ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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※告知事項※

・何かあれば書きます。


Through the Trapdoor area.2

【第48話】

 

 

Through the Trapdoor Area.2

  -悪魔の罠-

 

 

[154]

 

 ――オオクロシュンツルクサ。

 

 別名『悪魔の罠』と呼ばれるその植物は獰猛極まりない蔓草。不用意にこいつの領域に飛び込んだ者は、その狡猾なる罠に嵌まらないようにしなくてはならない。

 

 

[155]

 

 闇に囲われた四人の少女――穂乃花、アリス、カレン、忍。三頭犬を突破し、辿り着いたのはこのジメジメとした真っ暗い部屋だった。

 ズルズルと、気味の悪い音が部屋中に響いている。

 

「気持ち悪いデス……」

 

 カレンが気味悪そうにいう。

 

「音もそうデスが、なんかこの床ヌルヌルしてるというか、変に柔らかいというか……兎に角気持ち悪いデス……」

「同感だよ……」

「次は何をすればいいのかな?」

「分かりません……皆さん注意してください。何が起こるか分かりませんから――」

 

 忍が言う。そして、その時である!

 

 ズルズルズズズズッ!!

 

「「「「!!!」」」」

 

 突然音が大きくなると共に、床が揺れだした。

 

「な、なんデス!?」

「地震!?」

「い、いえ、これは――っ!!?」

 

 床は揺れだすと共に軟化、四人の身体が床の中にめり込んだ。床は流動的な動きで四人を呑み込んでいく。それは宛ら蟻地獄の巣が如く――!

 

「っ――!! の、呑まれる!!?」

「ひっ――か、身体に変なのが巻きついてきたっ!?」

「シ、シノ!!」

「くっ――み、皆さん落ち着いて下さい!」

 

 四人の身体に触手のような何かが絡みつく。床から飛び出した触手は四人の身体を締め上げる!

 

「ひ、引き摺り込まれるデス!!?」

「た、助け――!!」

「どうすれば――アリスっ! な、何か思いつきましたか!?」

「無茶言わないでよ!? いやでも、そうだ、明かりがあればこれの正体が解るかも――!!」

「明かりですね!? 分かりました!!『ルーモス・マキシマ』!!」

 

 強光呪文――『ルーモス』の上位呪文である! 忍が掲げた杖から光が放たれた!

 

 部屋は光に包まれ、闇が晴れていく――四人が見たのは、巨大な触手の床、そして周囲で蠢く太い触手――!

 

「っ――!!」

「ひぃぃぃっ!!?」

「So gross so gross gross gross !!!!!」

 

 闇が晴れることによって、さらなる恐怖を与える第二の罠――三人はもがくが、もがけばもがくほど触手は絡まり、締める力は強くなっていく。

 

 

「!! そうか……!」

 

 

 その様子を見て、アリスは呟いた。何かに気付いたのか、アリスは動くのを止めた。

 

「アリス!!?」

「シノ、ホノカ、カレン!! 動いちゃダメ!!」

「でも、触手がっ、絡まって――」

「Aieeeeeeeeee !!!!!」

「それでいいの!! 動けば動くほどこいつは締めてくる――私の予想が正しければ、多分こいつは『悪魔の罠』!!」

「悪魔の罠!? な、なんかどっかで聞いたことあるような――」

「テストに名前出てたでしょ!?」

「テストの話は止めてほしいデース!!」

「あと、植物学の最初の授業でこいつについてやった筈――!! 確かその時、こいつは動かなければ害は無いって言ってた――と思う!!」

「流石アリスです!!」

「う、動かなければいいんだね!? 本当に良いんだね!?」

「これで殺されたらアリス、末代まで怨みマスからね!!」

 

 半信半疑の穂乃花とカレン。だが、今はどんな可能性でも縋るしかない。

 

 四人は動くのを止めた。触手は尚も巻き付き、床は四人を呑み込んでいく。だが、締め付けがさっきより緩くなっていることに四人は気付いていた。そう、アリスの予想は正しかったのだ!

