ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 ホグワーツ初日、この回を以って終了とさせて頂きます。


※注意事項※

・15000字。それなりに長いです。

・スリザリン寮でのあるキャラの長台詞は『ポッターモア』から引用したものを少しアレンジしたものです。ご了承下さい。

・他、なんかあれば書きます。


ホグワーツ最初の夜

【第24話】

 

 

ホグワーツ最初の夜

 

 

[133]

 

 

《Gryffindor》

 

 ――グリフィンドール寮談話室。

 

 寮のシンボルカラーである『真紅』で統一した家具が置かれ、暖炉が勢いよく燃え上がる、心地の良い部屋。

 

 奥の階段を上り、右に行くと女子の寝室、左に行くと男子の寝室がある。尚、女子は男子生徒の寝室に行くことが出来る(規則違反)が、逆に男子が女子生徒の寝室へ行くことは許されない。行くと、トラップが作動する。不公平もいいところである。

 基本的な寝室内装は、真紅のビロードのカーテンが掛かった4本柱の天蓋つきベッドが5つ置いてある。即ち、一部屋5人まで入ることが出来ると言うわけである。

 

 

 ――新入生の部屋割りはこうなった。

 

 男1.シェーマス・フィネガン

   ディーン・トーマス

   ネビル・ロングボトム

   ウェイン・ホプキンズ

 

 女1.大宮忍

   アリス・カータレット

   松原穂乃花

   九条カレン

   小橋若葉

 

 女2.保登心愛

   萌田薫子

   丈槍由紀

   恵飛須沢胡桃

   直樹美紀

 

 女3.天々座理世

   勝木翼

   パーバティ・パチル

   ラベンダー・ブラウン

 

 

《side Girl 1》

 

「……真っ赤な部屋だね」

 

 まず、部屋に入っての第一声はアリスのこれであった。

 

「真っ赤っかデスねー。この部屋を作った人は、さぞ自己主張が激しかったのデショウ」

「赤ですか……金ではなく」

「……なんだか手抜きに感じますわ。ただ赤く統一すれば良いという訳ではありませんのに……」

「ちょっと目が疲れるよね〜」

 

 不評の嵐である。仕方あるまい、この部屋を提案したのはグリフィンドール創設者『ゴドリック・グリフィンドール』。彼は熱い男であったが、それ故か、周囲の意見を聞かず暴走することが多々あった。自分が正しいと信じて疑わなかった。その結果が、彼の趣味100%のこの部屋である。

 

「……これは、由々しき事態ですよ。アリス、カレン、穂乃花ちゃん、若葉ちゃん」

 

 重々しく、忍が言う。

 

「何の因果か偶然か、私たち金髪同盟はこうして一つの部屋に固まることが出来ました。それはとても喜ばしいことです」

 

 ベッドに座って忍が言う。ポーズは、某新世紀アニメの司令官のアレをイメージしてくれれば良い。

 

「ですが……これは宜しくありませんね」

「な、何が宜しくないのでしょう?」

「若葉ちゃん……まだまだ若いですね。金髪同盟に入って間もないのですから、分からないのも無理はありません……穂乃花ちゃん」

「うん……確かに、この事態はどうにかしないといけないね」

 

 穂乃花も隣のベッドに座り、忍と同じポーズで言う。

 

「……カレン。シノたち何の話してるんだろう」

「放っておきマショウ。私たちは取り敢えず、荷物整理するデス」

「カレンにしては何か真面目だね」

「酷いデス!?」

 

 カレンとアリス。

 

「申し訳ありません……わ、私には、何がなんだか――はっ!?」

 

 若葉に電流が走った。――そうか。そういうことだったのですね!?

 

「わ、分かりました! その由々しき事態という事が!」

「流石だね、若葉ちゃん」

 

 感心したような笑みを浮かべ、穂乃花は言う。

 

「つまり、こういうことですわよね――この赤い部屋は、金色を信奉する私たちにとって相応しく無い部屋であると――!」

「若葉ちゃん。遂に貴女も更なる高みに到達ししたようですね」

 

 忍が静かに立ち上がった。

 

「――我ら金髪同盟、黄金を是とする私たちが、このような真っ赤な部屋を拠点としていて、果たして良いのでしょうか? 勿論、良いわけがありません!」

 

 拳を握る。

 

「赤い部屋に居るのなら赤髪同盟になってしまいます! ですが、私達は赤髪同盟ではありません! 私たちは、金髪同盟です!」

 

「きん!」

「ぱつ!」

 

「よって、今、金髪同盟創始者の名の下に――」

 

 忍は拳を天高く振り上げた。

 

「――この部屋を、金色に染め上げることを、違います!!」

 

「「きん! ぱつ!」」

「きん! ぱつ!」

「きん! ぱつ!」

「きん! ぱつ!」

 

「「「きん!! ぱつ!!」」」

 

 おお、なんというきん! ぱつ! チャントか! この光景をまともな人間が見れば、心を鷲掴みにされて金髪同盟に加わってしまうことは請け合いだ! しかし、この場にまともな人間は居ない。アリスとカレンは、金髪同盟に属するもう一つの集団『シノ部』なのだ! 既に洗脳済みの2人には、このきん! ぱつ! チャントは意味を成さない!

