ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

29 / 77
 三つ目の授業は変身術。魔法史よりは長いですが短いです。気軽にどうぞ。


※注意事項※

・おまけ消しました。

・誤植修正(8/3)

・何かあったら書きます。


怒涛の魔法授業 : 変身術

【第27話】

きんいろニードル

  -変身術-

 

 

[142]

 

 ――変身術。

 

 グリフィンドールとスリザリン合同の授業。教授は『ミネルバ・マクゴナガル』。1年次の主な受講場所は『8番教室』。天文台塔にあり、◯番教室で2番目に大きな教室である。

 

 変身術はその名の通り、物を変身させる術を学ぶ学問。物を変身させるということは物の本質をも変えてしまうことであり、必然、多大な魔法力と複雑な魔法理論が必要になる。故に、魔法界で最も難しい学問と言われることもしばしばなのだ。

 1年次の教科書は『変身術入門(エメリック・スィッチ著)』。また、資料集として『魔法論(アドルバート・ワフリング著)』を使う。

 

 

[143]

 

「…………」

「ど、どうしよう……さっきからシノ真剣な顔して教科書読んでるよ……」

「シノが真剣な顔するなんて……熱でもあるんじゃないでショウか……」

「お前ら忍をなんだと思ってんだ」

 

 アリス、カレン、胡桃。

 

 ――そう、この教室に入って席に着くや否や、忍は即座に『変身術入門』を開き、真剣な面持ちで熟読し始めたのだ。もう一度いうが、これをやっているのはあの大宮忍である。

 彼女はこの変身術という教科にどれだけの期待を抱いているのだろうか。そして、その期待とは――。

 

 バタン、と音を立てて後ろの扉が開いた。皆一斉に振り向く。

 

「……あれはネコデス!」

 

 カレンが叫ぶ。

 

 そう、入ってきたのは標準的な大きさのトラ猫だった。おかしなところは何処にもない、普通の猫。目の周りの縞が眼鏡のように見えるが、それくらい普通のトラ猫にも有り得る特徴だろう。悠々と前まで歩いてきた。

 

「ま、まさか、あの猫が先生じゃないっすよね!?」

 

 真魚が慄く。

 

「いや、流石に猫が先生は無いだろ」

 

 少し離れて隣に座る胡桃が言う。グリフィンドールとスリザリンの座席は違うのだ。

 

「いや、分かんないっすよ……さっきの魔法史の授業では、ゴーストが教えてたっすからねえ(寝てたけど)」

 

「――ゴーストと私を一緒にされては困りますね」

 

『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』

 

 突然の女の声。全員が目を見張る。

 なんと驚くべきことに、先程まで猫が居た場所に立っていたのは妙齢の魔女だった。一年生たちは皆彼女に見覚えがある。そう、彼女こそこのホグワーツの副校長にして変身術教授『ミネルバ・マクゴナガル』である。

 

「――変身術は」

 

 マクゴナガルは変身するや否や説教を始めた。

 

「ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」

 

 クラス中が静かになった。彼女の厳格さが為せる技である。

 

「では改めて、ようこそホグワーツ魔法魔術学校へ。私は変身術を担当するミネルバ・マクゴナガルです。もしも皆さんが真面目にこの学問に取り組むのであれば、これから長い付き合いになるでしょう。よろしく」

「ハイ!ハイ! さっきのどうやったんデスカ!? 猫から人間の姿に変わったやつデス!」

 

 マクゴナガルの自己紹介が終わるや否やすぐに手を挙げて質問したのは、カレン。

 

「……人間の姿から獣の姿へと変身する――これも、変身術における分野の一つです。これはとても高度な魔法の一つであり、これを習得した者は『動物もどき』と呼ばれます」

 

 マクゴナガルは再び猫になり、そしてまた猫から人間の姿へと戻った。全員が拍手する。

 

「しかし、この魔法は多大な危険とリスクが伴います。己を変質させるということに他ならないからです。嘗て何人もの魔法使いや魔女が、この『動物もどき』になる術を研究してきましたが、その中の何人もが人に戻れなくなってしまいました」

 

