ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

16 / 77
 買い物編 side 2 の第2話です。どうぞ。

※注意事項※
・長いです。心に余裕を持ってお読み下さい。
・10/20 脱字修正
・何か変更があれば、この欄に追記します。


ショッピング・イン・ダイアゴン・アレイ:2 その2

【第14話】

マジック・ワンド・ワンダーランド

 

 

[063] 暗黒門――日暮香奈の場合

 

 その日は晴れていた。雲一つない青空。季節は真夏そのものであり、差してくる日光の眩しさが、その暑さを助長させる。

 そんな身を焦がすような暑さの中、広大なテニスコートを縦横無尽に駆け、ラケットを動かす少女が一人。茶髪のショートヘアを持つその少女は、日暮香奈という。

 

 

〈side Kana〉

 

 空は先程までの青色を失って、紅色に染まりつつあった。本当、日が長くなったなあ、と思う。

 

「…………」

 

 部活が終わり、一人だけの帰り道。いつもなら隣に穂乃花が居るのだけれど、今日、彼女は学校を休んでいた。

 どうしたのだろうか? あいつが学校を休むなんて珍しい。それどころか、今日はカレンちゃん達までもが休んでいた。理由も結局分からず終いだったけれど、来る途中に何かあったのではないか、と心配になった。少なくとも、風邪なんかでは無いだろう。よりにもよって、ピンポイントであの6人なのだから。

 

 空は紅に染まり続け、影は伸び続ける。金色の兎が隣を歩いているが、夕焼けの悪戯だろう。金色の兎なんて聞いたことも無い。陽の色に、染まっているだけだ。

 

「……金色の兎かあ。穂乃花が見たら喜ぶだろうなー」

 

 何故だか知らないけれど、あいつはどうも金髪が好きらしい。何故かは、知らない。そんなに深い理由があるとも思えないし、そもそも、好きだということに、別に理由なんていらないと思うからだ。

 私はテニスが好きだけど、それに深い理由があるかと言えば、別にそんなことはなく、ただ、ボールの跳ねる音が心地良いと感じたというだけの話なのだ。深い理由なんて必要ない。好きと思うなら、誰にもそれを止める権利は無いし、止めても意味が無い。

 

 兎は足元に擦り寄ってくる。くすぐったい。少し前、どこかで『すねこすり』という妖怪の話を聞いたことがあるけれど、なんとなくそれを連想した。

 それにしても、野良兎かな? 飼い兎には見えないし……でも、なんでこんな人懐っこいのかな?

 しゃがんで、頭を撫でる。とてもふわふわとしていて、思わず抱き締めたくなった。

 なので、抱き締めた。

 

「ああ〜……もふもふしてる〜」

 

 今は夏。ふわふわとしたものを抱くと暑いものだが、しかし何故か暑く感じなかった。寧ろ冷んやりとしていて、気持ち良い。

 

「え? 兎?」

 

 あれ?

 兎?

 兎何で?

 なんでこんなところに兎が居るの? あれ? 何故か全く疑問に思わなかったけれど――おかしくない?

 

 えぇ?

 

「……くるるる」

 

 金色の兎が喉を鳴らした――かと思うと、手の中に居たのは金色の兎ではなく、真っ黒い、闇色としか表現出来ないような、禍々しい兎の姿をした何かだった。

 

「ひっ――」

 

 声をあげようとした。でも、それは無理だった。

 兎のような何かは質量を増し、闇は私を完全に包み込んだ。訳が分からなかった。何から何まで、分からなかった。

 

「――――」

 

 私の意識は、呑まれるとすぐ、闇に沈んだ。

 

 

[064] 知らない人からの手紙

 

「えっと……紹介するね。この子は、私の友達の香奈ちゃん」

「は、はあ……日暮香奈です。よろしくお願いします……?」

 

 疑問符を携えながらの自己紹介。右も左も分からぬままの自己紹介。こうなるのは、必然である。

 

「僕はジョージだ」

「僕はフレッドだ」

「えっと……私はジネブラ・ウィーズリー。ジニーって呼んでくれて良いよ」

「私、保登心愛! 宜しくね、香奈ちゃん!」

「まおは黒川真魚っすー!」

「ルーナ・ラブグッド」

 

 初対面でも怯まない6人。カレンと陽子は、既に見知っているので、自己紹介は無し。

 