 

「……でも、部屋を金色にするって、怒られないかな?」

 

 アリスが言う。

 

「ふっふっふ、流石アリスです。そこに気付くとは……ですが、その辺の対策も言い訳もバッチリです!」

「Oh !! 流石シノデス!」

「さて、このグリフィンドールのイメージカラー。紅と、何色でしたか?」

「えっと、紅とき……あ、そうか!」

 

 アリスが手を打った。

 

「そう! グリフィンドールのイメージカラーは、紅と『金色』!! これを言い訳にすれば、きっと許して下さる筈なのです!」

「さ、流石シノ……!」

 

 この部屋の紅色はゴドリックの趣味であると同時に、グリフィンドールのイメージカラーでもある。グリフィンドールのイメージカラーを決めたのは言うまでもなく、ゴドリック・グリフィンドール。本来、部屋を塗り替えるという行為はその寮に対する冒涜と受け取られても仕方が無いが、しかしこの場合、塗り替える色は同じくイメージカラーである金色なのだ。ゴドリック、及びグリフィンドール寮に対する冒涜ではない!

 

「やっぱりシノ凄いよ! シノは大和撫子の鑑だよっ!!」

「アリスにそう言って頂けると、嬉しいです!!」

 

「シノ!」

「アリス!」

「シノー!!」

「アリスー!!」

「シノーーー!!!」

「アリスーーー!!!」

 

 部屋中に響く大声。マグルの世界でこれをやれば間違いなく隣人から壁ドンされる案件であるが、しかしここは魔法界。特に名誉あるグリフィンドール寮の一室。防音の魔法が掛かっていない訳がなく、他の部屋の住人はこの喧騒に気付かないのであった。

 

 ――この後、別に夜通しこのお祭り騒ぎが行われた訳ではなく、普通に荷物の整理をして、11時くらいに寝た。健康的で結構である。

 

 

《side Girl 2》

 

「……兎が居ない」

「何言ってるんです?」

 

 部屋に入っての一声。こちらはココアの謎の一言と美紀のツッコミであった。

 

「兎がいない!」

「だから何なんだよ!?」

 

 胡桃もツッコむ。何故兎が居ると思ったのか。

 

「……でも、可愛い妹はいるー!!」

 

 薫子と由紀に飛び掛かる心愛。由紀は無抵抗に捕まり、薫子は避けた。

 

「えへへー、ユキちゃんもふもふー」

「ココアお姉ちゃんってば〜甘えん坊さんだな〜」

「ひ、ひぃっ」

 

「何ですかねあれ」

「触れるな」

 

 美紀と胡桃は、既に荷物の整理を始めている――荷物? 荷物……どこから荷物が? そもそもよく考えてみれば、彼女たちは学校の用意を持っ

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 既に購入済み。杖も購入済み。以上。この話題について触れることは、このワールドが許さない。

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「……それにしても」

 

 胡桃は周囲を見渡した。赤。真っ赤。真紅。一周回って地味だ。

 

「酷い部屋だな……はは」

 

 感慨深げに何を言うのかと思えば部屋の批判であった。が、その表情には不快さが無い。

 

「ええ……酷い部屋ですね。はは」

 

 美紀も笑う。

 

「かおすちゃんもふもふー!」

「お姉ちゃんって呼んでー!」

「ひいぃぃぃ!!?」

 

「でも、良い部屋じゃないですか」

「ああ、そうだな」

 

 目の前で繰り広げられるカオスを見ながら、2人は言う。

 

 ――ああ、なんと平和な事だろう。

 ――夢と錯覚しそうになる程に、夢見た程の、甘美な夢(スイートドリーム)

 

 地獄に放り込まれ、悪夢を見続けた彼女たちが、ただ一心に望み続けたもの。平穏、平和――全てが、ここにある。

 これ以上ない幸せ――逆にこれ以上、何を望めと言うのだろうか。

 

「みーくん! くるみちゃん! こっち来てかおすちゃんもふもふしよー!」

「レッツコール! シスター!」

「あ、あわわわわ」

「みーくんじゃないです」

「今のうちに準備しとかないと、明日朝から忙殺されることになるぞー?」

「……む、忙しいのはやだな。じゃあ用意するー。めぐねえ手伝ってー」

 

 由紀はベッドに戻った。

 

「ほら、お前らも」

「あ、あわ、あわわわわ」

「お姉ちゃんって呼んで!」

「駄目みたいですね」

「よし、こうなりゃ、力尽くだ!」

 

 そう言うや否や、胡桃は人間離れしたスピードで心愛との距離を詰め、羽交い締めにした。そしてその隙に、由紀が薫子を救出!

 

「あぁ〜……」

 

 名残惜しそうにココアが呻く。

 

「ほら、今のうちに用意して」

「は、はいっ! ありがとうございます! みーくんさん!」

「あはは、さん付けするなら美紀でいいよ。みーくんは止めて」

 

「みーくんさん、お姉さんみたいですね」

「!!!!!!」

 

「あはは、みーくん止めて」

「まあいいじゃないか……どうした」

 

 羽交い締めにされながら項垂れるココア。

 

「お……お……」

「はい?」

「お、お姉ちゃんって呼ばれたからって、良い気にならないでよねー!!」

「その辺がお姉ちゃんって呼ばれないとこなんじゃ……」

「そーのーよーゆーうー!!」

 

 じたばたするココア。見よ、これが自称姉の姿である。

 

「……これから、楽しくなりそうだね」

 

 由紀が呟く。

 

「だって、こんなにみーくんとくるみちゃんが心からはしゃいでるのって、久し振りだもん――めぐねえも、そう思うでしょ?」

 

 由紀は続ける。

 

「こんな日が、ずっと続けばいいな」

 

