ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしました。前回の続きです。


※告知事項※

・何かあれば書きます。


衝撃のハロウィーン その2

【第36話】

ハロウィーンの怪物

  〜金髪同盟第一任務〜

 

 

[169]

 

「ト、トロールだって!?」「何でトロールが学校に!?」「トロール何で!?」「見間違えただけじゃないの?」「クィレルのことだからな」「いや、いくらクィレルでも」「怖い!」「怖い!」「やるしかない」「お前には無理だ」「本当なんでトロールが入ってきてるんだよ!!」「学校の警備はどうなってるんだ!」「アズカバンを見習えー!」「吸魂鬼?」「嫌よ! あんなのが学校警備し出したら、それこそ酷いことになるわよ!」

 

「 静 ま れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ い ! ! !」

 

 クィレルが齎した報せは一瞬で生徒たちの間に波紋を起こした。トロールといえば凶暴・狂暴・粗暴で知られる暴力の塊みたいな魔法生物。そんなものがホグワーツに侵入したのだ、狼狽えぬ訳がない。

 

 そう、他ならぬホグワーツにだ。ホグワーツと言えば魔法銀行グリンゴッツに並び、イギリスで最も安全な場所と称される建造物だ。そんな建物に、よりにもよって知性も何もあったものではないトロールが侵入? 悪過ぎる冗談だ。

 

 口々に喋る生徒たち。混乱の最中にある彼等彼女等を一瞬で鎮めたのはホグワーツ校長である、アルバス・ダンブルドア。

 

「監督生よ!! すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように!!」

 

 ダンブルドアの厳格そのものの声が大広間中に響く。勿論、これも魔法である。

 

「よおし!! さあ!! みんな僕に、"監督生"のこの僕、パーシー・ウィーズリーに着いて来るんだ!! この僕の言う通りにしていればトロールなんて遅るるに足らず!! さあ!! 僕の後ろについて離れないで!! おい……おい!! 道を開けろ!! 僕は監督生だぞ!! "監 督 生"!! さあ、行くよ!! 着いて来るんだ!!」

 

 まさに水を得た魚である。双子のウィーズリーはこの滑稽極まる光景及び言動を、寿命が尽きるその瞬間まで忘れなかったという。

 

「シノ! 早く行こう!」

「は、はい! ちょっと待って、マントが足に絡まって……!」

「なんでそんなに大きく作ったの!?」

「だって、毛を全部使って作れって言われたので……」

 

 そう、とにかく大きい。被せれば人が3、4人入りそうな程度には大きい。

 

 皆足早に大広間から出て行く。我先にと出て行く。当然、忍たちも出て行こうとする。

 

「……カレンちゃん」

 

 だが、穂乃花は違った。

 

「カレンちゃん……そうだ、カレンちゃん!! カレンちゃん、まだこの事知らないよ!!」

「「っ!!」」

 

 遥か遠くで、破壊音が聞こえた気がした。

 

 

[170]

 

「まだ食べ物残ってマスかねー」

 

 総員退避のこの緊急時に城内をのんびりと歩く少女が一人。金髪ロングの少女、九条カレンだ。魔女めいた服装――いつものローブ姿ではなく、シノメイドの服である――を着ている。

 

「〜〜〜〜♬」

 

 鼻歌を歌いながらのんびりと歩く。少し遠くでは大混乱の大渋滞が起きているというのに、この温度差である。

 だが、それでも多少音は聞こえるようで、

 

「〜〜〜〜♬……なんか騒がしいデスね」

 

 カレンは呟いた。

 

「もしかしてイベントデスか!? こうしちゃいられないデース!!」

 

 カレンは走り出した。何かが破壊されたような音が聞こえたが、それもパーティーの一環だろうか? だとしたら、何と面白そうなことであろうか!

