ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしました。今回は注意事項をよく読んでからご覧下さい。

※注意事項※
・2万字近い長さです。本当に余裕のあるときにどうぞ。
・長いくせに本筋とはあまり関係ありません。
・ところどころで煽りがありますが、当作者はそれらについて何の責任もとりません。実行するにしても、全て自己責任でお願いします。
・見る方によっては不快になるシーンが多々あります。お食事中などは控えたほうがいいかもしれません。
・その他、なんかあったらここに書きます。


ホグワーツ特急紀行 : 9と2/4

【第19話】

 

 

ホグワーツ特急紀行:9と2/4

-エブリ・フレイバー・ビーンズ-

 

 

[101] ホグワーツ特急の歴史 chapter.2

 

 ――さて、国際機密保持法が出来てからは、果たしてどうやってイギリス全土からスコットランド高地にあるこの魔法学校に子供たちを輸送しようかという話が、当然浮上した。

 最初の案は『移動キー(ポートキー)』をイギリス各地に設置する、という物であった。しかしその試みは言うまでもなく失敗した。――ポートキーとは簡単に言えば、瞬時に行きたいところへ行く事が出来るアイテムで、その形状は様々である――。ポートキーはその形状自由性により、見つけられない生徒も多数居た。しかもポートキー最大の欠点は、マグルも使用する事が出来るという事だ。偶然ポートキーに触れたマグルがホグワーツにやって来るというのも、決して珍しい出来事ではなかったのだ。それが原因で行使された『忘却呪文』の数は、測り知れない――。

 

 

[102] ビーンズ・ロシアンルーレット 序章

 

 全ては、陽子のこの一言から始まった。

 

「トレバーも捕まえて丸く収まったし、この百味ビーンズでロシアンルーレットしよーぜ!!」

 

 トレバー脱走事件から数時間後、昼ご飯を食べ終えた彼女たちは、フレッド、ジョージの居るコンパートメントへ。そこは彼女たちのコンパートメントとは別空間と呼んでも差し支えなく、フレッド、ジョージ、そして同じくコンパートメント内にいたリー・ジョーダンによって大きく広げられていた。彼女たち20人(行く途中で薫子、小夢、琉姫、翼も誘った。ネビルは寝ていたのでそっとしておいた。また、廊下でメルジーナ・グリースと遭遇した。彼女もホグワーツ生だ)が全員収まり切るほどに。

 

 で、そこで陽子のこの台詞である。何人かは難色を示したが、大多数が賛成した。百味ビーンズは陽子がいたずら専門店で購入したやつを使用する。

 ロシアンルーレットと言うからには順番を決める必要があり、順番は公正かつ公平にくじ引きで決めることにした。くじ引きの結果は[103]に書いてある。

 

 ……軽い気持ちで陽子は提案したのだろうが、これから始まるのはただの生温い遊びではなく、凄惨なる戦いに他ならない。この戦い、誰が生き残るのか。

 

《PM.3:55》

 

 

[103] オーダー・オブ・ルーレット

 

 くじ引き結果がこちら。

 

  1.大宮忍

  2.小橋若葉

  3.アリス・カータレット

  4.時田萌子

  5.天々座理世

  6.メルジーナ・グリース

  7.ジョージ・ウィーズリー

  8.勝木翼

  9.九条カレン

  10.保登心愛

  11.日暮香奈

  12.桐間紗路

  13.真柴直

  14.猪熊陽子

  15.小路綾

  16.フレッド・ウィーズリー

  17.色川琉姫

  18.松原穂乃花

  19.リー・ジョーダン

  20.萌田薫子

  21.黒川真魚

  22.宇治松千夜

  23.恋塚小夢

 

 以上の結果となった。

 というわけで、悪夢のビーンズ・ロシアンルーレット、開幕である。

 

[104] バーティ・ボッツの百味ビーンズ

 

 百味ビーンズ――正式名称をバーティ・ボッツの百味ビーンズと言うそれは、魔法界では一二を争うほどの、一般的お菓子である。

 見た目はその名の通り、カラフルなゼリービーンズであり、大きさは大体そら豆くらい。ランダムに袋詰めされ、ファンシーな箱に入れて販売されている。これだけなら、普通のお菓子に見えるだろう。実際、ぱっと見では何の変哲も無いものであり、色も変化しないし、飛び上がりも弾けもしない。お菓子の中では正直地味な部類に入るだろう。では、何故こんなものが魔法界で末長く愛されているのか? その秘密は、味にある。

 

 ビーンズの他に、もう一つ名前から予測出来るものがある。そう、『百味』だ。百味という要素こそ、この百味ビーンズを百味ビーンズたらしめている要素であり、人気の秘訣なのだ。

 

 その味は――なんでもあり。

 

 そう、なんでもありなのだ。百味という看板に一切の偽りは無い。寧ろ百味でも少ないくらいなのだ。子供が好きそうな果物――例えば、林檎とかバナナとか――は勿論のこと、なんと食べ物――カレー、ヨークシャープディング、ホウレンソウ――などもあり、挙句の果てには食べ物ではないもの――石鹸、蚯蚓、■■――などなど、もう本当に、なんでもありなのだ。

 

 さて、こんな物を食べたがるマグルの方は果たして居るのだろうか? とても居るとは思えないが、もしも居るというのならば、そんな貴方や貴女はそれを手に入れることが出来る。

 マグルというのは魔法族を迫害する性質を持つくせに、妙に魔法族の真似をしたがるという矛盾した特徴を持っているようで、なんとこの百味ビーンズ、マグルの世界でも製造・販売されている。その味の再現度はマグルにしては中々のもので、特に嫌な味の再現度は滅法高いとの噂だ。尤も、魔法界のものにあくまで似ているだけであって、とても及ばないし、その味のラインナップも百味には遠く及ばない。この辺にマグルの限界を感じることが出来るだろう。

 

 興味があるなら食べてみるといい。美味しいものは本当に美味しいし、不味いものはとことんまで不味い。どうぞ、ご試食あれ。

 

 

[105] ビーンズ・ロシアンルーレット 1st

 

 百味ビーンズロシアンルーレット 一回戦。

 

 

《Turn Shinobu》

 

「では……いきます!」

 

 目隠しした忍は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは眩いような金色。最早この時点で嫌な予感しかしない。が。

 

「こ、これは……もしや、金髪味なのでは!? や、やりました! 生き残りましたよ!」

「なんで金髪味が当たりなのよ……」

 

 香奈が言う。

 

「だって金髪ですよ!? では、いただきます」

 

 口の中にビーンズを放り込んだ。そして――顔から表情が無くなった。

 

「……なんです? これ……味が無いです」

「知らね」

 

