ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 とうとう投稿が1日空いてしまった! そろそろ、更新頻度大幅ダウンの足音が聞こえてきましたよ?
 諸注意
・長いです。いつも以上に長いです。
・キャラ崩壊がいつもより激しいです。
・題名は《カトレアの咲く》と読みます。


ショッピング・イン・ダイアゴン・アレイ:1 その1

【第11話】

卡特蘭の咲く

 

 

[042] チーム1の道程

 

・マダム・マルキンの洋装店

・オリバンダー杖店

・フローリシュ・アンド・ブロッツ書店

・ポタージュの鍋屋

・薬問屋

・ワイズエーカー魔法用品店

・スクリブルス筆記道具店

 

 

[043] マダム・マルキンの洋装店 side 1

 

 ――マダム・マルキンの洋装店。ダイアゴン横町で一番にして唯一の衣料専門店であり、普段着から式服まで、幅広い服種を扱っている。また、服だけではなく、帽子や手袋、マントも扱っていて、ホグワーツ魔法魔術学校の制服は、ここに来れば一式すべてが手に入る。そう言った事情もあり、業界では常にトップクラスの地位にある。

 

「凄いですわ! 庶民的な服が沢山……! ここは天国ですのね!?」

「第一声がそれかよ!」

 

 マダム・マルキンの洋装店を経営するのは、その名の通り、マダム・マルキン。ずんぐりとした魔女で、とても愛想が良い。売れる店の店主というものは往々にして、愛想の良さが求められるものである。因みに今日の服は藤色ずくめ。

 

「いらっしゃい! あら、随分たくさん来たわねえ! 貴女達もホグワーツの制服を買いに来たの?」

「ええ。……貴女達も?」

「ええ、今日は新ホグワーツ生のお客様が沢山! 先程も、一人新ホグワーツ生のお坊ちゃんがいらっしゃったのよ」

「へえ、凄い人気なんですね! シノ――!?」

 

「マダム・マルキンさん、その美しい金髪、是非私に一本……!」

 

 何時の間にそこに居たのか、マダムの近くへ移動していた忍は、片膝をついた服従のポーズで、金髪を要求していた。

 

「シノ何やってんのー!?」

「しの本当何やってんのー!?」

「しまった! こっちにも爆弾が居たか!」

「爆弾は全員向こう側にいると思ってたわ! 迂闊だった!」

 

 散々な言い様である。

 

「えっ……!? う、美しいだなんて……あらやだわ、こんなおばさんを捕まえて……おほほほ!」

 

 マダムも満更でもないのがまたなんとも言えない歯痒さを生む。

 

「仕方ないわね、一本だけよ!」

「ありがとうございます! ひゃははぁ⤴︎! 金髪コレクション、記念すべき1本目です!」

 

「シノ頭大丈夫!?」

「もともと頭大丈夫!?」

「お前ら地味に酷いな」

 

「ここは本場イギリス! 金髪の方があっちこっちいらっしゃいます! この私の金髪欲を満たすために、私はここに、金髪コレクションの作成を宣言いたします!」

 

 忍は大声で叫ぶ。

 

「声が大きいですよ忍ちゃん!」

「やめてシノ、見られてるよ恥ずかしいよ!」

 

 見られてるどころか、店外にも聞こえているだろう。

 

「何時でもどこでも、自分に正直に!」

「正直過ぎるよ!?」

「素敵なポリシーね、忍ちゃん!」

 

 そしてこの共鳴者である。

 

「千夜ちゃん……! きっと分かってくれると信じていました!!」

「駄目だわ、話が進まない!」

「ええい、アリス! あいつを暫く隔離してろ!」

「え!?」

 

「きゃあ、アリス! 金髪!」

「にゃあああああ!?」

 

 囮、餌、色々言い方はあるが、とにかくアリスを犠牲にして、話を進める。

 

「えっと、そう! ホグワーツ用の服を仕立てて頂きたいんですが」

「ああ、はいはい、そうね。分かったわ、ちょっと待ってね」

 

 マダムはポケットから杖を出すと、ひょいと一振りした。たったそれだけの動作であったが、カウンターの向こう側から巻き尺が一つ飛んで来て、マダムの手の中に収まった。

 

「すごい……」

 

 綾が呟く。

 

「さて、誰から仕立てる?」

 

 マダムは言う。

 

「そうですね……では――」

 

 と言う訳で話し合い開始。尤も、今回は集まったメンバーがメンバーなので、すぐに終了した。

 最初がリゼ、次に若葉、そして、直、シャロ、千夜、綾、萌子、忍、アリスの順となった。

 

「それじゃあ、始めるわよ!」

 

 仕立てタイム、スタート。

 

 さて、仕立てタイム中、特に語ることは無かったので、マダムの主義を一つ紹介しよう。

 

 基本、魔法界の店で巻き尺を使用する場合、魔法を使って計測することが殆どである。理由は勿論速いから、そして面倒でないからである。魔法を使って自動的に巻き尺に測らせる。マグルにはとても出来ない芸当である。

 しかしながら、測定に自動巻き尺を使用しない少数派も居る。マダム・マルキンはその1人である。

 自動巻き尺は、確かに非常に便利なものではあるが、しかしたまに誤測が発生することがある。誤差は大きいものから小さいものまで様々で、もし誤測が発生すれば、また測らなければならなくなり、二度手間となってしまうのだ。

 

 そこで一番確実で、誤差が少なくなるのは、非魔法による計測、即ち、手動測定である。

 