 呑み込まれていく四人――ついに体全体が触手の中に包み込まれ、その姿は見えなくなった。

 触手から生える小さな葉や棘が四人を傷つける。だが、触手からは解放され、ただひたすら下に向かって呑み込まれていくだけ――。

 

 そして――。

 

「ぎゃっ!?」

 

 触手の床をついに通り抜けたアリスが吐き出された。次なる床に落とされたアリス――その床も柔らかく、衝撃は少なかった。

 

「シ、シノ――」

 

 アリスは頭上を見る。そこには触手の天井が広がっていた。こういう仕組みだったのか――。

 

「!」

 

 天井は蠢き、忍、穂乃花、カレンの順に吐き出した。

 

「きゃっ」

「うっ」

「げぇっ」

「みんな!」

 

 四人は多少の切り傷はあれど、無事であった。

 

「良かった……間違ってたらどうしようと思ってたところだったよ〜」

「全くデス……」

「怖かったよ……」

「さ、流石ですアリス……おかげで助かりましたよ」

「うん……一安心だよ」

 

 四人は立ち上がり、天井を見る。触手は尚も蠢き続けていた。だが、獲物がいないと悟ったのか、その動きを止めた。

 

 

 ――第二の罠、突破。

 

 

 

[156]

 

 ――と思われたがその時である!

 

「What !!?」

 

 カレンが叫んだ。

 

「どうしましたカレン!?」

「な、なんか――なんかが足に絡みついて来マシタよ!?」

「「「!!?」」」

 

 三人も慌てて足元を見る――すると確かに、足元では長細い触手が蠢いていた!

 

「なっ――!!?」

「な、何これ!!?」

「まだあるの!!?」

 

 第二の罠、第二段階――悪魔の罠の次に控えるは、悪魔の罠の近縁種、無慈悲な処刑植物『天使の戒め』である!!

 

 

Through the Trapdoor Area.2.5

  -天使の戒め-

 

 

[157]

 

 ――オオシロシュンツルクサ。

 

 別名『天使の戒め』と呼ばれるそれは、かの『悪魔の罠』の近縁種。その希少性故に"悪魔の罠"よりも知名度は低く、そして危険度がより高い。

 "悪魔の罠"は動かなければやり過ごすことが出来るが、こいつは動いていようが動いていまいが、無慈悲に絞め殺し、自らの養分とする。"悪魔の罠"と混同してしまう者も多く、そういった輩は往々にして混乱しながらの死を迎えている。

 厄介なことに、この"天使の戒め"は陽の光を苦手としない。朝であろうと夜であろうと、その動きが鈍ることはない。

 では、どのようにしてやり過ごすのか? こいつから逃れるには幸運が必要となる。"天使の戒め"は小さな獲物よりも大きな獲物を優先して狩猟する。その性質を利用すれば逃げることも可能なのだ。そんな獲物が近くに居ればの話だが――。

 

 

[158]

 

「――っ!!」

「What !!? What !!? grossss !!?!?」

「もう終わりと思ってたよー!!?」

「落ち着いて下さい三人とも!! 金色の羊をひたすら数えて心を穏やかに!!」

「いやシノが一番が落ち着いて!!」

 

 四人に蔓が巻きつく。先程の"悪魔の罠"とは対照的に、その蔓は白い。部屋の暗さ故、殆ど分からないが――。

 

「う、動くのを止めればいいデス! さっきと同じ様に、どうせこいつも見掛け倒しデス!!」

 

 カレンは動くのを止めた。

 

「ちょ、カレン!? 幾ら何でも軽率すぎるよ!!」

 

 アリスは叫ぶ。三人の体にも蔓が巻きつき、そして床にめり込んでいく。

 

「Noooooooooooo !!!!!」

「カ、カレン!? どうしたんですか!?」

「だ、駄目デース!! げほっ、こ、こいつ、と、止まったら余計、ぐえっ、絡み――!!」

「カレンちゃんっ!!!」

「な、何てことでしょう!!?」

 

 白い蔓はカレンの体全体に巻き付き、強く強く締め上げる。三人の体にも、蔓はどんどん巻きついてくる。

 

「ア、アリス!! 何か手は!?」

「し、知らない! 私こんなの知らないよ!!」

「っ――!!」

 

 青ざめる忍と穂乃花。カレンの悲鳴が響く。

 

「カレンちゃんが!!」

「くっ――ほ、他には!? アリス、他には何かありませんか!?」

「何が!!?」

「"悪魔の罠"の弱点です!! もしかしたら、重なる部分があるかも――!!」

「他の弱点!? えっと、えっと――そうだ!! 太陽の光――『ルーマス・ソレム』! 太陽の如き光よ!!」

 

 "悪魔の罠"もう一つの弱点・日光――アリスは天井に向け、太陽光の呪文を放った! 放たれた光は爆発するかのような勢いで増大、闇が完全に取り払われ、周囲が光に包まれた!