 とフレッド。

 

「金箔味なんじゃねーの?」

 

 とジョージ。

 

「……えっと……この場合は……」

「美味しくないの? ならアウトだね」

 

 小夢が言う。

 

「じゃ、じゃあ……アウ……ト? ……な、なんなんですかこの地味な感じは!? まさかこんな反応し辛いものが当たるとは思いませんでしたよ!!?」

 

 ――忍が引き当てたのは、ジョージの言う通り『金箔味』。金箔には味が無いのだ。

 

 大宮忍、OUT。

 

 

《Turn Wakaba》

 

「じゃ、じゃあ参りますわ!」

 

 目隠しした若葉は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは錆鼠色(さびねずみいろ)。鈍い光を放っている。

 

「……あの、これ……なんか見るからにやばそうなんですが」

「食べろ」

 

 直が言う。

 

「…………うわぁぁぁ!! ままよ!!!」

 

 叫ぶと、若葉は口の中にビーンズを放り込んだ。

 

「うぐぅ!!?」

 

 すぐに吐き出された。

 

「ぺっ、ぺっ! うぇぇ……な、なんですかこれぇ……こう、血の味と言いますか? なんかそんな……うっ、まだ味残ってます……」

「血の味? となると、鉄味かな?」

 

 メルジーナが言う。

 

「鉄……なんでそんなのが味に組み込まれてるんですか……」

 

 ――メルジーナの予想は正解である。このビーンズは『鉄味』であった。血の味はもともと血に含まれる鉄分に由来するものなのだ。

 

 小橋若葉、OUT。

 

 

《Turn Alice》

 

 目隠ししたアリスは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは焦香色(こがれこういろ)。所々に白い斑点が混ざってある。

 

「うわぁ……」

「ファイトですよアリス!」

 

 忍は言う。

 

「う、うん……あむっ」

 

 アリスは口の中にビーンズを入れた。

 

「……これは……納豆? 納豆だ! やったよシノ! 当たりだよ! 私やったよ!!」

「やりましたねアリス! やっぱりアリスは凄いです!!」

「ちょ、え!? なんで納豆で当たりなの!? 嘘! 納豆美味しくないのに!?」

 

 小夢が言う。

 

「納豆は美味しいよ! 万人が好める味なんだよコユメ!」

「いや万人では無いだろ……」

 

 リゼが言う。

 

「えぇ……」

 

 ――そんな訳で、このビーンズは『納豆味』。好き嫌いが分かれるものではあるが、食べたことの無い人は是非食べて欲しい。これに関しては、世間の悪評ほど信用出来ないものはない。

 

 アリス・カータレット、SAFE。

 

 

《Turn Moeko》

 

 目隠しした萌子は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは黄金色。ちらほらと藍鼠色の点がある。

 

「「「あっ……」」」

 

 フレッド、ジョージ、リーが何かに気付いた。

 

「えっ!? あっ……って何!? 待って怖い! え!? た、食べるよ!? 食べるからね!?」

 

 萌子はビーンズを食べた。

 

「うぇっ……!?」

 

 みるみる顔色が悪くなっていく。

 

「な……なにこれ……」

「ハズレ引いたな、そりゃstargazy pie味だ」

「え? ……スターゲイザーパイ?」

「簡単に言えば、パイに魚をそのままぶちこんだ食い物だ」

「はい、写真」

「パイに、魚――うぇぇ€°<8÷ぇ×ぇぇ+1→ぇ!!!?!?!?」

 

 呂律が崩壊した萌子。すぐさまビーンズを吐き出した。

 

 ――そう、『スターゲイザーパイ味』。普通にスターゲイザーパイを食べる分にはそこまで不味くはないが、味作成の都合上、パイの味と魚の味を混ぜることとなり、必然的に不味くなる。というか、不味いというより見た目でアウトになる。

 

 時田萌子、OUT。

 

 

《Turn Rize》

 

 目隠ししたリゼは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは麹塵色(きくじんいろ)。リゼの顔から表情が消えた。

 

「……食べなきゃダメだよな」

「そ、そうだよ、食べ+÷2な6き^=+♪<!」

 

 まださっきの味を引き摺っている萌子が言う。

 

「……頂きます」

 

 慎重にビーンズを口に入れた。

 

「…………っ!!!? うわっ、!!!、くっそ、これかよ、よりにも、!!!、よっ――!!!」

 

 悶絶するリゼ。

 

「リ、リゼ先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

 紗路が心配そうに叫ぶ。

 

「だ、大丈夫じゃない!! やられた――これあれだ、MREだ!!」

「え、えむあーるいー?」

 

 鸚鵡返しにココア。

 

「ああ――簡単に言えばアメリカのレーションだ――ああもう、なんでこう、あああ!!! なんでこんな味まであるんだよ!! 魔法界いい加減にしろ!!!」

 

 ――『MRE』とは、『Meal, Ready-to-Eat』の略で、アメリカの軍用食の一つ。一番不味い軍用食はと聞かれたらまず最初にあがるのがこのMRE。MREは幾つかの食料で構成されているが、このMRE味は、その食料全ての味を一つに合成したという暴挙と呼ぶには余りにも酷過ぎる作り方をしている。リゼがそれに気付けたのは、幼い頃、MREを全部一つずつ口に詰め込んだことが――脱線するからやめよう。

 

 天々座理世、OUT。

 

 

《Turn Melsina》

 

 目隠ししたメルジーナは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは栗梅色(くりうめいろ)。血を思わせるようなドス黒い色のそれを見て、彼女は顔をしかめた。

 

「……吉か凶か」

 

 メルジーナは呟くと、一息に口の中に入れた。

 

「うえっ!!?!?」

 

 メルジーナはビーンズを吐き出した。

 

「ど、どんな味だったんすか?」

 

 真魚がおずおずと聞く。

 

「こ、これ――あれだ、土みたいでなんか辛いから、ほら、あれ、み、ミミズ――うぇっ!!」

「だ、大丈夫……!?」

 

 琉姫が言う。

 

「はぁ……はぁ……うん、大丈夫……」

 

 メルジーナの声には全く力が無かった。

 

 ――『蚯蚓味』。食べ物でさえないので説明も何もないが、気になる方は是非食べてみてほしい。マグル版百味ビーンズで再現されている。どうしてこうマグルはゲテモノを進んで再現するのだろうか。

 

 メルジーナ・グリース、OUT。

 

 

《Turn George》

 

 目隠ししたジョージは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは紅緋色(べにひいろ)。割と美味しそうに見える。

 

「よっしゃあ!!」

「「「「外れろ! 外れろ! 外れろ!」」」」

 

