ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしました。遂にホグワーツ篇、開幕です。

※注意事項※

・あとがきを少し変えました。まさにあとだし。
・なんかあれば書きます。


宵闇に浮かぶ古城

【第21話】

 

 

宵闇に浮かぶ古城

 -ホグワーツ魔法魔術学校-

 

 

[117]

 

 ――ホグワーツ魔法魔術学校。

 イギリスのスコットランド地方にある、三大魔法学校とも呼ばれる魔法学校の内の一つ。最寄り駅はホグズミード駅。

 

 

[118]

 

 ホグズミード駅に停車したホグワーツ特急から、次々と生徒が溢れ出る。もう夜で、頭上に瞬くのは星の光。

 押し合い圧し合いながら外にでた彼女達は身震いした。夜というのは肌寒い。特にここは北国イギリスのスコットランド。9月といえば気温が低くなってくる頃だ。

 

「寒いっすねー……イギリスっていつもこんな感じなんすかね?」

「いえ、それは夜だからですよ」

 

 忍がアリスの髪で暖をとりながら言う。

 

「イギリスは北海道よりも北の方にあって寒いという印象が強くなりがちですが、今の季節の場合、寒いのは夜くらいのものなのです」

「北海道より北って……絶対寒いじゃない!」

 

 寒さを想像したのか、さらに身震いしながら琉姫が言う。

 

「はい、大抵そういった場所は寒いのですが、しかしイギリスの場合メキシコ湾からの暖流と偏西風のお陰で、比較的暖かくて過ごしやすい環境なんですよ。四季もあります!」

「過ごしやすいっていっても、雨が凄い振りマスけどねー」

「あんたって意外と物知りなのね」

「そう! シノを舐めちゃいけないよ! シノはちゃんと九九も言えるからね!」

「アリスちゃんが一番舐めてるよね……」

 

 苦笑しつつ香奈が言った。

 

「物知りと言いますか……私はただイギリスが好きでイギリスの事を知りたいというだけで、別に物知りという訳ではありませんよ」

「でも、好きなものの事を知ろうとするのはとても良い事だし、中々出来るものじゃないわ。それが忍ちゃんの長所なのは間違いないのだから、謙遜する必要はないわ」

 

 千夜が言う。

 

「そ、そうですか? イギリス知識で褒められたこと、あんまり無いので……ちょっと、照れますね」

 

 赤くなっているのを隠すように、アリスの髪に顔を埋める忍。

 

「うふふ、照れた忍ちゃん可愛いわ……虐めたくなっちゃう」

「え?」

「何でも無いわよ♪」

「あんた、これから大変ね」

「え!?」

「大丈夫だよシノ! シノは私が守るよ!」

「ア、アリス……!」

「シノ……!」

「また始まった」

 

 そんな感じで他の生徒に混じりながら駅内を彷徨う一行。そんな一行の耳に大きな声が聞こえた。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

 

 声のした方を向く。成る程、そりゃあ声が大きい筈である。大きいのは声だけでは無かった。背も大きい。2m以上は堅いだろう。

 それは髭面の男だった。大きく手を振っている。これだけ生徒がいるというのに全く埋もれもせず、振っている手どころか顔も普通に見えている。

 

 一行はその男の元へ行った。しかし生徒という荒波に揉まれながらそこへ行くのは容易な事では無かったとだけ付け加えておこう。

 

「さあ、着いて来いや! あとイッチ年生は居ないか? 足下に気をつけろ! いいか! イッチ年生、着いて来い!」

「「おっきい……」」

 

 アリスと薫子が呟いた。

 

「何食べたらあんなに大きくなれるのでしょうか……」

「気になるよね……」

 

 滑ったり躓いたりしながら、みんなはその大男に着いて歩いた。右も左もまっくらで、鬱蒼と木が生い茂った小道のようであった。

 

「く、暗いわね……足下見えな――きゃっ!?」

「おっと! ……大丈夫か綾?」

 

 草に足を引っ掛けて転びかけた綾の手を引っ張って支えたのは陽子。

 

「綾は本当にドジだなー」

「あ、ありがとう陽子――!!」

「ん?」

「なっ、手を、手、て、て」

「手がどうした?」

「は、は、早く離しなさいよー!!」

 

 手の甲にチョップ!

