ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 第6回目の授業は、みんな大好きDADA。クィレルが虐められる様を、存分にご堪能下さい。


※告知事項※

・とても短いです。3千字台。

・何かあればここに書きます。


怒涛の魔法授業 : DADA

【第30話】

ゾンビキラー

  -闇の魔術に対する防衛術-

 

 

[148]

 

 ――闇の魔術に対する防衛術。

 

 グリフィンドールとハッフルパフ合同の授業。教授は『クィリナス・クィレル』。1年次の主な受講場所は『6番教室』。天文台塔2階にある教室で、そこまで広くはない。特にこれといって特筆すべきところはない、普通の教室。

 

 闇の魔術に対する防衛術(以下、DADA)は、その名の通り『闇の魔術』から自衛する方法を学ぶ教科。ホグワーツ独自の教科であり、ホグワーツで一番人気の教科である。

 1年次の教科書は『闇の力――護身術入門(クエンティン・トリンブル著)』。

 

 

[149]

 

「どんな授業かな!? 楽しみだね由紀ちゃん!」

「そうだね、ココアお姉ちゃん!」

「ひゃぁぁぁぁ⤴︎!!! もう一回言って!!」

「お姉ちゃん!」

「もう一回!」

「お姉ちゃん!!」

「ラスイチ!!」

「お姉ちゃん!!!」

「由紀ちゃんもふもふー!!!」

 

「なんだこれ」

 

 隣で発生しているカオスを奇異なものを見る目で見る胡桃。そしてさらにその隣。

 

「アリス〜」

「シノ〜」

「アリス〜!」

「シノ〜!」

「アリスー!!」

「シノー!!」

「アリース!!!」

「シノー!!!」

 

「もうやだ」

 

 左右のカオスに挟まれる胡桃。苦笑いも出来ない。

 

「く、くるみ先輩大丈夫でしょうか」

「なんだかんだで大丈夫よ多分」

 

 美紀と悠里。5人掛けの机で、グリフィンドールとハッフルパフが混じった机もある。

 

「凄く助けたい衝動に駆られるんですが……くるみ先輩が不憫過ぎますよあれ」

「でもゆきがあそこにいるから……ゆきを1人に出来ないわ」

「ゆき先輩どう見ても1人じゃないんですが」

「ココアちゃんね。……ああ、代わりたい」

「この人もかあ」

 

 胡桃は助けられなかった。

 

「っていうか、なんだかこの部屋にんにく臭くない?」

 

 綾が言う。

 

「掃除がなってないんでしょ。やれやれ」

 

 シャロが呆れたように言う。

 

 授業開始を告げるチャイムが鳴った。

 

 すると、背後の扉が開いて男が現れた。大きなターバンを巻き、片目が痙攣している神経質そうな男――彼こそ、DADA教授『クィリナス・クィレル』である。

 

「ど、どど、どうも、み、みなさん。わ、わわ私は、クク、クィリナス・ク、クィレルです。ど、どうぞ、よ、よよよ、よろ、よろしく」

 

『『『『『『『『…………』』』』』』』』

 

 ――あ、この人ダメだ。

 

 瞬間的に全員がそう思った。最初から期待値が高かっただけに、彼等彼女等の失望は非常に大きかった。

 

「そ、そそ、それでは、き、今日は、ゾ――」

「あの、この部屋の匂いは何ですか?」

「はいぃ!?」

 

 綾が聞いた。何故かそれに怯えたような声を出すクィレル。質問されただけだというのにこの有様である。

 

「こ、ここ、こらは、これは、ですね! き、ききき、きゅ、吸血鬼避け、で、です! い、いつどこから、や、やつらが襲ってくるか、わ、わか、わかりませ、わかりませんから、ね! よ、ようじ、用心に越したこ、ことと、ことは、ない、無いですよ」

「は、はあ……? ど、どうも」

 

 生返事を返す綾。まあ、この説明では仕方ない。

 

「そ、そそ、それではきき、気を取り直して、きき、今日は――」

「あの、先生はなんでターバンを巻いてるんですか?」

「はいぃ!?」

 