 ジョージが歓声をあげた瞬間、リゼ、メルジーナ、フレッド、リーから外れろコール。

 

「HAHAHA!! 黙ってろ!!」

 

 意気揚々とビーンズを口の中に放り込む――そして、満面の笑み。

 

「――リンゴ味だ」

 

「面白くねぇぇぇ!!」

「お前そんな奴だったのか絶交だぞ!!」

「「あああああああ!!!!」」

 

 四方からブーイングを受けるジョージ。だが考えて頂きたい、彼がここまでされる謂れはない。

 

 ――そう、『林檎味』。本当にベーシックかつよくある味であり、ゲテモノ味揃いの百味ビーンズにおいて、数少ない良心の一つである。

 

 ジョージ・ウィーズリー、SAFE。

 

 

《Turn Tsubasa》

 

 目隠しした翼は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは……ごったがえした気持ちの悪い黒色。それ以外に表現のしようがない。

 

「……ふっ……これは……私にお似合いな暗黒物質だな」

「明らかにヤバそうなのを引いてもその余裕! かっけーっす!!」

 

 真魚が言う。

 

「つ、つーちゃん? 嫌ならいいのよ? ね? だから辞退しましょう? それ絶対止めた方がいいやつよ」

 

 と、琉姫。

 

「いや、駄目だ。私はここまでの5人の屍の上に立っている――私だけがこの流れから逃げ出すことは、絶対にしない!!」

 

 翼はビーンズを口に放り込む。

 

「<々6<○・<$÷×5+>#÷〆○¥5>+!!!!」

 

 翼は倒れた。

 

「翼さぁぁぁぁん!!!」

 

 小夢が叫ぶ――だが、翼は起き上がらない。

 

 この後彼女は、ロシアンルーレット最終ラウンドまで起き上がることはなかった。

 

 ――翼が食べたのは『ヘドロ味』。わざわざ説明する必要性もないだろう。貴方は食べたいだろうか? その問いに対する貴方の出すであろう答えが、その全てを物語っているからだ。

 

 勝木翼、OUT。

 

 

《Turn Karen》

 

 目隠ししたカレンは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは葡萄鼠色(ぶどうねずみいろ)。美味しそうだが、先程の奴と色がそっくりだ、カレンの顔には絶望が刻まれている。

 

「……ホノカ、私が死んだら、ママとパパによろしくデス」

「そこまでの覚悟!? む、無理だよ! 私なんかにそんな大役――っていうか死なないでよカレンちゃん!!」

 

 穂乃花が言う。

 

「サヨナラ!!」

 

 カレンは口にビーンズを入れた。その余りの不味さに、九条カレンは爆発四散――

 

「……あれ?」

 

 ――しなかった。

 

「美味しいデス」

「えっ!?」

「これ――ブドウ! ブドウ味デス! HAHA!! やったデース!!」

「良かったねカレンちゃん!!」

「やったねカレン!!」

「カレン流石です!!」

 

 他方から祝福を受けるカレン。ジョージとカレン、どこで差がついたのか。

 

 ――『葡萄味』。これも言うまでもなく人気かつ定番の味である。普通に美味しいので、特に解説は無し。

 

 九条カレン、SAFE。

 

 

《Turn Kokoa》

 

 目隠ししたココアは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは飴色。クリーミーなかんじの何かだろうか?

 

「ふふん、これは勝ったね! どう考えても不味い筈ないよ!」

「そういうこと言ってる奴に限って外れたりするものよね」

 

 シャロが言う。

 

「ふふん、兎の加護に護られたお姉ちゃんの実力、とくとご覧あれ!!」

 

 勢い勇んでビーンズを食べた。

 

「ふむ……あっ、美味しい〜! これキャラメル味かな!?」

「フラグ回収しなさいよ!!」

 

 と、シャロ。

 

「フラグ回収は基本だろうが!!」

 

 と、直。

 

「ふふん! フラグなんて知らないよ! これが私のシスターパワー!! あははは!!」

 

 ――『キャラメル味』。美味しい。本物のキャラメルだと歯にくっついたりするが、これは食感は全てゼリービーンズ的な食感なので、ある意味本家より食べやすい。当たり中の当たりである。

 

 保登心愛、SAFE。

 

 

《Turn Kana》

 

 目隠しした香奈は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは乳白色で、小さな金糸雀色(かなりあいろ)の点がある。

 

「あ、分かった――これ卵味ね。色的に考えたら、大体分かるよ」

「……果たして」

「……そうかな」

 

 フレッドとジョージが言う。

 

「ちょ、止めてよ……フラグなんて立てようとしても無駄だからね。ココアはフラグへし折ったんだから、私だってフラグの一本や二本へし折るわよ!」

「シスターパワーが無い香奈ちゃんには無理だよ〜」

「シスターパワーって何だよ!!」

 

 ビーンズを口に放り込む。

 

「…………〜〜〜〜〜〜!!!?!?!!」

 

 香奈はすぐさま立ち上がり、コンパートメントの外へと飛び出して行った。

 

「えっ」

「ほら、フラグ回収」

「『アレ』だったな」

 

 フレッドとジョージがにやにやしながら言った。

 

 ――読者の皆さんも予測出来たのではないだろうか? そう、これは卵味ではなく、『腐った卵味』。何故こんなものを味のレパートリーに入れたのかは不明だが、これは最初期の百味ビーンズ時代から存在しており、メジャーな味であると共に、最悪なビーンズ10本指に常に入る代物である。え? 興味が湧いた? じゃあその手元にあるマグル版百味ビーンズから探して食べてみよう。死ねるよ。

 

 日暮香奈、OUT。

 

 

《Turn Sharo》

 

 目隠ししたシャロは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは千歳緑色(ちとせみどりいろ)。スイカを連想させるが……果たして。

 

「美味しかったらいいなぁ……」

「シャロちゃん運悪いんじゃ」

「悪運自称してるけど他人から言われると腹立つわ!!」

「もう無理よシャロちゃん! 諦めましょう」

「あんたどっちの味方よ!!?」

「大丈夫です! 金髪パワーで乗り切ってください!!」

「味方居てくれて嬉しいけどそれがよりによってあんたっていうね!!」

 

 ココア、千夜、忍がそれぞれ言った。

 

「よし! いくわよ!!」

「逝くわよ?」

「違う!!」

 

 シャロはビーンズを口の中に放り込んだ。

 

「…………何これ」

「どうだった?」

 

 千夜が言う。

 

「分かんない――でもあんまり美味しくないわ。変にしょっぱいだけ……魚の卵? かしら? でもなんか癖になる味……」

「金髪パワーでも駄目ですか……」

「あんたは何に失望してるのよ……」

 