 

「うわっ!?」

「よ、よ、よ、陽子のバカー! ハレンチ!」

「何で!?」

 

 辺りが暗かったのは幸いであった。綾の顔は燃え盛るような赤色に染まっていたのだから。が、それもまた分かる人には分かるようで。

 

「あやや赤くなってるデース」

「あ、赤くないわよ!? 赤って何!? 知らないわよそんな色!!」

「……ふふっ――百味ビーンズ」

 

 さらに、面白そうなものを見つけたような微笑を浮かべた千夜が言った。

 

「はあ!? 百味ビーンズがどうし――百味、ビーンズ……赤色……ひゃ、ひゃく――あか――あああああああああ!!!!」

 

 大声を出し頭を抱える綾――そう、あの唐辛子味のトラウマは綾にまだつきまとっている。

 

「ふふふ、綾ちゃん面白〜い」

「この鬼畜……」

「千夜ちゃん絶好調だね……」

 

 そんなかんじで、ちょっとした事件はあったものの、まあ特に何事もなく狭い道を抜けた。

 狭い道を抜ければ、一気に広い空間が現れた。そこは大きな黒い湖のほとりで、向こう岸に高い山が聳え立つ。そしてその頂点に鎮座するのは壮大なる古城。大小様々な塔が建ち並び、キラキラと光る星空に浮かび上がっているのは、ホグワーツ魔法魔術学校。窓から見えた景色と似ているが、しかし確実に近付いているという要素がプラスされている所為か、その迫力は段違いであった。

 

「四人ずつボートに乗ってくれ!」

 

 大男が岸辺に繋がれた小船を指差した。

 

 生徒が1人ずつ乗っていく――陽子、綾、カレン、千夜がまず乗った。次にココア、シャロ、忍、アリス。更に萌子、小夢、翼、真魚。後から続くはリゼ、香奈、穂乃花、琉姫。最後に薫子、若葉、直、ネビルが乗った。

 

「みんな乗ったか!?」

 

 男が大声を出した。1人でボートに乗っている。

 

「よーし、では、進めえ!!」

 

 ボート旅団は一斉に動き出し、鏡のような湖面を滑るように進んで行った。ホグワーツがどんどん迫ってくる。

 

《Team Tsubasa》

 

「いよいよだね! とうとうだね!」

「もうすぐっすね! やっとっすね!」

 

  船上で騒ぐ小夢と真魚。

 

「あ、あんまり動かないで! 船が揺れちゃう!」

「萌子って足場がちゃんとしてないと嫌なタイプ?」

「嫌じゃなくて怖いタイプ!」

「ふーん」

「翼ちゃんは? 怖くない?」

「別に、怖いと思ったことない」

「流石少年漫画家だね〜、肝が据わってるよ〜!」

 

 翼と萌子。翼は揺れにも動じず船の縁にもたれかかるようにして座っている。

 

「じゃあもっと騒いじゃっていいってことっすか!? 揺らしちゃうよ!!」

「意図的にやらないでよ!?」

「だって、翼ちゃん平気って言ってるし……」

「私もいるよ! 萌子もいるよ!」

「えー……」

 

「小夢」

「はい!?」

「誰かが嫌がることはやめよう」

「は、はい! 私は止めます!」

「翼さんがそう言うならやめるっす」

「え、何この差……」

 

《Team Tsubasa end》

 

 ――ホグワーツ地下、船着場。

 

 船が全て到着、全員が岩と小石の間に降り立った。

 

「みんなちゃんと居るな?」

 

 男が言った。そして、全員居ることを確認すると、眼前の大きな扉――ホグワーツ城への扉を、拳で叩いた。

 

 ――扉が、開いた。

 

 

[119]

 

 開いた扉の奥から現れたのは、エメラルド色のローブを着た背の高い黒髪の女だった。眼鏡を掛けていて、厳格な顔つき。ただそこに現れ、何も喋ってさえいないにも関わらず、その場に緊張感が漂い始めた。その場の誰もが『この人には逆らってはいけない』と悟った。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生のみなさんです」

 

