ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 遅れて申し訳ございません!


※告知事項※

・何かあれば書きます。


テリブルテストウィーク

【第44話】

 

 

テリブルテストウィーク

 

 

[134]

 

「どうしよう……俺全然勉強してねえ」

「僕もだぜ全く」

「奇遇だな、俺もだ」

「良かった、やっぱりみんなやってないんだな」

 

 こんな会話を聞いた覚えはあるだろうか? テスト直前お馴染みのアレである。これを聞き、ああ、勉強してないの私だけじゃないんだな、みんな仲良く赤点だ、とか思った方は読者の中にいらっしゃらないだろうか? 居ませんかそうですか。

 

 こういう会話をする奴は、大抵の場合、やっている。ほぼ100%と言ってもいいくらい、やっている。言っている側は謙遜しているつもりなのか何なのか知らないが、この会話程欺瞞的な会話もあるまい。これに匹敵する事といえば女子同士の褒め合いくらいしか無いだろう。

 

 私が言いたいのはただ一つ。勉強してないって言うんだったら、高得点取るんじゃねえ!!

 

 

[135]

 

「リゼちゃん助けてぇぇ!」

「みーくん助けてぇぇ!」

「「哀れな子兎に救いの手をっ!!」」

「乞うている暇があるんなら勉強しろ!!」

「先輩、後輩に聞くなんてみっともないですよ」

「「うわああああああああ!!!」」

 

 グリフィンドール談話室に心愛と由紀の絶望した声が響く。理世と美紀は、気にせず勉強続行。

 

 ――学年末テスト。

 

 おお、何と悍ましい響きであろうか? そう、いよいよ第一学年も終わりに近付き、悪夢の最終試験がやって来たのだ。そして今日は、その直前。恐怖のテストラッシュ前日である。

 

「数学……せめて数学があればっ……!」

 

 呻く心愛。意外な事に彼女の真の得意教科は数学。理系なのだ。どうでもいい情報だが、アインシュタインの相対性理論を完全に説明する事が出来るという特技を持っている。閑話休題。

 

 ホグワーツの試験とは如何なるものか? マグルのパブリックスクールにおける試験とはまるで違う。筆記や実技があるという点では違わないが、教科が違う。全然違う。というかマグルの受ける試験と被ってる教科が無い。

 心愛含め、マグル生まれの魔法使い達は皆この状況にひたすら混乱し、カルチャーショックのようなものを覚えたらしい。今までホグワーツに来る前得ていた知識など一切関係ない。何と恐ろしいことか。

 

 だが、彼女のように一部喜ぶ者も。

 

「やりました! 変身術の試験さえあれば、全教科落第という最悪のパターンから逃れることが出来ます! 感謝感激です! ひゃははぁ⤴︎!!」

 

 全教科落第を前提にしていた辺り、彼女の学力が垣間見えよう。読者の皆さんはどうでしたか? 留年とかしませんでしたか?

 

 ホグワーツに留年制度はない。だが、もっと酷いものがある。

 

 退学。

 

 成績が余りにも不振すぎる生徒は、留年を通り越して退学ルート一直線となる。追試? そんな物はない。非情なるホグワーツは、不真面目な生徒が敷地を踏むのを許さない。

 

「ク、クィディッチの試験は!? クィディッチの試験は無いの!?」

「無いみたいデスねー」

 

 クィディッチ、というか飛行訓練の試験は無い。これはある種特別な教科故試験は無く、評価は授業中の態度などに依存する。

 

 阿鼻叫喚のグリフィンドール談話室。が、何処の寮もこんなかんじである(レイブンクロー? さあ、何のことやら)。

 

 

 ハッフルパフ寮・部屋3。

 

「……で、これがこうなるからこうなって……」

「あー、そう言えばそうだった。ありがとうリー」

「いえ、どういたしまして」

 

 この部屋の住人は小夢、ハンナ、悠里、琉姫。テストを明日に控え、最後の勉強会を行っていた。

 

