ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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ハグリッドと竜の子 その2

【第43話】

竜の飛翔

 

 

[129]

 

 ――ノルウェー・リッジバック種。

 

 十種確認されているドラゴンの内の一種。多くの点で『ハンガリー・ホーンテール種』に似ているが、尾の棘の代わりに、背中に沿って非常に目立つ漆黒の隆起部がある。

 同種のドラゴンに対して桁外れに攻撃的であり、それ故かこの種は希少種に分類されている。

 

 

[130]

 

 前回のあらすじ。

 

 急成長したノルウェー・リッジバック種のドラゴン《ノーバート》。最早小屋に入る大きさではなく、ホグワーツから隠し続けるのも限界であった。

 ドラゴンを飼うには特殊なライセンスが必要なのだが、飼い主であるハグリッドはそれを持っていない。バレればホグワーツを退職になる可能性があり、最悪の場合、魔法界最大にして最恐最悪の監獄『アズカバン』への投獄さえ有り得る。

 過去の経験からもう二度とホグワーツを去りたくないハグリッド。だが、ノーバートを野生に戻すわけにもいかない。ハグリッドは、ノーバートの事を知る琉姫、翼、忍、アリス、穂乃花、ウィーズリー兄弟(この二人は偶に小屋に忍び込んでいるのでバレた)と共に対策を考えるのであった。

 

 あらすじここまで。

 

「野生に返した方が良いよね」

「私もそれに賛成です」

「可哀想だけどそうするしかないよね」

「お前らなぁ!?」

 

 忍、アリス、穂乃花の意見。板状一致で"野生に返す"。

 

「お前らぁ! 人の心がねえのか!? まだこんなちっちゃな赤ん坊を、無慈悲にも厳しい自然にほっぽり出すってのか!?」

「大丈夫ですよハグリッド。その子全然小さくありませんから。その辺の生物より大きいですから」

「でも大人のドラゴンに虐められたらどうするってんだ!? 死んじまう!」

「ハグリッド。本で調べたけどさ、ノルウェー・リッジバック種ってドラゴンの中で一番気性が荒いんだって。他のドラゴンを傷つける事もあるらしいよ」

「俺はノーバートを虐めっ子に育てた覚えはねえ! ノーバートを悪く言うのはやめろぉ!」

「もう、そんな事言ったって、それは本能なのよ!? 私のバックビークの命に関わるのよ!?」

「俺のノーバートの命にも関わるんだよ!!」

 

「駄目だ、聞く耳持ってない」

「我儘だなあ」

「「面倒臭え」」

 

「うおぉぉーーーん!!」

 

 大声で泣くハグリッド。そしてそれを憐れみと呆れが同居した表情で見る七人。

 

「ってもなあ……ドラゴンだろ? ドラゴンドラゴン……」

「ドラゴンだろ? ドラゴンと言えばなんだ? ドラゴンドラゴン……チャーリー……」

「「ドラゴン……チャーリー……」」

「あんたら思いついてるでしょ」

 

「あ! そうだ!!」

 

 思わせぶりに呟くフレッドとジョージ。ハグリッドはそれを聞き、何かを思い出したかのように泣き顔を上げた。

 

「チャーリーだよチャーリー! ほら、お前らの兄貴のチャーリー・ウィーズリー! 確か、ルーマニアでドラゴン使いをやってたな? チャーリーに引き取ってもらえばいいんだ!」

「おおう、そいつは名案だ流石ハグリッド」

「僕たち思いつきもしなかったぜ」

「あんたらいい性格してるな」

「チャーリー? フレッドさんとジョージさんのお兄さんって、パーシーさんじゃないんですか?」

 

 琉姫が聞く。

 

「あれ? お前知らなかったっけ? 僕達は六人兄妹だぜ」

「上からビル、チャーリー、パーシー、俺、フレッド、ジニー」

「ジニーは来年ホグワーツ入学だぜ」

「そうだったんですか」

「チャーリー……あ、クィディッチの伝説的シーカーって呼ばれてた人だよね」

 

 穂乃花が言う。

 

「ああ、まあね」

「でも、去年は勝てなかったけどな」

「ウッドとチャーリー以外がアレだったからな」

 