 ――シャロが食べたビーンズ。実はこれ、あの世界三大珍味と言われるキャビアを模した『キャビア味』。図らずも高級食材の味を知ったシャロ。これがキャビア味とは知らないし、味も良くは無かったが、ある意味では幸運だったのかもしれない。

 

 桐間紗路、OUT。

 

 

《Turn Nao》

 

 目隠しした直は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは褐色。今までの例からいけば、まあロクな味では無いだろう。

 

「……はっはっは」

「柴さん?」

「はっはっはっはっはっは!!!」

「大変っす! 柴さんが壊れた!!」

 

 高笑する直。絶望で気が触れたか。

 

「……これはカレーだ」

「え?」

「これはカレーだ! 誰が何と言おうとカレーだ!!」

「自己暗示!?」

「いくぞ!!」

 

 直は勢い勇んでビーンズを放り込む。

 

「…………カレーじゃん」

「なっ」

「カレーだ! 本当にカレー味だったぞ!! やったぁぁぁぁぁ!!!」

「ありえねえっす……」

 

 ――直は決して嘘を吐いていないし、味覚が狂った訳でもない。本当にカレー味だった。直に謎の幸運が舞い降りたのだ。この味についての説明は特になし。強いて言うなら中辛の味。

 

 真柴直、SAFE。

 

 

《Turn Yoko》

 

 目隠しした陽子は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは猩々緋色(しょうじょうひいろ)。リンゴの様な色だが、果たして。

 

「これ絶対リンゴだって! やったー!!」

「あ、陽子! 慎重に食べ――」

「はぐっ」

 

 勝利を確信した陽子は、綾の忠告を聞かずに軽々とビーンズを口に入れた。

 だが。

 

「!!!!!、!!!、!!!!――――」

 

 陽子は気絶した。

 

「よ、陽子!? 何があったの!? 陽子!? 陽子ーーー!!!!」

 

 綾の叫びだけが虚しく響く。ロシアンルーレットが終わっても、陽子が目覚めることは無かった。

 

 ――陽子が食べたビーンズ、それは『キャロライナ・リーパー味』。良く分からない方も多いだろう事が予想されるので、簡潔に説明すると、世界で一番辛い唐辛子である。その辛さは脅威の300万スコヴィル(スコヴィルは辛さの単位)。口にした瞬間確定で気を失う程度の辛さを誇る。なんでこんな超危険食材を味に採用したのかと問い質したくなるが、『百味』『なんでもあり』なので、仕方がない。

 

 猪熊陽子、OUT。

 

 

《Turn Aya》

 

 目隠しした綾は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは紅色。先程のビーンズと色は大差ない。

 

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」

 

 食べる事を拒否しだした綾。さっきの陽子の末路が余程トラウマになっているらしい。

 

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」

 

「ア、アヤヤ! ファイトデス!」

「が、頑張れ! お前なら出来る!」

「ファイトっすよ!」

「頑張って綾ちゃん!」

「綾ちゃん! 貴女なら大丈夫です!」

 

「…………みんな……」

 

 みんなに応援され、綾は正気を取り戻した。

 

「そうよね! これだって、もしかしたらイチゴとかサクランボかもしれないし! よし! やるわよ!」

 

 意を決し、綾はビーンズを口に入れた。

 

「!!!!――!!――!!!!!――」

 

 綾は気絶した。

 

「アヤヤーーーーー!!!?!?」

 

 カレンの叫びも虚しく響く。綾もまた、ロシアンルーレットが終わっても、起きる気配は無かったという。

 

 ――綾が食べたビーンズもまた、唐辛子の一種『ブート・ジョロキア味』。これは先程のものより200万スコヴィル低い100万スコヴィルで、世界第3位。しかし、だからなんだという話だ。ヤバい食材には変わりなく、この辛さを耐える人間は居ないと言っても過言ではないだろう。

 

 小路綾、OUT。

 

 

《Turn Fred》

 

 目隠ししたフレッドは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは濡羽色(ぬればいろ)。フレッドの顔から笑顔が消えた。

 

「どうしたの?」

 

 小夢が聞く。

 

「いや……なんだもないぜ……はは」

「噛んでるよ! 絶対なんでもないことないじゃん!!」

「心当たりがある……だが思い出せない……何か、嫌な記憶――まあいい、食うぞ!」

 

 フレッドはビーンズを口に入れた。

 

「…………あっ、くそ、こおぇっ!!」

「ちょ、大丈夫かフレッド!?」

「大丈夫じゃnオェェッ!!」

「トイレ行ってこい!!」

「言われn――――!!!」

 

 フレッドは足早に駆けて行った。ちょうどそのタイミングで香奈が復帰。やつれている。

 

「何かあったの?」

「お前と似たような状況だ」

「オッケー、把握」

 

 ――『サルミアッキ味』。サルミアッキとは、世界一不味いと言われるフィンランドのお菓子である。気になる方は是非調べてみてほしい。そして挑戦しようとする無謀者は是非挑戦してみてほしい。サルミアッキはフィンランドの代表的なお菓子。これを食べれば、フィンランドとの異文化理解も夢じゃないぞ! 頑張れ!

 

 フレッド・ウィーズリー、OUT。

 

 

《Turn Ruki》

 

 目隠しした琉姫は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは鳥の子色。バナナの様な色だが果たして。

 

「まあ、無難にバナナでしょう。そう信じることにするわ」

「バナナ!? そんな、バナナなんて……」

「さ、流石るきさん……いやらしい……」

 

 小夢と薫子。

 

「何よ!? ただバナナって言っただけじゃない! 何よ!? どこにそんな要素があったの!?」

「おいおい、女子にそんなこと言わせるのか? なんてやつだ」

「とんだ変態だな」

 

 ジョージとリー。

 

「うわぁぁぁぁぁん!!! なんで私いっつもこんななのよぉぉぉ!!!」

 

 泣きながらビーンズを口に入れた。

 

「ひっく……ひっく……本当にバナナ味ねこれ」

「あんたそっち系の神様に守られてるんじゃない?」

「偶然にも程があるわよね……」

 

 シャロと千夜。

 

「ああああああああああああ!!!!」

 

 ――『バナナ味』。別に特筆することもない。普通に美味しい味である。バナナを食べているからといってその人がいやらしいという事実は無いので、そういうネタを現実で使うのは控えよう。嫌われまくって友達を失いたくないのなら。

 

 色川琉姫、SAFE。

 

 

《Turn Honoka》

 

 目隠しした穂乃花は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは乳白色。そして、金糸雀色の斑点。

 

「…………」

「ふっ、あんたも犠牲になるがいいわ」

 

 香奈が言う。

 