 

「これでどうだ!?」

 

 だが、

 

「ぎゃああああああ!? アリスちゃん!! なんか力強まってるような気がするんだけど!!?」

「えっ!!?」

 

 陽の光を浴び、"天使の戒め"は更に力を増した。光合成が可能になり、更にエネルギーを使うことが出来るようになったのだ!

 

「っ――!!?」

「かっ――がっ――苦し――っ」

「カ、カレンが今にも死にそうに!! アリスなんとかして下さい!!」

「む、無理……無理だよ、もう思いつかないよ!」

「な、なんとか――」

「無理だよ無理無理無理無理!!! もう駄目だ、どうしようもないよっ!!!」

「っ〜〜〜〜!!!」

 

 狂ったように白い蔓は暴れ回り、四人に絡みつき、呑み込んでいく。

 もう出せるだけの策は出した。だが、その全てが無駄に終わり、後はただ死を待つのみ――と、思われたその時である!

 

「――っ!! アリス!! あれを見て下さいっ!!」

「何!? もう何やっても無駄――えっ!?」

 

 なんと、上に留まっていた"悪魔の罠"が下へ向かって動き出しているではないか! 陽の光から逃げるため、"悪魔の罠"は底へ底へと移動を始めたのだ!

 

「そ、そんな……」

「ア、アリス……」

 

 動けば死ぬ悪魔、動かなくても死ぬ天使――最悪の挟み撃ち。忍とアリスは絶望し、穂乃花とカレンは更にもがく。だが、それは何の意味もない。

 

 天井から蔓が伸びてくる。最早待ち受けるのは、死のみ――!

 

「アリス――!」

「シノ――!」

 

 思わず二人は目を瞑る。

 おお、ここで終わってしまうのか? 屈してしまうのか!?

 

 四人は深く深く、呑み込まれていった。そして――。

 

 

「「痛っ!?」」

「ごほっ!?」

「ぐえっ!?」

 

 落下した。

 

「え!?」

 

 天井を見る――そこにあるのは白い蔓。蠢き続ける天使の戒めであった。

 

「な、何が――?」

 

 困惑する四人。あの絶望的な状況から、なぜ助かったのか――? その答えは、"天使の戒め"の性質にあった。

 

 "天使の戒め"はより大きな獲物を優先して狩猟する植物。太陽の光によって下へと逃げ込んできた"悪魔の罠"――その巨大な植物へと、蔓の先を向けた。例え近縁種だろうとなんだろうと、こいつが優先するのは"巨大な生物"――大きければなんでもいいのだ。

 

 "悪魔の罠"へと襲いかかる"天使の戒め"――それにより蔓の絨毯が狩猟に総動員され、大きな隙間が生まれた。四人を締め付けていた蔓もその矛先を悪魔の罠へと向け、四人は解放された。そしてそれと同時に、空いた隙間から地面へと落下したのだ。

 

「はぁっ……はぁっ……し、死ぬかと思たデス……」

「も、もう何もないよね……?」

 

 床を叩いて確かめる穂乃花。だが、床はピクリとも動かない。柔らかいこともなく、普通に硬い大理石の床。

 

「――見て下さい! 扉が……」

 

 忍が指差す。その先にあるのは小さな扉。一人ずつしか入れないような、狭い扉であった。

 

「つまり――これでクリアって事で、いいのかな?」

「そうみたいですね」

「助かったぁ〜」

「苦しかったデス……」

 

 最後は意図せぬ幸運に助けられ、四人は見事、第二の罠を突破したのであった。

 




[159]

 扉を抜けた四人――次なる部屋は、さっきまで居た陰鬱な部屋とはまるで違う部屋であった。
 部屋中が青い光で満たされ、沢山の金色の鳥が部屋中を飛び回っている。金と青の光が美しい幻想的な空間を演出していた。

「「「「…………」」」」

 四人は魔法界に居ながら魔法の国に迷い込んだかのような感覚を味わった。その光景に見惚れ、暫くの間、身動きが取れなくなっていた。

「わぁ……天国です……」
「ワーオ……」
「so beautiful ……」
「綺麗……」

 暗闇を抜けた先に待っていた幻想空間――だが、言うまでもなくこれはただ綺麗なだけで終わる空間ではない。

 第三の罠はフィリウス・フリットウィックが仕掛けたもの――運だけでは進むことの出来ない、身体能力と洞察力が問われる恐ろしい罠である!!

 

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