ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

4 / 77
 絵本風のタイトルって結構難しいです。変に難しい言葉とか使えませんからね。
 それはそれとして、今回はきんモザが舞台です。第1話と文字数が大幅に減っておりますが、どうぞ。

 8/17 : 設定改正に伴い、一部文章を変更。
 5/29 : 設定改正に伴い、一部文章を変更。


金色兎と暗黒門 その2

【第2話】

 

まほうのとびらをひらくとき

 

 

[007] 暗黒門:2

 

 雲一つ無い晴れ渡った空。朝日がその地を照らし出す頃。それは現れた。

 ぽっかりと開かれた空虚な暗闇は陽の光を遮り、暗黒の地を作り出す。太陽のようにきらきらと輝く金髪を思わせる黄金の兎は、酷く不釣り合いな闇の中に着地する。

 兎は駆け出した。次なる招待状の配達先は再び7人だ。急がねば。

 意思を持たぬ兎は、主の意思に従って焦り、街を駆け抜ける。

 漆黒の闇を従えて。

 

 

[008] あたらしい日

 

「シノ! 朝だよ、起きて!」

 

 朝。窓から陽の光が差し込み、部屋を金色に染める。ベッドで眠る少女を起こす少女の髪は、この部屋のように眩い程の金髪。陽の光の所為ではなく、もともと彼女の髪は金色なのだ。

 ――【アリス・カータレット】。イギリスから日本へとはるばるやって来た留学生である。

 

「ん……アリス……ふあぁ……おはようございま……ぐぅ……」

「ちょ!? 駄目だよシノ二度寝しちゃ! 学校遅刻しちゃうよ!?」

 

 一瞬起きたものの、二度寝したこのこけしめいた少女は、【大宮忍】。

 アリスは、この忍の家にホームステイしているのだ。ホームステイしている少女が、家主の娘を起こす――何処かで逆の構図を見たような気がするが、それは気の所為であろう。

 

「もう〜! 分かった、後10秒だけだよ! 10秒数えたら起こすからね!」

「すぅ……すぅ……」

「い〜ち! に〜い! さ〜――……ぐぅ……」

 

 起こそうとしておきながら迂闊にも眠るアリス。この後マムに起こされなかったら、間違いなく遅刻していたであろう。

 

「もう〜シノってば! ちゃんと自分で起きなきゃ駄目だよ!」

「すみません……どうも朝は弱くて」

「全くもう!」

「……それ、アリスが言えたこと?」

 

 階段から降りてきたのは忍の姉、勇。眠そうに目を擦りながらツッコミを入れつつ朝食の席に加わる。

 

「おはよう、イサミ! ……どういうこと? ワタシワカンナイ」

「カタコトになってるわよアリス、誤魔化せてないわ」

「で、でも! 私ちゃんと一番に起きたし!」

「でも二度寝したでしょう?」

「うっ……シノ! 助けて!」

「えぇ!? 無理ですよ! お姉ちゃんには絶対勝てませんよ!」

「そ、そんな……!」

「さて、アリス? 反論は?」

「ぐうの音もでないよ……」

「そういえば、ぐうの音も出ないの『ぐう』ってなんなんでしょう?」

「さあ? アリスなら知ってるんじゃないの?」

「なんで日本人が知らないのにイギリス人の私が知ってると思うの!?」

「だってアリスですよ! 金髪パワーで答えをすぐに見つけ出せる筈ですし!」

「金髪パワーって何!? 私の髪にそんな力無いよ!」

「え……無いんですか……?」

「本気であると思ってたの……?」

「思ってました……」

「そうなんだ……」

「妹ながら正気を疑うわ」

 

 こんなかんじに、朝食を済ませ、支度を済ませ、家を出る。何時ものように。

 ここまでは。

 

 

[009] まほうのとびらをひらくとき

 

 大宮忍は金髪が好きである。好きというよりは愛しているといってもいい程、金髪に夢中になる。その金髪好きの付随か、はたまた金髪好きが付随かは知らないが、ヨーロッパを全体的に好み、将来の夢は通訳者と言う程の異国好きである。

