ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしまして申し訳ありませんでした!! ホグワーツ特急篇ラストです。どうぞ。

※注意事項※
・少し長いので、心に余裕があるときにどうぞ。
・何かあればここに書きます。


ホグワーツ特急紀行 : 9と3/4

【第20話】

 

 

ホグワーツ特急紀行:9と3/4

ラスト・トレイン・ホグワーツ

 

 

[110] ホグワーツ特急の歴史 chapter.3

 

 ――ホグワーツ生徒をホグワーツへ輸送する方法――このやっかいな問題に対する解決案が、魔法大臣オッタリン・ギャンボルによってついに提唱された。

 このギャンボル大臣、かねてよりマグルの発明品に大きな関心を抱いていたようで、その中の一つ『汽車』に大きな可能性を見出した。

 

 ――そして、ホグワーツ特急は誕生した。

 

 ホグワーツ特急がどこから来たのかは未だ明らかになっていないが、イギリスで合計167回に及ぶ『忘却術』と過去最大級の『隠蔽の呪文』が実行されたことを示す詳細な極秘記録が、魔法省に存在することは確かである。

 

 さて、ではこの方法に対する反発は無かったのか? 勿論あった。その反発の殆どが純血の魔法使いからであり、自分たちの子供をマグルの輸送機関に乗せるなどとんでもない、とした。汽車は安全性に欠けるだけでなく、不衛生で汚らしいものだと。

 だが、汽車に乗らない者は登校する資格なしとの達しが魔法省から出されると、こうした抗議はぴたりとやんだという。ただ批判したいだけの愚かなる者ども――純血という連中がどのような物かをよく示すエピソードでもある。

 

 

[111] 登校準備 compartment.1

 

 

《side Aya》

 

 既に日は暮れ、窓から見える景色は暗い。暗い中でも燦然と輝くのは大きな湖。そして湖にうっすらと浮かぶように映るのは、巨大な西洋風のお城。

 ――今更ながら、私たちは異国にいるのだということを再認識させられる――そして、いよいよ目的地が近いということも。

 あの巨城こそが、私たちの目的地であり、これから通う学校――『ホグワーツ魔法魔術学校』らしいのだから。

 

「ねえ、そろそろローブに着替えない? ホグワーツっぽいのも見えてきたし、慌てて用意するのはよくないわ」

「ん? ああ……そうか、ローブ着なきゃ駄目なのか」

「そうね、綾の言う通り――多分アナウンスくらい鳴るだろうけれど、鳴る前にさっさと準備しよっか……穂乃花、起きて」

 

 香奈が隣で眠る穂乃花の肩を叩く。

 

「ん……あ、香奈ちゃん……ふわぁ……ホグワーツについたの?」

「まだ。だけど、もう見えてきたし、そろそろ準備始めましょう」

「ん……オッケー、了解だよ〜」

 

 みんな真面目ね……いつもならこの提案をするだけで4、5分はかかるのに、もう通ったわ。なんてやりやすい……。

 まあ、張り合いが無いといえば……無いんだけれど。

 

 折り畳んだローブを出す――本当に似合ってるのかしら? これ……。

 

 

《side Nao》

 

 いよいよホグワーツが近付いてくる――だが、あんまり実感が湧かない。突然こんな世界に放り込まれ、何時の間にか入学決定されていた。こんな急展開だらけの状況で、こんなにゆっくりと近付いてくるというのは、逆に実感が湧かないものだ。

 ローブをバッグから出しながら言う。

 

「なあ、なんで私達、こんな世界に来たんだと思う?」

「……さあね、そんなの知らないよ――なんでって言えば、あの変な兎の所為でしょ?」

「まあ、それもそうなんだが」

 

 そうじゃなく、こう……。

 

「じゃあ、なんで私達が選ばれたんだ? 私とお前らとではまあ、来た方法が違うけれど――でも、偶然選ばれてここに来たっていうのは一緒だ――違うか?」

「そうね……貴女がこっちに来たのはフレッドとジョージの仕業、だけど、彼等の使った魔法では召喚対象を選ぶことが出来ない、偶然選ばれた――まあ、運命的なものを感じるわよね」

「それこそ、本当に偶然かもだけどね〜」

「ああ」

 

