ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 お待たせしました、買い物編2周目です! 買い物編は各チーム3周ずつの予定なので、気長に見て頂ければ幸いです。では、どうぞ。


ショッピング・イン・ダイアゴン・アレイ:1 その2

【第13話】

魔法をカートに詰め込んで

 

 

[058] フローリシュ & ブロッツ書店 side 1

 

 リゼ率いるチーム1が次に向かったのは、ダイアゴン横丁随一の本屋『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店(以降、F&B書店)』。ダイアゴン横丁で本を買うといえばここであり、ダイアゴン横丁内において、オリバンダー杖店に次いで有名な場所と言っても過言ではない。

 魔法界においてこの書店の存在は非常に重要なものであり、ダイアゴン横丁以外にもこの書店はある。マグルの方にも分かりやすく言うならば、某ジュンク○書○のようなものである。ダイアゴン横丁のものは飽くまで一支店にしか過ぎず、本店はイギリスには無い。

 

 チーム1がここへ来たのは、ホグワーツの教科書を購入するためである。基本彼女達は地図を参考にして動いているため、必然、評判のよいところに辿り着く。

 

 F&B書店に入ると、まず最初に目に付くのが天井まで届く程の本の山。ここにはありとあらゆる本が入荷されているが、その本一冊一冊の入荷部数もまた尋常でなく、こうして山積みにしなければ、店の奥のダンボール箱がカウンターよりこちら側へ雪崩れ込んでしまう。なんだかんだ言いつつも店にとって、見栄えもまた重要なものであり、ダンボールという存在は店の内装を著しく破壊してしまう。故に、山積みにせざるを得ないのだ。ダンボールを山積みにするより、遥かにマシであろうから。

 

「凄い本の山……崩れたりしないのかしら?」

 

 綾が言う。

 

「その辺は魔法でなんかやってるんじゃないのか?」

 

 直が返す。

 

「なんかやってる……なんかって……」

「しょ、しょうがないだろ!? じゃあ何て言えばいいんだよ! いいじゃないか、意味は通じるんだから!」

「こんなの倒れてきたら、私達ひとたまりもないよね……」

 

 萌子は言う。

 

「杖は持っていますが、肝心の魔法がまだですからね」

 

 若葉は返す。

 見たこともないような空間に興奮と、一抹の不安を覚える9人であった。

 

 チーム1は基本的には目的のものだけを購入して、残った時間を探索に使うというスタンスで動いている、が、やはりチーム2程では無いにせよ、彼女達にも好奇心というものはある。それは人の性であり、どうしようもないことなのだ。

 と言うわけで、ここから20分の自由行動。短いが、まだ行くべき店が残っている以上、あまり悠長にはしていられないのである。2時間という制限時間も、全てが新鮮に見える彼女達にとっては余りにも短すぎる時間なのである。

 

 

[059] フリータイム・リーディングタイム

 

 

《side Wakaba》

 

 なんて素晴らしい場所なのでしょうか! 見渡す限りの本の山、幾多もの雑誌……ああ、これこそまさに天国……ギャルの聖地なのですわ!

 雑誌をこうして立ち読みするというのは、やはりまだ緊張します。早くみなさんのように、何の緊張もなく、自然体で読めるようになりたい……!

 

 『ザ・クィブラー』……とても興味深い雑誌です。私が知らないような魔法界の情報がこれでもかと載っていて、こちらの文化を理解するには素晴らしいものだと思いました。ああ、一冊欲しい……でも、他のお客様がここを通る度にこちらを覗き見されている辺り、きっとこの本はとても人気のある雑誌なのですわ。

 

 あまりここに長く立ちすぎるのは、きっと購入したい他のお客様に迷惑がかかっています。早くここから立ち去らないと……ああ、でも、まだ3ページしか読んでいません! もう少し……せめて10ページくらいまで……!