「しかし驚いたな。急に目の前に変な暗闇が現れたと思ったら、中から出て来たのは新しい女の子だもんな」

「全く、役得も良いところだぜ、なあ?」

「ああ、全くだぜ」

「あの……ちょっと、穂乃花、何これ? どうなってんの? え? まだ全然整理出来てないんだけど……ここ何処?」

「話すと長いよ〜……」

「おっと、あんまり説明するなよな」

 

 フレッドが言う。

 

「ああ、マグルに魔法の事知られちゃあ、面倒だからな」

 

 ジョージが言う。

 

「は? マグル? 魔法?」

「おい! 誰だ魔法とか言ったの! お前か、ジニー!」

「あんたよ、馬鹿兄貴!」

「魔法って……何? 宗教的な……」

 

 目の色が険しくなる。

 

「ち、違うよ香奈ちゃん! ち、違くて〜!」

 

 混乱する穂乃花。しかしながら今一番混乱しているのは、間違いなく香奈だ。

 

「もう良いんじゃないデスカ? 全部言っちゃいマショウ!」

「そうそう! 香奈にならバラしても大丈夫だって! 多分!」

「そう! ここで会ったが百年の縁って奴だよ! いいじゃん、教えちゃっても!」

「私も賛成っすー! あと百年の縁って何すか」

 

 バラす方向に持って行こうとする4人。

 

「お前らなー……まあ良いか、後で記憶消せば良いだけだしな」

「ああ、ママに怒られるかもだけど、まあ、なるようになるだろう」

「待って待って、今なんか記憶消すとか何とか物騒な言葉聞こえたんだけど? あれ、これ本格的に私逃げた方が良いんじゃ……」

「せ、説明するよ! 説明するから! 逃げちゃ危険だよ!」

「危険って何ー!?」

 

 少女説明中……

 

「…………」

 

 唖然とする香奈。マグロめいて口をパクパクさせている。言葉も出ない。

 

 ――……からかってる?

 

 そう言いたいが、しかし状況が状況なだけに、からかってるとも思えない。

 

「……それ、言っちゃっていいの?」

 

 第一声がこれである。

 

「いや……多分、言っちゃダメな奴だと思う」

「じゃあ何で言っちゃったの!?」

「だって言わないと逃げたじゃない!」

「まあね」

「まあねって……」

 

「えっと? 整理すると、ここはロンドン、ダイアゴン横丁、あんた達は魔法使いで、魔法が使える。成る程ね、よく分かったわ――って分かるかー!!」

「Oh! ノリツッコミデース!」

「言ってる場合か! 待って待って、いやここが何処かは分かった、魔法とかなんか良くわかんないけどまあ分かった、でも分かんないのは、なんで私がここに居るの!?」

「私達も良く分かんないんだよなー」

「うーん、あの真っ黒いのに呑み込まれちゃったら、自動的にここに来るというか……なんかそんなかんじ?」

「謎が残ってる! 凄いでっかい謎が残ってるんですけど!?」

「まあ、でっかい謎はゆっくり解けばいいさ」

「ああ、但し、記憶がちゃんとあればの話だがな」

「怖いっ!?」

 

 香奈が頭を抱える。そりゃあそうだろう。初対面の人間に記憶を消すとかなんとか、物騒な事を言われて、まともな思考が出来る方は居るのだろうか?

 

「……別に、大丈夫なんじゃない?」

 

 ルーナが言う。

 

「ココアとヨーコ、カレン、ホノカ。暗闇から出て来た人達って、みんな自覚していないだけで魔女だったよね? じゃあ、カナも本当は魔女なんじゃないの?」

「ああ、成る程、そういう考え方もあるのか!」

 

 陽子が言う。

 

「流石は私の妹だよ! きっとそうに違いないね! ルーナちゃん、頭なでなでしてあげるー」

「遠慮するもン」

「じゃあジニーちゃん!」

「あんたの妹になった覚え無いわよ!」

「ひ、酷いー……」

 

 ココア撃沈。

 

「私が魔女ぉ? ……うーん……心当たり無いんだよねー」

「私も無いんだよね〜……だから、心当たり無くても、可能性は十分あるよ!」

「はあ……」

 

 もうどうにでもなれ、と言いたげな目を穂乃花に向ける。

 と、その時である。

 

「ピィィーーーッ!!」

 

 遥か彼方から聞こえる鳥の声。徐々にその声の主は近付いてくる。梟だ。梟が向かってきている。梟は猛スピードで突っ込んでくる。そして、空中でブレーキを掛けられずに、その勢いのままジョージに激突!!

