ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせいたしました。第37話です。


※告知事項※

・少々長いです。ご注意を。
・一部文章改訂(2/15)
・他、何かあればここに書きます。


小さなヒッポグリフ その1

【第37話】

 

 

たんけん

 

 

[174]

 

「……今、何月かしら」

 

 琉姫が温かいポタージュを飲みながら言った。

 

「十一月ね」

 

 悠里が温かい味噌汁を飲みながら言う。

 

「……十一月の癖にこの寒さはおかしいんじゃないかしら」

「ここイギリスよ」

「……秋って、もう少し過ごしやすいものじゃないの?」

「異国だし、しょうがないわね」

「…………」

 

 琉姫はポタージュを啜った。

 

 今日は日曜日。授業が無く、ゆったりと過ごすことが出来た。

 大広間で朝飯を食べる琉姫、悠里、直、萌子。大広間は暖かく、この寒い中大広間に残る生徒は多かった。

 

「寒い日は、こうして暖かい場所にいるに限るね……」

「そうだな……」

 

 萌子と直はミルクティーを飲んだ。空になる心配は無い。空になればすぐに補充されるからだ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 バァァン!!

 

 大広間のドアが突如開かれた。

 

「みんな! 霜が降りてる! 遊びに行こうよー!」

 

 大声で静かな空間を破壊したのは小夢。

 

「「「「…………」」」」

 

「あーそーぼー!」

 

 沈黙を保つ四人に近付いてくる小夢。

 

「……他の人に迷惑よ。静かにしないと」

「あっ、はーい」

 

 嗜める悠里。

 

「ねー、遊ぼう? 折角のお休みなのにー」

「折角の休みだからこそゆっくりしたいんだよ」

 

 小夢と直。この差はいったい。

 

 以下、会話パート。

 

「この寒い日にわざわざ外に出る必要あるか? 風邪引いたらどうするんだ」

「湖にでも飛び込まない限り風邪なんて引かないよー」

「そう言えば柴さん、頭から冷水被ったことあるよね」

「それ今関係ないだろ!?」

「その話聞かせて聞かせてー!」

 

「頭から冷水……し、下着は透けたの!?」

「う……うるさい!! あれは若気の至りだ! っていうか琉姫お前もう隠す気ねえな!?」

「な、何よ! 別に性癖とかじゃないから! 漫画のネタに使うだけだから!」

「じゃあ自分で冷水頭に掛けろよ!」

「直ちゃんの頭に?」

「お前のだ!!」

 

「よし、じゃあ間をとってみんなで湖に突っ込もう!」

「何の間だよ! 頭どうかしてるぞ!!」

 

「馬鹿は風邪引かない、なんて言うわよね」

「何が言いたいんだ悠里!?」

 

 必死にボケを捌いていく直。悲しいかな、今この場にいるツッコミ役は直しかいない。せめて陽子か香奈のどちらかが欲しかったところである。

 

 ……他の生徒たちが五月蝿そうに見ている。静かな場所が急に五月蝿くなるというのは実に不愉快なものだ。誰だってそう思う筈。

 

「はぁ……はぁ……あーもう、ツッコんだ所為で暖まってきたぞくそう」

「よし、じゃあ一名連行ー」

「おい! 連行って何だよ!?」

 

「もー! なんでみんなそんなに外行きたくないの!? グリフィンドールなんてみんな外出て遊んでるんだよ!? 特に若葉ちゃんとか由紀ちゃんとかカレンちゃんとか!!」

「寒いからだよ!!」

「あーあ! もう、じゃあ私だけで楽しんできちゃうもんねー!」

「楽しめるんだったらそうしろよ」

「…………」

 

 小夢は大広間から出て行こうと、扉を開けた――が、そこで小さく一言。

 

「…………兎さんの大群が居る場所見つけたんだけどなー」

 

「!!!?!?」

 

 琉姫が立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっと小夢ちゃん!? その話詳しく――」

「あでぃおす!」

 

 小夢は出て行った。

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 琉姫はポタージュを一気飲みすると、

 

「ご馳走様!!」

 

 すぐさま大広間を飛び出した。

 

「「「…………」」」

 

 再び沈黙が戻ってきた。

 

「……若葉の奴も外行ってるのか」

 

 直が呟いた。

 

「風邪引かなきゃいいけど……なんか心配だね」

 

 と、萌子。

 

「ああ……明日風邪引いてそうだな……」

「うん……」

 

 二人はミルクティーを飲んだ。

 

「「「…………」」」

 

 …………。

 

 ……。

 

 …。

 

 バァァン!!