 自分の手で測定すれば、誤差があっても直ぐに修正出来るし、その誤差も非常に小さい誤差ですむ。誤差の大きさが運次第な自動測定よりは、誤測率が低いのだ。

 ただし、それはあくまでも熟練にしか出来ない技。マダム・マルキンの測定は常に誤差が無く、完璧であるという事実は、彼女が熟練の腕前を持っているということを如実に示していることだろう。

 

 仕立てタイム、終了。

 

 仕立てが終わってそこに居たのは、黒いローブに身を包んだ9人の魔女であった。

 

「素敵ですアリス! まるで本物の魔女みたいですね!」

「シノも――いつも通り、可愛いよ〜!」

「なんかこれ、動き辛いな。サバイバルには向いていないらしい」

「サバイバル!? なんでそんな単語が……」

「シャロちゃん、よく似合ってるわ〜」

「あんたはそこまで違和感無いわね。もともと魔女みたいな性格の奴だからかしら?」

「直ちゃん、凄く魔女っぽいよ〜!」

「そ、そうか? じゃ、じゃあ眼鏡もとろうか? 真の力解放しようか?」

「しょ、庶民の服……庶民……うふふ……うっ、息がっ……!」

 

 魔女の服を着た彼女達の反応は様々で、実用性を考慮する者から死にそうな者まで、実に愉快な光景であったことだろう。

 

 気になるお代は、

 

・ローブ(×3着)代…18 G 12 K

・三角帽子…………1 G 13 K 20 S

・安全手袋…………10 K 8 S

・冬用マント………4 G 2 K

 

 合計、25 G 4 K 28 S 。

 

 

[044] オリバンダー杖店 side 1

 

 魔法使いと聞いてマグルがまず連想するものは何だろうか? 三角帽子や、黒いローブ、箒などである。そして、それらと同じく連想されるものに、魔法の杖がある。

 魔法の杖と一口に言っても様々で、細長いただの木の棒であったり、老人がつくような大きなステッキであったりすることだろう。

 しかしながらそれは所詮マグルの想像。そんなイメージがついたのはおそらく、木の棒やステッキから魔法を繰り出す魔法使いを目撃したからであろうことは、最早議論の余地さえない。

 魔法使いはある程度訓練を積めば、自分の杖以外のものからでも魔法を使うことが出来るが、それは決して魔法の杖とは呼ばない。

 真の魔法の杖とは、ステッキなどでは無い。木の棒がどちらかといえばまあ近いが、というか正直加工を施した木の棒そのものだが、そんなことを面と向かって魔法使いに行った日には、まず無事に過ごすことは出来ないであろうことをここに記しておこう。

 

 さて、話を戻そう。次にチーム1がやってきたのは、オリバンダー杖店。魔女であると宣告された彼女達であるが、全くと言っていいほど実感がない。故に、ここらではっきりさせておきたかったのである。自分達が本当に魔女であるかどうかを。

 

 オリバンダー杖店は、紀元前382年創業というあまりにも気が遠くなる程の、超老舗高級杖店である。最早何代目かは分からないが、店主はギャリック・オリバンダー。

 オリバンダー杖店の成り立ちやら説明は、まあ色々あるのだが、残りはチーム2がここへ辿り着いてから語るとしよう。

 

 

[045] 杖の選定 小橋若葉の場合

 

「いらっしゃい――おやおや、何と小さな魔女達か。ここはオリバンダーの店じゃ。杖を買いに来たのだね」

 

 オリバンダー老人は言う。

 

「はい、その通りですわ。オリバンダー翁。……えっと」

 

 若葉が言う。が、言葉に詰まる。

 それもそのはず、その店内にあったのはカウンターといくつかの椅子だけで、件の杖は全てカウンターの向こう側。

 

「ほっほっほ……杖が一本もそちらに無いことに動揺していらっしゃるのかな? お嬢さん」

「へ!? あ、その……お恥ずかしながら……」

「ほっほっほ……安心しなされ、ここはその名の通り、杖店。ちゃんと杖は売っておる……ほれ、この儂の後ろに、山のようにな」

 

 オリバンダー老人は自分の後ろを指差す。

 

「えっと……その、私達、杖の種類といった類のものを存じませんのです。なので、そういった場合は――」

「ほっほっほ」

 

 オリバンダー老人はおかしそうに笑う。

 

「小さなレディ。貴女方が杖を選ぶのではありません――杖が、貴女を選ぶのですよ」

「……はあ」

「ピンと来ませんか? ほっほっほ……では試してみましょうか」

 

 オリバンダー老人はそう言うと、杖を一振りした。すると、多数の巻き尺がひとりでに動き出し、9人の寸法を測り始めた。

 

「杖腕を出して下さい」

「杖腕……ですか?」

「利き手とも言う」

「ああ、利き手ですか。では」

 

 若葉が右手を出すと、オリバンダー老人が巻き尺で右手の長さを測り、終えると、動いていた巻き尺がオリバンダー老人のもとへと戻る。

 

「ふむ、ふむ、なるほど……ふむ……少し、待っていなさい」

 

 測定結果を見て何やら頷くと、オリバンダー老人は店の奥へと潜って行った。

 

「……流石だな若葉」

 

 直が言う。

 

「え? 何がですか?」

「受け答えだよ。全く、流石はお嬢様だな。b私達にはとても出来ない芸当だぜ」

「いえそんな、私は何も……」

「謙遜しなくていいよ若葉ちゃん。若葉ちゃんは実際に凄いんだから」

 

 萌子は言う。

 

「……複雑な気分ですわ」

「え?」

「私庶民に憧れておりましたのに……お嬢様的なことで褒められるのは、複雑な気分です」

「あっ……」

 

「庶民に憧れるお嬢様、ね……庶民に幻想抱きすぎなんじゃない?」

 