「…………」

 

 覚悟したのか、それとも絶望しているだけか、穂乃花は無言でビーンズを口に放り込んだ。

 

「…………卵」

「えっ?」

 

「これ……腐ってない卵だよ〜!!」

「えぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?」

 

 絶叫する香奈。美味しそうに食べる穂乃花。どこで差がついたのか。

 

 ――『卵味』もちゃんとある。そりゃあ腐った卵味だけな訳ない。卵にもアイデンティティーがあるのだ。以上。

 

 松原穂乃花、SAFE。

 

 

《Turn Lee》

 

 目隠ししたリーは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは鶸萌黄色(ひわもえぎいろ)。リーの笑顔が引き攣る。

 

「これかぁ……」

「どうした?」

 

 と、ジョージ。

 

「いや、なんでもない。多分、俺は脱落だなこりゃ」

 

 リーはビーンズを口に放り込む。

 

「…………ああ、やっぱりこれか……くっそ」

「何味だったんすか?」

「シソ味だ」

「シソ? 美味しいよ!」

「ああ、私も好きだな」

「そうか? ……日本ってのはよく分かんねえな……」

 

 ――『紫蘇味』。紫蘇は結構好みが分かれるものだと個人的には思うのだが如何なものであろうか。紫蘇といえばまあ天ぷらが一般的だが、これを生で食べるのは遠慮したい方が多いのではないだろうか。

 

 リー・ジョーダン、OUT。

 

 

《Turn Chaos》

 

 目隠しした薫子は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは中黄色(ちゅうきいろ)。何故かはしらないがパプリカを連想した。そして絶望。

 

「……す、すいません、い、遺書を書く時間を」

「死ぬこと前提なの!? し、死なないからね!? 頑張って!!」

「は、はい……」

 

 小夢が励ます。そして、ビーンズを口に入れた。

 

「…………ん……なんでしょう……こう、甘い? やわらかい甘さ……美味しいです!」

「わあ! 良かったねかおすちゃん! 遺書書かなくてすんだね!」

「はい! 羊皮紙が無駄にならなくてよかったです!」

「いやそこかよ」

 

 ツッコミは言うまでもなく香奈。陽子はノックアウト中である。

 

 ――これは『イエローピタヤ味』。馴染みが無い名前だが、これはドラゴンフルーツの一種のこと。ドラゴンフルーツというと外側が赤いものを連想するが、外側が黄色いものはイエローピタヤと呼ばれている。そして、味が無いと評判のドラゴンフルーツ勢の中でもイエローピタヤは最も甘いと言われている。百味ビーンズでは今の所イエローピタヤ味しかない。レッドドラゴンという品種は、次弾あたりで追加されるのでは、と魔法界では専らの噂。

 

 萌田薫子、SAFE。

 

 

《Turn Mao》

 

 目隠しした真魚は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは薄鈍色(うすにびいろ)。嫌な予感がするが、如何に。

 

「よし! やっとまおっすよー! ふっふっふ、ここまで待たせたんだから、そりゃあどっちかの方向でも振り切ったやつっすよねー!」

「コンクリート味でもかな?」

 

 メルジーナが言う。

 

「コンクリート味? はっはっは! 無いっすよー……とは言い切れ無いっすけど……まあ、そんなことまずないっしょ!」

「いやでもその色は……」

 

 真魚は口にビーンズを放り込んだ。

 

「…………がっが――が――ががが――がggggg<¥38×>$×○°==\<<<!!!??!?」

「あーもうほらやっぱりい」

 

 なんとも言えない、しかしながら余りにも不味い味――これこそまさに真魚が望んだ『振り切ったもの』であった。尤も、食べ物ですらないとは予想外だったらしいが。

 

 ――という訳で今回は『コンクリート味』。これについてはもう想像するしかないが、まあ間違いなく、食べるに適しない味であることは想像するに難くないだろう。しかしこの味を作ったということは、作成者は食べたことがあるということで……何故食べようと思ったのか。

 

 黒川真魚、OUT。

 

 

《Turn Chiya》

 

 目隠しした千夜は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは老竹色(おいたけいろ)。白い線が薄く見える。

 

「これは……」

「どうしたの? なんか心当たりでもあんの?」

 

 シャロが聞く。

 

「そうね……私の予想が正しければ、まずこのターン、勝ったわ」

「へぇ?」

 

 千夜はビーンズを食べた。

 

「ふむ……おっけーよ、いける。抹茶味ね、これは」

「はぁ!? 抹茶味が上手い!?」

「君味覚死んでるんじゃないか!?」

 

 驚愕するジョージとリー。

 

「ふん……抹茶が嫌いたァ、おまんら随分なこと言ってくれるのォ……まあ、味覚は国それぞれだし、あんまり気にしてないけどね」

「急に変の喋り方に……」

「こいつこんなんなのよ」

 

 香奈の疑問ももっともであるが、それはそれである。

 

 ――『抹茶味』。抹茶というと日本、日本と言えば抹茶とは良く言うだろう。実際外国から見たイメージはそんなかんじだし、和菓子と抹茶は外国人にも人気である。が、その双方とも割と人を選ぶ。日本人であっても苦手とする者は多いのだ。日本だからといって、全員が全員そういったものが好きだという事実は、全くない。

 

 宇治松千夜、SAFE。

 

 

《Turn Koyume》

 

 目隠しした小夢は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは焦茶色。茶色のビーンズにロクなものは無いが、果たして。

 

「さ、最後だね……甘いものだといいな〜」

「が、頑張って下さい! きっと小夢ちゃんならいいもの引き当てますよ!」

「ありがとうかおすちゃん! よしっ!」

 

 小夢は勢いよく口にビーンズを放り込んだ。

 

「…………甘い!! 甘い!! 甘みだー!!」

「本当ですか!? やりましたね小夢ちゃん!!」

「うん!! これは、チョコレートだね!! 間違いよ!! 良かったあ〜!!」

 

 ――さて、ファーストラウンド最後のビーンズは『チョコレート味』。別に特筆すべきことは無いが、参考にされたチョコレートはメキシコのチョコレート。

 

 恋塚小夢、SAFE。

 

 これをもって、ファーストラウンド終了とする。

 

《PM.4:28》

 

 

[106] ビーンズ・ロシアンルーレット 2nd

 

 百味ビーンズロシアンルーレット 二回戦。

 

 

《Turn Alice》

 

 目隠ししたアリスは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは真朱色(まそおいろ)。ここまで沢山の沈没を見て、1周目より警戒を強めていた。

 

「……これは……うん、思いつかないな」

「大丈夫です! 金髪パワー! 金髪パワーです! 自分を信じてくださいアリス!」

「アリスちゃんならやれますわー!!」

「……よしっ!!」

 

