ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 はい、いよいよホグワーツ特急三部作のスタートです。

※注意事項※
・長いです。時間に余裕のあるときにどうぞ。
・タイトル微変更(7/22)
・何かあればここに書きます。


ホグワーツ特急紀行 : 9と1/4

【第18話】

 

 

ホグワーツ特急紀行:9と1/4

-コミック・コズミック・ガールズ-

 

 

[093] ホグワーツ特急の歴史 chapter.1

 

 ――ホグワーツ特急はかつて存在しなかった。ホグワーツが出来た当初、生徒はみんな思い思いの方法でホグワーツにやって来た。箒に乗ってやってくる者も居れば、『姿くらまし』を利用したり、挙げ句の果てにはドラゴンに乗って登校した者も居た。そして当然それらには事故が付き物であり、この状況にホグワーツは頭を悩ませたが、1692年の国際機密保持法が制定されるまでは、子供をホグワーツに送り届けるのは親の責任であった。

 

 

[094] 現在位置説明 chapter.1

 

 現在位置説明。

 

 リゼ、シャロ、千夜――コンパートメント内。

 ココア、若葉――廊下に。

 萌子、アリス、忍――コンパートメント内。

 綾、直、穂乃花、香奈――コンパートメント内。

 陽子、カレン、真魚――コンパートメント内。

 フレッド、ジョージ、リー――コンパートメント内。

 ???、???、????――廊下に。

 ネビル――廊下に。

 薫子――コンパートメント内。

 小夢、琉姫、翼――廊下に。

 

 

[095] カエルの為に人は走る

 

「こーる……みー……しすたー……」

「だ、大丈夫です! きっと照れ隠しなんですよ! ほら、ジニーちゃんギャルっぽいですし! ギャルと言えば『つんでれ』ですし!」

 

 床に手をつき項垂れるココアを慰める若葉。その慰め方も相当謎であるが。

 

「う、うん! そう! 私はお姉ちゃんなんだから、こんな事でへこたれないもんね! ありがとう若葉ちゃん、力が湧いてきたよ!!」

「ココアちゃん……!」

 

 ココア復活。ガラスのメンタルであるが、しかしガラスはガラスでも形状記憶ガラス(魔法界のフラスコとかに使われる素材。壊れても暫くすると元に戻るガラスだ)メンタル、すぐに立ち直るのだ。

 

「あ、そうだ!」

「なんですの?」

「若葉ちゃん! 私馬鹿じゃないから!」

「は、はい?」

「ほら、若葉ちゃん言ってたでしょ? 私頭悪いって」

「その節については、本当に申し訳ございませんでしたあああ!!!」

 

 矢庭に土下座。

 

「うぇぇ!!?」

「私としたことが、碌に言葉選びさえ出来ず……真に愚かなのは私の方ですわ! 大切なお友達に『頭が悪い』なんて……すみません、死にます!!」

 

「ちょ、若葉ちゃーん!!? 若葉ちゃんは悪くないよ!! 悪いのは私なんだよ! いや別に馬鹿じゃないけどね、ベルリンの壁が分かんなかったのは、私が理系だっただけだから! そう、理系だったから! 文系はからっきしだからだよ!」

「私、数学も国語も理科も社会もさっぱりですわ!!」

「――う、うん! で、でも英語、は!?」

「英語は、精々外国の方とお話出来るくらいで……」

「えぇ!? 凄いよ! 私英語さっぱりだよー! 結構前だけど、ハウス(house)をホース(horse)って書き間違えちゃったことあるもん!」

 

 ラビットハウスでの出来事。これの所為でチラシの回収騒ぎにまで発展したことがあった。

 

「え? でもココアちゃん、ジニーちゃんたちと卒なく話せてるじゃないですか、みんなも……」

「うん! そりゃあ向こうは日本語……あれ? なんで日本語? ……あれ?」

「あら?」

「……そういえば、これってどうい

 

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ココア「うん! そりゃあ向こうは日本語喋ってるもん、流石に喋れるよ〜」

若葉「そうですよね! 私の勘違いでしたわ、申し訳ございません」

 

 この話は終わった。

 

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「でも、ココアちゃんは凄いですわ。誰にでもフレンドリーで、誰とでも仲良くできて……まさにギャル――いえ、ギャル、ギャルじゃない関係なく、私、人としてココアちゃんを尊敬しております!!」

「そ、そんな! 大袈裟だよ若葉ちゃん〜! 私なんて、そんな……ちょっとお姉ちゃんらしいだけだよー!!」

「いえ、それは……」

 

 言葉を濁す若葉。ココアの瞳が少し濁る。

 と、そこへ。

 

