ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 長らくお待たせしました!


※告知事項※

・何かあればここに書きます。




小さなヒッポグリフ その2

【第鳥話】

跳ねる嘴

 

 

[178]

 

 ――暗闇に包まれた森の中。

 

 一匹の獣が弱々しい鳴き声を出す――生まれたばかりなのか、その姿は小さく、脆い。親は何処へ? 小さき獣には分からない。

 

 ――再び鳴く。だが、その声は豪雨と雷鳴によって打ち消され、誰にも聞こえない。

 

 暗闇の中、光る眼が獣を見つめる――小さき獣はそれに気付かない。己が今まさに、狩られんとしていることを。

 

 ――『ヒッポグリフ』。

 

 頭は鷲、胴体は馬、そして鷹の如き羽を持つ魔法生物。肉食で、虫や鳥、小型哺乳類を食する。

 

 一人ぼっちのヒッポグリフ。その小さな声は誰にも聞こえない。親は殺され、まだ小さかったこの雛だけが、見つからずに生き残った。

 

 だが、その悪運も、最早ここまでか。

 

 双眼が一筋の残光を描き、ヒッポグリフに向かう。そして、そのまま彼の喉笛を――

 

 

[179]

 

「ただいまー!」

 

 木と石で作られた外見は小さな小屋。扉が開き、由紀が顔を出した。

 

「お。おかえりー」

「おかえりなさい、由紀先輩」

 

 直と美紀。

 

「ったく、雨でびしょ濡れだぜー……ストーブとかないかなー」

 

 水の滴るショベルを担ぎながら入って来たのは胡桃。その後ろからは、ふらふらの琉姫と心愛。

 

「おかえりなさい、胡桃。それに由紀ちゃんも……無事で良かったわ」

 

 安堵したように悠里が言う。

 

「お、お疲れ様ですっ……ストーブじゃありませんが、あそこに暖炉が」

「お、サンキュー」

 

 薫子の指差す先にあるのは煉瓦で作られた暖炉。雨が降ってきたのでローブを脱ぎ、炎に近付ける。

 

「ああ寒っ……」

「私もあたるー」

 

 由紀も暖を取る。

 

「うぅ……寒いわ……」

「うさぎは寒いと死んじゃうんだよー……」

 

 琉姫と心愛も暖炉へ近付く。

 が、二人の肩が掴まれた。

 

「 二 人 と も ?」

 

 悠里が笑顔で言う。二人の表情が凍った。

 

「ちょっとお話ししましょうか?」

「「……はい」」

 

 雷鳴が轟いた。

 

 

[180]

 

「ふう……全く危なっかしい奴だ――!?」

「あ」

「お邪魔してます」

 

 悠里の説教が轟き、由紀と胡桃のローブが乾き始めた頃。突然扉が開いた。

 扉を開けたのは、巨人めいた巨体の男。その傍で、大型の犬が唸っている。因みに種類はグレート・デーンという種。

 さて、読者の皆さんに考えて頂きたい。自分の家に帰ると、そこでは見も知らぬ少女たちが団欒していた。そんな状況――怪しまない筈がない。

 

「お、お前ら何やっちょるんだ!? 何で俺の家の中に居るんだ!? いつ入った!?」

 

 もじゃもじゃの髭をした男が言う――もうお分かりだろう。彼こそが、ホグワーツの鍵と領地の番人『ルビウス・ハグリッド』である。

 

「えへへー、ちょっとお邪魔しちゃいました」

 

 はにかみながら小夢が言う。

 

「ちょっとお邪魔だと!? 人の許可も無しに勝手に入り込むとは……なんて奴らだ! あの兄弟以外にもこんなのがいたのか!」

「あの兄弟?」

「ウィーズリーの双子だよ」

「知り合いなんですか?」

 

 直が聞く。

 

「知り合いっちゃ知り合いだ、うん。あいつらを森から追っ払うのに人生を半分掛けてるようなもんだからな――って、そうじゃねえ! お前らなあ!」

 

「すみませんでしたハグリッドさん。外で遊んでいたら急に雨が降ってきて、それでちょうどここに小屋があったので、雨宿りに丁度良いと……」

「許可も無く勝手に入ってしまって申し訳ございません。図々しいですが、雨が弱まるまで暫くここで滞在させて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「お、おおう」

 

 美紀と悠里のファインプレー。多少事実が捻じ曲がっているが、それはそれ。これはこれ。

 敬語を使われ慣れていないのか、それとも単に殊勝な態度に出ることを予想していなかったのか、狼狽えるハグリッド。

 