 

「パーティーの主役と言えば私! 主役が居ないと盛り上がらないデース!!」

 

 黒いマントをはためかせ、角を曲がった――瞬間、視界が土煙によって塞がれた。

 

「!?」

 

 これも、パーティーの一環か? いや、パーティーにしては何かおかしい。何が起きている? 何が――。

 

 理解不能な状況に混乱するカレン。すると、土煙の向こうから唸り声が聞こえた。

 

「な、何――」

 

 再び、何かが壊れるような音がした。さっきよりも、近い。

 

 ――ヤバい。

 

 カレンは元来た道を引き返す――ああ、この判断をもう少し早くにしていれば、今後の展開が幾分かマシになっただろうに。

 

「ぶるるるrrrrrrrrrrァァァアあああァァァぁあ!!!」

 

「ひっ!?」

 

 再び唸り声。カレンはつい振り返ってしまった。

 

 土煙によって霞む視界――その中心に、朧げな影が一つ。

 

「何デス――?」

 

 それは巨大な影であった。大きさは4、5mくらいか――。

 だんだんと、影が明瞭になってくる。近付いて来ているのだ。

 

「What's――?」

 

 縫い付けられたようにそこから動かないカレン。悲しいかな、ここが最後の分岐だった。軽傷で済むか、重症で済むか――。そして、その分岐に彼女は失敗した。

 

 影が動いた。

 

「――!!?」

 

 と、思うと一瞬にして目の前の煙が晴れ、目の前ギリギリを巨大な何かが掠めた。

 

「!!?!?」

 

 カレンの目が大きく見開かれる――目の前に姿を現したのは、影に違わぬ巨大な化け物であった。墓石のように鈍い灰色の肌、岩石の如くゴツゴツした巨体、禿げた頭、短い足に不釣り合いな長い腕には棍棒のようなものが握られている。異臭を放つこの忌まわしき生物こそ、『トロール』である。

 

「ぶrrrrAAAAAAAAAァァァぁああああ!!!!」

 

「ひっ――に、逃げ――」

「ブァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 トロールが棍棒を振り抜く――周囲にあった筈の壁はいとも容易く粉砕され、煙、埃、塵、瓦礫が舞い上がる。そして――。

 

「がっ――!!?」

 

 狙ってか偶然か(絶対に偶然だろう。トロールにそこまでの知能はない)細かい瓦礫の幾つかがカレンにクリーンヒット。脇腹に突き刺さった瓦礫もあれば、腕の肉を抉り取っていった瓦礫もあった。

 

「い、痛――ひっ!?」

 

 眼前に聳えるは大山の如き巨体。振り上げるは大木の如き巨槌。振り下ろされるは、裁きの――

 

「きゃああぁぁaaaahhhhhhh!!!」

 

 ……トロールは知能が低い。知性ある生物の中では最も低いと言っても過言ではない。

 標的は目の鼻の先――しかも怯えとダメージで動けない。そんな標的をどうして逃がすことがあろうか? どうして目測を誤ってちょうど真横に振り下ろしてしまうことがあろうか?

 

 このトロールはそれをやってしまったのだ。

 

 お陰でカレンは潰れずに済んだ。血だまりが出来ることはなかったのだ。命あっての物種、ただ爆風による衝撃によって吹き飛び、壁に体全体がおもいっきりぶつかった、ただのそれだけで済んで幸運だったのだ。

 

「かっ――が――は――」

 

 だが、幸運とは言えど大打撃。魔女とは言えど、か弱き少女。壁が壊れるほどのぶつかった衝撃によって、骨が何本か折れ、砕けた。肺の中の空気が全て吐き出され、口から血が溢れる。

 

「BRRRRRRRRRRRRRRR!!!!?!?」

 

 獲物を逃した事に気付いたトロールが唸り声をあげながら周囲を見回す。この隙に逃げる事が出来れば良かったのだが……残念なことに彼女にはそこまで動けるだけの体力は残されていなかった。

 

「かっ――は――は――」

 

 彼女は最早虫の息。トロールにもう少し知能があれば、間違いなく彼女はここでその命を散らしていただろう。……まあ、もう少し知能があれば、そもそもさっきの一撃で全てが終わっていた筈なのだが。

 

「ぶぁーーーーーーーaーーAaaa」

 

 トロールの小さな眼が、満身創痍の獲物を捉えた。

 

「ぶるるるRRRRRRRrr? rrrrrrrrrrrrrrrrraaaaaA!!!!」

 

 次こそが最後の一撃。流石にこれを外す訳にはいかない。トロールの長い腕が振りかぶられ、巨槌が振り抜かれた。今度の狙いは、正確。

 

 ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン ! ! !