 部屋中が騒めく。マクゴナガルは続ける。

 

「本質が変わってしまい、最終的には人間であったことを忘れ、『動物もどき』ではなく『動物そのもの』になってしまったのです――変身術という分野はそういうものなのです。常に危険と隣り合わせの学問――分かりましたね? もう一度言いますが、いい加減な態度で授業を受けるなら、この教室から出て行ってもらいますし、二度と入れません。……皆さん、何故今のをノートに書かないのです? ミス・オオミヤを見習いなさい」

 

 忍を除いて、全員が一斉に羽ペンを動かし始めた。……その隙を突いたのかどうか分からないが、忍が手を挙げた。

 

「何ですか、ミス・オオミヤ」

「マクゴナガル先生、一つお聞きしたいことが――さっきの『動物もどき』についての話とは関係ないのですが」

「どうぞ」

 

 忍が質問する――『変身術』という授業の存在を知ってから、ずっと聞きたかったことを――。

 

「……変身術を用いて、人の髪を金色に――金髪にすることは可能でしょうか」

 

「可能です」

「!!」

「ですが、その領域に達するにはまだまだ時間がかかります。髪というのは生物の一部であり、それを変質させるということは生物そのものを変質させるということに他なりません。一部とはいえ、簡単なことでは決してありません」

「……そうですか……」

 

 忍が肩を落とす。

 

「……気を落とすことではありません、ミス・オオミヤ。これからの過程を真面目に取り組み、確実に習得していけば、必ず辿り着ける領域です。少なくとも、『動物もどき』になるのと比べればずっと簡単でしょう」

「……はい!」

 

 力強い返事であった。しかし、彼女の友人たちは知っている。そういう教科に限って(限らずとも)忍の成績が悪くなるということを。だから、

 

「……シノ大丈夫かな」

「ヤバそうデスネ……」

「そ、それでも、この熱意なら、いくら忍ちゃんでも……き、きっと!」

 

 アリス、カレン、穂乃花の反応である。皆応援してはいるのだが、しかし信じてない。

 

「……ノートを取り終わりましたね? では、授業に入ります」

 

 マクゴナガルは杖を振る。するとチョークが一人でに動き、文字を書き出す。

 

「変身術でまず最も大切なことがあります。それは、杖をはっきりと動かすこと、そして、作り出したい姿をはっきりと心に思い浮かべることです。この2つを満たしていなければ、細かな技術という以前の段階で必ず変身呪文は失敗するでしょう」

 

 マクゴナガルは続ける。

 

「まず杖をはっきりと動かすことについてです。『変身呪文』は全てがデリケートな魔法。ほんの些細なミスでも発動しないか失敗するか、その二択しか与えられません。成功させるには、少なくとも寸分の狂いもない精密さで杖を振らなければならないのです。はっきり、しっかりと。不必要に揺らしたりくるくる回したりすると、確実に失敗します」

 

 羽ペンの音が教室に響く。一呼吸置いて、マクゴナガルは続ける。

 

「もう一つ、作り出したい姿を心にはっきりと思い浮かべることについて。これもまた変身呪文を使うには必要不可欠なものです。『発光呪文』や『燃焼呪文』といった魔法と『変身呪文』は根本的に違います。前者は杖の動きと呪文が重要になってきます。しかし後者はそれに加え、頭の中でイメージを作り出さなければならないのです。この変身呪文は脳と密接に関わっており、"何を何にしたいか"が重要なのです。変身呪文はテンプレート染みた魔法ではなく、使用者のイメージが魔力に変換されその魔力があって初めて、成功する魔法なのです」

 

 生徒は必死に書き写している。中には、もうお手上げといった生徒も居る。

 

「変身術はこの2つの要素がまず主軸。これがなければ始まりません。ここにさらに幾多もの要素を加えると、こんな事が出来ます」

 

 マクゴナガルは教卓を机に向けると、小さく振った。

 すると、おお、なんと面妖な! 教卓が一瞬にして豚に変わったではないか! まるまると太った、美味しそうな豚だ。

 再び杖を一振りすると、豚はまたもとの教卓の姿に戻った。生徒が拍手する。

 