 ディーンが聞いた。いやだからどこにそこまで怯える要素があるというのか。何に怯えているというのだ。

 

「こ、ここ、これはでで、ですね、ア、アアフリカで、や、厄介なゾンビがい、いま、いまして、そ、それで、わ、わ私がそれを、た、たたた退治した、と時に、お、王子様が、お、御礼にとく、くれた、もも、ものです」

 

 ――嘘くさい。

 

 瞬間的に全員がそう思った。いきなり信用度0である。第一印象って大切ですよね。

 

 そんなしどろもどろになるクィレルを見て、呆れたように誰かが呟いた。

 

「……そんなんで、どうやってゾンビを倒したんですか」

 

 呆れと怒りを滲ませたような声でそう言ったのは、美紀。

 

「へぇっ!? ……きょ、きょ、今日の天気は、あ、ああ、いいおてん――」

「話を逸らさないでください!!」

「ひぃっ!!?」

 

 嘗てない剣幕で、美紀が叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっとみきちゃん」

「あんな弱々しい態度で……そんなんでゾンビと戦えるとでも本気で思ってるんですか!? 戦えるっていうのなら、教えて下さいよ!! 倒せるっていうのなら、教えて下さいよ!!」

「ひ、ひ、ひぃぃぃ……!!」

 

 クィレルが後ずさる。顔は怯えきった表情そのものだ。

 

「私には分かりません」

 

 クールダウンしたように、美紀が言う。

 

「な、ななななな、ななななにが」

「言えないんですか?」

「な、ななななな、ななななにを」

「……話聞いてなかったんですか? ゾンビの倒し方ですよ!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

「そんな風に怯えるだけでいいと思わないで!!! 私はただ教えて欲しいと言っているだけで、それ以上のことは何も要求していません!!! それとも何です!!? 喋ることも出来ないんですか!!? その口はなんなんですか!!? 何のためにあるんですか!!? そもそも貴方は闇の魔術に対する防衛術を教えるんじゃないんですか!!? これは貴方の領分でしょう!!? 何故です!!! 何 故 だ ! ! ! ! 」

 

 激昂する美紀と。

 

「す、すいません、すいません、すいません、すいませんんん!!!」

 

 何故か謝りだすクィレル。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

 

「…………失望しました。もう良いです。すいません」

 

 美紀は鉾を収めた。

 

 ――駄目だこの人。

 

 このやり取りを以って、全員が確信した。ただ喋ればいいだけなのに、そこまで怯えるものなのか? 生徒の剣幕なんかに負ける教師が、闇の魔術に対する防衛術なんて本当に教えられるのか?

 急に激昂した美紀を訝しく思う気持ちもあった。だがそれ以上に、クィレルの最悪すぎる対応が、生徒達の目に余った。

 

 ……その後、クィレルは体調不良を訴え、教室から出て行った。

 授業が終わるまで、クィレルが復帰することは無かった。そしてその行動により、さらにクィレルの信用は崩れ落ちた。

 

 授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

 

 

[150]

 

 〜休憩開始〜

 

「……すみません。授業、一時間無駄にしちゃって……私の所為ですね」

 

 美紀が言う。

 

「……別に気にしなくていいんじゃない? あの後ちゃんと復帰出来なかったのはクィレル先生の方だし、それにあんなので心が折れるようじゃ、あのまま授業続けててもこうなってたよ」

 

 翼が言う。

 

「そ、そうだよ! 気にしちゃ駄目だよみーくん! ほら、笑顔笑顔!」

 

 由紀も言う。

 

「別にあんたが悪いんじゃないでしょ。……あれが腰抜けなだけよ」

 

 シャロもまた言う。

 

「……ありがとうございます」

 

「だが、なんであんなに反応したんだ? ……ゾンビに何かあるのか?」

 

 リゼが言う。

 

「……惚けやがって」

 

 誰にも聞こえないほどの小さな声で胡桃が呟く。だが、由紀には聞こえていたようで、心配そうに由紀は胡桃を見た。

 