 

 棍棒は正確にカレンのいた場所を打ち抜き、破壊した。壁が完全に決壊し、周囲に煙が舞う。

 

「ブァァァァァァァァァァーーーーッッ!!!」

 

 トロールが、勝利の雄叫びをあげた。

 

 

[171]

 

「カレンちゃん、大丈夫!?」

「カレン!! 早く、早くカレンを医務室に――!!」

「カレン! しっかりして! カレン!!」

 

 満身創痍の九条カレンを取り囲む三人の少女。穂乃花、忍、アリスである。

 

「早く――早くしないと――!!」

「血が止まりません! ぜ、絶対これ大丈夫じゃないですよ!!」

 

 ――何故ここに彼女達が居るのか? 何故カレンが四散せず生きているのか? それを説明するには時間を少し遡らねばなるまい。

 

 数分前。

 

 

《side Honoka , Shinobu & Alice》

 

 

「カレンちゃん、まだこの事知らないよ!!」

「「っ!!」」

 

 忍とアリスの表情が凍る。

 

「カレンちゃん――カレンちゃんを探さないと!!」

「落ち着いてください穂乃花ちゃん!」

 

 今にも流れに逆らい駆け出そうとする穂乃花の手首を忍が掴む。

 

「お、落ち着いてなんかいられないよ!」

「何の計画も無しに動くのはまずいよホノカ! 誰かに見つかったりしたら大変だし――」

「じゃあどうしろっていうの!? トロールっていうのがどんなのか知らないけど、もしこの間見た犬の化け物みたいな奴だったら、カレンちゃん――!!」

「焦る気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい!! 誰かに見つかって、足止めを食らう訳にはいきません!!」

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 穂乃花は汗を拭った。

 

「じゃ、じゃあ――どうするの? まさか、このまま見殺しにするんじゃ――」

 

「「しない」」

 

 アリスは穂乃花の手首を掴み、流れに沿って駆け出す。忍は、羽織っていたマントを外した。忍一人には大きすぎるマント。

 

 三人は大広間を出た――瞬間、彼女たちの姿が消え去った。

 

 

 ――デミガイズ。

 

 極東地域で見られる大人しい魔法生物で、食性は草食。優美な猿のような姿をしており、憂いを含んだ大きな黒い目は、細く長い絹めいた銀色の毛に隠れていることが多い。

 

 デミガイズは非常に珍しい生物である。その理由は、こいつの生態にある。

 前述のようにデミガイズは大人しく、食物連鎖ピラミッドで言えば一次消費者にあたる。故に外敵は多い。自衛の手段が必要である。

 

 デミガイズの自衛方法は他には類を見ないものである。それは、"透明になる"というものだ。

 

 デミガイズは外敵から身を守るために、透明になることが出来る。原理は未だ不明だが、後述の理由から体毛が透明化するための何らかの役割を担っているとされている。

 

 さて、その理由だが、なんとこのデミガイズの毛皮。織ると『透明マント』を作ることが出来るのだ。

 

 透明マントとは、その名の通り人を透明にするマント。羽織ったり被ったりすると、マントに隠れている部分がマントごと透明化し、あたかもその場に居ないように見せかけることが出来るのだ。

 

 故にデミガイズの毛皮は非常に重宝されているが、前述のようにデミガイズは珍しい生物で、しかも姿を消すという技を持つ。やすやすと捕獲出来るような生物ではないので、毛皮が取引されるとしても非常に高価な値段となる。平均値段は約100 G 。日本円に換算すると、約10万円に匹敵する。

 

 因みに、この透明マントは月日の経過と共に劣化する。精々使えて12年程である。劣化しない透明マントと言うものもあるらしいが、それはおとぎ話に出てくる伝説にすぎないので鵜呑みにしないように。気になる方は『吟遊詩人ビードルの物語』に載っている『三人兄弟の物語』を読もう。

 

 

 さて、そこで忍が作ったこのマントである。もうお気付きだろう。デミガイズの毛によって作られたこのマントも例に洩れず、透明マントなのである。

 大広間を出た瞬間、忍たちは激流から脱出、忍が透明マントを自分含む三人に被せたのだ。

 

