美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第八話 日陰者と親友の密談

昼休み、いつものようにC組の友達の元を訪れ昼食を食べたぼくは柴田さんの親友である桐生(きりゅう)さんに「面貸せ」と呼び出され空き教室に来ていた。

まさか女の子から呼び出されるという奇跡のイベントがこんな「ヤンキーに脅されるガリ勉」みたいな感じで消化されることになるとは思わなかったです。

 

桐生さんは大和撫子みたいな容姿で司波さんがいなければ学園一の美少女と言ってもいいくらいの人なんだけど、中身はまるで逆だ。

男っぽい口調にサバサバした物言いで、ぼくなんかよりよっぽどイケメンである。

 

 

 

「お前さー美月のこと好きだろ」

 

「なな何を言ってるのかちょっと分からないかなっ!?」

 

 

空き教室に入ってすぐ鍵を閉めた桐生さんは、ニヤリっと肉食獣のような笑みを浮かべてそう言ってきた。流行りの壁ドンで、である。

 

突然、そんなことを言われば冷静に返すことなんてできるはずがなく、僕は裏返った声でそう答えるのが精一杯だった。

だって、誰にも言ってない密かな想いを言い当てられた上、超絶美少女の桐生さんの顔が超至近距離にあるんだよ!?僕みたいな年齢=彼女いない系の男子ではこうなってしまう。

 

壁ドン……なんて破壊力なんだ!

 

 

「態度でバレバレなんだよ、どんだけ好きですオーラ出してんだ」

 

 

呆れた様子の桐生さんにそう言われれば顔が赤くなってしまう。誰得な反応をしてしまったが許してほしい。

 

 

「……………そんなにかな?」

 

「ああ、違うクラスなのにお前態々昼休みとか美月のクラスくるだろ」

 

 

死にたい。

桐生さん、そういうのは分かってても言わないで欲しいな!

 

 

「…だってそれくらいしか会えるときがないんだよ、クラスが違うって結構壁なんだよ」

 

「このヘタレ、放課後遊びに誘うくらいのことしろよ」

 

 

グサリと心に刺さる。

言葉の暴力ってあると思うんだ。

 

 

このままでは泣かされる、というかもう泣きそうな僕ではあるが、こんな僕でも決意したことがある。

 

 

 

「……テストで柴田さんを越えたら告白しようと思ってる」

 

「そりゃお前かなり難しいだろう、美月はあれでかなり頭が良い上、打倒司波達也!とか言ってかなり燃えてるからな、相当勉強するぜ」

 

「難しくなきゃ意味がないんだよ」

 

 

ぼくが決意を告げれば、桐生さんがザクザクと言葉のナイフをぶん投げてくるが、こればかりは譲れない。そう、難しければ、難しいほど僕の自信に繋がる。自信を持って柴田さんの隣に立てる男になるのだ。

 

ぼくの決意を分かってくれたのか、桐生さんは「仕方ねぇー奴」と呟いて、頭をガシガシと乱暴に掻いた。

 

 

 

「それにしても司波達也か、柴田さん、アイツのこと好きなのかな」

 

 

最近、しょっちゅう一緒にいるのを見かけるし、司波達也はモテる男だ。もし、柴田さんが司波達也を好きだったとしたら僕なんかじゃとても戦えないどころが、勝てるところが一つもない。

 

 

 

「そりゃたぶんねーよ」

 

 

そんな僕の不安を桐生さんは確信を持った口調で否定した。親友の彼女がそう言うのならばきっとそうなのだろう。なんという朗報!俄然やる気が出るというものである。

 

─そんな希望でいっぱいの僕であったが、桐生さんの次の一言で一気に絶望へと落とされる。

 

 

 

「だって美月の恋愛対象女だし」

 

 

 

しばらくフリーズしてしまったのは言葉の意味が理解できなかったからである。

何それ!何その大どんでん返し!

 

 

 

「じゃ、じゃじゃあ、もしかして二人は付き合ってらっしゃったり…!?」

 

 

しょっちゅう一緒にいる二人だ。もしかしてそういうことなのかもしれない、と邪推するのは仕方がないことだと思うのです。

 

 

「アホか!するわけねーだろ!アタシはノーマルだ!蹴り飛ばすぞ!」

 

「もう蹴ってるよ!痛い!痛い!ごめんなさい!じょーだん!ジョークだから!」

 

 

 

顔を真っ赤にした桐生さんにゲシゲシと蹴られる僕。

顔を真っ赤にするところまでは可愛かったのにその後の選択肢が蹴りというのは女の子としてどうなのだろうか。

 

 

 

「たくっ、それで、これを聞いてもまだお前は美月に告白しようってのか?」

 

「えっ?当たり前でしょ?」

 

 

即答だった。

 

だってぼくが柴田さんを好きなことと、柴田さんが女の子を好きなこととでは話が違う。

結局は柴田さんに僕を好きになってもらわなくてはいけない、というだけの話であって、そこに柴田さんの好みは関係ない。女性が好きというのは少々予想外だったけど、例えば柴田さんの好みが運動の出来る男子、だったり、体格の良い男子だったりしたら僕は結局柴田さんの恋愛対象外なのだから。むしろ女の子が好きだと言うのなら、柴田さんが僕以外の男子と付き合う可能性が減るってものだ。

 

 

 

「……そっか、ならアタシが手伝ってやるよ」

 

「えっ!?本当に!?」

 

 

柴田さんの唯一無二の親友である桐生さんが味方になってくれるというのならこれ以上ないくらい心強い。

思わぬ提案に僕はつい桐生さんの肩を掴み、ガタガタと揺らしてしまうが、当然のように鉄拳制裁を行使されその場に崩れ落ちた。

桐生さん、いくらなんでも鳩尾はアカンよ。

 

 

 

 

僕らが協力関係になって数日後、司波深雪さんに告白したという柴田さんの話を聞いて二人で頭を抱えることになる。

 

僕の恋は前途多難である。




佐藤君は今作第一部では準主人公的な感じになりそうです。
番外編的意味合いが強い日陰者シリーズ?ですが第一部後半で大きな役割を果たす……はずです。

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