 シャロが少し、嫉妬を滲ませて言う。

 

「え……」

「庶民なんて、ロクなもんじゃ無いわよ――いっつも大変で、好き勝手することも出来ない。日々の暮らしもしんどいし、思った通りになんていきやしない――私と生活交換してみる? きっとあんた、一週間と耐えられないわよ」

「おい、シャロ、そんな言い方は」

「リゼ先輩だって、お嬢様でしょう? 私の気持ち、分かります?」

「なっ……」

 

 リゼが押し黙る。

 

「……分からないでしょうね、貴女達には」

 

 シャロが自虐的に言う。

 

「シャロちゃん」

 

「お嬢様になれたくてもなれない、処世のためにお嬢様を演じてるような贋作のことなんて、分かるはずもないのよ」

「シャロちゃん!」

 

「偽物の前に本物突きつけられる気持ちなんて分からないでしょう!? そりゃそうよ、だってあんたは本物なんだから!!」

「シャロちゃん!!」

 

 千夜が止める。

 

「……ごめんなさい、言い過ぎました」

 

 シャロは言う。

 

「でもこれだけは覚えておいて。お嬢様から見た私達ってのは、憧れではあるかもしれないけれど、実際のところ、そんなのは、持つ者の幻想でしかないということを」

「…………」

 

 場の空気が、少し重くなったような気がした。

 

「……シャロちゃん」

「……何も言わないでよね」

「…………」

 

「ど、どうしましょう、アリス、この空気……」

「え、えっと……」

「あ、ああ! そうです! こんな時は、アリスの金髪を触ればいいんですよ!」

 

 忍が叫ぶ。

 

「何言ってるのシノ!?」

「は?」

「ア、アリスの金髪を触れば、多少嫌な事があっても、すぐに忘れられます! ア、アリスの金髪ですから! 金髪! 金髪……そうです、金髪の力は無限大なのです!」

 

「!」

 

「急に何を言い出すかと思えば……ハッ、あんたもココアに匹敵するくらいの馬鹿なんじゃないの? いや、それ以上かしら」

 

「そうよ! 金髪を触れば、全部忘れられるわ!」

 

「おい、千夜どうした!?」

「ほら、シャロちゃんも、若葉ちゃんも! アリスちゃんの金髪を触って!」

 

 千夜が二人をアリスの髪までぐいと引き寄せる。

 

「ちょ、あんたねえ!」

「きゅ、急にどうなさったんですか!?」

「な、何!? 何!? 何!? 私全然状況が飲み込めない! シノー! 助けてシノー!」

 

(ごめんなさい、アリス……空気を多少強引にでも良くするためです! 少しの間、我慢して下さい! 私も、我慢、しますからっ……!)

 

(道化を演じて場を和ます、ね。面白いことを考える子ね、忍ちゃんって)

 

 実際、先程までの空気は既に消え去り、今は忍と千夜の馬鹿馬鹿しい行動に呆れているかのような空気となり、雰囲気は、最初に大分近付いた。

 

「も、もう、やめなさいってば! アリスちゃんの髪がぐちゃぐちゃになってるわよ!」

「わ、私も、そろそろカウンターに戻らないといけませんわ……!」

「あら、そうね」

 

 千夜はあっさりと二人とアリスを解放すると、再び椅子に座った。

 

「何よもう、全く……幼馴染だってのに、あんたの考えてること本当読めないわ……」

「うふふ」

「うふふじゃないわよ!?」

 

「シ、シノ……」

「アリスー! ごめんなさいアリスー! ああ、アリスの髪がこんなにぐちゃぐちゃに! な、なんてことするんですかー!」

「触れって言い出したのあんたでしょ!?」

「アリスの金髪が美しいのがいけないんです!」

「責任転嫁してんじゃないわよ!」

「もう! シャロちゃんの金髪食べますよ!」

「金髪食べるって何!? 狂ってる! 発送がもう狂ってるわ!!」

「シャロちゃん、ご覚悟!」

「狂人ー!!」

 

「うふふ、賑やかになったわね」

「宇治松さん……まさか貴女達、これを狙って」

「さあ? どうかしらー?」

「……凄いわね、二人とも」

 

 その時、オリバンダー老人が杖を持ってカウンターの奥から現れた。

 

「先程は静かでしたが、随分と賑やかになりましたな――何かありましたか?」

「え? い、いえ。何もありませんわ」

「ほっほっほ、それはそれは……良きかな良きかな――さて、こんなものは如何ですかな?」

 

 オリバンダー老人が奥から持って来たのは、黒い桐箱のようなものだった。

 

「オリバンダー翁、これはなんですの?」

「ほっほっほ」

 

 オリバンダー老人は笑い、言う。

 

「この中に入っているのは、貴女様の杖です――貴女の運命を、決定付けるものです」

「さあて、その杖を手にとってごらんなされ」

 

 若葉は言われるがままに、箱から出された杖を手に取る。灰色がかった褐色で、縦筋が何本か入っている。

 

「ニレと一角獣のたてがみ――28.5cm――滑りにくい――水の魔法に最適――さあ、振ってみなされ」

「はいっ」

 

 ワクワクした気持ちを抑えられないのだろう、少し声を弾ませながら、杖を一振りしてみる。

 すると、おお、如何なることであろうか、杖の先端に薄く蒼色の光が灯ると、そこから同じく蒼色の粒子がヴェールめいて若葉の周囲に広がったではないか。

 

「うわぁ!? 何ですか!? 何ですかこれ!? うふふふ、綺麗……」

「それが貴女の杖ですぞ。正しく扱えば、極めて高度かつ優雅な魔法を扱えることじゃろう」

 

