美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
やってしまったぁぁあああああ!!
内心で叫びながらベッドの上をゴロゴロと転がる。
ぼくは転生してからというものの、何か感情が高ぶると歯止めがきかなくなってしまう。楽しいときはスゴく楽しく、悲しいときはスゴく悲しく、というように人一倍感情表現が激しい。それも、中学生になってからは自制できていたのだけど……恋愛面ではそうではなかったらしい。小学生時代それで散々な目にあったというのにぼくは全く反省していないようだ。
「お前は……盛りのついたネコか!しょっぴかれても文句は言えねーからな!」
「うう、だって深雪さんがお兄様お兄様って達也のことばっかり気にするから…!」
「だからって普通無理矢理キスするか…?お前本当に頭のネジとんでるよ」
「少しは慰めてよ!なんでフルボッコなのさ!」
「黙れ色情魔」
深雪さんにキスしたりその他色々まずいことをしてしまったぼくは反省会をするために親友を家に召喚していた。既に深雪さんのことは何やら教室で親友が……さ……斎藤くん?とお話していたからある程度事情はその場で説明してあるけど、ゆっくり話す時間が欲しかったのだ。
だから、泊まる用意バッチリで親友はぼくの家に来てくれたわけなんだけどね……なんでかとんでもなくイラついてるよ!
ベッドの上に寝転がるぼくの上に座り、バシバシと頭を叩いてくる親友の顔は見えないが、口調からそれが分かる。いつも以上に荒い口調だ。とても女の子の口調ではない。
「お前は昔っからそうだよな、アタシも酷い目にあった」
「えー、ただ出会った瞬間に抱きついてキスしただけじゃん」
「男だったら百回殺してたな」
小学生のころは今以上にぼくはヤバイ奴だった。というのも、だ。ぼくが恋愛面でこんなに押せ押せなのは前世のせいなのである。
前世のぼくはそれはもうモテまくった。サッカーが出来て、勉強も出来て、顔も良かったからだ。それこそ日替わりで彼女を変えてもお釣りがくるくらいモテた。女の子に転生した今となっては、前世の自分を説教したい気持ちでいっぱいなのだが、今でも興奮すると前世のぼくが強く出てしまい、強引になってしまうのだ。前世ではちょっと強引にキスしてやれば簡単に落ちたし。
転生してからは女の体だからか、生活環境が大きく変わったからか、はたまた長い時間が経ったからなのか、思考も徐々に変わっていき、客観的に見て『前世のぼく』とは大きく違う新しい『ぼく』が形成されたわけだけど、親友、
「酷い目にあったのはぼくの方だよ、キスした瞬間腕を捻られて地面に叩きつけられたんだから」
「当然だ、あの時ほどハゲに護身術を習っていて良かったと思ったことはない」
今のぼくがあるのは親友のおかげだ。彼女と出会ってからというものの、ぼくが問題行動をとる度に拳骨がとんできたからね、性格も矯正されていった。結構有名な師匠に護身術を習っていたらしい親友の拳骨はシャレにならないくらい痛いけど!
「薫には感謝してるよ、薫がいなかったら今のぼくはないからね」
「そりゃどーも、意味なかったみたいだけどな」
辛辣!ここは照れてそっぽを向くところでしょ!いつもの親友ならそんな感じに可愛い反応を見せてくれるはずなのに!蔑む目が突き刺さって痛い。
なんだか今日の親友はイライラしているとはいえらしくない。
ぼくがそう思っていることが声に出さずとも伝わったのだろう。親友はため息を吐いてぼくから下りるとベッドに座り直す。
「……別にそんなことねぇーよ」
「そう?悩みがあるならきくけど?」
「お前に話して解決するような悩みならアタシ一人で十分だ」
「土下座でもなんでもするからそろそろ許してくれないかな!?」
あまりの口撃に思わず涙目で親友にすがってしまう。基本的に甘やかされたいタイプのぼくのメンタルは豆腐なのだ、これで親友から無視でもされようものなら完全に不登校になるね!ぼく女友達、薫と深雪さんしかいないし……うん、深雪さんからまず間違いなく嫌われてしまった今、女友達は薫だけ……。
「薫ぅぅうう!捨てないでぇー!」
「止めろ!分かったから止めろ!どさくさに紛れて胸を揉むな!」
結局ぼくはその後、親友の拳骨で夢の世界へと旅立った。だからぼくは聞けなかったのだ、寂しそうに、切なく呟いた親友の言葉を。
「……悪いな美月……ただアタシが勝手に美月に嫉妬しているだけだよ、お前が羨ましくて仕方がないだけなんだ」
親友のフルネーム初登場。
オリキャラはあまり増やしたくないので名前ありのオリキャラはもうしばらく出ないかと。