「あの、すみません」

 

 背後から声。若葉とココアは振り向く――そこに居たのは、丸顔の少年と黒髪の少女。黒髪の少女が言う。

 

「ここら辺で、ヒキガエルを見ませんでしたか? えっと、この子のペットなの」

「ど、どうも……」

「よろしくー! 私、保登心愛! ココアって言うんだよ!! もう私たちは立派な友達同士! 困ったときはお互い様だよ! どんなヒキガエル!? 私たちも一緒に探すよ!!」

 

 まくしたてるココア。流石のコミュニケーション能力、そして純粋な善意100%の言葉である。

 

「さ、流石ココアちゃん……いえ、ココアさん……!!」

「さん付けなんてしなくていいよ〜」

 

「……小夢ちゃんみたい」

「え?」

 

「あ、いえ! 何でもないわ。ヒキガエルの特徴ね? えっと……小さくて、深緑で……ダメだわ、特徴と言えるような特徴ないわ……ごめんなさい」

「ご、ごめん……」

「いいよいいよー! ヒキガエルだね? 見つけたらすぐに報せるよ! えっと……」

「あ、私たちの名前ね? 私は色川琉姫。この子はネビル・ロングボトムよ。あと二人、恋塚小夢ちゃん――元気な子だからすぐにわかると思う――、つーちゃん……じゃなくて、勝木翼――小夢ちゃんと一緒に居るし、彼女も結構個性的だから、すぐ分かるわ」

「おっけー! ネビルくんと琉姫ちゃん、小夢ちゃんとつーちゃんだね、任せて!」

「見つけたら、出来るだけすぐに連絡しますわ」

「あ、ありがとうございます!」

「ええ、ありがとう! それじゃあね!」

 

 ネビルと琉姫は走っていった。

 

「ヒキガエル……ですか」

「リゼちゃんとか忍ちゃんにも手伝ってもらおうよ!」

「ええ、そうですわね!」

 

 2人はコンパートメントに戻った。

 

《AM.11:20》

 

 

[096] トレバー捜索隊

 

《side Kokoa》

 

「……という訳なんだよ!」

「まあ、それは大変だわ!」

「ああ、放ってはおけないな」

 

 コンパートメントに戻った私は、千夜ちゃん、リゼちゃん、シャロちゃんに、さっき起こったことの一部始終を話しました。思った通り、千夜ちゃんとリゼちゃんも協力してくれるみたい。やったぁ!

 

「……まーたあんたはそうやって面倒ごとを持ってくるでしょー……まあ、みんなやるなら……私もやるけどさ」

 

 うーん。やっぱりシャロちゃん、乗り気じゃないなあ。でも、こんな反応の方が、なんだかシャロちゃんらしい。ふふっ。

 

「……ふふっ」

「な、何が可笑しいのよ!?」

「うぇっ!? 声に出てた!? いやー、なんかその反応、シャロちゃんらしいなーって思ってさ」

「わ、私らしいってなによ!? あ、あんたにわ、私の何が分かるっていうのよ!?」

「全部お見通しだよ! 何故なら私は、みんなのお姉ちゃんだからー!」

「私たち同年代なんですけど!?」

 

「それはともかく!」

「話を聞けー!!」

「じゃあ、どうやって探すの? リゼちゃん!」

 

 リゼちゃんに振ってみる。

 

「わ、私!? ……ふむ、そうだな。小さなヒキガエルだろう? だとしたら、あんまり大雑把に捜索するのは良くないな。幾ら相手は生物とは言え、小さいものがじっとしてると意外と気付かない――慎重に捜索した方がいい。あと、ヒキガエルっていうのも厄介な所だな。あいつらは壁に張り付く。三次元的な捜索も要求される」

「そうね……となると、一つのエリアを探すとしても、結構時間かかるわね」

「ああ――だが、あんまり広範囲を捜索するのは良くないな」

「あれ? そうなの?」

「そりゃそうでしょ。小さいってことは、それだけ行き違いになりやすいってことよ。ニアミスを出来るだけ避けるためにも、狭い範囲で捜索して、カエルの方から近寄ってくるのを待つ――そういうことですよね、先輩」

「ああ、その通りだ。流石シャロだな」

「そ、それ程でも、あ、ああありません……」

 

 うーん、なるほど。流石リゼちゃんとシャロちゃんだ。そういうやりかたもあるんだね。

 

「でもさ、それをやるとなると、もっともっと人手が入るよね。狭いながらも、広範囲を探さなきゃだし」

「そうね……忍ちゃんたちの方は、若葉ちゃんが協力を仰いでると思うから、綾ちゃんたちと、真魚ちゃんたちにも手伝ってもらう必要がありそう」

「よーし、じゃあ私行ってくるよ! 必ず人出を増やすからねー!!」

「あ、おい、ココア!」

 

 善は急げ! リゼちゃんの声が聞こえたけど、今は状況判断だよ!!