 

《side Girl 3》

 

「……赤いな」

「……赤い」

「……赤いわね」

「……赤過ぎる」

 

 第一声×4。四者四様、その呟きの中には多少の批判が混じっている――なんという不評の多さなのだろうか、グリフィンドール寮。

 

「と、とにかく慣れるしかないな。これからはずっとここで過ごすんだし」

「うん、そうだね」

「まあ、仕方が無いわね」

「妥協妥協」

 

 どこまでも褒められないグリフィンドール寮。他とは違うグリフィンドールとは、そういうことだったのだろうか。

 

 彼女たちは他の部屋の連中(金髪同盟、しの部、妹狂)とは違い、割と真面目な者たちが集まっている(多分)。ベッドの割り当てもスムーズに終わり(他の部屋ではなし崩し的に決まっている)、荷物の整理も終了した。早い。

 

「……まあ、こんなもんでいいでしょ」

 

 ラベンダーがバッグを放り投げる。中身を整理したというのに、一瞬で無駄になった。何がしたいのだ。

 

「それよりさ! 折角ルームメイトなんだし、自己紹介しよ!」

「お、いいぞ」

「そうだね」

「うん」

「わー、反応うっすー」

 

 そんな訳で、自己紹介が始まった。トップバッターは言い出しっぺの、ウェーブのかかった金髪少女――ラベンダー・ブラウン。

 

「私はラベンダー・ブラウン! 好きに呼んでよねー! そうね……うん、それくらい」

「それだけかよ!? もっと、ほら、趣味とか」

「私趣味とかないのよねー……はい、次!」

 

 強引に進めるラベンダー。次は男勝りなツインテール少女――天々座理世。

 

「私は天々座理世。リゼと呼んでくれ。そうだな……銃の撃ち方を知りたい奴は言いに来い、教えてやる」

「いや、誰がそんな野蛮なもん知りたがるのよ……」

 

 髪を真ん中分けした黒髪の少女――パーバティ・パチルが呆れたように言う。しかし、

 

「銃!? 何よそれ超クール! あとで教えて教えて!」

「是非知りたい……漫画のネタになる!」

「あんたらマジか」

 

 興味全開のラベンダーと翼。

 

「お、おう! 私の訓練は厳しいぞ!」

「はーい!」

「了解した」

「あと、習いたいなら言葉の後ろにサーを付けろ!」

「「イエス、サー!」」

「ゴーストになる覚悟はあるか!」

「「イエス、サー!」」

「よし! 次行こう」

「切り替え早っ」

 

 三番手は、紺色の短髪を持つ少女――勝木翼。

 

「私は勝木翼。よろしく。副職業は漫画家で、『暗黒勇者』っていうのを描いてる」

「暗黒勇者……またなんという個性的な」

「えー!? あの漫画描いてるのツバサだったのー!? ってことは、ウイング・V……本物!?」

「お前の漫画、随分人気らしいな」

「サ、サイン下さい! ツバサ……いや、ツバサ様!!」

「様付け……」

 

「いいだろう、貴様にこの暗黒の紋章を授けよう。暗黒の紋章は未来を阻む力を持つ――お前の道は荊の道、修羅の道、それでも良いと言うのなら、純白の碑をここに出せ」

「はい! 仰せの通りに!」

 

「なんだこれ」

 

 ついて行けてないパーバティ。まさか、こんな個性派集団の部屋に放り込まれるとは思ってもみなかったのだ。

 

 パーバティ・パチル。彼女のターンが来るまで相当時間が掛かった事と、それに反して彼女の自己紹介の時間が異様に短かった事だけ付け加え、グリフィンドール最初の夜を終了とする。

 

 

[134]

 

 

《Hufflepuff》

 

 ――ハッフルパフ寮談話室。

 

 グリフィンドール、レイブンクロー、スリザリンの談話室に比べ、比較的影の薄い談話室。それが、ハッフルパフ寮談話室だ。しかしそれは誇るべきこと以外の何物でもない。影が薄いということは、逆に言えば立ち入る者が少ないということだ。否、少ないどころの騒ぎではない。驚くべきことに、このハッフルパフ寮談話室、約1000年以上もの間部外者の目に触れていない。

 その秘密は、ハッフルパフ寮の侵入者撃退システムにある。談話室の入り口は、キッチンがある廊下の右手隅に積み重ねてある大きな樽に隠されてある。下から2番目、2段目の真ん中にある樽を『ハッフルパフ・リズム』で叩くと蓋が開き、談話室に入ることが出来る。

 では、正しく叩けなかった場合どうなるか? 周囲の樽から大量の酢が不正なる侵入者に浴びせられるのだ。一見シンプルかつ意味の無さそうな仕掛けだが、想像してほしい。酢が目の中に入ったら、どうなるだろうか? 酸性のものが目に入ったら、どうなるだろうか? ……想像するだけで、恐ろしい。

 

 トラップを潜り抜け、樽の中に入ることに成功すれば、そこから先にあるのは黄色と黒のハッフルパフ寮談話室。

 談話室は丸く、天井が低い。この談話室は地下にあるからだ。丸い窓からは草やタンポポが風にそよぐのが見え、部屋中の彼方此方には磨き上げられた銅が使われている。

 外だけではなく、談話室内にも植物はたくさんある。天井から吊るされたり、窓枠に置かれたり様々だ。これは、ハッフルパフ寮監『ポモーナ・スプラウト』が薬草学の教授であり、談話室を飾るためにいろいろ植物を持ってくるのに由来する。それ故か、薬草学の成績優秀者の殆どはハッフルパフから排出されている。ある意味、贔屓と言えるかもしれないが。