 

 大広間のドアが勢いよく開き、小夢と琉姫が入ってきた。

 

「み、みんな! 兎さん! 兎さんの大群! 動物さんが一杯! テーマパークよ! 行きましょう!!」

「取り込まれたか……」

 

 静寂が再び破壊された。次に壊したのは琉姫。

 

「ウサギと言えばお姉ちゃん!」

「学園生活部として、動物小屋の調査だー!」

 

 更に顔を出したのは心愛と由紀。彼女たちもまた取り込まれたのだ。後ろには胡桃と美紀、薫子の姿も見える。

 

「くっ……ゆきちゃんとこゆめちゃんのコンビ……るっ……しょうがないわね、私も行くわ」

「なっ!?」

「何だか楽しそうだし、私も行こうかな」

「えっ!?」

 

 悠里と萌子が飲み物を飲み干した。

 

「「ご馳走様」」

「マジか……ったく」

 

 直もミルクティーを飲み干す。

 

「ご馳走様!」

 

 悠里、萌子、直も大広間から出て行った。大広間に静寂が戻ってきたのである。めでたしめでたし。

 

 と言うわけで、小夢、琉姫、心愛、由紀、胡桃、美紀、悠里、薫子、萌子、直、総勢10名のチーム――通称、ラビットガールズ(学園生活部かプチラビッツか一悶着があったのだが、なんだかんだあった末に悠里の一声でラビットガールズになった)が、ここに結成されたのであった。

 

「ふふふ……金髪同盟とラビットガールズの掛け持ち……なんか私スパイみたいだね」

「敵中でそんなこと言う人にスパイが務まると思えないんだけど……」

 

 小夢にツッコむ美紀。ツッコミ役が一人増えた。ボケもまた圧倒的に増えたが……。

 

 

[175]

 

「あれだよ……ほら、あの人」

「掃除してる人?」

「おっきいよね」

 

 ラビットガールズは今クィディッチ競技場に来ている。競技場の影に隠れる彼女たちが見ているのは、箒の霜取りをしている軽く2m以上はありそうな大男。丈長のモールスキン・コートに身を包み、大きな手袋に、同じく馬鹿でかいブーツを履いている。ルビウス・ハグリッドである。

「あの人がどうかしたの?」

 

 萌子が聞く。

 

「ふっふっふ、まあまあちょっと待って待って。取り敢えずあの人を尾行していこう! そうすれば、きっと真相が分かるよ!」

 

 小夢が言う。

 

「ん? 真相? あれ? ウサギがいるんじゃないの?」

 

 心愛が言う。

 

「ああ、あれ? えへへー……遊んで欲しかったんだもん!!」

「「嘘なの!?」」

 

 驚愕する琉姫と心愛。特に心愛のダメージが圧倒的にデカい。

 

「みんな寒い寒いって遊んでくれないし……で、しょうがないから外に出たら、なんとあの人が居たではないか! よく考えたら私たちあの人のこと何にも知らないよね? だから、付いて行ったらなんか面白そうかなーって」

「こ、こゆめちゃん……それならそうと早く言ってくれれば、私なんかで良ければいつでも付いて行ったのに……!」

「か、かおすちゃん……! そうだよね! ごめんかおすちゃん! 私たち親友だったのに〜っ!!」

「私こそ、気付いてあげられなくて申し訳ありませんでした〜っ!!」

 

 涙を目に浮かべながら抱き合う小夢と薫子。

 

「か、薫子ちゃん……お、お姉ちゃんよりそっちの方が良いの……?」

 

 悔し涙を浮かべる心愛と、

 

