ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 授業篇第一回です。最初の授業は、薬草学。


※注意事項※

・おまけ消しました。

・誤植『レイブンクロー塔』から『天文台塔』へ変更。

・何かあればここに書きます。


怒涛の魔法授業 : 薬草学

【第25話】

未来への種蒔き

  -薬草学-

 

 

[136]

 

 ――薬草学。

 

 グリフィンドールとハッフルパフ合同の授業。教授は『ポモーナ・スプラウト』。1年次の主な受講場所は『第一温室』。ホグワーツ裏手にある温室の一つで、比較的育てやすく危険度の低いものを栽培している。

 薬草学はその名の通り、『魔法薬』の材料となる薬草やキノコの種類や栽培方法、生態などを学ぶ教科である。1年次の使用教科書は『薬草ときのこ1000種(フィリダ・スポア著)』。

 

 

[137]

 

 ホグワーツ初日から、早速授業だった。

 

 次の日の時間割は寮の掲示板に張り出されているので、把握しようと思えばいつでも出来たのだが、如何せん彼女たちは一年生。そんなことが分かるはずもない。しかも昨夜はどの寮でもお祭り騒ぎであった。

 

「いきなり授業とか誰が予想するのよ! っていうかこの時間割決めたの誰よ! 普通最初は校内探検とか……もっとこう!」

「そうよ! 不親切が過ぎる!」

 

 開口一番に不満を言うのは琉姫。二番目に香奈。

 

 そうは言うが、校内探検なんかやろうとすれば、果たしてどれだけの時間を費やすことになるのか想像も付かない。そもそも一日で終わるかどうかさえ定かではない。この城は広いのだ。しかも広いだけに飽き足らず彼方此方に"仕掛け"があるため、先生方もホグワーツの全貌を知る者は居ない。創始者でさえ、知らないのではないか?

 

「挙句の果てには簡易的な地図しか無い……イカれてるわね」

「まさかいきなり温室を探せと言われるとは思わなかった」

 

 シャロとリゼ。

 

 そう、このホグワーツにはロクな地図がない。当然だ、全貌を把握している者が居ないのだから、作りようがない。もしホグワーツを完全網羅するような地図があれば、是非見てみたいものである。

 

 口々に不満を言うグリフィンドールとハッフルパフの面々。

 

 と、そこで温室の扉が開いた。

 

 生徒は一斉にそちらを注視する――入って来たのはずんぐりとした小柄な魔女だった。ふわふわと散らばった髪に、継ぎ接ぎだらけの帽子を被っている。服は泥だらけだ。

 彼女こそ、薬草学教授にしてハッフルパフ寮監――ポモーナ・スプラウトである。

 

「一年生の皆さん、初めまして。この教科を担当するポモーナ・スプラウトです。どうぞよろしく」

 

 口々に返事を返す。

 

「今日は皆さんの記念すべき最初の授業ということで、面白い植物をいくつか持ってきました――これらの植物は一年生ではまだ習いませんし、そもそも教育課程にまだ入っていない貴重なものもあります――まずは、これです!」

 

 取り出したのは鉢。中には土と、幾つかの石ころが入っている。

 

「……何あれ」

 

 ラベンダーが小さく呟いた。

 

「これは『有根石』。その名の通り、根のついた石なのです」

「何だって!?」

 

 良い感じの反応を示したのはネビルただ一人。他の生徒は余りピンときていない様子。

 

「どうしたのネビルくん、珍しく興奮してるわね」

 

 琉姫が言う。

 

「だ、だって――岩に根が生えてるんだよ!? これは凄いことだ――鉱物なのかな、それとも植物なのかな……せ、先生! どっちなんですか!?」

「ネビルくん植物好きですからね」

 

 薫子が言う。

 

「ミスター・ロングボトム、とても良いところに目をつけました。グリフィンドールに10点。……しかし残念なことに、それはまだ分かっていません。学会では植物と主張する方が今の所多数派ですが、どうもこれには葉緑体が無いようなので、もしかすると、鉱物でも植物でもない、新カテゴリーに分類されるかもしれない代物です――二鉢ここに置いておきますから、後で観察してみてください。まだまだ謎の多い生命体なので、もしかしたら何か新しいことを発見出来るかもしれませんよ!」

 

 スプラウトは長机の左右それぞれの端に鉢を設置した。

 