 

 そんなハッフルパフ寮の寝室は談話室の壁にある丸いドアから行くことが出来る。内装は、全体的に茶色っぽく質素。銅のランプが暖かな光を投げかける4本柱のベッドは各部屋4つ。全てパッチワークのキルトで覆われていて、足が冷たい時用に、銅のベッドウォーマーも完備されている。主張の少ない部屋だが、それが良い、寧ろ落ち着く、と結構好評である。ハッフルパフ生の人柄に由来する物でもある評価だが。

 

 

 ――新入生の部屋割りはこうなった。

 

 男1.ジャスティン・フィンチ - フレッチリー

   アーニー・マクミラン

   ザカリアス・スミス

 

 男2.ケビン・エントウィッスル

   オリバー・リバーズ

   ロジャー・マローン

 

 女1.宇治松千夜

   桐間紗路

   小路綾

   猪熊陽子

 

 女2.日暮香奈

   真柴直

   時田萌子

   スーザン・ボーンズ

 

 女3.若狭悠里

   色川琉姫

   恋塚小夢

   ハンナ・アボット

 

 

《side Girl 1》

 

「……なんか地味」

 

 第一声は陽子。やはり批判から入られるのはどの寮も同じなのか。

 

「そう? 慎ましやかでいい部屋じゃない」

「そうね。落ち着いて勉強できそうだわ」

「清潔なだけよっぽどマシよ」

 

 しかし、フォローされる辺りグリフィンドールとは違う。流石、他とは違うグリフィンドール。

 

「じゃあさ、早速枕投げしようぜー!」

「あんたねー……荷物の整理が先よ。明日の朝どうなってもしらないわよ?」

 

 呆れたように言うシャロ。

 

「初日からバタバタするのはよくないわ。整理なんてすぐ終わるし、早めに済ませちゃいましょ」

 

 早速取り掛かっている綾。

 

「えー……まあ、そうだな。分かった。でも、やり終わったら枕投げな!」

「あんたは修学旅行生か!」

 

 〜少女整理中〜

 

「よーし! やろうぜー!」

「しょうがないわね」

「もしかして私もやるの?」

「面白うだし、やりましょうよ」

 

 そんな訳で、枕投げスタート。ルールは、一回当たったらおしまい。以上。

 

「私の回転投げから逃げられると思わないことね!!」

 

 意外にも最初に仕掛けたのは千夜。その場で一回転し、勢いをつけ、枕を投げる。狙うは――シャロ!

 

「うっ、三半規管が……っ」

 

 一回転した段階で枕が手から落ちた。勢いを付けるとか狙いを付けるとかそれ以前の問題で、一回転の時点で三半規管がやられ、倒れた。

 

 ――宇治松千夜、自滅。

 

「弱すぎる!?」

「あんた何がしたかったの」

「はっ、注意が千夜ちゃんに向いている――やるなら今しか無いわ!!」

 

 いちいち回転とか小細工はせず、純粋にただ投げるだけ――狙うは、陽子!

 

「はぁぁーーーぁっ!!」

 

 思いっきり投げた――が、しかし枕は陽子の方どころか明後日の方向に飛び、壁にぶつかって跳ね返り、自滅した千夜に激突!

 

「ぐふっ」

「何ですって!?」

「あんたノーコン過ぎるわよ」

「っしゃあ!! このまま私が勝ってやる!!」

 

 陽子は枕を持って飛び掛かる――最早枕投げの体を成していないが、そんなことを指摘する余裕のある者は無く。

 

「いやぁぁぁっ!!」

「ひぃぃっ!!?」

 

 狙ったのは綾――しかし、ギリギリで避けられた。これは良くない。仕留められなかったということは、今の自分の行動はただ隙を自らみすみす晒しただけ。綾は枕を持っていないが――しかし、その横!

 

「ふん、バカね」

 

 シャロは――枕を2つ持っている!

 

「何ぃぃ!?」

「拾ったのね!」

「二人まとめてお陀仏しなさい!!」

 

 2つの枕を同時に投げた! 片方は綾、片方は陽子に向かう!

 

 陽子にとっては2つ来なかったのは不幸中の幸いであった。そして、枕を手に持っているのも。手に持った枕で、飛んできた枕をシャロに打ち返す! だが、枕如きにそこまでの反発力なんて無く、ただ横に逸れただけで終わった。

 

 一方、綾は陽子の攻撃を避けるのにかなり無理な動きをした――それが響いている。次は避けられない。シャロからの攻撃を避けることは出来なかった。

 

 ――小路綾、撃墜。

 

「くっ――!」

「ふん、避けたわね」

 

 シャロが最後まで生き残るのは陽子にとって予想外であった。正直、千夜がなんだかんだ最後まで残ると思っていた。まさかあそこまで弱いとは――。

 

「千夜があそこまで弱いとは思わなかった、とか考えてるでしょう」

「…………!」

「そうね、自分から動いたら本当千夜は最弱なのよ――でも、一切攻撃に回らなければ、千夜は実質一番強い」

「何――?」

「千夜にはね、まずこちらの攻撃が当たらないのよ。避けるのに長けた奴なのよねー……さっさと自滅してくれてほっとしてるのよ」

「……ふうん」

「ふふふ――隙あり!!」

「っ!!」

 

 聞かれてもない話をした理由はここにあった。一瞬の隙を突き、シャロは陽子が跳ね飛ばした枕を拾い、その場で半回転、陽子に向き直り回転の勢いを付けて投げた! コーヒードーピング無しでこの運動能力――日頃色々やってるお陰である。

 だが、陽子も負けてはいられない。今陽子の手元にある枕は2つ。再びそれで弾く!