「か、かおすちゃんとこゆめちゃん……尊いっ……いい……ああ、心が洗われる……」

 

 目を輝かせながら注視する琉姫。どっちもどっちだ。

 

『『『…………』』』

 

 反応に困る六人。あの由紀までもが困っているのだから相当である。

 

「……あの、尾行するんじゃないの?」

 

 美紀が言う。

 

「勿論! 尾行するに決まってるよー!」

 

 小夢が言う。

 

「あの人、行っちゃうけど」

「なっ!!!?」

 

 慌てて振り返る――すると、ちょうど大男が仕事を終え帰ろうとしていた。

 

「び、尾行ー! 尾行開始ー!」

「尾行開始ですよ!」

 

 小夢と薫子が宣言した。

 

 ――後を尾けること約15分。ついに目的地がその姿を現した。

 1〜3号温室近くにある小さな丘。そのてっぺんにあったのは大きな小屋だった。大きいのに小屋というのは変な話だが、とにかく小屋である。石や煉瓦を家の形に積み上げ、屋根代わりに藁が掛かっている。如何にも崩れそうではあるが……。

 

「まあ、魔法でなんとかするんだろうな」

「もう大抵のことは魔法で説明出来ますね」

「本当、もっと早く魔法を使えてりゃあ良かったのにな」

「……そうですね」

 

 隠れながら胡桃と美紀が言う。ハグリッドは何も気付かぬまま小屋の中に入っていった。

 

 そう、実際これは魔法によって積み上げられ、魔法によって接着された小屋――というか、そもそも魔法界において手作業で家を作るという例がそもそも無い。ほぼ100パーセント魔法頼りだ。

 だが、これは家主の魔法ではない。これを作ったのはあくまでダンブルドアである。ハグリッドはとある事情から魔法を使うことを禁じられているのだ。が、それはまたおいおい。

 

「どうする? 潜入する?」

 

 小夢が言う。

 

「わ、私はいつでも準備オーケーです!」

 

 薫子が言う。

 

「ちょっと待って! そ、その前にあのカボチャ畑見に行かない!?」

 

 琉姫は小屋前方を指差した。

 小屋前方に広がるのはカボチャ畑。それもただのカボチャ畑では無い。植えてあるカボチャが途方もなく大きいのだ。これはアトランティック・ジャイアントと呼ばれる種で、あのハロウィーンで使われたカボチャそのものである。

 

「メルヘンよ! メルヘンの世界! ああ、綾ちゃんも連れてきてあげたかったわ!!」

「あんなに大きいカボチャ、どうやったら作れるのかしら……あれだけの大きさがあれば一つでも最低一日は確実にもつわね……」

 

 悠里が呟いた。

 

「ようし、じゃあ収穫しよう!」

 

 由紀が言う。

 

「駄目だ」

「あうち」

 

 胡桃のチョップが由紀に刺さる。

 

「もう、由紀ちゃんってば駄目だよ? こういう場合はちゃんと許可取ってからにしないと――」

 

 相変わらず年上ぶる心愛(実際は由紀の方が歳上……歳上? じゃあ何故同じ

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 心愛と由紀は同じ歳である。この話は終わった。

 

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 相変わらず歳上ぶる心愛。だが、そんな心愛の目に入り込んできたのは、小さな白い生物。耳が長く、目が赤い。こちらを一瞥すると、その生物は走り去った。

 

「――うさぎだぁぁぁぁ!! い、行くよ琉姫ちゃん!!」

「ええ!! 是が非でも捕まえてやるわ!!」

「「もふもふーーー!!!」」

 

「凄いな、自分がさっき言ったことをもう忘れてる」

「おめでたい人たちだね」

 

 と、直と美紀。心愛と琉姫の耳にはその言葉は届かず、二人は脱兎の如く駆け抜ける。

 

「もう、静かにー! バレちゃったらどうするのー!」

 

 小夢も叫ぶ。静かにと言っておきながらこれである。間違いなく彼女たちは尾行に向いていない。

 

「へーきへーき! ちょっともふもふするだけだからね!」

「大丈夫大丈夫! 少しもふもふさせてもらうだけよ!」

 