 オリバンダー老人は言う。いつの間にか、若葉を包むヴェールは消滅していた。

 

「はい! 大事に使わせていただきます!」

 

 若葉は、お代の7Gを払うと、椅子に戻った。

 

 

[046] 杖の選定 真柴直の場合

 

「さて、次は誰ですかな?」

 

 オリバンダー老人は言う。

 

「誰も行かないのなら、次、私行くぜ?」

 

 直が言う。異論が特に無かったので、カウンターに進む。

 

「次は貴方様ですな。では、杖腕を出して」

 

 直は右腕を出す。オリバンダー老人が長さを測り、先程採った寸法を見ながら、店の奥に歩いていった。

 

「ふふふ……緊張するな。杖か……ふふ、まさしく二次元の女王たる僕に相応しい……」

「あ、柴さん、素が出てる素が出てる。僕って言っちゃってるよ」

「なっ……!?」

 

 直は慌てて後ろを振り返り、8人を見る。

 

「僕っ子……」

「ち、違う! 誤解だ! 私は違う! そんなんじゃないんだ!」

「いいえ、いいんですよ、直ちゃん! みんな誰しも個性を持っているもの……直ちゃんの個性は、しっかりと金色に輝いていますよ!」

「やめろよ! そんな事言うなよ!」

「僕っ子……ふふっ、まあ、気にすることないんじゃ、ふふっ、ない?」

「お前喧嘩売ってんのか!?」

「もっと自分の個性を全面に出して下さい! もっとハングリーに行きましょう! さあ、これからは私なんて言うのをやめて、僕統一で行きましょう!」

「行かねーよ!!」

 

 オリバンダー老人が、桐箱を持って店の奥から帰ってきた。

 

「何やら楽しそうに話しておりますな」

「え、いや、あの……聞いてませんよね」

「ほっほっほ、何のことかね?」

「あ、いえ、別にいいです、はい」

「ほっほっほ……では、そんな個性溢れる貴女には、こんな杖は如何ですかな?」

「しっかり聞いてんじゃねーか!!」

 

「ヤマナラシとドラゴンの心臓の琴線――25cm――決闘に最適な杖ですな。少々頑固な杖だが、恐らくこれが一番合うじゃろう」

 

 直は、オリバンダー老人から杖を受け取った。きめ細かい白木で、少し角ばっている。

直は、杖を一振りする。

 すると、杖の先の方全体が青い煌めきを放つと、放射状に青の閃光が飛び散った。閃光が当たった場所は、おお、なんということだろうか、同じく青色に光ると、光った場所に無数のヒビが入り、一気に爆散!

 

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 

 当然の如く、直は驚く。

 

「ほっほっほ、どうやら杖が喜んでおるようじゃな……良いことじゃ」

「喜んで破壊行為をする杖って……私っていったい……」

 

 何はともあれ、直は杖を受取り、7Gを払うと、椅子に戻った。

 

 

[047] 杖の選定 天々座理世の場合

 

「次は誰ですかな?」

 

 オリバンダー老人が聴く。

 

「よし、私が行こう」

 

 次はリゼ。カウンターに向かう。

 

「杖腕を」

「ああ」

 

 リゼは右腕を出す。オリバンダー老人が長さを測り、先程採った寸法を見ながら、店の奥へと消えていった。

 

「杖か……マシンガン的なやつがいいな」

「リゼ先輩、何言ってるんですか……?」

「自分の魔力が銃弾である銃……魔力が切れない限りは弾が無くならない……そんな杖なら、戦場では敵無しと思わないか!?」

「いや思いますけれども!」

「なんという危険思想!?」

「戦闘本能の塊だよ!」

「外見似てる癖に、中身全然違う!」

「おい、危険思想と戦闘本能に関しては認めざるを得んが、綾、お前のは知らん!」

 

「ド、ドッペルゲンガーじゃないの!?」

「違う! お前あれ信じてたのか!?」

「ルーナ……! 恐ろしい子……!」

「ルーナも、まさか信じる人がいるとは思わなかったでしょうね」

「なっ、しの!? 騙されなかったの!?」

「はい。ね、アリス。騙されませんよ。決定的な部分が違いますから」

「ちょ、シノ! そういうのは本人の前で言っちゃダメだよ!」

「ええそうよ胸ないわよ何よ何よしのとアリスのバカー!!」

 

 奥からオリバンダー老人が箱を持って帰ってきた。

 

「問題は外見ではありません、内面ですよ、お客様」

「あんた話聞いてるから出て来るのに時間掛かってるんじゃないのか」

 

「ニワトコとドラゴンの心臓の琴線――27cm――よくしなる――そして、貴女の望む通り、射撃系の呪文に適した杖じゃ」

「ほう?」

 

 リゼはオリバンダー老人から杖を受け取る。褐灰色の杖で、柄の方には、不思議な深い傷が刻まれている。リゼは杖を、さながら銃であるかのように構えた。

 すると、ああ、何ということであろうか。杖の先端が一瞬輝いたかと思うと、紫色の丸い閃光が、まるで銃弾のように次々と発射され、瞬く間に窓ガラスを完全破壊!

