ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 注意事項、今回も長いです。駄文が長いと目も当てられませんが、心に余裕を持ってお読みください。


ホグワーツからの招待状 その2

【第9話】

デビルズ・ディガーティック・フライト

 

 

[028]

 

 ホグワーツ魔法魔術学校。イギリスにおいて最も有名な魔法学校で、ボーバトン、ダームストロングと共に三大魔法学校とも呼ばれている。

 その歴史は遥か彼方に遡る。993年頃、ゴドリック・グリフィンドールを始めとする四人の偉大なる魔法使いによって創立される。魔法使い、魔女に魔法の制御法を教えるのが主である。

 ホグワーツの名簿が何処にあるのか、知るものは少ない。一説では、巨大な塔の頂上に小さな部屋があり、そこに名簿が置かれているという噂があるが、真相は明らかになっていない。

 

 

[029]

 

「ホグワーツ魔法魔術学校……素敵な響きですわ!」

 

 若葉が声を上げる。

 

「それはそうだけど、何で私達に招待状がきたの!?」

「分からんが――しかし、ホグワーツが手違いをするとはとても考えられん! 君達が自分の魔法力を自覚していなかったということしか考えられないぞ!」

「いやいやいやいや、普通に無理だから! 魔法なんてまお達使えないから!」

「魔法を使えるのなら、私達15年間もまともに生活してないからなあ」

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アーサー「15年?」

 

 アーサーは難色を示した。

 

アーサー「君達はどう見ても11歳にしかみえないが」

若葉「ええ、そうですよ」

真魚「何であんなこと言ったんすか柴さん」

直「何でだろうな」

萌子「びっくりするよー」

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「でも、本当に魔法なんて使ったことないよ、私達」

 

 萌子が言う。

 

「いや、魔法使いである子供が魔法力に気付くまでは個人差がある――ホグワーツからの手紙が来るまで魔法力に気付かなかった者は、きっと少なくはないだろう」

 

 アーサーが言う。

 

 しかしながらそれは間違いである。名簿と羽ペンの構造上、自分及び親が一定の魔力を観測出来なければ、頑固な名簿は動

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 実際少なくはない。過去にもそういった事例は多々ある。

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「私達が魔法使いですか……実感湧きませんね」

「マグル産まれの魔法使いも結構居るんだぜ」

 

 フレッドが言う。

「俺たちの先祖だって、元を辿ればマグルなんだからな」

「そうだぜ。純血主義とかぬかしている連中は、この事実を無視してやがる」

 

 ジョージが言う。

 

「絶対にマグルの血が混ざってる訳だからな」

「ふうん、そうなんすか」

 

 真魚が興味無さげに言う。

 

「血云々はどうでもいいけど――まあ、とにかく、入学は入学ってことで割り切ろうよみんな。取り敢えず行ってみれば、合ってるのか間違ってたのかが解るでしょうよ」

「ええ、確かにその通りですわね」

「で、でもさ、もし違ったら? 私達、生きて帰れるの!?」

「さあな、記憶を消されるくらいはされるんじゃないか?」

「ひっ!」

 

「手っ取り早い方法があるぜ」

「ああ、ここで魔法力があるかどうか分かる」

 

 双子が言う。

 

「「杖を買えばいいんだよ」」

 

 

[030]

 

 杖……?

 またもや出てきた新たなワード。杖……所謂あれでしょうか、絵本の魔法使いとかが持っているような、あの細長い棒のことでしょうか?

 

「確かにその通りだな、まともな事も言えるんじゃないかお前ら。ちゃんと脳があったんだな」

「おい、下手なジョークはよせよパーシー」

「チープなジョークはやめろよパーシー」

「五月蝿い!」

 

 ふふふ、こういう会話が平然と出来るのも、兄弟だからなのでしょう。とても面白いですわ。

 

「どっちにしろ、杖は買い物リストに載ってある筈だ――新入生は杖が必須だからね」

 

 しかし、杖ですか……魔法使いっぽいですわね!