「凄いのは何となく分かりますが、イマイチピンと来ませんね」

「私は植物だと思うな〜……若葉ちゃんどう思う?」

「新カテゴリーのような気がしますわ。早く決まるといいですわね」

 

 次。

 

 次にスプラウトが取り出したのは――鉢ではなく、大きな直方体型の物体。布が被せられている。

 

「次に紹介するのは、間違いなく植物の一種ですが、まず初見では植物と思う人は居ないでしょう」

「またさっきみたいな系統のやつかな?」

「ふっふっふ、今度は虫型と見たデース」

 

 アリスとカレン。

 

「それではお見せしましょう――これです!!」

 

「qrrrrQQQQQQQQQQQ !!!!」

 

 奇声――としか表現出来ないような音――を立てて布を剥ぎ取られた檻から飛び出したのは、鳥だった――否、鳥のような植物だった。風に舞っているわけではない。明らかに自力で葉を羽ばたかせ飛行している!

 

「しょ、植物が空を飛んでる……!?」

「信じられません……!」

 

 驚きを隠せない胡桃と美紀。他の生徒も同じような反応だ。

 

「これはダイズの一種で、『鳩大豆』と呼ばれています。詳しいことは6年生――NEWTレベルの授業でやりますが、見てわかるようにこの植物は風に乗るのではなく、自力で空を飛ぶのです。鳩大豆という名前の由来は、空を飛ぶことともう一つ、みなさん聞こえていますか? この植物が発する音が鳩の鳴き声と非常によく似ているところから付けられています――『ゴグガビット! 集合せよ!!』」

 

 説明を終えたスプラウトは杖を取り出すと、檻を2、3回叩きながら呪文を唱えた。するとどうしたことか、鳩大豆が吸い込まれているかのように檻の中へ次から次へと飛んでくるではないか! 全部が檻に入ると、スプラウトは再び布を被せた。

 

「こいつらは日光を浴びて動きます。なのでこうして日光を遮ってやると、ぴたりと動きが止んでしまいます」

「……空中で日光が当たらなくなったら、そのまま落下するんですか?」

 

 質問するのは悠里。

 

「良い質問ですね、ミス・ワカサ! ハッフルパフに10点! そう、普通はそう思います――ですがどうやらこの植物、地上と空中の違いをはっきりと理解しているようなのです。この植物には脳はありません。ですが恐らく、細かな気圧や温度の違いで地上か空中かの判断をしているとされています。彼らは日光が無ければ動けませんが、ある程度日光をチャージしておくことが出来るようで、空を飛んでいる状態で日陰にはいると、チャージした日光を使って陽の当たる場所まで飛んでいくのです。しかし、チャージした分が切れると、その場合は勿論、地上に落ちてしまうのです」

 

「ありがとうございます」

「なんか太陽電池みたいだな」

 

 直が言った。

 

 次。

 

「お次は、これです!」

 

 次にスプラウトが持ってきたのは少し大きめの植木鉢。その植木鉢の中に入っていたのは、おお、何と禍々しい気配を雰囲気を放つ蔓草であろうか! スプラウトが日光をシャットアウトし、影の中で蠢くその黒い姿、まさしく――。

 

「これは『オオクロシュンツルクサ』――日陰で生活する獰猛な蔓草です。日陰での凶暴性、色から、通称『悪魔の罠』とも呼ばれています」

 

 ――悪魔の名を冠するに相応しい。

 

 1限の終わりを告げる鐘が鳴った。

 

「はい、それじゃあ詳しい説明は次の時間! 休憩の間、そこの2種類を観察したい人は、自由に観察してみてください。何かあったら、すぐに私を呼ぶこと!」

 

 休憩時間開始。

 

 

[138]

 

 休憩時間終了。

 

「それでは、悪魔の罠について軽く説明します」

 

 スプラウトは悪魔の罠を日向に置いた。先程まで蠢いていた元気は何処へやら、すぐにただの蔓草の如く大人しくなった。それを見ると、説明を始めた。

 

「まず、この悪魔の罠というのは先程言った通り、獰猛かつ凶悪な植物です。自然で見かけたらまず無視するのが最善の策でしょう」

 

「そんなもん持ってくるってのも何だかなーってかんじ」

「えー、面白いじゃん!」

 

 シャロとココア。

 

 スプラウトは続ける。

 

「しかし見ての通り、この植物は日光に弱い。夜中に出歩かず、日影を通らずに歩く人にとっては縁のない植物なのです」

 

