ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 授業篇第七回は魔法薬。スネイプの傍若無人っぷりをお楽しみください。 


※告知事項※

・何かあれば書きます。


怒涛の魔法授業 : 魔法薬学

【第31話】

モンクスフードとウルフスベーン

  -魔法薬学-

 

 

[151]

 

 ――魔法薬学。

 

 グリフィンドールとスリザリン合同の授業。教授は『セブルス・スネイプ』。1年次の主な受講場所は『地下教室』。地下牢を改造して作られた教室で、間違いなくホグワーツ一陰気な教室だろう。

 魔法薬学はその名の通り、 魔法薬について学ぶ学問。この学問は、言わば汲めども汲めども枯渇しない井戸、終わりのない学問である。故に研究者も多く、最近では『魔法薬研究所』なる物が設立され、沢山の新薬が開発されている。1年次の教科書は『魔法薬調合法(アージニウス・ジガー著)』。資料集として『薬草ときのこ1000種』

 

 

[152]

 

「薄暗い教室っすね」

「暗いねえ」

「はっはっは! 怖いのかい? これだから穢れた血は」

「「それしか言えんのかこの猿!!」」

「「ははははは」」

「黙れ!! そこの馬鹿二人も黙れ!!」

 

 地下教室に入るや否や漫才をおっ始める真魚とマルフォイ。グリフィンドールがどっと笑う。

 

「あんなマルチーズほっといて……ジーナちゃん、魔法薬ってなんなんすか?」

「えっとねえ」

 

「マルチーズじゃねえマルフォイだ!! お前ら良い加減にしろよ!! グリフィンドールに笑われてるんだぞ、恥ずかしくないのか!!」

「笑われてるのはあんただし、あんたが話しかけて来なければ笑われなかったんすよ? 自業自得」

「喧しい!! くそっ、クラッブ! ゴイル! もう我慢ならん! こいつやっちま――」

 

「しーのー!!! マルフォイくんが金髪くーれるってさー!!!」

「ひゃははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎ひゃはあぁぁぁ⤴︎!!! 本当ですかドラコ!!!」

「面倒臭いのを混ぜんな馬鹿ァァァ!!!」

「あんたが悪い」

 

 ああ、何というカオス空間だろうか。もしも授業開始を告げる鐘が鳴らなければ、色々なものが色々な意味で大惨事となっていただろう。

 

 ――鐘が鳴り、教室の扉が開いた。

 

「「「…………」」」

 

 騒ぎが一瞬で収まる。忍は元の席に帰った。

 

 入ってきたのは育ちすぎた蝙蝠のような男だった。べっとりとした黒い長髪、鉤鼻で土気色の顔をしていて、その目は暗いトンネルのように、虚ろ。

 彼こそ、スリザリンの寮監にして魔法薬学教授『セブルス・スネイプ』である。

 

「……このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 スネイプが歩きながら話し始めた。それは呟くようでありながら、生徒たちは誰も騒がない――マクゴナガルと同じように、喋ることを許さない空気を自然と作り出している。

 

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く大釜 ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い回る液体の繊細な力、心を惑わせ 感覚を狂わせる魔力――諸君がこの見事さを真に理解するとはとうてい期待しておらん だがもしも、これまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましならば――」

 

 教卓に到達したスネイプは、振り返って言う。

 

「――伝授してやろう 名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法を」

 

 喋り終え、生徒を見回す。そして突然、

 

「ミス・オオミヤ!」

 

 スネイプが叫ぶ。

 

「は、はい!?」

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

 ――???

 

 ――なんのきゅうこんに、なにをせんじたものをくわえると?

 

 ――???

 

「a――」

「カータレットに助けを求めるな ミス・オオミヤ」

「――――」

 

 忍から冷や汗が滴れる。――なぜ? まだ喋ってなかったのに、なんでアリスに助けを求めたことが分かったのですか――?

