ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 長らくお待たせ致しました。いよいよホグワーツ特急の登場です。多分ホグワーツ到着まで3話くらい挿むと思いますが、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい。

※注意事項※
・今回は地の文が比較的少なめです。
・更新事項は、この欄に書きます。


車窓からCall me sister

【第17話】

 

 

車窓からCall me sister

 

 

[084]

 

 9と3/4番線――そこはそう呼ばれていた。

 

 キングズ・クロス駅の9番線。そこである方法を用いれば行くことの出来る場所なのだが、しかしまずマグルの方々であれば思いつく筈のない方法であろう。それを実践する者は、まず間違いなく酔っ払いか狂人だ。

 だが、そういう固定観念を持つからこそ、魔法界の存在はマグルにはバレていないというのも事実だ。愚かなるマグルは、己の理解を超える存在を決して認識しようとせず、受け入れようとせず、迫害する。かつて魔法使いたちが姿を隠す前から、その性質は変わらない。

 

 9と3/4番線はホグワーツへの玄関口でもあり、ホグワーツ特急が発車する場所である。故にホグワーツ生でこのプラットホームの存在を知らぬ者は、殆ど居ないだろう。

 

 

[085]

 

 9と3/4番線。キングズ・クロス駅にて、9番線と10番線の間にある柵に向かって突進することで辿り着くことの出来る、魔法使い御用達の場所。

 

 ウィーズリー一家が着いたとき、既にそこにはラブグッド家も来ていた。あのダイアゴン横丁での買い物以来である。

 

「やっほー! 久し振りっす陽子ー!」

「あはは、真魚じゃん、久し振りー!」

「元気にしてた?」

「元気してたっすよー! あややも元気みたいっすね」

「あ、あややって……」

「あはは、私が教えたんだー」

「もう、陽子ってば……別に良いけど」

 

「あやや! あやや!」

「止めて!?」

 

「あやや! あやや!」

「止めなさいよ!!」

 

 綾、陽子と再開を喜ぶ真魚。良い感じに波長が合うようだ。

 

 若葉と萌子が見つけたのは忍とアリスだ。

 

「お久しぶりですわ、忍ちゃん!」

「久し振りですね、若葉ちゃん!」

「モエコ! 元気にしてた!?」

「うん、元気してたよ! アリスちゃんも元気そうだね」

「当たり前だよ〜! だってシノが側にいるもの……ねー!」

「そうです、私とアリスは元気共有体、2人一緒に居れば、無限のスタミナを持つことが出来るのです!」

「す、素晴らしいですわ! これが女子高生――!」

「いや普通の女子高生はそんなこと出来ないからね!?」

「え……出来ないのですか?」

「う、うーん……そりゃあまあ現実的に考えればまず絶対に出来る筈のないことで、出来るとすれば忍ちゃんとアリスちゃんみたいな狂人くらいにしか出来ないんだけど……」

 

 割と妥当な評価ではあるが、毒舌な萌子。

 

「モ、モエコ? 今自然に私たちを罵倒しなかった?」

「私は兎も角アリスを狂人呼ばわりとは……結構です、良いでしょう、杖を出して下さい。戦争です」

「えっ、いや、落ち着いて忍ちゃん」

 

「問答無用です! 金髪の恐ろしさと偉大さ、身を持って知るがいいですよ!」

「ひぃっ!!?」

 

「ええい、人が多いとこで騒ぐな!!」

 

 忍が杖を出す――が、そこで香奈が登場、制止した。流石は常識人。無くてはならない存在である。

 

