美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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サブタイトル、本当に思い付かない時がある……それが今話である。


第四十一話 迂闊

一日の日程を全て終えて、下校。

今日も愛梨とエイミィと一緒に帰れると思うとテンションが上がる。これからも毎日、両手に花とは、なんて薔薇色の高校生活なんだろう。出来れば百合色にしたいところだけど。

 

 

 

「いやー、凄かったね!十文字先輩!」

 

「ええ、流石は十師族。圧倒的だったわ」

 

 

 

エイミィの称賛に、何故か誇らしげに答える愛梨。でも確かにあれは凄かった。

3年C組の授業は野外の戦闘練習場で行われた。

新入生の見学を意識してのことなのか、実技は分かりやすく、簡単なもので、二十メートル先の角柱を、思い思いの魔法で倒すというものだった。

摩利さんは相変わらず格好良く、スマートに決め(このとき響いた黄色い歓声から既に一年生にもファンが多数いる模様)、それ以外の生徒も難なくクリアしていく。

そして、十文字家次期当主にして三巨頭の一人、十文字克人の魔法はその中でも別格だった。……派手さが。

 

 

角柱は十文字先輩の魔法によって根本から抉られ、大きく宙に飛んだ後、何回転もして、地面に刺さった。

いやいや、トラックが激突したみたいな音しましたけど!?やってやったみたいなドヤ顔されてましたけど、次の番の人困ってたから!

 

 

「十文字家のファランクス、攻撃にも防御にも応用が効く、強力な魔法ね」

 

 

十文字家のファランクスは、四系統八種全て含む系統魔法なのだけど、かなり特殊な魔法で、四系統八種、全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出すというとんでも魔法だ。

一応分類は防御用魔法なのだろうけど、今回のように、対物非透過の性質を持った障壁を高速で叩きつけることで、射程は短いものの、攻撃にも応用できる。

 

 

 

「ねぇ、なんか門の前が騒がしくない?」

 

 

エイミィに言われて、意識を前に移すと、そこには当然のように達也がいた。うん、トラブルのあるところに達也あり、だからね。こういう場には必ずいるものだ。深雪と一緒なのに、キレていないところを見ると、そう大問題が起こったというわけでもないのだろう。

 

 

「あれ?愛梨どうかした?」

 

 

突然立ち止まった愛梨は、なんというか、驚愕と、困惑が入り交じったような、微妙な顔をしていて、ぼくの声は届いていないようだった。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

50メートルは離れているだろうから、エイミィには見えていないかもしれないけど、生徒会長である真由美さん、風紀委員長である摩利さんが何やら怒っている様子。何かあったのは間違いない。

 

 

「……入学早々トラブルに巻き込まれるとは……流石ですお兄様……なんてね」

 

 

小さくそう呟いたのは、達也が前に出て、摩利さんと話しているからだ。

しばらく、そうして達也が話した後、一年生と思われる十数人の集団が、真由美さんと摩利さんに頭を下げて、散り散りになっていった。

 

 

「見てこようか?ぼく知り合いがいるんだ」

 

「わ、私も行くわ!」

 

 

妙に強ばった、というか、緊張している様子にどうしたことかと思ったけど、そういえば、愛梨は深雪をライバル視していたんだった。

初の邂逅にやや緊張気味なのだろう。可愛い。

 

 

さて、達也、なんかあったの?

 

と普通に聞きに行ってもいいのだが、それでは面白くない。

どうせなら、派手に格好良く登場したい。

 

 

「というわけで行くぞー!」

 

「え!?」

 

 

ぼくは唖然とする愛梨を置いてけぼりにして、全力で駆け出す。

深雪が正面にいる今、達也は避けられない。

絶好のドロップキック日和(?)だ!

 

 

「たーつーやーくーん!!」

 

 

全力全開のドロップキック!