 わからない。まるでわからない。変身術以外の勉強を一切何もしていなかったのがここに来て仇となった。

 

「わ、わかりません」

「……情けない。グリフィンドール10点減点」

 

 スネイプは口元でせせら笑った。

 

「ではもう一つ聞こう ミス・オオミヤ、ベゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」

「――――」

 

 冷や汗が止まらない。心の底から焦っている。

 

「「「はっはっはっは!!!」」」

 

 マルフォイ、ゴイル、クラッブが身を捩りながら笑う。ゴイルとクラッブはともかく、マルフォイの方はその行為のお陰で髪の寿命が減っていくのに気付かないのだろうか。

 

「――――a」

「カータレットに助けを求めるなミス・オオミヤ 君は、一人では何も出来ないのかね?」

「そ――そんな――ことは――」

「では答えたまえ」

「わかりません!」

 

 潔く降参した忍――潔くと言う割には抵抗を挟んだが。

 

「授業にくる前に教科書を開いてみようとは思わなかった、というわけだな、ミス・オオミヤ。え? グリフィンドール10点減点」

 

 スネイプは口元を歪ませ微笑する。おお、何と意地の悪い行動か! スネイプは忍が分からないのを見越してこの質問を投げかけたのだ! 何故狙ったのが忍か? それは、彼のお気に入りの生徒がドラコ・マルフォイだからである。ドラコはいつも彼女に虐められている(ように見える)。ささやかな意趣返しと言うわけだ。

 ……これが教師の取るべき行動かどうかと問われれば、万人が否と答えるだろう。

 

「ミスター・マルフォイ」

「はっはっは――はは――は、はい?」

 

 マルフォイの笑顔が硬直した。クラッブとゴイルもついでに硬直。

 

「手本を見せてやれ――モンクスフードとウルフスベーンの違いはなんだね?」

「――――g」

「ミスター・ゴイルに聞いても無駄だ。分かってない」

「――――k」

「ミスター・クラッブに聞いても無駄だ。分かってない」

「――――」

 

 冷や汗が止まらないマルフォイ。先程自分が笑っていた相手と同じ状況に自分がおかれている。どんな気持ちなのだろうか?

 

「くくっ……くっ……」

 

 前方で俯き笑いを堪える真魚。マルフォイの青白い顔に赤みが差す。つまり、肌色だ。

 

「わ――わかりません」

「……君もかミスター・マルフォイ。仕方ない。スリザリン5点減点」

「おいちょっと待て! こっちは10点減点だったのにそっちは5点って……明らかに贔屓だろう!!」

 

 リゼが立ち上がり叫ぶ。正論。しかしながらスネイプはまるで怯まない。

 

「授業中だぞ 静かにしたまえミス・テデザ。グリフィンドール5点減点。教師に対する口の聞き方がなってない 5点減点。そして贔屓などと人聞きの悪い事を言うなミス・テデザ。我輩は努力を重視する。彼が談話室で教科書を読んでいたのを知らんのか? 知らないだろうなミス・テデザ 我輩には分かる」

「何を――根拠に――!」

「我輩は全て分かっているぞミス・テデザ。お前たちが我輩に隠し事をすることは出来ん もし出来たなら、仕方あるまい1点やろう」

「〜〜〜〜!!!」

「5秒以内に座りたまえミス・テデザ。でなければさらに5点減点だ」

「〜〜〜〜っ!!!」

 

 リゼはスネイプを睨む。その睨みに対し、スネイプは意地の悪い笑みを返す。

 

「教えてやろう、ミス・オオミヤ。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに協力なために『生ける屍の水薬』と言われている ベゾアール石は、山羊の胃から取り出す石で、たいていの毒に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で別名をアコナイトとも言うが、トリカブトの事だ どうだ諸君、何故今我輩の言ったことをノートに書き取らんのだ?」

 

 羊皮紙と羽ペンを出す音、そして書き取る音が静かに響く。

 

 既にこの段階でグリフィンドールから30点減点され、スリザリンからは5点減点されている。しかし恐ろしいことにまだ授業は本格的には始まっていない。前置きに過ぎないのだ。

 

「書き終えたかね諸君? では授業を始める。本日は『おできを治す薬』を諸君らに作ってもらう この魔法薬は、初歩中の初歩だ。ただのこれさえ満足に作れんのなら、その者にはこの授業を受ける資格は無いし意味も無い。故に即刻立ち去って頂く所存だ。本気でやりたまえ」

 

 そう言うとスネイプは魔法薬の作り方を教えた(その間になんだかんだでグリフィンドール7点減点された)。

 

 で、纏めると、こうだ。

 

 

1. すり鉢にヘビの牙を6つ

 

2. すりこぎで細かくすり潰す

 

3. 大鍋にすり潰した牙を4つまみ入れる

 

4. 150℃で5分加熱

 

5. 杖を振る

 

6. 10分寝かせておく

 

7. 大鍋に角ナメクジを4つ入れる

 