 大男が言う――この女性は言うまでもなく魔女。ホグワーツ魔法魔術学校副校長、ミネルバ・マクゴナガルその人である。

 

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」

 

 マクゴナガルが言う。さて、今更ながらご紹介。先程まで新入生を先導していたこの大男の名は、ルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地の番人して、『禁じられた森』森番である。

 

 マクゴナガルは扉を大きく開けた。玄関ホールはウィーズリー家がまるまる入りそうなほど大きく、石壁が松明の火に照らされている。天井はどこまで続くか分からないほど高く、壮大な大理石の階段が正面から上へと続いている。

 マクゴナガルに従い、玄関ホールを抜ける。横切った先にあったのはさらに巨大な扉。そのむこうから何百人ものざわめきから聞こえた。全校生徒が既にそこに集まっているのだ。

 ――しかしながら、新入生が連れてこられたのはその隣の小部屋。しかしここは魔法界、外側が内側をそのまま表すとは限らないのだ。どう見ても小部屋だが、その内部はその見た目に反して新入生たちを迎え入れても余りあるほどの大きさ――という訳ではなかった。

 外見通りの窮屈さだった――ぎゅうぎゅう詰めにされた生徒たちが不安に加えて多少の不満を持つのは時間の問題であった。

 が、不満を持つことさえ許さぬ厳格さをマクゴナガルは持っている。マクゴナガルが口を開くと、不平不満を言う声は一瞬で消えた。

 

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

 マクゴナガルが挨拶した。

 

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、みなさんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校でのみなさんの家族のようなものです。教室で寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります」

 

「寮……どんな風に決めるのかしら? 魔法力とか試したりするの?」

 

 不安そうに琉姫が言う。

 

「フレッドさんとジョージさんが仰るには、トロール……とか言うのと戦わされるとか」

 

 若葉が言う。

 

「た、戦う!? わ、私死にますよ!?」

 

 薫子が慄く。

 

「いや、それ言ってたのフレッドとジョージだろ? じゃあ十中八九嘘だぜ」

 

 直は呆れた。

 

 マクゴナガルが続ける。

 

「寮は四つあります。『グリフィンドール』『ハッフルパフ』『レイブンクロー』『スリザリン』です。それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔女や魔法使いたちが卒業しました」

 

「……ま、私はハッフルパフかしらね」

 

 シャロが言う。

 

「噂によると劣等生が入るみたいだし――私なんてうってつけの逸材でしょ」

「シャロちゃんがそっちに入るなら、私もそっちに入るわよ」

 

 千夜が言う。

 

「はあ!? なんでよ!?」

「だって、シャロちゃんのこと心配で……」

「はあ……本当心配性ね、あんた」

「まおはスリザリンが良いっすねー」

 

 真魚が呟く。

 

「え? なんで? スリザリンってあんまり良い子が入る寮じゃない、ってフレッドとジョージ言ってたよ?」

 

 萌子が言う。

 

「いやほら、なんかスリザリンって、他の三寮にとって敵キャラみたいなもんじゃないっすか」

「はあ」

「まおは敵キャラが好きなんすよ――はい、理由それだけ」

「そんな程度の理由!? それだけで、っていうなら絶対やめといた方がいいよ……」

 

 マクゴナガルは続ける。

 

「ホグワーツにいる間、みなさんのよい行いに対しては、自分の属する寮に得点が与えられます。反対に、規律に違反したときは寮の減点となります。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が授与されます。どの寮に入るにしても、みなさん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」

 

「ふふん、このお姉ちゃんがいる限り、寮の勝利は決まったようなものだよね!」

 

 ココアが言う。

 

「どっからその余裕が出てくるんだよ……」

 

 リゼが呆れる。

 

「ココアの場合、得点下げそうデス!」

 

 カレンが笑う。

 

「カレンもあんまり人のこと言えないよね」

 

 アリスが苦笑。

 

 マクゴナガルは続ける。

 

「……まもなく全校生徒、職員の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ服装を整えておいてください。学校側の準備ができたら戻ってきますから、静かに待っていてください」

 

 マクゴナガルは部屋を出て行った。

 

「「……なんかわくわくするね!」」

 