「りーちゃん凄いねー。内容全部覚えてるなんて」

「りーちゃんが居て助かったわ。お陰で退学はなさそうだし」

「うふふ、褒めても課題しか出ないわよ」

「つまり褒めるなと?」

「褒めれば褒めるほど沢山勉強出来るわよ」

「誰が褒めるのかなその条件で」

「因みに、琉姫ちゃんとこゆめちゃんはさっき私を褒めたから課題ね」

「「えっ」」

「提出期限は再来週までよ」

「テスト終わってるじゃんリー……」

 

 テスト直前にも関わらず割と余裕そうな小夢たち。偏に悠里のお陰である。元の世界でも色々あって教師"役"をやっていた悠里と同じ部屋になれたのは幸運以外の何者でもないだろう。特に小夢。

 

 

 もう一つ紹介。ハッフルパフ寮・部屋2。

 

「シャロちゃん……そ、そろそろ休憩し」

「しないわよ。そんな余裕ないんだから」

「な、なあ綾……いい加減休ませてくだ」

「休ませないわ。そんな余裕はないもの」

 

 この部屋の住人は千夜、紗路、陽子、綾。ここでもまた、勉強会の最中。部屋3とは違い殺伐としている。約2名気が立っているのがいるからだろうか。

 

「あーもう! やってらんねーよ! 何だよ成績悪かったら退学ってー! 厳しすぎるだろー!!」

 

 "薬草ときのこ1000種"を放り投げる陽子。

 

「ルールに愚痴ったってしょうがないでしょう? 怠学しないの」

「お前らよくそんな集中出来るな……もうそんなに詰めなくても、成績悪い訳ないだろうに」

「ふん、甘いわね陽子! そんな甘っちょろい思考で通らないのが世の中なのよ! 世間の荒波を知らない奴はすぐそうやって弱音を吐く」

「シャロちゃんもよく弱音吐いてるけど……」

「カッコつけてるんだから空気読んでくれない!?」

 

 台詞を挫かれて格好つかない紗路であった。……カッコつけてるというより、彼女の場合経験談に限りなく等しいのだが、それはそれとして。

 

「紗路! そっち側のペースに呑まれちゃダメよ! 二人で戦い抜くって決めたんだから!」

「はっ、そ、そうだったわね!」

「いつそんな約束を……」

 

 数日前である。

 

「シャロちゃん……私を見捨てるの……?」

「ややこしいからそういうこと言うなー!!」

 

「綾……私との関係は遊びだったのか?」

「はい!!? か、かかきききか、関係!!? はい!? な、な、な、な、何言ってるのyyyyyo陽子!!?」

「落ち着きなさい綾! 精神攻撃に惑わされちゃダメよ!!」

「綾……ガッカリだよ」

「ああああああああああああああああ!!!?!?」

「綾ぁぁぁぁ!!!」

 

 集中が完全に途切れ、冷静さも喪失した綾と紗路。何を自寮内で潰しあっているのかと。

 

「ふふ、上手くなったわね陽子ちゃん。私が鍛えただけあるわ」

「何故だ……今の言葉にどんな効果があったっていうんだ……!?」

「ふふ、人は愛に弱しってね」

「何故そこで愛っ!?」

 

 まあ勿論、鈍感な陽子が素でそんなこと言う筈もなく、全部千夜の入れ知恵なのであった。

 以上、ハッフルパフ寮の近況である。

 

 レイブンクロー寮は、特に何も無し。勉強が当たり前であるこの寮にとって、この学年末テストは寮の点を稼ぐ為のボーナスでしかない。そういう寮なのだ。あそこは。

 

 最後の寮、スリザリンでは。

 

「ほら、そんな勉強量でいいのか?」

「はい、参考書」

「ははは、いい気味だなマルフォイ」

「50点分を取り返すのは骨が折れるだろ?」

 

「…………」

 

 スリザリン談話室。暗闇の中を落ち着いた緑色の光が照らす静かな空間。スリザリンらしい暗黒の空間――当然、スリザリン生もテストに追われていた。……他の寮以上に。

 