 忍と若葉の激励を受け、ビーンズを口に放り込む。

 

「…………よし!」

 

 小さくガッツポーズ。

 

「ど、どうでしたか!?」

「これは、サーモンだね。鮭の刺身だよ。脂が乗ってるかんじと言うか」

「やりましたわね!」

「流石はアリスです!」

 

 ――『サーモン味』。その名の通りサーモンの味で、刺身の味を参考にしているらしい。サーモンに限らず、魚系の味は刺身を参考にしている割合が高い。魚本来の味を楽しめるし、美味しい。刺身はまさに日本の誇りである。

 

 アリス・カータレット、SAFE。

 

 

《Turn George》

 

 目隠ししたジョージは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズはごちゃごちゃした璃寛茶色(りかんちゃいろ)。その穢れた色はジョージの顔色を青くするのに十分であった。

 

「HAHAHA!!! これはアレだな!! HAHAHA!!!」

 

 と、リー。

 

「HAHAHA!!! 遂に当てちまったか!! HAHAHA!!!」

 

 と、丁度帰ってきたフレッド。

 

「やかましい!! くっそ……これかよぉ……おい、扉開けとけ」

 

 勢いをつけてビーンズを口に放り込んだ。

 

「<<<<¥¥++×××=++27×>$**×○☆5°HAHAHAHAHAHA!!!!?!?!!!!」

 

 奇声をあげながら、ジョージはコンパートメントから出て行った。

 

「「HAHAHAHA!!!!」」

「あんたらいい性格してるっすね……」

 

 ――さて、この味は悪名高き『■■味』。え? 自主規制で見えない? なら考えてみてほしい。2文字で、テレビなどで規制の対象といえば? もんじゃ焼きに例えられるアレと言えば? それが全ての答えであり、そしてどれだけおぞましい味か分かるだろう。

 

 ジョージ・ウィーズリー、OUT。

 

 

《Turn Karen》

 

 目隠ししたカレンは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは肌色。先に予告しておくが、ある意味では史上最悪な味のビーンズである。閲覧注意。

 

「Oh 肌色デスカー……腐った卵を思い出しマース……」

「腐った卵になれ……腐った卵になれ……」

「香奈ちゃん、色が全然違うから可能性無いよ」

「やかましいわ! 腐ってない卵引き当てた癖に!!」

 

 香奈と穂乃花、突然の仲間割れ。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。

 

「Let’s go!! デス!!」

 

 勢い勇んでビーンズを食べる。

 

「…………う”っ……ま、不味いデス……吐くほどでは無いデスが……ま、ま”す”い”……っ」

 

 ビーンズを吐き出す。

 

「どんな味だった?」

「なんかの肉みたいデス……もう二度と食べたくない味デシタ……うぇっ」

 

 ……さて、ここより先は本当に不快感を示される方が出てくると思うので再び警告。という訳で、今回の味のネタばらし。

 

 ――『人味』。それがこのビーンズの悪夢のような正体である。このビーンズは倫理的にアレ過ぎるので、他のビーンズに比べると製造数が少ない。しかし恐ろしいのは、これを作るにあたって、実際に人肉を喰った者がいるということだ。百味ビーンズの闇が垣間見える味であった。

 

 九条カレン、OUT。

 

 

《Turn Kokoa》

 

 目隠ししたココアは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは白練色(しろねりいろ)。明らかに危険そうである。

 

「白色かぁ……うん! 問題ないね!!」

「今迄の惨状を見てなんでそこまで言えるのか訳わかんないわ」

「だが、ミルク味とかかもしれないしな。偏見は良くない」

 

 シャロとリゼが言う。

 

「大丈夫大丈夫! 何かあったとしても、シスターパワー、もしくはラビットパワーが私には宿ってるからね!!」

「何の根拠が……」

 

 ココアはそのビーンズを食べた。

 

「…………うん! 美味しい! なんだか鶏肉みたいだよ!」

「へぇ、良かったじゃないか」

「白色……ああ、鶏の毛の色ね。成る程」

「やっぱり兎のご加護があったんだよ〜! もしくは、マイ・シスターパワー!! あははは!!」

 

 ――否。彼女たちは間違っている。それは確かに鶏肉に類似しているが、しかし確かに違う。そしてそれをココアが知れば、その場で吐き出すことは必至だっただろう。このビーンズの正体は『兎味』。兎の肉は鶏のモモ肉のような味らしいという。食べたい方は食べてみるといい。尚、筆者は兎好き故、絶対に食べたくない。

 

 保登心愛、SAFE。

 

 

《Turn Nao》

 

 目隠しした直は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは櫨染色(はじぞめいろ)。黄金色に近い色である。

 

「何味だ……くっそ、全然分からない」

「いちいち分析なんてしなくていいじゃないっすかー。ほら、あーん」

「食べさせるな!」

「見てても変わらないんだから、早く食べなよ」

「お前何気に酷いよな」

 

 直はビーンズを食べた。

 

「…………! これは……上手い! コンソメ味だ!」

「えー……とびきり酷いもん当たると思ってたんすけどー」

「お前ストレートに酷いよな」

 

 ――『コンソメ味』。味の方はコンソメスープを参考にして作っている。しかし、コンソメスープを飲んでコンソメを知った人より、お菓子のコンソメ味を食べてコンソメを知った人の方が多いように思えるのは、筆者だけだろうか?

 

 真柴直、SAFE。

 

 

《Turn Ruki》

 

 目隠しした琉姫は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは伽羅色(きゃらいろ)。見た瞬間、琉姫は逃げ出そうとしたが小夢と薫子に阻まれた。

 

「離して!! 嫌よ!! これ絶対駄目な奴じゃない!! 嫌!!」

「なんでもかんでも嫌々言ってたら大きくなれないよ琉姫ちゃん!!」

「小夢ちゃんよりは背ぇ高いわよ!!」

「いえ、そういう話ではなく――」

「なんで!? なんでそういう話にしないの!? なんでそうやって胸の話に持っていくのよ!?」

「胸の話ってすぐ解るあたりがもう……」

「Aカ「やめろって言ってるでしょう!!!」

 

 観念した琉姫はビーンズを口に放り込む。

 

「…………うぇっ!!」

 

 ビーンズを吐き出した。

 

「うぅ……何これぇ……きもちわるっ……なんかこう、ハチミツとかミルクが混ざったような……離乳食か何か?」

「「いやらしい……」」

「どの辺にいやらしい要素あったのよ!? あんたらそれ言いたいだけでしょ!!!」

 

