美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第二十九話 クラウド・ボール

九校戦二日目の朝。

人生で初めて泊まった、高級ホテルの良い部屋で気持ち良く目覚めたぼくは焦っていた。

 

昨日はあの後、摩利さん達に会場の駐車場まで送ってもらい、そこで待機していた四葉の車に乗ってホテルへ。

 

チェックインとかの手続きは全部四葉の執事さんがやってくれたからぼくは何もやることなく、ホテルの部屋に案内され、案内された部屋の豪華さに若干引きながらも、真夜さんにお礼の電話をして、部屋に運び込まれてきた夕飯(というよりもディナー?)を食べ、明日に胸を膨らませながら(物理的にはもうこれ以上膨らんでほしくないが)一人で寝るには大きすぎるベッドで就寝したのだ。

 

さて、ぼくは一つ間違いを犯した。

それはぼくが就寝したのはホテルの部屋で、いつものぼくの部屋ではないということだ。

 

つまりここには、いつも決まった時間に「お腹が減った、今日の朝御飯は?」とぼくを起こしてくる母がいないわけで、そのせいで目覚まし時計を使うという習慣のなかったぼくは、当然のように昨日も目覚まし時計をセットしてはおらず。

 

 

簡単に言うと……寝坊した。

 

 

 

 

 

 

大急ぎで着替えて、朝の身支度をして、迎えに来てくれた四葉の車に乗り込んで会場に到着。

目の前にある会場の入り口には腕をくんでお怒りの摩利さんが……。

 

 

「なあ美月、私の時計が正確であるならば今はもう十一時なわけだが……集合時間は何時だった?」

 

「寝坊しました、テヘペロ」

 

 

ヒクヒクと顔を引きつらせながらぼくに聞く摩利さん。ぼくは言い訳もせずに正々堂々遅刻した理由を話した。勿論、謝罪のテヘペロも忘れずにね。

 

 

 

「よーし、お前はここに置いていく」

 

「ごめんなさぁぁああい!ぼく、ここに置いていかれたらまた迷子センター送りだから!子供達からの生温かい視線に晒されて情けなさで死にたくなっちゃうから!」

 

 

無表情でぼくを置いていこうとする摩利さんにしがみつく。

もう迷子センターは嫌だ!

あの空間はツラいよ、地獄だよ!

アメあげるから元気だしなよ、なんて小学生に励まされた時は泣きそうになったね!

人の優しさと、ぼくの情けなさでね!

 

 

 

「はぁ……私は引き受けたことを心底後悔しているよ」

 

「酷い」

 

「正当な評価だ!」

 

 

頭が痛い……と摩利さん。

ぼくが体調不良ですか?しっかり寝た方が良いんじゃ?と心配してあげたのに、何故か怒られた。

 

誰のせいだ!とか、お前はしっかり寝すぎだ!とか。

そんなに怒ってて疲れないのだろうか?

 

 

「くっ、真由美もとんだ問題児を押し付けてくれたものだ」

 

「あっ摩利さん、ぼくちょっとあっちの出店見てきます!」

 

「一人で動くな!全く……もう迷子にするところだった」

 

「あのくらいなら迷子になりませんよ……」

 

「信用ならん!」

 

 

二回も迷子になっているとはいえ、流石に目と鼻の先にある店に行くのに迷子になったりはしない。

摩利さんにはバッサリ斬られたけど。

 

 

 

「手を出せ、一人にしとくといつの間にか消えてそうだ」

 

「えー、なんか子供みたいで恥ずかしいんですけど……」

 

「うるさい、もう真由美の競技は始まっているんだ。つべこべ言わずに行くぞ」

 

 

ちょっと強引にぼくの手を掴むと、人混みを掻き分けるようにして進む摩利さん。

ぼくへの信用が微塵もない……。

 

 

信用は後で取り戻す(最初からないかもだけど)として、今はとりあえず、摩利さんの手をにぎにぎしておこう。

 

 

 

 

 

 

「摩利さん、美月さん!合流できたんですね!」

 

「良かった……まだお姉さまの決勝はこれからです!」

 

「ふぅ……なんとか決勝には間に合ったか」

 

 

最初は摩利さんと一緒に会場の入り口でぼくを待っていてくれていたようなのだけど、真由美さんの競技が始まってしまうというわけで、摩利さんが先に行かせたようなのだ。

それにしても、クラウド・ボール、もう決勝戦……真由美さんごめんなさい!ついでに摩利さんも!

 

 

 

「ここまでお姉さまは全試合無失点、ストレートで勝ち進んでおります」

 

「なんだかいつも以上に調子良いみたいですし」

 

 

 

クラウド・ボールは完全対戦型の競技で、女子は一セット三分の三セットマッチ。

制限時間内に二十秒ごとにシューターから射出され追加されるボールを、ラケットか魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う競技だ。

 

 

 

「あっ、お姉ちゃんが出てきた!」

 

 

透明な壁で覆われたコートの中に、真由美さんが登場すると共に沸き上がる声援。

いよいよ(といってもぼくにとっては一試合目)この女子クラウド・ボール、決勝戦が始まる。

真由美さん、テニスウェアっぽいポロシャツにヒラヒラのスコート姿なんて……またファンを増やす気ですか!可愛いです!

 

 

「負けるとは思っていないが……まあ見ていてやるか」

 

「何をツンデレてるんですか」

 

「誰がツンデレだ!止めろ!ニヤニヤするな!」

 

 

 

否定しているけど、赤くなった頬は正直。

摩利さんの新たなる萌えポイントを発見した。

 

 

「始まりますね」

 

 

そして、ぼくが摩利さんとイチャイチャしている間に、競技はスタートした。

 

 

「圧倒的だな」

 

 

真由美さんは試合が始まってから一歩も動かない。

両手で持ったCADを胸の前で構え、コートの中央に立っているだけ。

 

しかし、真由美さんのコートにボールが落ちることはない。

ボールがネットを越え、真由美さんのサイドに入った瞬間、ボールが反転し、倍ほどのスピードで相手サイドに返っていくからだ。

堂々と、ただ相手からのボールを魔法で打ち返す。

 

 

 

真由美さんは、その後も相手選手を寄せ付けることなく、全試合無失点ストレートという完全無欠な結果で優勝を飾った。

 

 

 

真由美さん、格好良すぎるよ!

 

 

 

 

 




─そのころの真夜さん─


(´・д・`)真夜「……今日も暇だわ」


(;・ω・)真夜「水波ちゃん、今日こそゲームを……仕事が忙しい?美月さんと連絡が取れない?美月さんなら今、九校戦を観戦しているはずよ」


Σ(;´□`;)エッ 真夜「えっ?水波ちゃん今、役立たずが部屋で寝てろ邪魔だからって聞こえたのだけど」


(;´▽`)真夜「そうよね、気のせいよね、ごめんなさい、お仕事頑張ってね」







(つд;*)真夜「……私って当主よね?」


自分の部屋に戻った真夜は部屋の隅で落ち込んでいたという。

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