「緑なのに縁がないだって……ふふっ」

「……先輩、緑と縁って漢字違います」

「にゃんですと……!?」

 

 由紀と美紀。

 

 スプラウトは続ける。

 

「詳しい生態を皆さんの修学過程では習いません――ですが、知っておいて何ら損がないことが一つ。"悪魔の罠からの脱出方法"です」

 

 生徒が騒めいた。スプラウトは続ける。

 

「悪魔の罠――今回はこんなに小さいものを持ってきていますが、これはまだまだ苗木のレベル。本来の悪魔の罠は、この温室全体を覆う程に巨大な植物です。もしもその"罠"に足を踏み入れてしまったら――どうなってしまうでしょう」

 

 スプラウトの言葉は大袈裟でも何でもない。寧ろまだ足りないと言っても過言ではない。飽くまで悪魔の罠の標準的なサイズがこの一号温室くらいであるというだけで、今まで確認された最大のものは、3つある全ての温室を合わせた大きさに匹敵、否、それ以上なのだ。……そんなこと言われても実感が湧かないと思うので分かりやすく言うと、東京ドームを丸々覆えるくらいの大きさと言うと分かりやすいか。

 

「悪魔の罠の回避方法――それは、その名前にヒントが隠されてあるのです……閃いた人は居ますか?」

 

「はいはいはい!」

 

 小夢が手を挙げた。

 

「ミス・コイヅカ」

「天使の罠とお見合いさせる!」

 

 周囲からどっと笑いが起きた。天使なのに罠とは一体。

 

「あっはっは、面白い回答ですねミス・コイヅカ! ですが残念、違います」

 

 不正解。

 

 関係ないが『天使の戒め』と呼ばれる植物は魔法界に存在する。『オオシロシュンツルクサ』という植物で、悪魔の罠の近縁種。通称も悪魔と対比して付けられた名前である。

 

「はい!」

「ミス・オオミヤ」

「金髪を」

「違います」

「まだ言い切ってませんよ!?」

 

 ばっさり。問答無用。不正解。

 

 どうでもいいが金色に反応する生物は魔法界に存在する。『ゴルディアンアイ』と呼ばれる魔法生物で、探検家が金銀財宝を探すときのオトモとして重宝されている。また、肉は脂が乗ってて美味しいので非常食としての側面もある。

 

「はい!」

「ミスター・フィネガン」

「取り敢えず爆発させれば良いんじゃないでしょうか!?」

「残念、それは寧ろ逆効果です」

 

 不正解。

 

 ……余談として付け加えるまでもなく、大抵の植物は爆発で死ぬ。はい。

 

「……はい」

「ミス・カツキ」

「……この悪魔の罠っていうのは、この蔓で獲物を捕らえるんですよね」

「ええ、その通り」

「じゃあ……動かなければ、良いんじゃないでしょうか」

「あら」

「もがけばもがく程この蔓が絡まると仮定すると、そうなると逆に動かなければ興味を示さなくなるのではないか、と――こう考えれば、"罠"という言い方にも納得出来ます――どうでしょう?」

 

「…………正解!! その通り! よく出来ましたミス・カツキ! グリフィンドールに20点! みんな拍手!」

 

「ウイング・Vー!!」

「翼ちゃんかっこいー!!」

 

 周囲から拍手喝采が飛ぶ。特に小夢とラベンダーからの喝采が凄い。

 

 スプラウトが解説する。

 

「それでは解説しましょう――と言っても、もう殆どミス・カツキが答えてくれましたね。そう、"動かなければいい"んです。この悪魔の罠は動くものだけに反応して攻撃します。もしこんなものに巻き付かれたら、まず混乱し、解こうとしてしまいますよね? それはいけません。それをやってしまうと、蔓から抜け出すどころか更に蔓を増やし、蔓の力を強め、確実に仕留めようとしてきますから、もし捕まっても、焦らず落ち着いて、静かに対処すれば良いのです――もっと詳しい生態を聞きたい生徒は、また個人的に聞きに来て下さい」

 

 解説終了。

 

 次。時間的にラストの植物。

 

「最後は、これ!」

 

 スプラウトが取り出したのは、またもや大きな植木鉢。最後だというのだからさぞとんでもないものなのだろうな――全員が期待したが、出て来たのは見る限りなんの変哲もない小さな蔓草。少しだけ失望の雰囲気に包まれた。

 

「これは『迷路蔦草』――別名『不死の蔦』とも呼ばれる植物です」

 