 ――琉姫がいやらしいかどうかはどうでもいいとして、そう、このビーンズは『オートミール味』。言うまでもなくオートミールは作る人によって味が変わり、美味しい場合だって多々ある。なのに何故オートミール味は不味いのかといえば、参考としたオートミールが、不味いものであったからに他ならない。

 

 色川琉姫、OUT。

 

 

《Turn Honoka》

 

 目隠しした穂乃花は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは媚茶色(こびちゃいろ)。もう駄目だ。

 

「…………」

「遂に沈没の時が来たわね」

「ホ、ホノカ、頑張るデス……う”っ」

 

 他人の不幸を喜ぶ香奈と、あの味を引き摺っているカレン。

 穂乃花の目に光は無く、その姿は宛ら処刑台までの階段を上る死刑囚のよう。

 

「…………」

 

 階段を上りきり、ついに処刑台に立った。穂乃花はビーンズを食べる。

 

「…………ぐっ、が、まz.z<+¥¥××°>〆〒+×+÷!!!?!???!」

 

 穂乃花はビーンズを吐き出した。

 

「はぁ……はぁ……うぇっ……な、なにこの味ぃ……き、きもちわ”る”い――ちょ、お手洗いに……」

 

 穂乃花は出て行った。

 

「……何食ったのかしら」

「ロクでも無いものなのは確かでショウねー……うっ」

 

 ――穂乃花が食べたのは『ゴブストーン・リキッド味』。ゴブストーン・ゲームというのは魔法界の遊びの一つ。そこで使うのがゴブストーンという石なのだが、その石のなかには嫌な臭いのする液体が入っており、プレイヤーが負けるとプレイヤーに向かって一斉にその液体を吐きだす。意味が分からないが、そういうものなのだ。で、その液体を参考にしたのがこの味である。

 

 松原穂乃花、OUT。

 

 

《Turn Chaos》

 

 目隠しした薫子は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは漆黒。ところどころに真紅の斑点があり、血飛沫を思わせる。

 

「あ、あわわ、あわわわ、あわわわわ」

「お、落ち着いてかおすちゃん! 落ち着いたらきっと美味しく感じるよ!」

「禍々しいというかなんというか……どうせ悍ましい味なんでしょうね」

 

 小夢とシャロが言う。

 

「い、いきますよ!? え、えいっ!!」

 

 勢いをつけて薫子はビーンズを口に入れた。

 

「…………う”っ”、あ”、まず、う”あ”あああ”ああ”あ”あ”!!!!」

 

 口を押さえながらコンパートメントから去る薫子。

 

「……何味だったんだろ」

「知りたくもないわよ、っていうか今更だけど、これ作った奴頭イカれてるんじゃないかしら?」

 

 ――シャロの言葉はもっともだ。この味を作った人間は、間違いなくイカれている。忍程度では足元にも及ばないような狂人――『死体味』なんていう味を作り出すような人間。しかもその参考にした死体というのはよりにもよって――これ以上は止めておこう。R-18指定が復活してしまいそうだ。

 

 萌田薫子、OUT。

 

 

《Turn Chiya》

 

 目隠しした千夜は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは栗皮茶色(くりかわちゃいろ)。さっきから色鮮やかなビーンズが一つも出ていないが、果たして。

 

「……ここが正念場ね」

「頑張って、千夜ちゃん!」

「改めて考えてみれば、頑張れっていう応援にこの状況でなんの意味が……」

「細かいことは言いっこ無しだよ、リゼちゃん!」

「はぁ……」

 

 ココアから漂う妙な余裕。それが無自覚に千夜を焦らせる。汗が滲む。

 

「…………いきます!!」

 

 ビーンズを口に放り込んだ。

 

「…………あら、これ……栗ね」

「栗?」

「ええ、栗味――おっけー、問題ないわ。取り敢えずクリアね」

「やったね千夜ちゃん! 一緒だあ!」

「ありがとうココアちゃん! ココアちゃんの応援のお陰よ!」

 

 ――『栗味』。さっきから狂ったような味が続いていたが、ようやくまともな味が現れた。関係ないが、クリの木は杖の材料にも使われており、芯材によってその性質が左右される杖となる。

 

 宇治松千夜、SAFE。

 

 

《Turn Koyume》

 

 目隠しした小夢は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは猩々緋色。どこかで見たような色だが、果たして。

 

「これは……イチゴジャム味かな」

「……甘いもの前提で話を進めるんだな」

「!!」

 

 声のした方を向く――翼が起き上がっていた。ヘドロの呪いは去ったのだ。

 

「つ、翼さ、翼ちゃん! もう大丈夫なんですか!?」

「ああ、大丈夫……私のことは気にせず、食べなよ」

「は、はい!!」

 

 慌ててビーンズを口に入れる。

 

「!!!、!!、!、!!?、!!!!――」

 

 小夢は気絶した。

 

「おい、小夢!? どうした!?」

 

 翼の声もまた虚しく響く。小夢はぴくりとも動かない。いつ起きるのだろうか。分からない。

 

 ――さて、最初の時点で御察しの通り。この味は『トリニダード・モルガ・スコーピオン味』。脅威の200万スコヴィルの唐辛子である。甘いもの好きにとって辛いものは最も忌むべきもの、甘党の小夢には、刺激が強すぎた。甘党でなくとも刺激が強すぎる唐辛子だが。

 

 恋塚小夢、OUT。

 

《PM.4:39》

 

 

[107] ビーンズ・ロシアンルーレット 3rd

 

 百味ビーンズロシアンルーレット 三回戦。

 

 

《Turn Alice》

 

 目隠ししたアリスは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは黄緑色。久しぶりに綺麗な色のビーンズである。

 

「ここまで来たら……やるっきゃない!!」

 

 アリスはビーンズを食べた。

 

「…………メロン!! メロン味!!」

「やりましたぁ!!」

「流石ですわ!!」

「great !!!」

「心臓がバクバクしてるよ……」

 

 ――アリスが引き当てたのは『メロン味』。イチゴやスイカと並んで種類が紛らわしい野菜の一つであり、その美味しさは他の追随を許さない(筆者調べ)。某Vがベリーメロンと叫ぶのも、無理もない話である。実際美味しいのだから。

 

 アリス・カータレット、SAFE。

 

 

《Turn Kokoa》

 

 目隠ししたココアは箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは桜鼠色(さくらねずみいろ)。だがそこに藍鼠色の斑点があるのが、謎の不安感を与える。

 

「……コ、コール・ミー・シスター!!!」

 

 謎の叫びとともにビーンズを食べた。

 

「うぐぅっ!!!?!?」

 

 ビーンズを吐き出した。

 

