美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第六十五話 実力チェック①

「摩利、りんちゃん、確保よ」

 

「えっ?えっ?何事?」

 

 

放課後、今日は風紀委員もないということで愛梨と二人ラブラブしながら帰ろう、とありえもしない未来を幻視しながら帰り支度をしていた美月を二人の先輩が拘束した。生徒会長公認の拉致である。

 

 

「お騒がせしてごめんなさいね、それじゃあ、さよなら。皆さんお気をつけて」

 

 

 

唖然とするクラスメイトに笑顔で言うと真由美は、鈴音と摩利に両脇を拘束された美月を連れて颯爽と去っていた。

 

 

「……一体何事よ」

 

 

一人取り残された愛梨が、クラス全員が思っていたことを代弁して呟いた。

 

 

 

 

 

部活連本部で開かれた九校戦準備会合は、始まる前からピリピリとした空気に包まれていた。

試合で活躍すればその生徒にはそれに見合う成績加算が与えられるが、メンバーに選ばれただけでも、長期休暇課題免除、一律A評価の特典が与えられる。

それは選手だけでなく、エンジニアに選ばれた生徒も同様だ。

それだけ学校側にとっても九校戦は重要な行事であり、生徒にとっても九校戦メンバーに選ばれる事は大きなステータスとなる。

 

メンバーの最終調整を目的とする会合が、刺々しく生々しい雰囲気になるのもやむを得ないところだ。

 

そんな刺々しく生々しい雰囲気の中。

着々と会議室の空席が埋まり、全ての空席が埋まろうとしているところで、摩利と鈴音に手を捕まれた状態で美月が混乱した様子で入ってくると、最後尾を歩いていた真由美が議長席に腰を下ろし、皆が、えっどうしたあれ?と困惑している空気を無視して、言う。

 

「それでは、九校戦メンバー選定会議を開始します」

 

 

こうして、既に選手・エンジニアの内定通知を受けている二、三年生のメンバーと、実施競技各部部長、生徒会役員(但し、深雪は生徒会室で緊急時のために留守番中)、部活連執行部、達也と美月のイレギュラーを出席者とする大人数の会議は、疑問と困惑の中、始まった。

 

 

「摩利さん、摩利さん、ぼくなんでここに連れてこられたんですか?というかこれなんですか?」

 

「とりあえず、静かにしておけば大丈夫だ。何、心配はない、全て終わったら話すさ」

 

「いや、それもう時既に遅しの典型ですよね!?」

 

 

美月が疑問を摩利にぶつけている間に、会議は冒頭早くも達也の話題になっていた。

達也に与えられた席が、内定メンバーと同じオブザーバー席だったことが大きな要因だったのだろう。

一年の、それも二科生がいる、となれば話がそこに流れていくことは想像に難しくない。

 

意外にも、上級生の間には、風紀委員としての実績がある達也は二科生と言っても別格だ、という認識が存在するようで好意的な意見もあったが、エンジニア内定に対して、それでも尚、反対意見の方が多い。

それも明確な反対、論理的な反対ではなく、感情的な、消極的な反対である為、余計に、ダラダラといつまでも結論が出ない迷走状態に陥っていた。

 

 

「あれ?達也がいる。何か面倒そうな顔してますけど、これ、あんまり楽しくない系の集まりなんですか?」

 

「あたしには無表情にしか見えんが……まあ楽しくないのは確かだな。特にあいつにとっては」

 

「じゃあ、ぼくにとっては?」

 

「……美月、水でもどうだ?」

 

「なんて露骨な話逸らし!?これ、絶対面倒な奴じゃないですか!」

 

 

美月と摩利が小さな声で言い争っていると、不意に、重々しい克人の声が議場を圧した。

然程大きな声では無かったが、その場の誰もが無秩序な言い合いを止めて、発言者へ目を向けた。

勿論、美月と摩利も例外ではない。

 

それまで沈黙を守っていた克人が、自分に向けられた視線を端から一通り見返して、注目が集まっていることを確かめると、言葉を継いだ。

 

「要するに、司波の技能がどの程度のものか分からない点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば、実際に調整をやらせて、確かめてみるのが一番だろう」

 

広い室内が静まりかえった。

それは単純で効果的で、誰も文句のつけようがない結果が明らかになる反面、少なからぬリスクを伴うが故に、誰も言い出さなかった解決策だった。

 

 

「何なら俺が実験台になるが」

 

 