 ローブを着る。……どうも慣れない。それに、似合ってないように感じる。

 

 ……まあ、疑問は尽きないが、それもいずれ分かることだろう――これがゲームの世界なら、必ず撒かれた伏線は回収されるからな。出来の悪いゲームじゃなければ、だが。

 

 

《side Kana》

 

 直の話を聞いて、ちょっと考えてみた。

 

 直がこっちに来たのは偶然かもしれない――私達とはそもそもの方法が違うのだから。前提状況が違うというだけで、判断は難しくなる。

 だから、今は私の問題――他の人のことを考えるなら、まず自分のことを解決しなければならない。何も分かっていない癖に他人に対して大きな口を叩くのは、ただの知ったかぶりだ。

 分かっていることは2つ――1つ、私達はあの変な兎によって集められた。2つ、あの兎の動きは確信的である――この2つだ。特に2つ目が重要だろう。あいつの動きは計画的だ。集められた面子を見ても分かる通り、あいつは完全に私達を『狙って』動いていた。でなければ、こうも上手いこと集められる筈がない。

 ローブの裾を伸ばしながら考える。

 

 では、それは何故?

 何故私達を狙った?

 

 ……これが分かれば謎が解けたも同然なのだが、勿論分かる筈もなく。まあ、そんなあっさり解ける訳ないとは思っている。これが偶然であれ、作為的なものであれ、それが明らかになるまで、この流れに乗ってやるだけだ。そして――その流れに乗ったまま、いつか手掛かりを掴んでやる。

 

 具体的な時は、まあ、決まってないが。

 

 

《side Honoka》

 

 みんな難しいことを考えてるなあ、と思った。

 

 勿論、ここに来た理由が気にならないと言えば嘘になる――やっぱりその辺が分からないと、どこかもどかしいし、この魔法界という場所を本当に心から楽しめないかもしれない。

 だけど、私はそこまで深く考察するつもりはない――というか、出来ない。頭が悪いことはないけど、別にいい訳でもない。そんな私が考えたところで、的外れな回答以外を手にすることが出来るだろうか?

 

 ……答えは明白。

 

 私はただ、楽しみたいだけ。このまたとないチャンスを、活かしたいだけ。みんなと一緒に動けるチャンスを――カレンちゃんと一緒に動けるチャンスを、待ち望んでいた私としては。思いっきり楽しんで、そして、悔いを残さないようにする。

 

 私が望むのは、たったそれだけ。

 私ごときの身分の者が高望みするなんて、許されることじゃないしね。

 

 ローブに着替えて、バッグに色々と詰める。ローブを出す時に中身が散らばったのである――まだまだ時間はあるとはいえ、散らかってるものを片付ける時って、変な焦りが出てくるよね。

 ……そう思うのは、私だけかな?

 

《PM.7:54》

 

 

[112] 登校準備 compartment.2

 

 

《side Rize》

 

 月光が窓から差してくる。月光というものは意外と明るいのだな、初めて知った。

 ……いや、水面が反射して光が増しているだけか?

 まあいい。どちらにせよ、あまり関係のない話だ。今日に至るまで気付かなかったことなのだから、はっきり言ってしまえば、生活するのに何ら関係ないことであることには間違いない。

 

「……ん」

 

 時計を見る。……そろそろ8時か。既に大きな城が見えてきている――あれがホグワーツか? 恐らくそうだろう。だとすれば、そろそろ降りる準備をせねばなるまい。

 

「シャロ、そろそろ降りる準備をするぞ。千夜、ココアを起こしてくれ」

「は、はい!」

「あら、随分と早いのね。まだ8時にもなってないわよ?」

「遅く始めて間に合わないよりは、早く始めて間に合う方が100%マシだからな。戦場では常に早さと速さが重視される」

「ここは戦場でないわ」

「時間との戦いという意味では、どこだって戦場だ」

「そう……ふふっ、リゼちゃんらしいわね」

「そうか」

 

 ……私らしいって何だろうか? 未だにちゃんと自分のことが分からない。私は普通の女子だと思うのだが……どうも違うらしいし。

 

 遠きを知りて近くを知らず――尤も、私の場合、遠くさえも分かっているかどうか定かではないが。

 