 金髪を好む忍にとって、その獣は必要以上に美しいものに思えたのだろう。黄金の毛並みを持った、かの兎は。

 何時ものように家を出た彼女達の目の前に居たのは、兎であった。美しい金色に輝く兎。

 野生の兎がこんな所にいる筈が無い。木組みの家と石畳の街ならば兎も角、ここは何の変哲も無い、至って普通の街である。目に入ってきた地味に異常な光景に、一瞬彼女達の思考は止まった。

 そして、動き出す。

 

「き、金色の……兎……!!」

「なんで兎がいるの……?」

 

 兎がいる事に疑問を抱くアリスと、黄金の兎に興奮する忍。性質の違いがよく分かる。

 

「ア、アリス! こ、ここは何処ですか!? イギリスですか!?」

「落ち着いてシノ! ここはイギリスじゃないし、イギリスに金色の兎は居ないよ! でも、なんで兎が……?」

「ひゃははっ! 金色の兎!! 捕まえましょうアリス!!」

 

 兎に向かって全力疾走する忍。勿論兎は逃げる。

 

「ま、待ってよシノ!」

 

 アリスもそれを追う。しかしながら遅い。

 

「ふふふ、待って下さい兎さーん!!」

「待ってよシノー!」

 

 街を駆け抜ける二人の少女と一匹の兎。学校とは見事に真逆の方向であり、もう遅刻の運命からは逃れられないだろう。そして、これから彼女達を待ち受ける運命からも。

 既に周囲の街並みは消え、鬱蒼とした森になっていた。それに気付くことなく二人は追い続ける。

 兎は足を止めた。

 忍は兎を抱き上げる。

 

「はははは!! 金色の兎さん! 捕まえました! 見て下さいアリス!!」

「はあ……はあ……シノ……学校……――あれ? ここは……何処?」

「え? ――あら? 私達、いつの間に森に入ったのでしょう? というか、何で森が? この辺に森なんてありましたっけ……?」

「シノ……なんかおかしいよ! 戻ろうよ!」

「あ、待って下さい、それなら、兎さんも一緒に――」

 

 忍は手元を見る。

 そこに居たのは眩い光を放つ兎では無く、光さえ差さぬ程の暗闇があった。

 

「え?」

 

 瞬間。ほんの瞬き程の一瞬。闇は一瞬で増大し、忍を呑み込んだ。

 

「……え?」

 

 それもまた一瞬のことだった。闇は即座にアリスの目の前へ移動し、叫び声さえ上げさせる暇も無く、アリスを呑み込んだ。

 後に残されたのは、肥大化した暗闇と、金色の獣だけであった。

 

 

[010] 宵闇は陽と月を食らう

 

「しのとアリス、遅いわね」

 

 いつもの待ち合わせ場所の時計の下で、一人ぼやく少女。彼女は【小路綾】。忍の幼馴染みだ。

 

「待ち合わせの時間に遅れるのはいつもの事だけれど……それにしても遅すぎるわ! ……陽子とカレンは兎も角……何かあったのかしら」

 

 待ち合わせ10分前辺りで来ていた彼女は時間になってから更に10分程度の待ち惚けを食らっていた。時計の影に居るものの、暑い。そろそろ限界が近付いていた。

 

「これは……先に行った方がいいかもしれないわ……いやでも、ニアミスは嫌だし……」

 

 独り言を言う綾。10分前から割とこんなかんじである。

 その時である。

 

「やっほー、綾!」

 

 気付くと目の前に立っていたのは、茶髪で活発そうな少女。【猪熊陽子】である。彼女もまた忍と綾の幼馴染みである。

 

「待ったー?」

「待ったー? じゃないわよ! もう! 陽子ってば来るの遅すぎよ! 何やってたの!?」

「うわっ! そんな怒るなよー、ちょっと寝坊しただけじゃないかー」

「そのちょっとでどれだけの犠牲が出るか分かってるの!? もう! 陽子のバカ!」

 

 兎が現れた。

 

「いやそこまで言わんでも! っていうか犠牲ってなんだ犠牲って!」

「え!? そ、それは、あれよ! 時間よ! 待ってる時間が勿体無いわ!」

「おい、今考えたろ」

「いいえ! ずっと前から考えてたわよ! そうね! 18年くらい前かしら!?」

「私達生まれてねえよ!?」

「じゃあ小学生くらいの時から!」

「じゃあって何だよ! 小学生の時私達まだ会ってない!」

「もうっ! 陽子のバカ!」

 