「もっとスピード上げろよ」

「マルフォイ家もそんなもんかい?」

「50点1人で失いやがって」

「失望したわ」

 

「…………」

 

 ドラコ・マルフォイ、痛恨の50点減点――これにより、今まで一位だった寮の点数が一気に四位まで落ちた。その様を見てグリフィンドールとレイブンクロー、そしてハッフルパフがお祭りムードだったのは記憶に新しいだろう。

 一方で、その陥落は当のスリザリンにとって余りにも許容し難いものであった。たった一夜で50点もの点が灰塵と化したのだ、スリザリン生としては堪ったものではない。

 

 だからスリザリン生は、ドラコに罰を与えた。

 

 最後の得点源である学年末テスト――ここで何としても失点を取り返し、巻き返さなくてはならない。この切羽詰まった状況でまず彼ら彼女らがとった行動は、"ドラコ・マルフォイの拘束"である。陥落の原因となったドラコにその責任を負わせ、"特別詰め込み措置"と称した罰を与えたのだ。

 ドラコは談話室にある椅子とテーブルに拘束され、延々と勉強させられ続けていた。手を休めることも、眠ることさえも許されない。唯一許されてい食事も、直前である今日は許されていない。最早それは罰では無く、拷問と呼ぶに相応しいものであった。

 

 無慈悲なるスリザリンとは言え、真魚やパンジーなどの反対派も居た。だが、圧倒的賛成多数により、結局この拷問は可決したのであった。ああ、多数決とはなんと恐ろしきものであろうか。

 

「ほら、手を休めるな」

「お前が悪いんだからな」

「反省しろー!」

 

「…………」

 

 以上が、スリザリン寮の近況である。

 

 

[136]

 

 夜。宴(とは名ばかりの勉強会)も終わり、皆が部屋へと帰り、明日から始まる地獄へと備え眠る。

 

「…………」

 

 だが、スリザリンの彼はその限りでは無かった。

 

 ひたすらに強制される勉強――食事はおろか、眠る事さえ許されない。ドラコ・マルフォイの苦行は夜通し続くのだ。

 

「…………」

 

 マルフォイの首ががくっと下がった。眠気が彼を襲っているのだ。無理もない。もう彼は一週間近くまともに眠っていない――しかし、その瞬間。

 

 

「――――っ!!!! っ!!! っ!!!――!! っ……」

 

 

 マルフォイの頭に突如電撃のようなものが走った。声も出ぬ程の苦痛――眠気は完全に吹き飛んだ。

 マルフォイを椅子と机に縛り付けている呪いは恐ろしい。邪悪なるジェマ・ファーレイが作り出した『強制の呪い』――それは彼に眠ることを許さない。

 

「…………くそっ」

 

 悪態をついたマルフォイ。

 

 その時である。

 

「悪態つく事は許されてるんすね」

「!!!」

 

 談話室の扉が開き、少女が入って来た。桃色の髪をした少女――黒川真魚である。手には謎の紙袋を持っている。

 

「……ふん、さぞ気分が良いだろうな。僕のこんな無様な姿を見れて」

「そんなもん見て気分良くなるのはあんたくらいのもんっすよ」

「勉強はいいのかい? 僕に絡んできているんだ、さぞ余裕があるんだろうねえ」

「あんたもそんな風にごちゃごちゃ言う事が出来るって事は、そんなになってもまだ余裕があるってことなんすね」

「ほざいてろ穢れた血め……スリザリンの恥」

「あれ、それあんたが言うっすか? 50点減らした癖にぃ」

「…………ちっ」

「…………」

 

 真魚は紙袋をなにやらガサゴソとしながらマルフォイに近付いた。

 

「……何の用だ。僕はお前と違って忙しいんだ」

「そうっすか? それはそれは――じゃあ、これ要らないんすね?」

 

 真魚は紙袋からパンの袋を取り出した。

 