 

「ちっ」

「あっぶねー」

 

 シャロは千夜が落とした枕を手に持つ。陽子は弾いた枕を拾いに行かず、そのまま2つの手持ち。今この状況で枕を拾えば、それこそ無防備も良いところだ。

 

「…………」

「…………」

「シャロちゃん頑張ってー」

「が、頑張って陽子!」

 

 謎の緊張が部屋に充満する。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

「「…………いやぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 2人は枕を手に持ち、飛び掛かる!! だから、そういうゲームじゃないのだが――。

 

 

《side Girl 2》

 

「ふーん、良い感じの部屋じゃない」

「地味なのが良い味だしてるよね〜」

「わざわざ派手である必要ないしな」

「あったかそうな部屋だね〜」

 

 割と好印象。グリフィンドールとはどこで差が付いたのか。生徒、環境の違い。

 

「じゃあ、まずは荷物片付けましょ」

「ああ、そうだな」

「片付けてから自己紹介やろうよ」

「いいねー」

 

 すらすらと話が進んでいく。比較的まともな4人だからだろうか。片付けやら整理やらもすぐに終わった。

 

「じゃあ、自己紹介やろっか」

「じゃあ誰からやる?」

「じゃんけんで決めようぜ」

「賛成ー」

 

 結果、直、スーザン、萌子、香奈の順になった。

 

「よし、じゃあ私からか。えっと……真柴直だ。よろしく。僕は――違う、私は、昔サッカーをやっていて、ぼ、わた、ぼ、ぼ、ぼく……わたぼくしわたああああああ!!!」

「柴さん落ち着いてー!?」

「ボクっ娘なんだー」

 

 混乱する直。元の世界と合わせれば、2回目の失態である。まあ、既に香奈と萌子には知られているのでそこまで気にする必要はないような気がするが。

 

「ああああああ!!!」

「直ちゃん置いといて次行こう」

「うん、行こう行こう」

「――って置いとくなー!!」

 

 次のターン。長い三つ編みを背中に一本垂らした少女――スーザン・ボーンズである。

 

「私はスーザン・ボーンズ。適当に呼んでね。後は……思いつかないから、何か聞きたいこととかある?」

「スーザンちゃんって、お菓子好き?」

 

 と、萌子。

 

「好きだよ。うーん……カップケーキとか良いよね」

「良いよね、カップケーキ! 他には!? 何か食べたいのあったら、作ってあげる!」

「お菓子作れるんだ、凄い!」

「うん! 私は時田萌子、よろしく!」

「よろしくー……あれ、何気に私のターン終わった?」

 

 終わった。

 

「じゃあ逆に、聞きたいこととかある?」

「じゃあねー、百味ビーンズについてどう思うー?」

「存在してはいけない悪魔の食べ物と思う」

 

 この前のロシアンルーレットで萌子が引き当てたのはスターゲイザーパイ味。思い出すだけで身の毛がよだつ。そしてそれは直も香奈も同じこと。

 

「あれは本当駄目だ……史上最悪の食いもんと言っても過言じゃない」

 

 直が食べたのは血液味。いや本当、誰が作ったのだろうか。

 

「腐った卵って何よ……なんであんなピンポイントなもんが入ってるの?」

 

 腐った卵味のトラウマがまだ消えない香奈。普通の卵味があったのもプラスして、苛立ちを隠せない。

 

「みんなあれ嫌いなんだ。私だけと思ってたよー」

「寧ろなんで自分だけと思ってたのか聞きたい」

「みんな好き好きっていうの」

「あんたの周りゲテモノ好きの狂人しかいないんじゃないの?」

 

 恐ろしいことに、この魔法界において百味ビーンズは超メジャーかつ大人気お菓子。何故だろう。分からない。なんか人気なのだ。

 

「じゃ、最後は私。私は日暮香奈。よろしく」

「よろしく」

「よろしく」

「よろしく」

 

「じゃあ、終わりだね」

「ああ、寝ようぜ」

 

 自己紹介は、終了した。

 

「はいぃ!? よろしくって言っただけなんだけど!?」

「だって……なんか普通なんだもん」

「普通って言われてここまで凹む事があるとは思わなかったわ!!」

「大した趣味がある訳でもなさそうだしな」

「黙れ腐女子!!」

「そうだね」

「ちょっとー!? 私とあんた初対面!! 何が分かるってのよ!!」

 

「「「…………」」」

「何か言ってよ!!」

 

 そんな訳で、この部屋の夜は幕を降ろしたのであっ

 

「無理矢理終わらせるな!!」

 

 

《side Girl 3》

 

「良い部屋じゃない!」

「でもちょっと狭いねー」

「狭いのは多少我慢すれば、まあ」

「…………」

 

 久し振りに出てきた批判は『狭い』。地下という特性上、どうしても狭くなってしまうのだ。が、それでもそんな程度の批判しか無いあたり、グリフィンドールとは違う。

 

「じゃあ、荷物の整理しましょう」

 

 琉姫が言う。

 

「えー、折角なんだしお菓子食べようよー!」

 

 小夢が言う。

 

「じゃあ、お菓子食べながら整理したらいいじゃん」

 

 三つ編みを後ろに二本垂らした少女――ハンナ・アボットが言う。

 

「おー、それ名案! えっと……」

「ハンナよ、ハンナ・アボット」

「私、恋塚小夢! よろしくね!」

「私は色川琉姫よ」

「…………」

「……えっと、そこの貴女は」

 

 負のオーラを放ち続けている少女におずおずと琉姫が聞く。

 

「あっ、私? わ、私は、若狭悠里よ。よろしくね」

 

 笑顔で悠里は言う。

 

「悠里……ゆうり……よし、りーちゃんでいいや!」

 

 小夢が言う。

 

「! りーちゃん……ええ、それでいいわよ。ありがとう、こゆめちゃん」

 

 笑顔で悠里は言う。……小夢を見る目が変わったような気がするのは気の所為か?

