美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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この世には、ポケットに入るモンスターのゲームがあってだね。それは、時間を無限に奪っていくんだ。

じ、次話から本気出すよ!頑張るよ!


第五九話 美月の守護者

USNAの騒動から一週間。

その後、事件についての情報は何もなく、未だ達也が何やらこそこそしている様なので一言言ってやらねば、と思っている。

ここ最近忙しくて、あまりその辺のことを言う機会がなかったのだ。

 

というのも、実は我が家で大事件があったからなのだ。

父が、海外に転勤することになったのである。突然そんなことになって我が家は当然大慌て。父は英語が殆ど話せないから翻訳家である母が父に着いていくことになった。

 

普通、海外への転勤とか、もうずっと前から教えられているものなんじゃないかと思うのだけど、ぼくは父の仕事のことは全く分からないし、そういうこともあるのか、と勝手に納得している。

 

二人が海外へ行くってなって、学校も仕事もあるし、そもそも魔法師であるぼくは海外へなんていけるわけがないから、日本に残ることになったのだけど、そうなると、困るのってむしろ両親の方なんじゃないか、ということに気がついた。

 

この家の家事って殆どぼくがやっていて、母は無類の料理下手、二人で生活とか大丈夫なのだろうか。

 

不安しかないのだけど、まあ、ぼくが生まれる前はそれで暮らしていたんだし、なんとかなるのかな?

 

さて、そんなわけで一人になってしまったぼくであるが、これが案外、そう大変なのものでもなかった。

ただ、一人だと料理するにも作れるものに限りが出てしまうから、そこは残念ではある。一人分の食事だけを作るのにあまり凝ったものを作ろうという気にはならないしね。

そんなことを考えていたから、というわけではないのだろうけど……どうやら同居人が出来るようです。

 

 

 

 

 

 

「ガーディアン?」

 

「ああ、今回の件で、美月にもガーディアンが必要だと、叔母上と考えてな」

 

 

大切な話があるということで、家にやってきた達也が語ったのは、四葉の仕来たりについてだった。

四葉家というのは、何かと恨みを買っている関係で護衛を付ける仕来たりがあるそうなのだけど、その護衛のことをガーディアンと呼ぶらしい。

ちなみに、達也は深雪のガーディアンで、水波ちゃんもいずれはその任を負うことになる様だ。妹の護衛、ってもうシスコン振り切り過ぎて目も当てられない、と思うのはぼくだけだろうか。

 

 

「じゃあ、もしかして水波ちゃんが!?」

 

 

ガーディアンは主人と衣食住を共にして、常に主人を守る、ということだったから、もし水波ちゃんがガーディアンなら、ぼくのハッピーライフが始まるよ!

 

 

「いや、それも検討はしたが、水波はまだ研修中だからな。それに、その話をしたら普通に嫌な顔をされた」

 

「水波ちゃんってもしかして、ぼくのこと本気で嫌いなのかな!?」

 

 

ぼくへの対応が日に日に酷くなっている様な気はしていたけど、まさか本気で嫌われてるの!?

 

 

「そんなことはありませんよ、まあ、多少うざいな、と思うことはありますが」

 

「あるんだ!?それ言っちゃうんだ!?……って水波ちゃん!?」

 

 

あまりにもあんまりな内容につい突っ込んじゃったけど、水波ちゃんいつからそこにいたの!?

というか、メイド服可愛いね!ありがとうございます!

 

 

「美月に付けるガーディアンの教育係が水波でな、初の顔合わせを見届けに来たんだ」

 

「私の初めての後輩ですから、最後まで見届けさせてください。それに少しずつマネージャー業も彼女に引き継いでもらう予定なので、その辺の打ち合わせも美月様としたかったので」

 

ぼくのマネージャーをしているから忘れがちだけど、水波ちゃんは中学生で、今年受験生なんだよね。水波ちゃんのことだから、仕事と勉強の両立ができない、なんてことはないだろうけど、減らせる負担は減らした方が良いに決まってる。

ぼくのマネージャー業の他にも四葉でメイドとして働いていて、ガーディアンになるための訓練もある、というし。こうやって考えると水波ちゃんって、中学生にして働き過ぎというか、社畜というか……より一層優しくしてあげなくちゃな、って思う。

 

 

「な、なんですか、その可哀想なものを見るような目は……気持ち悪いので止めてください」

 

「水波ちゃん、本当にぼくのこと嫌いじゃないよね!?ちょっとうざいだけだよね!?」

 

「さて、どうでしょう」

 

「水波ちゃーん!?」

 

 

完全に水波ちゃんの手のひらの上で転がされているわけだけど、ぼくは水波ちゃんに嫌われるくらいならいくらでも転がれる!そうしていつか、水波ちゃんを香澄ちゃんと泉美ちゃんと並べて、ぼくの妹として愛でてやるっ!