 心愛と琉姫は兎を追って、そのまま森の中に走り去った。

 

「……あれ大丈夫なんですかね」

「森の中で迷子になったら大変よね」

「じゃ、じゃあ連れ戻さないとですよ!?」

「ようし、ここは由紀先輩に任せなさ

「じゃあ私が連れて帰ってくるよ」

「わ、私も

「ゆきちゃんはここでお留守番よ」

「えー……」

 

 由紀は不満気な顔。

 

「大丈夫だよー、私迷子にならないし……ほ、ほら、車乗った時とか私ナビゲーター役だったし」

「え? そうなんですか? 意外ですね」

「あれは地図があったからだろ? ここには地図もないし……」

「でも私ホグワーツで迷ったことないよ! 寧ろくるみちゃんの方が迷うんじゃない〜? この間ずっと階段探してるの見てたよ〜」

「なっ……み、見てたんなら助けろよ!?」

「ねーねー、だからお願い! 私も行きたいー!」

「……でも」

「……確かに、助けに行って迷ってしまえば元も子もないですし、土地勘のある人も一緒に行った方が良い……気もします」

 

 美紀が言う。

 

「むう……イマイチ私の土地勘信頼されてないっぽいな」

「万が一の為です」

「まあ……実際この中で一番迷わなさそうなのは由紀だもんな」

「おっ!? 来た!? 許可出る!?」

 

 目を輝かせる由紀。

 

「……でも、美紀さん」

「……由紀先輩の事が心配なのは分かりますが、やっぱり……――危なくなっても胡桃先輩が居ますし、大丈夫ですよ」

「…………」

「ですよね、胡桃先輩?」

「ま、まあなー。ふふん、私の愛ショベルにかかれば、どんな化け物もイチコロだぜ!!」

 

 乗せられた胡桃。

 

 だが、それでも悠里は不満気な顔を浮かべる。

 

「…………」

「りーさん、私大丈夫だから――ね?」

「…………」

「悠里先輩」

「…………分かったわ。でも、無茶しちゃダメよ。絶対に胡桃の側を離れないでね」

「うん!」

「由紀の監視なら任せろー」

 

 漸く折れた悠里。胡桃はショベルを肩に乗せる。

 

「じゃ、行って参ります!」

「行ってきまーす!」

 

 由紀と胡桃は森の中へ入って行った。

 

 

[176]

 

「……やっぱり、なんかあいつら隠してるよな」

 

 先程の四人の会話を見ながら直が呟いた。

 

「なんか?」

 

 と、薫子。

 

「ああ。どっか殺伐としてるというか……何て言ったらいいんだろうな、これ」

「はあ……?」

 

 しっくりこない様子の薫子。小夢も同じく、首を傾げる。

 

「そうかなー? まあ、やけに由紀ちゃんを心配し過ぎてるように見えるけど……気の所為じゃない?」

「そうか……まあ、そうだといいんだけどな」

 

 由紀と胡桃を見送る悠里と美紀の後ろ姿を見ながら直は言う。

 

「…………」

「…………」

「……よし!」

 

 小夢は立ち上がった。

 

「いつまでもこうしていても仕方ないよ! 潜入だ! 小屋に入るよー!」

「急だな」

「まあ、いい加減入らないと何しに来たか本当分かりませんしね」

「りーちゃん、みっきー! そろそろ突撃するよ!」

「みっきー!?」

 

 美紀が言う。

 

「美紀ちゃんだからみっきーだよ!」

「い、いやそれは分かってるけども! みっきーはやめない!? 普通に美紀で良い!!」

「えー? みっきーでいいよー可愛いし」

「可愛いかもしれないけど! けども!」

「大丈夫大丈夫、カタカナじゃないから」

「大丈夫なのかな……?」

「それにこの話、どっちかっていうとU◯J寄りだから! 元ネタ的に!」

「も、元ネタとか言うのは危険すぎですよ小夢ちゃん!」

「余計マズいよね!?」

 

 危険な会話だった。色々な意味で。

 