「これでよし、です」

「さあ、行こうホノカ!」

「二人とも……うん! 行こう!」

「でもこれ動きにくいね……」

「二人三脚の要領で動きましょう!」

 

「きん!」

「ぱつ!」

「きん!」

「ぱつ!」

「きん!」

「ぱつ!」

 

 姿の見えぬ三人はしゃがみながら歩き出した。透明マントは内側からも外の景色が透過して見えるので、視界は良好である。

 

 近くで破壊音が聞こえた。

 

「っ!! 今のって……」

「も、もう地下から出て来たの!? 幾らここ1階だからって……!」

「急ぎましょう!!」

 

 三人は再び歩き出した。マントが土煙を阻害し、視界は未だ良好。

 

「何これ……」

 

 周囲に瓦礫が散らばり、壁が大破している。ホグワーツに入学した時、こんな光景を見る事になるとは夢にも思わなかっただろう。

 

「や、やっぱり化け物……も、もしかして、トロールっていうのは……あ、あの犬……!!?」

「……いえ、違う、みたいですよ……」

 

「「!!?!!」」

 

 忍が指差す先に居たのは、巨大な化け物。人型で、墓石めいた灰色の肌、岩石めいてごつごつした巨体。長い手には棍棒のようなものを持っている。トロールだ。

 

「「ひっ……」」

 

 怯むアリスと穂乃花。特に穂乃花の脳裏ではあのトラウマがフラッシュバック。恐怖が蘇る。

 

「……っ!!」

 

 忍が何かに気付いた。

 

「カレンです!!」

「「!!」」

 

 巨体の足元近くで震える何かが見えた。美しい金髪を誰が間違えようか。九条カレンだ。

 

「カレンちゃん!!」

「穂乃花ちゃん!?」

 マントから出ると、穂乃花は一目散に駆け出した。トラウマは一瞬にして頭から吹き飛んでしまった。

 姿が見えるようになったとはいえ、トロールの思考回路では背後からの接近に気づく事ができない。幸運であった。

 

「きゃああぁぁaaaahhhhhhh!!!」

 

 トロールの巨槌がカレンの真横に振り下ろされた。カレンが悲鳴と共に吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 

「「っ!!!」」

「カレンちゃんっ!!!」

 

 穂乃花はさらにスピードを上げる。忍、アリスもマントを脱ぎ捨て、走る。

 

 トロールが雄叫びを上げ、再び振りかぶる。

 

 ――駄目だ、間に合わない!!

 

「――ウィンガーディアムレヴィオーサ! 身体浮遊せよ!!」

「!!」

 

 呪文が聞こえた。アリスの声だ! アリスが呪文を放つ――すると、杖先から灰色の波動が飛び出し、穂乃花に当たった。そして、穂乃花の体が宙に浮いた。

 

「わっ、わわ――」

「ホノカ!! カレンをキャッチする準備して!!」

「えっ!?」

 

「Let's go !!!!」

「――――っ!!?」

 

 アリスが杖を振り下ろす――同時に、宙に浮いた穂乃花が勢いよく壁に向かって飛び出した! 風を切り、カレンに近付いて行く。走るよりずっと速い!

 

 トロールの棍棒が振り下ろされる――だが、それよりほんの一瞬速く、穂乃花の腕がカレンを捕らえた!

 

「Come back !!! Honoka !!!!」

「わっ――」

 

 今度は逆方向に引っ張られる――穂乃花はカレンを離さない。その場から離脱すると同時に、カレンと穂乃花が居た場所が粉砕された。

 

「や、やった――がっ!!」

 

 着地失敗。別にアリスはこの呪文を完璧に使えるわけではない。勢いに乗ったまま背中から床に激突、ざりざりざりと音を立てながら忍とアリスを通過していった。

 

「ご、ごめんホノカー!!」

「大丈夫ですか!?」

 

 忍とアリスが駆け寄る。

 

「痛たた……わ、私は大丈夫――それよりカレンちゃんが!!」

「「っ!!」」

 

 カレンは気絶している。着地失敗の衝撃は穂乃花がクッション代わりになった故無かったが、あちこちから血が出ている。胸からは骨のような物が突き出し、血が止まらない。

 

「カレンちゃん、大丈夫!?」

「カレン!! 早く、早くカレンを医務室に――!!」

「カレン! しっかりして! カレン!!」

 

