美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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ちょいとリアルで事件があったため、急いで書いたので誤字脱字あるかも。



第四十二話 女の戦い~愛梨の初戦~

一色愛梨は既に戦意を喪失しかけていた。

というのも、この十人で帰ることになってすぐに、皆が自己紹介をしたのだが、愛梨が一方的にライバル視している司波深雪が司波達也の妹である、と知ってしまったからだ。

 

近くで見れば見るほど、その美しさは身の毛もよだつ程完成された美だった。

愛梨は自分の容姿が優れていることを自覚していたが、深雪の前では路傍の石が精々だ、と思い知らされる。

今でさえ、一つ一つの所作に思わず見惚れてしまいそうになる自分を自制しなくてはならない程だ。

これほど美しい人間が、自然に生まれてくるなんてことは、とても信じられなかった。

悪魔と取引した、と言われても簡単に信じてしまうだろう。

 

その深雪を妹に持つ、ということは幼少の頃から――実際はそんなことはないのだが――そんな美少女と共に生活してきたということ。

そんな達也が、自分を魅力的だ、と感じることがあるのだろうか、と疑問に思ってしまう。

 

勿論、人間容姿だけが全てではないが、愛梨は現状、その容姿以外の面でも、深雪に劣っていると感じていた。

愛梨がこれまでの人生を費やしてきたもの、魔法で既に敗北を喫しているのだから。

直接対決をしたわけではないが、明確な数字として算出されたデータの上では負けている。

愛梨が思うに、自分が今、深雪に勝っているのは――実際はこれも違うのだが――家柄くらいだった。それは愛梨自身の魅力ではなく、付加価値、そこを達也に評価してもらいたいわけではないのだ。

そうなると、いよいよ深雪より勝っているところが無くなってきた。

 

 

「へー、じゃあ二人は幼馴染みなんだ」

 

「小学校入学以来だから……大体十年の付き合いなのかな」

 

「いいなー、ぼくもほのかちゃんや雫ちゃんみたいな幼馴染みが欲しかったよ」

 

「何故?」

 

「何故って、可愛いからに決まってるじゃん」

 

 

 

愛梨は、ほのかと、そのほのかの友人だという北山雫、という美少女二人を口説いている美月――愛梨にはただ仲良さそうに話しているだけに見えるが深雪にはそう見えた――をしらっとした目で見ている深雪に再度目を向ける。やはり、吸い込まれそうになる意識を、どうにか浮上させ、愛梨は意外な事実、というより、偶然について考える。

 

なんと美月が、司波兄妹と同じ中学校出身だと言うのだ。それも、ドロップキックしても許されるくらいなのだから――実際には全く許されていないが――かなり親密な関係なのだろう。

 

 

「愛梨、どうしたの?目が潤んでるけど……」

 

「ちょっと目に塵が入っただけよ、大丈夫」

 

 

そう、大丈夫。

隣を歩くエイミィに指摘され、目を拭うと、愛梨はそう自分を奮い立たせた。

 

確かに達也の周りには女性の影が多い。

それはこの集団を見ても分かることだ。

 

十人の大所帯だが、その中に達也も含めて男子は二人だけ。残りは愛梨も含めて全員が女子なのだ。

それも、どういうわけか、全員が水準以上の美少女だ。実際、レオは居心地悪そうに最後尾を歩いている。思わぬアクシデントによって下校時間が遅れたとはいえ、駅までの道のりにはまだまだ多くの生徒がいて、その生徒からの視線のせいだ。

これだけの美少女集団が目を引かないわけもなかった。

 

奮い立たせたばかりだというのに、早速折れそうになる愛梨。

深雪を筆頭に、皆美少女。こんな環境で自分をアピールする手段を、愛梨は身につけていなかった。

愛梨には恋愛経験どころが、異性の気を引こうとした経験さえなかったからである。

 

 

「……じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

 

「ええ。お兄様にお任せするのが、一番安心ですから」

 

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いから、CADのメンテに手が掛からない」

 

 

達也は、自然に会話に参加しつつも、件の少女が師補十八家の『一色』である、と知って内心どう対処するべきか焦っていた。

一色家の令嬢が何故一高に入学したのか、何故あのときあんな場所にいたのか、と疑問に思うことは多々あるが、問題は彼女が達也のことを両親に話してしまっているか、ということだ。

 

あの日の出来事、ショッピングタワーでの戦闘も、美月がビルを消し去ったことも、その後の外で待機していたらしい別部隊との戦闘も、四葉が情報を操作しているし、達也自身、何の証拠も残していない自信はあるが、愛梨には顔を見られている。何を言われても人違いだ、でシラを切り通すことは可能だろうが、疑いは残ってしまう。

一色家に、興味を持たれては困る。一色家程の家ならば、他の師補十八家、十師族とも独自のコネクションがあるだろう。

愛梨自身の力は取るに足らなくとも、一色家は警戒するべきだ。

愛梨が、両親に話しているのか、そうでないのか、それによっては対処が変わってくる。

場合によっては四葉の力を借りることも、達也は考えていた。

 

