美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
衝撃のリーナ転入決定から数日。
今日は、日曜日ということで、学校はない。とはいえ、いつもなら仕事があるのだけど、今日に限っては完全オフにした。
リーナの転入を祝って、一日デートをすることにしたのだ。
セレネ・ゴールドとしての活動再開はまだしておらず、月柴美としての仕事も最近はセーブしていたから、こんな荒技が出来たのである。
実は転入、と言っても正規の手段ではなく、国が根回しして『交換留学生』として転入するらしいのだ。そのために、転入は大分先になるらしいので、とんだ早とちりではあるのだけど、そんなの関係ない。
だってぼくがデートしたいだけだから!
「ということで、今日は遊びに行きます」
やや持ち方がおかしいものの、しっかり箸で朝食を食べているリーナはぼくの唐突な発言にきょとんとした表情で首を傾げた。つい昨日まで、水波ちゃんにメイド修行をさせられていた様だけど、その疲れは残っていない様だ。
「何がということ、なのかは分からないけど、どこに行くの?」
「まだ決めてない。どこか行きたいとこある?」
実は元々リーナとの親睦を深めるために前々から企画していたこと。都心ならいくらでも見るところはあるし、ここ、と決めずにふらふらするのも良いかもしれないけど、折角ならリーナの行きたいところに行く方が良いだろうと思ったのだ。まあ、リーナはウンウン唸って考えているのだけど。
「あ!そうだミヅキ!ワタシ、秋葉原に行ってみたい!」
「えっアキバ?」
「ええ、ミヅキが学校に行っている間に見てたアニメが結構面白かったから。
そういうのが沢山あるんでしょ?」
ぼくが学校に行っている間、一人でお留守番じゃ暇だろうなって思って、アニメのディスクとか漫画とか沢山用意しておいたのだけど、リーナはアニメが気に入ったみたいで、昨日も夜遅くまで視聴していた。
それに外国人には人気だと言うし、意外にアキバも楽しめるのかもしれない。
「よし、じゃあアキバに決定で!今日はリーナのお祝いということで、リーナの願いを大体叶えてあげようではないか」
「ありがとう、でも大体って、なんか締まらないわね」
「美月さんにもできないことはあるのです」
後にぼくは願いを叶えるなんて言ってしまったことをすこぶる後悔することになる。
◆
「……まあ、こうなりますよね」
最近は、外国人の姿は当たり前になっているとはいえ、リーナの
「メ、メイドさんがいるわ!」
「うん、一応君もリアルメイドさんだからね」
天然というか、どこか残念な美少女という感じが拭えないリーナは、トンチンカンなことを言ってくるが、それがまた可愛いと思う。
「こちら良かったらどうぞ!」
ビラ配りをしているメイドさんのメイド服は、水波ちゃんが着ていたようなしっかりしたものではなく、コスプレの域を出ないものだけど、でもそこがまた良い。
「メイド喫茶?」
「ぼくも行ったことないけど、メイドさんが給仕してくれる喫茶店、なんだと思うよ」
「面白そう!」
「じゃあ、そろそろお昼時だし行ってみようか」
女の子の準備は時間のかかるもの。朝食を食べて、リーナを着飾っていたら結構な時間が経ってしまったのだ。
もっともリーナを着飾るだけならもう少し早く出掛けることも出来たのだけど、今日はデートということでぼくもそこそこオシャレした。
オシャレと言っても、以前お出掛け用の服を深雪に選んでもらっていたから、それを着て、滅多にしないメイクをした、というだけなんだけどね。深雪と特訓したから、リーナと並んでもそこそこ見られるお顔にはなっているはずだ。人にメイクするのは素晴らしいんだよね、女の子の顔を間近で見られるし、無防備な表情をぼくの色に染めていくって感じがして凄く好きだ。まあ、それを深雪に言ったらめっちゃ引かれたのだけど。顔を真っ赤にしていたのが可愛かったです。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
メイド喫茶、というものの存在は知っていたけど、実際にやってきたのは初めて。店内はぼくが想像していた通りの空間で、それは一世紀前の文化が、殆ど姿を変えることなく受け継がれている、ということを意味している。うん、オタク文化って凄い。
「ヤンデレ風オムライスとか、ツンデレカレーとか、良く分からないメニューばかりなのだけど、これってワタシが日本語を読み間違えているわけではないわよね?」
「うん、ぼくもどんなものが出てくるか分からないから……」
メニューがカオス過ぎて、どれを頼んだら良いのか分からなかったけど、リーナはヤンデレ風オムライス、ぼくはツンデレカレーを注文した。他のメニューは、彼女の手料理ドジっ娘風味とか、青春をもう一度セットとか、どんな食べ物が出てくるか全く予想できないものばかりだったからね!