 去年度のグリフィンドールチームは、ウッドを除いて七学年の生徒で組まれていた。七学年と言えばホグワーツ最終試験『N.E.W.T』を受ける学年。言わば大学受験を控える高校三生のようなもの。勉強を優先しなければならない状況でクィディッチの練習は捗る訳もなく、見事に惨敗したのであった。

 

 閑話休題。

 

「よし、これでいこう! これで行くしかない――フレッド、ジョージ。チャーリーの兄貴に連絡は出来んのか」

「出来るぜ。でも兄貴なかなか忙しいからな」

「すぐに連絡が返ってくると思わないでくれよ」

「ああ、それは百も承知だ。ノーバートの為なら、俺は何でもする!」

「「何でも?」」

「森には入れんぞ」

「「ちっ」」

 

「ねえ、結局私達なんで来たんだろうね?」

「さあ……」

「あいつらだけでよかったんじゃないかな」

「私はバックビークに会いに来ただけだけどね」

 

 さて、そんな訳で。

 いよいよノーバートを手放す算段がついた――後は、チャーリーからの連絡を待つのみである。順風満帆――。

 

「…………」

 

 ――とはいかないように感じる、忍であった。

 

「…………今そこに、金髪が見えたような」

 

 

[131]

 

 ――チャーリーからの連絡が届いた。

 

 チャーリーが指定した日時は連絡が届いてから五日後の深夜二時。

 チャーリーが来ることが出来る最速の時間を選んでくれた――のだが、ノーバートにはそれ程の猶予さえ最早残されていなかった。

 

「グルルルルルルァァァァァァァ!!!」

「よ、よーしよし!! 落ち着け!! 落ち着いてくれノーバート!!」

「グルルルルルルァァァァァァァ!!!」

 

 日に日に増してゆく凶暴性、そして大きさ。最早ハグリッドの小屋の中はノーバートで占領されてしまっていた。あちこちがヒビ割れ、焦げ付いている。五日後という時間は、ノーバートを隠し通す事が出来る限界が来るまでの時間でもあった。

 

 ――そして遂に、その日がやってきた。

 

「とうとう今日ね……」

「うん」

「長かったわね……」

「うん」

「漸くバックビークが安心して過ごせるわ……」

「そうだね」

「…………」

「…………」

 

 昼休み、湖のほとりで話す翼と琉姫。二人ともスケッチブックを持って大イカを模写している。

 

「…………」

「…………」

「……ねえつーちゃん」

「……何」

「やっぱり、最後に見送ってあげない? 一応顔見知りだし」

「……見送るって言っても、夜中の二時だよ? そんな時間に出歩けば校則違反で捕まる」

「それはそうだけど……あ、そうよ! 忍ちゃんから透明マントを借りればいいじゃない!」

「うーん……まあ、忍はノーバートの事知ってるし、説明の手間はないけど……貸してくれるかな? 二つあるとは言え、透明マントって凄く貴重なものらしいし」

「うっ……そ、その辺はつーちゃんの交渉力で……」

「……まあ、聞いてみるけどさ」

「本当!? ありがとうつーちゃん!」

 

 ノーバートを見送るため、透明マントを借りることとなった二人。わざわざ捕まるリスクを冒してまでも関わろうとするのは、何だかんだノーバートに対して多少の情が芽生えていた、ということなのだろうか。

 

 さて、そんな訳で時間は飛び、夕食の宴。

 

「ねえ忍。ちょっと」

「はい?」

 

 翼は忍を大広間の外へと連れ出した。

 

「何ですか? 急に」

「……お願いがあるんだけど」

「ノーバートの件ですか?」

「えっ」

「そういえば、ノーバートが行ってしまうのって今日の夜でしたね。それで、見送りに行きたいとか?」

「……そう。よく分かったね」

「えっ! 合ってたんですか!? ひゃっははぁ⤴︎!! これで通訳者への道も近くなりました!!」

「…………?」

 

 忍の夢は通訳者。周囲からは無理と言われ続けているが(英語の成績的にちょっと……)、彼女は決して夢を諦めず、今も翻訳者を夢見ている。が、どう考えても才能という面では通訳者よりも服飾職人の方が圧倒的に向いているのだ……。