 

「ぐふっ」

 

 梟はジョージの脇腹にクリーンヒット。ジョージが呻く。

 

「おいおいジョージ、大丈夫か?」

「これはもう駄目ね、重症よ」

「ああなんてこった、我が弟よ! 6年生になれないかもしれないな」

「owlがcrashしたからね」

「O.W.Lの試験結果は、散々だろうな」

「「HAHAHA!!!」」

「うるせえ!!」

 

 ジョージは起き上がると、梟を見た。なんと、手紙を持っているではないか。しかも、ついこの間見たことがあるような手紙だ。

 

「はい」

 

 香奈に手渡す。

 

「え?」

「ほら、受け取れよ。多分、お前にだ」

「えぇ?」

 

 封を破り、中を見る。中には羊皮紙が二枚入っていた。一枚目を読む。

 

______________________________________________

 

親愛なるヒグラシ殿

 

 このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 新学期は九月一日に始まります。

 

    副校長 ミネルバ・マクゴナガル

______________________________________________

 

 

「……マジですか」

 

 香奈の顔からは、困惑以外の感情がまるで感じられなかった。

 

 

[065] オリバンダー杖店 side 2

 

 ――オリバンダー家は代々、杖作りという謎めいた職種に関わってきた。

 オリバンダーという名前は『オリーブの杖を持つ者』の意と言われ、このことから、現店主『ギャリック・オリバンダー』の先祖はもともと地中海の国からイギリスに渡ってきたことが伺える(オリーブの木はイギリス原産では無いのだ)。オリバンダー老人自身は、最初にイギリスにやってきた自分の先祖たちについて、ローマ人とともに到着し、店を開店、当時雑な仕上げで性能の低い杖を使っていた魔法使いたちを相手に、イギリスで杖を売り始めたのだと考えている。

 

 オリバンダー老人はほぼ間違いなく世界一優秀な杖職人である。匹敵するのはせいぜい、ブルガリアの杖職人『グレゴロビッチ』くらいの者だろう。

 多くの外国人が自国で売られている杖よりもオリバンダーの杖を求めて、ロンドンにやってくる。家業を手伝って育ったオリバンダー老人は、幼い頃から杖作りの才能を発揮していた。それまで使われていた杖の芯と木の材質を改良しようという野心を抱き、若い頃から理想の杖を追求することにひたむきで、その決意は偏執的とさえ言える程であった。趣味は無く、仕事こそが生き甲斐という彼の言葉は、決して偽りでは無い――。

 

 

[066] 杖の選定 日暮香奈の場合

 

「いらっしゃい――おや、なんと小さな魔女と魔法使い達だ。ここはオリバンダーの店。杖を買いに来たのだね?」

 

 香奈を加えて次に向かったのは、オリバンダー杖店。自分が魔女であるという事に対する疑念を、早々に晴らしておきたいという香奈の一声で決定した。誰も反対しなかった。彼女達も彼女達で、まだ確信に至っていなかったし、何より魔女といえば魔法の杖。早く欲しかったのだ。

 

「よお、オリバンダーの爺さん。元気みたいだな」

「ああ、てっきりもうぽっくり逝っちまったかと思ったぜ」

「ほっほっほ、お前ら、一度会ったからといって年上に対し馴れ馴れしすぎやせんか?」

「「はい、すいません」」

 

 双子は大人しく引き下がる。以外なことだが、彼等はオリバンダー老人に対しては滅法弱い。杖を買いに来たときちょっとした(双子基準)トラブルを起こしてしまい、オリバンダー老人をカンカンに怒らせてしまったのがトラウマになっているのだ。

 

「ほっほっほ……まあ、それは兎も角、じゃ。杖を買いに来たのじゃろう? このオリバンダーに任せなさい、必ずや、貴女達は最高の杖と会うことになるじゃろう」

「杖と会う?」

「ほっほっほ……その通りじゃ、お嬢さん。杖は意思を持つ。故に、そう簡単に選べる物では無いのじゃ。――使い手が杖を選ぶのではない、杖が」

「「杖が使い手を選ぶのだ」」

「ほっほっほ……儂の決め台詞を邪魔するのを止めてもらおうか、ウィーズリー兄弟」

「「悪いな、爺さん!」」

 