「ただでさえ人が多いんだから――ごちゃごちゃと騒ぐのは迷惑極まりないよ。止めなさい」

「香奈ちゃん!? 香奈ちゃんは金髪同盟の一員ではなかったのですか!? 金髪菩薩のアリスが馬鹿にされたんですよ!? 怒りが湧いてきませんか!?」

「知らん! 私別に金髪同盟の一員じゃないし! 金髪同盟ってあんたと穂乃花だけでしょ!?」

「いいえ! 小夢ちゃんも一員です!」

「小夢ちゃん? 誰だっけ」

「ほら、ダイアゴン横丁で会った」

「ああ、あんたが洗脳した子ね」

「洗脳!?」

「カナ! シノは洗脳なんかしないよ! 人聞きの悪いこと言わないで!」

「アリスちゃん、自分が何言ってるのか分かってるの……? 多分貴女が一番の被害者なんだよ……?」

「そうだよ、香奈ちゃん! 忍ちゃんはちょっとおかしいだけで、悪い子じゃないんだよ!」

「あんたそれ無自覚なの……?」

「金髪に憧れるのが女子高生……勉強になりました!」

「あんたはどこでどう文脈を誤読したらそんな結論になったのよ!?」

 

「きん!」

「ぱつ!」

「また被害者が……」

「えっ!? 金髪!?」

「ほらもうこっち来たよ生粋の子が!」

 

 穂乃花登場。ここに金髪同盟3人(忍、穂乃花、そして若葉)が揃った。怖いものなど何もない、逆境など効果もない、無敵の異次元空間の住人たちである。

 

「なんか楽しそうデス! 混ざるデース!」

「自分から汚染されに行くのか」

「ふっふっふ……私を舐めないでクダサイ? 部活は並立出来マセーン!」

「へぇ、部活? 何やってんの?」

 

「『シノ部』デス!!」

「駄目だこいつ汚染完了してた」

 

「シノ部とは! シノのありとあらゆる行動を観測し、そしてそれに着いて行くという部活である!」

「要は取り巻きじゃねーか!」

「Oh、トリマキ!? ヤキトリみたいなモノデス!? 私ヤキトリ大好きデース!」

「違えよ!!」

 

 カレンと直の会話。もしこれがアリスであったら、間違いなくシノ部に強制入部させられていただろう。いや、もしかしたらもう入っているのかもしれない。シノ部の名簿はアリスが握っている、その気になれば、当人が知らぬ間に入部させられることも不可能ではないのだ……。

 

 再開を喜ぶ11人。そこへ割り込む、大きな汽笛の音!

 線路を見る――向こうから、巨大な汽車が走ってくるではないか! 赤いペイントを施されたその姿は、徐々に近づいて来た!

 灰色の煙を吐き出しながらゆっくりと停止する謎の汽車――そう、これこそがホグワーツ魔法魔術学校へ向かう者のみが乗車する事を許される特急列車。『ホグワーツ特急』である!

 

 ホグワーツ特急が発車するのはAM.11:00。今からちょうど一時間後である。

 

《AM.10:00》

 

 

[086]

 

「君たち、汽車がもう来たよ。お喋りを中断して、速やかに汽車に乗りたまえ」

 

 パーシーが言う。監督生の証『Pバッジ』を胸に爛々と輝かせながら。

 

「他の子に迷惑だよ。お喋りなら汽車の中でも出来るだろう?」

 

 続けてPバッジを輝かせていう。

 

「えぇー……でも、双子あそこで話してるデース! だからまだまだ大丈夫デスネ?」

 

 カレンは言う。パーシーは目を細めてフレッドとジョージの方を向いた。Pバッジの光が軌跡を描く。

 

「おいジョーダン、お前何持ってきたんだよ」

「また何か良からぬ物か?」

「ははっ、そんなわけないだろ? 面白い物さ」

 

 ジョーダン――リー・ジョーダンは手に持っていた箱の蓋を開けた――と、中から得体の知れない毛むくじゃらの脚が出てきた。

 

「タランチュラか!」

「でけえ!」

「凄いだろ? ナイジェリアの蜘蛛なんだぜ、叔父さんがくれた」

 

 そのタランチュラの名は、ヘラクレスバブーン。通称『アメリカン・ゴライアス』と呼ばれる品種で、アフリカ大陸最大のタランチュラである。

 

「こら、君たち、何をしている! 早く汽車に乗るんだ! 年下の子に示しを見せなくてどうするんだ!」

 

 パーシーが肩をいからせ大股で歩いてきた。Pバッジが光る。

 