 

《AM.11:39》

 

《side Wakaba》

 

「――という訳なんですの」

 

 コンパートメントに戻った私は先程起こったことを話しました。

 

「協力……して頂けますでしょうか?」

「勿論だよ若葉ちゃん! 困ってたらお互い様だもんね〜」

「その通りだよワカバ! シノも協力してくれるよね?」

「当たり前ですよアリス。何と言っても金髪同盟の小夢ちゃんからの頼みとあらば、積極的に動かせて頂けますよ!」

「みなさん……!」

 

 ああ、なんと心の清い方々なのでしょう……見も知らぬ方のお手伝いをするなど、最早神にも等しい行為……!

 

「ギャルというのは……神様のことだったのですね!」

「若葉ちゃん……何言ってるの?」

「そうですよー、神様は金髪少女です」

「!! じゃ、じゃあ! ギャルと金髪少女、両方の要素を合わせ持つ、アリスちゃんやカレンちゃんは……っ!!」

「ふふふ……ようやくそれに気付きましたね」

「待って待ってシノ、意味が全然分からない」

「そう――神と神が合わされば、この時空を作った存在――即ち、宇宙神なのですよ!!」

「な、なんですってー!!!?」

「……何言ってるのシノ……」

「流石は金髪狂いだよ〜」

 

 ア、アリスちゃんは神をも超えた存在――な、なんということでしょう!? わ、わたくし、そんなことなど露知らず――!!

 

「アリスさまぁ〜〜〜!!!」

「ェェェェェ!!?」

「わ、若葉ちゃん……」

「本来ならばアリスは、我々には干渉できない者……ですが、アリスは優しいので、こうして私たち下々の者たちと、対話して下さっているのですよ!!」

「はは〜〜〜っ!!!」

「わ、分かったよいや分かんないけどさもういいよ! 土下座とか止めてよ!! シノ!! あんまりそういうことばっかり言ってると、金髪を黒色に染めちゃうよ!!!」

「ひゃはははぁ⤵︎ひゃはぁ⤵︎きゃははぁ⤵︎ーーー!!!?!?!?」

「忍ちゃん!!?」

「……ご――」

「シ、シノ」

 

「ごへんにゃひゃい、アリス〜〜〜!!! た、ただわらひは……金髪の素晴らしさを……わはっへほあいひゃはっさだへでぇ〜〜〜……うぅぅぅ……」

 

 し、忍ちゃんが土下座して泣き出してしまいましたわ!!? なんという綺麗な土下座!!

 

「シ、シノ!! な、泣かないで!? わ、わたしも言い過ぎた……! お、お願い、頭を上げてよ……そ、そんなに、泣かれると……わたしもぉ……うわああぁぁぁぁん!!!」

「アリスちゃん!!?」

「ご、ごめんなさいシノォ〜〜〜!! わ、わたしひどいこといいすぎたからぁ〜〜〜!!! うわぁぁぁぁん!!!」

「ア、アリスぅ……や、やめへくらはい……そんなに泣かれると、わ、わ、らひもぉ……うわぁぁぁぁん!!!」

「ごめんねシノーーー!!!」

「ごへんらはいアリスーーー!!!」

「シノーーー!!!」

「アリスーーー!!!」

 

「こうなると思ってた」

 

 ああ、なんと、なんと尊い2人の抱擁……その姿はさながら、現代のアダムとイヴ……!!

 

「じゃあ、私外探してくるね。若葉ちゃんもあとで来てね〜」

「あっ、はい! も、もう暫くしてから行きます!」

 

 萌子ちゃんは部屋から出て行きました。

 

「アリス〜!!」

「シノ〜!!」

「あぁ……」

 

 とてもこの光景から、目を離すことが出来ません……何故でしょうか?

 

《AM.11:42》

 

《side Kokoa》

 

「陽子ちゃん、カレンちゃん、真魚ちゃん! 緊急事態! 緊急事態発生だよ!!」

「なんだって!?」

「Oh!? 汽車か何か故障したデス!?」

「野次馬根性発揮っすかね!?」

「ううん、違うの、あのね――」

 

 陽子ちゃんたちのコンパートメントに向かった私は、ヒキガエルのトレバーのことを話しました。

 

「オッケー、分かった。しかしヒキガエルとは……またなんつーもんを持ってきてるんだ」

「面白そうデスね……私も協力しマス!」

「そうっすねー……まおもやるっす!」

「わぁぁ……! みんな、ありがとう!!」

 

 みんな協力してくれるみたい! みんな優しい!!