 ……これでも、苦手としている方なのだ。一応。

 

「では、早速始めよう――最初は誰かね?」

 

 オリバンダー老人は言う。

 

「香奈ちゃん、行きなよ」

「え? 私最初でいいの?」

「レッツゴーだよ! あ、その次私だからね!」

「えー!? 次はワタシデース!」

「何言ってんすか! 次は私っすよ!」

「二番手は私が貰ったぁー!」

「あんたら外でやってなさいよ!!」

 

 ココア、陽子、カレン、真魚は外に出た。

 

「えっと、じゃあ……お願いします」

「うむ――では、杖腕を出したまえ」

「杖腕?」

「利き腕とも言う」

「あっはい」

 

 香奈は右手を出した。すると、オリバンダー老人は懐から杖を取り出し、少しだけ振った。

 なんたる超常現象か。カウンターの上に置かれていた巻き尺が、ひとりでに動き出したのだ。勝手に動く巻き尺は、香奈と穂乃花の身長やら何やらをこと細かく測っていく。

 

「…………」

 

 唖然である。穂乃花は既に幾度か魔法を目撃しているから良いが、香奈はこれが初めて。初の魔術的体験である。

 測り終えると、巻き尺はオリバンダー老人のところまで戻り、最後は右手の長さをオリバンダー老人自身が測った。そして、測ったデータを見ながらカウンターの奥へ消えていった。

 

「……本当だったんだ、魔法……」

「あはは……」

 

 呟く香奈。なんだかんだ半信半疑だったらしい。それに穂乃花は苦笑い。

 

「っしゃあ!! 討ち取ったりい!!」

「やられちまったデス……三番目になりまシタ……」

「四番目……まあ、いっか!」

「まおってばジャンケン弱ーい……」

 

 4人が帰ってきた。順番は、陽子、カレン、ココア、真魚の順。

 

「どうだ、香奈? 杖買った?」

「ううん、まだ――いま選んでもらってるとこ」

「そっか。楽しみだなー!」

「そんなに?」

「うん! だって杖だよ、杖! 魔女の杖! すっげーカッケーじゃん!!」

「そうなんだ……」

「カナは楽しみじゃないデス?」

「楽しみっていうより、不安の方が大っきいっていうか、なんというか……」

 

「そんな心配する必要、無いんじゃないかな?」

 

 突如、聞き慣れぬ声が割り込む。一同は声の方向を向いた。

 

 声の先に居たのは、同い年くらいの少女だった。ふわふわの髪の毛をボブカットにしている。髪色は銀色の様だが、あちこちに白髪が混じり、輝きはまるで無い。壁にもたれかかりながら、少女は言った。

 

「私はメルジーナ――メルジーナ・グリース。よろしくねえ」

「はあ……よろしく」

「よ、よろしく」

「……よろしく」

 

 警戒する香奈と穂乃花、そしてルーナ。

 

「私は猪熊陽子! よろしくなー!」

「僕はフレッドだ」

「僕はジョージだ」

「私、保登心愛! お姉ちゃんって呼ばれてるよ!」

「まおは黒川真魚っすー! よろしくー」

「私はジニーよ、ジニー・ウィーズリー」

「Hey!! 私は九条カレンデース!」

 

 無警戒の7人。コミュニケーション能力の塊みたいな奴らである。

 

「心配する必要無いって、どういうこと?」

「そのまんまの意味だよー。心配しなくていいさってこと。緊張しなくていいよってことさあ」

「……はあ」

 

 警戒を緩めない。何かこの少女から、嫌な気配を感じる。それが何かまでは、分かっていないが。

 

 オリバンダー老人が、帰ってきた。

 

「お待たせしましたな。この杖をお試しくだされ」

「あっ、はい!」

 

 香奈はカウンターに駆け寄る。

 

「スギの杖。芯にはドラゴンの心臓の琴線が使われております。25.5cm、弾力性がある。さあ、どうぞ」

 

 香奈は杖を受け取った。杖は白み掛かった茶色で、持ち手の先に丸い飾りが付いている。

 

「……ええと」

「ほっほっほ、では、少しだけ振ってみて下され」

「こうですか?」

 