「皆さんには、最終的にここまで出来るようになって頂きます」

 

 拍手が凍り付いた。

 

「しかしながらこれはまだまだ先。皆さんが今すべきは基礎中の基礎です」

 

 マクゴナガルは再び杖を振る。今度は何かを変身させたのではなかった。教卓から小さな箱が人数分飛び出すと、生徒全員の机に着地した。マッチの箱(家庭型)だ。

 

「今日皆さんにやってもらうのは、初歩中の初歩『マッチを針に変える』です。まず初めは無機物から無機物への変身です。変身術においてはものの形状も大切な要素の一つ。元のものに形が似ていれば似ているほど、変身させやすくなります。また、大きいものより小さいもののほうが変身させやすいです」

 

 マクゴナガルはマッチを一本取り出して、親指と人さし指で摘んだ。そしてマッチを一振り――すると、何ということだろうか、一瞬にしてマッチが銀色に輝く針に変わったではないか! 杖はピクリとも動いていない。生徒は口をぽかんと開けている。

 

「ここまでしろとは言いません」

 

 再び一振り。元に戻った。

 

「皆さんには杖を使って、これをやって頂きます。3限の残り少しと4限の前半を使って、まず変身呪文の理論を教えたいと思います」

 

 ――呪文を使用するには、まずそのプロセス、理論を知る必要がある。それは変身術に限らず、呪文学、魔法薬学においても同様である。

 

 〜45分経過〜

 

 終了の鐘が鳴った。

 

「一旦ここまで。10分休憩」

 

 〜休憩開始〜

 

 

[144]

 

 〜休憩終了〜

 

 授業開始を告げる鐘が鳴った。

 

「では、先程の説明の続きから入ります」

 

 マクゴナガルは再び説明を始めた。生徒はそれに何とか食らいつこうと必死にノートを取る――が、次々と力尽き、脱落していく。もう昼時。これが終われば昼食が待っているという希望を持ってなんとか集中しようとするしか無かった。

 

 〜約15分経過〜

 

「理論についての説明はこれで終わります。ここからは実技です。3限で言ったように、皆さんにはマッチを針に変えてもらいます。ここまでの説明をしっかりと聞き、理解しているのなら、必ず可能です」

 

 ついに実技が始まった。生徒たちはみな次々とマッチに杖を向け、呪文を唱えていく(『ムターティオ・アクス 針に変えよ』)。

 

 ――しかしながら、未だ誰も成功しない。ただマッチが転がっただけだったり、銀メッキを被せただけだったり、そもそも何も起こらなかったり、針に変えることが出来ても先が丸かったり、欠けていたり、挙句の果てには爆発させる者(シェーマス・フィネガン)まで現れた。

 決して甘く見ていた訳ではない。訳ではないが、しかし余りにも難しすぎる。ただマッチを針に変えるだけでこれなのに、教卓を豚に変えるなんてどうして出来ようか? 全員が不安に駆られる。そしてその不安がまた変身呪文を失敗させる。不安は魔法全般にとって天敵、如何なる魔法であれ、不安が術者の中にあれば成功率は限りなく低下するのだ。

 

 皆が不安に駆られ、失敗を繰り返し、段々と投げやりになっていく中――彼女だけは、一心不乱に呪文を唱え続けていた。

 

「『ムターティオ・アクス!』……ダメですね、もう一回。『ムターティオ・アクス!』……失敗、もう一回。『ムターティオ・アクス!』……違います、もう一回。『ムターティオ・アクス!』……紐です、もう一回。『ムターティオ・アクス!』……ああ金髪――もう一回。『ムターティオ・アクス!』――」

 

 次から次へと失敗し、失敗する度に素早くマッチを取り出していく。彼女の変身術に対する熱意はまるで変わっていない。変身術という学問の難解さを思い知ったにも関わらず、まるでそれを意に介していない。彼女の中には不安などなかった。ただひたすらに、マッチが無くなるまで、成功するまで呪文を繰り返すだけ。

 

 ――全ては、金髪の為――。

 

 ――全少女金髪化計画を実行するためにも、こんな所で躓いてはいられない――!