現在実用に供されているCADは、使用者に合わせて調整しなければならない。十人の魔法師がいれば、同じ機種を使用しても十通りの調整が必要となる。

 

魔法師はCADが展開した起動式を自分の無意識領域へそのまま取り込む。

つまり、魔法師の精神は自分のCADに対して無防備な状態になっている。

 

近年のCADは、起動式の読込を円滑化・高速化するためのチューニング機能を備えており、それだけ使用者の精神に対する影響力が強い。

このチューニングが狂うと、魔法効率の低下から始まって不快感、頭痛、眩暈や吐き気、酷くなると幻覚症状などの精神的ダメージをこうむることになる為、最新・高機能なCADほど精確緻密な調整が必要とされる。

 

実力の定かでない魔工師にCADの調整を任せるということは、魔法師にとって大きなリスクを背負う行為だ。

 

すかさず、達也の推薦者である真由美が代役を申し出た。が、それが現実のものとなることはなかった。

 

 

「いえ、会長、俺にやらせて下さい」

 

 

服部が、それに続いて立候補したからである。

服部と達也の確執は噂程度ではあるが、各所に知られており、ここで服部が立候補したのは意外なことではあったが、もしこれで服部が合格を出したのならば、それは確かな実績となることは明らかだった。

この二人に限って、個人的な友誼に基づく過大評価は有り得ず、そもそも元来真面目な服部の人柄はこの場にいるほとんどの人間が理解していることだったのだから。

 

実験台としてこれほど適切な人間もいないだろう。

 

 

「決まりだな、では服部、司波、準備を頼む」

 

 

服部と達也に言った後、重々しい口調で、車載型の調整機や、九校戦の規格に合わせた調整するCADを会議場に揃える様、手筈を整えている克人に控えめに声がかかる。

 

 

「……あの、これってぼくもやった方が良いですか?今やっと摩利さんから話を聞いて理解したんですけど、ぼくも達也と同じエンジニアに選ばれてるみたいなんですけど」

 

「あ、そうだったわね、みーちゃんのことが後回しになっていたわ。十文字君、こちらの柴田美月さんもエンジニアとして推薦したいのだけど……」

 

 

一年生がエンジニアチームに加わるのは過去に例が無い。美月は一科生ではあったが、達也と同じくイレギュラーであった。

唐突な美月の登場に、美月の人柄を知っている風紀委員の面々が、口々に「いや、無理でしょ」「司波はともかく柴田は……似てるのは名前だけだろ」「学内で迷子になる風紀委員にデバイスを預けるのはちょっと」と、揶揄する。

 

「ちょっと先輩方、酷過ぎませんか!?」

 

「すまん、美月。あたしも同じ事を思っていた」

 

「え!?」

 

こんな様子を見せられて、ようこそエンジニアチームへ!とはならない。本当に大丈夫かよ、という疑惑の眼差しが美月に注がれる。

 

 

「試すなら、俺が実験台になりますよ」

 

 

不穏な空気を打破するように、立候補したのは桐原だった。

 

 

「あ!ワンパン先輩!」

 

「誰がワンパン先輩だ!?お前、俺が今、助けてやったの察せなかったのか!?」

 

「全然!」

 

「すいません、やっぱり止めていいですか!」

 

 

結局、話し合いの結果、美月も実際に調整をやらせるのが手っ取り早いということになり、実験台の役目をすることになった桐原。自分から言い出した手前、後には引けない。男、桐原、勿論、二言はないのだ。

 

 

「お前、マジで頼むぞ」

 

「任せてくださいワンパン先輩!……調整とか自分のとリーナのくらいしかやったことないけど」

 

「すいません、やっぱり止めていいですか!本気で!」

 

「準備が出来た様だな、それでは司波、服部、始めてくれ」

 

 

 

もう一度言おう。

男、桐原に二言はないのである。




――そのころの深雪さん――


(。•́︿•̀。) 深雪「(お兄様はともかく美月は大丈夫なのかしら……)」

(。・_・。)モジモジ 深雪「(もし駄目でも少しくらいは慰めてあげても……)」



(●`ω´●)ムゥ 深雪「(でも最近、リーナにご執心なのよねっ。家にも全然泊まりにこないしっ。あれだけ私に好き好き言ってるのに!)」

(。 >﹏<。)深雪「(やっぱり美月なんて選ばれなければいいんだ!)」






(゜-゜)鈴音「(一回生徒会室に戻るの止めよう)」

見てはいけないものを見た気がして会議に戻る鈴音さんであった。





明日も0時に投稿します。

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