美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
最近、とても嬉しいことがあった。
相変わらず、放課後は達也によってフォア・リーブス・テクノロジーへと連行され、魔法漬けの毎日だったのだけど、母が無限に仕事を持ってくるため仕事が忙しすぎて無理だと愚痴ると達也の魔法授業がしばらく休みになった後、マネージャーが派遣されてきた。
桜井水波ちゃんというのだけど、とにかく可愛い。ぼくより一つ年下で中学二年生なんだけど、落ちついたちょっとクールなところが良い。
なんでも、将来的には四葉家が援助している企業でマネージャー業をやりたいらしく中学生のうちから勉強をしているんだとか。
ぼくが大変だと知った達也が、四葉に相談してくれたようなのだ。水波ちゃんのお給料は四葉から支給されてるからぼくに負担はない上に、可愛い。
そして水波ちゃんは可愛いだけじゃなくて、仕事もできる。マネージャーと言っても水波ちゃんの仕事は母が受けてきた仕事の調整で、母が今まで同様大量の仕事を受けてきているのに、調節が絶妙で前よりは全然楽だ。
水波ちゃんと直接会えるのは二週間に一回くらいなのだけど仲良くしたい。頭を撫でたりして愛でたい。
そんなわけで、今日はその水波ちゃんと会える日なのだけど……なんか、黒い車に拉致されました。
「少し急ぎの仕事があったので、お迎えに」
二週間振りの水波ちゃんがその車には乗っていて、ぼくは拉致されたわけではないというのがすぐに分かるんだけどね。
でも普通、学校が終わって帰ろうと正門を出たところで、目の前に黒い車が止まり、そこから出てきた黒いスーツの人たちに囲まれて、そのまま車に乗せられたら、拉致されたと思うよね!
怖かった!軽く泣きそうになったよ!
「水波ちゃん、そういうことはもっと早く言おうよ!こんな拉致みたいなことしなくてもさ!」
「達也様から『確実に逃げるからギリギリで拉致するように』と」
「達也さん!?えっ、水波ちゃんどんな仕事なの!?ぼくが逃げるような仕事なの!?」
「いえ、ただ少しパーティーに出席していただければ」
「降ろして!ぼく帰る!」
パーティー。
水波ちゃんの言うパーティーというのは一家族が行うようなホームパーティーではなく、著名人が集うヤバそうなパーティーだろう。
前に達也が、四葉の叔母さんがそういうパーティーに出席して礼儀作法や立ち振舞いを今のうちから覚えてさせておくよう言われた、みたいなこと言ってたから全力で拒否しておいたのに!
なんでも四葉家の人間になったらそういうパーティーに出席する機会もそう少なくないようだけど、そんなのなってから考えれば良いじゃない!
きっと大人のぼくが何とかしてくれるから、今じゃなくていいよね!
ぼくが水波ちゃんにそんなことを熱弁すると、意外とあっさり降ろしてくれた。
流石水波ちゃん!可愛いよ!
「では、ここで一旦ドレスに着替えて頂きます」
違った!ぼくの話なんて一ミリも聞いてなかったよ!
水波ちゃんの一言で、黒服たちによって無理矢理とあるホテルの一室に運ばれると、そこには沢山のきらびやかなドレスや宝飾品が……えっこれぼくがつけるんですか?
何も分からないまま、水波ちゃんと、なんかコーディネーター?みたいな人の手によって着替えさせられ、メイクされ、髪型もなんか良い感じにさせられて、再び車へ。
この間、驚異の三十分。
そして、目的地であるらしい豪華な洋風の邸宅の近くに到着した。
「それではこの招待状を持ってあちらへ向かってください。
時間になりましたらお迎えに上がりますのでご心配なく」
「心配しかないよ!えっここからぼく一人で行くの!?」
ぼくの心からの叫びを、水波ちゃんは心底冷たい目で一蹴。
「当たり前じゃないですか。『月芝 美』の仕事なんですから」
ぼくをその場に放置して、さっさと帰ってしまった。
どうすればいいのさ、この状況……。
◆
七草真由美の周りに美月のような人はいなかった。
元々、十師族というお堅い家柄に生まれたこともあり、真由美のまわりに集まるのは自然、『お嬢様』なことが多い。高校に入ってからは、渡辺磨利という、お嬢様とは程遠い(褒めている)親友にも出会え、そんなこともなくなっているのかもしれないが、こうした社交的な場となれば話は別だ。
やはり、こういった場にくる子供というのは、誰も彼もが所謂『良いところの子供』であり、将来への糧、交遊関係の拡張など、目的を持ってやってきている。
そして皆が自分を七草真由美としてではなく、十師族の、『七草の長女』として見てくるのだ。
それが当たり前であり、当然。