 

「じゃあ決まりだな! モリー、ダイアゴン横町にはいつ行く?」

 

 ウィーズリー御夫君が仰られます。

 

「そうね、こういうのは忘れないうちが良いわ、早い方が良い……みんなの都合が良ければ、今日行きましょうか」

 

 ウィーズリー御婦人が仰られます。……あんなに沢山の作業を並行して行っているのは、素直に凄いとしか言えません。私も見習わなければなりませんわ! まずは温めるときの温度を間違えないようにするところから始めませんと……。

 

「ええ、僕は構いませんよ母さん。勉強以外にやることはありませんでしたから」

 

 べ、勉強以外……?

 これは、あれでしょうか。彼はいつも勉強ばかりしているのでしょうか? もしそうだとすれば、頭がおかしくなったりはしないのでしょうか? ああ、私には理解出来ない世界ですわ。

 

「僕達も問題ないぜママ」

「悪戯以外にやることは無いからな」

「年中暇なんすね」

「おい、見くびってもらっちゃ困るぜマオ。僕達は悪戯に命を賭けてるんだ!」

「そうだぜ! 今朝だって、パーシーの眼鏡に『度が強くなる呪い』を掛けてやったんだからな!」

「なっ……! 何か今日眼鏡の調子がおかしいと思ったら……!」

 

「良かったなパーシー、念願の魔法大臣に近付けたな」

「strong glassesだな」

「ああ、実にstrong(権威がある)な眼鏡だ」

「「HAHAHAHA!!」」

「やかましい!!」

 

「よくまあホイホイとジョークが出てくるねえ」

「そこ感心するとこか?」

「ふふふ」

 

 とても微笑ましいです。良いですね、兄弟って。

 

「はい、みんな、出来たわよ! 冷めないうちに食べちゃいなさいな」

 

 出てきたのは、ローストベーコンを挟んだサンドイッチがそれぞれの皿に5つずつと、目玉焼きが一つ。ああ、これこそ庶民の朝食! 実に素晴らしいですわ!!

 

「素晴らしいですわ御婦人!! いつもこのような食事を食べていらっしゃるので!?」

「おっと、スイッチ入ったな」

「若葉ちゃん、こういうの好きだもんね」

「おい、これを素晴らしいだってよ、新手の皮肉か?」

「さあな、東洋人の考えることは良く分かんねーよ」

「箒を焼いちまうような連中だからな」

「あいつら狂ってるぜ」

「箒を焼く? なにそれ」

「知らないのか? クィディッチのチーム・トヨハシテング」

「知らないだろうな、お前らマグル育ちだもんな」

 

 クィディッチ? 何でしょう? 箒? 空を飛ぶのでしょうか? なんとファンタジックな世界でしょう。

 

「クィディッチといえば魔法界が誇る最高のスポーツ! マグルのサッカーとかベースボールなんかとは訳が違うぜ」

「あ、スポーツ! じゃあいいや」

「おいこいつ一瞬で興味なくしやがったぞ」

 

 動くの嫌いですからね、真魚ちゃん……。

 

 それにしても、真魚ちゃん随分と馴染んでいらっしゃる……羨ましいですわ。

 

「やれやれ、食事の時くらい静かに出来ないのかお前らは――ああああああ!!?!?」

「!? どうしたパーシー!?」

 

 !? パーシーさんが急に叫び声をあげました! 手紙に何か入っていたのでしょうか?

 

「か、か、か――か、か、か、監督生バッジだ!! やった!! ぼ――僕、監督生だ!!」

 

 監督生……何でしょう? でも喜んでいるということは、悪いものでは無いということでしょうか。

 

「おいおいマジかよパーシー!?」

「ウッソだろパーシー!? ああ、我が家から監督生が三人も!!」

「我が家の恥だぜ!!」

「ああ、最悪だ!!」

 

 双子さんは喜んでいない様子……悪いことなのでしょうか? ああ、こんがらがってきました!

 

「まあ! パーシー! 監督生だなんて! おめでとうパーシー! 我が家の誇りだわ!」

「凄いぞパーシー! やったな!」

「良かったわねお兄ちゃん!」

 

 他の方は喜んでおります……分かりません、分かりませんわ!?