「なんだよ、パーシー、監督生みたいに偉そうに」

「僕は監督生だ!」

「おお、なんと! 流石パーフェクトパーシー! 何時の間に監督生になったってんだい!?」

「お前ら知ってるだろうが!」

「言ってくれれば良かったのに――いやまてよ、なんかそんな事をちらっと言ってたような――」

「手紙が届いて、ええと――一日中だっけか?」

「一週間中じゃね?」

「いや、二週間……」

「夏休み中ずっとじゃなかったか……?」

「黙れ!」

 

「よう、パーシー、監督生バッジを見せつけるとは、よっぽど暇らしいな」

「ああ、show(見せる) off(余暇)だからな」

「そんなお前に取り締まるという仕事をあげてるんだから、感謝してほしいもんだぜ」

「「「HAHAHAHAHA!!!」」」

「やかましい!!」

 

 言うだけ言うと、ジョーダンは汽車に乗り込み、双子はみんなの所へ行った。

 

 モリーが言う。

 

「さて、貴方たち……今年はお行儀よくするんですよ。もしも、またフクロウ便がきて、貴方たちが……貴方たちがトイレを吹っ飛ばしたとかなんとか知らせてきたら――」

「トイレを吹っ飛ばすだって? 僕たちそんなことしたことないぜ」

「凄えアイディアだ! ママ、ありがとさん」

「馬鹿な事言うんじゃありません!! あの子たちの面倒、ちゃんと見るのよ!」

「ママ、あいつらのこと心配しすぎだぜ」

「寧ろ面倒見てても、それをくぐり抜けていくような奴らだからな」

「あはは! 一理あるわ」

 

 ジニーが言う。

 

「特にマオとかね! あいつまさにそんなんじよね〜」

「分かってるじゃねえか、ジニー」

「俺たちの血統を受け継いでるようで誇らしいぜ」

「それを悪影響と言うんですがね!!」

 

「じゃあな、ジニー。フクロウ便をどっさり送ってやるよ」

「ホグワーツのトイレの便座もどっさり送ってやるよ」

「ジョージ!!」

「楽しみにしてるわ」

「ジニー!!」

「冗談だぜ、ママ」

「冗談よ、ママ」

「「HAHAHAHA!!!」」

「お黙りなさい!!」

 

 フレッドとジョージは、汽車に乗り込んだ。

 

《AM.10:17》

 

 

[087]

 

「わぁ、凄ーい!! これが魔法使いの駅かぁ!!」

「あんまりはしゃぐな、迷子になっても知らないぞ?」

「寧ろ迷子になった方が良いんじゃない? いい薬になるわ」

「それは経験則から? シャロちゃん」

「どういう意味よ!?」

「だってシャロちゃん6歳くらいのとき、街で迷子になっ「そ、そっ、そんなことリゼ先輩の前で言うなあぁぁぁ!!!」

 

 ウィーズリー一家が到着してから約20分後、柵からココア、リゼ、千夜、シャロが現れた。フォーテスキューは、店が既に開店しているため、居ない。

 

「キャハハハァ⤴︎キャハァ⤴︎ヒャハハハァァ⤴︎ー!!! シャロちゃん! お久しぶりです! 元気にしてましたか!? 金髪干からびてませんか!?」

「ほら来たわよこいつー!!」

 

 忍がやって来た。元気だったかどうかの次に金髪の状態を気にするような奴など、彼女以外にはまず居ないだろう、間違いない。

 

「忍ちゃん久し振りー!! 私の可愛い妹のアリスちゃんは?」

「アリスは向こうで穂乃花ちゃんたちと話しています! なんでも、最近流行りだした人気の漫画の話をしていて……話についていけません。あと、アリスは貴女の妹じゃないですよ、私の妹です」

「どっちも違うだろ……」

「いいえ……絶対にそうとは言い切れないわ! もしかしたら、過去に何かしら色々あって、実は生き別れた妹なのかも……!」

「無いでしょ」

 

「Oh!! ココアデース!!」

「やっほー、ココアー!!」

 

