ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしました、第33話です。


※告知事項※

・何かあったら書きます。


その玉はまるでジュエル

【第33話】

 

 

その玉はまるでジュエル

 

 

[158]

 

 ――『ニンバス2000』。

 

 今年発売された最新型の箒。すらりとして艶があり、マホガニーの柄の先には長くまっすぐな小枝がすっきりと束ねられている。マホガニーの柄には金色の文字で"ニンバス2000"の文字が刻まれている。

 

 

[159]

 

「流石です穂乃花ちゃん!」

「ありがとう忍ちゃん!」

「きん!」

「ぱつ!」

 

「「きん! ぱつ!」」

 

 グリフィンドール談話室、女子寮。穂乃花たちの部屋(金髪同盟本部)。飛行訓練があった日の夜、部屋内はお祭り騒ぎであった。

 

「選手に選ばれるなんて! 凄いよホノカ!」

「やっぱりホノカは凄いデス! 私が見込んだ通りデスね!」

「いやあ、全然そんなことないよ〜」

「そんなことあるデス!」

「謙遜しなくていいよ!」

 

 讃えるアリスとカレン。満更でもない穂乃花。というか、彼女はまずこういう風に褒められることにそこまで慣れてない。テニスでは別に下手という訳でもないがかといって上手いという訳ではなく(きんぱつブーストがあれば3倍くらい上手くなる)、才能があると言われたことは一度もない(玉乗りに関しては間違いなく才能だが、誰もそんなこと言わない)。

 

「わ、私、フクロウ便で何かお祝いの品を買いますわ! 何でも仰ってください! 大抵のものなら買えますわよ!!」

「そ、そんなのいいよ〜!」

「で、でも、私の気持ちですわ!」

「えぇ……じゃ、じゃあそれ保留! 保留しとく! ぐ、具体的には2年くらい保留!」

「分かりましたわ! 必要とあらば、いつでも仰って下さいね!!」

「うん!」

 

 若葉が言う。金にモノを言わせている。

 実際に若葉はお金持ちである。そしてそれ故、金銭感覚がとことんまで狂っている。具体的には、遊んでもらったお礼に現金(札束)を配ろうとする、クラス替えを賄賂で操ろうとするなど、枚挙に暇がない。

 

「それにしてもクィディッチ選手に選抜ですか……これで金髪同盟もさらに活動範囲を増やせるというものです」

「え?」

「うん、動きやすくなるのは嬉しいよね〜」

「え? ……あの、何を仰っているのかよく……」

「決まっているじゃないですか、若葉ちゃん!」

「えっ!?」

「金髪同盟の一人がこうして寮代表に選ばれた……それは即ち、我ら金髪同盟が寮代表に選ばれたということなのです! つまり、寮認定!!」

「えっ……?」

 

「まあ分かりやすく三段論法を使って言うと、私は金髪同盟だよね」

「はい」

「私はクィディッチ選抜選手――つまり、寮の代表だよね」

「はい」

「じゃあ、金髪同盟は寮の代表だよね」

「成る程……!」

 

 いや、成る程でも何でもないのだが。そもそも認められているのは金髪同盟ではなく金髪同盟員である穂乃花であって、穂乃花が代表になったところで金髪同盟そのものが代表かと言えば……。

 まあ、そんな細かいことを気にしないのがこの3人。それに、金髪同盟員が寮の代表になったのは確かなことなので、何も変わらないかと言えば、多少動きやすくなるだろう。動くといっても何をするのか分からないが。

 

「……うーん」

「どうしたデス?」

「金髪同盟が動きやすくなるのはシノがよりエンジョイ出来るようになるから自分のことのように嬉しいんだけど……でも、しの部の方はどうにもなってないよね」

「どうにもなってないどころか活動してるんデスか……?」

「シノをこうして見ているだけで活動中なんだよ! 遊んでるんじゃないんだよ!」

「そうデスか」

「なんとかして部員を増やしたいんだけど……まだカレンとアヤ、ヨーコくらいしか居ないし……」

「ヨーコとアヤも部員じゃないと思いマスが……」

「もっとシノの素晴らしさ、優しさ、可愛さ、美しさ、美麗さ、可憐さ、華麗さ、素敵さ、麗しさ、最高さ、美人さを知ってもらいたい!!」

「何回か同じ意味の言葉出てマスね」

「そうだ! ドラコに入ってもらおう! きっとあの人ならシノの良さを分かってもらえるよ〜!!」

「良さっていうか狂気を間近で見ているんデスがね」

「狂気? シノのどこに狂気が? シノは狂ってなんかないよ! 常に正常かつ公正かつ公平だよ! 狂気とか狂人とか、軽々しく使うのはダメだよカレン!!」

「そうデスかー」

 