 

「よしっ、これからりーちゃんが馴染みやすいよう、りーちゃんに関しては渾名で呼ぶ事にしよー!」

「そうだね。よろしく、りーちゃん」

「りーちゃん……渾名良いなあ」

「琉姫ちゃんも渾名欲しい?」

「ルキはルッキーとかで良いんじゃない?」

「る、るっきーは、その、翼ちゃんだけの専売特許なので……」

「ツバサ?」

「私の尊敬する子なの!」

 

 荷物の整理を続ける――が、中々進まない。お菓子を食べるのと同時作業だからだろうか。

 

「……ふう」

 

 悠里が一足先に終わった。

 

「わー、りーちゃん早ーい!」

「りーちゃん手伝ってよー」

 

 お菓子を食べるのメインで全く作業が進んでいない小夢とハンナのコンビが言う。

 

「自分でやりなさい、りーちゃんに迷惑よ」

 

 琉姫が言う。こちらもそろそろ終わりそうだ。

 

「そうよ、自分でやりなさい」

 

 悠里が言う。糸目で、表情が見え辛い。笑っているのだろうか?

 

「やだよー! お菓子食べたいー!」

「面倒なのは嫌だなー」

「貴女たちねえ……」

「…………」

 

 悠里が少し目を開く。普段糸目で分かりにくいが、彼女は吊り目なのだ。

 

「 自 分 で や り な さ い ? 」

 

「「!!!!」」

「ほ、ほら、怒らせちゃった……!」

 

 声色に変化はない。ただ、目を開いただけ。だがしかし、その言葉の中には妙な圧力が含まれていて2人に恐怖を与える。

 

 ――あ、この人逆らっちゃ駄目なタイプの人だ。

 

 この部屋における力関係の頂点が、完全に決定した瞬間である。

 

 

[135]

 

 

《Slytherin》

 

 ――スリザリン寮談話室。

 

 スリザリン寮談話室は地下牢の隠された入り口の奥にある。合言葉は毎週2週間ごとに変わり、談話室の掲示板に張り出される。スリザリンにおいて、この合言葉を他寮の生徒に教えるのは禁忌とされている。どの寮も基本的に隠密主義だが、俊敏狡猾なるスリザリンは寮の規則以上に、隠密的な生徒が多いのも禁忌の理由とされている。そして実際禁忌は7世紀もの間破られていない。

 

 談話室は全体的に薄暗く、緑色のランプの光だけが頼り。故に談話室においては部屋以外で勉強する者は殆ど無く、そういった手合いには不評ではあるが、逆に勉強より企てに重きを置く生徒にとってはその幻想的空間と閉鎖性は素晴らしいものであり、そういった生徒が他の寮よりも多いためか、この内装も割と好評価である。

 特筆すべきは談話室の窓から見える景色だ。他寮は地上が見えるが、この地下牢にあるスリザリン寮談話室においては、なんと水中が見えるのだ。ホグワーツ湖の水中に面しているこの窓からは多種多様な生物を見る事が出来る。水中人(マーピープル)海魔(グリンデロー)、巨大イカ(ダイオウイカとかそういうのでは無い。『巨大イカ』だ。それ以上でもそれ以下でも無い)などなど、暇な時に眺めていると面白い。この点に関しては神秘的な沈没船といった趣で、気に入っている生徒は多い。

 

 寝室内装は、緑の絹の掛け布がついたアンティークの4本柱のベッド(ベッドカバーには銀色の糸で模様が入っている。蛇を模している?)が2つ、壁を覆う有名なスリザリン生の冒険が描かれた中世のタペストリー(その根底にあるのは自慢。寧ろグリフィンドールがやりそうな事だが……根っこでは似ているのかもしれない)、天井からは銀のランタンが下がっている(光は言うまでも無く緑色。目に優しい)といったものである。

 

 

 ――新入生の部屋割りはこうなった。

 

 男1.ドラコ・マルフォイ

 

 男2.ビンセント・クラッブ

   グレゴリー・ゴイル

 

 男3.セオドール・ノット

   ブレーズ・ザビニ

 

 女1.ダフネ・グリーングラス

   スー・リー

 

 女2.黒川真魚

   メルジーナ・グリース

 

 女3.パンジー・パーキンソン

 

 

「はいはい、新入生のみなさんこんばんは、そして初めまして。スリザリン監督生のジェマ・ファーレイよ」

 

 寮に入った一年生たちを迎えたのは、スリザリン監督生のジェマ・ファーレイ。丸窓を背にして立っている。

 

「スリザリン寮へようこそ、心から歓迎するわ。あ、もう一人監督生いるけど、彼あんまり表に出たがらないタイプなの、ごめんね」

 