8. 大鍋にヤマアラシの針を2つ入れる

 

9. 時計回りに5回かき混ぜる

 

10. 杖を振って完成

 

 

 こんな感じである。

 

 と、説明し終えたところで鐘が鳴った。しかし。

 

「では、各自大鍋を準備して始めたまえ――何? 鐘が鳴った? 休憩時間? 我輩を笑わせるのはやめたまえミス・クジョウ。グリフィンドールから5点減点だ。何だね? まさか休めると思っていたのかね? だとすればその考えは余りにも甘いと忠告しておこう 魔法薬は、そんな甘い考えで取り組むと失敗する。さあ、始めたまえ。これ以上つべこべ言うなら一言につき5点減点だ」

 

 

[153]

 

 休憩時間(一応)の終了(始まってさえなかったが)を告げる鐘が鳴った。

 

 スネイプは生徒の間を歩きつつ、一応形だけアドバイスをしながら次々とグリフィンドールを減点して行った(既に15点消えた)。反対にスリザリンには割と丁寧に教え、たまに減点しつつもそれ以上の加点を加えていた。

 

 例えばこんな感じである。

 

「先生、どれ位の温度で加熱するんでしたっけ」

 

 真魚が聞いた。

 

「……150℃だ。我輩は確かにそう言った筈だが? ちゃんと聞きたまえ。スリザリン2点減点」

「す、すいません」

 

「しかしながら減点を恐れず自分から聞きにくるということは上昇志向の証である 精進したまえ。スリザリンに5点」

「はい!」

 

 ……お分かり頂けただろうか。え? 違いが分からない? ではグリフィンドールの方も見てみよう。

 

「す、すみません先生……何分寝かせればよかったのでしたっけ?」

「……10分だ。我輩は確かにそう言った筈だが? ちゃんと聞きたまえ。グリフィンドール3点減点」

「す、すみません!」

「そもそも何故我輩に聞いた? 隣のミス・カツキに聞けばよかろう。彼女は既にその工程を終えている。協調性の無いこと甚だしいぞ グリフィンドール5点減点 そしてミス・カツキ。お前も何故自分から教えなかった? 隣で困っていたのが分かっただろうに――ミス・モエタが失敗すれば自分が良く見えると思ったな? グリフィンドール5点減点」

「あ、あわわわ」

「っ……! ス――」

 

 立ち上がりかけた翼の腕をパーバティが掴む。スネイプは嗤い、歩いて行った。

 

「止めときなよツバサ――多分何言っても無駄だよ」

「…………」

 

 この差である。

 これは酷い。

 

 このように贔屓と格差をまじまじと見せつけられつつも、グリフィンドール生は次々と魔法薬を完成させていった(途中でネビルが"おできを治す"じゃなく"おできを作る"薬を作ってしまい、ネビル及びその隣の穂乃花が減点された)。また、スリザリン生もスネイプに褒められて調子に乗り、次々と薬を完成させる。褒めて伸ばすのが良い方向に働いているのだ。

 

 しかしながら、魔法薬作製完了後の評価もまた酷い。またスリザリンから見ていこう。

 

「先生! 出来ました!」

 

 ドラコが言う。スネイプは早足でやって来た。

 

「どれ、見せてみなさい」

 

 スネイプは大鍋を覗き込んだ。

 大鍋の中にあったのは肌色をした軟膏状の魔法薬。何気に成功している。

 

「ふむ、初めてにしては中々の出来だ ミスター・ドラコ 諸君らも、彼を見習いたまえ。スリザリンに10点」

「ふふん」

 

 得意げな顔でグリフィンドールを眺めるドラコ。そしてスネイプはそれ以上追求せず、褒めるだけ褒めて、加点するだけ加点してまた違う生徒のところへ行った。

 

 これだけなら、まだ良い。

 

 次はグリフィンドール。

 

「先生! 出来マシタ!」

 

 カレンが言う。スネイプがやって来た(早足でない)。

 

「どれ、見せてみなさい」

 

 スネイプは大鍋を覗き込んだ。

 大鍋の中にあったのはなめらかな肌色をした軟膏状の魔法薬。成功だ。しかもマルフォイよりもずっと上手い。

 

 だがしかし。

 

「ふむ、まあまあの出来だなミス・クジョウ。しかしながらミス・クジョウ。教えた通りの、教科書通りのあのやり方ではここまで上手くは出来ん。どこかでアレンジを加えたな」