 

 ――理想郷を、手にするためにも――!

 

「『ムターティオ・アクス! 針に変われ!!』」

 

 忍は叫ぶように、呪文を唱えた。

 

 ――パキン。

 

「っ!!!」

 

 ――マッチを犠牲にすること346本。347本目にして遂に、針に変わったのだ! しかもただの針ではない。金色だ! きらきらと輝く、美しい黄金の針である!

 

「や――やった――アリス、カレン、穂乃花ちゃん、若葉ちゃん!! わ、私、ついにやりました!! 私、出来ましたー!!!」

 

「さ、流石だよシノ!! やっぱりシノは凄いよ!!!」

「Oh !!! Great !!!!」

「凄いよ忍ちゃん! 忍ちゃんはやれば出来る子だったんだね!!」

「凄いですわ! 流石は金髪同盟盟主……!!」

 

「マクゴナガル先生!! 見てください!! 私、やりましたよ!!」

 

 嬉し泣きしながら叫ぶ忍。マクゴナガルは早足で駆けつけ、その金色の針をまじまじと見つめ、手に取った。

 

「これは……ああ、なんと美しい――皆さん見てください、ミス・オオミヤが変身させた針を! どうです!? ほら、こんなに尖っています! そしてこの眩いばかりの金色! 針は銀色であるという固定概念に縛られない、自由かつ柔軟な発想――発想というものは変身術において非常に重要な要素の一つです! よく出来ましたミス・オオミヤ!! 素晴らしい!! グリフィンドールに30点!!」

 

 マクゴナガルは滅多に見せない満面の笑みを忍に見せながら忍に言った。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!? さ、30点!!? い、良いんですかそんなに!!? ひゃははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎ひゃはあぁぁぁ⤴︎!!!」

「こんなに綺麗な針に変えることが出来た生徒は、私が見てきた限り貴女が初めてですミス・オオミヤ! きっと貴女の夢も叶うでしょう!」

 

 忍の歓喜の叫び声。讃えるマクゴナガル。そしてそれと同時に、終了を告げる鐘が鳴った。

 

「本日の授業はここまで! 宿題として、針に変身させたマッチを次回持って来てもらいます! では、解散!」

 

 最初の授業からいきなり宿題を出し、さらにその内容が内容である。ブーブー言いながらも生徒たちは大広間へと向かった。

 

「おいオオミヤ! ちょっと変身させられたからって調子に乗るなよな! すぐにこの僕がお前を追いぬか――」

 

 よせば良いのに煽りに行くドラコ。どうしてこう近付くのか。

 

「ひゃははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎ひゃはあぁぁぁ⤴︎!!! 金髪!! 金髪少年!! 自分から話しかけてくれるなんて、私感激です!! さあ、金髪を下さい、ドラコ!!!」

 

 ドラコの右腕が忍の左手によりがっしりと掴まれた。――しまった、近付かれた――顔面蒼白になるドラコ。忍の右手が髪に伸びる。ああ、もう駄目なのか、ドラコ・マルフォイ! 屈してしまうのか!

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!!!」

 

 マルフォイは叫ぶと、全力で忍を振り払いドアへ向かって全力疾走! 逃走だ!

 

「ぜ、絶対ッ!! 絶対いつかお前を倒すからな!! 勝ったと思うなよォォ!!!」

「「待ってー」」

「ドラコ様ぁぁぁぁ!!」

 

 捨て台詞を吐きながら逃げ去ったマルフォイ。追いかけるゴイル、クラッブ、パンジー。

 

「……凄いっすね、あいつを瞬殺出来るなんて」

 

 真魚が感心したように言う。しかし当の忍は浮かない顔。

 

「……私……金髪……欲しいだけなのに……」

 

 忍がマルフォイの髪を手に入れる日は、来るのだろうか?

 

 




 なんと文章量、魔法史の約2倍!(普段の約2/3だけど)

 それはそれとして、授業篇はあと5つ! そこから先はちょっとずつ話が進み始めます。しばしお待ちを。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。