 

「あっ……」

「ほっほっほ……」

 

 オリバンダー老人は苦笑いに近い笑いを浮かべ、割れた窓に向かって杖を振る。すると、まるでその部分だけ逆再生されているかのように、窓ガラスが完全に再生した。

 

「……すみませんでした」

「よいよい、貴女に実にぴったりな杖じゃのう、ほっほっほ――じゃが、屋内でその構えをとるのは、控えた方が良かろう」

「ははは……」

 

 お代の7Gを払って杖を受け取ると、リゼは椅子に戻った。

 

 

[048] 杖の選定 大宮忍の場合

 

「さて、次は誰ですかな?」

「アリス、行きますか?」

「え、私はまだいいよ。シノ、行きなよ」

「そうですか? では、お言葉に甘えて……」

 

 忍がカウンターへ向かう。

 

「杖腕を」

「はい」

 

 忍が右腕を出す。オリバンダー老人が長さを測り、先程採った寸法を見ながら、店の奥へと歩いて行った。

 

「楽しみです! 金色の杖だと嬉しいですね」

「忍ちゃんは本当に金色が好きだねー」

 

 萌子が言う。

 

「何か理由でもあるの?」

「金髪が大好きだからですよ!!」

「うん、分かった、ありがとう」

 

「ああ、魔法の杖……なんてロマンチック……これさえあれば、私の髪を金色に染めることも夢ではありません……!」

「やめてよシノ! そんなことしたら、シノの頭にモザイクかかっちゃうよ〜!」

「酷いですっ!?」

「まあ、確かにシノに金髪は似合わないわ」

「綾ちゃんまで!? ち、千夜ちゃん!」

「……忍ちゃんは、今のままで十分完成系よ。下手に弄らないほうが良いわ」

 

 一度に3人からの批判を受けた忍。流石の忍もこれには参った。

 

「みんな酷いですっ! わ、私の味方は居ないんですか!?」

「人には適したものがあります。無理に適さぬものを追い求めるのは、自分を滅ぼすことになりますぞ」

 

 遠回しに批判しながらオリバンダー老人が帰ってきた。

 

「オリバンダーさんまで……! そ、そんな……ひゃあ、わらひはひょうふればぁ……!」

 

 メンタルに大打撃を受け、遂に呂律が回らなくなってきた。

 

「シ、シノ! 元気出して! ね! 杖! 杖だよ!」

「ふ、ふえ……? ああ、そうでした……私は杖を買いに来たんでしたね……床屋に来た訳では……ない……」

「大変! またシノが枯れ始めてるわ!」

「面倒臭い奴だなおい!」

 

「シノ! 元気出して! そ、そうだ! 金髪! あとで私の髪の毛味見させてあげるよ! だから、ね!?」

「アリスの髪の毛を味見ー!? ひゃははぁ⤴︎ひゃはぁ⤴︎ひゃああああ⤴︎!!! いいんですかぁアリス!?」

「いいよ! シノ! シノのためなら、私なんだってするよ!」

「アリス!」

「シノ!」

「アリスー!」

「シノー!」

 

「復活したわね。良かった」

「金髪狂バージョンのココアみたいな奴ね、本当」

 

 尚、当人であるところの忍とアリスを除いた7名プラスオリバンダー老人が、この会話に引きまくっていることは最早言うまでもない。

 

「……クマシデと不死鳥の尾羽根、22cm、硬い、星の輝きを集めるのに最適――少々扱い辛い杖かもしれませんが、どうぞ」

「はい!」

 

 忍は杖を受け取る。色は薄い茶色で、それくらいしか外見的特長の無い、とてもシンプルな杖。杖を軽く振る。

 すると、杖全体が金色に輝いたかと思うと、光は杖先に収束し、そして、一気に弾けた。辺りには黄金の粒子が飛び散り、とても幻想的な光景を作り出した。

 

「ほう! 不死鳥の尾羽根を使った杖の忠誠を、もう勝ち取ったというのか! 持ち主の思考に染まり易いクマシデの杖といえど、ここまでとは……!」

「……綺麗……アリス……私……もう……思い残すこと、ありません……」

「シ、シノ!? どうしたの!?」

「ああ……天が……近付いてくる――」

「大変! シノが成仏しちゃうよ!!」

「いや、成仏は違くない!?」

「いっそのことさっさと天に昇って、まともな性格に生まれ変わってきたらいいのよ」

「シャロちゃん……さっきから荒れてるわね」

「それは私も思ってるわよ! でも……あのままあいつが成仏せずにこっちに戻ってくると、私の髪の毛が……!」

「髪の毛好きなら、私も居るわよ♫」

「南無阿弥陀仏ー!!」

 

 わざわざ言う必要も無いかもしれないが、このあと忍はしっかりと現世に帰ってきて、杖の代金を支払った。

 

 

[049] 杖の選定 アリス・カータレットの場合

 

「さて、次は――」

「シノの次だから、私だね!」

 

 アリスがカウンターへ向かう。

 

「お願いします!」

 

 アリスが右腕を出す。オリバンダー老人は長さを測り、先程採った寸法を見ながら、店の奥に向かった。

 

「ついに私にも杖が手に入るよ! 凄く楽しみだよ!」

「うふふ、良かったですねアリス」

「うん!」

「うふふ」

 

「あの、うふふはいいんだけど……シノ、いつまで咀嚼してるの?」

 

 もぐもぐと口を動かす忍に綾が言う。

 

 そう、驚くなかれ、アリスはあの約束を本当に実行し、忍もまた、本当に食べたのだ。あまりにも非現実的すぎて引かぬ者はまず居ないだろう。

 しかし待ってほしい。これが非現実的だというのであれば、魔法界などという存在は、果たしてどれだけ非現実的だというのか。『髪を食べる』と『魔法界』、圧倒的な差がある。郷に入っては郷に従えという言葉があるが、非現実な世界にいる限りは、同じく狂気めいた行動をするべきである。つまり、彼女達はなんらおかしいことをしていない。そう、別におかしくなんかないのだ。これは愛情表現であり、表現の自由は禁じられていない。

 