 

 

《side Aya》

 

 この店にある本は、とても面白そうなものばかりだ。私は初めて来たからそう思うだけかもしれないが、どの本も個性的で、没個性な本がどれ一つも無いように思える。どれもこれもが目を引き、なかなか私を前に進ませてくれない。

 それでもなんとか足を動かし、辿り着いたのは小説の棚。きっとここには、私が今まで見たこともないような素敵な本があるに違いない……! 所持金にあまり余裕はないから買うことは出来ないけれど、でも、下見くらいなら、私の心は許してくれるだろう。

 そして、ある本を見つけると、私の目はそれに釘付けになってしまった。

 赤いハートマークで彩られ、ハートに囲まれた中心には、動く太陽の絵(なんと、魔法界の本に書かれてある絵は動くらしい。魔法って凄いわ!)。そして、その上には題名が書かれてある。『サンライト・ラブ――二人の少女の哀しき運命』――。

 

 ――ああ、所持金は少ないのに。

 

 私はその本を、手に取った。

 

 

《side Sharo》

 

 私は本をあまり読むタイプではない。というより、様々な要因が重なって、読むに読めないと言った方が正しいのだろうか。

 

 自由行動と言われても、別に目当ての本はなく、ただ店内をぶらぶらしているだけの時間となった。しかし、ただ歩いているだけでも、色々な本が目に入るだけでも、十分楽しくて、満足だった。

 私達の知るような本とはまるで一線を画すものばかり――魔法というものの凄さをしみじみと感じさせられる。ある本の表紙に書かれてある絵は動き、ある本を彩る様々な色は次々と目まぐるしく変わり、またある本は自動的に文章を読み上げる。極め付けは、空を飛び回る本があったことであろう。本が空を飛び回るなんて、こうして現物を見なければまず信じれないものだったろう。

 

 魔法界の不思議なアイテム。延々と眺めていてもまるで飽きないこれらは、総じて、人の目を惹き付ける魔法を行使しているようなものだ、と思った。

 

 

《side Shinobu》

 

 ああ、なんと素敵な場所なのでしょう! ずっとずっと、この場所に居たい!

 

 私の眼前に広がるのは、金髪少女が裏表紙に描かれた雑誌の山。どうやら美容品の雑誌のようで、美しい髪の金髪少女がとても大きく映し出されていました。表表紙は……まあ、金髪の綺麗な方だと思います。はい。ギルデロイ・ロックハートと言う名前がでかでかと載っていますが、しかしながら、私は無差別的な金髪主義者ではありません。あくまでも私が好きなのは金髪の女性であり、金髪少女です。ウィンクを連続して行って客目を引こうとしている表紙の方には申し訳ありませんが、さっさと裏側に回って頂き、チャーミングな笑顔を振りまく裏表紙の金髪少女に表側へ出て頂きました。

 雑誌の中身は、そうですね。あまり興味の湧く内容ではありませんでした。ただ私は裏表紙を見ているだけ……なのに、この本に魅力を感じるのは何故でしょう?

 

 ……自問するにはあまりにも無意味ですね。そんなの、私には分かりきったことなのですから。

 

 

《side Alice》

 

 シノの隣で本を読んでいるけれど、殆ど楽しさを感じません。

 

 魔法界の本はとても個性的で、私が今まで見たこともないような魅力を秘めているのは、間違いありません。こんな本をシノの横でこうして読むことが出来るというのは、きっと幸福なことで、贅沢を言うのはあまりにも筋違いかもしれません。

 でも、私は、隣にいる私に目もくれないのです。雑誌に映る金髪少女を凝視しているばかりなのです。そんな隣で本を読んでも、楽しさは半減どころの騒ぎではありません。

 

 ただの写真である筈の金髪少女が、そんなに良いの? 確かに普通とは違って動いているけれど、それは写真以外の何者でもないんだよ? 写真なんかとは違う、現物の金髪少女は、シノの隣にずっといるのに。

 

 写真なんかに嫉妬してしまう、穢れた私には、シノはもう、興味無いのかな……。

 

 

《side Tiya》

 

 シャロちゃんが心配で追いかけてみたけれど、シャロちゃんはとても楽しんでいそうで、何よりだった。

 

 私の行為は、世間一般ではストーキングというのかもしれないけれど、それでも、私の精神を保つには、それしか無かった。一人で行動するのが苦手な、独りでいるのが大嫌いな、こんな私にとっては。

 シャロちゃんにとって、こんな心配性な私は迷惑でしかないのだろうけれど。でも、こうして見守っていないと、シャロちゃんが私から離れていってしまいそうで、気が気じゃない。

 

