※注意事項※
・おまけ消しました。
・何かあればここに書きます。
【第26話】
眠りへ誘う木瓜
-魔法史-
[139]
――魔法史。
レイブンクローとスリザリンの合同授業。教授は『カスバート・ビンズ』。主な受講場所は『4番教室』。天文台塔の2階にある教室で、◯番教室系統の中では3番目の広さを誇る。
魔法史はその名の通り、魔法界の歴史を学ぶ学問である。そして、一番嫌われている教科でもある。少なくともこのホグワーツでは。教科書は『魔法史(バチルダ・バグショット著)』。
[140]
「どんな先生なんすかね!? イケメンだと嬉しいなー」
「さあねえ……女の先生かもねえ」
「えー……」
「女は嫌なの?」
「女の先生とか新鮮味がないんすよねー! 是非とも男の先生に来て欲しい!」
駄弁る真魚とメルジーナ。
真魚の場合、以前の世界で通っていた高校が女子校だった為に男が殆どいなかった。そりゃそんな環境にいれば女なんて新鮮味無くなる筈である。
「はっはっは! これだから穢れた血は困るんだ! そうやって馬鹿みたいに性別で優劣を判断しようとする……はっはっは!」
「あーもう黙れっすマル……マル……マルコポーロ!」
「マルフォイだクロカワ!!」
「ちょっと! ドラコ様を馬鹿にするのはやめなさいよね!!」
ドラコの横から口を挟むのはパグ犬めいた少女――パンジー・パーキンソン。
「あらあらマルフォイくん、女の子に守られてるの? 普通男の子が守る立場じゃない? ぷぷぷ」
「喧しいこの穢れた血!!」
「ドラコ様を馬鹿にするなこの穢れた血!!」
「「穢れた血!!」」
「お前らそれしか言えないんすか」
ドラコ、パンジーに加えいつものゴイル、クラッブも乱入。しかしながら言う事は"穢れた血"の一点張り。
「……そろそろかな」
「ん?」
チャイムが鳴った。
瞬間――。
「一年生の皆さんようこそホグワーツへ。私は『魔法史』の授業を担当する、カスバート・ビンズであります。よろしく」
なんと、前方にある巨大な黒板からすり抜けてきたかのように現れたのは、半透明の男たった。
「私が教えるのは確かな証拠に裏付けされた過去の出来事、即ち歴史であります。歴史とは私達を形作った物でありどこにでも必ず存在するもの。不確かな物ではなく、確実にそこにあるものなのであります。それは皆さんがこれから生きていくためには知るべき事であります。先人たちの知恵、行動を知る事によってこれから私たちが何をすべきかということがよく分かるのです。良いですか、歴史です。この世界は歴史で出来ているのであります。故にこの世界を知るなら歴史を知る事が必要不可欠であり、もっといってしまえばどの授業よりもある意味必要なものであるということをまず諸君に知っておいて頂きたく思う所存であります。では前置きはこの辺にして早速教科書を開きなさい。まずは第1章『魔法界の始まり』から。私はゴーストの為にチョークを握ることは出来ませんがしかし私の声を聞けば、ノートにそれを書き写すことは容易な筈であります。そもそも魔法界とは――」
真魚、パンジー、マルフォイ、ゴイル、クラッブは寝た。彼女彼らだけではない、前置きの段階で既に何人もの生徒が夢の世界に誘われている。
一本調子。これ以上ない程の一本調子。それに加え、ゴースト故の弊害かビンズの声はまるで壊れたラジオから流れてくるような嗄れた声のようであった。それがまた眠気を誘い、メルジーナ、ノットを除く全てのスリザリン生は眠ってしまったのであった(レイブンクローも何人か寝てる)。
〜15分後〜
「――であるからして、マグルは魔法族を火炙りの刑に処したのであります。しかしながら魔法族にとってその火は心地よいものでしかなく、寧ろ自分からその刑を受けにいった者もいたのであり――」
睡眠中。
〜30分後〜
「――故にマグルの王に仕えるという選択をした者も沢山居たのであります。その殆どが狡猾であり、仕えるどころか寧ろその主人を魔法を用いて殺す者などわんさかと居たのであります。例えば魔女モルガナは――」
睡眠中。
〜45分後〜
チャイムがなった。
「であるからして――うむ、では10分休憩」
ビンズは黒板の向こうへ消えた。
〜休憩開始〜
「ふあぁ……おはよう」
「おはようマオ。いい寝顔だったよ」
「初授業で寝ちまったっすよ……眠くならなかった?」
「私は眠くならないよ」
「マジっすかー。じゃあ後でノート見せて」
「ノートとってるとは一言も言ってないよ」
「おい」
「はっはっは! これだから穢れた血は馬鹿なんだ! 授業で寝るなんてな、はっはっは!!」
顔を上げたと思ったら再び煽り出すマルフォイ。どの口が。
「マルフォイ、お前も寝てなかったか?」
「マルフォイ、お前も寝てたよな?」
「こんな時だけ反応すんなよお前ら!!」
ゴイルとクラッブの裏切り。面目丸潰れ。
「えー? 自分が寝てたこと棚に上げてたんすかー? やだマルフォイくんってば、意外に子供っぽーい!」
「喧しいこの穢れた血め!!」
