警備府の食堂は、夕飯を求める艦娘たちでごった返していた。
「凄い人数だな……」
「そりゃまあ、うちの艦娘、結構増えてきてるからね。ええと、今は何隻だったかな?」
言いながら、皐月は券売機のボタンを押し、食券を取り出す。
「さ、長月も。ここの食堂、艦娘ならタダだから、好きなの頼んでよ」
「そいつは良いな」
長月っぽさを意識した返事をしつつ、券売機の上に掲げられたメニューを見る。カレー、ラーメン、うどん、そば、カツ丼、定食――ずらりと並ぶ、『ザ・食堂』感漂ういかにもな料理達。
とりあえず、そうだな。今はラーメンな気分だし、ラーメンの大盛り――
「――いや、待て」
――を、頼もうとして、ふと気がかりになる。
僕は普段、それなりに食べる方だ。だから今も、ごく自然な流れで大盛りを頼もうとした。しかし、今の僕は、本来の成人男性の身体ではなく、長月の身体である。つまり、身体だけではなく、胃袋も小さいんじゃないか?
「……普通盛りにしておこう」
――今までほどは、食べられないかも知れない。大盛りにするのは、やめておいた。
排出された食券を取り出して、カウンターのおばちゃんに手渡す。注文の品は瞬く間に完成し、僕らに差し出された。おお、鮮やかな手際。
「――あ、あそこ空いてる!」
空いた座席はすぐに見つかり、僕達は並んで座る。声を揃えて「いただきます」と呟いて、早速ラーメンに手を――
「ん――見ない顔だな。新入りかい?」
――付けようとした瞬間、向かいの艦娘に声をかけられた。姿を確認しようと、僕は視線をラーメンから正面に向ける。
褐色肌、さらし、薄い金髪、ツインテ、眼鏡、イケメン、巨乳。ああ、この人は――
「あ、武蔵さん! うん、今日の出撃で、僕が救出したんだ!」
そう、『戦艦武蔵』の艦娘だ。さすがは大和型、艤装――主砲や魚雷、機関部などの、装備品のことだ――無しでも、凄い迫力だ。でも、その格好はなんとかならないんですか?
……まあ、武蔵だけに限ったことじゃないか。そう考えると、僕は長月で良かった。
「ほう。……お前、艦名は?」
「な、長月だ」
――武蔵の一挙一動一言一句は、いちいち僕に威圧感を与えて来る。本人にそんなつもりは無さそうだけども。というか、かなり背がでかい。多分、元の僕より大きい。
「ふむ、長月か。私は、大和型戦艦二番艦、武蔵だ」
存じております。うちの主力でした。
「そのうち、一緒に出撃する機会もあるかも知れない。その時は、よろしく頼むぞ」
言って、武蔵は微笑む。凛々しくも優しい笑顔だった。
「あ、ああ。楽しみだな」
僕は、そう返事を返して――ふと、気付く。そうか、今の僕は艦娘なんだから、出撃して、深海棲艦と戦うことになるのか。当然と言えば当然なんだけど、すっかり意識の外だった。
「ラーメン、伸びるよ?」
「……そうだな」
少しだけ、不安になったけど――とりあえず今は、食事を済ませるべきだろう。そう考えて、僕は改めてラーメンに手を付けた。