 さらりと流すカレン。彼女はそこまで深入りするつもりはない。忍にもアリスにも。あまりにも深く入り込み過ぎると、彼女たちの内に潜む混沌に侵食されかねない。実際に穂乃花(彼女は元々だった気がするが、加速したのは忍と出会ってからだろう)や若葉、小夢が既に侵食されている。

 

 君子危うきに近寄らず、である。深淵は覗いてはならないのだ。

 

「もういっそ、しの部と金髪同盟を一つに纏めたらどうデス?」

「それは何か違うよ」

「そうデスか」

「まあでも、シノを真に理解出来る人じゃないと、しの部には入れないからね! 部員が少ないのも無理無いよね!」

「シノを理解できる人なんてこの世界にどれだけいるんデスかね……」

 

 カレンがツッコミに回らざるを得ない状況と言うのは最高に意味が分からないが、現実問題それくらいカオスなのだから仕方が無い。というか、カレンだからこそまだツッコめているのだ。もしも香奈や陽子、萌子や美樹といったある程度正常な神経を持つツッコミ担当を放り込めば、正気を失うか彼女達に取り込まれるか、二つに一つだ。

 

「大丈夫ですよ、アリス」

 

 忍が言う。

 

「私たち金髪同盟は、いつでも二人の味方です! 困ったことがあったら、いつでも言って下さいね!」

 

「シ、シノ……」

「アリス……」

「シノ……!」

「アリス……!」

 

 カット。

 

 この後、金髪同盟及びしの部の会談は夜通し行われた。その途中で唯一寝たのがカレンであることは言うまでも無い。

 

 

[160]

 

 日にちは変わり、クィディッチ選手に選抜されたあの日から一週間後の朝食の席での出来事である。

 

「あ、フクロウだー!」

 

 由紀が叫ぶ。

 

「本当、なんでフクロウなんだろうな」

 

 胡桃が言う。

 

「さあ……」

 

 美樹が言う。

 

「ふっふーん、私知ってるよ! フクロウだと、手紙が届いたときついでにフクロウをもふもふ出来るからなんだよ! 相手を思いやる気持ちから、フクロウを使い始めたのだー!」

 

 心愛が知ったように言う。

 

「違うだろ」

「違うでしょ」

「違うよね」

「まさか全員から否定されるとは流石のお姉ちゃんも予測してなかったよ……」

 

 一瞬でテンションが下がり、粛々とセロリを皿に取った。姉の威厳とは一体……。

 

 ちなみに、魔法界でフクロウがよく使われるのは、フクロウは隠密行動を得意とする生物であると共に、どうも魔法と言うものと相性のいい生物らしいからだ。魔法使いとフクロウの関係についての詳しい話は、またいずれどこかでしよう。

 

 閑話休題。

 

「……あ」

 

 落ち込む心愛を尻目に、何かに気付いた由紀。

 

「どうした?」

「なんか向こうから、みんなで一つの物を運んでるフクロウが来たよ」

「どれ……あ、本当だ」

「六匹ですね」

 

 由紀達だけでなく、皆がそれに注目した。

 六匹のオオコノハズクが一緒になって運んでくるのは、細長い包みだった。

 

「誰のだろう?」

 

 穂乃花がカレンの皿にベーコンをよそいながら言う。

 

「もしかして、箒だったりするんじゃないでしょうか?」

 

 忍がアリスの金髪を皿に乗せながら言う。

 

「きっとそうだよ! ……じゃ、じゃあ――ホ、ホノカ! お皿避けて!!」

「えっ!?」

 

 アリスの指摘は少し遅かった。穂乃花が皿に手を掛けようとすと、空中から包みが落下! 皿の上に乗っていた金箔が盛大に飛び散った。

 

「あぁ……金箔が……」

「ホ、ホノカ! 二撃目! 二撃目来るデース!」

「えっ!?」

 

 カレンの指摘も少し遅かった。穂乃花が金箔に手を掛けようとすると、空中から一匹のフクロウが飛来! 手紙を落とすと、代わりに穂乃花が取ろうとした金箔を咥え飛び去った。