 香奈は杖を少しだけ振った。

 すると、杖の先から橙色の丸い光が放たれた。それはカウンターの上を跳ね、壁に当たり、地面を蹴り、天井にぶつかって消えた。

 

「な、何、今の――?」

「ほっほっほ、どうやら、その杖が貴女様に一番ぴったりな品のようですな」

「あれだけで分かるんですか!?」

「そうとも、君達はお似合いじゃ」

「そうなんですか……?」

 

 香奈は杖をちらりと見た。

 

「……はい、ありがとうございました」

 

worldworldworldworldworldworldworldworldworld

 

 香奈は、お代の7Gを払って座席に座った。

 

worldworldworldworldworldworldworldworldworld

 

 

[067] 杖の選定 猪熊陽子の場合

 

「さて、次は誰ですかな?」

「はいはいはーい! 次私ー! 私でーす!」

 

 陽子がカウンターに駆けていく。

 

「ほっほっほ、では、杖腕を出してもらおうかの」

「杖腕?」

「利き腕とも言う」

「あっはい」

 

 陽子は右腕を出した。そしてオリバンダー老人が杖を少し振ると、大量の巻き尺が浮き上がり、陽子、カレン、ココア、真魚の寸法を測り出す。そして計測を終えると、巻き尺は元の場所へ戻り、オリバンダー老人は奥へと消えた。

 

「楽しみだなー! どんな杖なんだろう!?」

「ヨーコの杖だから、きっと真っ赤な杖デース!」

「なんで!?」

「確かに、陽子ちゃんのイメージカラーって、赤ってかんじする」

「『陽』から連想しちゃうんすかね」

「きっと燃え盛るような杖だね、うんうん」

「いや燃え盛るような杖って何だよ! 持てねーよ!」

「おいおいヨウコ、お前らの住んでたとこじゃあ、面白い教訓があるんじゃなかったのか?」

「そうだぜ。何だっけ? 『シントウメッキャクスレバヒモマタスズムシ』だっけ?」

「『心頭滅却すれば火もまた涼し』! 鈴虫って何だよ! 生命錬成してんじゃねーよ!?」

「「HAHAHA!!!」」

「何がおかしいー!!」

 

「ほっほっほ」

「いやあんたも何がおかしいんです!?」

 

 オリバンダー老人が笑いながら帰ってきた。ノリの良い老人である。

 

「これが貴女の杖ですぞ。黒クルミとドラゴンの心臓の琴線の杖――28.5cm――炎を扱う魔法に最適」

「マジで炎なの!?」

「さっすがヨーコ! 炎の女デス!」

「いよっ、Fire girl Yoko!!」

「お前ら何なんだ本当!?」

 

 陽子は杖を受け取る。真黒い杖だ。角ばっており、炭を連想させる。陽子は、杖をダイナミックに振った。

 ――後から思えば、下方向横向きに振ったのは不幸中の幸いと言うしかなかっただろう。杖を振った瞬間、杖の先端から太陽の如き光を放ちながら、杖と同じ奇跡を描いて奇妙に姿形を変形させる生物めいた炎が迸った。それによりカウンターの下半分は溶解、辺りには大量の煤が舞った。

 

「…………」

「…………」

「……えーっと」

「ほっほっほ……まあ、良い。出た呪文が少々アレではあるが、しかし、間違いなくそれは貴女の杖じゃろう」

「あ、あはははー……すいません」

「よいよい、ワザとじゃないんじゃからな」

 

 双子を見ながら言う。双子は勿論目を反らす。

 注意深く箱に納めながら、陽子は7Gを払った。

 

 

[068] 杖の選定 九条カレンの場合

 

「……さて、次は誰ですかな?」

「私デース! 九条カレン! イェーイ!!」

「ほっほっほ、元気の良い娘じゃわい」

「ソレホドデモー」

 

 オリバンダー老人はいつもの行程を行い、カウンターの奥へと消えた。

 

「それにしても、ヨーコの魔法凄かったデス! 超COOLだったデス!!」

「あははー……まさかあんなことになるとは思わないよ、フツー……」

 

 因みに、カウンターは既に元通りとなっている。杖職人だけあって、魔法の腕は超一流なのだ。

 

「私もあれくらいの魔法、出ないデスかねー」

「あれは中々でないだろうねー。なんてったってありゃあ、『悪霊の火』だからねえ」

 