 

「監督生って何だ?」

 

 柴さんが尋ねます。

 

「監督生っていうのは、生徒の模範となる生徒のことよ! 寮長も任せられるの! ああ、嬉しいわ! 我が家から三人目の監督生!」

 

 御婦人が仰られます。

 

「監督生っていうのは、生徒の見本にされちまう生徒のことさ! 寮長なんかも任されちまうんだ! ああ、悲劇だぜ! 我が家から三人目の監督生!」

「お前らいい加減黙れ!」

「パーシー、ほら、眼鏡出せよ! もっと度を強くしてやる!」

「やめろよ!」

「ほら、パーシー! エロールだ! いい感じにくたびれてて、帽子にしても違和感ゼロだぜ!」

「やめろって!」

「P……あはは! イニシャルPのパーシーさんとPバッジ! お似合いっすね! ははは!」

「だからやめろ!」

 

 真魚ちゃん……あの双子に随分と染まっていますね。

 

「さあ、みんな! 早く食べちゃいなさい! 買うものが一つ増えたわ! 早く行かないと!」

 

 御婦人が急かします。買うものが増えた?

 

「何が増えたの?」

「パーシーの監督生祝いよ! 何にしましょう!」

 

「梟だな」

「ああ、梟だ」

 

「私も梟が良いと思ったのだけれど、貴方達が勧めているのを聞いて、考え直すわ」

 

 

[031]

 

「ふむ……ホグワーツから君達に手紙が届いた。招待状だ」

 

 ゼノフィリウスは、忍たちに手紙を手渡しながら、そういった。

 例によって、彼女達の反応は薄いものだったので、ゼノフィリウスは彼女達に一通り説明した。

 

「……という訳だ、分かったかね?」

「あの、さっぱり分かりません」

 

 綾が言う。

 

「その……ホグワーツって、魔法使いしか行けない学校なんですよね? 何で私達が招待されているんですか?」

「さあな、それは私にも分からん。ダンブルドアに聞いてみなければ、真相は分からんよ……いや、ダンブルドアも知らないか」

「ダンブルドア?」

「ホグワーツの校長だ――最も偉大な魔法使いと呼ばれているお方だよ」

「最も偉大な……」

「まあともかく、ホグワーツの決定には、基本的に間違いはない。手違いということもあるかもしれんが――まあ、可能性は低いだろう」

「で、でも! 私達魔法なんて!」

「その辺は、君達がまだ気付いていないだけだろうな。自分達が魔女であるということを」

 

「いいえ、知ってました」

 

「「「えっ!?」」」「「シノ!?」」

 

 突然の忍のカミングアウト。当然5人は驚愕を隠せない。

 

「シ、シノ!? シノは魔女だったの!?」

「いいえ、私のことは分かりません……ですが、私は知っています――アリスとカレンが、魔女であるということを!!」

「シノ!? 何言ってるの!?」

 

「あ、それなら私も知ってたよ! アリスとカレンちゃん! 魔女だよね!」

「ホノカー、帰ってきてくだサーイ」

 

「わ、私だって! そういうことなら、陽子だって魔女よ!」

「え!? 私!?」

 

「アリスはいつも私の心を揺さぶります……そう、魔性の金髪少女! 略して魔女!」

「今真面目な話してるんだよシノ! 空気読んで!」

 

「いつもカレンちゃんを見ると、心がドキドキするのは何故だろう……それは、カレンちゃんが魔性で、高貴な方だから……!」

「ホノカ、何言ってるんデスか……」

 

「よ、陽子は、そ、そうよ! 魔性! 魔性なの! いっつも私を誘惑してきちゃって! もう! 陽子のバカ!」

「唐突な罵倒!?」

「……le」

「何か言った!?」

「何も言ってないもン」

 

「……こほん」

 

 ゼノフィリウスが咳払いして、場を鎮める。

 