 分かっている、これはシャロちゃんを守るためでもあるけれど、それ以上に、自分の都合のいい解釈をして、自分の精神を保とうとしているだけであることも、私は分かっている。私の大切な友達。失うことは、死にも等しい。

 

 あ、書店内にある本は、とても魅力的なものでした。ええ。

 

 

《side Nao》

 

 ここは聖地である。僕は結論付けた。

 

 僕の趣味を知って、変態だのなんだのと一蹴する者がいるが、しかしどうだろうか。自分の胸に手を当てて考えて欲しい。そういった者にだって、必ず人には言えないような本性を抱えた者がいるのではないだろうか? いない筈はない。ボーイズラブを腐ったものだと言う連中は、まず自分を見直して頂きたい。

 そんな、自分を客観的に見れないような奴らとは、この僕は違うのだ。自分の趣味の特異性をしっかり理解し、そして尚、自分を腐女子と称するにも別に羞恥はない。BLが崇高なものだとまでは言う気はないが、しかしながら決して侮辱されるべきものでないことは火を見るより明らかなのだ。仮にそういったものなのであれば、何故こうして平然と書店で売られている? 何故公然とした場で売られているのだ? さあ、その意味をじっくりと考えて頂きたい。

 

 さて、それはそれとして、買うにしても金がない。1冊に絞らなければいけない。ああ、地獄めいた作業だ。全部欲しいのに!

 

 

《side Rize》

 

 私はそこまで本を読むタイプではないので、別にしたいこともない。取り敢えず、魔法について書かれた本をペラペラとめくっている。それ以上でもなければそれ以下でもないし、特に話すことも無いので、この本から興味深い一節を抜き出して紹介するとしよう。

 

『魔弾――魔弾とは、マグルが使う銃(細長い形をした筒のようなもの)に詰め込む弾丸(丸っこかったり円錐型だったりする、金属の塊。何れにも共通するのは、アッシュワインダーの卵よりも小さいということ)に魔法を掛けたものであり、それを使う魔法使いは、総じて狂人扱いされている。』

 

『というのも、銃というものは非常に殺傷力が高く、マグルの溢れんばかりの殺意を象徴したようなものだからである。弾丸はとても小さいのにも関わらす、使用者の腕によっては、人間をチーズのように穴だらけし、惨たらしく殺すことができる。銃自体も十分な重量があるため、殴打という原始的な攻撃にも利用される。遠隔と近接に満遍なく殺意を放つその姿は、まさにマグルの野蛮なる側面を表していることだろう。』

 

『弾丸に魔法を込めるメリットというものは殆ど無いに等しい。精々あるとすれば、銃にマグルが扱うよりも、さらに強力な殺傷力を付与することが出来るという一点のみである。禁じられた三つの魔法には遥かに劣るものではあるが、筆者としては、この魔弾の危険性を広く知らしめて、魔法省がこの悪魔のような魔法を制限してくれることを願うばかりである。』

 

 魔弾。非常に面白い話だ。銃に魔法を込めるとは――いつか、使ってみたいものだ。……というのは、些か危険思想か?

 

 

《side Moeko》

 

 魔法界の本屋というものは、意外とセキュリティが甘いのかな、と思いました。

 というのも、私達が住んでいたところでは、本は殆どがビニール袋に包まれていて、触れることは出来ますが、中身を読むことは出来ません。買ってからしか読むことが出来ないのです。

 対して、この書店にある本の殆どが、ビニール袋もなにもないまま晒されており、中を簡単に読むことが出来ます。これでは、買わずに中が全部読めてしまいます。

 

 ですが、立ち読みしか出来ない私達にとっては有難い話です。千夜ちゃんとの対決に向けて洋菓子のレパートリーを増やしたい私にとっては、まさに青天の霹靂。お菓子のレシピ本を隅々まで読むことができるのです。

 

 あ、これなんかいい! どうしようかな、迷うな――

 

「痛っ!!?」

 

 夢中で読み耽っていると……なんということでしょう!? 本がひとりでに閉じたのです! 指が挟まれてしまい、痛い、抜けません! 痛い、相当固く閉じられている、痛い、みたいです!