 なんで勘が当たれば通訳者への道が近付くのかまるで意味が分からないが(フィーリング的な方面で言っているのだろうか?)、それはそれとして。

 

「うん、見送りに行きたいんだ。それで、透明マントを貸して欲しいんだけど」

「別にいいですよ〜」

「えっ」

「もしかして、もっと説得が要ると思いましたか? いいですいいです。ちゃんと返してくれるなら、貸して差し上げます。どうせ二つありますし」

「あ、ああ……そ、そうなんだ。うん、ありがとう忍」

「ゆあうぇるかむです〜。……あ、翼ちゃん」

「何?」

 

 大広間に戻ろうとする翼を引き止めた忍。

 

「気を付けて下さいね。……余り穏便に済まされないような気がするんです」

「……どういう意味?」

「いえ、これはただの思い違いかもしれませんが……ノーバートの件、私達以外に知っている人がいるかもしれないのです」

「なんだと?」

「……この前私達がノーバートを見た時、小屋の窓に金髪が映っていたような気がするのです」

「それただの禁断症状……」

「いいえ!!」

「っ!?」

 

 ずい、と翼に迫る忍。

 

「アリスが近くに居たにも関わらず禁断症状が発生するなんてことは天地が逆転しても絶対にありえません!! アリスは私の天使なんです!!」

「わ、分かったよ。忍……禁断症状があることは否定しないんだな」

「おほん」

 

 忍は咳払いした。

 

「まあ兎も角です――細心の注意を払って動いて下さいね。もしもその金髪の方が校長先生辺りに密告していたら――取越し苦労であることを祈っていますが、行きも帰りも、絶対に透明マントを脱がないように」

「……ん、分かった。忠告ありがとう、忍」

 

 大広間外の秘密会議を終え、二人は一抹の不安を抱えつつ大広間へと戻った。

 

 

[132]

 

 

《side Ruki & Tsubasa》

 

 ――深夜。いつもお馴染み、草木も眠る丑三つ時。

 

 透明マントを被り、天文台塔を登る二人の少女の姿があった――いや、厳密には見えないので無かったと言うべきか。

 ロングヘアーとショートヘアーの二人組――言うまでもなく、色川琉姫と勝木翼である。

 

 ――ggggggggggrrrrrrr!!!!

 

 塔のてっぺんから聞こえてくるのは、圧し殺したような泣き声。二人は急いで駆け登った。

 

 

《side Shinobu & Alice》

 

「ねえシノ、本当にそんなの見たの?」

「ええ、間違いありません。私の金髪センサーに狂いはありません」

 

 天文台塔近く。透明マントを被りながら、警備するかのように周囲を彷徨く二人組が居た。いや、正確には見えないので以下略。

 

 コケシめいた少女とツインテールの金髪少女――大宮忍とアリス・カータレットである。

 

「分かってて見過ごす訳にはいきません。もしも誰かが来たら、天文台の二人に知らせなければいけませんからね」

「本当に来るのかなあ……?」

 

 

《side Ruki & Tsubasa》

 

「おお……やっぱり来ちまったのかお前ら」

 

 頂上についた琉姫と翼。二人を見るなり嬉しいやら困ったらやら、複雑な感情を孕んだ声で言った。

 

「そりゃあ、来ざるを得ないわよ。何だかんだでちっちゃな頃からの付き合いだしね」

「まだノーバートはちっちぇえんだ!」

「大きさの話をしてるんだよハグリッド」

 

「gggggggggggg!!!!!」

 

 ノーバートが叫ぶ。だが、その声はいつもより小さい。声が響いて城の中の人を起こさないように、猿轡を咬まされているのだ。尚、これを提案したのは翼で、ハグリッドを説得するために貴重な一日を棒に振ってしまったという事をここに記述しておこう。

 

「チャーリーさん達はまだなの?」

「ああ。そろそろだと思うんだが――おおっと、噂をすればだ! 二人とも見てみろ!」

 

