美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第二十六話 スピード・シューティング

九校戦初日、今日は開会式の後すぐに真由美さんが出場する競技、スピードシューティングだ。

開会式は来賓挨拶とかあんまりなくて、わりとあっさりと終わったから良かった。九校それぞれに違う校歌があるみたいでそれを聴いているのは意外と楽しかったし。

それに……。

 

 

「……真夜さん、もしかして暇だったり?」

 

 

 

一人じゃない、というのはとても良いことだ。

ぼくの隣には日傘をさして優雅に腰掛ける真夜さんがいるのである。

 

 

 

「ひ、暇ではないわよ?ただ十師族として若い芽を今の内から見ておくのも悪くないと思ったから」

 

「じゅっしぞく?」

 

 

「……日本で最強の魔法師の家系なのだけど」

 

 

「達也が別に覚えなくていいって……」

 

「……そう」

 

 

ちょっと涙目の真夜さん可愛い。

どうやら四葉家というのは十師族とかいう家系の一つみたいで結構すごいらしい。十師族ってくらいだからたぶん十家しか存在しないのだろうし。

うん、益々真夜さん呑気にこんなところにいて大丈夫なのだろうか。

 

 

「ほ、ほらスピード・シューティングが始まるわよ」

 

 

ぼくのジトッとした目に気がついたのか、焦ったようにそう言う真夜さん。

実際、競技が始まるところだったので、真夜さん弄りはこのくらいにして、試合に集中することにした。

 

しっかり観戦できるように、ルールは確認済みなのだ。

 

スピードシューティングは『早撃ち』とも呼ばれる、規定エリア内に射出されたクレーを魔法で破壊する競技だ。

予選は、制限時間の5分間に打ち出される100個のクレーを破壊した数で競うスコア戦で、上位8人による準々決勝からは、紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色のクレーを破壊し、破壊した数を競う対戦型。

 

ルールは簡単なので、この競技のことを全く知らなかったぼくでも十分楽しめそうだ。

 

 

「なんか最前列の方にアイドルのファンみたいな人達がいっぱいいるんですけど……」

 

 

というか良く見たら皆着ている法被に『MAYUMi』って書いてあるんだけど……まさかね。

 

 

「ああ、きっと七草の長女のファンね。『妖精姫』やら『エルフィン・スナイパー』やらと随分騒がれているようだから」

 

 

そのまさかでした!

いや、そりゃ真由美さんは美人だよ?可愛いよ?でもこんなアイドルのファンみたいな人達がいるなんて思わないじゃない!ぼくだけのアイドルでいて欲しいじゃない!

 

 

 

「同じ十師族としてお手並み拝見ね」

 

 

七草って十師族だったんですね!

もしかして十師族って一から十までの数字で名字が構成されているとか、そんなことないよね?

 

 

 

「まあ、深雪さんには及ばないでしょうけど」

 

 

そしてなんか真夜さん対抗意識を燃やしてらっしゃる!?四葉と七草って仲悪いの!?同じ草系でキャラ被ってるじゃん!とかそういう感じなの!?

 

これは、今日ぼくが真由美さんを応援しにきたことは内緒にしておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

真由美さんの試技が始まると同時に騒がしかった観客が一斉に静まった。

ここまで何人かの試技を見ていたけど、やはり真由美さんの人気は別格のようだ。

空中を高速で飛ぶ標的を撃ち落とすという競技の性質上、階段構造になっている観客席の後列の方が見やすいはずなのに、真由美さんのファンは少しでも近くで真由美さんを見ようと、前列の方に固まっているのだから。

 

 

たしかに、スピード・シューティングのユニフォームなのであろう、ミニワンピースのような詰め襟ジャケットにヘッドセットと透明なゴーグルを付けている真由美さんは一見の価値があるけれど、それでいいのかファン達よ。本当のファンならば真由美さんの試合を騒ぎ立てるのではなく、静かに見守ることこそが重要なのではないのか。

で、あるならば試合内容をより把握しやすい後列に座るべきなのだ。

 

 

 

「パーフェクト。まあこのくらいは十師族としては当然の結果よね」

 

 

 

五分の試技時間はあっという間だった。

次々と不規則な間隔で撃ち出されるクレーを真由美さんは慌てることなく、一つずつ確実に撃ち抜いていった。結果は文句なしのパーフェクト。

 

ぼくのハートも撃ち抜かれました。

 

 

「ドライアイスの亜音速弾を知覚系の魔法を併用して百回……一発も外さないなんて格好良すぎる!」

 

「……良く分かったわね」

 

見えて(・・・)ましたから。ドライ・ブリザードもマルチスコープも」

 

 

格好良すぎて思わず叫んでしまった。

真夜さんにはぼくが真由美さんの応援で来たことは内緒にする方針なのだから適当に誤魔化さないと。

 

 

「ぼくも魔法の勉強をしてますからね、メジャーな魔法は大体覚えさせられましたよ。さっき見えた感じに該当する魔法はその二つで、たぶんドライ・ブリザードは原型を工夫して使っていたのではないかと」

 

 

マルチスコープは実体物をマルチアングルで知覚できる魔法だから、効率がいいドライ・ブリザードとの組み合わせであの精密な百回もの射撃を可能にしているんだろうと名探偵美月さんは予想している。

 

 

 

「それだと、手に入れた情報の処理が大変になってしまうけど……マルチサイトの訓練を積んでいたのなら可能ね」

 

 

 

その辺は良く分からないけど、とにかく真由美さんが格好良すぎてヤバい。女性ファンもいるのが頷けるよ。

 

 

 

 

「美月さんごめんなさいね、とても残念なのだけど、私忙しくて、ここまでしかご一緒できないの」

 

 

スピード・シューティングの予選が終わると、日傘をくるくると回しながら、やけに"忙しくて"を強調して、本当に残念そうな顔で謝る真夜さん。

 

からかうと、可愛い反応をしてくれるので、是非この後も一緒に観戦したかったけど、仕方がない。

 

 

「朝と同じ場所に車を待機させておくから、帰りはそれでホテルまで送ってもらいなさいね」

 

 

真夜さんは、しょぼんとしていたぼくの頭を一撫でして、どこからともかく現れたボディーガードと共にこの場を去っていった。

 

 

一人になっちゃったけど、次は女子バトルボードを観戦しようと思う。

 

水着女子……拝ませてもらおうか!

 

 

バトルボードの選手が着る水着が全くと言って良いほどに露出のないものであったことを知らなかったぼくは、一人、意気揚々とバトルボードの会場へと向かったのだった。

 

 




─そのころの薫さん─


(*`Λ´*)薫「服選びって、アタシ来る意味あったか?(これってデートなのか!?そうなのか!?誰かアタシに教えてくれ!)」

( ̄▽ ̄;)アハハ… 佐藤「僕のセンス壊滅的だからね(というか、桐生さんが来てくれないと意味がないんだけど)」


薫が美月の誘いを断ったのには実はこんな理由があったのでした。





┃壁┃д ̄) 達也「あいつも上手くやっているようだな」


そして、仕事帰りの達也さんは精霊の眼を無駄遣いしていた。






フライング九校戦編……中々カオスになりそうな予感。

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