「っ!!?!?」

「いやあ、小腹が空いたんで厨房に入ったら、友達が余分にくれたんすよねえ。モエちゃんってばしもべ妖精たちと仲良いしさ」

「貴様……っ!!!」

「あんた、お腹空いてるかなーって思って食べずに持って来たんすけど、どうもそうでもないらしいっすね。良かった良かった」

 

 真魚はパン袋を破り、パンを取り出した。

 

「食べるっすか?」

「…………」

「……強情な奴っすねえ。こんなになってる時点でプライドも何もあったもんじゃないでしょうに」

「…………穢れたもんなんて食えるか」

「ん? どこにも血は付いてないっすけどね」

「お前自体が穢れてるんだよマグルめ!! 僕を哀れむことが出来てさぞ嬉しいだろうなぁ!!」

「……ふん、捻くれてるっすね」

 

 真魚は、そのパンをマルフォイに近付けた。

 

「お、おい!!」

「いいから食えって。腹が減っては戦がなんとやらっすよ」

「はあ!?」

「あれ、知らないっすか? えっと……まあいいや、兎に角、ほら」

「………………ちっ……」

 

 マルフォイは腕を動かした――その瞬間、真魚はパン引っ込め、ひと齧り。

 

 

「な――――っ!!?!?」

 

「何すか? 要らないんでしょ? 真魚もお腹空いてたんすよー。ふふふ」

 

 

 真魚は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、マルフォイを見下ろす。

 

「…………貴ッッッ様ァァァァァ……」

「ふん、ツンデレなんてやってても損するだけっすよ。同じお金持ちでも、若葉ちゃんとは雲泥の差っすね」

「ッッッ!!!!」

 

「…………ほら」

「貴様ッ――――は?」

 

 真魚は紙袋の中からもう一つ、袋に入ったパンを取り出し、机の上に置いた。

 

「な、何のつもりだ――!?」

「私がベタベタ触ったパンなんて食べたくないって言ったのはどこの誰っすか? まさか、袋も開けられないなんて言わないっすよねえ」

「お、おい!!!」

「……一個じゃ足りないかもっすけど、まあ、その辺は私からの意趣返しってことで一つ」

 

 真魚は部屋へ向かって歩き出した。

 

「ま、待てよクロカワ!! 貴様――」

「じゃ、明日のテスト、お互い頑張りましょー」

「待ておい!! 話を――」

 

 真魚は階段を下り、談話室から姿を消した。

 

「…………くっそ」

 

 マルフォイはパンの袋を見る。

 

「コケにしやがって……穢れた血の癖に、僕に情けだと? くそ……気に食わない……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、マルフォイは袋を破った。

 

「…………この借りは必ず返すからな……覚えとけよクロカワァ……」

 

 そう言うとマルフォイは、パンを齧った。

 

 

[137]

 

 ――いよいよテスト当日。絶望が生徒たちを襲う。

 

 学年末テストには三種類ある。一つ目は、一から四、六年生が受ける、各教授が用意したテスト。その内容は主に授業や問題集から出題される。

 二つ目は、五年生が受けるテスト『普通魔法レベル試験』。通称・|O.W.L≪ふくろう≫。将来の仕事に影響する重要な試験で、ここで合格した者だけが、六年生の授業を受講する事が出来る。

 そして三つ目が、最終学年――即ち、七年生が受けるテスト『滅茶苦茶疲れる魔法テスト』。通称・|N.E.W.T≪いもり≫。こちらもまた、将来の仕事に影響する重要極まりない試験。分かりやすく言えば、センター試験。

 

 と言う訳で、穂乃花たちが受けるのは、普通の期末テスト。とはいえ、"落ちると将来お先真っ暗"と言う点においては、結局全部同じなわけだが。

 

 テスト風景は、オールカット。

 

 

[138]

 

「終わったデース!!」

「終わったね〜!!」

 

 カレンと穂乃花は伸びをしながら言う。

 