 さて、ここまで言ってまだ納得出来ない方は、是非ともその感性を大切にして頂きたい。読者のみなさんがいる世界は魔法界では決して無い。異常な価値観も時には大切だが、それ以上に、正常な価値観は大切なものなのだから。

 

「アリスの髪は……アリス味ですね!」

「アリス味って……忍ちゃん何言ってるの……」

「とても素晴らしい味です!」

「突っ込む気力が失せてきたわ」

「シノ……私嬉しい! シノにそう言ってもらえると、私も嬉しいよ!」

「おい誰かなんとかしろよ」

「アリスー!」

「シノー!」

 

「もうやだこいつら」

「ココアちゃんだって似たようなものじゃない」

「日常的にこんなのが近くにいるという事実……」

「全く、末恐ろしい少女達ですな」

「とうとう会話に入ってきたのねあんた」

 

 カウンターの向こうから、オリバンダー老人が箱を持ってやって来た。

 

「どうぞ。ヤナギと一角獣のたてがみ――20cm――脆い――呪いに適した杖です」

「の、呪い!?」

「あくまでも、適した、ですぞ」

「そ、それでもだよ……呪いって……しかも脆いって……」

 

 アリスは震えながら杖を受け取る。一切の汚れや穢れが見当たらないような純白だが、ところどころにアンバランスな鱗状の突起があり、歪さを形作っている。

 ゆっくりと、慎重に杖を振る。と、杖をの先端が金色の輝きを放ち出した。輝きだけであろうか? いや、違う。杖周りの温度がどんどん高くなっている。「あ、熱っ!?」思わずアリスは手を離す、すると、杖の発光は止まり、湯気が立ち上り始めた。熱が冷めているのだろう。

 

「だ、大丈夫ですか、アリス!?」

「う、うん! 大丈夫……な、何この杖!?」

 

 杖を指差して言う。

 

「こんな杖……使える訳ないよ!」

「ほっほっほ……少々刺激が強すぎましたかな? いやなに、儂にとってもこれは予想外のものじゃった――良い意味でのう」

「い、良い意味でえ!?」

「この杖は興奮したのですよ、リトル・レディ。貴女という最大のパートナーと会えて」

「はあ……?」

「ヤナギで作られた杖は」

 

 オリバンダー老人は続ける。

 

「常に向上心を求め続ける者にこそ、真の忠誠を誓う――どのようなものかは儂は知らぬが、貴女は素晴らしい向上心を持っているようだ。それが、この杖の琴線に触れたのだろう」

「……向上心……」

「人が杖を選ぶのではない、杖が人を選ぶのだ――つまりは、こういうことじゃ、小さなレディよ」

「…………」

 

 結局アリスは代金を払い、その杖を買った。その真意を知るものは、本人と、そしてヤナギの杖しかいない。

 

 

[049] 杖の選定 小路綾の場合

 

「では、次は誰かね?」

「シャロちゃんはどう?」

「私はまだいいわよ……綾ちゃんが行けば?」

「えええ!? な、何でそこで私なの!?」

 

 突然の指名に驚く綾。

 

「な、何となくよ! 何となく! ほら、早く行きなさいよ!」

「ちょ……ええ!? い、良いの……? わ、分かったわよ……?」

 

 綾はカウンターへ向かう。

 通例通りのことをすませ、やはりオリバンダー老人はカウンターの向こうへ去っていく。

 

「……あの向こう、どれだけの杖があるのかなあ……」

「急にどうしました? モエちゃん」

「え!? ううん、ふと思っただけ……その、あれだけの杖の中から、どうやってみんなに合う杖を一発で探してるのかなぁ、って」

「確かに、気になる所ではあるな」

 

 直が言う。

 

「それこそ、魔法を使ってるんじゃないのか? こう、杖を探し当てる魔法、みたいなのがあるとか」

「そんなピンポイントな……」

「しかし有り得るぞ! ここは何でもありなんだぜ! 大抵のことは魔法で説明できる! 逆に魔法じゃないと違和感があるくらいだぜ!」

「いえ、魔法は使っておりません。儂はあくまで、自分の五感と、記憶を頼りに見つけ出しております」

「へえ、そうなんだー」

「凄い、違和感ゼロですね……」

 

 さりげなく会話に混ざり始めたオリバンダー老人。どんどんエスカレートしていく。

 

「さて、これは如何ですかな。ナナカマドとドラゴンの心臓の琴線、26.5cm、頑固、そして、炎の魔法に適しております」

「炎……」

 

 綾はおそるおそる杖を手に取る。先程のアリスの杖を見て、警戒しているのだろう。綾の杖は灰色で、螺旋のような模様が入っている。誰も居ない方向を向き、杖を振る。

 すると、杖の先端が薄い紅色に光ると、そこから二本の細長い炎が噴き出した。炎は螺旋を描きながら天井へ向かい、あわや激突かと思いきや、天井付近で炎は再び左右に分裂、そのまま燃え尽きた。

 

「な、何? 今の――ど、どういう暗示?」

「ほっほっほ、さあ、どうじゃろうか……何かを暗示してるのかもしれんし、或いは、貴女の心象風景かものう」

「……でも、とても綺麗な魔法だったわ――ありがとうございました」

 

 代金を払い、椅子に戻る。

 

 

[050] 杖の選定 桐間紗路の場合

 

「さあ、お次は誰かね?」

「シャロちゃん――はまだね。ふふ、恥ずかしがり屋さんなんだから」

「そ、そんなんじゃないっての! わ、分かったわ! 私! 次私ね!」

 

 シャロがカウンターへ向かう。そしてお馴染みの操作を行って、オリバンダー老人はやはり店の奥へと消えた。

 