 カレンと真魚がやって来た。

 

「ココアもこっち来てクダサーイ! 今すっごい面白いマンガ読んでるデス!」

「興奮しっぱなしっすよー!」

「本当!? 今行くよー! 忍ちゃんも行こう!」

「あの、私行っても会話に参加出来ないんですけど!?」

「いいのいいのー! 行くよー!」

 

 ココア、忍、カレン、真魚は走り去った。

 

「元気な奴らだな」

「ほほえま〜」

「元気過ぎるのもアレだけど――そうだ、先にコンパートメント取っとかないと」

 

 ホグワーツ特急の座席は個別部屋式になっており、先に場所取りをしておく事が大切になってくる。

 

「よし、私に任せろ! 全部埋まってても、奪ってきてやる!!」

「先輩!? 物騒過ぎますよ!?」

「大丈夫、モデルガンだ!!」

「ちょっと前モデルガンの事件あったの忘れたんですか!?」

 

 リゼはホグワーツ特急に乗り込んだ。場合によっては、殴り込んだとも言い換えられるかもしれない。

 

「それじゃあ、私たちも行きましょうか」

「しょうがないわね……ココアはどうする?」

「後から来ると思うわ、ココアちゃんだもの」

「その理屈もよく分かんないわね……まあいいけど」

 

 千夜、シャロは汽車に乗り込んだ。

 

《AM.10:25》

 

 

[088]

「でねー、こいつがこうなってー」

「すげぇ! かっけー!」

「So cool!!!」

 

 こちらで話し込んでいるのは陽子、カレン、真魚、ココア、アリス、萌子、若葉。忍、綾、直、穂乃花、香奈はそれを見守っていたが、リゼたちが汽車に乗り込むのを見て、場所取りを思い出した。

 

「そういえば、場所取りしないといけないわ! 誰かに取られちゃう! 陽子、そろそろ汽車に乗りましょう!」

「えー!? もうちょっとくらい待ってくれよー!」

 

「駄目よ! 全くもう! 香奈、言ってやって!」

「なんで私!?」

 

「だって……この中で一番まともなの、香奈だし……」

「なんという理由……」

 

「香奈ちゃん、テニスのおu……お姫様だし!」

「唐突に何!? ぎりぎり衝突を避けようとしたのかもしれないけれど、略したらどっちにしろテニプリよ!?」

 

「プリンセス!? 金髪!!」

「プリンセス=金髪っていうその思考回路が狂ってるって言ってんのよ!!」

 

「おお! カナがキレのあるツッコミしてるデス!」

「それ反応するとこなの!?」

 

「ちょ、香奈! 私の唯一のキャラ設定取るなよ!!」

「知らんわ! ツッコミ抜いたら優しさ100%になるんだからどう考えてもそっちの方がいいでしょ!?」

 

「ツッコミ……ギャグっぽいですわ!」

「ギャルの言い間違いかそのままの意味がどっち!?」

 

「くっ、駄目だ、ボケが思いつかない……すまない!!」

「良いよ別に!!」

 

「わ、私ゲームって、トランプしか持ってないよ〜!」

「それがどうしたの!?」

 

「それはそれとしてスコーン食べる? 美味しいよ!」

「どっから出したのよ!? あと脈絡無さすぎ!!」

 

「うーん、扇子が欲しいところだね……お笑いだけに!」

「意味わかんない!! なんで扇子!? 笑点か何かと勘違いしてる!?」

 

「…………」

「いやあんたは何か言いなさいよ!!?」

 

「『『『『『おぉー!』』』』』」

「おー! じゃない!!」

 

 おぉー!