「何かあったって言うか……会ったというか」

「?」

 

 はぐらかすように言う美紀。当然、リゼにはどういうことか分からない。

 

 ――美紀の激昂は、彼女達の生い立ちを考えればもっともなものだった。うじゃうじゃと学校の周囲を徘徊するあの忌まわしい姿――思い出すだけで心臓が抉られるような思いになる。

 そしてそれは悠里、胡桃も同じことだった。悠里はその性格上声を荒らげるようなことはしないが、もしも胡桃があの2組のカオスに挟まれていなければ、彼女もまた美紀と同じような行動を取っただろう。

 

 ――気に食わない。

 ――あれだけ命懸けで戦ったあいつらが。

 ――友を奪い、思い人を思ったあいつらが。

 ――あんな小心者に、倒されるなんて――。

 

 だから、理由を教えてほしかった。どうやって戦ったのかを。そして、伝授して欲しかった。教師らしく、教えて欲しかった。

 そうすればもしも元の世界に帰ったとき、きっとあのサバイバルは、ずっとマシなものになるかもしれないから――。

 

 休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴った。

 

 〜休憩終了〜

 

 休憩が終了したにも関わらず、何故かクィレルは帰ってこない。まさか、生徒に怖じ気付いて逃げたのか?

 

 〜10分経過〜

 

「嘘だろ……」

「なんだよあの先生……」

「ダメダメじゃない……」

「なんでこの教科教えてるのよ……」

 

 生徒が騒めく。なんと、まだクィレルは帰ってこない。まさか、本当に、逃げたのか? 疑念のパンデミック。

 

 〜25分経過〜

 

「は、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 息を切らして、ようやくクィレルが帰ってきた。

 

「す、すすす、すす、す、すすす――」

 

 遅れたことを詫びようとしているように見えるクィレル。だが、言葉が出てこない。

 

 ――もういいから早く授業しろよ。

 

 全員が思った。

 だが、それを言葉には出さない。出せば、またさっきの二の舞になることだろう。

 

「――……で、では、じゅ、授業を、さささ再開、しし、します!」

 

 ――謝らねえのかよ!

 

 全員が心の中でツッコんだ。

 

 授業内容自体は至って普通であった。本当に、普通。魔法史のようにつまらないことも無ければ、呪文学のように楽しいことも無い。普通、平凡。

 しかし、クィレルのその喋り方の所為で、授業内容とは関係ないところで生徒に不快感を与えていた。ボソボソと喋るので何を言っているのか分からないところもあれば、所々で言葉がつっかえるので聞き辛いこと甚だしかった。

 

 それ以外は、特に何事もなく、残りの15分を過ごしたのだった。

 

 〜45分経過〜

 

「そ、そそ、それでは、ここ、ここれで授業を、ををお、終わりにした、したいと、おも、思います。でで、では!!」

 

 授業の終わりを告げると、クィレルは逃げるように教室から出て行った。

 

 生徒達にとって、一番楽しみにしていた授業がこのDADAだった。だが、いざ授業が終わってみれば、一番期待外れな授業となった。最悪な授業トップにランクインさせた生徒も、多々いるだろう。

 

 ――だが、彼等彼女等はまだ知らない。これ以上の教科があることを。

 まだこの教科は減点一つされなかったのが救いであったことを――そしてその教科の名は『魔法薬学』。グリフィンドール生の、次の授業である。

 




 ……最初はこんなつもりじゃなかったんです。最初はまともに授業してもらうプロットの筈だったのですが、書いてる内にいつの間にやらこんなことに……。クィレル先生には申し訳ないことをしてしまいましたね。
 でもこれが、キャラが勝手に動くってことなんですね!(違う)

 それはそれとして、はい、いよいよ授業篇残り2話!
 ラストである32話はもうある程度構想が出来てるんですが、問題は29話なんだよなあ。天文学。あれをどうやって水増しするか……。
 場合によっては、29話すっ飛ばして話を進めていく可能性があります。ご了承下さい。

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