「ともかくだ――まずは君達に、魔女であると自覚させなければならないだろう。という訳で、今からダイアゴン横町に行く」

「ダイアゴン横町?」

「魔法使いが集う場所だ――所謂商店街だな」

「Oh! shopping! shopingデスね!」

「でも、買い物に行ってどうするんですか?」

「手紙の中身を見たまえ」

 

 アリス達は手紙を開ける。そこには、入学を歓迎する旨が書かれていて、入学許可証と羊皮紙二枚が挟まれていた。

 羊皮紙を開けると、そこには、入学までに用意しておくべきもののリストが書かれてあった。

 

「その中に杖とあるだろう? それだ。杖を買うことが出来れば、その人物は魔力を持つという証明になる」

「なんでですか?」

「杖が魔法使いを選ぶから――と、言っておこうか。まあ、詳しい話は店の店主から聞くといい。彼の方が詳しい」

「はあ……」

「さあ、そうと決まれば支度だ支度――ルーナ、お前も来るかい?」

「行くー」

「よし、分かった。トースト、もういいかね?」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 こうして、5人は地獄から幸運にも抜け出すことが出来た――と思ったが。

 

 一方忍。

 

「名残惜しいですね……も、もう一枚下さい!」

 

 やはり、味覚がどうかしているのだろうか、5人の目からハイライトが消えた。

 

 

[032]

 

「あなたたち、支度は出来たわね! 行くわよ!」

「行くわよって言われても、なんで私達暖炉の前に居るんだ」

 

 朝食を食べ終え、準備し終えたウィーズリー一家とプラス居候4人。彼等は釜戸の前に立っていた。

 

「モリー、彼女達は煙突飛行を知らないんだ」

「あら、そうだったわね! 煙突飛行って言うのはね、魔法使いが遠出するときによく使う手段なのよ」

「暖炉を使うのが?」

「ええ。そうね、説明すると――」

「ママ、ここは習うより慣れろの精神でいこうぜ」

「そうだぜ、いちいち説明するのもかったるいだろ?」

「あんた達は知っているからそういう事が言えるのよ!」

 

 モリーを押さえ込み、双子が実演を開始する。

 

「まあ、見てな――まずは、火に向かってこいつを投げ込む」

 フレッドは、花瓶からきらきら光る粉を一つまみ、火の中に振りかけた。すると、先程まで真っ赤になっていた炎が、綺麗なエメラルドグリーンに輝きだし、燃え上がる。

「綺麗……」

 

 萌子が感嘆する。

 

「こいつは煙突飛行粉(フルーパウダー)。煙突飛行するには、まずこいつが必須だ」

 

 ジョージが言う。

 

「次に――ここからが重要だぜ、見とけよ――パーシーを暖炉に投げ込む」

 

「おりゃああっ!!」

 

 フレッドがそう言うや否や、いつの間にかパーシーを掴んでいたジョージは、日本の柔道で言うところの一本背負いでパーシーを投げ飛ばし、暖炉に叩き込む!

 

「な、何いいいい!!?」

「きゃああああっ!!?」

「くっ、お前ら――ダイアゴン横町!!」

 

 パーシーが息も絶え絶えに、しかし最後の言葉だけはしっかりと明瞭な発音で叫ぶと、パーシーの姿が炎の中から消えた。

 

「ま、ざっとこんな感じだ」

「何考えてんのあんたたちはァァァ!!! お兄様を暖炉に投げ込むなんて、なんてことをォォォ!!?」

「大丈夫! 大丈夫だって! パーシーなら大丈夫だよ! あいつ頑丈だし!」

「大丈夫だぜ! それに、ちゃんとダイアゴン横町って発音してたしさ!」

「そういう問題じゃないでしょうがァア!!」

 

 モリーが凄まじい剣幕で怒る。すると、

 

「 お 前 達 」

 

 ドスの効いた声が、双子の背後から聞こえた。

 

「「ひっ!!!」」

 

 双子はゆっくりと、後ろを振り向く。

 

 アーサーが、これ以上ない憤怒の形相で立っていた。

 

「先に行っておいてくれ、モリー。私は二人と話がある」

 