「お待たせいたしました、ご主人様。こちら、ヤンデレ風オムライスとツンデレカレーになります」
出てきたのは、真っ黒なオムライスと真っ赤なカレーだった。オムライスの方はもう卵の生地が黒い上に、何やらどす黒いソースがかかっている。ぼくの注文したカレーは真っ赤で、赤い塊が浮いている。……この赤い塊、ハバネロとかじゃないよね!?ぼく、辛いの得意じゃないんだけど!
「ねぇ……ミヅキ、ちょっと食べてみてよ」
「ちょ、そこはリーナからいってよ!ぼくのガーディアンでしょ!」
なんか良く考えたらリーナ、ガーディアンっぽいこと何もしてないよね!?ぼくの用意したアニメ見て、ぼくの作ったご飯食べて、寝て、朝はぼくが起こしてって……あれ?なんかぼくの方がメイドしてる!?いつの間にか立場逆転してない!?
「うぅ、食べるわよぉ……」
リーナも、自分が仕事してないと自覚していたのか、涙目になりつつも、スプーンでオムライスをすくう。うっ、卵の中のライスまで黒い……リーナ死ぬんじゃないかな?
「はむっ!……ん?美味しい……ちょっとピリッとするけど、それもこのソースと良く合うし、程よい辛みだわ」
意を決した様子で口にしたリーナだったけど、一口食べてみれば、全然美味しかったらしい。目を丸くして、オムライスを口に運んでいる。この様子なら、ぼくのツンデレカレーも酷いことにはならなそうだ。多少辛くったって、カレーなんだから許せる。そんな気持ちで、ぼくは安心して、カレーを口にした。
そして――
「甘っ!?えっ、何これとんでもなく甘いんだけど!」
口に広がったのは、苺。
それは、苺の甘さが濃密に凝縮された、酸味なんて微塵もない甘さの暴力だった。
どうやらこのカレーの正体は、激甘苺カレーだった様だ。カレーに浸かってた赤い塊って苺の果肉だったわけですね!とんだ逆ツンデレだよ!
辛い、と覚悟して口に入れたのに、とんでもなく甘かったからか、不思議と涙が出てきた。これ、カレーの下のライスもハチミツで炊いた様に甘いからね、ここまで甘いといじめだよ!
甘いものは苦手ではないけれど、特別甘党というわけでもないぼくには、この甘さは劇物だった。
ぼくはご主人様命令でリーナにも手伝ってもらいなんとかこの、ツンデレカレーを完食することができた。うぅ、しばらく苺を見たくないよ。
「ご主人様、お食事の後にこのようなサービスがございますが、参加されますか?」
ぼくとリーナが、ツンデレカレーによるダメージをグデーッとしながら回復していると、店員メイドさんが笑顔でメニューの様なものを差し出してきた。
「本日は参加型のイベントで、ご注文頂きましたご主人様に、メイド服を着て記念撮影ができる、メイド体験サービスをおこなっているんです」
差し出されたメニューの様なものには、『メイド体験実施中!プロ並みのカメラ技術を持つメイドさんが張り切って撮っちゃいます♡』と、可愛い文字で描かれていた。
これに反応したのは、まさかのリーナである。
「ミヅキ、ちょっと着てみてよ!」
「え!?ぼく!?」
キラキラとした目でそんな悪魔の提案をしてくるリーナ。あんな、ミニスカートに、ヒラヒラしたものがいっぱい付いた服、着てもらうならともかく、自分が着るだなんて恥ずかしい。
「ワタシのお願い、聞いてくれるんじゃなかったの?」
「うっ……でも大体って言ったじゃん?これは、ほら、その大体の中には含まれないっていうか、範囲外っていうか?ぼくにも出来ることと、出来ないことがあるというか!?」
冷や汗を流しながら、言葉を重ねるぼくに、リーナの目がキラリっと輝いた気がした。
美月さん、大ピンチです。
――店内のメイド達――
( ☆∀☆) メイドA「お客様が引くくらい綺麗ですごい緊張した!もうね、お人形みたいだったよ!」
(*≧∀≦*) メイドB「顔ちっさ!足ほっそ!金髪ドリルツインテご馳走さまです!って感じ」
(*´>ω<) メイドA「隣のお客様もふわふわで可愛いかった。あどけない笑顔とかもうぎゅっとしたい」
(´∀`∩) メイドB「それな。私としてはあの巨乳に加えて、ぼくっ娘という神のイタズラに感謝したい」
(゜ー゜)オイオイ メイドC「おい変態共、鼻血出てるよ」
Σ(゚д゚;)フキフキ メイドA・B「「嘘!?」」
(´・c_・`) メイドC「嘘。ほら、仕事、仕事」
[壁]д・)ボソッ メイドD「……ちょっとメイド服着せてくる」
( ー`дー´)キリッ メイドA・B・C「「「よし、支援する」」」
◆
②に続きます。
九校戦編までに一度、二人のデート回をやりたい、というおまけ的な気持ちで書いていたのですが、文字数が膨れ上がるという現象。
全て、メイドが悪い。