 

「あぁ……金箔が……」

「ド、ドンマイです穂乃花ちゃん!」

「これは……手紙……誰からだろう?」

 

 穂乃花は手紙を開けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 包みをここで開けないように。

 

 中身は新型のニンバス2000です。

 貴女が箒を持ったと知ると、皆が欲しがるので気付かれないように。

 

 今夜七時、クィディッチ競技場でウッドが待っています。

 最初の練習です。

 

                               M・マクゴナガル

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「マ、マクゴナガル先生からだ! こ、これ……ゆ、夢じゃなかったんだ」

「あれから全然音沙汰無かったもんね」

「ニ、ニンバス2000……す、凄さは全然わからないけど……なんとなく期待され具合は伝わって来たよ」

「なんといってもホノカデスからね! ホノカに出来ない事は無いデス!」

「カレンちゃん……ありがたき幸せっ……!!!」

「そこまでのことデスかね」

「でも、これどこに置いときますの?」

「…………」

 

 結局、朝食の間は包みをテーブルの下に隠すことにした。仕方無いとはいえ、最新型箒の扱いがこれである。知ればフーチが泣きそうだ。

 

 朝食終了後、すぐに包みは部屋へと輸送された(その過程でマルフォイに絡まれたりしたが、マルフォイの醜態を晒しすぎるのは可哀想なのでカット)。

 

 

[161]

 

 ――PM.7:00。

 

 城を出てクィディッチ競技場へと向かう影あり。茶髪で小さい三つ編み。穂乃花だ。手には包みから解放された箒――ニンバス2000が握られている。新品らしく、どこにも傷や枝の乱れが無い。

 

 クィディッチ競技場はホグワーツ城から北北東に位置する場所にある。競技場内にあるのは芝生(言うまでも無く綺麗に手入れされている)と約15m程の高さの柱がピッチの両端に三本ずつ立てられていた。金色で、先端には輪がついている。周囲には何百と言う座席が高々とせり上げられていて、観客が高みから観戦できるようになっていた。

 

「……絶対テニスと全然違うよこれ」

 

 穂乃花はそう呟くと、金の柱に近付いた。

 

「…………」

 

 ――試合の時は、この金色を見て緊張をほぐそう。

 

 穂乃花は思った。……こんなことを考えた選手は、クィディッチの歴史上初であろう。

 

「おーい、マツバラ!」

「!」

 

 声が聞こえたので振り向くと、競技場の中心に少年が立っていた。こげ茶色の髪をスポーツ刈りにした少年――オリバー・ウッドである。足元には、大きな木製の箱が置いてある。

 穂乃花はウッドの元へ走った。

 

「やあ。……随分熱心にゴールを見てたな」

「ゴール?」

「ああ。あそこにあるあの柱は、クィディッチのゴールなんだ――その辺も含めて、今日はクィディッチのルールを教えよう」

「お願いします!」

「よし、良い返事だ」

 

 ウッドは箱を開けた。中に入っていたのは大きさの違う四個のボール。

 

「いいかい、クィディッチは覚えるだけなら簡単なゲームだ。だから今日の説明をしっかりと頭に叩きこめ。プレイはちっとも簡単じゃないが、それはこれからの練習でスキルアップすればいい」

 

 クィディッチの説明が始まった。

 

「クィディッチは、七人の選手で行うスポーツだ。両チーム七人ずつ。選手には役割があって、『チェイサー』、『ビーター』、『シーカー』、『キーパー』の四つだ」

 

(あ、これ絶対テニスとは似ても似つかないやつだ)

 

 ウッドはサッカーボールほどの大きさのボールを取り出した。赤い。

 

「まずはチェイサーの説明からだ。選手のうち三人がチェイサーと呼ばれている。うちのチームで言えば、アンジェリーナ、アリシア、ケイティがこれにあたる」

 

「三人のチェイサー……アンジェリーナ先輩、アリシア先輩、ケイティ先輩――」

「いや、名前とかは余裕あればでいいよ」

「で、でも、なんか一回名前聞いてるのにもう一回名前を聞くのは失礼じゃないでしょうか!?」

「どうせまた自己紹介とかやるし、気にしなくても……まあ、覚えておいて悪い事はない。寧ろ熱意を見せれて好感を得られるんじゃないか?」

 

 ウッドは続ける。

 

「チェイサーはクィディッチにおけるメインの選手だ。チェイサーは『クアッフル』というものを投げ合って、相手ゴールの輪の中に入れ、得点する」

 