 満身創痍の九条カレンを三人は取り囲む。

 

「早く――早くしないと――!!」

「血が止まりません! ぜ、絶対これ大丈夫じゃないですよ!!」

「――そうだ、トロールは!?」

 

 アリスは振り向く。トロールは満足気な雄叫びをあげている。穂乃花の存在にも、獲物の始末に失敗したことも気付いていない。所詮トロールの脳など、この程度である。

 

「トロールの方は大丈夫! 早くここから逃げないと!」

「取り敢えず、マントを被って行きますか!? バレては元も子もありません!!」

「うん! お願い!」

 

 忍は透明マントを自分たちに被せる――その直後、角の向こうからマクゴナガルが現れた。

 

「あれが――いったい何故――!」

 

 マクゴナガルはツカツカとトロールに向かって歩き出す。

 

「そこのトロール!! 止まりなさい!!」

「ブァー?」

 

 トロールが振り向いた。

 

「今すぐここから出て行きなさい!! ここはお前が来ていいような場所では――」

 

「ブぁーァーァーaーaーaaaaarrrrrrrrrrrr!!!!」

 

 新たな獲物を見つけたトロールはいきり立ち、棍棒を振り上げた。

 

「はぁ……そりゃあ、こうなるでしょうに」

 

 マクゴナガルは呆れたように溜息を吐くと杖を振った。

 

「アグリゲート・マキシマ! 強固なる集約を!!」

 

 呪文を唱える――すると、周囲に散らばっていた瓦礫、浮遊していた塵、煙などが一斉にトロールに向かって突撃した。

 

「ブァーァァァ!!?」

 

 次々と突撃、そして押し潰され、固められ、最後には全てが集約され、山のように大きな一つの岩となり果てた。

 

「そこで大人しくしておきなさい――全く、こんなのに出来るだけ危害を与えず、説得して『あの部屋』を守護させろなんて……ダンブルドアは何を考えているのか――」

 

「マクゴナガル先生!!」

「っ!!?」

 

 突然、背後から声。驚いて振り向くと、そこに居たのは大宮忍、アリス・カータレット、松原穂乃花、そして傷だらけの九条カレン。

 

「な――貴女たち、なんでここに――!!」

「私たちのことはどうでもいいです――それよりカレンを!! カレンを早く医務室に連れて行ってあげてください!!」

「私たちが連れて行くより、先生が連れて行った方が速いはずです!!」

「カレンちゃんを――カレンちゃんを早く――!!」

「一体何で――ええ、分かりました。急ぎましょう! 貴女達も一緒に来なさい」

 

 

[172]

 

「……で、何故貴女達はあそこにいたのです?」

 

 医務室に辿り着いた五人は、カレンの容態を説明(したが、学校医の『マダム・ポンフリー』はせっかちな性格。殆ど聞かずにテキパキと処置を施した)、無事カレンは一命をとりとめた。ポンフリーが言うには、明日には退院出来るそうだ。

 

 一先ず一段落、したが次の問題がここで出てくる。マクゴナガルの尋問だ。

 

「確かに、寮に帰るようダンブルドアが伝えた筈ですが」

 

 厳格そのものの声でマクゴナガルが言う。

 

「その……カレンを助けたくて」

「助けに行って、自分たちは殺されないとでも考えていたんですか?」

「そ、それは……」

 

 アリスが萎縮する。

 

「でも!! あそこで私たちが行かなければ、確実にカレンちゃんは死んでいました!! 私たちはギリギリだったんです!!」

「そうかもしれませんが――」

「先生だけだったら間違いなく間に合っていませんでした!! 絶対に!! カレンちゃんを見殺しにするくらいなら、一緒に死んだ方がマシだというのに!!!」

「ミス・マツバラ――」

「カレンちゃんの居ない世界なんて私が耐えられると思っているんですか!!? そもそも、先生がもっと早く来てくれていれば、カレンちゃんはこんな怪我負わずに済んだんですよ!!? カレンちゃんがこんな目に遭っているのに、よくものうのうと――!!!」

 

「穂乃花ちゃん!! 落ち着いて下さい!!」

「っ!!」

 