「はいはい、メタ発言はそれくらいにしましょう。メタ発言はともすれば痛い子と見られる可能性が高いから」

「メタ発言とか言ってる時点でお前も相当だがな」

 

 メタ会話終了。

 

「さあ、入るよ!!」

 

 小夢は決断的にドアノブに手を掛けた。

 

「たのもー!!」

 

 ドアを開けた。

 

「……あれ? 誰もいない」

 

 小屋の中は外見よりも広く(いつもの事なのでもう彼女たちは気にしていない)、色々な物が乱雑に置かれている。天井には小さなカボチャをくり抜いて作ったランタンが幾つかぶら下げられ、暖かな光を放っている。家具は全てが木製で、荒削りなところを見ると手作業で作ったのかもしれない。

 

「あれー? 確かに入ったのを見た筈なんだけどなー」

 

 小屋の中に入り、辺りを見回す。地下室や二階がある訳でもない。

 

「おじゃまします……散らかり放題ですね」

「そうねえ……片付けが苦手なのかしら」

 

 美紀と悠里。

 

「……あ、見てみろ」

 

 直が指を指した。指し示す先にあったのは裏口。さっき開いたばかりなのか、ゆらゆらと揺れている。

 

「ちょ、ちょうど入れ違いになったのでしょうか?」

「上手いことそうなったとしか考えられないな」

「おおう……慎重になりすぎたかー」

「慎重……だったかしら」

「少なくとも心愛と由紀先輩は慎重じゃ無かったですね」

 

 五人は取り敢えず、置かれてあった木の椅子に座った。

 

「……まあ、そのうち帰ってくるだろうし、ここで待ってようか」

「何のための尾行……」

 

 

[177]

 

「「もっふもふー!」」

 

 ところ変わってこちら禁じられた森。兎を夢中で抱き回しているのは心愛と琉姫。

 森の中は薄暗く、陰鬱とした雰囲気である。が、彼女たちにはそんな雰囲気など無縁である。

 

「へへへ、もふもふ気持ちいい……はっ、いけない涎が」

「ウサギさんって何でこんなに可愛いのかしら……ウサギさん……ふふふ、森の仲間たちと戯れるウサギさん……ある日ウサギさんは怖いオオカミさんに攫われてあんなことやこんなこと……」

「…………ルキちゃん……」

「はっ!? ごめんなさい!! 本当ごめんなさい!!」

 

 琉姫は土下座した。

 

「い、いいよいいよ、頭上げて……ま、まあ職業病だし、しょうがないよね!」

「うう……」

「職業病かあ……私は別にそういうの無いなあ」

「何かお仕事やってるの?」

「ふふーん、こう見えても喫茶店のアルバイトやってたんだよ! 今はアイスクリーム屋さんでアルバイト!」

「アイスクリーム屋さん? 素敵! 今度食べに行かせて頂くわ!」

「いつでも歓迎だよー! あ、じゃあこんどルキちゃんが描いてる漫画読ませて!」

「え"っ……」

 

 琉姫の笑顔が強張った。

 

「い、いや……それはー、そのー……心愛ちゃんにはまだ早いかなー、って」

「私たち同い年だよ!? それに私お姉ちゃんなんだけど!?」

「同い年なのにお姉ちゃんって……ふふ、ま、まあ、機会があればね」

 

 冷や汗をかきながら琉姫は兎を抱く。

 

(どうしようどうしようどうしようどうしよううううう!! ヤバいヤバい!! アレだけは見られる訳にはいかないわ!! さっすがにあれは……18禁もんよ!! いや、内容は兎も角、いや兎も角でもなんでもないけども!! ペンネーム!! あれだけは知られる訳にはいかない!! あれは本当駄目!! くっ、対抗策を……対抗策を……っ!!)