 

「誰!? 今空から声聞こえたんだけど!?」

 

 全盛期の陽子を思わせるツッコミであった。陽子と香奈が組めば捌けないボケなど無いと思わせるほどの捌きっぷり――流石は、本作唯一の常識人キャラである。

 

「はあ……それじゃあ、もう私たちで先に部屋取っときましょう」

「そうだな」

「そうだね」

「そうですね」

「そうね――ちゃんと時間に遅れないようにくるのよー!!」

「分かってるってー!」

「迷子になっちゃだめですよー!」

「子供扱いしすぎだよシノ!?」

「……心配だわ」

「……心配です」

「いや大丈夫でしょうよ」

 

 忍、綾、直、穂乃花、香奈は汽車に乗り込んだ。

 

《AM.10:33》

 

 

[089]

 

「ばあちゃん、またトレバーが居なくなっちゃった」

「まあネビル」

 

 柵の近くで丸顔の少年が『トレバー』というペットを探していた。それを見て、祖母と思しき女性が溜息をつく。

 

「あれ程気を付けなさいといったのに、またなのかえ……だからあれ程ヒキガエルはよせと言ったのに」

「ま、まあまあ。トレバーなら、私たちも一緒に探しますので、お怒りを鎮めて……」

 

 黒髪ロングの少女が宥める。

 

「別にあたしゃ怒っていませんよ、呆れているだけだわい」

「かおすちゃんなら、すぐに見つけられるんじゃない? かおすちゃん、動物に懐かれやすいでしょ?」

 

 黄色い髪をサイドテールにした少女が言う。

 

「い、いえ、そんな! 私なんかがお力になれるなんて、とてもとてもおこがましい――」

「……その頭の上に居るのって、トレバーじゃない?」

 

 蒼色の髪をしたショートヘアの少女が言う。

 

「うぇっ!?」

 

 かおすと呼ばれた桃色の髪の少女は頭に手をやる。するとそこには確かに、小さなヒキガエルが居た。

 

「トレバー!!」

「そこにいたんだー」

「……いいなあ」

「あ、あわわ……は、はい」

 

 ヒキガエルは少年に渡された。

 

「良かったぁ……ありがとう、カオス!」

「わ、私ごときにお礼なんて、お、お礼さんに申し訳ない――」

「概念にさえ謙遜するのね」

 

 そのとき、ホグワーツ特急から再び濛々と煙がたちはじめた。

 

『ホグワーツ特急 間も無く発車致します お乗りの方は お早めにご乗車ください』

 

「あ、そろそろ乗らないと!」

「でもまだ15分以上あるよ」

「部屋取らないと駄目だから――部屋制みたいだし、この列車」

「ネビル、あんまりドジするんじゃないよ」

「が、頑張るよ。ばあちゃん」

「そこで頑張る必要が無いようになってもらいたいもんなんじゃがねえ……」

「かおすちゃんもよ! あんまりネガティブになりすぎるのは駄目よ!」

「ぜ、善処いたします……」

「るっきーも、あんまりエロい喋り方しないようにね」

「エロい言わないでぇ! ネビルくんも居るのよ!!」

「本当に……おまえさんの所為でわたしゃ余計骨が折れることになったわい」

「その節は本当に申し訳ありません!!」

 

 そう、琉姫が色々いやらしい言動をしたり(誤解)、いやらしい絵を描いたりしていたので(真実)この老婆――オーガスタ・ロングボトムは、孫からそれらを、情操教育によくないとして必死に隠そうとし、嘗て無い程の苦労を味わったのだ。呪文学がまるで出来なかったあの頃程ではないが。

 

 閑話休題。

 

「それじゃあ、行ってきます、ばあちゃん!」

「しっかり学んでくるんだよ、ネビル!! あんたたちもね!!」

「はーい!」

「行ってきます」

「行って参ります」

「い、行ってきますー!」

 

 少年――ネビル・ロングボトムと少女達――萌田薫子、恋塚小夢、色川琉姫、勝木翼はホグワーツ特急に乗り込んだ。

 

《AM.10:45》

 

 

[090]

 

『ホグワーツ特急 間も無く発車致します お乗りの方は お早めにご乗車ください』

 

「あ、そろそろ乗らないと」

「おう、そうだな」

「えー!? まだ全然時間あるデス! 11時発デショウ? まだ15分以上あるデス!」

「そうっすよー! ……もういっそのこと遅れてしまうっていうのは」

「それに何の意味が……」

「お話なら汽車の中でも出来ますわ。このお話の続きは後でということで……」

「そ、そう! 私もそれに賛成ー!」

 