 いたた、やっと抜けました! うわ、痣できてる……。

 

 ……魔法界における本屋さんのセキュリティは、万全と言わざるを得ません。

 

 

[060] 会計タイム

 

 20分が経過し、ぞろぞろと9人が集まってくる。ある程度統率がとれてる辺りが、チーム2とは徹底的に違うところであろう。

 

 と言うわけで、お待ちかねの会計タイムである。

 

 

〈全員が購入したもの〉

 

 ・基本呪文集(1年用)  1 G 2 S 6 K

 ・魔法論   2 G 15 S

 ・魔法史      2 G 10 S 5 K

 ・変身術入門   1 G 8 S 8 K

 ・薬草ときのこ1000種 2 G

 ・魔法薬調合法(1年用) 2 G 3 K

 ・闇の力――護身術入門 1 G 16 S 20 K

――――――――――――――――――――

   合計 14 G 1 S 13 K

 

 

〈小路綾が購入したもの〉

 

 ・サンライト・ラブ   1 G 2 S

 

 

〈真柴直が購入したもの〉

 

 ・騎士の危険な夜  16 S 15 K

 

 

 9人は店を出た。

 

 

[061] ポタージュの鍋屋

 

 荷物が多くなる。9人は思った。

 

 先程購入した教科書群だけでも既に彼女達の片手は封じられている。精々数冊といえども侮るなかれ、一冊一冊の厚さと重さはバカにならないのだ。彼女達(約一名除く)の細腕では、相当に厳しい。しかしながらリストに書かれた物の中では、それらは実質最初の手荷物であり、まだ望遠鏡やら大鍋やらが残っているのだ。果たしてそれらを全て両手だけで片付けられるだろうか? 答えは明白であろう。

 と言うことで彼女達はこの予想外の事態に困り果てていたが、しかし立ち止まっていても仕方がないので、次なる目的地である『ポタージュの鍋屋』へ向かった。

 

 『ポタージュの鍋屋』――その名の通り、大鍋の専門店であり、他のダイアゴン横町の店の例に漏れず、やはりというかなんというか、各地にある鍋屋の中では、相当の古参である。

 ここでは主として錫や真鍮、銅などの比較的安価な鍋を販売している。それ故に庶民層には人気が高い。ダイアゴン横町にはもう一つ『ゴールデン・カティーヌス』という鍋屋があるが、そちらは金やダイヤモンド、オリハルコン製などを扱っており、しっかりと区別されている。その為、競い合うことは殆ど無い。唯一競い合う商品として銀製の大鍋があるが、庶民層はまず買わないし、貴族層は銀如きでは欲しがらない。どっちもどっちな状況が続いている。

 

 軽快なベルが鳴り、9人の魔女が来店。

 

 店内には様々な種類の大鍋が溢れており、棚に積み上げられていた。入り口近くに買い物用カートが並んでいる。殆どの商品が大鍋であったが、小さな真鍮製の秤も売っていた。鍋を買うついでに秤も買いたい、というホグワーツ生の要望に応えた形である。実際、その判断は正しく、この時期になると飛ぶように売れる。儲けも、秤販売以前の1.5倍であった。

 

「買うのは……真鍮製の秤と、錫製の鍋ね。標準2型」

 

 リストを開いて綾が言う。

 

「材質まで指定しているのね」

「何事にも規律は必要だからな。統一するのは自然なことだろう」

 

 リゼが言う。

 

「金製の鍋がありませんね」

 

 辺りを見回しながら忍が言う。

 

「金製なんて高くて買えないよ〜。金色に塗られた鍋なら、ほら、あそこに――」

「いいえ! 金色に塗られた程度では、純然たる金色とはとても言えません! 美しい金色の輝きは、真の金にしか出せないのです! そう! アリスやシャロちゃんの金髪のように!!」

「これ以上無くどうでもいいわ」

 

 忍の力説を聞いたシャロが呟いた。

 

「分かるわ」

「!?」

 

 静かに同意を示したのは千夜。

 

「純粋なものというのは常に一つ……メッキに塗り固められた偽物は、どうしたところで偽物でしかない――真の輝きというものは、本物にしか出せないのよ」

「流石千夜ちゃんです! 分かってくれると信じていました!」

「うふふ、私達気が合いそうね」

「ええ! とっても!!」

 

 意気投合する千夜と忍。類は友を呼ぶ。

 

「…………」

 