「すいません、本当マジすいません!!」

「悪気は無かった! 悪気は無かったんだパパ!!」

「御慈悲を!!」

「お願いします!!」

 

「 駄 目 だ 」

 

 二人はアーサーに引き摺られるようにして、命乞いをしながら上の階へ消えていった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 場が何とも言えない空気に包まれた。

 

「さ、さあ! それじゃあ、コツを教えるわよ!」

 

 モリーが仕切り直す。

 

「暖炉に入る時のやり方は、概ねあれで合ってるわ――投げ飛ばすのを除いてね――暖炉の火に入ったら、素早く、はっきりと、明確に行きたい場所の名前を言うのよ。今回はダイアゴン横町ね」

「名前を言うだけでそこに行けるんですか!?」

「ふふ、便利でしょう? でも、もし言い間違えたり、つっかえたりしたら、全然違う火格子から出てくることもあるわ。はっきりと言うの。そこさえ気を付ければ、マグルの使う自動車やら地下鉄なんかよりは、ずっと早く着けるわ」

「魔法って凄いんだな」

「ふふ――それじゃあ、誰から行く?」

「はいはいはーい! まおが一番に行くっすー!」

「じゃあ、私はその次でお願いします!」

「私は最後で良いかな」

「じゃあぼ、私は三番目で」

「OK! じゃあ、マオ、やってみて。はっきりと、明確にね」

「ふふん、分かってるってー!」

 

 真魚は、花瓶からフルーパウダーを一つまみして、炎に振りかける。炎がエメラルドグリーンに変わった。一瞬だけ思案顔になり後ろを振り向いたが、誰も居なかったのですぐ前を向いた。「ちえっ」そして、炎の中に飛び込んだ。炎の中は思いの外涼しく、炎がくすぐったかった。「ダイアゴン横町!!」真魚の声が聞こえると、真魚は炎の中から姿を消した。

 

「あいつ、途中で誰か投げ入れようとしてたな」

「馬鹿息子の悪影響を受けてるわ……ごめんなさい」

「いいです、あいつもともとあんななんで」

「さあ、次は私ですわ!」

 

 興奮を隠せずに、若葉が前へ出る。

 

「若葉ちゃん、気をつけてね」

 

 萌子が言う。

 

「はい! じゃあ、行きますわよ!」

 

 若葉は、花瓶からフルーパウダーを一つまみして、炎に振りかける。炎がエメラルドグリーンに変わった。一瞬だけ思案顔になり後ろを振り向いたが、誰も居なかったのですぐ前を向いた。そして、炎の中に飛び込んだ。「ダイアゴン横町!!」若葉の声が聞こえると、若葉は炎の中から姿を消した。

 

「若葉ちゃん……なんで後ろ向いたんだろう」

「ごめんなさい、やっぱりうちの……」

「いえ、多分あいつが影響受けたのは真魚の方なんで――さあ、次は私だ」

 

 直は暖炉の前に出る。

 

「もし失敗して燃えちまったら、私の遺骨はダイアゴン横町に埋めてくれ」

「凄い迷惑だよ!」

 

 直は、花瓶からフルーパウダーを一つまみして、炎に振りかける。炎がエメラルドグリーンに変わった。炎の中に飛び込み、苦しそうに叫ぶ。「ダイアゴン横町!!」直の声が聞こえると、直は炎の中から姿を消した。

 

「凄い苦しそうだったんだけど!? これ、本当に失敗したんじゃ!?」

「大丈夫よ、きっと」

「……よし、最後は私だよ!」

 

 萌子は暖炉の前に立つ。

 

「モエコ、向こうへ行ったら、私が行くまでその場から動かないように伝えて頂戴」

「はい! わかりました!」

 

 萌子は、花瓶からフルーパウダーを一つまみして、炎に振りかける。炎がエメラルドグリーンに変わった。炎の中に飛び込む。口を開くと、大量の煤が一気に口の中に入ってきた。むせ返りそうになったが、必死に抑えて叫ぶ。「ダイアゴン横町!!」萌子の声が聞こえると、萌子は炎の中から姿を消した。