 ウッドは取りだしたボールを指差した。

 

「で、こいつがクアッフルだ。これが輪に入る度、10点入る。ここまではいいかい?」

 

「クアッフル……輪に入れると10点入る……はい、大丈夫です」

「よし」

 

 ウッドは続ける。

 

「当然、両チームとも得点を入れられまいとする。で、その時にゴールを守るのが、キーパー。僕の役割だ。自陣の輪の間を飛び回り、飛んできたボールをキャッチするなり弾くなりして妨害する役目だ」

 

「キーパーがゴールを守る……なんかサッカーみたいだよ」

「サッカー?」

「あ、気にしないで下さい」

 

 ウッドは一瞬怪訝な顔をしたが、本当に一瞬だけで、すぐに元に戻った。多分サッカーという単語を今の一瞬で忘却したのだろう。

 クアッフルを片付けると、続ける。

 

「次はビーターだ。これは二人の選手の担当――フレッドとジョージだな」

 

「フレッドさんとジョージさんってクィディッチの選手だったんですね」

「そうだ。後輩ながら、あいつらにゃあ敵わない。こと"こいつ"に限ってはな――ちょっとこれ持ってて」

 

 ウッドが短い棍棒のような物を穂乃花に渡した。重さはテニスラケットと同じくらい。『クラブ』という。

 

「ビーターはそいつを持ってプレイする。この――『ブラッジャー』を打ち返すために」

 

 ウッドが箱ごと見せたのは、クアッフルより少し小さい二つのボール。色は真っ黒。箱の中に紐で留めてあるが、何やら動いているように見える。今にも紐を引きちぎって飛びだそうとしているかのように――。

 

「ま、また一人でに動く無機物だよ」

「下がって」

「あっはい」

 

 ウッドは穂乃花に注意してから、腰をかがめ、慎重にブラッジャーを一つ、紐から外した――。

 

 ――瞬間、黒いボールは空中高くに飛びあがった。そして、穂乃花の顔面めがけて突撃!

 

「!!?!?」

 

 穂乃花の脳裏に一瞬走馬灯が走る。カレンにお菓子をあげたこと、カレンと一緒に帰ったこと、カレンと弁当を食べたこと、カレンとおそろいの服を買ったこと――。

 

 ――そうだ! 弱気になっちゃ駄目! まだカレンちゃんとやりたいこと一杯あるんだから――!

 

 穂乃花は正気に戻ると、ブラッジャーをその双眸で捕え、クラブを構える。そして――。

 

「きん!」

 

 金髪同盟おなじみのあの掛け声と共に、クラブを大きく振りぬいた! 打ち返されたブラッジャーはジグザグに舞い上がると、再び突撃!

 

「ぱつ!」

 

 穂乃花は怯まず、再び撃退! またジグザグに舞い上がる。すると今度はウッドに向かって突撃! ウッドはクラブを持っていない! 危険だ!

 だが、クラブなど必要なし。ウッドはボールを避けるとカウンター気味で逆にボールを上から下へと押さえつけた! そのままブラッジャーを力づくで抑え、箱に戻し、紐で押さえつけて大人しくさせた。

 

「……ブラッジャーを二回連続で打ち返せるなんて、一年生の女子にしては凄いな。意外にビーターの才能もあるんじゃないか?」

「いえ、金髪のおかげです。才能とかじゃないですよ」

「金髪? さっきの掛け声の事かい? ありゃなんだ」

「力を飛躍的に高めてくれる魔法の言葉です!!」

「そんなものがあるのか! これは、チームの合言葉にしないといけないかもな……」

「本当ですか!? 歓迎です!!」

 

 無意識に毒していく穂乃花。控えめと言えど、やはり彼女も金髪同盟の一員なのだ……。

 

「ブラッジャーはさっきみたいに飛びまわって、プレイヤーを箒から叩き落とそうとすんだ。そこで活躍するのがビーター。襲ってきたブラッジャーを相手チームに打ち返す役割だ。ここまでOK?」

 

「ブラッジャーは選手を襲う……ビーターがブラッジャーを妨害……あの、ブラッジャーが、その……だ、誰かをこ、殺しちゃったっていう事件は……無いんですよね?」

「ホグワーツ"では"一度も無いよ。顎の骨を折ったやつは二、三人居たけど――その程度だ」

「そ、その程度って」

 