 

 

「水波、そろそろ彼女を紹介した方が良いんじゃないか?」

 

「あ、そうですね。初対面のインパクトを重視して、まだ玄関に待機してもらっていますから。私自身、良いタイミングを見計らってこの部屋に入ってきましたし」

 

「そんな演出別にいらないよ!?いつまで玄関で待たせてるの!?」

 

 

ぼくが達也と話始めてから、優に一時間は経ってるよ!?その間ずっと玄関で放置とか、可哀想でしょ!別に登場にインパクトとか求めてないのに!

 

 

「冗談です。私が入ってきたのは偶然ですし、彼女を放置していたのは、忘れていただけですよ」

 

「それはそれで酷いよね!?」

 

 

この娘どこからどこまでが冗談なのか全く分からないよ!ぼく水波ちゃんの言うこと全部鵜呑みにしているんだからさ!

 

 

「そういう反応をしてくれるところは好きですよ」

 

「ぼくで遊ばないでくれるかな!?」

 

 

くすくす笑いながら、そんなことを言う水波ちゃん。

昔はもうちょっとぼくを敬ってくれていた気がするんだけど、いつからこうなっちゃったの!?いや、元からこんな感じだったかもしれない……。

 

 

「では、流石にそろそろ呼ぶことにしましょう」

 

 

もう水波ちゃんに翻弄されて疲労困憊なんだけど、ここからが本番だったという……。

水波ちゃんじゃないけど、初対面は大切。しっかりしないとね。

 

心なしキリッとした表情を作ったり、身だしなみを整えたりしていると、玄関の方から、水波ちゃんと、ぼくのガーディアンと思われる女の子の声が聞こえてきた。

どんな会話をしているのかは分からないけど、なんとなく、女の子が怒っているようだ、ということは伝わってくる。そりゃ、一時間も放置されたら、怒るよね……。

しばらく口論していたけど、やがて静かになって、水波ちゃんが笑顔で帰って来た。

 

 

「文句を言ってきたので、論破して、正座させてきました」

 

「鬼か!やることがえげつないよ!」

 

 

文句を言われて当然のことをしておいて、正座させるとか、圧倒的パワハラだよ!ぼくは水波ちゃんをそんな娘に育てた覚えはありません!

 

 

「冗談です。論破して泣かせただけで、正座はさせていませんよ、ほら、入ってきてください」

 

「十分以上に鬼だよ!極悪だよ!」

 

 

ぼくは水波ちゃんの鬼畜っぷりに戦慄していて、初め、彼女が部屋へ入ってきたことに気が付かなかった。

 

 

「うぅ、そんなに怒らなくても良いじゃない……」

 

 

そんな情けないことを言いながら、 涙目で落ち込んでいる様子は子供の様ではあるが、そのやや大人びた容姿に歳相応の愛くるしさを与え、彼女の魅力をまた一段と引き上げるためのスパイスとなっていた。

 

 

「ほら、自己紹介をしてください」

 

 

クルクルと巻いた黄金の髪はツインテールに纏められていて、頭に乗せられているレースの付いたカチューシャがティアラに見えるほどに、煌めいている。

そして、その煌めきに負けないくらいの輝きを放つスカイブルーの瞳がその人形の様に整った容姿を神秘的なものへと昇華させて、一つの芸術品として完成させていた。

 

しかし、その類い稀な容姿さえ今のぼくには、霞んでしまう。

 

 

光。

 

 

それは、いつか見た光と同じくらい、ぼくの瞳の中で弾けた。それなのに、頭を駆け巡るイメージは全く違っていて、ぼくの中で新しい絵となって浮かび上がる。

 

ああ、これは、この感覚は、始めて深雪をこの『眼』で見たときと同じ、あの、心の奥の方から濁流のように溢れてくる、興奮と感動。

 

 

 

「久藤アンジェリーナです、本日から美月様のガーディアンとしてこの身を捧げます」

 

 

 

この出会いはきっと、また一つ、ぼくの何かを変えるだろう。

 

高鳴る心臓の音を聞きながら、ぼくはそう確信した。




――四葉家本家某日の出来事――



( ・-・ )水波「今日から貴女の教育係になりました、桜井水波です。貴女には一週間でメイドとして必要な最低限の技能を習得してもらいます」


(-。-;)リーナ「教育係って子供じゃない、ワタシを雇うくらいだし、ヨツバの人材ってそんなに足りてないのかしら」


(#^ω^)イラッ 水波「……そんなことはありませんよ?(こいつ絶対泣かす)」



一時間後には泣かされていたリーナであった。






リーナ降臨!
どうしてこの娘がこんなことになっているのか、あの名字は何なのか、次話以降で明かしていきたいと思います。

それでは、また次話で!

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