「…………」

「……あの、シャロちゃ――」

「怒ってないし」

「え? あの、いえ、そうではなく」

「怒ってないし」

「……肩にゴミが」

「えっ? あ、本当だ」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

「……本当、怒ってないからね――あんなの、ただの一方的な嫉妬だって分かってるから――私がただ、嫌な奴ってだけだから。別に気にしないでいいわよ」

「……すみません」

「は!? ちょ、何よ!? 何謝ってんの!? やめてよね……別に、あんたは悪いことしてないんだし」

「…………」

「……まあ、悪かったわよ。さっきは言い過ぎた。本当に、ごめんなさい」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

「……もういいですかな?」

「探し終わったんだったらさっさと出てきて下さいよ!? 変な所で空気読まないで下さい!」

 

 カウンターから箱を持ってオリバンダー老人が出てくる。

 

「いえ、多少のユーモアを、と思いましてな」

「じゃあさっきまでのインターラプトは何だったんですか……?」

「それはさておき」

「無視すんな!」

「これが貴女の杖ですぞ。サンザシとドラゴンの心臓の琴線、24.5cm、頑固、呪いを扱うのに最適でもあり、癒しの呪文を扱うのにも、適している」

 

 オリバンダー老人はシャロに杖を手渡す。褐茶色の杖で、柄は花の蕾の形に削られている。シャロは、杖を振る。

 すると、杖全体が灰色に輝き、先端に収縮。そして、先端から二つの光が放たれた。片方は禍々しい黒い色の閃光、もう片方は霧の中のように静かな白さの閃光。放たれると同時に二つはぶつかり合い、灰色の光を放つと、消えた。

 

「この杖は呪いと癒しという、二つの相反する性質を持つ。そして、おのれの内に相反する性質を持つ者に、忠誠を誓う」

「…………」

「心当たりがあるので?」

「無いわ」

「本当に?」

「…無いわよ」

「そうかね?」

「……そうよ」

「そうかね、それは珍しいこともあったものだ。この類の杖は、今まで一度として、相手を間違えたことは無かったのだが」

「…………」

「選び直そうかね?」

「……結構ですわ」

 

 シャロは言うと、代金を払い、足早に椅子に座った。

 

「……ふふ」

「なっ、何よ! 何が可笑しいの!?」

「……図ぼ」

「違うわよ! 違う! 杖が間違えただけよ! もう! からかわないでよねっ!」

 

 

[051] 杖の選定 宇治松千夜の場合

 

「さて、次は誰かね?」

 

 オリバンダー老人が聞く。

 

「萌子ちゃん、行くかしら?」

「い、いえ! 千夜ちゃんが先でいいよ! 私は最後で……」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 千夜はカウンターに向かう。いつもの作業を経て、オリバンダー老人は店の奥へと向かう。

 

「ふふ、どんな杖かしら」

「千夜ちゃんは、こう、仙人さんが持っているような杖が似合いそうですよね!」

「あ、それ私も思った! チヤって凄い和風な雰囲気があるから、仙人の格好が似合うイメージだよね!」

「まあ、嬉しいわ。和風だなんて……うふふ、何なら今度、特性の和菓子を作ってあげましょうか?」

「チヤ、和菓子作れるの!? 食べたい! ねえ、いつ!? いつ作るの!?」

 

 アリスが食いついてきた。日本が好きなアリスは、勿論和菓子も大好物なのだ。

 

「ア、アリス! 食いつきすぎですよ!?」

「そうねえ……みんなホグワーツに行くから、そこで、機会があったら食べましょう」

「わーい!!」

「千夜の和菓子は、まあまあ美味しいわよ。少しだけ保証してあげるわ」

 

 非常に珍しい、シャロのフォロー。

 

「あら、シャロちゃんありがとう! お礼にあとで、青汁のロシアンルーレットしましょう♫」

 

 そしてこの千夜である。恐ろしいのは、純粋に面白いと思って提案しているところであろう。

 

「あはは、お断りよ」

 

「ほう、青汁とは聞き覚えのない飲み物ですな」

「東洋の飲み物です。万人が好いている、とても人気の飲料ですよ」

「嘘教えてんじゃないわよ」

「もう当然のように会話に入って来てるね、オリバンダーさん……」

 

 またも会話に入って来たオリバンダー老人。この人も大概フリーダムである。

 

「そんな貴女には、こんな杖は如何ですかな? ハンノキと一角獣のたてがみ。27cmで、滑りにくい。風の魔法に適している」

「まあ、風の魔法? 素敵だわ!」

 

 千夜は杖を受け取る。黒褐色の杖で、全体的に他の杖よりも丸みを帯びていた。杖を軽く振る。

 杖は光を放つことも、閃光を打ち出すこともなかったが、振った軌跡に沿って、小さなカマイタチが発生、カウンターに切り込みを入れた。

 

「あっ……すいません、オリバンダーさん」

「いえ、よくあることです、ほっほっほ……」

 

 オリバンダー老人は、カウンターの切れ込みを杖でなぞる。すると、杖がなぞった軌跡に沿って、切れ込みがどんどん塞がっていくではないか。最終的に、切れ込みの跡は全くと言っていいほどに消滅した。

 

「貴女も、杖をまだちゃんと制御出来ない状態で無闇に振るのは、控えた方がよさそうですな」

「そうですね……まだまだ未熟ということかしらね」

 

 千夜は代金を払うと、椅子へと戻ってきた。

 

 

[052] 杖の選定 時田萌子の場合

 

「さて、最後は誰ですかな?」

 

 オリバンダー老人が言う。

 

「最後は私だね」

 