 全てのテストが終わり、二人はハグリッドの小屋近くの丘で散歩していた。

 

「どうだった? テスト」

「ダメダメデス……赤点では無いと思いマスが……あああ……自信ないデス……」

「そ、そんなに……?」

 

 珍しく項垂れるカレン。ポジティブな性格の彼女がここまで暗くなるのは珍しい。

 

「絶望しか無いデス……」

「だ、大丈夫だよ! だってカレンちゃんだもん! 金髪エナジーがあれば何でも出来るんだから!」

「ホノカ、シノに似てきマシタね」

「えっ!?」

「言ってる事がシノとそっくりデス」

「そ、そうかなあ……えへへ」

「そこ照れるとこデスか?」

 

 確かに忍の影響も大きいだろうが、しかしほぼ穂乃花の素そのものである。元々彼女は、こんなかんじだった。それが忍とカレンをトリガーとして開花したというだけの話で――。

 

「……あ、クィレル先生だ」

「走ってマスね」

 

 その時、二人の視界に入って来たのは走るクィレル。それはまるで何かから逃げているかのようであった。

 

「どうしたんだろう?」

「ゾンビから逃げてるんじゃないデスか? あの先生なら、幻覚から逃げててもおかしくないデス!」

「あはは〜……って、え? ス、スネイプ先生だよ!」

「What !!?」

「カレンちゃん隠れてっ」

 

 二人は慌てて茂みの陰に隠れた。何故スネイプ先生がここに?

 クィレルが、途中何かに躓いたのか、よろめいた。その隙に、スネイプが距離を詰める。

 

「え? 何? 何が起きてるの?」

「こ、これ、見ちゃダメなヤツなのでは……!?」

 

 混乱する二人。だが、陰から二人を覗き見る。

 

 人間は好奇心の生き物だ。好奇心から逃れられる者など、そうそういない。

 

 何か会話が聞こえる。二人は耳をそばだてた。

 

 

「――我輩は確かに忠告したはずなのですがねクィレル教授。あそこに何度も何度も近付いていては貴方の企みも、いずればれましょう」

「な、なな、なんで……セ、セブルス、私は――」

「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もうお分かりになられたのかね?」

 

 スネイプが言う。

 

 

「ハグリッドの野獣……?」

「きっとフラッフィーの事デス!」

「出し抜くって……もしかして、賢者の石を狙って――」

「間違いないデス!」

 

 穂乃花とカレン。

 

 

「や、やや、野獣? な、な、なんの、こ」

「クィレル、我輩は君の妄動に付き合っている暇はないのだ」

「も、妄動……妄動なんて…………妄動だと」

「何か意見があるのですかな? では存分に仰るといい我輩の見立てでは、恐らく語れば語るほど落ちてくれるだろうと推測しているのでね。喋って頂ければ――こちらとしても実に助かる」

「……何を喋れと」

 

「君と――『闇の帝王』の関係を、だ」

 

「黙れセブルス!!」

 

 クィレルは、突然激昂した。

 

 

「!?」

「ク、クィレル先生ってあんなキャラデシタっけ……!?」

 

 驚く穂乃花とカレン。普段の彼からは想像もつかない大声――。

 

 

「……この裏切り者が――我が帝王はお怒りになられているぞ――貴様――貴様が――」

「ほう? どうやら貴方と闇の帝王は密接な関係にあるらしいですな。成る程? ふむ、それはそれは厄介な」

「な、何を言っているセブルス!!」

「平常心を取り戻したまえクィレルもし我輩に、隠したいことが、あるというのなら」

「――――っ!!」

「君程度の存在がよくもまあここまで我輩の『開心術』から逃れられると思ったら、成る程そう言うことか――これでようやく合点がいった。所詮は虎の威を借る狐であったということですな」

「ググググググググググssssセェブルゥス……!!!」

「……最早話すことはありませんな。どちらに忠誠を誓うのか――その結論も、どうやら出たようですし」

「私を――見下しやがって――セブルスゥゥゥ!!!」

 