 

 

[033]

 

「うわっ!」

 

 萌子は勢いあまって倒れ込んだ。

 

「いたた……ここは?」

「多分、ダイアゴン横町です」

 

 直の煤を落としながら若葉が言う。

 

「ちゃんと来れたみたいだな」

 

 煤を落とされながら直が言う。

 

「パーシーと真魚も居るし」

 

 直が指差す方を萌子は見る。

 

「その眼鏡度どれくらいなんすかー!? 貸してよー!」

「ええい、触るんじゃあない! 大体、僕は年上だぞ! 少しは敬意を持ってだな!」

「じゃあ貸して下さいよー!」

「駄目だ!」

 

「元気そうだね」

 

 煤を落としながら萌子が言う。

 

「ああ、馬鹿みたいに元気だよ」

「はは……あ、そうだ。モリーおばさんが来るまで、ここを動かないようにって」

「はい、了解しました」

「はいよ」

 

 すると、炎がエメラルドグリーンに光り、赤毛の少女が現れた。ジニーだ。

 

「うわ、みんな煤だらけね」

「お前自分の姿鏡で見てみ?」

「はたいてあげるー」

 

 萌子がジニーの煤を落としていると、隣の暖炉がエメラルドグリーンに燃え上がり、ダークブロンドの少女が現れ、煤を落とし始める。

 暫くそれを見ていると、再び炎が燃え上がり、赤茶色の髪の少女が現れた。

 

「けほっ、けほっ――なんだよこれー! 早いけど苦しいー!」

「そうなの? 私はそんなこと思ったことはあんまり無いな」

「現地人だからそう思うんだよ……出来るだけ二度と使いたくない……」

 

「現地人?」

 

 煤を落とす少女の言葉に、真魚が反応する。

 

「あのー、すいませーん」

 

 真魚が話しかける。

 

「え? 私? あ、はい、何か?」

 

 不意を突かれた少女が答える。

 

「さっき現地人とか言いましたー?」

「え? あ、ああ、言いましたけど――」

 

「お名前をどうぞ」

「は?」

「だから名前っすよ――私は黒川真魚。貴女は?」

 

「い、猪熊陽子だけど」

 

 

[034]

 

「ほらー! やっぱりー!」

「はい!?」

 

 真魚が愉快そうに叫ぶ。

 

「若葉ちゃん、モエちゃん、柴さーん! 居たっすよー! 私達と似たような境遇の人ー!」

「え!?」

「嘘!?」

「何!?」

 

 驚いたように3人が振り向く。

 

「ま、待て待て待て待て! 話が! 話が読めない! 同じ境遇? 何が!?」

「出身地を言いな!」

「それが人に物を頼む態度かよ!?」

 

 炎が燃え上がり、今度はツインテールの少女が現れる。

 

「何よもうー! 魔法って、もっとこう、ロマンチックなものじゃ無いの!? 何でこんな――」

「日本だよ日本! それが何か!?」

「奇遇っすね! まお達も日本出身なんすよ!」

「……陽子、誰? それ」

 

 ツインテールの少女が言う。

 

「おお綾! 助けてくれ! なんか絡まれてるんだ!」

「絡まれてるとはなんと失礼な! まおは同類を見つけて喜んでるだけっすよ!」

「……話が見えないのだけれど」

 

「ユー、突然、気が付いたらイギリスに居たーってかんじじゃないんすか!?」

 

「!?」

「!」

 

「図星ー! 実はもえ達もなんすよー!」

「ちょっと待って、待って、凄い待って、整理させて頂戴、ちょっと待って」

「真魚、そろそろクールダウンしろ、テンションがおかしくなってる」

「はーい」

 

 炎が燃え上がり、金髪の少女と三つ編みの少女が現れた。

 

「九条カレン! 参上デース!」

「カレンちゃん無茶しすぎだよー!」

 

 二人は立ち上がり、煤を払い始める。

 

