形の部屋。そしてその中心に小さな長机、そして七つの瓶が置いてあった。

「……あれは一体――っ!!?」
「う、うわっ――っ!!?」

 二人が一歩踏み出した――その時である。

 部屋の周囲を炎が囲い込んだ――普通の炎ではない。青でも赤でもない、モノクロ色の炎――!!


 ――これが最後の関門。セブルス・スネイプが仕掛けた罠。マジックならぬ、ロジックである!!

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