 忍が穂乃花を制止する。いつの間にか穂乃花は立ち上がり、今にもマクゴナガルの胸倉を掴みかねない勢いだった。

 

「――す、すみません」

 

 慌てて座り直す。

 

「……貴女たちの気持ちはよく分かりました。結果的に貴女たちが向かったことで、誰も犠牲になることは無かったのですから、これが最善だったのでしょう」

 

 マクゴナガルが静かに言う。

 

「ですが、これからはこの様な事が無いように。ミス・クジョウにも言い聞かせておきますが、次にこんな危険なことをしたら、減点では済みませんよ」

「……はい」

「すみませんでした、先生」

「……今回の事は、多少目を瞑りましょう。一人につき、グリフィンドール一点減点です」

「……だよね」

「……しょうがないよ」

 

 気を落とすアリスと穂乃花。

 

「二人とも気を落とさないで下さい! 所詮消えたとしても三点――」

「四点です」

「あっ、カレンも入るんですか」

「当たり前です」

 

「――消えたとしても四点! その分稼げばいいだけの話です! 点は失くしても取り返しがつきますが、カレンを亡くしたら取り返しがつきません。私たちは、その取り返しがつかないものをこうして守る事が出来た――それだけで、今回の行動には大きな価値があったのです!!」

 

 忍が言う。

 

「マクゴナガル先生、友達を救おうとする気持ちは、友達を救おうとする勇気は、グリフィンドールに真に求められるものではないでしょうか? 最初にカレンを助けようと言い出したのは穂乃花ちゃんです。私たちは、それに乗っかっただけなのです」

 

 忍は続ける。

 

「勇気のある者が集う寮――最も勇気のある穂乃花ちゃんに点をあげずして、一体誰に点をあげれば良いのでしょう? 授業も大切ですが、そういった"気持ち"に関しても、しっかりと加点するべきだと、私は思うのですが――如何でしょう? マクゴナガル先生」

 

「…………」

 

 マクゴナガルは沈黙した。

 

 …………。

 

 ……。

 

 …。

 

「……貴女の言うことも、確かに一理あります。……仕方ありません、では、その勇気を讃えグリフィンドールに十点」

 

「「「!!!」」」

 

 マクゴナガルは厳かに告げた。結果的に六点のプラスである。

 

「マクゴナガル先生! ありがとうございます!!」

「はぁ……貴女だからですよ? それを言うのが貴女じゃなければ、更に減点していた所でした」

「私だから?」

「私のクラスで一番意欲的に取り組んでいる貴女だからですよ。スネイプ先生程ではありませんが、私だって、少しは贔屓したくなります」

「…………!」

 

 マクゴナガルは、微笑んだ。

 

「三人とも、励みなさい」

 

「「「はい!!!」」」

 

 トロール侵入事件は、グリフィンドール六点の加点によって幕を閉じた。この後カレンが目覚め、マクゴナガルからのきつい叱責が待っているのだが――それはまた、別の話。

 

 

 




[173]

「はぁっ、はぁっ、はぁっ――」

 ハロウィーンの怪物騒ぎ、その陰で動く者がいた。

 四階右側の廊下――あの禁じられた部屋。三頭犬の眠る場所。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ――ははは」

 まさか、これほど上手くいくとは。こんな事ならもっと早く行動に移せば良かった。ダンブルドアも大した事はない。ただのボケ老人じゃないか。

《《だから言ったであろう、今の奴は恐るるに足らぬと――俺様の言う事に間違いは無い、分かったか》》

「はぁっ、はぁっ――分かっておりますともご主人様……ご主人様の仰ることに間違いなど、万に一つも御座いません……ふふふ」

 四階右側の廊下、その突き当たりにあの"部屋"はあった。

《《さあ、やるのだ》》

「ご主人様の、仰せの通りに!!」

 扉が開かれた。

 そして、『男』は目を見開いた。

「これはこれは――いったいどんな用がおありになってここにいらっしゃったのですかな?」

 扉の中に居たのは、眠る三頭犬、そして、育ち過ぎた蝙蝠の様な男。セブルス・スネイプ――!

「こ、これは――こ、ここ、これは――」

「これは――何ですかな?」

 スネイプは、意地悪く唇を歪めた。

「詳しく教えて頂きたいものですな――ここに何の用があるのかを」

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