・何かあれば書きます。
【第49話】
Through the Trapdoor Area.3
-空飛ぶ金の鍵-
[160]
ここは第三の部屋。青い照明が部屋中を照らし、何百匹もの金色の鳥が宙を悠々と飛んでいる。
「綺麗ですねえ……ここがてんごくだったのでしょうか……」
「ここでなら死んじゃっても悔いはないよ……」
「大変デス! 二人がボーッとしてマス! ま、まさか! これがこの部屋の罠なのでは!?」
「いやそれいつもの事だから」
黄金世界に見惚れる忍と穂乃花。それを横目にアリスは考える。
――今度の罠は一体何? この鳥たちがキーになるの?
アリスは周囲を注意深く見渡した。すると、部屋の四隅に無造作に置かれた箒を発見した。
「あれは……」
箒? まさか、箒を使って床を綺麗にする訳ではあるまい――魔法界で箒と言えば、そらを飛ぶこと以外に考えられない。
アリスは再び部屋を飛び回る鳥を見る。
「……あれを捕まえるの? だとしたら何で――」
アリスは鳥を注視する。
部屋中を飛び回る金色の鳥――よく見ると、一匹一匹形が違う。それに、不思議な姿だ。体は長細く、あちこちに出っ張りが付いている。まるで鍵のような――。
「――っ!! そうか!! "Key"!!」
アリスは叫んだ。アリスの叫びを聞き、我に帰った三人。
「え? え? キー?」
「何か分かったのですか、アリス!?」
「うん! 多分――あの鳥をよく見て、鍵みたいな形をしてるでしょ?」
忍、カレン、穂乃花は言われるがまま空を見上げた。確かに、鍵のような形をしている。
「……つまり、どういうことデショウ?」
「つまり!!」
アリスが隅にある箒を指差した。
「あの箒に乗って、あの鍵鳥の中から本物のドアの鍵を探すの! それで、そいつを使ってあの扉の鍵を開ける!!」
アリスは目の前にある扉を指差した。
「成る程……流石アリスですね」
「でも、この中から本物を探すのは骨が折れマスね……」
「うん……」
「……ううん、そんなことないよ」
穂乃花が言う。
「え?」
「侵入者――多分クィレル先生――は、もうこの罠をクリアしてると思う。鍵には羽が生えてるから、鍵穴に押し込むと、その羽は多分折れ曲がってしまう――だから、そいつを探せばいい」
箒を掴み、埃を払いながら穂乃花は言う。
「成る程……それは盲点でしたね。つまり、金色の反射が鈍いのが本物ということですね?」
「そうだね」
「え? そういうことになるの?」
羽が折れ曲がってしまえば、その折れた羽が邪魔をして金色の光の反射が鈍くなる。またその動きは緩慢となり、フラフラとした光の反射となる――それを探せばいいだけの話である!
……と簡単に言ったが、こんなの普通出来る訳がない。これが出来るというのは、まさに金髪同盟の面目躍如と言えるだろう。最早その執念には恐ろしささえ感じるが。
「忍ちゃん! 私は空から探すよ! 忍ちゃんとアリスちゃん、カレンちゃんは下から探して!!」
そう言うと、穂乃花は箒に跨った。
「ふう――」
目を閉じて軽く息を吐くと、目を開けた。その目は、クィディッチ最年少シーカーに相応しい、獲物を逃さぬ鷹の目と化していた。
「――ゲーム……スタート!!!」
穂乃花は地面を思い切り蹴り、飛び上がった。
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「っ――!!?」
飛び上がったその刹那。今まで自由に飛んでいた鍵鳥たちが突然停止、そしてその直後、群れを成して穂乃花へ向って飛んで来るではないか!
「穂乃花ちゃん!!」
忍が叫ぶ。
「っ〜〜〜〜!!」
穂乃花は腕で鳥の突撃をガードする――だが、いくら鳥のように見えるとはいえ、その本質は鍵。その痛さは察して然るべし。
「くっ――」
穂乃花は考える。どうすれば良いのか考える。
甘く見ていた訳ではない。だが、突然攻撃を仕掛けて来るなんて想定外であった。
――落ち着け。
落ち着くんだ私――これはクィディッチ。私が今探しているのは、金色のスニッチ。目を凝らせ。見ろ、視ろ、観ろ――!
「っ――穂乃花ちゃん!!」
鍵鳥の猛攻に曝されながら探す穂乃花――その時、地上の忍が穂乃花を呼んだ!