 

「えっと、じゃあ作戦なんだけどね――」

 

 リゼちゃん発案の作戦を説明中!!

 

「――ってことでいこう!」

「よし、分かった。流石リゼだな」

「頭良いんデスネー……えっと、つまり、私たちは外で見張りをしとけば良いってことデスカ?」

「そういうことだね」

「割と難しいっすねー……見回るよりはマシっすけど、死角とかに入り込まれたら、結構どうしようもないっすよ」

 

 うーん……たしかに、トレバー小さいからなあ……。

 

「そこは……ほら、あれだよ! 頑張るんだよ!」

「いや、頑張ってもどうにもなら」

「OK!! 頑張りマス!!」

「根性なら任せろー!!」

「うっそでしょあんたら」

 

 ……でも、頑張ればどうにかなる! 私たちなんだから!

 

「ようし! じゃあそうと決まれば善は急げ! しゅっぱーつ!!」

「「おー!!」」

「不安しかない……」

 

 仲間がこんなにいて、出来ないことなんてなにもない! 意気揚々と、私たちは部屋の扉をを開けました!

 

《AM.11:50》

 

《side Moeko》

 

「綾ちゃん、柴さん、穂乃花ちゃん、香奈ちゃん、ちょっといい〜?」

「あら? 萌子じゃない、どうしたの?」

「ちょっと手伝ってほしいことがあって」

「手伝ってほしい? 何だよ」

「うん、あのね――」

 

 柴さんたちのコンパートメントに移動した私は、若葉ちゃんから聞いたことを話しました。

 

「――という訳なんだよ」

「わ、私はパス……ヒ、ヒキガエルってちょっと……3人はどうするの?」

「まあ、萌子が手伝ってるからな。私も手伝うよ」

「私も、力になれるかどうか分からないけど、協力するよ〜」

「穂乃花がそう言うんなら、私も協力しようかな」

 

 柴さん、穂乃花ちゃん、香奈ちゃんは手伝ってくれるみたいです!

 

「ありがとうみんな〜!」

「じゃあ、コンパートメントの留守番は、私がしてるわ。……いや、その、やっぱりカエルは苦手で……」

「あはは、分かるよ〜。カエルって、ちょっとぬめぬめしてて、言っちゃなんだけど、ちょっとだけ気持ち悪いよね」

「そう? 私は別にそうは感じないけどなあ。むしろあのぬめぬめ感が、なんか良くない?」

「あれが良いとは思わないが、まあ、b私も別にカエルは嫌いじゃないな。好きでもないが」

「両生類って、結構人を選ぶよね」

 

「……そうだわ!」

「「「「?」」」」

 

 綾ちゃんが何か閃いたようで、鞄を漁り始めました。なんでしょう?

 

「……えっと……たしか……あった、これだわ!」

 

 綾ちゃんが出したのは、小さな五角形の箱。何かお菓子の箱のようです。

 

「何だそれ?」

「『蛙チョコレート』よ! こいつを使って誘き寄せればいいんだわ!」

「ああ、成る程!」

「綾ちゃんナイスアイディアだよ〜!」

「え? あの……蛙チョコレート? 蛙の形のチョコレートなの?」

「あ、直と萌子は知らないのね――蛙チョコレートっていうのは、その名の通り蛙の形のチョコレート。これだけなら普通なんだけど、何とこのチョコレート、本物の蛙みたいに動くの!」

「マジ!?」

「流石魔法界だよ〜!」

「そう! で、こいつを放って、そのヒキガエルをおびき寄せるの! 鳴き声もまんま蛙だし、ヒキガエルだって、こいつのことを偽物だと認識しないわよ」

「でも、食べられる可能性もあるぞ」

「その時はその時よ。それなりのサイズはあるし、一口で呑み込むことは多分出来ないわ。だから食べるとしても動きが止まるはず――その時に探し出せれば、確実に捕まえられるわ」

「綾やるぅ!」

「綾ちゃんの作戦でいこうよ、みんな!」

 

 流石綾ちゃんです……リゼちゃん然り、ツインテールにすると頭が良くなるのでしょうか? リゼちゃんと綾ちゃんは本当に似ています……声もそっくりですし。

 