 闇が近付いてくる。

 

「理不尽過ぎる!!」

「全くもう!」

「いや、全くもうとか言われても――っていうか、あれ? しのとアリスとカレンはまだ来てないの?」

「え? え、ええ。そうなのよ、心配だわ。何かあったんじゃないかしら……」

「何だこの扱いの差」

 

 陽子は気付かない。

 

「ふん、陽子なんて、そこの暗闇に呑み込まれてしまえばいいんだわ!――え? 暗闇?」

「酷えよ! 私そこまで言われる程悪い事してないのに! ――え? そこの暗闇?」

 

 陽子が振り向く。それが合図であったかのように、その闇の塊は一直線に陽子と綾を連続して呑み込んだ。何の物音も無く。

 闇の主には演出に拘る余裕は無い。一瞬で、呆気ない出来事であった。

 

 

[011] あやつりにんぎょう

 

「あはは、待つデース!」

「待ってよカレンちゃん!」

 

 綾と陽子が闇に呑まれた頃、5人の少女達の最後の一人、金髪少女、九条カレンが待ち合わせに遅れてまで何をしていたかというと、道を歩いているときに偶然見つけた珍しい生き物を追いかけていた。珍しい生き物というのは、当然、先程から暗躍する金色の兎。

 そんなカレンを追うのは、カレンのクラスメートである【松原穂乃花】。彼女もまた忍と同じく、金髪を愛する少女である。

 

「ホノカ! 急ぐデス! 兎が行っちゃいマース!」

「ま、待ってよ! 金色の兎なんて、素敵だけれど普通じゃないよ! きっと触れちゃいけないかんじのやつだよ!」

「Oh!! Japanese monsterデスね!? 大丈夫! ほら、この通り、時計着けてマス!」

「そういう問題じゃないよカレンちゃん! ていうかアレフィクションだから! それにそれ某ウォッチじゃないよね!?」

「◯◯ッ◯スのデス」

「私の時計との格差!」(やっぱりお嬢様なんだなカレンちゃん……お嬢様……カレンちゃんには、あんな綺麗な兎さんが似合うかも……カレンちゃんの為に捕まえて……いや、やっぱり駄目だよ! いくら綺麗だからって、よく分からないものに触ると、きっと障りがあるよ〜! 駄目! お嬢様オーラに負けちゃ駄目よ穂乃花! ここはしっかり言わないと!)

「どうしたデス?」

「カレンちゃん! やっぱり――」

worldworldworldworldworldworldworldworld

 

worldworldworldworldworldworldworldworld

 美しい金色の兎は立ち止まり、二人の少女を見据えた。

カレン「ホノカ! 捕まえるデス! ホノカはそっちから!」

穂乃花「うん、分かった!」

 カレンは右へ、穂乃花は左へ。

 ゆっくりと近付く。息はピッタリだ。

 金色の兎は暗黒門の中に飛び込んだ。カレンと穂乃花は暗黒門に近付くのを止めない。

 ゆっくりと、近付く。

 静かに、近付く。

 そして、次の瞬間!

カレン「今デス、ホノカ!!」

穂乃花「行くよ、カレンちゃん!!」

カレン・穂乃花「「えい!」」

 二人は暗黒門に飛び込んだ。

worldworldworldworldworldworldworldworld

 

worldworldworldworldworldworldworldworld

 

 

[012] 暗黒門:2 END

 

 兎は飛び跳ね、闇の中へと消えた。時空さえ超越するかの魔術は未だその目的を見せず、ひたすらに闇の中を駆け続ける。

 全ては世界を守るため。

 狭間の邪神を殺めるため。

 闇の担い手は、次なる世界へと駆ける――三つ目は既に手を打った。四つ目は保険のために、さらなる過去へと誘わなければ。

 焦りは加速し、蝕むことを止めない。愚かなる魔女が目覚める前に、早く――。

 




 私はきんモザが大好きです(強調)
 日暮ちゃんも正直出したかったのですが、現時点でいまいちキャラを掴めていないので、今回は見送らせて頂きました。それ以外の意図はありません。
 場合によっては、強引に出すかもしれませんが、そうなるとキャラバランスがね……。
追記: 結 局 出 し ま し た 。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。