 メルジーナが言う。

 

「悪霊の火!? すっげー! なんかカッケー!!」

「さっきまでのローテンションはどこに」

「『悪霊の火』――魔法界において最も強力な炎を創り出す魔法だよ。凄いなあ、面白い魔法を引き当てたじゃないの」

「……そういえば気になったんだけど、香奈ちゃんも、陽子ちゃんも、最初に杖を振った時、魔法が出たでしょう? あれって、もう一回使えないのかなー、なんて」

 

 穂乃花が呟く。

 

「ん? ああ、じゃあ試してみようか」

「え? 私の炎は?」

「陽子ちゃんのは強すぎる……」

 

 香奈は杖を箱から出し、振った。

 …………。

 

「…………」

 

 振った。

 …………。

 

 三度目の正直、振った。

 …………。

 

 何も、起こらない。

 

「魔法でないんだけど!?」

「マジでか!?」

「それは、あれらの魔法に再びロックが掛かったからでしょうな」

 

 オリバンダー老人が桐箱を持って奥から帰ってきた。

 

「最初に杖を振った時に出てくる魔法は、その杖と使用者が真に共鳴した時にのみ発動する魔法――一回目以降は、杖との絆をより深めなければ、使うことは出来ません」

「へー……」

「さて、それはともかく、Ms.クジョウ、貴女の杖です。イトスギと不死鳥の尾羽根の杖、26cm、握りやすい」

「Oh……これが杖デスカ……」

 

 カレンは杖を受け取った。赤み掛かった茶色の杖で、特に変わったところのない、シンプルな杖。

 

「行くデース!」

 

 カレンは杖を振った。

 ――後から思えば、微妙に斜めを向き上から下へと振り下ろしたのは不幸中の幸いと言えるだろう。カレンの杖から放たれたのは、余りにも禍々しい赤黒の粒子。粒子が当たった箇所は即座に侵食され、消滅した。即ち、カレンから見てカウンターの左半分は消滅した。

 

「…………」

「…………」

「……ゆ、許して欲しいデース! わざとじゃなかったデース! ごめんなさい! デス!」

「……ほっほっほ……まあ、良い。ワザとじゃないのじゃ、うむ。ワザとじゃ、ないのじゃ……」

 

 二連続でカウンターを壊されたオリバンダー老人。流石に少しキている。

 

「スミマセンデシター……」

 

 お代の7Gを支払うと、カレンは座席に戻った。

 

 

[069] 杖の選定 保登心愛の場合

 

「……さて、次は誰ですかな?」

「あ、次は私だよー!」

 

 ココアがカウンターへ向かう。

 いつもの一連の動作を終え、オリバンダー老人は店の奥へ向かった。

 

「…………」

「カ、カレンちゃんは悪くないよ! 最初にどんなのが出るかなんて、分かるわけないもんね! ね!」

「ソウデスネー……」

 

 沈むカレンと、それを慰める穂乃花。

 

「何なんだろうな、この差は」

「性格の違いか? この差は」

 

 双子が言う。

 

「あんな魔法見たことも聞いたこともないよ。凄いね、こりゃあ新魔法かもしれないねえ」

 

 メルジーナが言う。

 

「新魔法!?」

 

 テンションが戻るカレン。

 

「わ、私の魔法、珍しいやつなんデスカ!?」

「や、私もよく知らないよ? 知らないけどさ、赤黒の粒子なんて聞いたことないからさあ、ちょっと思っただけ」

「Yeaaahh!! デス!!」

「良かったね、カレンちゃん!」

「ハイ! 失敗は成功のもとってやつデスネ!」

「うん、そうだね、カレンちゃん!」

「いや、なんか違うと思うけど」

「いいなぁ……二人とも、派手な魔法が出て」

 

 ココアが言う。

 

「私も何か派手な魔法出たらいいのになあ」

「杖は大きく振るなよ!?」

「振るなよ!? 振るなよ!? デス!!」

「おっ、フリだね!? 分かったよ!」

「止めろカレン! ココアも乗っかるな!」

「そうですな、是非止めて頂きたい」

 

 奥からオリバンダー老人が帰ってきた。

 

「降るときは小さく振りなされ。それだけで、しっかりと効力は現れます――リンゴと不死鳥の尾羽根、24cm、変身術に最適――さあ、どうぞ」

「はーい!」

 

 ココアは杖を受け取った。白い杖で、各所に小さな渦巻きが散りばめられている。ココアは杖を振った。

 ――こればっかりは、何をどうしてもどうにもならなかったと言わざるを得ない。杖の先端が桃色に光り、閃光が迸ると、カウンターに激突。すると、なんと驚くべきことにカウンターは大きなアンゴラウサギに変貌してしまったのだ!