「じゃあ、はいこれ――念のため2個渡しとくわ」

「うん! ありがとう!」

「頑張ってね」

「行ってきます!」

「じゃ、良い知らせを持ってくるよ」

「お留守番よろしく〜」

「それじゃ」

 

 私たちはコンパートメントから出ました。さて……では。

 

「お願いね」

 

 チョコレートの箱を、私は開けました。すると中に居たのは――なんと本当に蛙そっくりのチョコレートだったのです! 疑っていた訳ではありませんが、これは……凄い。

 

「ゲコ」

 

 するとチョコは一声鳴くと、廊下を駆け抜けてその姿を消しました。

 上手くいくと、いいのですが……。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

「はぁっ!」

「ゲコォーーーッ」

 

「「「「ええええ!!?」」」」

 

 向こうから聞こえたのは、カエルか何かが押さえつけられたような声――えええ!!?

 

《AM.12:00》

 

 

[097] ウイング・Vの襲来

 

《side Rize》

 

 コンパートメントの前に、宛ら門番のように立つ私達は、周囲から見ればさぞおかしなものに感じられるだろう。だが、蛙を捕まえるとなれば、このやり方が私の思いつく限りでのベスト。やるしかない。

 

「……来ませんね」

「根気強く待つしかないわ」

「でもこれ来なくてもう捕まってたら、私たち相当な間抜けよね……」

「やめろ、そういうことを考えるな……戦場で命を散らすのは、いつだってネガティブな思考に陥った奴だ」

「まあ……こんなこと考えてたらとてもやってられませんからね……」

 

 だが……くそ、自分で提案しておいてだが、ここまでの苦行になるとは思わなかった。思考が足りなかった。私は普通に平気だが、シャロと千夜にとってはどれだけのものか考えもしなかった……。

 

「……あら?」

「何? どうし――」

「!!」

 

 千夜が何かに気付いた――私たちは千夜の視線を追う――すると、それこそヒキガエルくらいの大きさのカエルの姿をしたものが、こっちへ向かっていた。

 ――思考の余地は無い、一瞬の判断が、戦場では命運を分ける――私は即座に言った。

 

「お前ら! バリケードを作れ! 絶対にあいつを逃がすな! 私が捕まえる!!」

「「サー、イエッサー!!」」

 

 蛙はまだ私に気付いていない――なら、瞬時に近付き、一瞬で掴む!!

 

 縮地法を用いた足捌き――練習しておいてよかった――で、即座に蛙の前に立つ。蛙は反応し切れていない――今だ。

 

「――はぁっ!!」

「ゲコォーーーッ!」

 

 蛙を掬い上げるようにして――捕らえる!!

 

「「「「ええええ!?」」」」

 

 何やら向こうから声が聞こえたが、その程度のことで気を緩めるような私ではない。すぐさま掌のなかに閉じ込めた。

 

 ――ミッション・コンプリートだ。

 

「や、やりましたか!?」

「ああ! やったぞ!」

「良かったわ〜」

 

 掌の中で蛙がもがく。ふふふ、この私から逃げようなどとは百年早い――

 

「この辺だよ!」

「何があったのよカエルチョコ!?」

「早くも作戦失敗じゃねーか!」

「2個目があって良かったよ〜!」

 

 ん? あれは……香奈たちか。

 

「どうした? そんなに慌てて」

「あ、リゼ!」

「リゼちゃん、この辺で蛙みたいなチョコレート見掛けなかった!?」

「蛙みたいなチョコレート……まさか」

 

 掌を小さく開いてよく見た。すると確かに、掌にはチョコがべっとりと付いていて、中で蛙が形を失って溶けていた。

 

「……すまん」

 

 ……やってしまった。

 

《AM.12:06》

 

《side Karen》

 

「居ないデス」

「どこだー?」

「おーい、居たら返事してー!」

「蛙だから返事しないっすよ」

 

 私たちはcompartmentの西側を捜索しています。でもしかし全くと言っていいほどに見つかりません。やっぱり蛙を捜すのは困難を極めた。

 

「中々見つからないっすねぇ……」

「もしかしたら、どっかのコンパートメントに入っちまったとか?」

「それされるとお手上げデス」

「成る程その線があった! じゃあ私、コンパートメントを片っ端から開けていくよ!」

「他の奴に迷惑だからやめろー!!」

 

 あははは! ココアは本当に面白いです。日本人でありなが、こんなにテンシンランマンな人はココアくらいしかいないと思われる。

 

「……あの」

 

 はい? 誰かが話しかけてきた。誰?