 ハグリッドの指差す先を見る。するとそこには、六つの黒い影が。少しずつ大きくなる。

 この大きさのドラゴンを運搬するとなると、チャーリーだけで運搬するのは困難どころか不可能である。なので、彼は五人の仲間を連れて来たのだ。

 

 箒に乗った集団が、天文台に降り立った。

 

「やあ、ハグリッド。待たせたね」

 

 一人の男がハグリッドに向かって言った。顔はそばかすだらけで、腕は筋骨隆々、あちこちに傷跡があるワイルドな姿。彼こそ、ウィーズリー家次男にしてドラゴン使い。チャーリー・ウィーズリーである。

 

「よお、チャーリー。久し振りだな、元気にしちょったか?」

「当たり前だぜハグリッド。ドラゴン使いが元気じゃないとあっちゃ、あっという間にドラゴン達に殺されてお陀仏さ」

「はっはっは! そりゃそうだわい!」

「ははは! ――ん? 誰だい、その二人は」

 

 チャーリーが二人に気付いた。

 

「初めまして。ハグリッドの友人の勝木翼です」

「初めまして。ハグリッドのペットの友人の色川琉姫です」

「ふうん? ルキとツバサか。初めまして。僕はチャーリー・ウィーズリーだ。ルーマニアでドラゴン使いをやっ」

 

「早速ですけどドラゴン使いってどんな仕事なんですか!? どんなドラゴンと出会ってきたんですか!? どうやってドラゴンを手懐けるんですか!? ど――」

「つーちゃん落ち着いて」

 

 チャーリーの言葉を待たず質問責めにする翼。好奇心溢れる彼女は"ドラゴン使い"という存在に憧れを抱かずにはいられなかった。

 

「ドラゴン使いはドラゴンを躾ける仕事だ。今まで出会って来たドラゴンは数え切れないが、確認されてる十種のドラゴン全部に出会って来た。ドラゴンを手懐ける方法は、強さ関係をはっきりさせること」

「ありがとうございます!! 参考になりました!!」

 

 が、チャーリーは全ての質問に答えた。彼は素朴かつ正直者なのだ。

 

「答えられるならまだ答えたいが、生憎時間がない。すまないが作業に取り掛からせてもらう――他の質問はまた今度な」

「はいっ!!」

 

「よし――じゃあ、始めるぞ!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

《side Shinobu & Alice》

 

「そろそろ運搬準備をしている頃でしょうか」

「手伝いに行く?」

「いえ、何も知らない私達が行ったところで足手纏いでしょうし、寧ろ邪魔でしょう――それより、私達は私達のすべき事をやりましょう」

「本当に来るのかなあ?」

「来ると思いますよ……まあ来なかったら来なかったで、何事もありませんでしたで終わりですし」

「まあね」

 

 何もない場所からヒソヒソ声が聞こえる。透明マントの下で雑談する忍とアリスの声だ。

 

「……ねえシノ、賢者の石の事、どう思う?」

「賢者の石、ですか? そうですねえ……永遠の命というのは、確かに魅力的ではありますね。いつまでも金髪少女と遭遇出来ますし」

「あ、やっぱりそういう方向性」

「でも、私だけ長生きしたところで、穂乃花ちゃんや陽子ちゃん、綾ちゃんに若葉ちゃん、それに、モラグやカレン、アリスが居ない人生なんて、面白くもなんともありません」

「シノ……」

「確かに私は金髪少女を愛していますが――でも、その愛は平等ではありません。やっぱり、特別扱いしてしまう金髪少女だって居るんです」

 

 忍はアリスを真っ直ぐ見つめ言う。

 

「永遠の命は、魅力的です。でも、欲しいとは思いません」

「……私もだよ、シノ。私も、シノの居ない世界で生きていくなんて、絶対出来ない。嫌だもん、シノに会えないなんて」

 

「アリス……」

「シノ……」

「アリス……!」

「シノ……!」

「アリス……!!」

「シノ……!!」

「アリスー!!!」

「シノー!!!」

 

「あいつらの声だ……近いぞ!」

 

「「!!!」」

 

 我を忘れて叫ぶ二人。その時、何者かの声が聞こえた。叫び声の所為か、二人に気付いたらしい。慌てて黙る二人。

 