普通の人間には絶対に出来ないから、一度やってみたかったんだよね。綺麗に決まって、最高に気持ちいいです。

 

 

「お、お兄様!?」

 

「な、何!?奇襲!?さっきの奴が早速仕掛けてきたわけ!?」

 

 

やくもんの所で修行するのは好きじゃなかったから、サボったりもしたけど、こんなこともあろうかと、ドロップキックの練習をしておいて良かった。

サッカーって両足で思いっきり蹴ることないし、面白そうだなって思ったんだよね。

 

 

「ちょっと達也くん!?立って大丈夫なの!?」

 

 

達也は上に乗っていたぼくを乱暴に放り投げて、すぐに立ち上がった。

仮にも婚約者にこの扱いですよ……ま、ぼくも達也にドロップキックしたわけだけど!

 

 

「見た目ほどダメージはないよ」

 

 

本当に、痛くも痒くもない、といった表情で立ち上がって、焦った様子で駆け寄ってきた女子生徒に健在をアピールする達也。

達也はどうでも良いけど、こっちの女子は凄く興味がある。

『眼』で見た限り、かなり身体能力は高いし、相当戦い慣れしてるね。得物は剣、かな。たぶん摩利さんと同門、といっても剣術は圧倒的にこの娘の方が上っぽい。まあそんなどうでも良い情報はシャットアウト、一番重要なのは彼女が美少女である、というその一点だ。

 

 

一高、とんでもない美少女率だ……っ!

 

 

 

()()……貴女、勿論覚悟があってこんなことをしたのよね……?」

 

「ひぃ!?」

 

 

そんなことを考えていたら、一高の美少女筆頭、オンリーワンにしてナンバーワン、深雪がとんでもなくブチギレておりました。

 

 

「お兄様に手を出したんですもの、どうなるかは貴女なら良く分かっていたはずなのだけどね」

 

 

周囲の皆の、あっこいつもう駄目だ、という諦めの視線。薄情者!っと目で訴えるけど、ここにいる人、司波兄妹以外初対面でした。うん、助けて。

 

 

「深雪、皆の前だよ」

 

「はい、お兄様」

 

 

助けてくれたのは達也だった。

達也が一声かければ深雪は取り合えず収まる。

なんだかんだで、やる時はやってくれるんだよ!流石です達也さん!

まあ、深雪の目は未だに怒りに燃えているし、後ほどお仕置きされるのは間違いないんだけどね!

 

 

 

「美月、馬鹿なことは止めろ」

 

「達也なら大丈夫って信じてたのさ」

 

 

ウインクのおまけ付きで答える。

ぼくは自分のやったことに誇りを持ってる。だから後悔していないし、謝らない。

それがぼくの美学なのだ。

芸術家とは時に他人には理解されないものなのである。

 

 

「……俺からの電話一本でお前の仕事の調整は自由自在なんだが」

 

「ごめんなさぁあああい!!達也君!達也さん!達也様!どうかお許しを!もう二度としないから!ちょっとノリとテンションでやっちゃっただけなんだよ!」

 

 

速攻で謝った。

誇り?美学?そんなものありませんが?最初からただのドロップキックですが?何か?

 

ぼくね、やっぱり達也がぼくの仕事の調整をする権限を持っているのは駄目だと思うんだ。

そりゃ、ぼくが()()()()()()()()()都合上、達也が仕事の調整をした方が効率的なのは分かるけど!

やくもんのお寺での修練を一週間くらいバックレた時、罰として達也にとんでもない量の仕事を入れられた。

アニメのキャラクター原案三作品、ゲームのキャラデザ二本分、アニメの劇場版の新キャラとか新衣装とかの諸々デザイン……死ぬわ!スケジュールカレンダーに書ききれない時点で察してよ!無理だよ!何が最悪『再成』を使うだよ、使ったところで精神的疲労は戻らないよ!時間は有限だよ!

