美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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二章 中学生編〈下〉
第十三話 達也の気持ち


『どうやら僕は桐生さんが好きになっちゃったみたいなんだけど……どうするべきかな?』

 

 

俺はその相談にろくな答えを返してやることが出来なかった。俺に恋愛経験はないし、そもそもそうなることもない。

 

 

ただ、それからというものの考えていることはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の意思が薄い。

 

流されるままに仕方ないと諦めている。

 

 

折角沢山の才能があるのに、それをなんでもないもののように扱ってる。

 

 

前に美月からそんなことを言われたことがある。

 

 

その時俺は何と答えたか。

よく覚えていないが、きっと今と同じことを言ったはずだ。

 

 

流されている、諦めている、その通りなのかもしれない。だがそれは悪いことだろうか。俺はそれも悪くないと思っている。

 

隣で笑ってくれるただ一人の妹がいてくれるなら、俺はそれで構わない。

 

 

これは美月にも言ったことだが、どれだけ才能があっても出来ないことの方が多い。そして、自分の欲しい才能を持ち合わせている人間というのは稀だ。

 

俺自身、本当に必要だった力は持ち合わせていなかった。それは努力ではどうにもならない力で、だから、代償を払って、文字どおり、魂を売って力を手に入れた。

 

だから俺は妹のそばにいられるし、守ることができる。ならば、流されようと、諦めようとそれは俺が選んだことであり、そうなったことに不満などあるはずもない。

 

 

 

「達也はたぶん『良い人』なんだよ。俺は不幸だって、どうして俺がって、思わないんだから。それは美徳かもしれないけど、楽しくないよね。それに、周りの、達也を大事に思ってる人達が悲しむだけだと思う。理不尽な不幸って沢山あると思うし、嫌なことや辛いことなんて人生で数えきれないくらいあると思うんだ。その数えきれない辛さを達也は一人で抱え込もうとするタイプだ。達也の近くにいる人は悲しいよ、頼ってもらえないし、達也が辛いのも嫌だもの」

 

 

それは何時の言葉だったか。

美月が珍しく真剣な顔で少し怒ったように言った言葉だったのは覚えている。

 

美月は俺のことをどれだけ知っているか、といえばほとんど何も知らないだろう。

俺と美月は出会って一年も経っていない。お互いに何かを知るには短い時間だった。それに俺は意図的に自分のことをあまり知られないようにしていた。中学校という場所ではあまり交遊をしないようにする、と決めていたし、万が一まずいことを知られれば、それはお互いにとって不利益にしかならないからだ。

 

だから美月はきっと、俺の何かを知っていてその言葉を発したわけではないのだろう。

 

 

 

俺は規格外のサイオン保有量を持つ父と、四葉家直系の『特別』な魔法師である母の息子として生まれながら先天的な魔法演算領域を『分解』と『再成』、二つの魔法に占有されていたために、通常の魔法師としての才能を持たなかった 。

妹はその二つの魔法を才能だと言うが、それは余分な才能であり、必要な才能は通常の魔法師としての才能だった。

魔法師でなければ四葉家の人間として居られないからだ。

だから実の母親に6歳の時、『強い情動を司る部分』を白紙化され人工魔法演算領域を植え付ける精神改造手術を施された。

それによって俺は普通の魔法を扱えるようになったが、人工魔法演算領域は一般の魔法師の持つ先天的な魔法演算領域に比べ性能は劣っている。

『強い情動を司る部分』、『兄妹愛』という衝動を除いた全てを代償にして得た力はそんな程度、感情を失ったわけではないが人間として何かが『欠損』してしまったことは間違いないだろう。

 

それでも俺は自分を不幸だとは思わなかった。

必要な才能を持たずに生まれた俺が悪い(・・・・)し、多少、欠損があったところで死ぬわけではない。魔法を得るために仕方のないこと(・・・・・・・)であったし、それに不満はなかった。

 

これで妹を守れるのなら、それは別に失っても良いものだった。

 

 

分解と再成、俺にあった二つの才能を使い四葉家の戦闘訓練をこなし、軍人から格闘技の指導も受けた。学業でも優等生と思われるくらいには賢かったはずだ。妹を守るための力を得て、妹の評価を貶めないために優等生を演じる。簡単なことだった。

 

 

さて、俺のどこが不幸だというのだろうか。

考えたこともなかった。考えることを止めていた。それが流されているということなのだろうか。

 

どうしてか、美月の言葉は俺を揺さぶる。

 

 

「だからさ、うん、達也、嫌なこと、辛いことがあったら暴れちゃいなよ。好き勝手やって、喚いて嘆いて。それに正当性がなかったら、たぶん、ぼくか、薫か、深雪か、誰かが止めてくれる」

 

 

まるで子供だ。

美月は頭は良いが、馬鹿だ。

言っていることはため息を吐きたくなるくらい馬鹿な発想で、他人任せも良いところ。

 

 

なのにどうしてだろうか。こんなにも響くのは。

 

 

 

 

 

「深雪ー!ヌード描かせて!ヌード!」

 

 

「なっ美月!ちょっどこ触ってっ……お兄様ぁあー!」

 

 

 

柴田美月。

同い年で同じクラス。

母が翻訳家だからか、得意教科は英語。

元サッカー部で全国でも指折りの実力者であったが、今ではすっかり絵を描くことに夢中で、賞を取ったことで美月の絵画には数十万円の価値がつくこともあった。だというのに、何故か今は月芝 美の名前でイラストレーターとして活動しており、アニメのキャラクターデザイン、ライトノベルの挿し絵などを請け負っており、締め切りに追われながら忙しくしている。アミューズメント施設の新アトラクションやキャラクターのデザインを担当したことで、月芝 美はさらに忙しくなることだろう。

 

 

 

「はぁ…またか」

 

 

「げ、達也!やめ…ぎゃあぁあああ!!」

 

 

俺が知っているのはこの程度。

そう、たったのこれだけだ。

 

 

 

『変わるさ、お前は間違いなく。理屈なんて関係ない、これから美月に関わっていけば、お前は変わる』

 

 

薫は俺にそう言った。かつて自分もそうであったと。美月にはそういう力があるのだと。

 

 

俺が変わりはじめているのか。

それはまだ分からない。

 

分からないが──

 

 

 

「美月、お前は自重という言葉を覚えた方がいいな」

 

「なんだよ、このシスコン!」

 

「妹想いということなら肯定しよう」

 

 

 

──もっと美月のことを知りたいとは思う。

 

 

 

 

 




(*・∀・*)ノ 佐藤 「ねぇ、桐生さん。僕のことどう思う?」

(; ̄Д ̄)? 薫 「は?なんだ急に気持ち悪い」


!Σ( ̄□ ̄;)佐藤 「酷い!ちょっと聞いてみただけなのに!」

♪~(・ε・ ) 薫 「じゃあ、ヘタレ」


・・・・(;´Д`) 佐藤 「僕、もう帰る!」








(〃 ̄^ ̄〃) 薫 「……でも、そういうヘタレなとこ、アタシは嫌いじゃない」








現在、教習所に通っており、それが終わるまで更新ペースは遅くなりそうです。
書き溜めて一気に投稿できるように頑張ります。

感想の返しも滞るかもしれません(汗)。

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