 小夢と何者かの声が重なった。

 

 

[120]

 

「「?」」

 

 小夢と何者かは顔を見合わせる。それは少女だった。不思議な帽子を被っている。少なくともとんがり帽子ではない……が、猫耳のように端がとんがっているので、ある意味とんがり帽子と言えないこともない。

 

「……あははは! 変な帽子ー!」

「ちょっ……!? 初対面の人に何言ってるの小夢ちゃんー!!?」

 

 焦る琉姫。

 

「ご、ごめんなさい! ほ、ほら、小夢ちゃんも謝って――」

「あれ? …………じゃない」

 

 少女が呟いた。

 

「?」

 

「――――……いいよいいよ! 気にしないで! あはは、この帽子? えへへー、私のお気に入りなんだー!」

「それがお気に入り? へえー、帽子脱がないの?」

「え? 脱いだ方がいいかな」

「別にいいよー! チャームポイントはいくつあっても多すぎることはないからね!」

「うーん、でも言われてみれば誰も被ってない……」

「人と違って何が悪い! なんにも悪くないよー! 個性だもの」

「あははー……で、ここどこ?」

「いや、ここどこって……」

「なんかいつもの学校と雰囲気違うねー! なんていうか……そう、外国っぽい!」

 

「外国っぽいっていうか、外国っすよ」

 

 真魚が言う。

 

「……またまた、冗談を〜。じゃあ、どうやって日本から外国に移動したっていうの?」

「日本から外国……おっと、これは」

「被害者ね」

 

 小夢と琉姫。

 

「被害者?」

「ねえ、貴女――えっと」

「丈槍由紀です!」

「由紀ちゃん、意識か何かが戻る前に変な兎見なかった?」

「兎? ……うーん……見なかった、と思う」

「あら?」

「じゃあ、まおたちパターンっすかね? フレッジョみたいなのに召喚されたとか……」

「おーい、何話してるんだ」

 

 直が話に加わった。

 

「ねえ、柴さん。なんかここら辺で、円陣みたいなの見なかったっすか? ほら、私たちが見たアレ」

「はぁ? なんだって今そんな話を……別に見てないけど」

「サンキュー、もう戻っていいっすよ」

「扱い悪っ!?」

 

「……分からないわね、最後に覚えている記憶は?」

 

 琉姫が問う。

 

「うーん……あ、そうだ! 私たち高校生活最後の夜を過ごしてたんだ!」

「最後の夜? 卒業式……あら? 貴女、もしかして、私たちより年上なの? じゃあなんで一年生のとこ

 

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琉姫「別におかしいところはないわね」

由紀「そう、おかしくないよ!」

 

 この話は終わった。

 

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「最後の夜ってことは、寝てたって事だよね? ……じゃあその時やられたんじゃ」

 

 小夢が言う。

 

「そうね、その可能性が高いわ……寝てる間だと隙だらけだし、夢以外の光景は見れない訳だし……」

「……あ! みんなだ!」

「「え?」」

 

 由紀が指差した方を向く――そこには確かに、3人の少女が覆い被さるようにして眠っていた。当然、その場にいた全生徒はそれに気付

 

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 気付いたのはいつもの19人だけであった。違和感などまるで無い。

 

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「……一体、これは――?」

 

 琉姫が、呟いた。

 

 

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[121]

 

 その世界の運命は、決して変わらないものであった。どう足掻いたところで絶望しか見えない状況――夢はちゃんとあっても、希望はない状況。WORLDは、そこに目をつけた。

 

 ――救済してやろう。そして、更なる絶望を――。

 

 そう思ったWORLDの行動は早かった。無理して挿入出来るギリギリだった故、これこそ本当に余裕が無かった。だからMAGICは、暗黒門を兎の形にせずに暗黒門そのままで彼女たち4人を呑み込んだ。下手に抵抗されるのも面倒なので、寝込みを襲った。全ては時間短縮のためである。

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[122]

 

「ほら、みんな起きて! 朝だよ!」

「みなさん、起きて下さい!」

 

 由紀が3人を揺さぶった。同じく若葉も声を掛ける。

 

「……誰よ、こいつら」

 

 シャロが言った。

 