 

 

「えーっと、達也くん、もしかしなくても、この娘知り合い?」

 

「ああ、中学校が一緒なんだ」

 

 

明るい髪の美少女が、達也に訊くけど、何かな、その宇宙人を見るような目は。

 

 

「い、今時の高校生の挨拶というのはドロップキックだったんですね……私にできるでしょうか……」

 

「出来なくて良いわよ!そんな挨拶あるわけないでしょ!一世紀前のプロレスラーでもそんな挨拶しないわよ!?」

 

 

オドオドとしながら困ったように、呟く小動物のような美少女。

くっ愛でたい。ぼくの愛でたい衝動が、そう叫んでいる。でも、この場でそんなことをしたらどうなるかくらいぼくにだって分かる。

ここは期を待つんだ。後でエイミィと並べて愛でれば良い。

 

 

「はあ、全く無鉄砲というか後先考えない奴だ」

 

「達也には言われたくないな……」

 

達也がため息混じりにそんなことを言うけど、それはブーメランだと思う。

達也だってかなり無鉄砲だと思うんだけど。

まあ、ここで不満を口にしてもぼくの仕事が増えるだけだから言わないけどね。

 

 

「とりあえず、ここに何時までもいては邪魔なだけだ……行こうか」

 

 

達也のその提案には誰からも異議はない。

校門でどんな騒動があったのか、まだ聞けてないけど、もうそれが解決したのなら、ここにいる意味もないし、当然だろう。

 

――ぼくも愛梨とエイミィを紹介して、一緒に帰ろう

 

ぼくがそう考えたのと、二人が走ってきたのは、ほぼ同時だった。

 

 

ふっ、どうやらぼくたちはもう以心伝心らしい。

 

ぼくは両手を広げて二人を待った。

 

さあ、お姉さんに飛び込んでおいで!

 

 

 

「ちょっと美月!?いきなり何をしているのよ!?」

 

「そうだよ!急に飛び出したと思ったらドロップキックって、アクロバット過ぎるよ!?」

 

 

飛び込んできたのは、二人の文句だけでした。

うん、ですよね。

 

 

 

 

 

 

おやっ、と達也が思ったのは、焦った様子で走ってきた金色――金髪の女子生徒――に見覚えがあったからだ。

達也の記憶力を持ってすれば――達也でなくとも愛梨の容姿は印象に残りやすいものではあるが――僅か数分間行動を共にしただけとはいえ、こうして顔を合わせればそれが同一人物であるかどうかは分かる。

彼女が魔法師であることを、達也は『眼』で確認していたが、こうして一高で再会することになるとは思っていなかった。

いや、彼女が魔法師で、彼女と出会ったのが、都内なのだから、一高に彼女が入学していても、何もおかしなことはない。

 

 

――これは迂闊だったな

 

 

達也の失態である、と言わざるを得ないだろう。

彼女には『分解』を見られている。どのような魔法を使ったのか、正確には分かっていないだろうが、異常な魔法を使うということはバレているのだ。

 

当時は達也も、柄にもなく焦っていた。

彼女のことは気になったものの、名前も名乗っていないことだし、問題ないだろう、と捨て置いてしまったのだ。

 

達也は、初対面を装うべきかどうか、思考を巡らす。

初対面を装って、彼女が達也を覚えていた場合、いらぬ疑惑をかけられ、痛くもない腹を探られると、後が面倒だ。かといって、久し振りだな、と声をかけて、向こうが達也の顔を覚えていなかった場合、完全なやぶ蛇だ。

 

考えた達也は取り合えず知らないふりをすることにした。

彼女から声をかけてきたら、適当に思い出したフリでもすればいい。

そう結論を出したのだ。

 

 

対して愛梨。

愛梨は、一目で、それこそぼんやりとしか見えない程遠くからでも、それがあの日出会った『司波達也』である、と確信した。

しかし、それを達也本人に知られるわけにはいかない。

愛梨はあくまで、達也と一高で再会したのは偶然である、と思わせたかったのだ。

達也を追いかけて一高に入学した、なんてことは絶対にバレたくなかったし、恋心を抱いていることも、今はまだ知られたくない。

で、あるのなら、ここは達也の顔を見て、何かを思い出したかのような表情を見せた後、あの日のお礼を言えば良い。いや、ここでお礼をすると、彼が、恐らく友人と思われる周囲の生徒から疑問を持たれてしまうだろう。……それを口実にして二人きりになって、そこでお礼を言って、あわよくばアプローチの一つでもかけられるかもしれない。