 萌子がカウンターへ向かう。毎度の如く例の作業を行い、オリバンダー老人もまた、店の奥へと向かう。

 

「……あ、そうですわ! 和菓子と言えば、モエちゃんもお菓子作りが上手ですのよ!」

「へぇ!? わ、若葉ちゃん!? どうしたの!?」

「あら? 私への挑戦状かしら? いいわよ、何時でも受けて立つわ。挑戦に怖じるのは、武士の恥よ」

 

 突然、戦開幕の狼煙が上がる。

 

「武士の恥? ……いや、ちょっと待ってよ! た、確かに、若葉ちゃんや真魚ちゃん、柴さんよりはマシに作れるかもしれないけれど、特別上手って訳じゃないし……!」

「お? 今何気に私をディスったな? お?」

「それに、和菓子なんて私作ったことないよ! 得意なものといえば、カップケーキくらいで……」

「洋菓子ね! いいわ! 私も加担してあげる!」

 

 ここで唐突なシャロの味方宣言。

 

「シャ、シャロちゃん!? なんで!? 洋菓子なんで!?」

「前からあんたにはぎゃふんと言わせたかったのよ! それがどんな事であれ……ようやくチャンスが回ってきたわ!」

「シャロちゃん――では、私も小萌ちゃんに力をお貸ししましょう! お菓子だけに」

「忍!? なんで!? 忍なんで!?」

「忍ちゃん、そのギャグ寒いよ――本当に!?」

 

 微妙に挟まれた小萌の毒。意外と、毒舌なところがあるのだ。

 

「はい! 私は金髪も好きですが、同じくらい洋菓子も好きなのです! スコーンなら任せて下さい!」

「私が作れるのは、クッキーとハーブティーくらいだけど……でも、多少は足しになる筈よ!」

「シャロちゃん……忍ちゃん……!」

 

 小萌に差し伸べられた二つの救いの手。洋菓子側が人数的には一歩リードだ。

 

「あら……? もしかして、私完全アウェー……?」

「それは違うよ! チヤ! 私は和菓子サイドに付くよ!!」

 

 ここで和菓子好きのイギリス人、アリスが和菓子側に参加表明。

 

「ア、アリス!? どうして!? ア、アリスならこっちに来ると思ったのに!?」

 

「まあ、アリスが宇治松さん側につくのは妥当なところね」

「和菓子の反応見てても、一番嬉しそうに見えたのはアリスだからな」

 

「アリスちゃん、ありがとう――ふふふ……小萌ちゃん、良い気にならんこったのう! このわちき、宇治松千夜を舐めたらいかんぜよ! 必ずやおんしらを打ちのめし、我が名誉の肥やしにしてやるき、覚悟しいや!!」

「チヤが本気モードに!? 口調が全然違うよ!?」

 

「わ、私だって! 何で戦うことになったのかはよく分からないけれど、私には頼れる仲間が2人もいるのよ、絶対に勝ってみせるわ!!」

「そうよ! その意気よ小萌!!」

「西洋の力、東洋連中に見せ付けるのです!!」

 

 和菓子vs洋菓子、開戦決定。詳細は、後の話をお楽しみに。

 

「ところで、貴女方は参加しないのですかな?」

 

 オリバンダー老人が参加表明していない4名に聞く。

 

「ああ。私はコーヒーなら出せるが、お菓子はあまり得意とは言えないからな」

「私も、別に料理がからっきしって訳じゃない……と思うけど、でも、やっぱり自信が……」

「私、卵を割るくらいなら出来ますわ」

「ぼ私はこういう細かい作業は苦手なんだよな。審査側に回るぜ」

「ほほう、それはそれは」

 

 最早違和感無しに会話に溶け込むオリバンダー老人。自由である。

 

「あ、杖でしたね! すいません、ちょっと忘れてて……」

「ほっほっほ、熱中出来るものがあるというのは、実に結構な事ですぞ――ハシバミと一角獣のたてがみ、24cm、握りやすい、手芸の魔法に最適な杖。如何ですかな」

 

 小萌はオリバンダー老人から杖を受け取る。薄い茶色――所謂榛色(はしばみいろ)の杖で、ところどころに黒い小さな斑点が打たれている。

 小萌は杖を振る。すると、杖の先からクリーム色の煙が発生したではないか。今までとはまた違うパターンである。煙は店中に充満し、直ぐに消えた。煙の残り香からはとても甘い香りがした。

 

「なんだか、小萌ちゃんらしい効果ですわね」

「ああ、ほっこりする」

「二人ともそれどういうこと!?」

 

 小萌は困惑しつつも、カウンターに代金を置く。代金はいつも通り、7G。

 

 これにて、全員の杖がついに出揃った。これで、魔女らしい外見作りは、いよいよ終了である。

 

「それは杖が貴女達を選び、貴女達も、その杖を選んだ結果。それは言わば運命とも言えます――杖との絆をしっかりと意識し、その杖を振るいなさい」

 

 オリバンダー老人からの言葉を聞き、9人は店を出た。懐に、それぞれの杖を仕舞って。

 

 

[053] 今話の成果 side 1

 

 【購入したもの】

 

 ・ホグワーツ制服 三着

 ・ドラゴン革の安全手袋 一対

 ・三角帽子 一着

 ・冬用マント 一着

 ・魔法使いの杖 一本




 一万五千字とか疲れるに決まってんだろうが!!(逆ギレ)
 さて、第11話、如何でしたでしょうか? 今回でギスギスした空気が嫌になった方は、是非退散を。この重い空気こそ、私のスタイルですので。それでも読み進めるという方には、勿論、最大級の感謝を。

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