 出発が近いことを報せるアナウンスが鳴り響き、まだ乗っていないホグワーツ生に発破をかける。

 

「よし、んじゃ行くぞー」

「仕方ないデスネー……」

「っていうかなんでそんなに嫌なの……?」

「何かこう、話を途中で切っちゃうと、なんか気持ち悪くないデスか? 連続してた方がいいじゃないデスか」

「うーん、分からない……こともない……かなあ……?」

「分かんないっすかー文化の壁を感じるっすねー」

「カレンちゃんと真魚ちゃんの方が文化の差異がある筈なんだけどなあ」

 

「友達の間では、国境なんて関係ないよ! 文化の壁なんて、ベルリンの壁と同じくらい簡単に壊せるんだよ!」

「じゃあ私との壁なかなか壊れないよね!?」

「え? ベルリンの壁って出来てからすぐに壊されたから有名なんじゃなかったっけ」

「違うんじゃない? なんだっけ、ほら、確かあれって壊すスピードがめっちゃ速かったから有名なんだったような……」

「……ヨーコ、ココア、ちゃんと社会勉強した?」

 

 因みにベルリンの壁が有名なのは、恐らく皆様ご存知の通り、ベルリンの壁は冷戦及びドイツ分断の象徴であり、壊されたということはそれらの終了を意味したためである。詳しいことは某百科事典を見て頂きたい。

 

「今の会話、なんかギャルっぽいですわ!」

「いやどこがっすか!?」

「うーんと、うーんと、何と言いましょうか、こう、中身の無いことを話しているというか、頭の悪い会話というか!」

 

 ばっさり。

 

「あ……頭が……悪い……!?」

「そ、そんなこと言われるなんて……お、お姉ちゃん失格だぁ〜!!」

「あっ、ココアちゃん!」

 

 駆け出したココア。汽車に乗り込んだ。

 

「あ、おい! ココア待て!」

「ココアちゃんお姉ちゃんじゃないっす! 私ら同年代っすよー!?」

「追いかけっこデスネ!? 任せてクダサイ、私が最初に捕まえマス!」

 

 陽子、真魚、カレンは汽車に乗り込んだ。

 

「あっ、皆さん行ってしまいました!?」

「わ、若葉ちゃん! 言葉選ぼうよ!」

「えぇっ!? わ、わたくしそんな、酷いことを言ってしまったのですか……!?」

「自覚なかったの!?」

「あ……あぁ……わ……わたくし、ギャル失格ですわーーー!!!」

「待ってよ若葉ちゃん!!?」

 

 若葉と萌子は汽車に乗り込んだ。

 

《AM.10:53》

 

 

[091]

 

 ホグワーツ特急の内部は赤を基調としたデザインで、沢山の個室が存在する所謂コンパートメント車。一つの個室には二つの長椅子があり、基本4人まで、頑張れば6人くらいは入る仕様になっている。6人となると余りにも狭過ぎるが。廊下は広く、大体4人で並列して歩くことが出来る程度。ただ、他のお客様に迷惑極まりないので、歩くときは縦になって歩くことを推奨する。そしてそれはマグルの世界でも同じ事。迷惑かけてませんか?

 また、車内販売も充実しており、かぼちゃジュースを始めとした飲料から、ハッカ味ロングステッキキャンディといったお菓子まで、幅広く販売している。ホグワーツ特急での旅は結構な長旅だ。ホグワーツに着く頃には何事もなくとももう夜になっている。故にホグワーツ生は、ほぼ必ず車内販売を利用するのだ。そしてそこで得た利益の殆どは、ホグワーツ特急のために使われる。何に使っているかは秘密だが、少なくともみんなの金でホグワーツ特急が維持されているのは間違いない。さあ、車内販売をもっと利用して、よりよいホグワーツ特急にしよう!(ダイレクトマーケティング)

 

 閑話休題。

 