 

 必死にバレない方法を考える琉姫。幾ら編集部の意向でこうなったとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいしバレたくない。

 

「それにしてもこの感触癖になるな〜」

 

 心愛は兎をもふりながら言う。もふりながらって何だ。

 

「ふふふ……ああ、心がぴょんぴょんしてきた」

「ぴょんぴょんしてきたって……」

「ティッピーを思い出すなー。ティッピーはまさにもふもふの境地だったね……アンゴラウサギってこの辺にはいないのかなあ」

「アンゴラウサギ!? 見たことあるの!?」

「うん。ラビットハウス――働いてた喫茶店の名前だよ――で飼ってたんだ」

「ラビットハウス!? 飼ってた!? 何それ凄い行きたい!!」

「来るものは拒まないよ! 是非来て是非来て! コーヒー一杯につきティッピーを一回もふもふできるよ!」

「三杯でも四杯でも頼むわ!!」

「まいどありー!」

 

 兎をもふもふしながら漫談する心愛と琉姫。最早本来の目的を見失っている……と言いたいところだが、もともと彼女たちは兎がいるという誤情報――実際には嘘から出た真であったが――に釣られてやってきた訳であり、この二人の目的は実質兎を愛でることであった。

 

 しかし、忘れてはいけない。ここは"禁じられた"森であるということを。

 何故禁じられているのか――言うまでもなく、危険な森であるからだ。この森は他の森なんかとは訳が違う。もしも彼女たちがこれ以上森の奥へと向かっていれば、巨大な巣を張り巡らせる『アクロマンチュラ』や、この森を統治する知的生物『ケンタウロス』に狩られていてもおかしくは無かった。

 

 ――ざわり、と木々が揺れた。

 

 撫でられて気持ち良さそうにしている兎――だが、何かに感付いたように一瞬びくりと震えると、突然走り去った。

 

「あっ!」

「ウサギさんが!」

 

 突然の変化に驚く二人――そして、このまま追い掛ける程、彼女たちは愚かではない。特に心愛に関しては、兎を深追いし過ぎた結果こんな状況に置かれている。学習能力がない訳ではない。

 

「いったい――?」

 

 それに、明らかに森の雰囲気ががらりと変わった――空が薄暗くなり、周囲がさらなる暗闇に包まれる。

 

 ――ぽつり。

 

 空から一滴、水が落ちてきた――雨だ。少し遠くでだが、雷も聞こえた。

 山の天気は変わりやすい――ホグワーツは高所にあるため、御多分に洩れず天気がころころ頻繁に変わる。先程までは冬特有の曇り空だったが、晴れてはいた。

 

「うわ、やばっ」

 

 心愛が立ち上がる。琉姫も立ち上がる。

 

「早く帰らないと」

「でも、帰り道が分からないわ」

「おっと!?」

「私たち、完全に迷子よ」

「うぇぇぇぇぇ!!?」

 

 そう、彼女たちはこの位置まで兎を追いかけてがむしゃらに走ってきた。道など覚えてない。

 

「どうしよう……」

「どこか大きな木……」

 

 雨宿りする場所を探そうと、辺りを見回す琉姫――その時である。

 

 ――キィィィィィーーーーッ!!!

 

 得体の知れない嘶きが森中に響いた。

 

「「!!?」」

 

 すぐさま近くにあった木に隠れる――そして、二人は顔を見合わせる。

 

「い、今の何!?」

「わ、分からないわ!!」

「向こうから聞こえたよ!」

「え!? 行くの!?」

「行ってみよう! もしかしたら、傷付いてる動物の声かもしれないし!」

「そ、そうだけどっ……し、慎重にね」

 

 好奇心が勝ると、本当にロクな事がない。

 心愛と琉姫は出来るだけ音を立てないように移動する――地面には異様な銀色の液体が線を作っている。この雨で流されたか。

 進む二人――すると、暗闇で見えにくいが、人影が見えた。

 

「だ、誰かな……」

「ハグリッドさん……かしら……?」

 

 にじり寄っていく二人――ここで引き返さなかったのは彼女たち痛恨のミスであった。

 

 ゆらり、と、影がこちらを向いた――ように見えた。

 

「「!!!」」

 

 固まる二人――人影は二人に近付いて来る。

 

「ル、ルキちゃんっ」

「こ、心愛ちゃん……」

 