 ……が。

 

「え? 違うよ! ハグリッドさんってどんな人かなー、って興味があったから、ずっと尾行してきたの!」

 

「こゆめちゃん……あなたねっ……!」

「あーもう……何でー……」

 

 そんなフォローも一瞬で灰燼と化す。正直なのは良いことではあるが、しかし時と場合によっては嘘も織り交ぜることが必要になると知るべきである。まあ、間違いなく小夢は死んでも閻魔に舌を抜かれないだろう。

 

「全く……まあいい、どうせこの雷雨だ。このまま出て行けっていうのも酷だろうよ――止むまでだぞ」

「わーい!!」

「こゆめちゃん、後で天文台」

「……ハイ」

 

 ハグリッドは扉を閉めると、巨大な切り株めいた椅子(?)に座った。

 

「それで……何だ、俺に興味があるってか? 別に面白いことなんて何もねえぞ?」

「そのユニーク極まりない姿でそんなこと言われても説得力ねえなあ」

 

 乾いたローブを着ながら胡桃が言う。

 

「ねえねえ、そのワンちゃん大っきいね! 何て名前なの?」

 

 同じく、乾いたローブを着ながら由紀が言う。

 

「ああ、こいつはファングってんだ」

「ファング! ファング! カッコいい! 宜しくねー、ファングー!」

「グルッ――キャウン!!」

「えっ」

 

 ファングを撫でようと近付いた由紀。ファングは一瞬唸ったと思うと、逃げる様にハグリッドの巨体の背後に隠れた。

 

「あぁ、すまんな。こいつは臆病なんだ」

「こんな強そうな見た目なのに!?」

「名前負けって奴だな」

「もう! 子犬じゃないんだからもっと堂々としてなきゃ――子犬……?」

 

 由紀の目が、虚になる。

 

「っ!!」

「子犬……こいぬ――わんこ――――」

「おい、どうした?」

「子犬――たしか、むかし――たろうまる――」

 

「ゆきちゃん!!!」

 

 悠里が由紀の腕を掴んだ。

 

「!!!」

 

 はっとしたように由紀の目に光が戻る。

 

「……ん? どうしたの? りーさん」

「な、何でもないわ。ゆきちゃん……」

「ふーん? 変なの」

「…………」

 

 由紀は不思議そうに首を傾げる。悠里は安堵したように微笑み、美紀はそれを不安そうに眺めている。

 

「お前さん、一体どうし――」

「ハ グ リ ッ ド さ ん」

「っ!!?」

 

 悠里がハグリッドを睨む。その眼はこう訴えているように、ハグリッドは思えた。

 

 ――これ以上さっきのことに触れるな。

 

「……クゥー」

 

「!!」

 

 少し狂気を帯びた場の空気を引き裂くように、ハグリッドの服の中から小さな声。

 

「お、おっとそうだ! お前さんのことを忘れちょった! 色々びっくりすることがあったからなあ」

 

 ハグリッドは服のポケットから、一匹の獣を取り出した。獣は濡れていて、体を震わすと水飛沫が飛んだ。

 

「「可愛いー!!!」」

「おお……」

 

 見るや否や目を煌かせる心愛と琉姫。薫子も興味深そうに近付いた。

 馬のような幼獣。頭は鷲の様であり、まだ小さいが鷹めいた翼が生えていた。

 

「あ、あの。これ何ていう生き物なんですか?」

 

 薫子が言う。

 

「こいつはヒッポグリフっちゅう生き物だ。珍しい種族でな、たまたま森の中で狼に襲われちょったのを助けたんだ」

「ヒッポグリフ!? ヒッポグリフってあのヒッポグリフですか!?」

「うっそ!! じゃあこれ神話の生物じゃん!! 神様じゃん!!」

「どうする!? 金髪教に対抗してヒッポグリフ教でも作る!?」

 

 興奮する薫子、小夢、琉姫。琉姫に至ってはなんだかよく分からない事を口走っている。

 

「ヒッポグリフ? ……ルキちゃん知ってるの?」

 

 心愛が言う。

 

「ヒッポグリフと言えば、伝説の生物じゃないの! グリフォンと雌馬の間に生まれたという、神の使いよ!! ああ、ここにつーちゃんが居ないのが惜しすぎるわ!! きっとつーちゃんならもっと色々知ってるのに!!」

 

 興奮覚めやらぬ琉姫が言う。余談だが、筆者が知る限りではヒッポグリフが神の使いとして扱われていたという逸話は多分無い。それはどちらかというと、ヒッポグリフの親として伝えられるグリフォンの方である。