「それ以外言えないんすか金髪!!」
「これ以外どんな罵倒があるんだよ!!」
「知らねえっすよ語彙力無いなあ!!」
「さっきからドラコ様に失礼よあんた!!」
「引っ込んでろパグ犬!!」
スリザリンの内紛。しかしながら、
「五月蝿いぞスリザリン!!」
「「「邪魔すんなレイブンクロー!!!」」」
「あんたら仲いいでしょ」
唐突なレイブンクローの乱入により一瞬だけだが心が一つになった3人。犠牲になってくれたレイブンクロー生(マイケル・コーナー)に感謝、合掌。
その後も鐘が鳴るまで煽り合いは続いた。
[141]
〜休憩終了〜
「それでは先程の続きから行くであります。しかし不要とは思うが何人かは休憩時間の間に忘れている可能性もある故、先程の流れをお浚いしようと思う。そもそもいつから魔法界が出来たのかといえば――」
真魚たちは眠りに落ちた。
《Mao's dream》
――私たちは大きな杯の周りに立っていた。杯からは炎が上がり、不思議なことにそこから3枚の紙が飛び出してきた。本来なら紙を燃やして失くす筈の炎が紙を生成するとは……魔法、恐るべし。
「――これで――――――――――の――が決定した――」
ダンブルドア校長が何やら言ってる。……何言ってるか聞こえない。もっとはっきり喋って欲しい。
……おや? 何やらもぞもぞ言っている間に杯から4つ目の紙が。? どうしたことだろう? 何か騒めいている。
「――――・――――――」
……え?
き、聞こえない……何だって?
「――マ――ク――ワ――」
マクワ? 何すかそれ――。
《real》
〜15分経過〜
「――だからこそ彼はこうするしかなかったのであります。しかしながらその行動は見事に反感を買い、彼は処刑台送りに――」
《Mao's dream》
――私は箒に乗って空を飛んでいた。何故? 何のために? 背後を振り向く。
「――――――――――!!!」
輪郭がぼんやりとしていてよく分からないが、深緑色の大きい何かが後ろから迫っていた。あれから逃げていたのか。鳴き声のような音を立てて近付いてくる――あれに捕まったら、どうなってしまうのだろう?
「――――――――――!!!」
――そもそも、空を飛んでいるから追われるのではないのか?
「――――――――――!!!」
きっとそうだ、そうに違いない。それに何故か陸に降りなければいけない気もするし、飛び降りるべきだ。
「――――――――――!!!」
意を決し、箒から飛び降りた――地上が迫る――落ちる――あれ? これ、死ぬんじゃないの?
――なんで、飛び降りたんだっけ?
《real》
〜30分経過〜
「――そこで彼が考案したのがこの忌まわしき法である。当然何者からも受け入れられることもなく、先程まで自分を支持していた仲間たちでさえも彼を見捨て――」
《Mao's dream》
――私は湖の中を泳いでいた。凍えるほどに、冷たい水。
何故かは知らないが、息が出来る。ふと首を触った。鰓だ。鰓がある。不思議なこともあるものだが、今は兎に角水面に出なければ。
――右腕が重い。何だろう? 見ると、私が掴んでいたのは――――――――――。何で彼女がこんな所に?
上に向かって泳ぐ――しかし、上昇しない。寧ろ下降していく。どういうことだ? 足下を見る。すると、緑色の靄が脚にまとわりついているではないか。蹴る――蹴っても手ごたえがない。どんどんまとわりついてくる、離れない!
「ごぼっ、ごぼぼっ、ごごっ」
い、息が出来ない――鰓が無い!?
沈んでいく――なんとかしないと――追い払わないと駄目だ――どうやって――?
遠くから鐘の音が聞こえる――鐘? なんで鐘が? どんどん近付いてくる――何でもいい、鐘でも何でもいいから、助けて――!
《real》
〜45分経過〜
終了を告げる鐘が鳴った。
「――では、今日はここまで。さようなら」
ビンズは黒板の向こうへと消えていった。
「……ん……あぁ……」
「マオ大丈夫? なんか随分魘されてたよ」
「……あぁ、大丈夫……」
「どんな夢見てたの?」
「……どんなだっけ……なんか凄く怖かったのは何となく覚えてるんすけど……」
「はっはっは! 夢で怖がるなんて、これだから穢れ――汚れた血は困るんだ! はっはっは!!」
「凄いっすね、あれで違うこと言ったつもりになってるっすよ」
「ある意味凄いねえ」
「喧しい!!」
喚くマルフォイを尻目に、2人は教室を出て行った。
――もしも。
真魚は思った。
――もしも――よく覚えてないけれど――あのまま起きなかったら、私は、どうなっていたのだろう――?
目の奥で、杖から放たれたあの緑の閃光がフラッシュバックした。
ほら、予告通り短かったでしょう?(開き直り)
いや、でもこれ本来想定していたよりよっぽど長いんですよ。正直1000字到達出来るかどうかさえ不安でしたからね。良かった良かった。
さて、次回の長さはどれ位でしょうか? まあ、1万字を超えることはこの授業篇ではまずありませんのでご了承を。