責任ある立場に生まれ、いずれは七草を背負う者としての自覚はあるし、理解もしている。
が、それでもこういったパーティーは好きにはなれなかった。
作られた笑みに、作られた笑みで返し、腹と腹の探り合いに疲弊するだけ。
今日もまた、この退屈で憂鬱なパーティーを七草主催であるが故に壁の華となることもできずに、七草の長女としての責任を果たすため耐え抜かねばならない。
内心ため息を吐きながらも、表面上は笑顔で未成年組のために用意されているジュースの入ったグラスを傾ける。
喉を潤す柑橘系のジュースの僅かな酸味が気付けには丁度良い。まだまだ続くパーティーにこのままの調子で挑むことはできない。
七草の長女として無様を晒すわけにはいかないのだから。
真由美は気合いを入れ直し、会場全体へと目を向ける。
そこで偶然目に入ったのが柴田美月だった。
このパーティーに参加しているのは、日本で権力を持つ家の者ばかりであり、真由美は全員の顔と名前をほとんど漏れなく覚えている。その程度のことが出来なくては十師族の一家、七草の長女としては落第だ。
その真由美が全く知らない顔。
真由美の頭にいくつかの可能性が浮かぶ。
どこの家の娘には会ったことがない、そういえばあの家の娘が……等々、考えれば可能性はいくらでもある。
しかし、どこの家の者であれ、顔繋ぎはしておくに越したことはない。
見たところ同年代、やや年下に見える彼女はまだ友人と呼べる者がこの場にいないようで一人でキョロキョロしている。場慣れもしていないのだろう。
顔繋ぎ云々をなしにしても、手助けしてあげよう。
そう考えた真由美はなるべくフレンドリーに優しく声をかけた。
突然声をかけられて緊張してしまうだろうと考えたからだ。
「貴女、こういうのは初めて?」
「えっ、はい。ぼく気がついたら、ここに連れてこられて、良く分からなくて」
若干涙目になっている様子を見るに本当にどうすればいいのか分からずにいたようだ。気がついたらここに連れてこられた、というのもきっと緊張し過ぎてコチコチに固まってしまい、記憶が曖昧になってしまっているのだろう。
ぼく、という一人称、所作からするに場慣れしていないのは明らかだ。
真由美は妹がぼくという一人称で何度か注意されているのを目にしており、ついつい美月に妹を重ねてしまい世話を焼きたくなってしまう。
妹云々を抜きにしてもそうしたくなる何かが美月にはあった。
「まずは自己紹介からしましょうか、私は七草真由美。貴女は?」
「ぼくは柴田美月です」
七草という名前に特に反応することもなく、やや緊張した面持ちで自己紹介する美月。
今日のパーティーの主催は七草であり、自惚れでもなんでもなく、ただの事実として七草という家は今日のパーティーでもトップクラスの家だろう。多少は反応があってしかるべきなのだが、それがない。
そもそも、柴田という姓は今日のパーティーの主な出席者にはおらず、真由美の中の社交界リストにも特に名前はない。
「あっちでお話しましょうか?大丈夫、私がいればそうそう声をかけてくる人もいないでしょうから」
ね?っと、ウィンクと共に真由美が提案すれば美月は小さく頷いた。
──これはナンパか!?ナンパなのか!?やったよぉぉおお!美少女からのお誘いキター!イエーイ!
尚、美月の脳内はお祭り騒ぎとなっているがそれは真由美の預かり知らぬところである。
「今日は何方と一緒に出席したの?」
「ぼく、一人です。こういうパーティーって初めてでどうしたら良いか……」
不安そうに涙目で頼ってくる美月に真由美は庇護欲をそそられずにはいられない。人目がなければ抱き締めたいくらいだった。
「初めてで一人じゃ不安よね、大丈夫、今日は私が付いていてあげるから」
こうして美月は真由美のサポートもあって、なんとか初めてのパーティーを乗り越えたのであった。
「ねぇ美月さん、この後何か用事ある?」
そしてパーティーを乗り越えた先にはご褒美があったらしい。
──ありがとう水波ちゃん!こんな美少女と仲良くなれるなんて、パーティーって凄いね!
美月は真由美の私室に招かれたのだった。
─そのころの水波ちゃん─
(´・ω・`) 水波「……迎えに来たものの、一向にこない……もうパーティーは終わっているはずなのに……」
(;゚д゚)ァ.... 水波「時間間違えちゃったかな……」
{{(ノω・、`)}} 水波「……寒い」
美月が来ないことに責任を感じた水波は一人、外で待ち続けていた。
( >д<)、;'.クシュン! 水波「……くしゅん!」
◆
実は十五話のおまけで真夜さんがフライング出演していたりする……(コソッ)
さて、明日も0時に投稿します。