 

「この辺で、小さいヒキガエル見なかった? 私たち探してるんだけど」

「うん……だけど全然だめ、見つからないんだよねー」

「わあ! あ、もしかして、小夢ちゃんとつーちゃん!? 琉姫ちゃんから話は聞いたよー! 私たちも今そのヒキガエルを捜してるところなんだよ!」

「え!? 本当!? ありがとう!!」

「お礼なんていいよ! 当然のことをしたまで……私はみんなのお姉ちゃんだからね!!」

「いよっ、お姉ちゃん!!」

「あはは〜!! もっと言って〜!!」

 

 Oh? どうやら知り合いのようです。彼女たちもヒキガエルを捜しているようです。

 

「えっと、私は猪熊陽子――好きに呼んでくれ」

「まおは黒川真魚っすー! 好きに呼んでくれていいっすよー!」

「Hello!! 私は九条カレン! 何でも好きに呼ぶが良いデス!!」

「私は保登心愛! お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ!?」

「えっと、私は恋塚小夢! 好きに呼んじゃってくれていいよ!」

「私は翼――勝木翼だ。好きに呼んで」

 

 コユメとツバサ……よし、覚えました。

 

「ふふふ、翼さ……翼ちゃんは凄いんだよ! なんとあの人気漫画、『暗黒勇者』の作者なのだー!」

 

「「「!?」」」

 

 !? なっ……!?

 

「なんでわざわざ言ったの」

「えっ……だって、翼ちゃんの漫画、とっても面白いですから、みんなに知って欲しくて……そ、それだけで! 他意はないです!」

「別にいいけど……」

 

「マ、マジ!? それマジな話!?」

「だ、騙されないっすよ!? まおは騙されないっすよ!? 作者が子供だとは聞いていたけれど、騙されないっすからね!?」

「そ、そう! そうだよ! 本物だっていうんなら、サ、サインしてよ!!」

「生原稿! 生原稿欲しいデス!! 生原稿は光を放ってるって、ジョ○○でも描いてマシタ!!」

 

「光なんて放ってないけど……いいよ。どこにサインしようか?」

「ちょ、ちょっと待ってて! ちょっとだけ待ってて欲しいっす!!」

 

 マオは走ってcompartmentに戻って行った。何をするのでしょうか?

 帰ってきました。手には暗黒勇者の1巻。成る程、サインの定番。

 

「こ、こ、この単行本に! ぜ、是非! こ、この空きスペースに!」

「ん」

 

 すると、ツバサさんはポケットからペン(not Quill pen)を取り出すと……早い! 早い! so quickly!!! 本の空きスペースに、主人公の絵が!! Gouranga!!! Oh Gouranga!!!

 

「あ――ありがとうございました!! これ、家宝にします!!」

「そこまでしなくてもいい……君がして欲しいならいつでもしてやるよ、勇者の刻印をな」

「すげー!! かっけー!!!」

「マンガもcoolデスが、作者も超超coolデス!!」

「勇者の刻印、ありがとうございましたー!!」

「良かったね真魚ちゃん!!」

「流石です翼さん! かっこいい!!」

「やめろ、煽てるな――それはそれとして、私達トレバー探しをしないと」

「あっ、そうでしたね!」

「じゃあ、トレバー見つけたら報せてよ。じゃあね」

「バイバーイ!!」

 

 コユメとツバサさんは駆けていきました。私たちは、それを見ながら、暫くここに立ち尽くしていましたとさ。

 

《AM.12:11》

 

 

[098] トレバーを捕獲せよ

 

《side Aya》

 

「……心配だわ」

 

 私は呟いた――別に穂乃花たちを信じていないわけではないけれど、やっぱり囮が2個だけでは少々心許ない。

 

「よし」

 

 蛙チョコレートはもう一つある――こいつを放とう。

 

「行ってきて」

 

 扉を開けてチョコを放った。……上手くいったらいいのだけれど。

 

《AM.12:12》

 

《side Ruki》

 

「ぼ、僕のトレバー返せよ!」

「そ、そうよ! 返しなさいよ!」

「は? どうして僕が返してやらなくちゃならないんだ? こいつを見つけたのは僕なんだよ――だとすれば、これは僕のものなんじゃあないかなぁ?」

「「そうだそうだ」」

「ル、ルキ……」

「ちょ、こっち見られても……!」

 

 こ、困るというか!