 

「わあー! もふもふー!」

 

 ココアはアンゴラウサギに抱き着いた。ふわふわしている。もふもふ天国。

 

「……リバリファージ 戻れ」

 

 オリバンダー老人はアンゴラウサギに向けて杖を振った。すると、水色の光と共にアンゴラウサギは元のカウンターの姿に戻った。

 

「あー……」

 

 残念そうな声を出すココア。

 

「ねえねえ、もっかいやってもいい!?」

「ほっほっほ、出来るものならやってみい。出来んがね」

 

 三連続でカウンターに呪文を掛けられ、中々にキている。実際、何度か振ってみたが、アンゴラウサギに変わることは無かった。

 

 ココアは代金を払い、座席に戻った。

 

 

[070] 杖の選定 黒川真魚の場合

 

「……さて、次は誰ですかな?」

「次はまおっすー! イェーイ!」

「…………」

 

 オリバンダー老人は、何となく嫌な予感を覚えながらも作業をこなし、店の奥へと消えた。

 

「もっともふもふしたかったなー」

「杖と仲良くなったら、また出来るようになるよ。オリバンダーさん言ってたもン」

「うん……ようし! 当面の目標は、さっきの魔法の再現だね! よしっ!」

「やる気があって大変宜しい」

「ああ、全くだぜ」

 

 ココアは杖を取り出すと、一心不乱に振り始めた。

 

「きっといっぱい振れば、もっと仲良く、なれる筈だよっ!」

「謎理論過ぎるわ……」

 

「炎、消滅、変身と来て……まおは何かなー」

「案外水だったりするんじゃないデスカー?」

「あ、魚だけに!」

「真の魚……マオデス!」

「おっと、真の魚とか言うのやめて、恥ずかしい記憶が蘇りそうになるっす」

「真の魚!」

「真の魚……」

「真の魚ー」

「やめろー!!」

「真の魚……」

「オリバンダーさん乗っかるの止めてくれませんかね!?」

 

 オリバンダー老人が帰ってきた。手には一つの桐箱。

 

「ほっほっほ――では、これをどうぞ。サンザシとドラゴンの心臓の琴線。22cm。軽い」

「よーし! やるっすよー!」

 

 真魚は杖を受け取った。

 

 しかし。

 

「!!」

 

 オリバンダー老人はその杖を真魚から奪い、慌てて店の奥へ再び向かった。

 

「……あれ?」

 

 硬直する真魚。

 

「どうしたデス?」

「なんかあったのか?」

「いや、分かんないっすよ……突然取られて……」

「間違って持って来ちゃったのかな?」

「オリバンダー爺さんも人の子か」

「子って言う程若くないけどな」

「…………」

 

 程なくして、再びオリバンダー老人は別の杖を持ってやって来た。

 

「いや失敬、これは如何ですかな? サクラと不死鳥の尾羽根――23.5cm――よくしなる」

「よーし、今度こそやるっすよー!」

 

 真魚は杖を受け取った。

 

 しかし。

 

「!!?」

 

 オリバンダー老人はまたもや杖を真魚から奪い、慌てて店の奥へと走った。

 

「…………」

「ど、ドンマイ!」

「よ、よくあることだよ!」

「……泣いていいっすか」

「弱っ、メンタル弱いねえ」

「きっと肩に『錯乱の妖精』が居るんだ。こういう場合、大抵そうなの」

「…………」

 

 無言で肩を払う。しかし、何かが居た気配もない。

 

「…………」

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 息を切らして、オリバンダー老人が走ってきた。

 

「な、なら、これはどうじゃ!? ハナミズキとドラゴンの心臓の琴線! 27cmで、頑固! もうこれ以外はありえぬ!」

「…………」

 

 真魚は無言で受け取る。灰色で、幾何学的なルーンが刻まれた杖。

 

「……ぬぅ」

 