「カ、カレン、穂乃花! 大変よ! わ、わわわ私達と同じ状況っぽい人達が居るわ!」

「あやや何言ってるデス?」

「まず落ち着け綾!」

「綾ちゃん、どういうこと!?」

「ど、どうもこうも! あ、あの子達よ!」

 

 綾は真魚たちを指差す。

 

「似たような状況がもう一つ……ただ事じゃないんじゃない!?」

 

 綾は叫ぶ。絶賛混乱中であることは言うまでもない。

 

「えっと……え?……あの、貴女達は何者なんですか?」

 

 穂乃花が4人に尋ねる。

 

「名乗るほどの者でもないぜ」

「いや名乗れよ」

 

「私は、小橋若葉と申します。よろしくお願いします」

「あ、ご丁寧に……松原穂乃花と言います。えっと、同じ状況っていうのはどういう?」

「私達、昨日まで日本に居たのですが、色々あってイギリスに来てしまったんです」

「色々ってなに!?――あ、もしかして、あの兎?」

「兎?」

「兎ですよ、ほら。真っ暗闇に包まれた――」

「いえ、存じ上げませんが……」

 

「タイム!」

 

 炎が燃え上がり、中から黒髪の少女と、二人目の金髪少女が現れた。

 

「タイムターイム! 綾ちゃん、違う! 同じ状況でも同じ境遇じゃないよあの子達!」

「そ、そんなこと言われたって!」

「あ、あの、みなさん? どうしたんですか?」

 

 アリスの髪にかかった煤を落としながら、黒髪の少女、即ち忍が言う。

 

「なんか、よく分からないことになってるデス」

「よく分からないこと? 何それ」

「さあ? 私もサッパリデース」

 

 炎が燃え上がり、ひょろりとした赤毛の少年が現れた。

 

「よう、ちゃんと来れたみたいだな――ん? そいつら誰だ?」

 

 フレッドが聞く。

 

「えっと、その……私達と同じ状況の子達……かな?」

「なるほど、わからん」

 

 炎が燃え上がり、ひょろりとした赤毛の少年が現れた。

 

「よう、ちゃんと来れたみたいだな――ん? そいつら誰だ?」

 

 ジョージが聞く。

 

「モエコ達と同じ状況の奴らだってさ」

「何!? ってことは、僕たちと同じく、召喚魔法を使った奴がいるのか!?」

「みたいだぜ」

 

 両者の炎が燃え上がり、片方からは女性が、片方からは男性が現れた。

 

「みんな無事かしら?」

「はい、みんな無事ですよ、母さん」

「おや、パーシーいたのか」

「お前影薄いな」

「黙れ!」

 

「みんな、ルーナ、無事かね?」

「うん、大丈夫だよパパ」

「……おや、Mrs.ウィーズリー! 奇遇ですな、こんなところで会うとは――随分とお子さんが増えましたな……?」

「あら、Mr.ラブグッド――貴方のところ、そんなに娘さんいらっしゃったかしら……?」

 

「…………」

「…………」

 

「Oh ガチっぽいデスね」

「シ、シノ! これって一体!?」

「わ、私にも何がなんだか――」

「同じ状況……っぽいな」

「それなりに証拠は揃ってますしね」

「り、理解が追いつかないよー!」

「でも、それしか考えられないよ!」

「信じられないわね……」

「信じるっすよ! 嘘ついてないっす!」

「逆に嘘っぽく聞こえるぞそれ……」

 

 混乱に包まれる暖炉前。暖炉が燃え上がり、最後の一人が現れた。

 

「ふう、やれやれ、この移動は煤だけが難点だ――何だ、この状況は」

 

 全員何がなんだか分からず固まっている。こんな中に突然放り込まれたアーサーの心境や、如何に。

 

 

[035]

 

 奇妙な邂逅を果たした10人の異邦人。この後、さらに暫く議論が続いたことを、ここに記しておこう。




 はい、そういう訳で、ようやくわかば勢ときんモザ勢の合流です。あと残りはごちうさ勢ですが、彼女たちが合流するのはまた次回の話です。
 ……どこまでこのテンションを保てるでしょうか。

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