 

《side Sharo》

 

 リゼ先輩は私の憧れの存在。いつだって格好良く、クールでビューティー。常に先を見て動き、でもちょっとどこか抜けている――私は、真に完璧な人間というのはリゼ先輩のような人のことだと思っている。

 流石にそこまで言うのは過ぎるかもしれないが、しかし思うだけなら、想うだけならば自由だろう。私達が元いた場所でも、この魔法界でも、思考の自由までは奪われていない筈なのだから……いや、ここでは分からないか。もしかしたら、心を読む魔法とかそんなのがあるかもしれない。

 そう考えると、魔法というのは使う分には便利だが、それが社会全体に関わってくるとなると途端に生きにくい社会が出来上がるのかもしれない、と思う。思想の自由が奪われるだけで、果たしてどれだけの人が不自由を訴え、生きることが難しくなるのか――わざわざ考えるまでもなく、答えは明白なのだが。

 

「なあ、シャロ」

「ひゃ、ひゃいっ!!?」

 

 ローブを引っ張り出していると、突然リゼ先輩が話しかけてきた。いや、リゼ先輩を責める気などこれっぽっちもない。っていうかひゃいってなんだひゃいって!? もうちょいちゃんと受け答えしなさいよ!! 馬鹿!!

 

「私のこと……どう思う?」

「!!?!?!? ど、どどど、どう思う!?!?」

 

 ど、どう思うもこう思うも!!?

 え!? リゼ先輩!? 何急に言い出すんです!? ま、まさか、これ、そういう流れ……? わ、私の想いを外に出さなければならないときが来たの!? し、思考の自由さえ奪われたの!?

 

 で、でも、そんな、心の準備が――あ、ああああああああああ!!!!

 

 

《side Chiya》

 

「シャロ? おいシャロ!? どうした!? しっかりしろ!!」

 

 あらあら、シャロちゃんってば気絶しちゃったわ。駄目ねえ……そうやって自分の心を内側に仕舞ったままじゃ、いつまでたっても、それは叶わないのに。

 ……まあ、私にとっては、都合が良い……かもしれないけれど。

 

「ココアちゃん、起きて。そろそろ降りる準備するわよ」

 

 ココアちゃんを起こしながら思う。

 もしも、シャロちゃんがリゼちゃんに想いを伝えて、それをリゼちゃんが受け入れたら、私はどうしましょうか――いや、シャロちゃんからリゼちゃんに向ける想いがそういうものと決まったわけではないし、シャロちゃんも私に話してくれないから確実なことは言えないけれど――でも、もしもそうなった場合。私は――正気を保っていられるかしら?

 

 ……まあ、いいわ。

 

「ココアちゃん、早く起きないとダメよ。遅刻しちゃうわよ〜」

 

 そんな先のことを考える余裕なんて、私には無い。今を生きることに精一杯な私には、そんな余裕は無い。今だって、余計な考えが頭の中を回っている。私のネガティブな思考回路が馬鹿みたいに働いている――働かなくても良いのに。

 

 だから――手一杯。

 精一杯なのだ。

 

 でもまあ、精一杯なら精一杯なりに頑張るしかなくて、ああこの世界はなんて残酷なのだろうとか思いつつ、みんなと笑って生きていけるなら、私はそれで十分で――。

 

「……お姉ちゃん、そろそろ起きないとダメですよ」

 

 

《side Cocoa》

 

「もう一回言ってー!!」

「きゃあっ!?」

 

 お姉ちゃん!! 今確かにお姉ちゃんって聞こえたよ! 眠っていたからよく分からないけど、確かに聞こえた! だって、眠気がこれっぽっちも残ってないもん! こんな良い寝起きなのは、お姉ちゃんって呼ばれたときしか考えられないよ!

 しかも口調から察するに、間違いなく、私の可愛い可愛い妹の――!

 

「チノちゃーん!! ……あれ?」

「びっくりしたわ……おはよう、ココアちゃん」

「あ、おはよう、千夜ちゃん! ……もしかしてさっきのって」

「うふふ、私よ」

「千夜ちゃんかーい!!」

「チノちゃんに口調も寄せてみたの。どう? 似てた?」

「似てたけど!! 似てたけども!!」

「あら、お気に召さなかった? 快適な起床を提供できたと思ったのだけれど」

「いや、まあ、快適っちゃ快適だけど……」

 

 うーん、腑に落ちない……なんかちょっと騙された気分……。

 ……まあ、いっか! お姉ちゃんって呼んでもらえたし、いいや!!