 段々姿がはっきりしてきた。男だ――だが、男はローブを目元まで深く被っており、表情がまるで窺い知れない。依然として、正体不明。

 

 男は、杖を取り出した。

 

「「っ!!?」」

 

 ――殺される。

 

 本能的に二人はそう思った――そして、すぐさま体を180度回転させ、逃げ出す――。

 

「 ―――――― ラ 」

 

 雨音によって男の声が掻き消される――二人逃げ出そうとした二人の間を切り裂くように、禍々しい緑色の閃光が通過した。

 

「「ひっ――!!?」」

 

 雷鳴が轟いた。光が暗闇を照らす。一瞬見えた男の目は、まるでこの世の物では無いかのような紅い目をしていた。

 

 再び男が杖を振り上げる――二人は咄嗟に目を瞑った。

 

 その時である。

 

「おりゃああぁぁぁぁ!!!」

「!!」

 

 男の背後から少女の声。ショベルを構えた少女は男に襲いかかった――咄嗟に男は身を引くと、そのまま逃げ出した。

 

「あ、おい! 逃げんなー!!」

 

 ショベルを構えた少女は逃げ去る背中に向かって叫ぶ――恵飛須沢胡桃である。

 

「く、くるみちゃんどうしたの!? 急に叫んで走り出すからびっくりした……って、ここあちゃんにるきちゃん!」

 

 続けて現れたのは由紀。

 

「何だったんだありゃあ……おい、大丈夫か?」

「「…………っ!!」」

 

 安心感からか――二人の目から涙が溢れる。そのまま琉姫は胡桃に、心愛は由紀に抱き着いた。

 

「えぇ!? な、何があったの!?」

 

 困惑する由紀。

 

「うえええええん!! 怖かったよ由紀ちゃぁぁぁぁん!!!」

 

 号泣する心愛。姉の威厳など無い(そもそも姉じゃない)。

 

「怖かったぁぁぁぁぁ!! もうこの森はこりごりよぉぉぉぉぉ!!!」

「え、えぇ……」

 

 号泣する琉姫。どうすればいいか分からず、取り敢えず琉姫の頭を撫でる胡桃。

 

「よ、よしよし……ん」

 

 胡桃が何かを見つけた。

 

「なんだ……あれ」

 

 胡桃が見つけたのは、得体の知れない馬のような生物だった。泥で汚れた純白の毛並みに、長い角が一本額から生えている。首筋は切り裂かれ、そこから銀色の液体が流れ出していた。血のようだ。

 

 何てことはない、生き物の死体――だが、目を背けずにはいられなかった。胡桃自身にも何故かは分からない。死体程度なら嫌という程、慣れてしまうほど見てきた彼女であるが――その生物の死体は、余りにも正視できないほどに、哀しみを感じずにはいられない姿だった。

 

 ――この生物は一角獣(ユニコーン)。純白かつ純潔、清廉高潔なる生命である。

 

「っ……よし、帰るぞ二人とも――ゆき、帰り道のナビゲート、頼むわ」

「ら、らじゃ!」

「ほら、二人とも立て。帰るぞ」

「う、うん」

「死ぬかと思った……」

 

 琉姫と心愛はゆっくりと立ち上がる。まだ恐怖が抜けておらず、顔は蒼白なまま。……見ようによっては自業自得なのだが。

 それを見た胡桃はショベルを再び構え直した。

 

「ようし、じゃあ私に付いてきてー! 心配なんて何もないよ! くるみちゃんもめぐねえも付いてるからね!」

 

 意気揚々と歩き出す由紀。この状況でここまで高いテンションを維持できるというのは、ある意味凄いことではなかろうか。

 

 四人は歩き出す――森を抜けるまで、四人は何者にも遭遇することは無かった。

 

 雨は、まだ止まない。

 

 




 申し訳ございませんでした!! 前回更新から散々遅れた挙句に更新予告さえも守らない結果となり……不甲斐ないばかりです。

 さて、そんな訳でこれからは更新頻度がランダムになります。少なくとも週一は更新したいところですが、それも出来るかどうか……まあ、気長にお待ち下さい。エタる気は御座いません故。

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