 漸くトレバーを見つけたと思ったら、また面倒臭いのに絡まれちゃったなあ……ど、どうしようかしら。

 

「しかし、ヒキガエルか……随分と古臭いヤツを飼ってるじゃあないか、え? お前んちは確か『聖28一族』の一つじゃなかったかい? 今の時代は梟か猫だろうよ――僕んちではでっかい孔雀を飼ってるんだ。君んちは――まあ、ヒキガエルなんか持ってきてる時点で、お察しかな……ハハハハハ!!」

 

「「…………」」

「笑えよ、クラッブ、ゴイル!!」

「「ハハハハハ!!」」

 

「ふん、そうだ、それでいい……」

 

 ……ムカつく……取り巻きなんて侍らせて、何がしたいのよ? 自分の優位さをアピールしてるつもりなの? 馬鹿なの?

 

「…………」

「ん? なんだその目は――お前、お前だよ、そこの女」

「へ!?」

「そういえばお前は誰だ? ロングボトムの家の奴か?」

「……色川琉姫」

「イロカワ? 知らないな……だが、純血ではないことは確からしいなあ――ふん、ロングボトムも落ちたもんだな。こんな『穢れた血』と付き合ってるとは……ロングボトムの未来は暗いねぇ……ハハハハハ!!」

 

「「…………」」

「笑えよ!!」

「「ハハハハハ!!」」

 

 ……『穢れた血』? 何それ……まあ、良い意味では、無いのでしょうね。

 ああ、もう嫌……誰か来てくれないかしら?

 

《AM.12:15》

 

《side Shinobu》

 

「いやあ、有意義な時間でしたね!」

「はい! 金髪の良さが心から分かりましたわ!」

「そういって頂けると嬉しいです! ……アリス? どうしたんですか?」

「ウウン、ナンデモナイヨ、シノ。キンパツハステキダネ」

「そうです! 金髪は偉大なのです!」

 

 うふふ、二人とも分かって頂けたようで何よりです!

 では、トレバーの捜索を始めましょう! 私はコンパートメントの扉を開けました。

 

「あら、柴さんたちですわ」

 横を見ると、千夜ちゃん、リゼちゃん、シャロちゃん、柴さん、香奈ちゃん、萌子ちゃん、穂乃花ちゃんが左右に並んでいました……なんでしょう?

 

「あの……一体なにを?」

「ああ、トレバーを捕獲するための陣形だ」

「若葉ちゃんも加わる?」

「は、はい! 是非!」

「じゃあ私も――シノはどうする?」

「そうですね……貴女方が捕獲担当なら、追い込み役は誰なのですか?」

「チョコレートがやってくれる」

「チョコレート?」

 

 何でしょうか? 何かの暗号でしょうか? 皆目分かりませんが……。

 

「は、はあ……ですが、捕獲人数はもう十分でしょう。あんまり多過ぎても人任せになってしまいます――こう、もう少し広がった方が良いと思いますよ」

「ああ……確かに」

「そう、人数はもう十分――なので、私は追い込む側に回ろうと思います。追い込む側もある程度多くないと、アンバランスですから」

「ええー……そういうもんかしら?」

「珍しくまともだね、忍ちゃん」

「め、珍しく? ま、まあ良いでしょう、それについての話は後です――では、時間も惜しいので行って参ります!」

 

「シノー!! 頑張ってー!!」

「はい、全力でやります!!」

 

《AM.12:14》

 

 

[099] トレバーを奪還せよ

 

《side Shinobu》

 

 さあ、やりますよ! 辺りを見回しながら進みます。究極、私が発見せずとも向こうにトレバーを追いやれば良いのですから、そこまで注視する必要はありません――ただ踏まないように、気を付けるだけ。

 

「――ハハハハハ!」

 

「っ!?」

 

 な、なんでしょう!? 向こうから妙な笑い声がしましたよ!?

 い……行ってみますか!?

 

「…………」

 

 静かに……静かに……忍びのように、抜き足差し足で歩きます……。

 …………。

 …………。

 ……なるほど、あれですか。

 

 少女と少年が、3人の少年に絡まれていました……なんということでしょうか。助けないと――とは思いますが、私が行っても正直何も出来ません……かと言って放ってはおけません。作戦が中断してしまいますが、リゼちゃん辺りに知らせ――――

 

 あ、あれは――ブ――ブロンドヘアー!!

 

 よく手入れされています……美しい! ああ、なんということでしょう! 私は今まで金髪が美しいのは少女だけと思ってきましたが……これは、カルチャーショックです!!

 き――き――!!

 

「ひゃはははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎きゃあああ⤴︎!!! 金髪!! 金髪!! 金髪少年!!!」

 

「何!?」

「な、なんだ!!?」

 

 ああ、出てしまいました――でも、そんなことは、些細なこと――私の金髪愛には! 関係、ないのです!!!