「あ、リゼちゃん、シャロちゃん、千夜ちゃん。ここに居たんだ」

 

 ココアがやって来た。リゼ、シャロ、千夜は既に個室を取っており、ココアが来るのを待っていた。

 

「探すのに一苦労だったよ〜。目印みたいなの置いてくれれば良かったのに」

「他の子に迷惑掛かるでしょうが!」

「あっ、そうだね……やっぱり私頭悪い……」

「な、何があったのココアちゃん!? し、親友の私に話してみて!? 少しは楽になるわよ!?」

「うん、実は……」

 

 事情説明中……

 

「ってわけなんだよ! 酷いよね!」

「可哀想……ココアちゃん……!」

「いや……お前の説明を聞く限りだと……」

「妥当な判断よね、それ」

「うぇぇっ!?」

「高校生にもなってベルリンの壁知らないとか、流石の私も言葉が無いわ」

「……すまない」

「な、な、な、」

 

 リゼとシャロの集中砲火を受け、遂に心が折れかけたココア。だがそんな彼女に救いの手が!

 

「コ、ココアちゃんは頭悪くないわ! 数学出来るのよ! 数学出来る子に頭悪い子は居ないのよ!」

「あっ、そうだ! そう! 私理系だった! そうだよー! 理系が文系を苦手とするのは世の常だよねー、うん!」

 

 ココア復活。理屈はおかしいが、元気になったのならそれでよし。

 

「ココアちゃん! もう大丈夫!?」

「ありがとう千夜ちゃん! 私、ビシッと言ってくるよ!」

「頑張って、ココアちゃん!」

「さあ、みんなも行くよ!」

「えっ……いや、私は……」

「私は行かないぞ」

「……若葉のとこでしょ、嫌よ。私が行ったら間違いなく空気悪くしちゃうもの」

「えー……じゃ、じゃあ行ってくる……あ、終わったらちゃんと報告しに来るからねー!」

「いってらっしゃーい」

「行ってこい」

「いってら」

 

 ココアは個室を出た。その時、若葉もまたタイミングよく、個室を出たところであった。

 

 そう、隣同士だったのだ。

 

《AM.10:59》

 

 

[092]

 

《AM.11:00》

 

『お客様に ご連絡申し上げます 11時となりました ホグワーツ特急 これより 発車いたします』

 

 駅、車内にアナウンスと汽笛が鳴り響く。

 

「わ、若葉ちゃん! 発車だよ発車!」

「あそこに窓がありますわ!」

 

 廊下の窓から外を見る。沢山の人たちが手を振っていて、その中にはモリー・ウィーズリーも居た。

 

「「バイバーイ!!」」

 

 窓を開け、全力で手を振る2人。それに気付いたモリーも振り返す。

 

「2人とも気をつけるのよ――絶対――はぐれないように――絶対――あの双子の――悪影響――うけちゃ――ダメよ――!!!」

 

 汽車の音に負けじとモリーが叫んだ。

 

「ジニーちゃーん!!! コーーールミーーーシスターーー!!!」

 

 同じく手を振るジニーに、ココアが叫ぶ。訳すと、『お姉ちゃんって呼んで』。

 

「私は――あんたの――妹じゃ――無い――!!!」

「うぇぇ!!?」

 

 途端、外の景色が横にスライドした。遂に汽車は動き出したのだ。

 体を外に乗り出して手を降り続ける、若葉を始めとした生徒たち。その姿は次第に遠ざかり、やがて見えなくなった。

 

「……お姉ちゃんって、呼ばれたかった……」

 

 ホグワーツ到着推定時刻は、PM.8:30頃。ホグワーツへの長い長い旅が、始まった。

 

《AM.11:05》

 

 

 




 はい、お待たせしました、ようやくホグワーツ特急です! 早く組分けしたい。

 買い物篇よりは短い予定なので、御安心下さい。私も早くホグワーツ書きたいんです。
 ここからの話は比較的短めになることが予想されます。長いお話を期待されている方は、今暫くお待ち下さい。今週中には、終わります。

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