もし、向こうが覚えていて、声をかけてくれたとしても、お礼を言うために二人きりにはなれる。

 

私ならできる、と自分に暗示をかけて、いざ行こう――と、したところで、美月が達也に見事なドロップキックをかますものだから、そんな愛梨の作戦は全部吹き飛んだ。

 

 

「ちょっと美月!?いきなり何をしているのよ!?」

 

愛梨の発言には二種類の意味が込められていた。

いきなりドロップキックなんて何をしているのか、と、私の初恋の人になんてことをしているんだ、の二種類だ。

 

 

「そうだよ!急に飛び出したと思ったらドロップキックって、アクロバット過ぎるよ!?」

 

 

五十メートルはあったであろう距離から助走をつけての全力ドロップキック、良く達也はピンピンしているな、と思うのと同時に美月の動きに驚愕しているエイミィ。

とんでもない速さで駆け出したと思ったら砲弾のようにドロップキックだ、唖然としてしばらく固まってしまった。

 

 

「格好良く登場しようと思って」

 

「なるほどね!」

 

 

格好良く=ドロップキック、という結論に何故至ったのか甚だ疑問だったが、まあ美月ならそういうこともあるか、とエイミィは納得したようで頷いている。まだ短い付き合いだというのに、この思考回路を理解できるのは、エイミィもまた同じような考えを持っているからなのか、と愛梨は自分の思考を疑った。

どう考えても、ドロップキックとは日常で使われるようなものではなかった。

 

 

「美月、そちらはお友だちかしら?」

 

 

美しい笑みを浮かべる深雪に、何故か、凍えるような吹雪を幻視したのは、愛梨だけではなかっただろう。

現に、この場の全員が少し、美月から距離を取ったのだから。

 

 

「え、そうだけど……」

 

「そう、凄いじゃない、もうお友だちが出来るなんて」

 

「あ、ありがとう?」

 

 

訳も分からず、お礼を言った美月に、プイッと顔を背ける深雪。

美月には、何故深雪が怒っているのか分からなかった。まださっきの怒りを引きずっているのかとも思ったが、どうも違うらしい。

助けを求めるように、達也を見るが、どうにもならん、と見捨てられた。お手上げである。

 

しかし、どうにもならない、と美月に目で訴えた達也だったが、とりあえず状況を変えることにしたらしい。

 

 

「……さっきも言ったが、ここにいても邪魔なだけだから、帰りながら話さないか?」

 

 

深雪が達也の意見を否定するわけもなく、黙って達也の隣につく。

そうすれば、他の面々はどこか安心したように、各々達也の意見に賛成した。

 

かくして一行は、十人にメンバーを増やし、やっと帰路についたのだった。

 

 

――さて、どうしたものか

 

 

達也は、深雪と愛梨を見て入学早々山積みの問題にどう対処するべきか考えて、またため息を吐きそうになる。

とりあえず、腹いせに、こっそり美月の仕事を増やすことを決意した。





(*´Д`)=3ハァ・・・真由美「あーあ、結局今日はみーちゃんに会えなかったわ。見学も私のクラスに来てくれなかったし」

(°∀° )ニヤニヤ 摩利「それは残念だったな、美月は昼休みに私がC組に誘っておいた」

∑(`□´/)/ 真由美「なっ、ずるい!反則よ!」

(;´∀`)摩利「反則って……別にルールがあるわけでもないだろ」

ヾ(。`Д´。)ノ真由美「そうだけど、反則なの!」

(* ̄▽ ̄)ノ”ナデナデ摩利「分かったから、そんなにムキになるな、美月もここの生徒になったのだから、何時でも会えるだろ」

(。 >﹏<。)真由美「むう、そうなんだけど、そういうことじゃないの!」



この後、真由美の機嫌を直すために、四苦八苦することになる、摩利であった。

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