 

「エリカのそれ、武装一体型CADでしょ」

 

「えっ、良くこれがホウキだって分かったわね」

 

「ぼくのCADも武装一体型だから」

 

 

柄の長さに縮めた警棒を、ストラップを持ってクルクル回していたエリカは、目を丸くして驚いた。

少々オーバーリアクション気味ではあるが驚いたのは本当のようだ。

 

 

「美月さんも達也さんに調整をしてもらっているんですか?」

 

「今は自分でやってる、面倒なんだけど、達也がやってくれないから」

 

「美月のCADはかなり特殊なんだ、俺の手には余るよ」

 

 

美月と達也の答えに意外そうな顔をする面々。

 

 

「何、皆ぼくがCADの調整できるとは思わなかったわけ?」

 

「まあ、予想外だったかな」

 

「意外よね」

 

 

エイミィとエリカにそう即答され、美月はがっくりと項垂れる。いきなりドロップキックをかますような少女にそんな繊細なことが出来るとは誰も思わなかったのだ。

 

 

「話戻すようで悪いんだが、それ、何処にシステムを組み込んでるんだ?いくら考えても見当もつかないんだが」

 

レオがエリカのCADを指差して言う。

どうやらずっとそれを考えていたらしい。

 

 

「柄以外は全部空洞で、刻印型の術式で強度を上げてるのよ。ここまで言えばもう分かるんじゃない?硬化魔法は得意分野なんでしょ?」

 

「刻印型って言うと……術式を幾何学紋様化して、感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するって、アレか?そんなモン使ってたら、並みのサイオン量じゃ済まないぜ? よくガス欠にならねえな?そもそも刻印型自体、燃費が悪過ぎってんで、今じゃほとんど使われてねえ術式のはずだぜ」

 

挑発するようにヒントを与えたエリカに、レオは特に反応することなく、自分の考えを口にした。

好奇心がエリカの挑発を受け流すのに一役買ったようだ。

 

「おっ、流石に得意分野。でも残念、もう一歩ね。強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやれば、そんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」

 

先程まで、美月が浴びていたようなものとは違う、感心と呆れ顔がブレンドされた空気の中、居心地悪そうに訊ねたエリカに答えたのは深雪だった。

 

「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ」

 

それは何気ない指摘だったがエリカの強張った顔は、彼女が本気で焦っていることを示していた。

それを察したのかどうかは分からないが、未亜が口にした一言は訳ありの空気を霧散させるには丁度良かった。

 

 

「刻印型術式と言えば、『黄金の錬金術師』セレネ・ゴールドですよね!」

 

「ああ、なんでも何れはトーラス・シルバーと並ぶんじゃないかって噂の」

 

「まあ、ゴールドとか名乗ってるんだし、トーラス・シルバーをライバル視しているのは明らかよね」

 

 

未亜の言葉に、レオとエリカが返すがあまり興味はないようだ。

 

 

「武装一体型CADしか作らないのと、かなり少数しか世に出ないことからトーラス・シルバーより謎が多い魔法工学技師!」

 

未亜のテンションが高いのは気のせいではないだろう。

弾けるようなキラキラとした瞳はレオやエリカとは明らかに熱量が違う。

 

 

「未亜ちゃん、もうその話は良いんじゃないかな!」

 

 

何故か赤面している美月が悶えながら未亜の口を塞いだ。

そんな美月を何故かニヤニヤと見つめる達也と深雪。

 

 

「そうだな、その話はまた後にしたらどうだ?もう駅だ」

 

 

その達也の言葉に未亜は残念そうにしながらも、セレネ・ゴールドの話は後に持ち越すことにしたようだ。

 

そして、駅に着いたことで、各々別れの言葉を発しながら、それぞれキャビネットに乗り込んでいく。

 

ほのかと雫が二人乗り、エイミィ、エリカ、レオ、未亜が四人乗りで、この場を去った。

 

残るのは当然、達也、深雪、美月、愛梨だ。

 

 

――何故だ、とても不味いことになった気がするぞ

 

 

どういうわけか、嫌な予感がする達也。

いつになく不機嫌な深雪。

その深雪に無視されて落ち込んでいる美月。

何かを決意したかのような顔の愛梨。

 

 

彼ら四人の下校が今――始まる。

 




――その頃の生徒会室――


(●`ω´●)ムゥ 真由美「……むぅ」

(; ̄Д ̄)? 服部「会長、どうされたんですか?」

( ̄ω ̄;)摩利「おお、服部刑部少丞範蔵副会長、良いところに来たな」


(*`Д´)ノ!!服部「服部刑部です!」

(* ̄▽ ̄)ノ摩利「ん?そうなのか?まあなんでも良いが、後は任せたぞ」

∑( ̄Д ̄;)服部「えっ?」



(●`ω´●)ムゥ 真由美「……むぅ」

・・・(;´Д`)服部「……俺にどうしろと……」


服部は摩利に真由美を押し付けられ、一人、かつてない危機に陥っていた。

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