 

「それは兎も角千夜ちゃん、準備って? もうホグワーツに着いたの?」

「まだよ。だけどもうそろそろでしょう――ほら、8時過ぎてるし」

「あ、本当だぁ……ん、オッケー」

 

 軽く伸びをしてバッグを網棚から降ろす。

 で、チャックを開け――たところで、ちょうどアナウンスが鳴った。

 

『もうすぐ ホグワーツ魔法魔術学校 到着 で ございます 降りる準備を お願い致します』

 

《PM.8:03》

 

 

[113] 登校準備 compartment.3

 

 

《side Alice》

 

『もうすぐ ホグワーツ魔法魔術学校 到着 で ございます 降りる準備を お願い致します』

 

 大きなお城が見えてきて暫くたった頃。ついにアナウンスが鳴りました。ホグワーツ魔法魔術学校が近いのでしょう。

 

「そろそろ準備しよっか」

「ええ、そうですわね」

「そうだね。……イギリスって時間にルーズらしいのに、意外にアナウンスは早いんだね」

「意外って……まあ、ルーズなのは否定しないけど……ホグワーツって魔法界では結構有名らしいし、その辺はしっかりしてるのかもしれないね」

「ふうん」

 

 バッグからローブを取り出す――う……モエコやワカバのと比べたら滅茶苦茶小さい……なんでこうも成長差があるのだろう? 日本人は背低いんじゃなかったのでしょうか。何故イギリス人より背が高いのでしょうか……。

 

「…………」

「どうしたのですか? アリス」

「!」

 

 目の前に突然シノの顔。急にシノが話しかけてきてびっくりしました……。やっぱりシノって忍者の末裔なのでは無いのでしょうか? たまに疑ってしまいます。

 

 

《side Shinobu》

 

 ああ、アリス、貴方はどうしてアリスなのでしょうか? アリスはいつも可愛くて、きらきらしていて、金髪です。そして驚いたアリスの顔も……ああ、なんと素敵なのでしょう! やはりアリスは私の天使です! 娘という訳ではありませんが、それでも私の天使です! 天から下らず舞い降りた、美しく素晴らしく最高で最上の金髪少女……!!

 

「ね、ねえシノ?」

「はい! なんでしょう!?」

「なんでそんな食い気味なの!? えっと……私の背って……もう伸びないのかな」

「さあ、どうでしょう」

「簡潔な答えだね!?」

「でも、背丈なんて気にする必要なんてありません。アリスはアリスなのですから」

 

 そう、アリスはアリス。背丈なんて関係ありません。背が小さくてもそれはアリス。背が大きくてもそれはアリス。アリスに変わりはないのですから、そんなこと気にする必要は無いのです。

 それなのに、どうもアリスは気にしているらしくて……そんなに人と違うのが嫌なのでしょうか? 金髪を持っている時点で、既に並の方を超えているというのに、背丈でも超えようとするなんて……。

 

 流石アリスです!! どこまでも向上心を失わない――素晴らしいですよアリス!!

 

「きっと伸びます! 伸びますよアリス!」

「急にどうしたのシノ!?」

「伸びます! 間違いありません! だってアリスなのですから! 金髪少女に不可能はないのです!!」

 

「シノ……!」

「アリス……!」

「シノ!!」

「アリス!!」

「シノー!!!」

「アリスー!!!」

 

 

《side Moeko》

 

 ……二人とも、仲良さそうでなによりです。ローブの裾を整えつつ、そう思います。

 

 でも、どうなんだろうか? もしもアリスちゃんが金髪じゃなかったら……忍ちゃんは、ここまでアリスちゃんを好いていたのでしょうか? この光景を見ると、たまにそう思うことがあります。

 

 ――実際に、聞いてみたい。

 

「もえちゃん」

「うぇ!? わ、若葉ちゃん! どうしたの?」

 

 突然、若葉ちゃんの声。

 