 もう一人の監督生は『アポローン・クロウ』。優秀だが、表立って動かない軍師タイプだ。

 

「さてさて、さっさと歓迎会を始めたいところなんだけど、その前に、スリザリンについて知っておくべきことが幾つかと忘れておくべきことが幾つか」

 

 ジェマは部屋内を歩き回り始めた。続ける。

 

「まず、いくつかの誤解を解いておきましょう。もしかするとスリザリン寮に関する噂を聞いたことがあるかもしれないわね。例えば――全員闇の魔術にのめり込んでるとか、ひいおじいさんが有名な魔法使いでないと口を聞いてもらえないとか、その手のやつよ」

 

 やれやれといった風に肩を竦める。

 

「でも、ライバルの寮が言うことを信じれば良いってものでもないでしょう。まあ確かに、スリザリンが闇の魔法使いを出したことは否定しないけど、それは他の3寮も同じこと――あいつらはそれを認めようとしないだけ。それに、伝統的に代々魔法使いの家系の生徒を多く取ってきたのも本当だけど、最近では片親がマグルという生徒も大勢いるのよ」

 

「だってさ、聞いたかいクロカワ? 君のお仲間が沢山いるらしいよ――おっと、君はそもそも片親が魔法使いでさえ無かったんだっけ? おやおやこれは失礼、穢れた血ちゃん」

「悪者の寮じゃないんすか? なんか残念」

「そこ喜ぶとこじゃないかなあ」

「お前聞けよ!!」

 

「「ははははは」」

「クラッブ! ゴイル! 笑うな!!」

「「ははははは」」

「お前らも聞けよ!!」

 

 ジェマは続ける。

 

「他の3つの寮があまり触れたがらない、あまり知られていない事実を教えてあげる――マーリンはスリザリン生だったの!」

 

 マーリンとは、歴史上最も偉大な魔法使いと呼ばれている魔法使い。かのアーサー王に仕え、王に助言を与えたと言われている。15世紀には彼の名を冠した『マーリン勲章』が制定され、その存在感は今もなお消えることが無い。

 ジェマは語気を強めた。

 

「そう、かのマーリン! 史上最も高名かつ有名かつ偉大なる魔法使いが!! マーリンは知識の全てをこの寮で学んだのよ! マーリンの足跡に続きたいとは思わない!? それとも、かの輝かしい元ハッフルパフ生、自動泡立ち布巾の発明者であるエグランティーヌ・パフェットのお古の机に座った方がマシかしら!?」

 

 周囲からスリザリンへの賛美とハッフルパフへの否定の声が上がる。その中には、上級生も混じっている。

 

「……やっぱりね」

 

 クールダウンしたように、ジェマは呟いた。

 

「スリザリンが何でないかは、これで十分ね。スリザリンが何であるか……つまり学校の先端をいく"素晴らしい寮"だということについて話しましょう」

 

 ジェマは部屋内を縦横無尽に歩き回る。続ける。

 

「私たちは常に勝利を目指している。何故ならば、スリザリンの名誉と伝統を重んじるから。スリザリンは名誉ある"素晴らしい寮"――しかしこれを分からない愚かな人たちがこの学校内には沢山いるの。悲しいことよね。だから、分からせてやるの。勝者に何を言おうと、それは敗者の泣き言でしか無い――人は常に強い者に付き従うものなのよ」

 

 再び元の位置に戻り、丸窓に背を向け最後の一文を言った。ジェマは続ける。

 

「我々は勝利し続けている――それ故かしらね? スリザリンは他の生徒から尊敬されている。まあ、畏怖に近い感情を持たれていると言った方が正確かしらね? ふふ、闇の魔術にまつわる評判の所為かしら。噂って怖いわよねえ」

 

 ジェマは呆れたように言う。続ける。

 

「でも知ってる? ワルっぽい評判というのも、時として楽しいものよ。ありとあらゆる呪いの呪文を知っていると思わせるような態度をとれば、誰がスリザリン生の筆箱を盗もうなんて思うかしら?」

 

 周囲から笑いが起こる――が、それを片手を挙げて制するジェマ。続ける。

 

「でも、私たちは悪人ではないわ。私たちは紋章と同じ、"蛇"なの。洗練されていて、強くて、そして――誤解されやすい」

 

 ジェマは悲しげに目を伏せた。続ける。

 

「例えば、スリザリンは仲間の面倒をみるけど、これはレイブンクローだったら考えられないことね。連中は信じられないようなガリ勉集団というだけでなく、自分の成績を良くするために互いを蹴落とすことで知られているわ」

 

 嘆かわしいとでも言うように溜息を吐く。

 

「でも私たちは違う。スリザリンでは皆兄弟よ。ホグワーツの廊下では不用心な生徒を驚かせるようなことも起きるけど、スリザリンが仲間なら安心して校内を歩き回れるわ。私たちからすれば、あなた達が"蛇"になったということは、私たちの一員になったということ。つまり――エリートの一員よ」

 

 上級生たちが歓迎の声を上げる。声が止むまでたっぷり待って、ジェマは続けた。

 

「だって『サラザール・スリザリン』が、彼の選ばれし生徒に何を求めていたか知ってる? 偉大なる者の種よ! あなた達がこの寮に選ばれたのは、文字通り偉大になる可能性があるから。もしかすると、談話室にいる生徒の中には、とても特別な運命にあるようには思えない人もいるかもしれない。でも、それは心の中に仕舞っておくべきよ。組分け帽子がこの寮に入れたということは、何かしら偉大な部分があるということなんだから、それを忘れないように」