 沈黙するシャロ。何か思うところがあったのかもしれない。

 

「……偽物ですか」

 

 そして、若葉も沈黙、静かに呟く。

 

「どうしたの?」

「……え? あ、いえ! な、なんでもありませんわ!」

「ふーん?」

 

 萌子に苦し紛れな誤魔化し。

 そしてもう一人、沈黙していた少女が呟く。

 

「それは違うな」

 

 直が言う。

 

「あら?」

「本物が常に輝いているだと? ……はっはっは、笑止! ならば一つお前に聞こうか……じゃあ何故、三次元の偽物であるところの二次元の輝きは決して枯れないものなのだろうか!? 何故、素晴らしい出会いが多いのか!? とね!!」

 

「はい、柴さんちょっとあっち行こうねー」

「えっ、ちょ、萌子、まだ私なんにも喋ってない――」

 

 直は萌子に引き摺られ、錫鍋の棚へ行った。割と冷静かつ非情な萌子であった。

 

 それはそれとして、閑話休題。そして、購入パートは省略。

 気になるお値段は。

 

 大鍋が3 G 11 S 4 K、秤が1 G 5 S 27 K であった。

 

 金、銀、銅貨を払って、9人は店を出た。

 

 

[062] レッツ・ゴー・ウィズ・カート

 

 店を出た9人の両手は、早くも塞がってしまった。

 

「さて……どうする」

 

 リゼが言う。因みに、実はリゼの片手は自由なことになっている。軍人の娘、日頃訓練しているだけあると言えよう。

 

「どうするもこうするもないだろ。荷物がもう持てない」

 

 トリガーさえ引かれなければ比較的まともな直が言う。

 

「もう……腰が……」

 

 お年寄りのようなことを言う忍。関係ないが、彼女は幾度か『お婆ちゃん』と呼ばれたことがある。

 

「シノ!? しっかりして、シノ! 片方持つよ!」

 

 アリスが言う。言うものの、アリスの両手は塞がっている。どうしようというのか。

 

「はあ……カートが羨ましいわね」

 

 道行く人々を見ながらシャロが言う。そう、通行人は結構な割合でカートを押して移動しているのだ。あれがあれば、さぞ便利なことだろう。渋滞は避けられないだろうが。

 

「そうねぇ……どこにあるのかしら?」

 

 千夜が周りを見る。しかし残念なことに、見当たらない。

 

「みんなどこで手に入れてるのかしら? 案外この近くにあるのかも……」

 

 綾が言う。中々いい勘を持っていると言わざるを得ない。

 

「そうですわね。もしかしたら、もう私達の目に入っているのかもしれませんわ。魔法は何でも出来るでしょうし」

 

 若葉が言う。そしてそれもその通り。実は彼女達は、入店時と退店時に、なんと二回もその『カート』を目撃しているのだ。無意識のうちに、認識している。

 

「あったよ! カートが!」

 

 店の中から出てきた萌子が叫ぶ。カートを探しに再入店していたのだ。

 

「何!?」

「でかした!」

「どこにあったんですの!?」

「お店の中にあった! 以外と目につく場所だったよ……」

 

 視界の中に既に入っていてもそれと気付かず、あとから『ああ、あれか』といった具合に気付く……読者の皆さんも、一度はそんな経験が無かったであろうか。あれである。

 カートは、特にこれといって変わったところは無く、触っても別に色も変わらず、乗せても別に重さも変わらない、買い物用カートと聞いて連想するようなまんまなフォルムをした、何の変哲もないものであった。しかし、この異様な世界観の中、ただ一つだけおかしなところのない物体がある、ということも、しっかりと異様であった。

 

 9人はカートに買ったものを乗せた。両手は相変わらず塞がったままなものの、両手の代わりに比べ物にならない容量を持つアイテムを手に入れたのだから、リターンの方が遥かに大きい。

 

 そんな訳で、9人の魔女は次なる目的地へ向かってカートを押すのであった。

 

 

 

 

 




 なんか今回はいつも以上にクオリティが低かった気がする……一週間近く更新しなかった癖にこの体たらくである。
 しかし本当、追加キャラどうしようかな……これ以上追加すると流石に掛け合いが難しくなるんだよね。影薄いキャラとか出て来ちゃうしさ。どうしたものですかね?

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