「二人とも……素敵ですわよね……」

「は、はあ」

「一途な両思いとでも言いますか……きっとお互いにとってベストパートナーなのですわ! 尊い……」

「ベストパートナー」

「はい! ……どうかしましたか?」

「ううん、なんでも無いよ! ……あ、若葉ちゃん、帽子踏んでる!」

「あ、ああ!? わ、私としたことが!?」

 

 帽子を丹念に払い始める若葉ちゃん。……踏んでたの先っぽだけだから、そこまでしなくてもいいのに……本当にお嬢様です。

 

 ……ベストパートナー、か。

 

 両思いというか――共依存では、無いでしょうか?

 

 

《side Wakaba》

 

 ……ああ、二人が仲良くしているこの光景を見ていると、なんだか異空間に迷い込んだような気がします。女子高生っぽい……!

 

 でも、どうなのでしょうか? もしもアリスちゃんが金髪じゃなかった場合、しのちゃんは果たして、ここまでアリスちゃんを愛でていたでしょうか?

 ……きっと愛でていたでしょう。二人の絆は、そんなことで切れてしまうようなものでは無いはず、そう思うのです。

 

「もえちゃん」

「うぇ!? わ、若葉ちゃん! どうしたの?」

 

 オーバーリアクションです……何か考え事でもしていたのでしょうか?

 

「二人とも……素敵ですわよね……」

「は、はあ」

「一途な両思いとでも言いますか……きっとお互いにとってベストパートナーなのですわ! 尊い……」

「ベストパートナー」

「はい! ……どうかしましたか?」

「ううん、なんでも無いよ! ……あ、若葉ちゃん、帽子踏んでる!」

「あ、ああ!? わ、私としたことが!?」

 

 な、なんということでしょう!? せ、折角の帽子が! 庶民的なお店で購入した、私の、大切な宝物がぁぁぁ!!?

 急いで払います。ああ、自分で汚すとは、なんて情けないのでしょうか……悲劇すぎます!!

 

《PM.8:12》

 

 

[114] 登校準備 compartment.4

 

 

《side Ruki》

 

『もうすぐ ホグワーツ魔法魔術学校 到着 で ございます 降りる準備を お願い致します』

 

 列車内に響き渡る、到着直前のアナウンス――ついに来たのね、この時が!

 

「さあ、つーちゃん、かおすちゃん、小夢ちゃん、ネビルくん! 着替えるわよ!」

「ここで全員着替えるの?」

 

 つーちゃんが言う。

 

「じゃあどこで着替えるのよ」

「一斉に?」

「え? な、何? なんかあるの?」

「一応私達下着になる訳だからさ、こう、ね?」

「あっ」

「ぼ、僕外に出てるよ!!」

「あっ」

 

 ネビルくんが外に出た。……完全に考慮してなかったーーー!!!

 

「私は別に良いけど……みんな嫌でしょ?」

「そ、そうね……」

「言わなかったらどうなってたんだろ」

「だ、大惨事……」

「いえ、別に良いんです……どうせ私なんて胸ないですし、幼児体型ですし、どこに欲情する部分があるというのでしょう……ふふ」

「かおすちゃん自分からネガティブゾーン入るの止めて! 私だって胸ないわよ!」

 

「る、るきさん……!」

「かおすちゃん……!」

 

「これこそ共依存」

「いやらしい……」

「どうしてそうなんのよー!!?」

 

 なんで!? なんでみんなそうやっていやらしい目で見るの!? なんで!? TL漫画描いてるからなの!? もう!!

 

 

《side Koyume》

 

「む」

 

 待てよ、ネビル君は外に出た。で、私達四人はこの狭い空間で一緒に着替える……みんな一緒に……翼ちゃんも一緒に……!!?