 

「君はある意味特別かもねえ……組分け帽子の組分け間違いの貴重なサンプルって形でね! ははは!」

「「…………」」

「笑えよ!!」

「「…………」」

「従えよ!!」

「あの人演説上手いっすねー」

「そうだねえ」

「聞けよ!!」

 

 ジェマは続ける。

 

「偉大なる運命にない人達といえば――グリフィンドールに触れてなかったわね」

 

 グリフィンドールの名が出た瞬間、上級生のガヤが即座に掻き消えた。ジェマは続ける。

 

「多くの人がスリザリンとグリフィンドールはコインの両面だって言うけど、私に言わせれば、グリフィンドールなんてスリザリンの後追いをしているだけよ。でもね、中にはサラザール・スリザリンとゴドリック・グリフィンドールは同じような生徒を大切にしたという人もいるから、もしかすると私たちは自分たちが思っている以上に似ているのかもしれない……」

 

 ブーイングが上がりかける――しかし、

 

「 だ か ら と い っ て 」

 

 有無を言わせぬ口調により、ブーイングはすぐさま消えて無くなった。ジェマは何事も無かったかのように続ける。

 

「グリフィンドールと馴れ合う訳じゃないわ。グリフィンドールは私たちをやっつけるのが好きな訳だし。わざわざ自分を嫌っているような相手と馴れ合う人がどこに居るというのかしら? やられてばっかりいるのもシャクなのでやり返す事も多いけど、それが何故か悪い評判に繋がって、こちらにばかり不利益が被る――真に狡猾なのはどちらかしらね?」

 

 グリフィンドールを否定する声が彼方此方から上がる。その量は、ハッフルパフの時よりも多い。ジェマは手を叩いた。グリフィンドールに関する話はこれで終わりという合図だろう。声がぴたりと止んだ。

 

「もう幾つか知っておいた方が良いことがあるわ。スリザリンのゴーストは『血みどろ男爵』よ。彼に気に入ってもらえれば、たまに誰かを脅かしてくれるかもしれないわ。でも血みどろになった理由は聞かないこと。聞かれるのが好きじゃないらしいから」

 

「ゴースト? あの広間にいた半透明のやつ?」

「そうだよ」

「なんかお化け屋敷っぽいっすね」

「イギリスで一番ゴーストが集まってる場所だからねえ。……あいつも実験場にするわけだ」

「あいつ?」

「気にしないで」

 

 ジェマは続ける。

 

「談話室に入る合言葉は2週間ごとに変わるわ。だから掲示板に気を配ること。他の寮の生徒を連れてきてはいけないし、合言葉を教えるのも厳禁。談話室には7世紀以上も部外者が立ち入っていないのよ」

 

「ある意味部外者はいるけどねえ……穢れた血という部外者が」

「お前さっきから五月蝿いっすねー」

「ボソボソ喋らないでよねえ」

「髪抜くっすよ」

「やっと反応したと思ったら何なんだよお前ら!!」

「「ははははは」」

「お前らもいい加減にしろよ!!」

 

 ジェマは杖を取り出した。

 

「ま、それくらいかな――はい、そういう訳で堅苦しい挨拶は終わり! 改めて、高貴で高潔なる蛇の寮、スリザリンへようこそ!!」

 

 ジェマが杖を振る。すると先程までの陰鬱な薄暗さは何処へやら、全てのランプが一斉に灯り、部屋は幻想的な緑色の光に包まれた。同時に防音の呪文が解除され、窓に打ち付ける水の音が部屋に静かに響いてきた。おお、なんという心地良い空間への瞬間的早変わり! 一年生は1人の例外も無くその変貌に心奪われた。

 

「さて、それじゃこれからスリザリンの歓迎会を始めたいと思いまーす。って言っても正直夜も良い感じに遅いのであんまり大規模なことは出来ないけど、小規模でも結構盛り上がるものを用意しましたー!」

 

 ジェマ含む上級生たちが、小さな箱を取り出した。

 

「あ"……っ」

 

 真魚の脳裏に蘇る、あの忌まわしき記憶。特急の中で『味わった』地獄が再びフラッシュバック。

 そう、あの箱には見覚えがある――なんてこった、ここに来てか。ここに来てまたそれをやる羽目になるのか。

 

 ――だが、それさえ、生温かった。

 

「これから1人一箱ずつ、この百味ビーンズの箱を配ります。そこでみんなにやってもらうのは――この箱の中身、吐いたり気絶したりするまで食べ続けて貰いまーす! 不味かろうがなんだろうが、終了条件はそれだけでーす!!」

 

 これ以上無いほどの満面の笑みで、ジェマはそう告げた。

 

「――――」

 

 真魚は思った。――こいつ性格最悪だ――と。

 

 箱が皆に配られた――これより始まるのは地獄の遊戯。ロシアンルーレットさえ生温い、悪魔の遊び。スリザリン生の運命や、如何に。

 

 続かない。

 




 はい、ホグワーツ初日篇、終了!

 という訳で、次回からは授業篇。変身術から天文学まで、1学年の教科は全部やりますよ。
 この辺については原作で描写が凄まじく無いので更新頻度急降下かもしれませんが、まあ気長に待っててください。
 あと、各授業に1話ずつ取る予定ですが、多分一つの話大分短くなるので、その辺もご了承ください。

 これが終われば……そろそろ『石』のターンでしょう。多分。

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