 

 ハグリッドは肉を与えた。ヒッポグリフの幼獣はそれを啄んだ。

 

「そ、そうだ! スケッチ! スケッチしないと!」

「こんな貴重な機会滅多に無いよー!!」

「くっ、一旦寮に帰らないでここに来たから、紙が無いわ!! 色川琉姫一生の不覚よ!!」

「じゃ、じゃあ私の貸しましょうか?」

「ありがとうかおすちゃんかおすちゃん本当天使!!」

 

 肉を啄むヒッポグリフを取り囲みスケッチする漫画家三人組。残りの8人はそれを目を丸くして見ている。

 

「こんな生き物見たことないよ〜。植物もだけど、見たことない物がいっぱい! 初めてばっかりだよ〜!」

「ああ、こっちに来てから驚かされてばっかだな」

 

 萌子と直。

 

「この子、名前ないの?」

「んにゃ、名前はまだ付けとらん。それに、飼うかどうかもまだ分からんしな」

「名前ならりーさんにお任せあれ!!」

 

 由紀が言う。当然、悠里は驚いた。

 

「ゆきちゃん!?」

「りーさんはカッコいい名前を付ける名人なんだよ! この前二つ名を付けてもらったんだけどね、"地獄のお騒がせ娘"っていうんだ! カッコいいでしょ!?」

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

「もう、ゆきちゃんってば!」

「それにりーさんの二つ名だって凄いんだよ! その名も、"風船爆弾の魔術師"!!」

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

「……あれ? みんな何その反応」

 

「……いやぁ」

「ちょっとそれはどうかな〜……」

「そういやそんなのあったな……」

「か……カッコいい……?」

「つーちゃんみたいね」

「翼ちゃんみたいだね」

 

 六者六様の反応を返す。六様と言っても根底にあるものは多分みんな一緒である。

 

「ちょっと由紀先輩! それ言っちゃうのは駄目でしょう!?」

 

 慌てて耳打ちする美紀。

 

「えー? 何で?」

「いやだってあれは……あれ絶対変なテンションで言った奴ですよ! 間違いなく黒歴史ですよ! ほじくり返すとか鬼畜ですか貴女は!?」

「「えっ、そうなの?」」

「え?」

 

 由紀と悠里の台詞が重なった。

 

「黒歴史だなんて、失礼ね。確かにあの時はちょっと調子に乗ってたけど、人のネーミングセンスをそうやって悪く言うのはいけないことだと思うわよ、美紀ちゃん」

「えっ!?」

 

 素であった。

 

 

《side Chiya》

 

「っ」

「ん? どうしたの千夜?」

 

 千夜がぴくりと動いた。シャロが聞いた。

 

「いえ、別に……何というか、キャラ被りのような何かを感じたというか……アイデンティティの消失を感じたというか」

「はあ? 何それ」

「さぁ……」

 

《side END》

 

 

「ま、まありーちゃんのは兎も角、名前は無いと不便だよね!」

「兎も角って何かしら萌子ちゃん」

「よーし、ここはみんなで名前を持ち寄ろう! 飼う飼わないとネーミングセンスは別として!」

「萌子ちゃん、こゆめちゃん、後でゆっくり話聞かせてね」

 

 

[181]

 

 突如始まった名前付け大会。各々のネーミングセンスが問われる、ある種残酷過ぎる戦いである。

 

 参加者はハグリッドと直、美紀以外の8人。ハグリッドは審査員担当。

 

 

《Turn 1 Koyume》

 

「ヒッポグリフだから、ヒッポー!!」

「そのまんまだなオイ」

「あ、ちょっとそれ私と被ってるー!」

「しかも被んのかよ!!」

 

 ツッコミ担当は直。被ったのは由紀。

 

「むう、じゃあ私もうアウトじゃん……これ以上いい名前思い付かないし」

 

 まさかの一発目から一人脱落。幾ら何でも早すぎる。しかもよりによってこれで被るとは。

 

 

《Turn 2 Kurumi》

 

「聞いて驚け! コーリー・ベイ!! 黒い栗毛って意味だ! どうだ、いい名前だろう!」

「よし、お前に悠里にあれこれ言う資格はない」

「何でだよ!? ちょ、待て待て! 違うから! 違うから! み、美紀なら分かってくれるよな!?」

「ええ、分かりますよ」

「え?」

 

 意外そうに美紀を見る直。

 