 オリバンダー老人が呻く。

 

「……振ってみなさい。ただし、誰も居ない所へ向けて振りなさい。必ず」

「……了解っす」

 

 真魚は誰も居ない窓際に向かって、杖を振った。

 

 杖の先から放たれたのは――緑の閃光だった。

 

「!!」

 

 緑の光は部屋中を照らし、閃光は窓に当たって途切れた。

 

「……おお、なんということ……なんということじゃ……こんな……」

「……あの、この魔法がどうかしたんすか? もう、まおはこれでいいっすよ」

「うむ……おそらく、どの杖を使ってもこの結果になっただろう――よいか、よく聞くのじゃ」

 

 オリバンダー老人は真剣な面持ちで言う。

 

「儂は基本的に、使い手に対してアドバイスはしない主義じゃ――しかし、状況が状況じゃ、これだけは貴女に言っておきたい」

「?」

「……決して、闇の力に呑まれるな。悪の魅力に惹かれるな。ただ、それだけじゃ。それをしっかりと念頭に入れておけば、恐らく悲劇は回避出来るじゃろう」

「……はあ」

 

 真魚は、代金を払うと座席に戻った。

 己の杖を眺めながら。

 

 

[071] 杖の選定 松原穂乃花の場合

 

「さて……次は、貴女ですかな?」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

 

 行程はいつものようにショートカット。オリバンダー老人は店の奥へと消えた。

 

「……なんなんすかねー、さっきの」

 

 真魚は呟いた。

 

「どんな魔法なのか全然分かんなかったしさ――あーもう! 折角最初の魔法なのに、もうちょっと楽しんでやりたかったっすよー!」

「あれで良かったんじゃないかな」

 

 メルジーナが言う。

 

「『あれ』を楽しんでやるっていうのは、ちょっと良くないことだからねえ――うん、あれで正解だよ」

「『あれ』?」

「『緑の閃光』だよ――あれは良くない。あれはとても不吉なものなんだ。あんなの、使えない方がよっぽどいい」

「……よく分かんないっす。じゃあその緑の閃光って、何なんすか?」

「……教えない。教えちゃったら、君があれを認識してしまうからねえ――そうなると、絆とか関係無く使えてしまう。それは、本当に、良くない」

「…………」

「記憶の底に沈めなよ、あんなの」

「…………」

 

 不満げな真魚。

 だが、メルジーナは意地悪で言っているわけではない。実際にこの『緑の閃光』は、そもそもこの世に存在しなくていい魔法であり、最凶にして最悪の呪いなのだ。

 

 しかし、何れ彼女はこの呪いの正体を知る事となる。それは避けられぬ運命であり、それを知り彼女がどう動くかは、運命さえも分からない。

 

「用意できましたよ」

 

 オリバンダー老人が奥から現れた。

 

「カラマツと一角獣のたてがみ……25cmで、軽い」

「ありがとうございます」

 

 穂乃花は杖を受け取った。灰色で、両端が細く、中心に行くに従って太くなるという不思議な形状をしている。

 

「えっと……振っていいですか?」

「ええ、どうぞ」

 

 穂乃花は杖を振った。すると、杖先から出たのは小さな火花。目まぐるしく色を変え、火花は周囲に飛び散った。当たった箇所はその時の色に染まった。

 

「綺麗ですね……」

「これが、君の杖じゃ――大切に使いなさい」

「はい!」

 

 代金の7Gを支払った。

 

「さて……これで全員ですかな?」

「ジニーちゃん、ルーナちゃん、いい?」

「私はもう買ってもらったわ」

「私ももう買ってもらったもン」

「じゃあ……これで全員だな」

「よし、退散だ。時間が無いぜ」

 

 そう。実際時間が無い。制限時間まであと45分しか無いのだ。

 

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました」

「ありがとうございましたー!」

「サヨナラー!」

「あざっしたー!」

「ありがとうっすー」

 

「杖との絆を、ゆめゆめ忘れるなかれ。さようなら、若き魔女達よ」

 

 メルジーナ含む11人は、店を出た。

 




 さあ、更新頻度を元に戻すぞー!(吐血)

 さて、色々脳内会議を行った結果、タイトルを変更致しました。察しの良い方なら、これから登場する新キャラを当てることは容易いでしょう。
 ……キャラの書き分け、頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。