 

「わ、私も、そ、外に出てようかなー! な、なんてー!」

「わ、私と一緒じゃ嫌でしたか!? わ、分かりました! 私も外に出ます! はい!」

「違うよ! そうじゃないよ! かおすちゃんじゃないよ! っていうかすぐネガティブ入るの止めよう、本当に!」

「なら私? ……ええ、そうでしょうね、私はいやらしいものね……」

「琉姫ちゃん! ネガティブうつってます! 違いますよ!」

 

「……じゃあ、私か」

「あっ」

 

「……ふっ、随分と嫌われたものだ……まあいい……良かろう、外に出る」

「あああああ!! ち、違います! 誤解です! 誤解なんです翼さぁぁん!!」

「翼の折れたデヴィルはただ去るのみ……」

「去らないでください! 嫌いじゃないです! 本当! 嫌いじゃないですからあああ!!」

 

 うわああああ!!! ど、どうすれば! どうすればー!!

 

 

《side Tsubasa》

 

 私は小夢に嫌われているらしい。

 何故かは分からない――だが、嫌われているのは確かなことだろう。嫌っていなければ、わざわざ名指しで一緒に着替えるのが嫌などと、言われる筈がない。逆に嫌いじゃないのなら、何故そんなことを言われるのかという話だ。

 しかし、本当にどこが嫌われている? 容姿? 態度? 性格? 分からない。具体的に言ってくれれば、直すように努めるのだが……遠きを知りて近くを知らず、という言葉があるように、自分のことは案外自分では分からないものなのだ。故に、直しようがない。

 

 コンパートメントのドアに手を掛けた――その時。

 

「つ、翼ちゃんは、絶対ここで着替えてください!! 絶対!! 絶対です!!」

「絶対って……」

 

 小夢に引き留められた――何故だろうか? わざわざ嫌いな相手を引き留める? そこに何のメリットが?

 

 ???

 

 まあ……絶対とまで言われれば致し方ない。そこまで言われて断るのは、余計印象を悪くするだけだろう。

 

 ……本当、何で嫌われてるんだろう。

 

 

《side Kaoruko》

 

 ローブをバッグから出して、小さいと思いました。

 いえ、着るには小さいというわけでは無いのです。十分ぴったりなのです。が、小さいというのはそこではありません。3人と比べて小さい、ということなのです。

 それに他の方たちとも比べて……アリスちゃんと同じか、それより小さいくらい……何故なのでしょうか?

 

「……琉姫さん」

「どうしたの?」

「琉姫さんって背高いですよね」

「胸は無いけどね」

 

 ああ……私のネガティブがうつってます……なんということでしょうか……!

 

「……そ、それはそれとして、何? 急にどうしたの?」

「どうやったら、そんなに背高くなるのでしょうか?」

「そうね……牛乳飲むとか?」

 

「えっ、母乳!? 流石るきさん、いやらしい……」

「母乳じゃないわよ! 牛乳! 何!? なんでそんな聞き間違えするの!? 私の何が悪いの!? 私いやらしくないから!!」

「母乳はセルフで……あっ、無理か」

「喧嘩売ってる!? 母乳から離れて!!」

 

「……牛乳ですか」

「飲んでる?」

「……中3頃まで欠かさず飲んでましたが、一向に効果が出ず……」

「あっ……なんかごめん」

「いえ、お気になさらず……」

「…………」

「…………」

 

 ああ、変な空気に……私ってなんでいつもこうなのでしょうか……?

 

 ああもう、消えてしまいたい!!

 

《PM.8:15》

 

 

[115] 登校準備 compartment.5

 

 

《side Yoko》

 

 アナウンスが鳴ったが、まだ8時だったので無視した。

 

 ――が、しかし。

 

『ホグワーツ魔法魔術学校 間も無く到着です 生徒は 準備を 早く 済ませてください』

 

「ヤバい! ヤバいよこれ! まだ何の準備もしてない!!」

「15分になるまでずっと遊んでたっすからねー」

「仕方ないデスネー」

「お前ら冷静だなオイ!?」

「だってローブ着れば良いだけっすから――あれ、ローブどこっすかね?」

「確か、3人一緒の場所に置いてたんじゃなかったデスカ?」

「そ、そうっすよねー……待って、本当ない、ね、ねえ、本当無いんすけど!?」

「Noーーーーー!!?」

「お前らさっきまでの冷静さはどこ行ったんだよ!!?」

 

 くっそこんな時、綾とか香奈とかリゼが居てくれたら……! 私たちこんな目に遭わずに済んだってのに――!

 っていうかこの中で(自分で言うのもなんだが)比較的まともな私が手綱を握れなかったってのは、色々ショックなんですけど!?