「ココアちゃん!?」

「ついに来たわね、この時が」

「どうした!?」

「ま、まじゅい……なにこれぇ……変な味……なんかウナギの味っぽいのがしたけど、なんかこう、言葉に出来ないような異物感というか――なんというか――うぅっ」

 

 ――『ジェリード・イール味』。要は鰻のゼリー寄せである。スターゲイザーパイといい、どうしてイギリスはこう、個性的なものを作り出してしまうのだろうか。

 

 保登心愛、OUT。

 

 

《Turn Nao》

 

 目隠しした直は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは赤銅色(しゃくどういろ)。その赤黒い色が血を思わせるが、果たして。

 

「もうごちゃごちゃ考えずにいくぞ!!」

 

 ビーンズを口に入れた。

 

「…………うっ……これ……血の味っぽ……まさか」

「あー、それ完全に血液味だねえ、うん」

 

 メルジーナが言う。

 

「ゔっ……っ!!!」

 

 ビーンズを吐きだす。

 

「はぁ……はぁ……なんでそんなもんが入ってるんだよ!? これ作ったやつどんな精神状態してたんだよ!?」

「まあ、普通じゃ思いつかないっすよねー」

「血液味……血液……なんの血液なんだろ」

「あんま考えない方がいいよ、そういうのは――これは血液味、それ以上でもそれ以下でも無い、それでいいの」

「ゔ……軽く胃液逆流しそうだ……全く……」

 

 ――『血液味』。何の血液かは、言わない。ヒントがあるとするならば、この血液味を作ったのは、人味を作ったのと同じ製作者である、というヒントだけ。あとは察してほしい。

 

 真柴直、OUT。

 

 

《Turn Chiya》

 

 目隠しした千夜は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 取り出したビーンズは小豆色。その色名が示す通り、小豆味なのか。

 

「ここで負けたら武士の恥ぜよ! 息絶える訳にはいかんきん!!」

 

 己を鼓舞し、ビーンズを食べる。

 

「…………おっけー、おっけー……小豆味ね」

「や、やったね……千夜ちゃん……」

「ココアちゃん! 無理しないで!」

 

「これでいよいよ後二人か」

「ラストは同時にいこうぜ」

 

 フレッド、ジョージが言う。

 

「……ええ、それでいいわ」

「私も……それでいいよ」

 

 ――『小豆味』。味というか、この百味ビーンズ自体豆の形をしているので、食感に目を瞑れば小豆そのものとも言えるのだが。

 

 宇治松千夜、SAFE。

 

《PM.4:45》

 

 

[108] ビーンズ・ロシアンルーレット 4th

 

 百味ビーンズロシアンルーレット 四回戦。

 

 

《Turn Alice & Chiya》

 

 目隠ししたアリスと千夜は箱からビーンズを摘み出した。目隠しを取る。

 

 アリスが取り出したのは撫子色(なでしこいろ)。色鮮やかな斑点が散らばっている。

 千夜が取り出したのは松葉色(まつばいろ)。和な雰囲気を醸し出しているビーンズだ。

 

「……恨みっこなしだよ」

「……そっちこそね」

 

「3」

 

「2」

 

「「1」」

 

 二人は同時にビーンズを口の中に放り込んだ。

 

「…………」

「…………」

 

 全員、固唾を呑んで見守る。ギリギリ復活してきた穂乃花も、青白い顔をしながらドアから覗く。

 

「…………甘い!! 甘いよシノ!!」

 

「…………ゔっ……う''あ''……苦い……」

 

「やりました!! やりましたねアリス!!」

「これが……金髪パワーですか……!!」

「アリスちゃんやったね!!」

「金髪って……凄い!!」

「良かったねアリスちゃん!!」

「You win !!! Alice !!! Yeahhh !!!!」

「おめでとう」

「おめでとうっすー!!」

 

「あー……千夜ちゃん負けちゃったかぁ」

「だが、よくここまで生き残れたな」

「あんた割と運悪いのにね」

「まあ、頑張ったことには変わり無いよ」

「そうね、運も実力の内って言うし」

「3回も当たり引いたら良い方でしょー」

「頑張った方だぜ、全く」

 

 ――アリスが引いたのは『綿菓子味』。名前から美味しそうなのが伝わってくるだろう。実際甘いし美味しい。この味の存在は、例えるならば百味ビーンズという砂漠の中にある、数少ないオアシス。

 

 ――千夜が引いたのは『青汁味』。飲んだことはなくとも知っている方は多いだろうこの青汁だが、嘗て千夜はこの青汁を使ったロシアンルーレットを実施し、自爆したことがある。因果は再び巡ったのだ。

 

 宇治松千夜、LOSE。

 

 アリス・カータレット、WIN。

 

《PM.4:50》

 

 

[109] ビーンズ・ロシアンルーレット・エンドレス

 

「さて、そういう訳でおめでとうアリス」

「全くめでたいぜ」

 

 フレッドとジョージが言う。

 

「ありがとう、フレッド! ジョージ!」

「景品とかどうする?」

「そういや考えてねえな」

「私らやり損っすよ!?」

「負けた奴はすっこんでろ――そうだな」

 

「はい!!」

 

 忍が天高く手を挙げた――みんなの視線が忍に集まる。復帰した薫子も、ドアから見る。

 

「どうした?」

 

「景品でしたら――この百味ビーンズの残りの中身、全部アリスにプレゼントというのはどうでしょうか!!」

 

『『『『『『『はぁ!!?』』』』』』』

 

「え――」

 

 ……なんと恐ろしいことを言うのだろうか、この少女は。ここまでの惨状を忘れたのだろうか。それとも悪意を持って? 否、彼女に悪意などない。見よ、この澄んだ目を! 彼女は本心からアリスを祝福し、純粋にこれがプレゼントに相応しいと思っているのだ。全てがアリスのためである。悪意などこれっぽっちも無い――だからこそ、大宮忍は恐ろしい。

 

「い、いいよシノ! もう私は十分だよ! み、みんなで食べよう!? ね! ね!」

「いいえ、勝ったのはアリスです! アリスがこれを食べるべきなのです!!」

「い、いや――」

「さあ、アリス! 食べてください!! 私たちからの気持ち、受け取ってください!!!」

 

「イ――イヤァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 6個目で、アリスは気絶した。

 

《PM.5:08》

 




 やっと終わった……くっそ長えよなんだこの回!!←お前が悪い

 さて、前書きでの注意ラッシュにもありましたが、○○するといい、○○してみてはどうだろうか、是非○○しよう、とかそういうのに関して、私は責任を負いません。ご理解とご了承をお願いします。

 それはそれとして、いよいよ次回でホグワーツ到着です。今週中には組み分けしたい。

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