長月(偽)だ。駆逐艦と侮るなよ。   作:萩鷲

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例えば長月になって-3

 警備府の食堂は、夕飯を求める艦娘たちでごった返していた。

 

「凄い人数だな……」

「そりゃまあ、うちの艦娘、結構増えてきてるからね。ええと、今は何隻だったかな?」

 

 言いながら、皐月は券売機のボタンを押し、食券を取り出す。

 

「さ、長月も。ここの食堂、艦娘ならタダだから、好きなの頼んでよ」

「そいつは良いな」

 

 長月っぽさを意識した返事をしつつ、券売機の上に掲げられたメニューを見る。カレー、ラーメン、うどん、そば、カツ丼、定食――ずらりと並ぶ、『ザ・食堂』感漂ういかにもな料理達。

 とりあえず、そうだな。今はラーメンな気分だし、ラーメンの大盛り――

 

「――いや、待て」

 

 ――を、頼もうとして、ふと気がかりになる。

 僕は普段、それなりに食べる方だ。だから今も、ごく自然な流れで大盛りを頼もうとした。しかし、今の僕は、本来の成人男性の身体ではなく、長月の身体である。つまり、身体だけではなく、胃袋も小さいんじゃないか?

 

「……普通盛りにしておこう」

 

 ――今までほどは、食べられないかも知れない。大盛りにするのは、やめておいた。

 排出された食券を取り出して、カウンターのおばちゃんに手渡す。注文の品は瞬く間に完成し、僕らに差し出された。おお、鮮やかな手際。

 

「――あ、あそこ空いてる!」

 

 空いた座席はすぐに見つかり、僕達は並んで座る。声を揃えて「いただきます」と呟いて、早速ラーメンに手を――

 

「ん――見ない顔だな。新入りかい?」

 

 ――付けようとした瞬間、向かいの艦娘に声をかけられた。姿を確認しようと、僕は視線をラーメンから正面に向ける。

 褐色肌、さらし、薄い金髪、ツインテ、眼鏡、イケメン、巨乳。ああ、この人は――

 

「あ、武蔵さん! うん、今日の出撃で、僕が救出したんだ!」

 

 そう、『戦艦武蔵』の艦娘だ。さすがは大和型、艤装――主砲や魚雷、機関部などの、装備品のことだ――無しでも、凄い迫力だ。でも、その格好はなんとかならないんですか?

 ……まあ、武蔵だけに限ったことじゃないか。そう考えると、僕は長月で良かった。

 

「ほう。……お前、艦名は?」

「な、長月だ」

 

 ――武蔵の一挙一動一言一句は、いちいち僕に威圧感を与えて来る。本人にそんなつもりは無さそうだけども。というか、かなり背がでかい。多分、元の僕より大きい。

 

「ふむ、長月か。私は、大和型戦艦二番艦、武蔵だ」

 

 存じております。うちの主力でした。

 

「そのうち、一緒に出撃する機会もあるかも知れない。その時は、よろしく頼むぞ」

 

 言って、武蔵は微笑む。凛々しくも優しい笑顔だった。

 

「あ、ああ。楽しみだな」

 

 僕は、そう返事を返して――ふと、気付く。そうか、今の僕は艦娘なんだから、出撃して、深海棲艦と戦うことになるのか。当然と言えば当然なんだけど、すっかり意識の外だった。

 

「ラーメン、伸びるよ?」

「……そうだな」

 

 少しだけ、不安になったけど――とりあえず今は、食事を済ませるべきだろう。そう考えて、僕は改めてラーメンに手を付けた。


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