 廊下に取り付けられたランプの光が声の主の影を映す。角から影が伸びてきた。

 

「「っ……!!」」

 

「……そこに居るのは分かってるんだぞ――オオミヤァ!!」

 

 現れたのは、まごう事なき金髪を持った少年――忍の言うところの金髪少年。ドラコ・マルフォイである。

 

 忍の見たものは間違いではなかった。ノーバートが産まれた時、一瞬見えた金髪――その正体こそ、ドラコ・マルフォイだったのだ。彼は威厳を保つため、何としてでも忍を陥れようと思っていた。そんな時にちょうど御誂え向きの展開がやって来たのであった。

 その機を逃す手はなかった。ドラコはノーバートが学校から去る日、恐らく忍も動くと考えた。そう、ドラコはノーバートの存在を知って以来、いつも彼女達の動向を監視していたのだ。全ては、忍を倒すため――!

 

 ……なのだが。

 

「どこだオオミヤァ!! 出て来い!! ここに金髪があるぞ!! 釣られやがれ!! そしてマクゴナガルに突き出してやる、出て来い!!」

 

「「…………」」

 

 だが、彼は知らなかった。

 大宮忍がそんな簡単に捕まるわけがない事を――透明マントというチート染みたマントの存在を。

 

「くっそ、何処だ……? オオミヤの奴、確かにここであの、あの……カータ……カータ……と叫んでた筈なんだが……まさか逃げられたか? いやそんな筈は……」

 

「……アリスの苗字を覚えていないとは……万死に値しますよあの方」

「落ち着いてシノ、絶対出て行っちゃダメだからね」

「本能を抑えるのに必死です」

「ほら、特別な金髪少女がこうして密着してるんだから、落ち着いて、ね?」

「余計理性が剥がれそうです……アリス、貴女のベッドにルパンダイブしたい気分ですよ」

「本当落ち着いてシノ、多分自分が何言ってるかさえ分かってないよ」

 

 小さな声で話す二人。それに気付かないドラコ。どうしようもない。

 

「くっそ、どうしたもんか……まあいい、まだそう遠くには行ってない筈……そうだ」

 

 ドラコは天文台への階段を見て、こう言った。

 

「――腹いせにドラゴンの運搬を、邪魔してやろうかな……!」

「「っ!!」」

「そうだ、最初からそうすりゃ良かったんだ――よし、行くぞ」

 

 階段へ向かってドラコは歩き出した。

 

 焦る二人。

 

「ど、どうしようシノ」

「と、兎に角上の二人に知らせないと! ドラコより先に天文台へ――」

 

「おやおやぁ? こんな時間に何をしてるんだ? ん?」

 

「「「!!!」」」

 

 三人は驚き、声のした方を向いた。

 

 そこに立っていたのは痩せ細った男。片手にはランプを持ち、意地悪く嗤っている。ホグワーツ管理人、アーガス・フィルチである。

 

 ドラコは、絶望した。

 

 

《side Ruki & Tsubasa》

 

「よし――じゃあ、出発するぞ」

「gggggggggggggg……!!!」

「暴れるな暴れるな」

 

 檻の中のノーバートを宥めるチャーリー。檻には太く長いロープが固く結ばれている。しかも耐熱性に優れた魔法のロープだ。ロープはドラゴン使い六人の箒に結ばれている――いよいよ、運搬準備が整ったのだ。

 

「じゃあな、ひぐっ、ノー、ひぐっ、ノーバート!! ひぐっ、向こうでも、ひぐっ、達者でなぁ、っ!!」

 

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、ハグリッドは言う。

 

「これで一安心だね」

「バックビークの安寧が蘇るわ」

 

 笑顔で呟く二人。ハグリッドの隣でよく言えたものである。

 

「じゃあな、ハグリッド、ルキ、ツバサ――また会おう!!」

「「さようならー!」」

 

「ノォォバァァァトォォォォォ!!! 元気でなぁぁぁぁぁっ!!!」

「gggggggggggggggggggggッッッ……!!!!!」

 

 六人のドラゴン使いは飛翔した。それと同時に、ロープで繋がれた檻も浮上した。途轍も無い重さだが、魔法の前では意味がない。

 