 穂乃花は青ざめた。顎の骨を折ると言う重傷を"その程度"とか軽く言ってしまうのが魔法界の恐ろしいところの一つである。魔法ですぐに治せるが故に、そういった損傷を軽視しているのだ。尤も、魔法によって負った傷については話が別であるが……それはまた後の機会に。

 

「さて、残るメンバーはあと一人。君、即ちシーカーだ。シーカーは、さっき言ったクアッフルもブラッジャーも気にしなくていい。寧ろ気にするな」

 

「えっ」

 

 ウッドは箱に手を突っ込んで、四つ目のボールを取り出した。最後のボールは先程の三つとは違い、胡桃ほどの大きさのボールであった。眩いほどの金色で、小さな銀色の羽をひらひらさせている。

 穂乃花はそのボールを見た瞬間、その黄金の輝きに目を奪われた。ゴールの金色なんかがくすんで見えるほどの、金色――カレンやアリスの金髪には遠く及ばないが、それでも目を離せなくなるような魅力が、そのボールにはあった。

 そんな穂乃花の様子を見て、ウッドは納得したように頷いた。

 

 ――成程な。

 ――これなら確かに、シーカー向きだ。

 

「いいかい、マツバラ。これが『金のスニッチ』だ。一番重要なボールだ。とにかく速いし見えにくいから、捕まえるのが非常に難しい――シーカーの役割は、これを捕ることだ」

 

 穂乃花の目が真剣そのものの表情となる。ウッドは続けた。

 

「君はチェイサー、クアッフル、ビーター、ブラッジャーの間を縫うようにして、敵のシーカーより先にこれを捕らないといけない――なにしろ、シーカーがスニッチを捕らないと試合が終わらないし、そして何より、捕れば膨大な点数が入る。……その点なんと、150点だ」

 

「150点!!?」

「ああ。捕れば勝利は決まったようなものだな」

「…………」

 

 ――酷いルールだよ……。

 

 穂乃花は思った。……マグル界のスポーツで例えるならば、試合中にそのボールを捕るだけで11点入る野球であり、そのボールを捕るだけで11点入る卓球であり、そのボールを捕るだけで2ゲーム分の差が手に入るテニスである。なんと恐ろしいルールであろうか……。

 

 ちなみに、クィディッチの最長記録は三カ月であったという。交代選手を次々と投入し、正選手は交代で眠ったらしい。

 

「ま、こんなところだ。細かいルールはまだあるけど、取りあえず今日はこれくらいで十分だろう。質問はあるかい?」

 

 穂乃花は首を振った。ウッドは頷いた。

 

「スニッチを使った練習は、まだやらない」

 

 ウッドはスニッチを慎重に箱の中へしまった――スニッチは手を離したら最後、再び捕まえられるまで延々と高速で動きまわる。うっかり手を離すと、それだけでスニッチを失くしてしまう危険性があるのだ。

 

「もう暗いから、失くすといけない――代わりに、これで練習しよう」

 

 ウッドがポケットから取り出したのはゴルフボールの袋。スニッチを模しているのか、羽は付いていないものの綺麗な金色をしている。

 

 数分後、二人は空中で練習を開始した。ウッドはボールをありとあらゆる方向に強く投げ、穂乃花にキャッチさせた。

 黄金の軌跡を描いて飛ぶ玉を穂乃花が見逃すはずも、取り逃がすはずもない。百発百中、穂乃花はボールを一つたりとも落とすことなく、全てキャッチした。玉キャラの鑑。

 

 練習は二時間ほど続いた。暗くなっても黄金の軌跡は見えるし、何よりウッドが止めようとしない。穂乃花もウッドも、練習が終わって疲れに気付き芝生に思いっきり倒れこむまで、それはそれは喜色満面の笑みを浮かべながら練習し続けたという。

 

 その狂気の光景は、たまたま散歩に出かけていた『首なしニック』が言うに、『ゴーストなんかより軽くホラーだった』という。

 

 




 遅れて申し訳ありませんでしたぁぁ!!(ケジメのふりをしつつ)

 それはそれとして、いよいよ穂乃花のストーリーが動き出しましたね。この物語は全員が主人公、ちゃんとそれぞれにメインストーリーがあるのです。

 なんかそろそろまた倦怠期がやって来たようです。更新頻度がぐちゃぐちゃになるかもしれませんが、生暖かい目で見守って頂ければ幸いであります。

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