「またぞろ転送されてきたかんじなの? ハッ、何目的にこんなことやってんだか」

「少なくとも、友好的な目的では無いでしょう――でなければ、あんな悪趣味な方法使わないものね」

 

 千夜も言う。

 

「……ん、なんだよもう、ゆき……」

「ゆきちゃん……? どうし……」

「……何です、ゆき先輩? 卒業式はあ……」

 

 3人の少女――シャベルを背負ったツインテールの少女、こげ茶のストレートロングヘアーを左耳の周りだけバレッタで纏めた少女、パールホワイトのショートヘアの少女――は絶句した。

 周囲を見回す――今までいた学校じゃない。それに、人が沢山居る。『あれ』は、どこにも居ない。

 

「こ――ここどこ、ですか?」

 

 唖然としたように聞くショートヘアの少女――直樹美紀。

 

「わ、わたしたち、なんでこんなとこに――いつのまにーー!?」

「え、えっと……萌子ちゃん! こ、こういう場合、なんて答えれば良いのでしょうか!?」

 

 若葉が言う。

 

「私!? そんなこと言われても……えっと、ここは、えっと……不思議な魔法の世界?」

 

 萌子が言う。

 

「不思議な魔法の世界……? 訳の分からないことを……つーか本当にここどこだよ……なんでこんなに人が居るんだ?」

 

 口調は荒っぽいが、驚愕と、少し安堵が混じったような声。ツインテールの少女――恵飛須沢胡桃である。

 

「……なんでこう、ツインテールが多いんだろうな」

「同感だわ」

 

 リゼと綾が言う。

 

「しかもなんかリゼに似てるし……っていうか、何でシャベル?」

「どう見ても不審者だ、あまり近付くなよ。シャベルは武器にもなるんだ。あれを振り回されたらひとたまりもない」

「ま、待ってくれ! 私はそんなことしない! ……お前らが、本当に人間なら」

「……訳の分からんことを。お前には私たちが何に見えてるんだ? 人間以外の何に見えてるんだ?」

「…………」

 

「……人が……居る? ……私たち、助かった……の?」

 

 ロングヘアーの少女――若狭悠里は、何故か今にも泣き出しそうな声で言う。

 

「助かった? 何から」

 

 翼が聞く。

 

「何からって……本当に、貴女たち、人間なのね? 普通の、人間なのね!?」

「……わざわざ言うまでもないだろう――が、その様子から察するに、色々ファンタジックな事でもあったのか?」

「ファンタジック……ふふ、ふふふ、ふふ」

「……?」

「ふふふ……ファンタジックって言うなら、今の状況の方がファンタジーかしらね……」

 

「…………」

 

 悠里を見て黙り込む千夜。

 

「……どうしたの千夜ちゃん」

 

 なんとなく察して、苦笑しながらココアが問う。

 

「なんかあの子、私とキャラ被ってそう」

「…………」

「…………」

「……わ、和服キャラは千夜ちゃんだけの特権だから! ね!」

「ふふ、そうね。ありがとうココアちゃん」

 

 謎の対抗心を燃やす千夜であった。

 

「……ゆき、本当に……ここは安全なのか?」

 

 胡桃が言う。

 

「安全? ……大丈夫だよ! ここは『進学先』だから! これから、組分けが始まるんだって! 楽しみだね!」

 

 にこにこしながら、由紀は言った。

 

「進学……はは……まだ、卒業してないのに……ははは……」

「何笑ってるんだお前……」

「ははは、ははははは!! はは――やっと、逃れられたのか」

「何?」

「ふふふふ――まだ、油断しちゃダメよ、くるみちゃん。もしかしたら、この後に何かどんでん返しがあるかもしれないし――気を引き締めましょう」

「……そうですね、はい。気を引き締めて」

 

 胡桃、悠里、美紀が立ち上がる。

 

 と、ちょうどそのタイミングだった。マクゴナガルが戻ってきたのは。偶然というには余りにも出来過ぎたタ

 

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 偶然であった。

 

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「さあ、行きますよ」

 

 有無を言わせぬ厳しい声。

 

「組分け儀式が間も無く始まります。さあ、一列になって。付いてきてください」

 