 不死の蔦。その別名に少しだけ興味を惹かれ始めた一年生たち。

 

「不死の蔦……切られても切られてもすぐに再生するとかか?」

「他の蔦と合体するとか?」

「どこか傷付くとさらに大きくなる、とか」

 

 リゼ、陽子、パーバティの予想。それ以外にも皆口々に予想している。

 

「はい、静かに!」

 

 スプラウトが手を叩く。皆、スプラウトの方を向いた。

 

「皆さんとてもいい予想をしてくれています。そして――その通り、殆ど皆さん正解です。よって、グリフィンドール、ハッフルパフにそれぞれ10点!」

 

「……やっぱり私のが正解じゃないのか」

「いや私よ」

「私に決まってる!」

 

 争うリゼ、パーバティ、陽子。しかし、スプラウトから出た言葉は、そんなことさえ無意味と思えるような内容であった。

 

「正解は――全てです」

 

『『『『『『『『!?』』』』』』』』

 

 全員が驚愕した。

 

「せ、先生? 全てとは」

 

 綾が聞く。

 

「全ては全てです、ミス・コミチ――この不死の蔦は、枝を切られても即座に回復し、他の個体に近付けるとその個体と合体し、さらに全体的な大きさも大きくなる――どれだけ分断されようとも切られた枝からはまた根が生え、再び違う個体となる――これが、不死の蔦の正体です。尤も、環境に関してはデリケートなので、唯一"環境"という死因がありますが」

 

『『『『『『『『…………』』』』』』』』

 

 絶句である。そんな無茶苦茶な――分裂だけでなく融合も可能になったプラナリアを植物にしたような存在である。生物としては明らかに常軌を逸している――。

 しかし、これが魔法界の生物であり、魔法界の植物だ。この世界には今までの常識は一切通用しない――22人はこの授業を通し、改めてこの世界の恐ろしさを知ったのであった。

 

 ――因みにこの"不死の蔦"、何やら噂では、魔法省の『国際魔法協力部』という部署で数年前から大規模な繁殖が行われているとか行われていないとか……。仮にそうだとすれば、一体何故そんな事をしているのだろうか?

 

 2限の終わりを告げる鐘が鳴った。

 

「はい、それでは今日の授業はここまで! 次回からは教科書に沿って、通常通りの授業を行います!」

 

 スプラウトが終了を告げる。生徒はぞろぞろと温室から出て行き、次の授業の場所へ向かう。

 

「香奈ちゃん、次は何のクラスなの?」

「えっとこっちは……呪文学だっけ、何かそんなかんじの名前の授業。穂乃花の方は?」

「私のとこ? えっとね――カレンちゃーん! 次の授業なんだっけ〜?」

「覚えてないのかよ」

 

「次の授業デスカ? ……アリスー! 次の授業何デシタっけー?」

「そっちも覚えてないのかよ!」

 

「確か次は……変身術だったっけ」

「へえ、変身術なんてのもあるんだ」

 

「その通り、変身術です」

 

 何時の間にか香奈の背後に忍。

 

「変身術……私、この教科には他の授業には無い"可能性"を感じているのです!!」

「か、可能性?」

「はい! 聞きたいですか!?」

「いや、いい。どうせ金髪絡みだろうし」

「さ、流石香奈ちゃん! 何でもお見通しです! はっ! もしや香奈ちゃんも金髪同盟に入りたいのでは……!?」

「あはは、全力でお断り申し上げます」

 

 ――あの忍が。

 ――勉強が苦手な忍が何故、よりにもよって魔法界で最も難解と噂されている(スーザンから聞いた)変身術に対して"可能性"を感じているのだろうか? 香奈は不思議に思いつつも、忍たちグリフィンドールと別れ、呪文学の舞台『天文台塔』へと向かった。

 

 ――次々回、大宮忍の存在により、変身術の授業が激震する――!!

 

 勿論嘘だ。

 

 

 




 はい、短いですね! 仕方ないでしょう! 授業1個だけで一話使うとか無謀もいいとこなんですよもう!(じゃあ2個使えよ)

 そんな訳で、最初の授業は薬草学でした。因みに、今回にも言える事ですがこの授業篇、殆どがオリジナル設定で出来ています。原作との相違とかもありそうな気がしますが、飽くまでもこれはハリポタ原作とは違う世界線での出来事、ということでご了承下さい。うわ何をするやm

 次回、間違い無く、短いです。

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