 少しずつ遠ざかって行く六人と一匹――みるみるうちに黒い影となり、やがて完全に夜の闇の中へと姿を消した。

 

「ひぐっ、ひぐっ、うぅ……ノーバートぉぉ……ひぐっ」

「……じゃあ、帰ろっか」

「そうね。じゃあ、私達帰るわ、ハグリッド」

「うぅっ……あ、ああ……気を付けて帰れよ……ひぐっ、うぅ……ノーバート……」

「「…………」」

 

 二人は階段を降りていった。

 

 その姿は――消えていない。

 

 

[133]

 

「……あのまま放置してきて良かったのかな」

「仕方ありません。因果応報ですよ」

「そうだよね」

「はい」

 

 二人は天文台へと向かう螺旋階段を上っていた。念の為、琉姫と翼に警告するためである。

 

 ドラコはと言うと、突如現れたフィルチに取っ捕まえられ、マクゴナガルの所まで連行された。何故フィルチを呼び寄せてしまったのか? 答えは明白、大声で叫んだからである。

 叫んだというなら忍とアリスも叫んだのだが――しかし彼女達の姿はどこにもなく、見つかったのはドラコ一人だけであった。捕まってなおドラコは、

 

「くそぉ!! オオミヤァ!! 見てるんだろ、出て来い!! 畜生めぇぇ!!」

「喧しい!! 黙れ小僧!!」

 

 こんな調子である。

 

 マクゴナガルの所まで連れて行かれ、その後も必死に言い訳を言い続けたが、その甲斐なくドラコは罰則を言い渡されたのであった。あと、スリザリン50点減点。

 

 閑話休題。

 

 螺旋階段を上る二人――その時、上から何者かが下りてくるのが見えた。

 

「え?」

「あら?」

 

 そう、"見えた"。

 

 透明マントを羽織っていれば透明になった者を見れるわけではない――つまり、下りてくる二人は透明マントを被っていないのだ。

 

「――琉姫ちゃんっ! 翼ちゃんっ!」

「何やってるの!? 何でマント被ってないの!?」

 

「「!!?」」

 

 忍とアリスはマントから顔を出した。突然現れた二人の姿を見て、驚いたのか腰を抜かす琉姫と翼。彼女達二人は、そもそも忍とアリスが来ていた事自体知らなかったのだ。

 

「あ、驚かせてすみません――は兎も角! マント! マントはどうしたのですか!?」

「あっ!?」

「あっ!? じゃないよ! 今下にフィルチさんが居たんだよ! 普通に危なかったよ二人とも!!」

「ほ、本当だわ! 私達マント被ってない――っていうか、上に忘れて来ちゃったわ!?」

「何してるんですか……」

「気をつけてよ……」

「待っててるっきー、取ってくる!!」

 

 呆れる忍とアリス。翼は猛ダッシュで天文台まで駆け上り、そして下りてきた――その間約一分。分かり難いが、一分で行き来するという軽く人間離れした行動を容易くやってのけたのだ。

 

「はぁ……はぁ……と、取ってきた……」

「あ、ありがとうつーちゃん……」

「来た甲斐あったねシノ」

「全くですよ……」

 

 四人はそれぞれ透明マントを被ると、螺旋階段を降りていった。天文台出口にはフィルチが彷徨いており、冗談ではなく二人は危なかった事を知り、戦慄した。

 

 その後は何事もなく、無事寮へ帰ることに成功した。深夜に行われたドラゴン運搬作戦は、遂に幕を閉じたのであった。

 




 はい、ドラゴン篇終了! そしてウィーズリー家屈指の影が薄い男、チャーリー・ウィーズリーが初登場。
 チャーリーって実は映画にさえ出てないんですよ、ウィーズリー家の中で唯一。酷いと思いませんか? ビルでさえなんだかんだ出演したのに!

 それは兎も角として、いよいよPart1の終わりが近付いて参りました。予定としては後3回エピソードを挟んだ後、エピソード1に入ります。
 本来なら9月中には終わらせたかったのですが……大幅に遅れて申し訳ございませんでした。

 次回は、期末試験回っぽいなんかです。

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