 一列になってマクゴナガルについて行く新入生たち。由紀、胡桃、悠里、美紀は何も分からぬまま、なんとなく付いていく。

 玄関ホールに戻り、そこから二重扉を通って、ついに――大広間に入った。

 

 

[123]

 

 最早声さえ出なかった。歓声すら上がらない、否、上げられない。ただ呆然と、唖然とするのみ。それ程までに美しく、今まで見た事もないような幻想的な光景だった。

 何千という蝋燭が空中に浮かび、四つの長テーブルを照らしていた。テーブルには上級生たちが着席し、キラキラと輝く金色の皿とゴブレットが置いてあった。

 

「き、金色――!! 金色が! 金色が一杯!」

「あんたもう金色だったら何でも良いの?」

 

 忍とシャロ。

 

 上座にはもう一つ長テーブルがあって、教師たちが座っていた。マクゴナガルは上座のテーブルのところまで新入生を引率し、上級生の方に顔を向け、教師たちに背を向ける格好で一列に並ばせた。

 

「組分けってどうやるんだろうね!?」

「え? 本当に組分けするんですか? っていうか入学するんですか? いつもの、あれでは無く?」

「いつものあれって何ー?」

「え、いや……」

 

 由紀と美紀。

 

 新入生を見つめる何百という顔が、蝋燭のチラチラする明かりで青白いランタンのように見えた。その中で人型の何かがあちこちで銀色の霞のように光っていた。

 

「な、ななな、なんでしょう、あ、あれ」

「わ、私にも分かんないよ! 人の形してるけど……」

 

 薫子とアリス。

 

 天井を見上げると、ビロードのような黒い空に星が点々と光っていた。本当の空に見えるように、魔法が掛かっているのだ。空を再現しているだけではない。雨が降れば雨が写るし、雪が降れば雪が写る。外の天気さえもリアルタイムで反映させているのだ。

 

「あれが天井だなんて……とても思えませんわ」

「凄くロマンチックね……」

 

 若葉と綾。

 

 見た事もないような風景に見惚れる新入生たち――マクゴナガルは彼らの目の前に4本足の丸椅子を置いた。皆が慌てて視線を前に戻す。

 

 椅子の上には魔法使いの被るとんがり帽子が置かれた。だが、それはつぎはぎだらけでボロボロの帽子だった。

 

「……なんすかね、アレ」

「も、もしかして、あそこから兎とかを出す試験だっりするんデスカ!?」

 

 真魚とカレン。

 

「また随分と不似合いなもんが出て来たわね」

「あのオンボロ帽子が何だって言うんだ?」

 

 香奈と直。

 

 上級生たちは、皆息を飲んでいるようだが、新入生たちの間には何か落胆に近いような感情が渦巻いていた――だが、その帽子には妙な魅力があった。見つめざるを得ないような、不思議な魅力――否、魔力が。

 

 ……広間は水を打ったように静かになった。すると、帽子がピクピクと動いた。

 

「ぼ、帽子が一人でに――!?」

「りーさん、下がってろ!」

 

 怯える悠里とローブの下に隠したシャベルに手を掛ける胡桃。

 

 つばの縁の破れ目が、まるで口のように開いた。

 

『『『『『『『『!!!』』』』』』』』

 

 ――そして、歌を歌いだした。

 

 

[124]

 

 遂に始まる組分けの儀。それは彼女たちを輝かしい道へと歩ませるものか、それとも、災禍に包まれた苦難の道を歩ませるものか、未だ知る者は居ない。

 

 




 こいつらを参戦させるかどうか決めるのに時間掛けまくった結果がこの執筆速度だよ!
 いや、本当に迷ったんですよね……だって、がこぐら勢をこっち側に入れると、彼女たちにとってはあんまりハードじゃないじゃないですか。だから最初の方では入れないつもりだったんですが……まあ、悩むならやっちゃえー、って。

 あと、もうこれ以上の勢力は参戦させません(多分)。ごちうさ勢はまだ全員そろってませんが、取り敢えずキャラ追加はここまでです。組分けまでやったら、もう追加しようがありませんから。
 で、件の組分けは、明日投稿します。……こればっかりはもう制限付けときます。

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