 

「ど、どこっすか!? どこっすか!?」

「Oh my god !!! さ、3人で遅刻するデス!?」

「冗談でもそんなこと言うの止めろー!!!」

 

 登校初日から遅刻とか、いくらなんでも笑えねえよ!!

 

 

《side Karen》

 

 大変です、大変です、emergency、emergency!!!

 

 どうしましょう!? 本当にどうしましょう!? なんでローブが無いのだろう!? 確かに列車の中に持ち込んだし、3人の分は一つに纏めた筈です!

 じゃあ、その後どこに置いたのか!? 網棚の上? そうだ、網棚の上です! その通りです!

 

「ヨーコ、マオ! 網棚! 網棚の上デス!!」

「あっ!!」

「あんなとこに……」

「なんでこんな下らない事に時間使っちまったんだよ!?」

「上方不注意デスネー」

「急ぐっす!!」

 

 網棚の上には紙袋がありました! 紙袋の中には3人のローブが入っています! 私のローブは、これだ?

 はい、これです。急いで着替えましょう。時間がとてもありません! 袖に手を通しましたが、なんか違います。

 

「Oh これ、ヨーコのデス」

「なんかおかしいと思ったんだよ!!」

「あ、これカレンのっすね」

「なんでみんなして間違えるんだよ!?」

 

 Oh !! gouranga !! 見事なtriangleですね!!

 

 

《side Mao》

 

 袖を通しながら、こいつら愉快だなー、と思った。

 なんというか、波長が合うと言うか――似た者同士と言うか。この2人と、あとココアと小夢ちゃん。あと、メルジーナもかな? 兎に角、良い感じに類は友を呼ぶ現象が発生していて、私にとって居心地がいいったらありゃしない。

 

 ……大多数から孤立するのは、余りにも寂しいことだと私は思う。だからこそ、こうしてみんなでワイワイやってられるような状況が、いつまでも続くといいなーと思ってみたりしている。

 

 ……元の世界に帰ったら、また離れ離れになっちゃうんすよねー……」

「そんなことないさ」

「!?」

 

 お、おっと、声に出てたっすか!? 締まりの悪い口だ……。

 

「そうデスよ! 元の世界に帰っても、きっといつか会いに行きマース!! それで、またロシアンルーレットしまショウ!!」

「気が早すぎる話だけどな。元の世界に帰れるかどうかも分かんないし、それがいつかも分かんないんだから、先のことなんて考えても意味ないよ。鬼が笑うぞ?」

「クゼハシセンセーが笑う!?」

「鬼=クッシーちゃんってなんだよその思考回路!?」

「クッシーちゃん? ……ま、そうっすよね。わざわざ先のことなんて考えても、意味ないっすよねー!」

 

 荷物をバッグに詰めながら言う。

 そう、先の事は分からない。だからこそ――不安だし、楽しい。

 

 ……ふと、突然、なんの前触れもなくあの疑問が湧いた。先の事といえば、私の杖から出たあの緑の閃光――あれの正体が分かるのは、一体いつになるのだろうか?

 

《PM.8:31》

 

 

[116] PM.8:32

 

 ――ホグワーツ魔法魔術学校行きの特急列車・ホグワーツ特急は、その動きを遂に止めた。

 

『ご乗車 ありがとうございました ホグワーツ魔法魔術学校 到着でございます 忘れ物等 ございませんよう お願い致します』

 

 遂にその姿を現した幻の古城、三大魔法学校が一つ・ホグワーツ魔法魔術学校。ここで彼女達を待ち受けているものとは? そして、その最深部に隠された恐るべき秘密とは?

 

 ――全ては、いずれ分かるだろう。今はただ、備えるのみ。

 




 すいません!! 本当すいませんでした!!(全力土下座)
 いや、あの、言い訳させて下さい! この回のデータ全部吹っ飛んでしまったんです! 唐突に! なので2日も開いてしまい……申し訳ありません!!

 それはそれとして、お待たせしました。遂にホグワーツ到着です。いよいよ次回からホグワーツ篇開始です。気になる組み分けは次々回になる予定です、お楽しみに。

 ……今週中に組み分けしたかった……。

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