「これはシートン動物記からの引用ですね――ある暴れ馬の名前です。胡桃先輩、よくこの辺から名前を取ってくるので分かりましたよ」

「へぇ……そんなの読んだことないな」

「一度読んでみて下さい」

「ああ、気が向いたらな」

 

 

《Turn 3 Yuri》

 

「そうねぇ……間をとって、ヒッポー・ベイとかどうかしら」

「適当すぎるだろ!!」

「じゃあヒッポー・ベイ二世」

「二世は何処から!?」

「ふふ、冗談よ。じゃあ、本命言うわね」

「悠里先輩、二つも言ったので流石にアウトです」

「なっ!?」

 

 雷に打たれたかの如き衝撃を受けた悠里。

 

「な、何よそれ!? そんなルール知らないわよ!?」

「いや、ルールとかそれ以前の問題だろ……」

「そんな……っ……何でよっ……もう、やだよっ……」

 

 嫌だろうが何だろうが、問答無用。若狭悠里、脱落。

 

 

《Turn 4 Ruki》

 

「じゃあ……跳ねる嘴っていう意味のバックビークっていうのはどうかしら? 翼を持ってて嘴を持ってて……ピッタリよ!」

「美紀、あれもシートン?」

「違いますね」

「よし、お前は本物だな」

「本物って何!?」

 

「でも、割とまともな名前で良かったですね」

「割とって何よ!?」

「ああ。18禁な名前を言われると警戒していたが……杞憂だったみたいで何よりだ」

「何でそんな警戒するの!?」

「そりゃあ、ねえ」

「ええ、そりゃあ」

「何よ!! まだいやらしいネタ引っ張るの!? いつまで引っ張るのよそれ!! 言われるこっちの身にもなってよね!?」

 

「はい次」

「ちょっと!?」

 

 

《Turn 5 6 7》

 

「もう面倒いから後の三人一気に発表して」

「「「雑っ!!」」」

「いや、本当雑すぎだよ直!?」

「お前の敬語と敬語じゃない境界ってどこなんだ……? いやだってさー……ハグリッドさん、何か気に入ったのありました?」

 

 直がハグリッドに振る。

 

「んー……個人的には、バックビークってのがかなり気に入ったな」

「本当ですか!? やったあ!! じゃあ私名付け親ね!!」

「だってさ、バックビークで良いんじゃね?」

「ちょっと!? 私のティラミスピンクは!?」

 

 心愛が言う。

 

「ティラミスピンクって何……?」

「ティラミスピンク、略してティッピー!」

「ティッピーってのは似合わなさそうだな」

「だって。ハグリッドさん直々の却下」

「うぇぇぇぇぇ!?」

 

 心愛脱落。

 

「じゃ、じゃあ、ゴドリックっていうのは! ヒッポグリフってグリフォンの子供ですし、グリフォンとグリフィンドール繋がりということで!」

「あ、それは却下。ハッフルパフ生としてそれを認めるのはちょっとな」

「えぇ……」

 

 ハッフルパフ生である直に却下され、グリフィンドール生薫子、脱落。

 

「私、ティラミスピンクっていうの気に入ったんだけど……却下されちゃったからなあ」

 

 萌子が言う。

 

「これ以上の案は無いよ〜」

「じゃあ、萌子は脱落ってことでいい?」

「うん」

 

 萌子、脱落。

 

《Turn END》

 

 

「じゃあ、バックビークで決まりね!? そうなのよね!?」

「審査委員長はハグリッドさんだからな」

「やったあ!! これで永遠にもふもふ出来る権利を手に入れたわ!!」

「ルキちゃんズルいー!!」

 

 別にそんな権利を掛けて戦ったわけでは無いのだが――それは兎も角。

 

「ふふ、宜しくねー、バックビーク! これから毎日遊びに来るわね!!」

「ついでに私も来るからね! 名付け親化は失敗したけど、もふもふしにくるからね!!」

「クゥー」

 

 一人ぼっちの幼獣は、名を得、最早一人では無い。

 ヒッポグリフの幼獣――バックビーク。名付け親、色川琉姫。出会う筈の無かった二者――数奇なる運命に導かれた一匹と一人の行き着く先とは――。

 琉姫の杖が、濃紺色の光を帯びた。それに琉姫は気付かない。

 雨音が止んだ。

 

 




 遅れてすみませんでした!!!_:(´ཀ`」 ∠):_

 いやあ、色々面倒な事情により中々書けなくて……まさか二回も予告を無視する羽目になるとは思いませんでしたよ! すみません!!
 やっぱり更新曜日とか決めた方がいいんでしょうかね……どうしようか。

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