「ハイ! 時計回りに5回混ぜてから、反時計回りに5回混ぜてみマシタ!」

「ふむふむなるほど、それを何も見ずに実行したというのは幸運にしても中々のものだ しかし、それはつまり我輩の言うことを、無視したということかね?」

「え……む、無視じゃないデスが」

「無視じゃないなら何だと言うのだミス・クジョウ。全く、独自のやり方を勝手に見つけて教科書に従わず我流で行うとは――グリフィンドールに5点加点した上で10点減点だ」

「なっ……!?」

 

「おい、お前!」

「貴様ふざけるな!」

 

 我慢出来ずに、胡桃とリゼが立ち上がった。そして、杖を向ける。

 

「……杖を向けて我輩に何をしようというのかね? いや、寧ろ何が出来るというのかね? ……下ろしなさい」

 

 スネイプが言う。

 

「何も出来ないと思うなよ――この魔法薬全部をお前にぶっ掛けたら、どうなるのか――」

 

 胡桃が脅すように言う。

 

「浮遊呪文なら知っている。出来るかどうかは分からんが、それでも貴様をビビらせることくらいは出来る」

 

 リゼも言う。

 

「……くくく、我輩を……ビビらす、か」

 

 スネイプが微笑しながら言う。

 

 生徒は固唾を呑んで見守る――何故最初の授業からこんなに殺伐としなければならないのか。スネイプが悪い。

 

「……思い上がりも、甚だしい」

 

 スネイプがローブの下で手を動かした。すると――。

 

「「!!?」」

 

 リゼと胡桃の身体が踝を持ち上げられるようにして宙に浮いたではないか。そしてそのまま、魔法薬の入った大鍋の上へ。

 

「この攻撃さえ避けられんお前らが、我輩をビビらす? 面白い冗談だ。グリフィンドールから25点減点」

 

 段々と高度が下がっていく。

 

「き、貴様! 教師だろ!? 生徒にこんなことしていいと――」

「黙れミス・テデザ。教師に対する無礼な態度で10点減点」

 

 そう言った次の瞬間、リゼの舌が口蓋に突然張り付いた。

 

「ぐぇっ!?」

 

 えずくリゼ――おお、これが教師の行動だというのか! 衝動的に動いてしまった彼女たちにも完全に非がないとは言い辛いが、しかしここまでされる謂れはないだろう。

 

「我輩に魔法薬をぶっ掛けるとか言っていたな? では、お前たちがそのサンプルになるといい」

 

 マルフォイ一派は大笑いしている。マルフォイなんかは笑い過ぎて過呼吸になっている。

 リゼと胡桃のツインテールが魔法薬につくかつかないか――そこでついに、止めが入った。

 

「先生! やり過ぎです! やめて下さい!!」

 

 真魚だ。スネイプの暴挙を見兼ね、ついに動いた。

 

「……ふむ」

 

 そう言われると、スネイプは案外あっさりと2人をもとの場所へ解放した。2人は頭から落下する。

 

「……ミス・クロカワに救われたな2人とも。彼女の勇敢な行動に感謝したまえ。スリザリンに10点」

 

 ――授業終了を告げる鐘が鳴った。

 

「以上で授業を終了とする。ミス・テデザ、ミス・クルミザワ。後片付けをやりたまえ」

 

 グリフィンドールの他の生徒と、スリザリン生は追い出されるようにして教室を出た。

 

「幸いにもこれは本日最後の授業だ 故に、どれだけ時間を掛けても、構わない」

 

 スネイプは意地悪そうに唇を歪ませると、去って行った――片付けについて一切の指示をせず。

 

「……最悪な先生だ」

「……あんなのが居るとは」

 

 2人は呟いた。結局この後、たまたま通り掛かったクィレルによって2人は助けられた。

 

 ――この一件以来、"スネイプを学校から排除する"という一点において、この2人は共同戦線を張ることになる。互いを嫌っていた2人だが、それが多少緩和されたのたと思うと、スネイプは多少役に立ったのだというような気がしてくる。

 

 ……だからなんだという話だが。

 




 いやあ、スネイプ先生は書いてて楽しいですね!(話数が飛んだことから目を背けつつ)

 それはそれとして、はい。2つ話数が飛びました。
 いや、早くスネイプ書きたかっただけなんです。他意はありません。スネイプを出すといいかんじにキャラを虐められますからね。

 話数的には、授業篇は次回で完結します。まだ呪文学とこれの間に2つ入りますけども。
 

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