 怨嗟の目でスネイプを睨むクィレル。だが、スネイプはまるで臆しない。

 

「私は――私は――お前なんかよりも、よっぽどぉ!! 秀才なんだよォォォ!!!」

 

 クィレルは懐から素早く杖を取り出した。

 

「『クルーシオ』!!!」

「ふん」

 

 杖先から黒い光が放たれた――が、スネイプは杖さえも使わず、そのマントを翻すだけで防御した。

 

「なっ――」

 

「反省したまえ」

「あがっ!?」

 

 スネイプは目にも留まらぬスピードでいつの間にか杖を取り出すと、小さく振った。すると、クィレルが口の中に何か違和感を感じたのか、突然むせ返った。

 

「心の闇に付け入られ、それだけでなく憑け入られたその愚かさを――我輩が断罪してやろうクィレル、その苦しみから解放してやろう。それがせめてもの情けというものだろう」

「おごっ、おごっ――!!!」

 

 スネイプは杖を振った。

 

「セクタムセンプラ」

 

「おごっ――ひっ、ひぃぃぃぃっ!!?」

 

 杖先から放たれたのは闇色の閃光。クィレルに着弾すると、その着弾地点を中心として斜めに斬り裂いたような傷跡ができた。鮮血が溢れ出す。

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!?!?」

 

 クィレルの悲鳴が木霊する。だが、周囲は木々で囲まれ、誰にも聞こえない。穂乃花とカレン以外には――。

 

 

「な、何デスか、あれ……ホノカっ……」

「わ、分かんない……分かんないよ……何? 私たち、え、映画のワンシーンに迷い込んじゃったの……?」

 

 好奇心で見物してはいるものの、予想外の展開に驚きを隠せない二人。その顔は青ざめ、血の気が無い。

 

 

「安心したまえクィレル。君の代わりに我輩があの石をしっかりと管理して差し上げよう。心置きなく、逝くがいい」

「た、助けて――我が君――我が、君ぃぃ――!!」

「無駄だクィレル。最早君に助かる術は無い――今や君は帝王の擬似的な『|分霊≪ホークラッ≫――」

 

 

「 セ ブ ル ス ・ ス ネ イ プ 」

 

 

「っ!!?」

 

 スネイプは突如よろめいた。クィレルから放たれた威圧感――明らかに空気が変わった。

 

 クィレルは、ゆらりと立ち上がった。そのターバンはズレ落ち、その隠された頭が露出した。

 

「それ以上はこの"俺様"が許さん――こやつは俺様の大事な依代――セブルス、お前なんぞに邪魔される気はない」

「なっ――や――闇の――て」

「暫く寝ていろ――セブルス」

 

 クィレルは一瞬の内に杖を振り、スネイプに呪いを掛けた。避ける暇さえ無かった。スネイプはその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちた。

 

「…………」

 

 クィレルは、一瞬その場に跪き手を合わせると――その場からよろめきながら立ち去った。

 

 

[139]

 

「「…………」」

 

 その場で固まったまま動けない穂乃花とカレン。一体何が起こったのか――頭の回転が、追い付かない。

 

「「…………」」

 

 その光景は――余りにも現実離れしたその出来事は、二人に大き過ぎる衝撃を与えた。そして――この件を二人は、忍とアリスに話すことを先延ばしにしてしまう。整理する時間が欲しかったのだ――。

 

 だが、それは悪手であった。

 

 それは、更なる絶望への序曲――この決断により彼女たちは、逃れられぬ運命の奔流、その只中へと放り込まれてしまったのだ。

 

 




 遅れて申し訳ございませんでした!! リアルテリブルテストウィークだったんです!!(言い訳)

 さて、それはそれとして、いよいよ本日、エピソード1が始まります。暫しの間、地獄の三連続投稿をお楽しみに。筆者がひいひい言いながら書いている様を想像して愉悦に浸って下さい。
 まあ、自業自得なんですけども。

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