「見つけました!! 本物の鍵――一瞬でしたが、確かに見えました!!」
「ほ、本当!!? 何処!!?」
「穂乃花ちゃんの近くに居るはずです――引き続き探してみます!!」
「オーケー!! ありがとう忍ちゃん!!」
流石は金髪同盟盟主。遠く離れた地上から観測出来るなど、常軌を逸している。
穂乃花は、目を見開く。
――金色を――燻んだ金色を――!!
周囲に広がるのは黄金世界。その中に一点、燻んだノイズがある筈なのだ。
――何処だ? 何処にいる!?
鳥の隊列は一定ではない。一瞬でも見つければ、そこからは絶対に目を離してはならない――!
「――――っ!!!」
その時、穂乃花の目が"それ"を捉えた。
フラフラと飛ぶ鍵鳥――羽は折れ曲がり、金色の反射は不完全だ。
これこそ、この扉を開ける黄金のスニッチ――真の鍵鳥!!
「穂乃花ちゃん!! 見つけました!! 近くに居ます!!」
同タイミングで忍が叫ぶ。二度も発見するとは凄まじい観察力である。アリスとカレンは舌を巻く以外無かった。
「絶対に……捕まえてやるっ!!」
穂乃花は、ノイズに向って一直線に箒を走らせた。羽の折れた鍵鳥はそれに驚いたのか、フラフラと上昇した――だが、如何せん羽が折れ曲がっている為か、遅い。
――捉えた。
穂乃花は猛スピードで箒を走らせる――スニッチと較べるのも憚られる程の遅さ。その程度、穂乃花の敵ではない!
穂乃花は腕を伸ばす――それを妨害するかのように、他の鍵鳥たちが突撃する――が、穂乃花はそれさえ意に介さない!!
羽の折れた鍵鳥は必死に逃げる――だが、穂乃花の魔手は、すぐそこへと迫っていた!
――もう少しだ。
「とっ、どっ、けぇぇぇぇぇっ!!!」
穂乃花は叫んだ! 腕を目一杯伸ばす――!! そして遂に!!
「――つか、まえ、たぁぁぁっ!!!」
穂乃花の手が、真の鍵鳥の体を強く握った! タダでさえ折れ曲がった羽が、さらに折れ曲がる!!
「忍ちゃん!! アリスちゃん!! カレンちゃん!! 扉の前に集まって!!」
「!!! 捕まえたんですね!!」
「分かったよ!!」
「了解デス!!」
穂乃花は地面へと急降下、それでも尚、鍵鳥の猛攻は止まない!
「ホノカーッ!!!」
「カレンちゃーんっ!!!」
穂乃花は意を決し、箒から飛び降りた!! 飛び降りた穂乃花を、カレンがキャッチする――が、カレンは一介の女子。それ程腕力がある訳ではないので、穂乃花をキャッチすると同時に尻餅をついた。
「ご、ごめんカレンちゃぁぁぁん!!!」
「ぐえっ――は、早くドアを――」
「あっ、うん!!」
穂乃花は素早く扉の鍵穴にもがく鍵鳥を差し込む――ぴったり嵌った。
ガチャリ。解錠された音が鳴った!
背後より、鍵鳥たちが迫り来る!!
「扉を開けたらみんな一緒に出るよ!!」
穂乃花はドアノブに手を掛けた。
「3、2、1――今だ!!」
穂乃花は扉を開けた。そして四人は一斉に扉を通り抜け、急いで閉めた。
扉に何かがぶつかる音が聞こえる。突進してきた鍵鳥たちだろう。
「…………ふぅ〜〜」
穂乃花はへたり込んだ。
「やりましたねホノカ!! やっぱりホノカは凄いデス!!」
「カレンちゃん……」
「流石です穂乃花ちゃん。金髪同盟副盟主――その名に恥じない活躍でした!」
「忍ちゃん……」
「穂乃花が居なかったら、この罠はクリア出来なかったよ!! ありがとう、ホノカ!!」
「アリスちゃん……」
――私、みんなの役に立てたんだ……!
穂乃花は感嘆した。
第三の罠――突破。
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鍵鳥の猛攻を凌ぎ、次なる部屋に辿り着いた四人。彼女たちが次に目撃したのは巨大な石像。侵入者を阻むように立ち塞がるその姿は、宛ら中世の騎士であった。
第四の罠は、ミネルバ・マクゴナガルの仕掛けた、石の西洋将棋――即ち、大規模なチェスゲームである!!