 

「はぁ……はぁ……貴方……はぁ……その金髪……はぁ……一本……はぁ……くれませんか!!?」

「だ、誰よ貴女!?」

「そ、そうだ! お前誰だ! 誰に向かってモノを言っているのだ!? この僕は、『聖28一族』が一つ、マルフォイ家の一人息子、ドラコ・マルフォイだぞ!!」

「ドラコ! ドラコくんと言うのですね!! ひゃはははぁ⤴︎きゃははぁぁぁぁ⤴︎⤴︎!!! 覚えましたよ!!!」

「ひっ……ク、クラッブ! ゴイル! あ、あいつを黙らせろ!!」

「「わかった」」

「だ、誰か分からない人! 逃げ――」

 

「はい?」

「「!!!」」

 

 これは……なんと醜い方達――金髪でない方には、なんの興味もないのですが……。

 

「あの……すみません、本当に邪魔なので…… ど い て 頂 け ま す で し ょ う か 」

 

「「…………」」

 

 のいて下さいました! 意外に物分かりの良い方達なのですね!

 

「す、凄い……」

「あの2人を一蹴した……」

「ちょ、おいこらお前ら!! そ、そのでかい図体は何のためにあるんだ!? あ!? ぼ、僕を守護するためだろ!? ち、父上に、言いつけてやる! 言いつけてやるから――ひぃっ!!?」

「やっと……はぁ……近付けました……はぁ……」

 

 ああ、金髪……美しい……!

 

「あ……ひぃ……」

 

 何を怯えているのでしょう? ただ金髪をほんの少し頂きたいだけなのに……なにがいけないのでしょう?

 

「すこし先程で興が削がれましたが――ですが、もうテンションは元通りです!! きゃははぁぁぁぁ⤴︎⤴︎!!!」

「ひっ――」

「さあ、貴方の金髪は、何味でしょうか――」

 

「嫌ああああああァァァァァァァァ!!!! 父上ェェェェェ!!! 母上ェェェェェ!!!」

「「待ってー」」

 

「…………」

 

 ドラコくんは、遥か彼方に走っていってしまいました。

 

 悲しいですね。

 

「トレバーッ!!」

 

 あら? そこにいるのは、ヒキガエル?

 

「トレバー! 心配させるなよもう! ……ありがとう! 見も知らぬお姉さん!」

「良かったわねネビル! 私からもありがとう! お陰で助かったわ!」

「い、いえ……私はなにも……」

 

 えっと……つまり。

 解決、ってことですかね?

 

《AM.12:27》

 

 

[100] ダブル・チョコレート・アタック

 

 こうして、約一時間半に及ぶ、ヒキガエルトレバーの脱走劇は幕を閉じた――だが。

 

「くっそ……あの女……この僕に恥をかかせやがって……絶対に許せないぞ」

 

 そう、忍が撃退(無自覚)したブロンド髪の金髪少年――ドラコ・マルフォイは復讐の炎に燃えていた。自分にここまでの恥をかかせたのだ、ただでは済ますまい、と。

 マルフォイは怒りと羞恥に顔を真っ赤に染めながら、忍のコンパートメントを探す。ああ、なんということだ、忍はこの事を知らない。自身の身に危険が迫っている事を知らないのだ。

 

 だが、それはマルフォイも同じ事であった。

 

「……ん?」

 

 ライトで照らされた廊下の向こうから、小さな物体が2つ、こちらに向かってきているではないか。

 

「…………」

 

 それはだんだんと近づいてきて――そして、輪郭がはっきりとした。

 

「……――っ!!?」

 

 それは蛙――否、綾と萌子によって放たれ、結局任務を遂行出来ずに野良と化した、2つの蛙チョコレートであった!

 2つの蛙チョコレートは加速し、マルフォイの顔面にジャンプ、直撃した。片方は鼻に、片方は額に――!

 

「ぎ――ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?」

 

 廊下に響くマルフォイの声。だが、防音設備が完璧なコンパートメント内で、その声を聞くものはいない。マルフォイは惨めな気分になり、余計に顔を赤くさせながら、チョコレート塗れになった顔を拭うために、自分のコンパートメントに帰った。

 

「――これで勝ったと思うなよ――金髪厨めェェェェェ!!!」

 

《PM.1:00》

 

 




 あー、疲れた!! 久しぶりに長いの書いたわ……ネビルのカエル回は一話で終わらせたかったですからね。少々長くなりました。

 次回は、まだホグワーツ特急篇です。前に本編中で(多分)言ってた百味ビーンズロシアンルーレット回になる予定。で、三つ目のエピソードで、多分ホグワーツ到着でしょうね。
 まあ、気長にお待ち下さい。今週中には!←(何回も聞いた)

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